とある月夜のとある思い
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 庭に縁台を用意してお供えを飾る。空には真ん丸のお月様が夜空を照らしている。周りにあるはずの星が霞んで見える。大きく見える分、影の部分がくっきりと現れているためか、影がウサギように感じる。

 

 そんな事を思いながら準備を整えていく。飾るのは月見団子とススキだけなのですぐに終わる。その二つを縁台の端っこに置き、ポットや急須、あと湯のみを縁台の下に入れ込み準備は終わる。

 

 私は縁台に腰をかけて、空を眺める。こうやってじっくりと眺めるのは一年のうちで今日だけ。普段はそんな場所に目を向ける事はあまりない。ここしばらくは何だか忙しかったからかもしれないが、こうしてゆっくりするのはやっぱり気持ちがいい。

 

 手を組み背筋を伸ばして、視線を庭の隅ではしゃいでいる弟妹に目を向ける。二人は月を見るよりも庭でないている秋の虫を探すのに忙しいみたいだ。

 

「二人ともこっちにおいで。お月様見よう。」

 

 声をかけるが二人は何かに夢中なようだ。まぁいいか、お団子が欲しくなったらこっちに来るかな。お茶の準備もしておこう私は足元のポットを隣において、湯のみにお湯を注ぎかるく温める。急須にお湯を注ごうとしたら、二人がこちらに戻ってきた。お団子がほしくなったかな。そう思っていると二人は元気な声でこう言った。

 

「おねえちゃん。むしつかまえた。」

「なくやつだよ。」

 

 弟は得意げな顔をしていた。そして私に虫が入っているであろう手を伸ばしていた。

 

「どんなのを捕まえたの?」

「ちゃいろいやつだよ。おにわにいっぱいいる。」

「みどりのもいたけど、すぐにどっこかいっちゃう。」

 

 そうすると弟の手の中にいるのはコオロギかな。そう思って見ていると弟の手の中から虫の音が聞こえてきた。間近で聞くとかなり大きな音がする。でもその音はなんだか寂しそうに聞こえた。

 

「ねぇ、よう君。お手ての中のコオロギが出して欲しいっていってるよ。」

「いや、むしかごでかう。」

「おうちのなかでもきけるんだよ。おねえちゃんいいでしょう?」

 

 二人はそういって私を見上げる。そういえばお団子をあんこ入りかなしにするかで迷っていた時にもこうされて二種類買ったんだっけな。この表情は反則だ、ついつい我侭を許してしまう。でも今回は我慢してもらおう。

 

「コオロギさんが寂しいでしょう。」

「あとでたくさんなかまをいれるから、さみしくないよ。」

「ねぇ、いいでしょう。わたしもがんばってつかまえるから。」

 

 お団子の時と同じようにお願いと言う顔をしていた。できるだけお願いは叶えてあげたいけど。ここは頑張らないと。

 

「ねぇ、よう君、りょうちゃん。二人とも家族と離ればなれは悲しいよね。コオロギさんも家族があるんだよ。お友達がいてもお家に帰りたいよね。」

 

 私がそう話すと、二人は顔を見合わせて何かを考えている。私は二人の様子を見ながら話を続ける。

 

「よう君もりょうちゃんも一人で知らない所連れてかれたら寂しくなるでしょう。そしてお母さんやお父さん、あと私とも二度と会えない。そんなの嫌だよね。私は二人と会えなくなるのは嫌だな。」

 

 そこまで話して二人を見る。さっきまでの嬉しそうな表情はなくなっていた。楽しく遊んでいたのに悪い事したな。弟は俯いていた。妹は弟の手をじっと見ていた。しばらくすると弟は顔をあげた。

 

「わかった。いたばしょにもどしてくる。」

「いい子だね。帰してきたらお手て洗って、ここでお団子食べよう。」

「うん。」

 

 私は二人の頭をそっとなでる。二人は嬉しそうな顔をしていた。

 そして、二人は庭の隅に駆けていき手のなかの虫を話しにいった。水場にいき手を洗い縁台にちょこんと座り月を見る。

 

