模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第55話
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「僕はあった事無い人ですけれど、どういう人なんですか。ジロウさんって」

 

 時刻は午前中、国道を走るツチヤの軽自動車。助手席に乗ったヒロは問いかける。向かう先はサイトウ・ジロウの拠点にしている模型店『ミスルトゥ』。運転中のツチヤはヒロを見ずに答える。

 

「一言で言えば天邪鬼。だな。ぶっきらぼうに見えて繊細、無関心に見えて面倒見がいい。そしてものぐさでやる気がない風に見えて熱血漢で曲がった事が嫌い」

 

「だからこそ、今は仕事で離れたコンドウさんと仲が良かったんでしょうね」

 

「そうだな。俺よりも付き合いは長い奴だよ」

 

 サイトウ・ジロウ、チーム『ライオン・ハート』所属でアイ達と戦った男。「強い師匠がいる」という発言が気にかかったツチヤ達は、彼のホームグラウンドの店に連絡、そして向かっていた。

 

「師匠には連絡をつけるって言っていたけど、どうなるかな」

 

「ガンプラ十箇条。か」

 

 それはジロウと戦った際に発言した格言、師匠の受け売りとの事だ。ヒロの仲間を圧倒する実力者の師匠。一体どういう人なのだろう。とヒロは不安と期待を胸に秘めていた。

 

 

 そしてミスルトゥに到着する二人。出迎えたのは長身の青年ジロウと、メガネをかけた少年シンパチの二人だ。

 

「よう、来たか」

 

「こんちはー」

 

 ミスルトゥという模型店は、二階建ての大きいがかなり古い作りの建物だった。汚い、というわけではないが、くすんだ色合いは高度経済成長期に作られた物、若干の昭和の面影を残していた建物だ。

 

「ここが今のホームグラウンドか」

 

「まぁな。入れよ。皆が待っているぜ」

 

 店に入ると、ある事にツチヤは気づいた。揃えは普通の店ではあるのだが、どうにも客の年齢層が……。

 

「……気のせいか子供が多いな」

 

「よく解ったな。避難所みてぇなもんだよここは」

 

 ジロウがそう言うと、子供達とすれ違う。

 

「あ!ジロウさんこんちにはー」

 

「おう」

 

「今度僕の作ったガンプラ見てよー」

 

「後でな」

 

「父ちゃんのコンビニの廃棄処分品持ってきたよジロさん」

 

「マジか!!後で頼むぜ!」

 

 と、すれ違うたび、もしくは遠くでジロウを見かけた際に声をかけてくる子供が多かった。

 

「好かれてるなお前」

 

「勝手にあいつらが話しかけてくるだけだ」

 

「後、相変わらず貧乏だなお前」

 

「ほっとけ!」

 

「あの、避難所っていうのは?」

 

 話しかけるヒロにジロウは気を取り直し、向き直る。

 

「違法ビルダー達に出入りしてるゲーセンや模型店を荒らされたり、乗っ取られて逃げてきた奴らだよ。あいつらは」

 

「……そうなのか」

 

「新世代ビルダーだか何だか知らねぇが、結局やってる事はマウンティングだ。だから俺は違法ビルダーを許せねぇ。お前の友達、セリトもな」

 

「解ってる。だからこそ、力をつけたい」

 

「そうだな。二階に来な。面白いもんが見れるぜ」

 

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 そして二階に上がるツチヤ達、二階はガンプラバトルコーナーになっていた。広さ以外はガリア大陸と変わらない。観戦モニターを見ると二体のガンプラが戦ってるのが見えた。片方はよく知ってる機体だ。

 

「あれは……ケン君のビルドスペリオルか」

 

 ケン、アイからガンプラを学び、そしてアイを越えるべくチームライオン・ハートに移籍した男。相手は見たことのない機体だ。ジャイオーンの翼を持ち、スローネやアルケーのパーツが組み込まれた、手の長い紫のガンプラだ。

「ヒロ!待ってたよ!」

 

「ようヒロ!会いたかったぜ!」

 

 と、観戦していた女性と、大柄な白人男性がヒロ達に気付くと素早く寄ってくる。ヒロの元チームメイト。ヨウコとゼデルだ。

 

「あれ二人とも!どうしてここに!?」

 

 それはヒロを大いに驚かせた。

 

「色々あってな。今はここで厄介になってるよ」

 

「リーダーのマスミの奴は?」

 

「あれを見てみればわかるわ」

 

 そう言ってヨウコは観戦モニターを指し示す。 

 

 

「このプラフスキーウイングのスピードについて来れるか!!」

 

 ケンのスペリオルが高速で紫の機体に迫る。しかし紫の機体は消えたと思いきやスペリオルの背後に移動。その機動力はスペリオルを上回る。「早い!」ツチヤ達もケンもそう思った。

 

「甘いな!」

 

 紫の機体が翼先端からのビームサーベルで切りかかろうとする。スペリオルも翼を盾にビームサーベルを防ごうとする。が、ビームサーベルはウイングをたやすく貫通。スペリオルは右腕ごと切り裂かれる。これによりライフルは破損。

 

「うわぁっ!」

 

 しかしスペリオルもこのまま黙ってはいない。拳に光を宿す。ビルドナックルだ。

 

「負けてっ!たまるかぁ!!」

 

 そのまま左腕での必殺ブロー、しかし紫の機体は翼で全身を包む様にして防御、まるで両手が包み込んだような防御形態だった。ナックルが効かない。

 

「なっ!」

 

「今度はこちらの拳だ!!」

 

 そう言って紫の機体はビルダーの叫びに呼応するかのように輝きだす。赤い光をまとう。

 

「まだだっ!俺の魂を吸え!スペリオルゥゥッ!!!」

 

 ケンがそう叫ぶとスペリオルの拳は一層強く輝く、

 

「燃やせ!燃やせ!燃やせぇぇっっ!!」

 

 更に輝くビルドナックル。自分の気持ちにしても、時間にしてもこれが限界だ。後はぶつけるのみ。紫の機体も防御形態のまま突っ込んでくる。

 

「うわぁぁっっ!!!」

 

 お互いぶつかり合う二体。光の強さはスペリオルの方が上だ。しかし……、

 

「……破ぁっ!!」

 

 紫の機体の方が力を込めると、こちらの方が強く輝いた。そしてそのままスペリオルを圧倒し、砕く。

 

