真・恋姫無双紅竜王伝M〜洛陽の変(下)〜
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大火災で大混乱に陥る洛陽から帝と大将軍を拉致して人知れず去って行った顔良率いる奇襲部隊は、捕らえた2人を厳重に見張りながら洛陽がある司州から北北東にある本拠地・冀州に移動中、休息を取っていた。

「おーい」

転がっていた岩に座って溜息を吐いた顔良に、檻車に収容されている舞人が呑気に話しかけてきた。

「顔良よ、そろそろ俺の縄を解いてくれてもいいんじゃねぇか?いいかげん手首が痛くてかなわんのだが」

洛陽で拉致されてから、舞人は後ろ手に拘束されて檻車で護送され、さらに常時後ろと左右の3人の兵が彼の首筋に槍を突き付けるという厳戒態勢でここまで移動しており、彼はいい加減辟易していたのだが、

「だめですよ。織田さん相手にこの状態でもギリギリなのに、これ以上の譲歩はできません」

「・・・あっそ」

舞人は状況の打破をあきらめて、溜息をついた。実はこのやりとりはこれで19回目になるのだった。今のところ舞人の19連敗。

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洛陽が炎上し、後漢政権が崩壊した影響は各地にいる董卓軍に甚大な影響を与えた。并州(冀州の西、洛陽の北)の黄巾党残党の討伐に出陣していた月・詠率いる董卓軍本隊は、洛陽崩壊の報をひそかに援助を受けていた袁紹軍の参謀の一人・審配からいち早く受け、攻勢に転じた黄巾党の攻撃を受けて大敗。月と詠は華雄に守られて長安に向け敗走していった。

荊州州牧・劉表とともに袁術討伐に出陣した恋とねねは袁術軍に敗れ、捕らえられたねねを人質に取られた恋は劉表とともに袁術に降って袁術軍の徐州攻略の先陣にさせられていた。

そして、青州の黄巾党討伐に出陣中の曹操軍に従軍している霞はというと―――

「う〜ん、凪は可愛えぇなぁ〜」

「や、やめてください、霞さま・・・」

いまだに洛陽の崩壊を知らず、曹操軍の将・凪を撫でまわして愛でていた。霞自身は凪を抱きしめて大満足の表情だが、抱き枕よろしく霞の腕に抱きしめられた凪は頬を真っ赤にして身じろぎをしていた。

「張遼様!」

凪の羞恥心が最高潮に達し、そろそろ気絶しそうになった凪に助け船が現れた。霞の副官が慌てた様子で隊長のもとに走り寄ってきた。

「なんやねん〜!せっかく凪を愛でておったのに〜!」

「それどころではありません!張遼様!」

普段生真面目で冷静、凪を愛でている時も出陣の時間にならない限り隊長を放っておいている彼が、慌てた様子でいるのはただ事ではないと感じた霞は表情を真剣なものに戻す。

「と、ともかくこちらにおいでください!」

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「舞月!?」

張遼隊の兵がかいがいしく世話をしている、見るからに疲弊した馬は彼女の盟友である織田舞人の愛馬・舞月号だった。荒い息をついていた舞月は、立ち上がるのを制止しようとする兵を振り切って立ち上がり、黒い瞳を霞に向ける。

「・・・」

もちろん馬は喋ることはできない。しかし長年馬に接してきていた霞には、舞月が言わんとしていることが何となくわかった。

「舞人に、なにかあったんやな?」

「・・・」

舞月は何も語らず、前足で地面をかく。その仕草が霞から見てみれば、なんとなくだが漠然としか理解しない人間に苛立っているようにも思えた。

「凪!」

「はっ、はい!?」

「孟徳殿に『緊急事態が起きたからいったん洛陽に戻る』って連絡入れといてくれるか!?」

「緊急事態とは一体!?」

「それはわからへん!でも、この馬が舞人放って一頭で来るなんてありえへんから、何か起こったに違いない!」

霞は目を白黒させる凪を尻目に、得物である『飛竜堰月刀』を携えると舞月の背に跨った。普段舞人しか乗せず、彼にしか乗りこなすことができないこの馬だが、今は乗り手を好んでいる場合ではないと分かっているのだろう、素直に霞を乗せる。

「張遼隊ですぐ動けるやつはウチに続け!」

霞が舞月の横腹を蹴って走らせる。この黒馬は神速を誇る張遼隊の隊長である彼女の愛馬よりもはるかに速く、飛ぶように駆けて行った。慌てて張遼隊も100名ほどの兵が騎乗してついていく。

ポカンとそれを見送っていた凪は、慌てて主君・曹操の天幕に駆け込んだ。

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冀州と司州の国境近くに差し掛かった顔良率いる袁紹軍だったが、ここで思わぬ事態に遭遇していた。

「雨だなー・・・」

「雨ですねー・・・」

袁紹軍の虜囚2人は、この数日間監禁されていた牢から出されて雨の影響で野営をする天幕に身柄を移されていた。特に檻車で移動していた舞人にとって久しぶりの屋根のあるところでの睡眠になりそうだった。それでも彼には鉄製の手枷と足枷がつけられて拘束されているのだが。さらに―――

