真祖との絆語り -誕-
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一月。暦の上では始まりの月だが、気候の方は容赦なく、一層の冷え込みで猫を炬燵に追いやる季節。

討伐に出たくない、いや布団から出たくないと憂鬱な朝を何度迎えたか数知れない。

当屋敷でこの法案が可決されれば主である俺の株も右肩上がり待ったなし、とりわけ猫系式姫達からは尊敬の眼差しで見られること間違いなし。

……なのだが、生憎とそんな甘い規律など通るワケがなく、夜摩天、フレイその他鍛錬に熱心な式姫達に一蹴された。

もうお前らだけで討伐行ってこいよくそったれが寒いしお腹痛いしもう帰りてぇ。

そんな情けない弱音を気兼ねなく愚痴れたら、どれだけ楽か。

主としてのプライドは持っているが、それでもやっぱり寒いのは苦手なのだ。

一度、おゆきに俺も雪女にしてくれないかと冗談交じりで頼んだら、

「ご主人様、熱でもあるの?まだ寝ぼけてるんなら、その頭ごと冷やしてあげようか?」

と言われた。洒落の通じない奴だ。あぁごめん、冗談だって。

しかしまぁ、よくあれだけ動いて腰布がズレないものだ。

常日頃、アレを引っ張ってかの時代劇の如くあーれーなんて展開を……冗談だってば――あっやめて、寒、ささささ寒いってちょっと待っておゆき待っ

 

寒さで赤くかじかんだ自分の手を見つめる。

この手に天手力男命程の怪力があれば、毎日天照を岩戸から連れ出せるのに。毎日が晴れてくれるなら、多少は過ごしやすいんだけどね。

そういえば、彼女がよく引きこもっている岩戸の中は一年中過ごしやすいと聞いた事がある。正直、羨ましい。

一度だけでも是非お邪魔してみたいものだ。ただ炬燵並の魔力がありそうなので、出られなくなってしまいそうだが。

 

正月はあっという間に過ぎ去り、おせちと酒もたらふく平らげ、そろそろ気分を引き締めなければいけない時期。

俺は自室で、文机の上に本を広げていた。

読んでいるのではない。目は文章を追っているが、内容は頭に全然入ってこない。

「…………」

既に三度は読み返した本、今更内容などどうでもよい。まぁつまり、落ち着かないのだ。

 

時刻は既に黄昏時。とはいえ冬なので、もう外はかなり薄暗い。

あと一、二時間もすれば完全に闇が下りてくる。

その前に、誰か――誰か気付くだろうか。まるで遠足前夜の小学生のように、妙な期待と興奮が頭を悩ませている。

 

それからどれ位の時間が経っただろうか。

たったったと軽やかな足音が聞こえ、顔を上げる。このリズムは多分……真祖かな。

すっと襖が開かれると、正解が廊下に立っていた。

「誕生日、おめでとー」

「あ、おおう……ありがとう」

開口一番、またしても正解である。

真祖は普段から割とぼーっとしている事が多いので(主に貧血のせいだが)まさか覚えてくれていたとは正直驚いた。

本を畳み、真祖に向き直る。

「ごめんねー、何も準備できなくてー」

「いや、構わないよ。その一言だけで十分だ」

「何か欲しいのあるー?」

「ないない」

要らん要らんと手をブラブラ振る。

「そうなのー。じゃあ、ちょっとそこに座って目瞑って」

「……何?」

「いいから、ほらほら」

「…………」

仕方なく言われた通りにする。

瞼の裏で、真祖がそっとかがむ気配を感じた。続いて、首筋に感じるかすかな吐息。

こ、これはもしや……!