「こんな!こんな!!」

 

「ボクだって!気持ちなら負けない!!ニヒトォォッッ!!ナックルッッ!!!」

 

 そのまま砕かれて爆散するスペリオル。紫の機体からの声、ヒロはそれに聞き覚えがあった。

 

「眠れ。真紅の光の中で……」

 

「……あの声、痛い言い回しは……」

 

 

「クッソ!負けたぁぁ!!」

 

 Gポッドから出てくるや否や悔しそうにするケン。

 

「おいおいケン、悔しいのは解るけどでかい声をだすなよ」

 

 周りの迷惑だろ。とジロウが注意する。

 

「ジロさん。そらそうですけど、今の自分の全てを投げ打ったんですよ。それがことごとく通用しないなんて」

 

「だったらあいつみたいに、また頑張ればいいだろ」

 

 そう言うとGポッドから黒いパイロットスーツを着た青年が出てきた。ヘルメットを外すとヒロのよく知った顔が現れる。

 

「皆の協力でボクのGアザゼルは完成したからね。ケン君の協力もあってこそだよ」

 

 リーダーのマスミだった。

 

「情けはよして下さい……」

 

「いや、そういうつもりじゃ……。君がもっと強くなりたいならボクは惜しみなく協力するよ」

 

「それ、結局上から目線ですね」

 

 むくれながらケンがそう言うとその男、マスミは発言が裏目に出たと困惑する。

 

「す、すまない……」

 

「フッ。アハハ!冗談ですよマスミさん!言ったからには協力はしてもらいますよ!何はともあれGアザゼルの完成おめでとうございます!」

 

「っ!うん!」

 

「マスミ?マスミじゃないか!」

 

 ヒロは駆け寄る。フクオウジ・マスミ。かつてのヒロの仲間である。チームメイトの一人、レムが違法ビルダーとなってしまい。ヒロはアイ達の仲間として、マスミは自分のチームで、二手に分かれてチームメイト、フジミヤ・レムを追っていたのだが、予選でマスミ達は、ジロウのチームに敗退したのだった。

 

「ヒロ!来てたのか!」

 

「どうしてここに?!そしてあの機体は?」

 

「順を追って話すよ」

 

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「敗者復活戦にはぼくを加えてくれないか!?」

 

 先日、選手権の県内予選でサイトウさん達に負けた後、ぼくは彼に頼み込んだ。

 

「お前は!……何考えてんだよお前。負かした相手に言うセリフか?」

 

 当初の反応は、当然ながらサイトウさんは呆れていた。当然だな。逆の立場なら、ぼくも似た対応をしていたろう。

 

「相応の実力ならある!絶対に皆に損はさせない!」

 

 頼む!とぼくはその場で土下座をした。後ろで見ていたチームメイトのゼデルとヨウコも驚いていた。そこまでするか?!と。

 

「おい。男がそんな情けない真似すんな。なんでそこまでするんだよお前」

 

「……約束と意地だ。幼馴染がぼくの所為で違法ビルダーになった。原因がぼくにあるのなら、解決はぼくがしなければならないんだ!」

 

「その幼馴染は全国に行きゃ会えるってか」

 

「そうです。一時期、周りにばれたくないと思っていたが、それが原因の拡大につながってしまった。自分の全てを投げ打ってでも止めたいんだ!」

 

 そうだ。情けない事に、レムのスランプ脱出の為にと、勝つ感覚を味合わせようと、ぼくは違法ビルダーのデータをレムに手渡した。それの所為でレムは違法ビルダーのテストプレイヤーとなってしまった。

 もしかしたらレムの件がなければ、ここまで大きな問題にはならなかったかもしれない。というのがマスミの心理にあった。

 

「口に出したとたんに言い訳臭くなるな」

 

「ぅ……で、でも!」

 

「……ま、いいや。好きにしろよ」

 

 ぶっきらぼうにも答えるサイトウさんだった。シンパチ君も「またか」と呆れながら笑っていた。

 

「お人よしですよねぇ。ジロさんって、あ、僕シンパチって言います。よろしくお願いします。お姉さん」

 

 そう言って声をかけるシンパチ君、しかし声をかけたのはヨウコの方だった。

 

「いや、声をかけるのは向こうだから……」

 

「男はやだなぁ」

 

 となんやかんやあってシンパチ君はヨウコにだけ嬉しそうに、そしてぼく達にはイヤイヤこのミスルトゥの住所を教えてくれた。そこでここの皆、そして彼らの師匠の協力で、このGアザゼルを完全に仕上げることが出来たんだ。

 

――

 

 そう言ってマスミは紫のガンプラを見せる。さっきバトルでスペリオルを圧倒した機体だ。

「お前の新しい機体か。凄かったな」

 

 今までと桁違い、というのがヒロ達の感想だ。

 

「元々作りこんでいた奴だったんだけどね。皆の、特に師匠の監修で予想以上の物になったよ」

 

「さっきから師匠って言ってるけど、誰なんだい?」

 

「それは……あの人だよ」

 

 マスミが示すとその人はそこにいた。バトルに負けたケンと話をしていた。マスミが自分を呼んでると気づくや近寄ってくる。

 

「?呼んだかい?」

 

 そう言って現れたのは髪の赤い青年だ。年はヒロ達に近そうだ。予想以上に若い。というのがヒロ達の感想だった。年齢はヒロと近そうだ。

 

「師匠!紹介するよ。この人がぼくの、いや、ジロウさん達含めての師匠『ネッキ・タケル』さんだ」

 

 炎の様に逆立つ髪、若さと熱さを併せ持ったような青年だった。

 

「そんなかしこまって紹介される様な人間じゃないよ俺は、それにしても……」

 

 抑え込んでいた物を解き放つように、タケルと呼ばれた青年は爛々と目を輝かせてGアザゼルを見た。

 

「いいよ!さっきのバトル!そしてこのガンプラ!凄くいい!」

 

 子供の様に目を輝かせるタケルに戸惑うヒロ達、

 

「お互いの心を最大限に燃やしたバトル!俺の心までがんがん燃え上ってきたぜ!!」

 

「俺は負けちゃいましたけどね」とついてきたケンがぼやく。

 

