フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep2
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 季節は夏、夏と言えば暑さ、そして熱さだ。太陽の照り付ける熱は新たな命を育み、学生は部活や大会、受験へ向けて己を鍛え上げる。とかく夏は様々な物が熱くなる季節だ。そしてそれは何も人間だけに限った話ではない。

 

「てやぁぁっ!!」

 

 イノセンティアが中世の城の大広間、舞踏会の会場を模したバトルステージでレイブレードから移植した刃を振るう。大ぶりな刃は衝撃波となって床と絨毯を粉塵と共に巻き上げる。相手を切り裂けば一度で勝負は決するだろう。しかし……。

 

「ウッフフフ。アハハハ」

 

 相手のFAGは軽やかに舞いながらハンドガンで飛びながらイノセンティアに連射する。舞踏会のステージなだけに、まさに舞うように、だ。

 

「くそぉ!なんてすばしっこい!」

 

 相手のFAGはマテリア、本来は武装を持たないFAGだが、あらゆる装備を使いこなす特性を持つ。追加装備で某ヴィダールのアーマーを取り付けていた。

「今までの自分の力を過信していたと言った所かしら。いいわよその顔、ゾクゾクするわ」

 

 妖艶な笑みを浮かべながら、マテリアは蹴りをイノセンティアに入れる。刃の仕込んである足だ。吹き飛び、倒れこむイノセンティアにマテリアは一気に加速、細長いサーベルをイノセンティアの胸に突き刺した。

 

「あっ!」

 

 『ガッ』という音からして致命傷だな。と、客観的に判断するイノセンティア。そして『負けた』と、悔しさを表情に浮かべながら彼女は光の粒子を発しながらステージから消える。

 

「でもその顔が一番ステキよ」

 

 そう言うとマテリアは、慣れた手つきでサーベルを腰部のウェポンラックに仕舞う。それと同時に周囲のバトルステージは解除。模型店の風景に切り替わった。

 

「イノセンティア!大丈夫ですか?!」

 

 轟雷がイノセンティアに心配そうに駆け寄る。今日は相方のレティシアやアント姉妹がいない。

 

「轟雷さん、やられちゃったよ」

 

 イノセンティアが申し訳なさそうに呟いた。

 

「仕方ありませんよ。今日はレティシアもいないんですから」

 

「それでも自信はあったんだけどなぁ」

 

 今日はいつもとは別の模型店でのトーナメント大会だ。今日はイノセンティアと轟雷だけが出場していた。

 

「ごきげんよう。あなたの店舗のFAGは二体だけかしら?轟雷」

 

 そう言うと、さっき勝ったマテリアが寄ってくる。FAGの数が少ないのが不満気味と言った言葉だ。

 

「あなたがこの店舗のエース、マテリアですか。今日は用事があって来れないんですよ」

 

「まぁ残念、もっと他にあなた達の仲間のFAGを連れてくる事を期待したのだけれど」

 

「彼女達でしたら、友達のスティレットが皆を無理やり連れて行ったんですよ。マスターの試合の応援だそうで」

 

「私の友達もさらわれたよ」

 

――

 

「くちゅん!」

 

 その頃、体育館でチアガール服を着たスティレットはくしゃみをする。

 

「スティレット。風邪?」

 

「そんな露出の高いチアガール服着るからだよ。マスターに見せたかったんでしょ?」

 

「しかもボディまで変えるっていう念の入れ方だよ」

 

 レーフとライの指摘に真っ赤になるスティレット。全員がチアガール衣装を着ているが、スティレットだけ妙に露出が多い衣装だった。そしてオール肌色の素体装着である。

 

「そ!そんなわけないでしょ!!ってそんな事より!いい事あなた達!マスターのチーム応援は気合いを入れていくわよ!」

 

「トーナメント大会出たかったのにー」

 

 無理やりスティレットのマスターの応援に、駆り出されたレティシア達であった。

 

――

 

「私達は今日の試合の申請終わってたから免れたんですけどねー」

 

「残念ね。まぁ、FAGの生活もマスター次第だから仕方ないわね。と、次の試合は轟雷、あなたよ。行った方がいいんじゃないかしら」

 

「あ、本当ですね。じゃあ私行ってきます」

 

 そう言って轟雷はセッションベースを持ったマスターと、一緒にステージへ移動する。相手は重武装のスクール水着娘、フレズヴェルクだ。背後にいるマスターはまだ小学生だ。

 

「へぇ、轟雷タイプか。飛べるボクに比べて、地べたを這う轟雷じゃボクの敵じゃないね」

 

 カチンと来る言い方だ。どうも開発班の違いからか、もしくは元ネタの地球陣営と月陣営の違いか。このタイプとは相性が悪い。

 

「性能的にダンボ○ル戦機に出てきたLB○の真似事やったフレズヴェルク型ですか。いいでしょう。そのアホ面を泣き顔に変えてあげます」

 

「そういう事言うなよ轟雷」「駄目だよフレズ、相手に失礼な事言っちゃ」

 

 お互いのマスターが制止する。轟雷とフレズの二人が「うっ」と口を紡いだ。精神年齢は同じ位だろうな。とお互いのマスターは同じ事を思う。そしてステージは辺り一面の氷の世界となる。今回のバトルステージは南極だ。

 『バトルスタート』というアナウンスと共に、フレズは真っ先に轟雷目掛けて低空飛行からの加速、両手に持ったブレード付きライフル。ベリルショットランチャーで切りかかる。

 

「眠れ!武装○姫の成り損ないめ!」

 

 が、轟雷はこれを跳躍で回避、

 

「あなたみたいな生意気ロボ娘は!コミケの薄い本でミゼルオーレギオ○に乱暴されてなさい!!」

 

 頭上から肩部キャノンで狙い撃つ轟雷。

 

「うるさいな!今時ダンボー○戦機は全部装甲娘(一言で言うならダ○ボール戦機公式美少女化)に移行しちゃったから!そのネタ今時の子供は解らないよ!」

 

 素早く回避するフレズは回避ついでにランチャーを撃つ。空中ではバーニアの少ない轟雷では機敏に動けない。

 

「あれコロコロア○キで連載するとはビックリしましたよね!でもゲームも終了しちゃいました!」

 

 轟雷は肩部のキャノンを撃って反動で回避、降り立つとジグザグに動きながらフレズの周りを回りつつ小銃で撃つ。

 

「夏に再始動するって言ってたから終了じゃないよ!きっと戻ってきてくれる!」

 

 フレズも後ろを取らせまいと、轟雷と向き合いながらの形となる。

 