 

「何をやっとるんだお前はッ――!!!」

 

ぱっと目を開き、間一髪真祖の唇が首筋に触れる直前で押し留める。

「血がー欲しいのー」

「ええい、誕生日を迎えた主に血をねだるな!」

「ねーお願い、一口だけ」

「却ーーー下!ふんぬぬ……!」

その後しばらく真祖との取っ組み合いが続き、気付いた頃には息も絶え絶えに二人とも床に寝転んでいた。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」

「しつこい……男は……嫌われるよー?」

「しつこいのは、お前だよ、ったく」

「ねー、オガミー」

ようやく諦めたと思ったが、真祖はまだずりずりと俺の上に乗ってくる。

「こらっ、降りろ。降りなさい」

 

そこでふと、パタパタと廊下を歩く誰かの足音が聞こえた。

嫌な予感が一瞬、脳裏を横切る。そのまま襖がさっと開かれ、

「あ」

「あっ」

「遅くなりまして申し訳ございません。オガミさん、今日は誕生……日…………」

狗賓がプレゼントとおぼしき箱を片手に立ち尽くしている。

息を荒げ、服も髪もしわくちゃ。距離の近い、一組の主と式姫。

もはや言うまでもない。

「す、すみません!あの、これ、台所に置いておきますから、ごゆっくりどうぞ……!」

顔を赤くしてペコペコと頭を下げると、それだけ言い残して狗賓は襖を閉めて小走りに立ち去って行った。

 

「…………」

「…………」

「なぁ真祖」

「なにー?」

「後で俺と一緒に、きちんと謝りに行こうな」

「そうだねー」

ある意味、見られたのが狗賓で良かった。

これが鈴鹿御前なら、今頃俺はこの世にいなかったかもしれない。

真祖を下ろし、次の来客が来る前にお互いに乱れた衣服を整える。

「オガミー」

「んー?」

「今晩、真祖の部屋に来てもいいよー」

ピタリと手を止め、俺は真祖の顔をまじまじと見つめる。

「その申し出はありがたいが、そういう台詞はもっと色っぽく言うモンだ」

「…………」

「…………」

「今晩、真祖の」

「いちいち言い直さんでいい」

ぺちん、と真祖の額に軽い手刀をお見舞いする。

「いたっ」

どうせ夜這いを仕掛けた所で、十中八九、首筋に傷を二つ残されるハメになるだろう。

真祖の表情から真意は読めない。まぁでも、万が一……という可能性もありうるか?いやあり得ないな。

誕生日はあくまで生誕を祝う日であり、夜這いという特権が与えられる日ではない。

そう自分に言い聞かせて、邪な気持ちを抑えた。

 

真祖を連れて早速、狗賓へ謝りに行く。

夜の廊下は寄り添う二人の吐息が白く漂う程に冷え切っていたが、どことなく温かいモノも感じていた。

「…………」

隣を歩く真祖をまじまじと見つめる。

長い時を経て寿命すら超越している彼女――いや、それは真祖に限った事ではない。

式姫達は皆、命というこの世の括りから既に外れているのだ。

 

陰陽師はその職業上、短命な者が多いと聞く。

屍体が残ればまだ良い方だ、などと不謹慎な噂も小耳に挟んだ事がある。

たかが噂、されど噂。臆病者の戯言に過ぎぬ、と一笑に付す程に俺は老成していない。

十年後か一年後か、はたまた今月一杯か。

この身がどこまで保てるか、お釈迦様にも分かるまい。

時計の針が進むたび、口から吐息が漏れるたびに命は確実に削られていく。さながら蝋燭の灯りのように。

 

真祖と繋いだ小さな手に、力が籠る。

『何か欲しいのあるー?』

彼女は恐らく気付いていない。それは、既にこの手に握っているんだよ。真祖。

それ以上を望むのは、バチが当たるってもんだ。

 

 

 

それでも俺は陰陽師であり人間だから、バチが当たろうとなかろうと、願いの一つ位は胸の奥にしまってあるのさ。

耳に届かぬこの願いが、優しく握り返す彼女に伝わるか否か――。

 

今暫くは、彼女達の主で在りたい。

 

それを口にする事は出来ない。

この白い吐息のように、どうか儚く消えてしまわないように……。

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