「何言ってんだよ。結果じゃない!あんな豪快な光!ケン!君がそれだけ大きく燃え上がらせたって事じゃないか!今回のはまぁ性能差かもしれないが、気持ちは負けちゃいない!もし君がもっと強くなりたいって言うなら!俺は惜しみなく協力するぜ!」

 

 ケンもそれに「はい!」と頷く。豪快な人だな。というのがツチヤ達の感想だった。

 

「さてと、……チーム『I・B』の人達ですね。噂は聞いていますよ。違法ビルダー達から目を付けられてるって」

 

 打って変わって真剣な表情となるタケル。

 

「えぇ、といってもリーダーは来れなかったんですけど。って俺達の事ご存じなんですか?」

 

「違法ビルダーの奴らからはお尋ね者みたいですからね。その中でもリーダーのヤタテ・アイって人が特に目を付けられてるみたいだけど、そうか、来れないのはちょっと残念だな」

 

「強くて真っ直ぐな女の子ですよ」とマスミ。

 

「ちょっと顔が地味ですけどそれがいいんですよねー」とシンパチ、当然ジロウが「黙れ」と止める。

 

「しかし……目を付けられてるというのはあまり実感してませんでしたが、やはりですか。どういうわけか市場で出回ってない試作品まで投入してるみたいで」

 

 ツチヤは今までの自分達を襲ってきた違法ビルダーを思い出す。

 

「それでも君たちは奴らを退けて来たんだろう?」

 

「はい。しかし……妙な感じですね。何故そんな物まで使って自分達を襲うのか。心当たりはありませんよ」

 

――……考えてみたらおかしい。違法ビルダーはヒロ君や俺に関わる人が多い。そして前日のヤタテさんの幼馴染、ユミヒラさんが違法ビルダーに味方した件。……全てが俺達の周りに集中してる?……何故だ?――

 

 タケルと話をしながらツチヤはそんな事を考える。

 

「まぁそれはそうと、俺も何故呼ばれたかは理解はしてるよ。俺に出来る事ならなんでも聞いてくれ」

 

 そう持ちかけるタケル。快く承諾しようとするツチヤ。その時だった。

 

「その前に、ヒロ、そしてツチヤさん、ぼくとバトルをしてくれないか?」

 

 マスミが提案をする。

 

「マスミ?」

 

「このGアザゼルは予選敗退の、敗者復活戦用に作り上げたぼくのとっておきなんだ。そしてまだ十分なテストもしていない。君たちと戦ってこいつを更に強くしたい」

 

「マスミ、別に今でなくとも」とヒロ。

 

「いやヒロ、今でなければいけないんだ。お互いどちらがレムを助けるか、ハッキリさせたい」

 

「お前……?」

 

 レムという名前が出たとたんにマスミの表情がぎらつく。ライバルへの意識その物だった。

 

「わかった。存分に二人とも戦うと良い」

 

それを後押ししたのはタケルの方だった。

 

「タケルさん?」

 

「ただし一対一のバトルではなく、ある場所へ乱入した方がいいと思うぜ」

 

 更にそれに割って入るのはジロウだった。突然の提案に疑問に思うヒロ達。

 

「ジロウさん?何故そんな事を?」

 

 タケルは疑問に思いながらも、ジロウはそれに真剣な表情で答えた。

 

「さっき店長からの連絡だ。ある店の初心者用イベント大会で、違法ビルダーの集団が初心者狩りをしてるって匿名で連絡があったぜ……!」

 

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 そしてバトルが……と行きたいが、時間を少し巻き戻して、視点をアイ達の方に戻してみよう。

 

「ここに来るのも懐かしいな」

 

 場所はアイの生まれ故郷、『玄礼木市』その駅前のベンチだ。ここがアイと先輩たちとの待ち合わせ場所だった。

 

――思えば自分は馬鹿な事をしてるのかもしれない――

 

 アイはそう思った。このまま会えなくたってノドカとは決勝で会える。しかしアイはその前に会って話で解決して、スッキリした気分で決勝に臨みたかったのが本音だ。

 だがそうはいかなかった。というべきだろうか。実は今日、アイは既にノドカから呼び出しを受けていたからだ。

 

「難しい顔をしているねぇ。そういった顔もまたそそるよ」

 

「っ!?」

 

 考えていると、唐突な発言。そして背後から抱き付く女の手、見覚えのある手だ。

 

「副部長!」

 

 アイは叫ぶ。副部長『タテノ・ユメカ』(盾野夢佳)、前髪ぱっつんの長髪スレンダー、セクハラ魔人やら魔女やらの異名がある。

 

「すぅー。あー懐かしい匂いだぁ」

 

 抱き付いたままアイの匂いを吸うユメカ。変態だー!!

 

「ひぃぃ!!人前なのに匂いを嗅がないで下さい!!」

 

 精悍さと気怠さが同居した顔でとんでもない行動をするユメカ。周りの人がアイを見ているが、ユメカは気にも止めない。

 

「よく人前でそう言う事が出来るよなユメカァ?」

 

 そんなユメカを一言で制止させる男が一人、『ケンモチ・ノゾム』(剣持希望)、太っていて短髪、今の笑顔はいつもの穏やかそうな表情だが、今のユメカに対しては鬼の様なオーラを出していた。これも変わらずだなとアイは取り乱しつつも思った。

 

「ぅ……やだなぁノゾム、可愛いジョークじゃないか」

 

 ユメカは彼にだけは頭が上がらない。そのまま渋々と手を放す。

 

「あー、相変わらずですね二人とも」

 

 アイは変わらないなと懐かしく思いながらも、冷や汗をかいていた。

 

 

「それで結局、ノドカには会えたんですか?」

 

「いや、残念ながらまだだよ」

 

「そうですか」

 

 やっぱり、と思いつつも、残念に思うアイ。

 

「しかし、君の方は連絡で会う算段があると言っていたね。あれはどういう事だい?」

 

「……昨日、皆と別れた後、部長達に連絡取ろうとした時でした」

 

 ユメカの発言からアイは話し始める。昨日、アイが家に帰った後に、アイのスマホに連絡が来た。相手はノドカだ。

 

「何てあったんだ?」

 

「……今日、イングレッサで待っているって」

 

 かつてアイの出入りしていた総合店、『イングレッサ』五階建てのビルそのものが店だ。

 

「イングレッサか。……大丈夫かな」

 