「・・・あんたらも大変だな」

檻車の時より引き続き、2人の兵が舞人の首に槍を突き付けて氣を練る隙を与えない。足枷だけをつけられた瞳は、皿に盛られた食事を箸でつかんで手の自由が利かない舞人に食べさせる。

「舞人さん、あ、あ〜ん」

「ん、すまんな」

彼女は頬を薄く染めながら食べ物を舞人の口に運び、舞人は雛鳥のように口をあけて料理を咀嚼する。

少女と青年が発する桃色空間に兵たちは何となく居づらさを感じたとか・・・

 

結局雨は一週間にわたって降り続き、袁紹軍はその場で足踏みを強いられた。一刻も早く?に戻りたい顔良は進軍を強行しようとしたが、『朕に風邪をひかせる気か?』と劉協に脅されて進軍を停止していたのだった。

そして、この雨を好機ととらえた者たちがいた。

「そうか、舞人と陛下は・・・」

「はっ、おふたりは現在この天幕に監禁されておるようです」

敵陣の中で、兵が寝泊まりするための小さな陣幕はあるが、高貴な人物を寝泊まりさせるような大きな陣幕は一つしかなかった。

「よっしゃ、お前ら!この雨が止まんうちに2人の身柄奪還するで!」

織田・董卓軍一の神速を誇る張文遠の軍は密かに、そして力強く鬨(とき)の声を上げた。

 

夕暮れ時、雨が降りしきる中兵たちが即席で作った屋根の下で夕食を作っていると、馬蹄の音が響き渡った。

「な、なんだ・・・!?」

兵たちがざわめいていると、見張りをしていた兵が悲鳴を上げた。

「て、敵襲ー!」

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「なんか起こったみたいだな。お前さんらは見に行かなくていいのか?」

兵たちが叫ぶ声は、陣の最奥である2人が捕えられている陣幕にも聞こえてきていた。舞人を監視する兵2人が顔を見合わせていくべきか行かざるべきか迷っていると、陣幕が開いて袁紹軍の兵が顔を覗かせて怒鳴った。

「おい!敵襲だぞ!お前たちも迎撃しろ!」

「お、おう!今行く!」

監視の兵は2人ともバタバタと天幕から出て行った。実は2人とも、いい加減監視の任務にうんざりとしていたのだった。

「舞人さん!」

「わーってる!」

舞人は氣を両手首足に籠め、灼熱の炎で手枷を溶かして立ち上がる。枷から解き放たれた舞人は枷の鎖を熱で焼き切って瞳を抱えあげ、出ようとしたその時―――

「舞人!」

それは、数十日会っていないだけなのに懐かしい姿と声―――

「霞か!」

「御名答!さ、はよ乗りや!」

霞の手に引っ張られて2人は舞月の背に跨る。

「全軍撤退や!退けー!」

霞が号令をかけ、撤退を指示。それに従って敵兵と切り結んでいた張遼隊の兵が一斉に撤退していった。

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「これから、どうするんや?」

袁紹軍を十二分に引き離した霞は、自分の懐に抱いている瞳に話しかける。ちなみに董卓軍壊滅の報はすでに3人の耳に入っていた。

「さぁな。俺らは軍事力もないし、旅ガラスの俺はいいが、ひと―――協はそうもいかんだろ。そうなると―――」

チラリと目を向けた先には大軍勢が。旗の色は紫。牙門旗には『曹一文字』―――

「どこかの勢力の庇護を受けるほかなかろうよ」

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光武帝・劉秀が再興した後漢王朝は、三公を輩出した名門汝南袁家の当主・袁紹の謀反によって崩壊した。曹操は帝と大将軍を推戴し、彼女の覇道を阻む最初の敵・謀反人袁紹を討つ大義名分を得た。しかし彼女は幕僚である荀ケに宣言する。

「私はすぐに軍を動かすつもりはないわよ」

と――――

 

真・恋姫無双紅竜王伝N〜曹孟徳、帝と守護竜王を許昌に迎える〜

に続きます。

 

説明
第15弾です。
・・・遂に来週、真・恋姫のアニメが放送されますね。さすがに時間通りに見ることはできませんが、ビデオに録画してみたいと思います。・・・DVDが普及する中いまだに我が家はビデオ・・・アナログです。
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コメント
華琳がなにか企んでいるな。(ブックマン)
魏か・・・どっちかと言うと恋や音々音を奪還し長安で合流って感じでもう一度董卓軍を再編して欲しかった・・・ 次作期待(クォーツ)
やはり反袁紹が出たか、哀れなり・・・(キラ・リョウ)
舞人が魏に保護されましたか。次回も頑張ってください 誤字 7Pの『覇動』→『覇道』(ほわちゃーなマリア)
割とあっさり恋や月が負けてるのになんか違和感。それぞれ軍師がついてて相手も数はともかく質的に雑魚なのに…まあそれだけショックな出来事だったんでしょうが(吹風)
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