「コロコ○アニキは『劇画ガールズ&パンツァー』の方が気になりますんで私にはどうも!私のデザイナーの関係上!」

 

 撃ちあいながらも言ってる事は緊張感の欠片もねぇ。

 

「後コトブキヤで装甲娘のキットも出ますからねぇ!しかしあれですよ!元ネタの○ンボール戦機の方はプラモがバ○ダイから出てたのに!装甲娘のプラモはコトブキヤの方からって、これ裏切りですよレベルファイブの!!」

 

「版権的にはレベルファイブの物だからいいんじゃない!?ダンボール戦○のプラモも再販されるって!FAGもダンボール○機とコラボしないかなぁ!」

 

「性能的に私らじゃ一撃で消し炭にされますよ!」

 

「クロスオーバーならもうちょっと空気読んでくれるよ!その前にお前を消し炭にする!」

 

 そう言ってフレズはベリルショットランチャーの銃身ブレードで切りかかる。お互いのマスターは『戦闘中に何を話してるんだよ』と呆れていた。

 

「マスター!」

 

 轟雷の一言でマスターは轟雷は何を求めているか解った。バックパックのアーマー換装。リナシメントアーマーを転送だ。そのまま轟雷はサブアームのデモリッションナイフでブレードを受け止める。

 

「何!?」

 

『フレズ!離れて!』

 

 フレズのマスターが叫んだ時にはもう遅い。

 

「パワー全開!」

 

 そう轟雷は叫んでランチャーを弾く、そして至近距離で小銃を撃ちまくる。

 

「わぁぁっ!」

 

 フレズは一身に銃弾を受けて大ダメージを負う。重武装かつ高機動ではあるが、撃たれ弱く燃費が悪く、なおかつ機体バランスが劣悪なのがフレズヴェルク系列の難点だ。と、損傷したフレズの装備が爆発。フレズ本体も爆発に飲まれる。

 

「やったの?」

 

「それはフラグの発言だねぇ!!」

 

 そう轟雷が言った瞬間、爆風の中からフレズが飛び出してくる。アーマーをパージした素体形態だ。そのまま轟雷の背後に回るとフレズは轟雷に絡みつく様に関節技をかけた。

 

「っ!?がっあぁぁっ!」

 

 コブラツイストだ。

 

「どうだっ!マスターとプロレスで遊びたいけど、サイズ的に無理だから持て余していたとっておきだ!」

 

 轟雷の右腋から顔を出し、両手をクラッチさせたフレズが得意げに言う。

 

「……って、馬鹿ですかあなたは」

 

 対する轟雷はいたって冷静だった。

 

「何!」

 

 とフレズが戸惑う直後、轟雷は技のかかってない方の踵のキャタピラを可動させて足を上げた。回る無限軌道はフレズに当たり、それは技を解くのに充分な威力だった。

 

「わぁっ!」

 

 直後、轟雷はバックパックをパージ、バックパックはそのままフレズへの重しになる。その隙に轟雷は日本刀でフレズを切り裂いた。

 

「しょ!賞品のクロスフレーム!ガオガイガーが欲しかったのにぃ!!」 

 

 そのままフレズはダメージが限界となり光を発して消える。バトルの結果は轟雷の勝利となった。

 

「あざとい連中ですね。だから嫌いなんですよフレズヴェルクのシリーズは」

 

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 そして準決勝を勝ち抜いた轟雷は、そのままマテリアとの決勝戦となる。そしてバトルステージは古代の闘技場。コロッセオのステージだ。

 

「ウッフフフ!あなたはどんな声で泣いてくれるのかしらぁ!」

 

「さぁ来なさい!ストパンのサーニャもどき!!」

 

「似てないわよ!」

 

 始まるや否や、ヴィダールアーマーを着たマテリアは二丁拳銃とライフルで轟雷を撃ちまくる。通常装備の轟雷は無限軌道の動きでそれをかわす。

 

「それっ!」

 

 バズーカを撃つ轟雷、マテリアは着弾点からジャンプ。上空から轟雷へ銃撃とサーベルで突きをかける。

 

「あなたの装備は大物ばかり!私相手には分が悪いわ!」

 

 轟雷は下がりつつサーベルをかわす。サーベルは地面に突き刺さり、マテリアはその場にとどまる。その隙に小銃で反撃しようとする轟雷、しかしマテリアはサーベルを軸に回し蹴りを放つ。回し蹴りは小銃を弾いた。

 

「あっ!」

 

「少しずつ切り刻んであげるから!」

 

 回し蹴りのい勢いを利用してハイキック。からの踵落としだ。轟雷のバイザーに当たり、バイザーはざっくりと傷が入り、衝撃で轟雷はバランスを崩す。マテリアはよろけた轟雷に飛びかかり押し倒す。背中から倒れこんだ轟雷に、馬乗りになりとどめを刺そうとするマテリア。

 

「でもやっぱり一撃もね!」

 

『キックだ!轟雷!』

 

 轟雷のマスターは独断で轟雷の足アーマーをリナシメントに変える。キック力の上がった足で轟雷は足を思いっきり上げた。

 

「うっ!」

 

 無造作ながらも力の入った蹴りは軽量のマテリアを弾き飛ばし、轟雷の体勢を立て直すには十分だった。その隙に全装備をリナシメントに変える轟雷。蹴りの衝撃でライフルを遠くに手放してしまったマテリア。向き合う二人。

 

「くっ!さすが全ての装備を使いこなすと言われたマテリア!」

 

「……そうね、私はFAGの最初期、双子の試作型マテリア、その二体の特性を受け継いだ量産機、それにしても……あなた、マスターに救われたわね」

 

「えぇ、そう言うあなたはマスターはいないのですか?」

 

 轟雷は疑問だった。マテリアのマスターの姿は一度も見ていない。

 

「……あなたが知る必要はないわ。でもこれだけは言っておく。私はマスター無しでは生きられない体なの。そのマスターの為にも私は最高でなければならない。その為にあなたには負けてもらうわ」

 

 そう言ってマテリアはサブアームにサーベルを持って、自身の両手にはハンドガンを持って飛びかかる。ハンドガンで牽制を行いつつサーベルで一突きという算段だろう。轟雷はで大剣と日本刀で対抗しようとする。マテリアはサーベルで突っ込むと思いきや、刃を仕込んだ跳び蹴りを仕掛ける。

 薙ぎ払おうとデモリッションナイフを横に振るった轟雷だが、

 

「甘いわねぇ!」

 