 含みのある部長の発言に疑問に思うアイ達。

 

「何かあるんですか?」

 

「今日のイングレッサ、初心者用のガンプラバトル大会だぞ」

 

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 そうこうしてる内にイングレッサについた。ノドカを止める。そう思いながらも、この場所に懐かしさを感じるアイ。いつも自分がノドカと遊んでいた場所だ。

 感傷に浸る間もなく、模型店のある階層にエスカレーターで昇る。階層の一部を使用したガンプラバトルのスペース。そこにつくと……。

 

「何これ……」

 

 状況は凄惨の一言だった。モニター越しの戦場では、初心者達のガンプラは違法ビルダーに狩られ、蹂躙されていた。楽しい大会のはずが、周りにいるのは意気消沈したり泣いてる子供達。狩られた初心者達だ。

 

「サーバーにハッキングでもかけたのかアイツら!」

 

 怒りの声をあげるノゾム。ふと観戦モニターを見覚えのある機体が横ぎった。ノドカのガンダムレギルスだ。

 

「ノドカ!」

 

 アイが怒りながらモニターの機体へ……ノドカに話しかける。

 

「……よう、来たか」

 

 淡々と答えるノドカ。来るのを待ってたと言わんばかりの対応だった。

 

「何を……!何を考えてるのあなたは!!」

 

「みりゃわかんだろ。今のアタシは悪党だ」

 

「……最低になったなお前」

 

 ノゾムが怒りの表情でレギルスを睨み付ける。

 

「全くだね。体はそんなに最高なのに」

 

「言ってろよ二人とも。やっぱりお前がいてくれなきゃ始まらない。さぁ、やろうぜ」

 

 そう言ってノドカはGポッドに入る様に促す。

 

「ノドカ……アイツの目を覚まさせる!」

 

「俺達も行くぞユメカ!」

 

「いわれずとも!皆!よく耐えたな!後はお姉さん達に任せておけ!!」

 

 そう言って全員がGポッドに入りガンプラをセット、そしてフィールドに乱入した。

 

――

 

 フィールド場所は夜間の荒野。ガンダムXで初めてサテライトキャノンを撃った場所だ。満月に照らされており、全体的に見通しがよく初心者が遊ぶには向いているだろう。

 

「ノドカ!どこにいるの!」

 

 AGE‐3Eに乗ったアイが叫ぶ。ここまでノドカに対して怒りを覚えたのはいつ以来だろう。地面に降り立とうとするも、歓迎するかのような射撃の雨だ。(撃ってるのは地上からだが)。

 見慣れた違法ビルダーの機体群。全てがアイのAGE−3Eに向けられている。

 

「ぅえぇ!何なのあの数!」

 

 いつもは無人の随伴期ふくめて数十機程度だが、今回はその十倍以上は数がある。

 

「数だけは出しちゃってまぁ!」

 

 アイはGNソードUを向けてフィールドを持たない機体から迎撃をしていく。その背後からネフィリムガンダムがクローで掴みかかってきた。

 

「浅知恵を!」

 

 そう言って振り向きざまにネフィリムを切断破壊。そのまま違法ビルダーの密集した場所へ降り立ち、周囲の機体を回転しながら切り裂いた。

 

「どこだぁぁっ!ノドカッッ!!」

 

「クックック!ノドカ、ノドカ、ね。有名ビルダーもヘタレだな」

 

「ッ!」

 

 声のした方を向くと一際大きい機体が見えた。違法ビルダーの四本足の機体。ガンダムフリストだ。

 

「その機体は!うんざりするよ。似たような機体ばっかりで」

 

「そう腐るなよ。折角会えたんだからな。それより見ろよ」

 

 違法ビルダーが場所を示すと、二機のネフィリムがそれぞれのクローに、初心者の機体を掴んでるのが見えた。初心者の機体は大きく破損しており反撃する力もなさそうだ。

 

「動くなよ?少しでも動けばあいつらを潰す」

 

「人質のつもり?最低だね」

 

「その通りだ。だがお前さんも正義の味方のつもりなら俺達の言う事は素直に聞くべきじゃあないのか?」

 

「うん、無駄だと思うよ」

 

 アイがそう言った瞬間。ネフィリムのクローが切断されて初心者の機体は投げ出される。何が起きたと困惑する違法ビルダー。と、一機のガンダムが着地する。ビームソードで居合の構えを取ったゴッドガンダムだ。

 

「不用心だな!敵がアイちゃんだけと思ったか!」

 

 ノゾムの機体だ。クローから解放された初心者の機体を抱えるとその場から一気に離れる。ゴッドガンダムを迎撃しようとする違法ビルダーだが、直後……

 

「石破!!天驚ぉぉぉ拳んんっっ!!」

 

 真上からの叫びと共に、敵機は降ってきた巨大なエネルギー波に飲み込まれ消滅。その後に降りてきたのはマスターガンダム。ユメカの機体だ。

 

 

「遅いですよ!二人とも!」

 

「ふっ。主役は遅れてやってくる物だよ」

 

「部長達かよ!お前らなんて呼んでねぇよ!」

 

 ノドカの声だ。直後、大型ビームがアイ達三人目掛けて飛んでくる。三人は難なくこれを回避。

 

「ノドカァァ!!」

 

 アイの絶叫、そして現れたのはガンダムレギルス。ノドカの機体だ。さっきのビームは胸のビームバスターだ。

 

「アイ、縁切りの試合だ。受けてくれよ!」

 

「ふざけないでよ!今日は話し合いのつもりだったんだから!それを!」

 

「こんな事やったアタシを今更信じるってか!甘いんだよ!」

 

 そう言ってノドカは再びビームバスターを撃つ。アイは回避するとレギルス目掛けて切りかかる。

 

「ノドカッ!!」

 

「チッ!部長達を揉みつぶしにしろ!アタシはアイをやる!」

 

 そう言うと新しい違法ビルダーの機体が更にオンラインで乱入してくる。今度は50mクラスのブリュンヒルデだ。

 

「まだ残りがあったのか!」

 

「おいおい!ヤタテ・アイの奴と戦わせてくれるんじゃなかったのかよ!」

 

 ブリュンヒルデに乗った違法ビルダーが愚痴る。

 

「コイツはアタシの獲物だ!その試作品に乗れるだけでありがたいと思え!」

 

