竜と鍵
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朝靄の立ち込める森の中を、アイオロスは白い愛馬に跨り“ある場所”へと急いでいた。この道を通るのは5日ぶりである。小鳥たちの可愛らしいさえずりがまるで木霊しているかのように森の中に響いている。

 

「今日は会えるだろうか……」

 

はやる心に思わず声に出してそう呟く。目前に広がる木立の奥に城壁が見えてくると、アイオロスは徐々に馬の速度を落とし、やがて静かに馬から降りた。馬の肩をポンポンと軽く叩いて優しく話しかける。

 

「いい子だボレアス、ここにいてくれ。」

 

古の時を感じさせる石壁に囲まれた城。特徴的な二つの尖塔が白い靄の空を突き抜けるように直立している。雄々しさを強調した自分の住む城と違い、この城はいつ見ても寺院のように荘厳で、高潔な巫女のように神々しい。アイオロスは息を潜めて足元の草をゆっくり踏みしめながら壁添いに歩いた。しばらくすると城の一角に小さな窓が見えてくる。外側には植物を模した装飾的な柵が取り付けられ、数羽の小鳥たちがその縁に止まってチュンチュンと元気よくさえずりを上げていた。この部屋の主人が現れるのを待っているようだ。アイオロスが歩みを止めた瞬間、パタンと内側の扉が開く音がして、その人が姿を見せた。

 

「ああ…… 良かった…… 元気そうで。」

 

裾の長い真っ白な寝衣をまとったまま、サガは小鳥たちに優しく微笑む。手にパンを載せているのだろう、小鳥たちが一斉に舞い上がって柵の隙間から差し出されるサガの手に群がった。空の一角から膨れ上がるように光が溢れ、双児宮を幻想的に照らし出す。秋口の涼やかな朝の光を受け止める、彫像のように整った白い顔。病のせいで随分痩せてしまったようで、よりいっそう彼の面差しを儚げに見せている。柔らかくウェーブする青真珠の髪、そして遠目にも潤んで見える翡翠の瞳がアイオロスの心を疼かせた。アイオロスが誰よりも待ち焦がれ、この世でただ一人愛する人。その姿を目に焼き付けようと、アイオロスは瞬きすることも惜しんでサガを必死で見つめた。今はもうこんな形でしか会うことができない。言葉を交わすどころか、視線さえも合わせられない。サガを見つめるアイオロスの瞳には、いつの間にか涙が浮かんでいた。

 

 

彼らの住む王国は、古来より知恵の女神アテナの庇護の元にあると信じられていた。隣国に比べれば一つの都ほどの大きさしかなかったが、ひとたび戦争が起きれば必ず勝利し、他のどんな軍事国家や我こそはと攻め入る勇猛な戦略家を以ってしても、決して堕とすことの出来ない国としてその名を馳せていた。王国の中央には“女神アテナの地上代行者”と称される女王陛下の住む城、すぐ側に教皇庁、その周囲には色とりどりの屋根を持つ家並が約3キロ四方に渡って放射線状に広がっている。さらにその外周にはなだらかな山合いと緑深い森、鏡のような湖などが点在し、野生動物たちの住む豊かな自然が王国を囲んでいた。平和に満ちたこの夢のように美しい王国は、この国に憧れる諸外国の民から尊敬と畏怖の念を込めて“聖域”と呼ばれるほどだった。

 

王国を守る騎士の中でも特に優れた者たちは“聖闘士”と呼ばれ、それぞれ青銅、白銀、黄金の階級に分かれている。仁・智・勇を兼ね備えた最高位の黄金聖闘士は全部で12名。彼らは王国を囲む森の中に城を持っており、代々その地位を守り続けていた。城にはそれぞれ黄道十二宮の名前が付けられており、王国を12方位から守る城壁の役割を果たしている。彼らの信頼と結束は大変固く、それは婚姻や養子縁組にも強い影響を与えていた。

 

「アイオロス、そろそろ結婚を考えてはどうかね。」

 

夕食中、父親が急に話を持ち出した。隣では弟のアイオリアがメイドにスープのお代わりをねだっている。まだ7才の彼はいつも元気いっぱいで落ち着きがない。メインディッシュをとっくに食べ終えて5個目のテーブルロールにかじりつく弟に行儀よく食べるように注意して、アイオロスはさりげなく父親の言葉に返事をしなかった。

 

「お前ももう17才だ。私もお前くらいの歳には妻帯していたし、城主を継いだ時にはお前たちの兄姉も生まれていた。決して早すぎるとは思わんがね。」

 

「父上の地位を継ぐためには、私はまだ学ぶことがたくさんあります。お気持ちは嬉しいのですが、とても妻を娶れる状況ではありません。」

 