 振るった大剣の刃の上にマテリアは立っていた。そのまま轟雷にサーベルを突き刺そうと駆け出す。

 

『轟雷!!……をしろっ!』

 

 マスターからのとっさの指示だ。もう遅いとマテリアはサーベルを突き刺す。轟雷はサブアームで防御するも、サーベルはアームを貫通し轟雷の胸アーマーに突き刺さる。

 

「がっ!!」

 

「フフ、その顔、ゾクゾk……ん?」

 

 勝ったと確信するマテリアだが、その瞬間に轟雷は刺されたサブアームを切り離す。刺さったままのサーベルは重量が増してマテリアはバランスを崩しよろけた。

 

「う!何っ!?」

 

 戸惑いの表情を見せるマテリア。轟雷が不敵な笑みを見せた。

 

「見たかったですよ……その顔がっ!」

 

 サーベルの刃を切り離して、離れようとするマテリアだが、その前に轟雷は内側の手で大鉈を握っていた。そのままマテリアの胸に鉈をぶつけると同時にパイルを撃ち込んだ。それが決め手になった。

 

「くっあぁぁっ!!!」

 

「あなたの断末魔もステキですよ。なんちゃって……ね……」

 

 光を放ち消えるマテリア。それを見届けつつ轟雷は膝をついた。かろうじてではあるがこの大会。轟雷の勝利、そして優勝となった。

 

――

 

「凄かったです轟雷さん!やっぱりあなたは私の憧れです!」

 

 イノセンティアが目を輝かせて駆け寄る。

 

「あ、ありがとうイノセンティア。どうやら先輩としての威厳は保てたようですね」

 

「あなた……完敗ね。あなたには敬意を表するわ」

 

 今度はマテリアが来て賞賛の言葉をかけた。しかし轟雷ではなくマスターに対してだ。

 

「……いやなんで私ではなくマスターに向かって言うんですか」

 

「あら、当然でしょう?マスターが優秀だったからあなたは勝てたのよ。あなただけではこうはならなかったわ」

 

 そのマテリアの態度にイノセンティアが食いつく。

 

「嫌な言い方するわね。では何、あなたの方はマスターがいたら、轟雷さんには必ず勝っていたって言いたいの!?」  

 

「そうは言ってないわよ」

 

 イノセンティアの発言にマテリアは若干面倒そうに答えた。

 

「イノセンティア、そういう発言は……」

 

「甘いですよ轟雷さん!マテリアタイプと言えば試作型が腹黒で有名じゃないですか!彼女もそんな口に決まってますよ!」

 

「イノセンティア。いい加減に……」

 

「どうせマスターも似たような嫌な奴なんでしょ?!」

 

 その瞬間、マテリアの表情が一気に怒り一色なった。

 

「お前もう黙「マスターの事を悪く言わないで!!!!」

 

 周囲が止めようとする前に、激昂したマテリアがイノセンティアを黙らせた。今までの態度と一変しての、その迫力にイノセンティアは言葉を詰まらせる。

 

「……もういい。不愉快だわ。言いたい事はまだまだあるけど、私はもう帰るわね」

 

 そう言ってマテリアはその場を離れた。少しして店内の窓からドローンに乗って移動するマテリアが見えた。

 

「やりすぎですよ。イノセンティア」

 

「だって、いちいち発言が腹立つんですよあいつ。上から目線が多いし」

 

「だからってマスターまで悪く言うのは最低だぞ。今度会ったら謝っとけ」

 

「う……」

 

 若干バツが悪そうになるイノセンティア。

 

「へぇ、マテリアのマスターの事が気になるんだ」

 

 その中に割って入るFAGが一人、さっき戦ったフレズヴェルクだ。

 

「あなたは……知ってるんですか?」

 

「まぁね。あいつとはホームグラウンドの店舗が同じだし、……見てみたくない?あいつのマスター」

 

 いたずらっぽく笑うフレズ、豊満な体つきに比べて内面は子供っぽいというのを表情は現しているようだった。

 

「へぇ」

 

「フレズ!駄目だよ!人のプライベートを覗いちゃ!」

 

 それを止めようと彼女のマスターの少年が止めに入る。轟雷とイノセンティアのマスターも同様の事を言って止めようとする。

 

「いいでしょマスター、ちょっと見て帰ってくるだけだから、じゃあ行きましょう!」

 

 あのマテリアの弱みになるかもしれないと、イノセンティアは思うと、ここで止まるつもりはなかった。フレズはアーマーをエアバイクに変形させると、イノセンティアを後ろに乗せて飛び立った。

 

「マスター、ボクの方もちょっと見せたら帰ってくるから心配しないでー!それじゃあ行ってきまーす!」

 

 フレズは店内の窓を開けるとそのままエアバイクで飛び出していった。その様に轟雷も呆れた。

 

「何やってんですか二人とも……」

 

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――三時までもう少しね。……間に合うかしら――

 

 ドローンに乗りながら帰路につくマテリア、途中嫌な事はあったが、それをマスターに悟らせるわけにはいかないと、さっきの事はマテリアは忘れようと誓った。程無くしてマテリアは住宅街の一軒家に向かって降りて行った。それを物陰に隠れながら見るフレズとイノセンティア。

 

「お金持ちかと思ったら、普通の家っぽいね」

 

「まぁあいつのマスターは、ある意味普通じゃないと思うよ。面白い物見せてあげるよ」

 

 気づかれない様に慎重に近づいていく二人、マテリアは隠していた合鍵で玄関のカギを開けると、中に入っていく。暫くして、装備を外し、服を着て出てきた。

 何かを待っている様だ。と、暫くして小型のバスが走ってきた。派手な絵柄からイノセンティアはそれが何かすぐ解った。

 

「?幼稚園バス?」

 

 来るとマテリアの表情がパァッと明るくなる。扉が開くと一人の女の子が降りてきた。六歳位の子だ。

 

「トモちゃん!おかえり!」

 

 店内で見せた態度とはまるで違う態度でマテリアは出迎えた。

 

「あーマリちゃんだー!ただいまー!」

 

 気の置けない親友と会った様な笑顔で、トモちゃんと呼ばれた女の子はマテリアにかけ寄る。そして掴むと自分の目線に持っていく。

 

「今日もご苦労様です」

 

 保育士の人がマテリアに話しかけた。

 

「こんにちは先生。当然の事ですわ」

 

「……そちらの方は大丈夫ですか?」

 

 彼女の方もマテリアと会うのに慣れてる様だ。

 

「えぇ、今の所は何も問題なくて、今の調子なら来月中に……ん?」

 