 ノドカは邪魔するなと言わんばかりの声で返すと、アイのAGE−3とぶつかり合う。

 

「チッ!まぁいい。確かにこの機体をもらっただけでおつりは来るな。というわけで俺達と戦ってもらおうか」

 

 そう言ってノドムとユメカに向き直る違法ビルダー。

 

「やれると思ってるのか?お前らごときにやられる俺達じゃないぜ」

 

「自分たちは新世代ビルダーとか言っておいて野蛮極まりないねぇ」

 

 対するノゾム達は余裕だ。

 

「関係ないね。俺達は元々ならず者のビルダーよ。こんな楽な方法で強くなれるなら乗るのが得ってなもんさ」

 

 そういう事だ。と他の違法ビルダーも集まってくる。このまま数で押し切るつもりだろう。

 

「初心者を庇いながらになるけど、どっちが多く倒すか競争するかい?ユメカ」

 

「いいだろうノゾム。久しぶりに私も熱くなってきt……ん?」

 

 そう言った時だった『挑戦者が乱入しました』というアナウンスが全員に流れる。また違法ビルダーかと身構える二人だが、今度は違った。

 

「なんだ?AGE−3?ヤタテさんか?」

 

 アッシマーが聞き覚えのある声を上げた。

 

「?!ツチヤさん?!」

 

 アイが答えると、アッシマーの両脇からウィングノヴァとGアザゼルが飛び出してくる。

 

「ヒロさんと!その機体は?!」

 

「アイちゃんか!?ぼくだ!」

 

「マスミさん!?どうして?!」

 

「話せば長くなるけど!ここの初心者狩りを阻止しに来た!」

 

 三機が通常のビルダーと判断すると、違法ビルダー達は撃墜しようと撃ってくる。そうはさせるかと散会し回避。

 

「大した数だな!だがこのGアザゼルの慣らしにはもってこいだ!」

 

 そう言うとマスミはスペリオルを倒した時の様に全身を翼で包む。そして気合いと共に赤いエネルギーに包まれる。

 

「聞くがいい!!告死天使の羽音をッッ!!!」

 

 同様の技『ニヒト・ナックル』で一直線に突貫。その拳に触れた者、余波を受ける者は成す術もなく、ただ破壊されるのみ。

 

「そしてぇっ!!」

 

 胸部中心から一発の銃弾を撃ち込む。が着弾と同時にそれはブラックホールとなり、周囲の違法ビルダーの機体を吸い込み、押しつぶしていった。

 

「さぁ!圧壊するがいい!」

 

 阿鼻叫喚となる違法ビルダー達。

 

「マスミの奴凄いな!だがボクも!!」

 

 負けてられるかと言わんばかりにヒロもノヴァもバードモードに変形。その全身にエネルギーを纏い、低空飛行で密集地帯へと突っ込んだ。

 

「ノヴァァァッッ!!!ストライクゥゥ!!!!」

 

 そのまま不死鳥の翼がなぎ倒す如く、進路上の敵をなぎ倒していく二機。その気迫はアイや部長達にも伝わっていた。

 

「凄い!なんて気迫だ!」

 

 アッシマーに乗ったツチヤが驚きの声を上げた。彼の方は一機ずつ確実に仕留めていくスタイルだった。そしてその衝撃を感じたのは部長達も同様だ。

 

「飛び入りと思いきや……これは凄いな」

 

「何を言ってるんだノゾム。私達も負けてられない!そうだろう?!」

 

「あぁ!触発されるぜ!」

 

「奇遇だねぇ!私もだよ!」

 

 ゴッドガンダムとマスターガンダム。マスミ達の熱気に充てられた様に、二機のガンダムが黄金の如く輝きだす。明鏡止水。ハイパーモードだ。

 

『我等のこの手が真っ赤に燃える!』

 

「悪を倒せと!」

 

「轟き叫ぶ!」

 

『今こそ!流派東方不敗が最終奥義!!』

 

 構えを取りながら口上を述べる二機。両機の両掌の間に、抱えるかのようなエネルギーが発生した。撃たせまいと違法ビルダー達は撃ちまくる。が、この二体の熱気がバリアとなっており攻撃は一切通らない。

 

「セリフ言ってる時に撃ってくんな!!究極っっ!!!!」

 

「石破っっ!!!!!!!」

 

『天驚拳んんんんんんんんッッッ!!!!!!!!!』

 

 二体で撃つ、かめはめ波の様な巨大な衝撃波。エネルギーを気と共に放つ。それが二倍の量となっており、しかもノリノリの状態でだ。範囲はさっきの二体の比ではなくより多くの敵を巻き込んでいく。仰々しい叫びに恥じない威力だ。

 

「こ!こんな!うぉぉっっ!!」

 

 巻き込まれていくブリュンヒルデらの違法ビルダー。アイ達乱入者の力はパワーバランスを容易に崩しており。形成を逆転させるのはあまりにもたやすかった。

 

「チッ!派手にやりやがって!こんな展開ありかよ!」

 

「初心者の皆が見てるんだからね!派手なのは当然でしょ!」

 

 アイがこれならいける!と二刀流でノドカに切りかかる。流れは徐々に押しつつあった。

 

――行ける!ノドカは普通のガンプラを使ってる!――

 

「調子に乗るなぁ!!」

 

 激昂するノドカの叫び。それに答える様にレギルスの目のバイザーが開く。そして左腕のシールドから胞子ビットが幾重にも飛び出していった。まるで、蛍の大群がまとめて光ってると言わんばかりの小さな光だ。しかしそれら一つ一つが攻撃判定を持つ強力な武器だ。それらがまとめてAGE−3Eに襲う。

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「くっ!させるかぁ!!」

 

 AGE−3EのGNソードUを最大出力。ライザーソードの形態だ。正面に構えたGNソードUの間から超巨大なビームサーベルが発生。そのまま胞子ごと巻き込みレギルスに振り下ろす。

 

「なんだとぉ!」

 

 回避しようにも間に合わない。これまでかと目を瞑るノドカ。その時だった。

 

「しゃんとなさい。ノドカちゃん」

 

 突如襲った射撃がアイのAGE3−Eを襲った。ライザーソードで無防備だったAGE−3Eは横っ腹に攻撃を受けて攻撃は中断される。

 

「うわっ!まだ敵が!?」

 

「助けに来たわよ」

 