アイオロスとアイオリアの母は後妻である。母は数年前に病で亡くなったが、それ以前に父と先妻との間にはすでに大勢の子供がいた。姉たちは早々に嫁ぎ、兄たちは騎士の道よりも学者や文学作家、神官などの道へ進んだ。現在人馬宮の黄金聖闘士である父は、次代の城主に文武両道のアイオロスを指名しており、彼は日々そのための勉学に励んでいる。アイオロスが城主に相応しい聖闘士であることは優秀な兄たちも認めていた。ちなみに弟アイオリアは、健康な男子に恵まれない獅子宮の強い願いもあって、将来はその宮の守護者になるようすでに養子縁組が取り決められている。

 

「先日、次代の女神代行者となられる王女様が誕生されて、王宮はお祝いムードで盛り上がっておる。この人馬宮にも赤子が誕生したら城の中がより活気づくだろう。実は、双魚宮の城主の娘をお前にと思っておるのだが…… 」

 

「双魚宮の……?」

 

「彼女はお前より2つばかり年上だが、あれほど華やかな美女はそうはおらんぞ。お前がその気なら、王族からお声がかかる前に先方へ打診しても良いのだが。」

 

「王宮での夜会で一度だけご挨拶したことがあります。幼い弟御のアフロディーテ様と並んで客人たちが大勢取り囲んで賛美しておりました。しかし…… 彼女ほどのお方が未だにお一人であるとは信じられません。きっと男性のご友人も多いことでしょう。ろくに会話もしたことがない私ごときが割り込む隙がないように思われますが…… 」

 

「ハッハッ、うまく誤魔化したな。さては他に気になる女性がおるのだろう? お前が選ぶ女性ならば、身分のことは一切問わぬ。ぜひ相談に乗りたいものだ。」

 

途端にアイオロスの?が紅潮した。楽しそうな父親の思いとは裏腹に、アイオロスの脳裏には窓辺に立つ愛しいサガの姿だけが浮かんでいた。

 

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サガのことは小さい頃に名前を聞いて知っていた。王宮関連の儀式はほとんどが城主のみの参加行事で、そのせいか子供たちが二人きりで会うような機会にあまり恵まれず、“互いに存在を知っている”程度の知識しかなかった。そんなアイオロスの心に強い衝撃が走ったのは15才の時である。その日、アイオロスは父親について朝から教皇庁へ向かっていた。

 

「全員知らぬ顔でもないのに、緊張しておるのか?」

 

赤い絨毯の敷かれた長い廊下を歩きながら、父親は笑ってアイオロスに言った。反してアイオロスの方はぎこちない返事をするばかりである。月に一度、教皇庁ではシオン教皇と十二宮の円卓会議が行われている。出席する黄金聖闘士の年齢は様々で、早くに城主を交代した宮は当然ながら若い守護者が代表となっていた。城主以外にも、次期候補に指名されている者に限って、会議への同席や代理出席が許されている。

会議室に入ると、室内の視線は一斉にアイオロスの方へ集中した。挨拶の途中で少々噛んだ気がしないでもないが、とりあえず無事に終えると、シオン教皇が彼に声をかけた。

 

「アイオロス。双児宮の守護者サガはお前と同じ年齢である。共に学び、良い友情関係を築くよう努めなさい。」

 

シオン教皇は二人の顔を代わる代わる見て言った。先の双児宮の守護者だったサガの父親は不幸にも不治の足の病にかかり、周囲に惜しまれつつ愛息にその座を譲ったばかりである。緊張した面持ちを崩さないアイオロスに、サガは優しく微笑んだ。どこか幼さを秘めた天使のような笑顔にアイオロスの心は一瞬で奪われた。

 

「若い者に負けんよう、我々も少しは酒を控えて身体を鍛え直さんといかんなあ!」

 

初老を迎えている巨蟹宮の守護者が年配の者たちに大声で言うと室内に笑いが起きた。その間も二人の視線は合ったままだった。アイオロスが人馬宮の黄金聖闘士候補になったことをサガはとても喜んだ。アイオロスもまた、世にも美しく成長したサガとの再会に奇跡を感じてすっかり彼に夢中になった。それからは共に剣術の稽古に励んだり、わからない問題をサガに教えてもらったり。父親の代理で会議に出席する時や、城や王宮で開かれる宴、教皇庁での儀式など、少しでも会えるチャンスがあると朝からソワソワしてアイオリアに不思議がられる始末だった。また、彼らは手紙もよく交わした。

 

「君の宮が隣にあったら、もっと気軽に会いに行けるんだけどな。」

 

人馬宮と双児宮は、王宮を挟んで正反対の位置にある。そのことがアイオロスは唯一残念でならなかった。

 

「アイオロスが正式に黄金聖闘士になったら、任務で今よりずっと多く会えるようになるよ。その日をすごく楽しみにしてるんだ。」

 