 と、マテリアは妙な気配を感じた。というか、ある方向の木に妙にカラスが集まってる。黒い鳥たちが騒いでるのだ。その木には……。

 

「うわぁこら近寄んな馬鹿!」

 

「なんでこいつらこんな時に集まってんの!」

 

 フレズのエアバイクにカラスが群がっていた。マテリアもそれに気づくと何があったか察する。

 

「すぃませぇん……ちょっと失礼。ごめんねトモちゃん、手を離して」

 

 解放され、ひきつった笑顔でドローンに乗ると撃ち出し式の爆竹を持つ。自分がカラスに襲われた時の為の装備だった。ある程度近くによると爆竹を撃つ。強烈な音と共にカラスは驚きその場から一斉に去って行った。

 

「わぁぁっ!……た、助かった」

 

「あなた達ぃ……?何をしているのかしらぁ?」

 

 怒りの漏れる笑顔でマテリアは詰め寄る。

 

「ぜ!全然助かってないぃぃ!!」

 

――

 

「じゃあマリちゃんのお友達なんだね」

 

 その後、イノセンティア達はマテリアの家に連れ込まれた。ごく普通の一軒家である。

 

「そうよトモちゃん。とっても仲のいい友達なんだから」

 

 マテリアの嘘。幼稚園児である主はそれを信じ込み、覗いていた二人を歓迎する。

 

「あはは……どうも」

 

「こ、この人があなたのマスター?」

 

「その通り」

 

「初めまして。トモコです。六歳です」

 

 誇らしげにするマテリア。初々しく挨拶するトモコと名乗ったマテリアのマスター。

 

――こんなにマスターは純粋そうなのに……――と二人は思った。あまりにもFAGとキャラが違いすぎる。

 

「折角来てくれたから、今日は皆で遊びましょうよぉ」

 

 純粋そうなマスターに反して、マテリアは含みのある笑顔で言った。

 

「いやぁそう言いたい所ですけど、私達はマスターが待っていますんで」

 

「じゃあ今日はミィちゃんもハルちゃんも来るから皆で遊ぼうよ!」

 

 マスターの発案、マテリアを除く二人のFAGは『え?!』と固まる。

 

「あら!それいいわねトモちゃん!いつもは私がおままごとで赤ちゃん役だったけど!今日はこの二人にやってもらいましょう!」

 

 マテリアがどんどん話を進めていく。二人の表情は更に引きつった。

 

「ちょ!ちょっとマテリア!確かにボク達がついていったのは謝るけど!さすがにそれは!」

 

「……トモちゃん。この二人遊びたくないって」

 

「えぇ……そんな……」

 

 涙目になるマスター、小さな子供にそんな顔されると二人もバツが悪い。

 

「解った!解ったから!遊ぶよ!それでいいんでしょ!」

 

――

 

「だぁだ、だぁだ」

 

「はぁいイノセンティアちゃん、ミルクでちゅよー」

 

 赤ちゃんがつけるおしゃぶりをつけたスク水美少女フレズ、それが母親を真似る幼稚園児に抱っこされていた。

 

「はーいフレズちゃん。オムツ変えましょうねー」

 

「……勘弁してよ……」

 

 げんなりした表情でフレズは呟いた。三人のFAGはそれぞれ、幼稚園児三人の相手をさせられていた。とはいえ雑には扱われていない。子供達全員が人形を労わる年齢に達していたのは幸いと言ったところか。

 

「もう不機嫌そうな顔しちゃってー。笑って笑ってー本当に世話が焼けるんだから―」

 

 マテリアが赤ちゃんをあやすガラガラを振るいながら笑う。だがイノセンティア達にはマテリアの笑顔は凄まじく邪悪に見えた。

 

「マテリアァァ。さすがにこれは恨むよぉぉ」 

 

「あーら、これ位で泣き言とはだらしないわねぇ。私はいつもこういう役を一人で受けてるっていうのに」

 

――受けてるんだ……――

 

 と、そうこうしてる内に「ただいまー」という女性の声が玄関から聞こえた。「あ、ママだ」とトモコが玄関に走って行った。友達の二人もFAGを掴んだまま走って行った。

 

「うわぁっ!誰が帰ってきたの!」

 

「マスターのお母様よ。粗相のない様にね」

 

 廊下に出るとそこにいたのは30代あたりであろう女性だ。

 

「ママ、おかえりー」

 

 そう言ってトモコは彼女のお腹に抱き付いた。FAG達は母親の姿に妙な違和感を覚えた。

 

「あれ?あの人、お腹が……」

 

 そう、太っているわけではないのだが、彼女のお腹は妙に膨れ上がっていた。それは人間で言うところの……。

 

「……二人目がいるのよ。トモちゃんのお母さん」

 

「え!?確か人間で言う妊娠って奴?」

 

「あら。マリのお友達?」

 

 FAGに気づくや挨拶をする母親。

 

「あ、どうも……」

 

「お帰りなさい。検査の結果はどうでしたか?」

 

 マテリアの方も母親のコンディションが気になったようで問いかける。

 

「順調よ。予定日に生まれるかは解らないけどね」

 

「健康で生まれてくれるのなら何よりですわ」

 

「マリ、あなたにも世話をかけるわね。トモコの面倒を見てもらって」

 

「お気になさらず、人の望むサポートをする事こそが私達FAGの存在理由ですから」

 

 誇らしげな顔で答えるマテリア。フレズ達やトモコに見せた笑顔とはまた別の類の笑顔だった。

 

「今日はパパも早く帰ってくるから。久しぶりに皆で一緒にご飯食べられるわね」

 

 母親の一言、それにトモコは一瞬で表情が曇った。

 

「パパ、きらい……」

 

「トモちゃん。ダメよ。そんな事言っちゃ」

 

 困った表情でマテリアはなだめる。

 

「だっていつもお仕事でいないんだもん」

 

「トモコ……」

 

「パパのお仕事の所為で、皆とお別れになっちゃったから!パパなんかいなくていいもん!」

 

「トモコ!」

 

「待って下さいお母様!ねぇトモちゃん。そう思っていたとしても、お友達がいる前でそういう発言はよくないと思うわ」

 

 トモコの両手に持たれたマテリアが、トモコに向かい合いながら言う。

 

「マリちゃん……」

 

「もうすぐお姉ちゃんになるんだからさ、見て。お友達の二人も困ってるじゃない」

 

 二人の友達はどうしていいか解らず。黙っていた。

 

「ミィちゃんハルちゃん……」

 

「トモちゃん、わたし達はトモちゃんがお引越ししてきたから、お友達になれたんだよ」

 