 撃ったのは遠隔操作射撃武器のファンネルだった。天から降臨するかのようにその主がゆっくり降りてきた。遠隔操作武器を多く装備したガッデス、その改造機だ。全身にifsユニットが輝き、頭部はガンダムタイプとなっている。珍しくサイズは通常の物だ。

 

「久しぶりね。アイちゃん。そして皆」

 

 まるで友達にでも会ったかのように気安い声で話しかける声、女性の声だ。その声はアイ達のチーム全員に向けられていた。そしてその声を、ヒロとマスミは忘れもしない……。何故ならそれは……。

 

「っ!!レム!!」 

 

「フジミヤさん?!フジミヤ・レムさんなのか!?」

 

 そう、スランプによって違法ビルダーへと身をやつし、ヒロ達のチームから離れていった女性ビルダー。レムだった。すぐさまレムのガッデスに向かって飛ぶマスミとヒロの機体。

 

「レム!何故ここにいる!」

 

「フジミヤさん!」

 

「二人とも、追いかけてきたんだ!嬉しい!」

 

 そう言いつつも、対応はファンネルとファングの歓迎だった。二体とも回避と迎撃で迎え撃つ。

 

「質問に答えろぉぉっ!!」

 

 ノヴァとアザゼル。背中合わせで回りながら大型ビームを撃ち、ファンネルらを落としていく二機に対して、レムは安心感を覚えた。

 

「新入りのノドカちゃんがイタズラをしていたみたいでね。私が助けにきたの」

 

「新入りだって?!身も心も違法ビルダーのつもりか!!」

 

「当然、私は悪女ですから」

 

 悪びれる様子もなく答えるレム。以前と態度の変わったレムに二人は怒りを覚える。

 

「随分変わったねレムさん!そんな事をする人じゃなかったのに!」

 

「あなた達は変わらないんじゃない?未だに私を信じようとするのはお人よしにも程があるわよ!」

 

 ファンネルとファングを落とすとヒロ達はガッデスに切りかかる。それを手に持った槍で受け止めた。

 

「君がどうなろうと関係ないね!自分の信じたやり方で行くと決めた!」

 

「わお。ワイルドな人!」

 

 そう言うとレムは再びファンネルを射出。再生機能のあるこの機体はファンネルを撃ち落としてもすぐ元通りだ。その対応に二機は追われるため、その隙をついてガッデスは離れ、レギルスに寄り添う。

 

「ノドカちゃん。単独行動はやめなさいな。誰彼かまわず新世代ビルダー試作型のデータをばら撒いて」

 

「は!受けるわ!アンタが秩序ヅラすんな!」

 

「耳が痛いわね」

 

 仲間にも関わらず、刺々しい対応のノドカ。苦笑するレムは自機の槍を天に掲げる。すると槍は強く輝きだす。それに呼応するかの様に、破壊したはずの違法ビルダーの機体がみるみる再生し始めた。

 

「アインヘルヤルシステムって奴か!」

 

「そう!そして私のこの機体は、ガンダム・スクルドよ!覚えておいてね!いくわよノドカちゃん!」

 

「アタシに命令すんな!!」

 

 そう言うとスクルドと名乗った機体はレギルスと一緒にアイ達に襲い掛かる。更に破壊したはずの違法ビルダー達は蘇り、一斉にアイ達に襲っていく。

 

「!まずいです!折角押してきたのこれじゃ!」半壊したAGE3−Eがツチヤのアッシマーに抱えられながら叫んだ。

 

「ヤタテさん!大丈夫か!?」

 

「ツチヤさん。えぇ、どうやらフジミヤさん、手加減してくれたみたいですよ」

 

 まだレムの心はそこまで離れては、堕ちてはいない。と伝えるかの様に話すアイ。

 

「やっぱりフジミヤさんはまだ違法ビルダーになりきってないって事かな!」

 

「冗談!」

 

 スクルドは再びファンネルとファングの連携でノヴァとアザゼルを追い詰めようとする。更にそれに他の違法ビルダー達も援護に加わる。

 

「ハハハ!無駄な努力ばかりする奴らだ!」

 

 倒した違法ビルダーが復活した事により、また強気を露わにする。大柄なブリュンヒルデがGアザゼルをなぎ倒そうと腕の剣を振るう。

 

「なんだと!」

 

「あのレムって人、お前らの仲間らしいな!そしてノドカって奴も!そしてお前らはそいつらを助けようとしている!」

 

「それがどうした!」

 

「あいつらはもはや完全に俺達の側の人間だ!むしろそこから引きはがそうとするお前らの方が、自分勝手でエゴイズムだと思うがね!」

 

「……うんざりだなその問答!」

 

 マスミは一切動じずに剣をかわすと先程のニヒトナックルで打ち砕く。その場にいたアイ達には、その心理攻撃に一切の動揺は見られない。

 

「何!?」

 

「それ位で折れる意志ならとっくに折れてるんだよ!!」

 

 ノヴァがビームサーベルでネフィリムに切りかかる。Iフィールドの死角部分を狙って切り裂いた。

 

「ぼく達はなぁ!腹をくくった!間違ったら正すのが仲間ってなもんだ!!」

 

「間違いだとぉ!俺達が間違ってるとでもいうのかぁ!」

 

『どう見たって間違ってるだろぉ!!!』

 

 ハモりながら敵を撃墜していく二人。

 

「フフ!余裕ね!でも甘いわ!」

 

 再びアインヘルヤルシステムにより再生させようとするスクルド。またも再生していく違法ビルダー機。スクルドはブリュンヒルデ達の後方に隠れており、中々攻撃のチャンスが無い。

 

「チッこうも何度もやられると押し切られるな!!」

 

『だったら俺に任せろ!!』

 

 その時だった。『挑戦者が乱入しました』というアナウンスの直後、巨大な火の玉がヒロ達の所へ突っ込んでくる。

 

「なんだ!あれは!」

 

「あれは!タケル師匠だ!!」

 

 マスミが言うと火の玉の正体。赤い機体が姿を現す。ビギニングガンダムだ。しかし各部のifsユニットは丸い形をしており、全身に日の丸をつけたような印象がある。

 

「ネッキ・タケルさんの機体はビギニングJガンダムか!」

 