「綺麗でしょう。十五夜のお月様だよ。」

「うん、きれい。うさぎさんはどこにいるのかな。」

「ねぇ、おねえちゃん。うさぎさんいないよ?」

「どこだろうね。恥ずかしいから裏側に隠れてるのかな。」

 

 そんな話をしながら私は、二人にした家族の話を思い返していた。私が一緒にいないって事になると二人はどうするのかな。前にそんな夢を見た弟は大泣きしてたっけ、彼に連れてかないでって言ってた。どうしたらいいのかな。

 

 あの日から随分と時間が経つが私のなかでは答えが出ていない。お父さんが言ったとっておきの案は、たぶん、お母さんが許してくれない。お母さんは中途半端な状態を一番嫌う。だから答えは一つしかない。なのに私は何かに期待している。

 

「おねえちゃん。げんきないね。おだんごたべる?」

 

 妹が裾を引っ張りながらお団子を差し出してくる。

 

「ありがとう。元気だよ。」

 

 私は妹からお団子を受け取り口のなかに放り込む。モコモコとした食感と口のなかに広がる甘さが私を落ち着かせた。温めていた湯のみは冷めていたのでもう一度、温め直して二人にお茶を渡す。

 

そうして三人で仲良くお団子を食べていると、お母さんがリビングから顔を出す。二人はお団子を一つずつもってお母さんの所にいく。

 

「はい、おだんご。」

「わたしのも。」

「ありがとうね。いいお月さんね。」

 

 二人からお団子を受け取りお母さんも外に出てくる。私は急須にお湯を入れてお茶の準備をする。

 

「お母さん、お茶飲む?。」

「貰おうかな。」

 

 お母さんが私の横に座る。それをみた弟がお母さんの膝に座ると、妹は慌てて私の膝に座った。

 

「よう君、りょうちゃん。お月見はどうかな。」

「まるまるできれいだよ。ぼくはおおきくなったらつきにいくんだ。」

「わたしもうさぎつかまえにいく。」

「そっか。お母さんも連れってってね。」

「「うん。」」

「ねぇ、私は?」

「おねえちゃんもいっしょだよ。ついでにおとうさんも。」

「あれ、お父さんはついでなの。お父さんが聞いたらガッカリするよ。」

 

 そんな風に賑やかに過ごしているとそのうち、膝の上が少しだけ重くなったのを感じた。妹が気持ち良さそうに眠っていた。隣を見ると弟もお母さんの膝に座りながら寝ていた。まだ寝る時間よりも早いんだけどな。

 

「二人とも寝ちゃったね。お風呂まだなのに。」

「朝から元気だったからね。疲れたんだよ。」

 

 膝の妹を少しだけギュッと抱きしめて月を見上げる。優しい光を放ちながら夜空を照らしている月はやっぱり美しかった。

 

「ねぇ、亜由美。何か悩んでるのかな。お母さんじゃ力にならないのかな?」

 

 そう言ってお母さんが小さく呟く。私はお母さんに体を少しだけ預ける。すると私が二人にするようにお母さんが頭に手を乗せて優しく抱きしめてくれた。その温もりを感じながら私は、お母さんにお父さんがしてくれた話をする決心をした。

 

「お母さん。二人を寝かせた後、少し時間いいかな。」

「いいわよ。秋の夜は長いからね。」

 

 そう言ったお母さんはすごく優しい顔をしていた。そう言えばいつも悩んだり迷ったときはこの優しい顔に包まれていた事を思い出した。どんな形にしろ私は今日答えが出る気がした。

 

fin

説明
月が一番美しく輝く日を皆様はいかがおすごしでしょうか。秋風に吹かれながら夜空に浮かぶ月を見て物思いにふけるのもよし。親しい人とすごすのもよし。彼女はどんなお月見をすごしているのでしょうか。少しばかり覗いてみたいと思います。
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コメント
まめごさん♪コメントありがとうございます。彼女達の物語はだいたいこんな感じです。よければしばしお付き合いください。(華詩)
温かくて、なんとなく切ないです。(まめご)
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小説 とある 名月 中秋  

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