「パパのこと、そんな風に言っちゃだめだよ」

 

「……うん。ごめんね」

 

 申し訳なさそうな表情でトモコは二人に謝る。

 

「お友達にもちゃんと謝れるんだからさ。とりあえず今日はパパに会ってみましょうよ。ね」

 

「……うん」

 

「よし、それじゃ今日はごちそう作るからね!」

 

 母親もそれを見て安心した様だ。

 

「お母様。では私も手伝いますわ」

 

「あなたはトモコと遊んでいて。あなたが一番トモコの扱いには慣れているんだからね」

 

「じゃあ次はお化粧ゴッコしようよ!皆で!」

 

「あらいいわねトモちゃん!この二人の顔に思いっきりお化粧しましょう!」

 

 トモコとマテリア、賛同する友達二人、その笑顔とフレズ達の心境はもう説明しないでもいいだろう。

 

「?お化粧はマリちゃんもだよ?」

 

「え?いや私は……」

 

 うろたえるマテリア。今日くらいは自分は標的にならずに済んだと思っていたのに。

 

「……嫌なの?」

 

 じわ、と涙目になるトモコにマテリアはブンブン首を縦に振って肯定を現した。

 

「そ!そんな事ないわよぉ!私トモちゃんのお化粧だーいすきっっ!!!!!」

 

 そう言いながらマテリアは覚悟を決めたのだった。

 

――今日はどんな顔になっちゃうのかしらぁ……――

 

――

 

「じゃあ私達帰るねー」

 

「またねトモちゃんー。皆ー」

 

 暫くして、ともこの友達達は親に迎えに来てもらって帰って行った。それと共にイノセンティア達も解放される事になった。

 

「ぐぁぁーっ!や!やっと終わった!」

 

 くてんと音を立てて倒れこむフレズとイノセンティア。お化粧ごっこで顔を滅茶苦茶に落書きされていており、お互いの顔は非常にカラフルとなっていた。

 

「お疲れ様。早く顔吹きなさい」

 

 そう言ってマテリアは小さなタオルを二人によこす。マテリア自身も顔にお化粧と称して顔に落書きをされていた。

 

「もう時間ね……。トモちゃん、私の方も、この二人を送ってくるわね」

 

「うん、マリちゃん気を付けてね」

 

 そうやって拭き終わったマテリア達も、模型店にドローンで、そしてフレズのエアバイクで帰ってゆく。三人が飛ぶ空は、もう夕方と言っていい時間だが、日が長くまだ明るかった。

 

「お友達二人も食べていけばよかったのにね」

 

「気を使ってくれたんでしょ。若いのにしっかりした子達だわ」

 

「……その……マテリア。ごめんなさい」

 

 ドローンに座ったイノセンティアが、隣のマテリアに話しかける。下に四脚アームを備え付けたドローンは、FAGが余裕で腰掛けられるほど大きい。

 

「……マスターの事を悪く言った事かしら?」

 

「うん……」

 

「ま、今日は手伝ってくれたから、チャラにしてあげるわ」

 

「ボクも知らなかったよ……君のマスターのお母さんが、赤ちゃんを製造していたなんて」

 

「そんな機械的な言葉は不愉快よ。妊娠と言いなさい」

 

 不快そうな言い方と表情でマテリアは言った。楽しみに水を刺されたといった顔だ。

 

「でも大変じゃない?あぁやって小さい子を相手するのって、子供でも私達よりずっと力は強いんだから」

 

「そうねあなた達、運が良かったわね。あの子、去年まではFAGを何体も破壊してるのよ」

 

 そのマテリアの発言に青ざめるイノセンティア達。

 

「なんて嘘よ。大丈夫。私が家に来た時から私を妹みたいに優しく扱ってくれる子よ。母性っていうのかしらね。あの年齢で持ってるものなのね」

 

 その発言に胸をなでおろす二人。そして気になっていた事を問いかける。

 

「……トモちゃんのお父さんって、仲悪いの?」

 

「悪いけど、それには答えられないわ」

 

 答えるマテリアの声に遊びがない。この件に関しては何も答えたくないらしい。 

 

「そうなんだ……辛くない?そういう家族間の問題とか、子供の相手とか」

 

 今日子供の相手をして、どれだけハードか身を挺して理解した二人。いつも余裕のマテリアがこんな苦労をしていたとは思わなかった。

 

「そうね。でも私にとって彼女の笑顔は最高に綺麗よ。泣き顔なんかよりずっとね。その為なら苦ではないわ」

 

「なんていうか、意外だね。試作型マテリアは『女は泣いている姿が至高』って考え方があったって聞いたけど」

 

「私は私よ。試作型ではないわ。でも……試作型だったとしても、同じ風に振る舞ったとは思うわ」

 

「どうして?」

 

「ウッフフフ。こう見えて献身的な性格してるのよ。私達マテリア型は」

 

――

 

その後に帰ってマスターには怒られた。マテリアはあらかじめ模型店にいるマスター達には連絡を入れていたらしく、怒られたのは勝手についていった事に関してだけだった。

 

「全く、こんな遅くまで待たせて」

 

「でも意外でしたね。マテリアのマスターがそんな小さな子供だなんて」

 

 轟雷もマテリアのマスターの事を話されて、意外に感じていた。

 

「そうだな。FAG自体ある程度成人した人が持つものだと俺も思ってたよ」

 

 その横で僕は小学生ですけどね。とフレズのマスターが答えた。

 

「じゃあ私は帰るわね。……まぁ今日は助かったわ」

 

 そう言ってマテリアは家に帰ろうとする。

 

「あ、待ってマテリア。その……元気な赤ちゃんが生まれる事を祈ってるから……」

 

「イノセンティア……ありがとう」

 

 最後にフッと優しい笑みを浮かべてマテリアはその場を後にした。

 

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 数日後。

 

「ママ!早く早く!」

 

「はいはい。待って」

 

 再びマテリアと彼女のマスターの家だ。予定日は近く、三人でする日課の散歩も警戒を怠れない。

 

――この光景も何度目だろう――

 

 そう思いながらトモコの肩に乗るマテリア。もう自分がこの家に来てから半年がたつ。

 

――

 

 クリスマスの日に、プレゼントとして初めて起動した時は驚いたわね。こんな小さな女の子が私のマスターだったなんて。

 

「……ふぁぁ……」

 

 場所は子供部屋のベッドの枕元。包装されたプレゼントから出されて目を覚ました瞬間。目の前に可愛らしい女の子が目を輝かせていた。その人がトモちゃんだった。

 