 ヒロが興奮気味に叫ぶ。ビギニングJガンダム。バーニングJソードというロングソードを二本標準装備した接近戦仕様のビギニングガンダムだ。

 

「ノーマルに作っただけなのにあの迫力と作りこみ。凄いな。かなりの職人気質と見た」

 

「これはこれは……中々お目にかかれない人と会えたね……」

 

 部長達も意外な大物ゲストに感嘆の声を上げた。

 

「ネッキ・タケルだと!?こりゃすげぇ!かの有名な炎のビルダーじゃねぇか!奴を倒せば俺も有名人だ!」

 

「なんだと!俺にやらせろ!」

 

 タケルの名前に違法ビルダー達も食いついてくる。タケルの名を知らないビルダーも、名を上げようとどんどん集まってきた。

 

「タケルさん!逃げて下さい!いくらなんでもあの数は!」

 

「……大丈夫……フゥッ……」

 

 タケルは違法ビルダーの攻撃の中、精神統一を行っていた。そんな中最小限の動きで射撃を回避していく。

 

「へっ!たかが一機だ!近づいちまえば!」

 

 一機のマステマがビギニングJに切りかかった。その時だ。タケルの目がカッ!と見開かれる。そしてビギニングJはバーニングJソードでマステマを横に一閃。

 

「なっ!うわぁぁっ!!」

 

 マステマは全身火だるまになって燃えていく。と同時にバーニングソードからおびただしい炎が噴き出す。天に掲げるソードは夜を照らす。一気にステージ全体が照明の如く明るくなった。炎の長さは数十キロにも及んだ。

 

「ガンプラ十箇条!その一!ガンプラは火気厳禁!!」

 

 全身に烈迫の気合いを込めるタケル。

 

「なんて炎だ!夜が昼に変わった!」

 

「?見ろ!違法ビルダーの機体が!」

 

 その様子にどうも違法ビルダー達の様子がおかしい。ビギニングJを見ながら動くことが無い。まるで恐怖しているかの様だ。

 

「なんだ!?急に動きが悪いぞ!」

 

「スクルドが怯えている?あのビギニングの炎に!?」

 

「その7!ガンプラを愛する者は千差万別!!全ての人がその資格を持つ!だが……外道に落ちたお前らにその資格はない!!!」

 

 タケルはそのまま炎の剣を横に振るった。ハイパーバーニングモード、そしてこれが超ハイパーバーニングスラッシュだ。

 

「反省しろぉぉぉっっっ!!!!!」

 

 それは何百機もの違法ビルダーの機体を巻き込んで消し炭へと変えていく。

 

「なんだ!こんな!こんなぁぁ!!!」

 

――剣筋から炎……?まさか……!!――

 

 それを見ていたツチヤに衝撃が走った。かつて彼の親友にして、チームリーダーのコンドウが体験したバトルの内容とそれは酷似していたからだ。 

 

「以外……ね!こんな大物ゲストがいたなんて!」

 

 今の一撃で完全に戦力をひっくり返された。こんな展開になるとは思わなかったレム。他に残ったのはノドカと僅かな違法ビルダーのみ、

 

「レムゥゥ!!」

 

 感傷に浸る間も無く。マスミとヒロが追ってくる。

 

「性懲りもなく!!」

 

 再生させようと槍を掲げるスクルド、しかしシステムを起動させる前にアザゼルがビッグアームを一つファンネルとして飛ばす。サーベルを発生させずに腕に衝突させて槍を飛ばした。

 

「あっ!!」

 

「レム!!待っていてくれ!ぼくは必ず全国へ行く!」

 

 マスミの乗ったアザゼルが、

 

「僕もだ!そして君を!」

 

 ヒロの乗ったノヴァが、

 

『必ず迎えに行く!!』

 

 さっきのビギニングJからの魂に触発されてか、ノヴァが青く輝き、アザゼルが真紅に輝く。そして二機が背中合わせとなり、スクルドにノヴァストライクの要領で突撃をかける。それは最初に違法ビルダー達を薙ぎ払った時とは比較にならない光量だった。

 

「あなた達……待ってるから……」

 

 レムはそう言うと無防備で突撃を受け、そのまま消滅。それをノドカのレギルスは黙ってみていた。

 

「レム……?萎えた。もういいや」

 

「ノドカ?」

 

 アイがレギルスと戦うべく剣を構える。がレギルスは戦意を喪失したかの様に構えを解いた。

 

「受けるわ。こんなんアタシらが負けるの目に見えてるじゃん。お前との決着はやっぱり決勝の方がいいわ。というわけでアタシ帰るから」

 

「待って!ノドカ!」

 

 アイが止めようとするも、レギルスは一瞬でその場からテレポートしたかの様にいなくなる。……そして残った違法ビルダー達も程無くして殲滅となった。これによりアイ達の、そしてマスミ達の勝利となった。

 

-7ページ-

 

「ノドカ……!」

 

 Gポッドから出てくるや否や、悔しさを露わにするアイ、初心者大会を襲う様な真似をするほどに堕ちてしまった彼女に対して、アイは複雑な感情を浮かべる。信じると誓ったはずなのに……。

 

「……残念だったな。アイ」

 

 ユメカが話しかけてくる。彼女もわずかに申し訳なさそうな表情だった。

 

「えぇ……」

 

「だが、信じるんだろう?」

 

 とノゾムがユメカに続いて問いかけた。

 

「……もちろんですよ。……ここまでされるとちょっときついですけどね」

 

「幸せもんだな。ノドカは……だが馬鹿だ」

 

――

 

 一方こちらはツチヤ達の方だ。

 

「凄いバトルだった。あれがマスミと、タケルさんの力なのか!」

 

 ヒロが感動の声を上げる。タケルの実力。それはヒロ達の予想を大きく上回っていた。

 

「当然だろ。師匠はな、『ファントム事変』を終結させた英雄なんだよ」

 

「っ!やっぱり!!」

 

 ビギニングファントム事変、それは以前に行われた巨大なネットガンプラバトルのイベントの事だ。しかし事前発表の無い抜き打ちだった事、イベントでは片付かない禍々しさを感じた者もいる所為か、「あれはイベントではない」という噂もちらほらあった。コンドウ・ショウゴはかつてこのバトルに参加し、炎の剣を掲げたビギニングJガンダムを目撃、今後の目標にする程の影響を受けたわけだ。

 