岩から流れ出る雪解け水にタオルを浸し強く絞ると、彼は愛馬プロプスの漆黒の身体を拭いた。馬はピクピクと耳を動かし、気持ち良さそうに瞬きしている。その側でアイオロスの白馬ボレアスが辺りの草を美味しそうに喰んでいた。

 

「いつか君と二人で旅をしたいな。馬に乗って王国の外に出るんだ。ここでは知ることの出来ない素晴らしい経験をしたり、美しい風景を見たりするんだ。」

 

「……… 二人っきりで?」

 

「そうだよ。サガと私と、二人だけ。そうすれば一日中一緒にいられるだろう?」

 

アイオロスの言葉に、サガは少し?を紅潮させた。その意味がわかったアイオロスも、何となくモジモジして照れ始めた。サラサラと気持ちの良い風が吹き、木漏れ日がサガの肌の上で揺れる。微かに震える長い睫毛、ふっくらとして淡く色づく柔らかな唇…… 自分と同じ男子とは思えないほど繊細な横顔…… アイオロスの胸に甘酸っぱい想いが込み上げてくる。彼らはそれ以上言葉に出さなかったが、互いの気持ちが同じであることを十分に察していた。若芽のように初々しい二人の恋は、何も語らなくともその葉を鮮やかに色づかせ、心の中で密やかに成長していった。その後も二人の関係は純愛そのもので、風の凪いだ湖面のように穏やかだった。

 

出会って初めての雪の日。少し薄着で森へ来てしまったサガは、両腕を擦りながらふっと白い息を吐いた。彼の姿を見て、アイオロスは思い切って自分のマントの中にサガを入れ、その身体をそっと抱き寄せた。重なり合う温もりと潤んだ視線。

 

「サガ……… 私は……… 君のことを…… 」

 

「お願い、それ以上何も言わないで…… アイオロス…… 」

 

お互いの額を合わせて瞼を閉じる。思いの丈を伝え合い、永遠にこの温もりの側にいられたらどれほど幸せだろう? しかし、彼らの未来はその立場のせいでほとんど決まったようなものだ。いずれは親の決める女性を娶り、家庭を持ち、王国の平和を担う優れた聖闘士として一生を終える。この恋は許されない。誰からも祝福されない。だから、せめて心の中だけでもこの想いを……… 粉雪が舞う中で二人は無言のままずっと寄り添いあっていた。

 

異変が起きたのは17才になってまもなくの頃である。病を理由に突然サガに会えなくなったのだ。心配で胸が潰れそうなアイオロスは、何度も双児宮に足を運び彼の床に駆けつけようとしたが、そのつど門前払いを食らう始末だった。手紙も取り次がれなかった。事態はあっという間に変化していき、大した説明もないまま双児宮の守護者は彼の双子の弟であるカノンが就任することとなった。円卓会議にも彼が出席するようになったが、サガの容体についてカノンは特に詳しく説明する様子はなく、シオン教皇も気を使ってあえて彼を追求しようとしない。カノンは顔こそサガにそっくりだったが、その性格は正反対と言えるほど辛辣で、何度サガのことを聞いてもすげなく返事をされたり誤魔化されたりした。

 

サガに会いたい…… 本人に会って、本当のことが知りたい。

彼が今、無事なのかどうなのか。

ただ一目でいいから、その姿を見たい………!

 

思い悩んだ末に、アイオロスは早朝の散策に便乗して愛馬ボレアスを駆り、双児宮へと足を運ぶようになっていった。

 

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「兄上、いつもお一人でどこへ行かれるのですか?」

 

小型種の馬に跨り、慣れない手綱を操ってアイオリアが追いかけてくる。弟の危なっかしい様子を見て、アイオロスはすぐに馬を止めた。

 

「遠乗りなら私も一緒にお連れください。もっと兄上みたいに馬に乗れるよう練習したいんです。」

 

「お前には敵わないな。執事に起こされるまで熟睡していて気づいてないと思ってたよ。」

 

「兄上は私の憧れです。本当はずっと一緒にいたい。ねえ、お願いです。父上には絶対言いつけたりしませんから。」

 

そう言いながら、たてがみを振り回して利かん気を出している馬を必死になだめている。弟の申し出にアイオロスは楽しそうに笑うと、側に寄って彼の馬を落ち着かせた。鮮やかに紅葉した落ち葉がはらはらと彼らの上で風に舞っている。

 

「すまないが今は内緒だ。でも、いずれお前には必ず教えるよ。お前は私のたった一人の大切な弟だからな…… わかってもらえると嬉しいのだが。」

 

“たった一人の”というフレーズを兄に言われることを、アイオリアはとても気に入っていた。今もその言葉を聞いて、彼はすぐに気を良くしてニンマリと笑った。

 