「あら。ごきげんよう。可愛らしいマスターさん」

 

「すごーい!喋るお人形さんだー!」

 

 私は表面上余裕に振る舞っていたけど、実際は戸惑っていたわ。私の予想とまるで違ったんですもの。この人はマスターでは無いかもしれない、とも十分考えられた。

 

「あなたがこの街での最初のお友達だね!あくしゅしよ!」

 

「?あなた、引っ越してきたの?」

 

「うん!サンタさんに『お友達が欲しい』って言ったらプレゼントであなたが来たの!」

 

「まぁ本当に喋るのね。最近の人形は凄いわね」

 

 部屋に入ってきたマスターのお母様も、感心と驚きが混じった声を上げてたわね。そしてすぐにこっちの疑問を察してくれたのか、答えを話したわ。

 

「うちはね、主人の仕事の都合で、昨日引っ越してきたばかりなの。この子の友達も、それで離れ離れになっちゃってね」

 

 いきなりそんな事を言われて、正直戸惑ったわ。でもともちゃんの期待を込めた笑顔と、何よりお母様のお腹……。

 

「?そのお腹は?」

 

 今よりも膨らみは少ないけど、妊娠してるというのは私にも解った。

 

「私の弟がいるの!」

 

 嬉しそうにトモちゃんは言った。

 

「もうトモコったら、まだ解らないって言ってたじゃない。こんな体だからね。こっちじゃ頼れる人も少ないから、あなたにこの子のお守りを協力してもらいたいの。お願いできる?」

 

「ベビーシッターだなんて……私達の本来の用途ではありませんわ。でも……断れないじゃない。これじゃあ」

 

「嫌?」とトモちゃんは泣きそうになる。冗談のつもりでの反応だったけど、こういう反応は予想以上に私のASにくるわね。まぁ育児が自分の使い方ではないと愚痴ったのは本音だけれども。

 

「そ!そんなことないわよ!私はマテリア!よろしくね!わぁっ!」

 

 握手として自分よりも何倍もの手に握られた私、大きなトモちゃんの手は私の肩ごと掴み、引き寄せる。

 

「まてり……?じゃあマリちゃんね!」

 

「マリちゃん……まぁ、可愛いからいい……かしら」

 

 そうして早半年、すくすくとトモちゃんは大きくなって、時間が流れるにつれて、確実に環境が変わりつつあるのを実感した。ここではいないけれど、トモちゃんのお父様もトモちゃんの事をとても大事にしていたわ。

 だって、私がこの家に来た日の夜。お父様から言われたから、私が買われた理由は……。

 

-5ページ-

 

「……生まれる時は、お父様も一緒にいるといいわね」

 

 マテリアはそれとなくマスターの父親の話題を出す。様子見も兼ねた質問だ。

 

「……パパきらい」

 

 トモコはそれに対して露骨に嫌そうな顔をする。まだ駄目か……とマテリアはASで呟いた。

 

「……そういうのはよくないわよ。もうすぐお姉ちゃんでしょ?」

 

「私はママと弟ちゃんとマリちゃんがいればいいの!」

 

 そう言ってマテリアを抱きしめるトモコ。……父親の話題になるとどうもこれだ。

 

「でもパパも、トモちゃんやママの為に頑張ってると思うけどなぁ」

 

「やだ。……今日だって、お休みの日なのにパパお仕事で出かけちゃったもん。本当は今日皆でお散歩行く約束だったのに」

 

「……ねぇトモちゃん。それ以上は」

 

 言っちゃ駄目。どうにかなだめようとするマテリアだが、トモコは止まらない。母だとどうしてもマテリアよりキツイ言い方になる為、自分でどうにうかしたい。というのがマテリアの考えだった。

 

「マリちゃんが来たクリスマスだって、本当は私と遊んでほしかったのに……」

 

「トモコ!それ以上言っちゃ!……うっ!」

 

 見かねた母の発言。その時だった。母がお腹を押さえてその場にうずくまる。

 

「お母様?!どうしたんですか!まさか!」

 

 陣痛か!とマテリアは判断する。

 

「急いで救急車を呼ばなければ!!」

 

「駄目よ。確か陣痛は救急車駄目だって……!」

 

 まだ呼べないと母は告げた。トモコもこの状況にどうしていいか解らず、母親に泣きついていた。

 

――人を呼ばなきゃ……!なんでこんな時にドローンを忘れてきたの!――

 

「大丈夫。少しすれば収まるからその時に……」

 

 出産経験がある所為か、一人母親は冷静だった。とはいえのんびりしてられない。

 

「あれ?マテリアじゃん。どうしたの?」

 

 その時だった。あっけらかんとした声が響いた。マテリアにとってはよく聞いた声だ。

 

「フレズ?!どうしてここに!」

 

「マスターが病院で入院してるからお見舞いだよ。……ねぇ、君のマスターのお腹、大丈夫?」

 

 母親の様子を見てフレズは状況を飲み込んだ。

 

「生まれそうなの!タクシーを呼んで頂戴!!」

 

――

 

 その後に母親はタクシーを呼んでもらい、病院へ直行。すぐさま入院となり、色々と手続きを踏んだ後に、出産の手術となった。手術室に母は運ばれていき、マテリア達とマスターはその前の廊下で待機する事になる。

 

「……暇だね」

 

 フレズがぼそっと呟いた。マスターとの用事を済ませた後、なぜか戻ってきた。現在の時刻はもう日が暮れかけている。

 

「呑気な発言じゃないあなたぁ」

 

 怒りをにじませてマテリアは呟く。病院じゃなければ怒鳴っていたかもしれない。マテリアの方はかなりイライラしていた。

 

「悪かったよ」

 

 その横でトモコは長椅子で横になりながら寝息を立てていた。

 

「マテリア!大丈夫なの?!」

 

 と、そこへ更にFAGが現れる。ドローンに乗ったイノセンティアとレティシアだ。マテリアにとっては予想してない珍客だった。「なんであなたが」と言いたげなマテリアだったが、察したのかフレズが説明した。

 

「ボクが連絡したんだよ。イノセンティアだって心配はしていたんだよ」

 

「いやだからって友達まで連れてくるのは……」

 

「えー、でも皆来ちゃったしー」

 

 イノセンティアが自分の後方を示すと、轟雷とスティレットとアント姉妹が姿を現した。

 

「心配なのは私もですよマテリア!」と轟雷。

 

「人をタクシー代わりにしといて何かと思えば他人の出産?!」と轟雷を吊るしたスティレットが愚痴る。

 