「そんなんじゃないさ。俺一人の力じゃない。イレイ・ハルや多くの仲間達、ビルダーと力を合わせてやっと勝てた相手なんだから」

 

 知らなければ言えないセリフをタケルはしれっと話す。つまり……

 

「……という事は、ビギニングファントム事変はイベントでは無く」

 

「……あぁ、公式からはイベントと表向きは発表されたけど、あれは実際にあった事件だよ」

 

 タケルは思い出す様にツチヤに告げた。

 

「っ!?……何故、公式はイベントなどと……」

 

「そうしなければ、ガンプラバトルが終わっていたかもしれない。そういう事件だったからだよ。そして……今世間を騒がせている違法ビルダー達も、多分同じテクノロジーだ」

 

「?違法ビルダーが?どういう事ですか?」

 

「……今はまだ話せない。皆が揃った時に話させてくれないか?」

 

「ま、つまるところ、ショウゴさんの言った事は間違ってなかったわけだ」

 

 サイトウが誇るかのように言う。

 

「それで、ジロウさんから連絡を受けてね。ガンプラを通じて俺達は知り合いになったわけだよ」

 

「苦労したぜ。本当はショウゴさんに会わせたかったんだがな、知り合う前にショウゴさんはこの街を離れて行ってしまった」

 

「それで、俺はたまに、ここで違法ビルダーに追われてここに流れ着いた子供達や、皆のガンプラのコーチをさせてもらってるってわけさ」

 

「嬉しいけど、物好きですよねタケルさんも、僕達みたいな木端のビルダーに構う事ないのに」

 

 半ば呆れるシンパチにタケルは子供の様な笑顔で答えた。

 

「へへっ!じっちゃんのガンプラ十箇条!その9!『ガンプラに国境なし!作れば皆親友となる』ってね!」

 

――

 

 そんな明るい話題の中、ノドカ達の方、ガンプラバトルコーナーのあるゲームセンターでは対照的に辛気臭い雰囲気だった。

 

「……余計な事しやがって」

 

 ノドカは吐き捨てる様にレムに言った。

 

「あら?別にいいでしょ?あなたは新入りの癖に生意気だってリンネからよく思われてないのよ」

 

「実戦データがたくさん手に入っていいじゃねぇかよ」

 

「その割には普通にやられそうだったけど?」

 

「うるせぇ!大体あの時来るのはアイだけのはずだったんだ!なんで部長やツチヤ達まできやがった!」

 

「さぁ?」

 

 レムは大げさに身に覚えがないといったジェスチャーをする。

 

「……アンタがやったんじゃねぇのか?あいつらに連絡を入れたの」

 

「まさか?」

 

 余裕の表情のまま答えるレム。余裕のないノドカとはとことん対照的だった。

 

「……チッ!まぁいい。このままじゃアタシのレギルスは力不足だ。もっと強くしなけりゃならねぇな……」

 

 そのまま挨拶もせずに立ち去るノドカ。

 

「待ってよ。あなたの監視をリンネから頼まれてるんだから」

 

 追いかけようとするレム。その時、レムのスマホにメールが入る。レムはそれに目をやる。差出人はマスミ、そしてヒロの二人それぞれだ。

 

『必ず全国で迎えにいくから』

 

 どちらもそんな内容のメールだった。

 

――二人とも、定期的に送ってくるよね。……だからか、今回の初心者狩りを止められたけど――

 

 そう、先述のミスルトゥに連絡を入れたのはレムだった。マスミとヒロは定期的にレムにメールを送ってくる。マスミはつい先日『ミスルトゥに移籍した』とメールで知らせていた為、連絡先を知っていたわけだ。

 

――ユミヒラ・ノドカちゃん……。友達を裏切っても、自立した事にはならないのよ……――

 

「へっくしょ!!」

 

 身を案じるレムに対して、ノドカは女の子らしくない大きなくしゃみを出していた。

 

-8ページ-

登場公式キャラクター

 

『ネッキ・タケル』

登場作品『模型戦士ガンプラビルダーズJ』

 

 ガンプラビルダーズJの主人公。赤く逆立った髪は炎を思わせ、見た目に違わず熱い性格、とはいえガンプラ製作に対しては丁寧な職人気質であり、バトルよりも製作の方が得意という繊細な一面も。師匠である祖父の残したガンプラ十箇条が彼の行動指針だ。そして十箇条は彼の経験と成長、思い出と共に増え続けている。

 原作ではホビージャパンの実在のプロモデラー達と戦いを重ね成長。ビギニングファントム事変を食い止めた。……ちなみに天然ジゴロ。

 

-9ページ-

 コマネチです。今回友達から預かったガンプラ登場です。準レギュラーです。

 

 ……預かって二年間しまいっぱなしですいませんでした……orz

説明
第55話「炎のガンプラビルダー」

 ミシマ・サキに襲われ、敗れたアイ達、そんな中ソウイチはサキに対して師事する事を選んだ。そして仲間達も自分を見つめなおすべく、一度別れるのだった。
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コメント
コマネチさん、コメントへのご返事ありがとうございました。ビルドファイターズ外伝とかでも本編のキャラが出ると本編では語られなかった話とかが展開されるのが面白いんですよね。しかし改めてじっくり見るとどことなくこの機体、エウレカセブンのLFOっぽい雰囲気もありますね、長い手足にバックパックが大型ってだけで思っただけですが。(双子辰)
双子辰さん 有難う御座います!むしろ公式キャラはなんでもっと出さなかったって感じです。友達の作ったアザゼルはかなりの傑作ですね。手足の細長さだけでなく、ビッグアームとのラインも調和がとれてる感じです(コマネチ)
今回もまた熱い人が来ましたね…こういう本編の人登場というのはやはりテンションが上がりますね、しかしかつての事件と技術的にも繋がりあるという事は…。しかしご友人のガンプラ、ジャイオーンとスローネ系のミキシングとは…両機種ともガンダムタイプとしてはやや逸脱した機体ですが面白い組み合わせですね、トップヘビーな機体バランスも異形感出てますし。(双子辰)
mokiti1976-2010さん 読んで頂き有難う御座います!まぁそうですね。この予選編は来月中に決着つける予定です。(コマネチ)
そう簡単に仲直りというわけにもいかないのは、分かってはいてもなかなかに切ないものですね。(mokiti1976-2010)
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