「なんか面白そうだからきたよー」とブリッツガンナーに乗ったアント姉妹。

 

「あなた達……呼んでないから帰ってくれないかしらぁ、特に最後のお二人さん」

 

 見世物にされてるようで腹が立つ。せめてアント姉妹は追い出そうとするマテリアだったが、

 

「んー……。どうしたのマリちゃん」

 

「あ、ごめんねトモちゃん。起こしちゃった?」

 

 騒がしさに目を覚ますトモコ。と、更に来客はこれで終わりではなかった。

 

「マリ……」

 

 そこへスーツ姿の男性が現れる。トモコの母と同じ位の年齢だろうか。それを見たフレズは「おじさん誰?」と邪険に扱うが……。

 

「……お父様」

 

 マテリアは言った。トモコの父親だ。

 

「……パパ」

 

 トモコがわずらわしそうに呟いた。未だに父親には良い感情を持ってないらしい。フレズとイノセンティアも「まだ仲直りしてないんだ」とその時点で察した。

 

「……何しに来たの」

 

 冷たく言い放つトモコ。その場の異様な雰囲気にFAG達が固まる。

 

「トモコ……」

 

「一緒にいてほしい時にはいないのに……ママ、さっきお腹痛いときもいなかったのに……こういう時だけなんで来るの?」

 

「トモちゃん……。ねぇ落ち着いて」

 

 父親は長椅子に座っているトモコの両肩を持ち、そして目線を同じ高さになる様に、床に膝をついて向かい合う。普段相手に出来ない娘に対しての、出来る限りの誠意だった。

 

「トモコ……ゴメンよ。お仕事で……」

 

「いつもそうだよね。お仕事お仕事って、今日のお散歩だって、マリちゃんがいなかったら……」

 

「トモちゃん……」

 

「パパなんて……パパなんて家族じゃない!」

 

「トモちゃん!!」

 

「パパなんていらない!サンタさんがくれたマリちゃんの方が!ずっと家族だよ!」

 

 両手でマテリアをぎゅっと掴むトモコ。それは「お前よりもこの子の方がずっと大事だ」という意思表示であった。

 

「トモちゃん!そんな事言わないで!!」

 

 もう耐えられない。そう言わんばかりにマテリアは感情を吐き出す。

 

「マリちゃん!マリちゃんまでパパの味方するの?!」

 

「違うよ!パパは最初っからトモちゃんの一番の味方だよ!」

 

「嘘だよ!」

 

「嘘じゃない!だって!だって!!!」

 

 マテリアが何を言おうとしているか父親は感づいた。止めようとするもマテリアは止まらない。

 

「私をトモちゃんにプレゼントしたの!」

 

「っ!マテリア!駄目だ!」

 

「私をあなたにプレゼントしたの!!あなたのパパなのよっ!!」

 

 マテリアは声の限り叫んだ。

 

「……え?」

 

 なんで……?とトモコは茫然とする。

 

「……パパはね、お仕事でいつもトモちゃんの相手をしてあげられないの。いつも気にしてたのよ」

 

 マテリアの両頬を涙が伝う。父親もマテリアの大きさからは考えられない迫力に、止めようと思えなかった。

 

「……だって……そうでしょ。子供との約束は守りたくたって守れない。でもお仕事をやめたらトモちゃんの生活が大変になっちゃうわよ。でも、それで我慢していたらトモちゃん、お引越しで友達とお別れになってしまった。だからあなたのパパは、友達として、私をあなたに用意したの」

 

 そうだ。マテリアが来た翌日の夜。トモコのパパとマテリアは初めて会った。そして言われた「トモコの友達になってほしい」と。

 

「トモちゃん、私、トモちゃんの事大好きだよ?でも、私だけを好きでいて欲しくないの」

 

「……なんで黙っていたの?」

 

「パパのプレゼントって聞いたら、お前はこの子を大事にしないかもと思った……」

 

「そんなの……」

 

「トモちゃん。勝手かもだけど、パパなりの思いやりなの……」

 

 複雑そうな表情でトモコは俯く。

 

「……解ってるよ。私だって……。お引越しで、お友達が欲しいって願わなかったら、マリちゃんと会えなかったって事位……、パパのお仕事も私やママの為だって事……でもさ」

 

 トモコの両目からも涙が流れてくる。

 

「寂しかったんだもん。ずっと家にママと二人で、友達とお別れになっちゃったの、許せなかったんだもん……」

 

「パパの方も……ゴメンな。お前と一緒にいてあげられなくて……」

 

「パパ……ごめんなさい!パパ!!」

 

 マテリアを抱えたまま、父親に抱き付いたトモコ。と、直後に手術室のランプが消えて手術着の医師が出てきた。

 

「先生……」

 

「えぇ、生まれました。男の子です。母子共に健康ですよ」

 

 やり切った顔で答える医師に、「やった」と言った表情になる父親とトモコ、そしてマテリア、

 

「とりあえず説明いたしますのでこちらへ」

 

「えー!すぐ会えるわけじゃないのー!?」

 

 赤ちゃんの顔が見られると思っていたトモコはぐずりそうになる。それをなだめるマテリア。

 

「駄目よトモちゃん。お母さんも赤ちゃんも疲れるんだから」

 

「うー……」

 

 露骨に不満そうになるトモコ。

 

「そういうわけだから皆、私達はやらなきゃらいけない事があるからもうこれ以上相手出来ないわ。じゃあね」

 

「じゃあ私達ももうこれ以上出来る事はないですね」と轟雷。

 

 ただ一人、イノセンティアだけが、待ってマテリア。と彼女を引き留めた。振り返るマテリアに彼女はこう言った。

 

「おめでとう。マテリア」

 

「……えぇ、イノセンティア。ありがとう」

 

-6ページ-

 

 そして数日たって……

 

『おぉー!』

 

 その場にいた全FAGが感嘆の声を上げた。場所はトモコの母親の病室。そこへ生まれたばかりの赤子の寝たベッドが運ばれてきた。まだ目が見えてないのか、寝息を立ててずっと寝ている。

 

「これがロールアウトしたての赤ちゃんだね!」

 

「物みたいに言うんじゃないわよ!!生まれたばかりと言いなさいフレズ!!」

 

「しー、マリちゃん。泣いちゃうから静かに」

 

「はーいべろべろばー」

 

「轟雷、寝てる時にあやしても無駄だから……」

 

――赤ちゃんか……。……いつかFAGと人間でも赤ちゃん、作れるかな……――

 

 マテリア達の横で、マスターの顔を思い浮かべながらスティレットは思う。直後に「何考えてんだろ私」と顔をしかめた。

 

「なんか……不思議だよね」

 

 皆がはしゃぐ中、イノセンティアだけ神妙な顔をしていた。

 

「イノセンティア?」

 

 その様子がマテリアには気にかかった。

 

「ついこの間まで、いなかったのに、今はいる。私達みたいに工場で作られたのとは違う。どこから来たのかなって考えるとすごく不思議で……」

 

「そうね……。増えたのよね……トモちゃんの家族が……」

 

 感慨深そうになるマテリア。

 

「マリちゃんも家族だよ。そしてこの子はマリちゃんの家族」

 

「トモちゃん……うん!」

 

「やぁ皆、おっと、先客がいたかな」

 

 そんな中、病室に父が入ってくる。仕事が早く片付いたのだろう。しかしトモコはそれに喜びの声を上げた。

 

「あ、パパ!」

 

「何度見ても、お前に似てるよな」

 

 生まれたばかりの赤ちゃんを見ながらトモコに父は言う。

 

「もう!私こんなにお猿さんみたいじゃないよ!」

 

 そりゃないだろう。と笑う父親。つられて母も笑った。

 

「僕の方も仕事がひと段落しそうだよ。これからはもっと早く家に帰れそうだ」

 

「え?!本当!?」

 

「トモコにも寂しい思いさせちゃったからな。今度何か買い物に行こう。何か欲しい物があったら何でも買ってあげるよ」

 

 そんなに高い物は勘弁してね。と母親は付け足す。

 

「私は……別にいいよ。……代わりに、この子にFAGを買ってあげたいな」

 

 生まれたばかりの弟を見ながらトモコは言った。

 

「あらトモちゃん……どうして?」

 

「マリちゃんと一緒にいて思ったの。こんなに素敵な友達、私だけが一緒じゃ勿体ないって、だからこの子にも最初のお友達としてFAGをあげるの!」

 

 トモコの発言にマテリアは思う。今まで自分でもらってばかりの子が、自分からしてあげたいという意志を持った。それは一つ大人になったという事実。マテリアにとってとても感慨深い物だった。自分の主、そして友達の成長を見ながら、マテリアは胸がいっぱいになっていくのを感じていた。

 

「もちろん買い物にはママも一緒だよ!マリちゃんも一緒にFAGを選びに行こうよ!」

 

「えぇ、トモコ」

 

 母も同様の心境だったのだろう。満ち足りた笑顔で答えた。

 

-7ページ-

 

 暫く月日が流れて……。

 

「……うーん……」

 

 トモコの家のリビングで、箱から上半身を起こして一体のFAGが目を覚ます。機種はマテリア・black、マリの色違いだ。

 

「あ!起きた!」

 

 トモコが待ちきれないといった感じで新しく起動したマテリアに詰め寄った。その後ろには両親も揃っている。

 

「ん……あらぁごきげんよう。可愛いあなたが私のマスターかしらぁ」

 

 マリと比べて若干低いトーンで黒いマテリアは問いかけた。

 

「いえ、あなたのマスターは別にいるわ」

 

 白いマテリア、マリは黒いマテリアに答えた。マリを見るや黒いマテリアは目を輝かせる。

 

「まぁ!私のアナザーカラ−のマテリア!あなたの様なお姉様がいらっしゃるとは!ここの生活も楽しくなりそうですわぁ!」

 

「だからあなたのマスターは別にいるって言ってるのよ。ほら、あそこよ」

 

「あそこ?……へっ?」

 

 黒いマテリアは、マリの示した場所を見て固まった。……トモコの母が抱えていた赤子がそこにいたから。

 

「あなたのマスター、ユウちゃんよ。年齢は三か月よ」

 

「わ……私にベビーシッターをやれと?」

 

 マリが来た時と同じ反応だったと母は苦笑する。

 

「いえ、あの子の友達、そして家族になるのよ。マスターとしても素敵な方よ」

 

「じゃあまずは名前決めようよー。白いのがマリちゃんだからテアちゃんでいいよねー」

 

「あらいいわねトモちゃん」

 

「いやよくありませんわ!名前文字の余りじゃないですか!!」

 

 黒いマテリア、テアは自分の名前のいい加減さに思わず大声で突っ込む。

 

「ン……ふぎゃぁぁ――!!!」

 

 その突っ込みが癇に障ったのか、赤子、ユウは顔を崩す程の形相、そして大声で泣き出した。

 

「あ……」

 

「もう。あなたが大声出すから泣いてしまったじゃない」

 

 耳を塞ぎながらのマリの指摘にテアは焦り出す。

 

「そ、その……ごめんなさい。そんなつもりじゃ」

 

「よしよし、大丈夫よ。この子はいつも泣くか寝るかばっかりなんだから」

 

 あやす母親、じきに収まって落ち着くユウ。

 

「ね、改めてこの子の友達になってくれないかしら?」

 

 母はユウを抱っこしたままテアの前に向けた。新生児のユウは、まだよく見えてない目で、目の前のテアに手を差し出した。

 

「あ、よ、よろしく……」

 

 テアの方も手を差し出し、触れたテアの手を、ユウは弱い力ながらも握る。と、同時にニコッと笑顔を見せた。

 

「っ!笑いました!笑ってくれましたわお姉様!」

 

 思わぬ反応に嬉しくなるテア。

 

「よかったじゃないか。ユウも君の事気にってくれそうだね」

 

「あら、ユウが笑うのなんて初めてよ。このタイミングで笑顔を覚えるなんて、あなたとは運命の出会いかもね」

 

 その言葉に嬉しくなるテア、それを見ながらマリは「チョロいわねこの子」と笑みを浮かべていた。

 

「あなたの言葉がこの子の学びになるわ。優しい言葉で話しかけてあげてね。テア」

 

「は!はい!」

 

「よろしくね。私達の新しい家族」

 

 そうトモコは笑ってテアを迎え入れた。

 

-8ページ-

 本年度もよろしくお願いします。ちょっと今後FAGはフレズやスティレットのラブコメをやりたいですね。

説明
ep2『トモコと量産型マテリア』

私用で間が開いてしまいました。ちょっとやってみたい類の話に挑戦。
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コメント
mokiti1976-2010さん 有難う御座います。そうですね。アニメとは違ったいろいろなマスターを書いていきたいです。しかし、老人の主人か……ちょっとやってみたいな。しんみりした話になるかも?(コマネチ)
FAGも戦うだけではないといった所ですね。ならば一人暮らしの老人の所にいても良さそうな…さすがに難しいかな?(mokiti1976-2010)
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