その後、二人は馬での散策を続けて近くの湖にやって来た。数ある湖の中でもここは特に水が澄んでいて、周囲を取り巻く木々も季節ごとに華麗な変化を遂げる景勝地である。気候の良い時は女王陛下さえもお供を連れて余暇を過ごすほどの場所だ。今日は秋風が少し冷たく、空も曇りがちのせいか自分たち以外に人影がないように思われた。

 

「おや? あの音は……… 」

 

近くで微かに水が跳ねる音が聞こえて、アイオロスはすぐにそちらを見た。

 

「…………… あ……… 」

 

そこにいた人物に驚き、息を飲む。漆黒の馬を従え、こちらを見つめる翡翠の瞳。艶やかな青真珠の髪……… しかし、その髪色は僅かに緑味を含んでいる。アイオロスを捉える視線には、彼の期待する麗しい光は何も感じられない。

 

「……………… カノン。君もここへ来ていたのか。」

 

カノンは最初無表情だったが、アイオロスの心を察してニヤリと笑った。

 

「やあアイオロス。残念だったな、兄の方じゃなくて。」

 

カノンの言葉に、完全に見透かされたアイオロスは少しムッとした。アイオリアの方は、滅多に会うことがない他宮の黄金聖闘士を目の当たりにして、真っ赤になって兄の後ろでマゴマゴしている。アイオロスは弟に小声で言った。

 

「アイオリア、ここにいてくれ。私はあの人と大事な話があるんだ。」

 

兄のただならぬ雰囲気に押されて、アイオリアは目を丸くしたまま素直に頷いた。カノンは相変わらずぶっきらぼうな表情のままで、近づいてくるアイオロスを黙って迎えた。

 

「お兄さんは……… サガは大丈夫なのかい?」

 

「さあどうかな。全然部屋から出てこないし。俺もあまり会わせて貰えないんだよ。」

 

やっぱり……… そんなに悪いんだ………

 

カノンの返事に胸が締めつけられる。一か八かお忍びで訪ねて行っても、毎回その姿が見られるわけではなかった。サガがあの窓を開ける時は、彼がかろうじて具合が良い証拠なのだろう。このまま本当に言葉を交わすことなく、永遠に離れ離れになる日がやって来る気がして、アイオロスは悲しさと恐ろしさに自身の腕をぐっと掴んだ。愛馬テジャトの身体を拭く手を止め、カノンはアイオロスの方へ振り返った。

 

「そんなに心配か? サガのことが。」

 

「当たり前だろう………!!!」

 

あまりにもカノンの言い方が素っ気ないので、アイオロスはカッとなってつい声を荒げた。握る拳が震えている。離れた所から二人の様子を伺っていたアイオリアも、兄の上げた声に驚いてビクッと身体を揺らした。

 

「君のお兄さんのことじゃないか!! 君は心配じゃないのか!?」

 

「だって、別に病気じゃないから。」

 

「えっ」

 

思いがけない返事だった。この数ヶ月間の苦悩が、一陣の風によって吹き飛ばされたように感じて、アイオロスは思わずよろめいた。頭の中が空っぽになって何を言っていいのかわからない。完全に言葉を失って口ごもるアイオロスを前に、カノンは淡々と言葉を続けた。

 

「悪いけど、それでも本人には会えないよ。父上は絶対にサガを手離さない。あのままじゃ、あいつは永遠にあの部屋の中だ…… 部屋というよりあれは牢獄だけどな。」

 

「ど、どういうことなんだ? 何がなんだか…………… 」

 

「真実を知ったら王国ごとひっくり返るぜ。なんせシオン教皇も、お年を召した女王陛下さえも知らないことだからな。」

 

明確な答えを与えられないせいで、アイオロスの頭の中はますます混乱するばかりだ。オロオロしているうちに、カノンは休ませていたテジャトに鞍をつけ始めた。

 

「お前だから特別に教えてやったんだ。でも、話はここまでだ。サガが無事ならとりあえずお前も安心だろ?」

 

カノンは着々と馬具を装着すると鎧に足をかけて颯爽と跨った。すかさず、アイオロスはカノンを帰すまいと馬の前へ回り込んで引き止めた。

 

「待ってくれ!…… もっとサガのことが聞きたい。病気ではないとはどういうことだ? 皆が嘘を言っているということか? なぜそんなことをする?! 父親がサガを離さないってどういうことだ?!」

 

「十二の聖なる星、闇の道を照らし、女神の下に集う。」

 

「おい…… 何を言ってるんだ? 話すならもっとわかるように…… 」

 

カノンはもう一度同じ言葉を繰り返すと、ふっとため息をついた。

 

「お前、まだ城主じゃないもんな…… 早く一人前の黄金聖闘士になれよアイオロス。今すぐ人馬宮に帰って、俺が城主やりますって宣言しろよ。」

 

「そんな簡単になれるものじゃないだろ?…… どれだけ多い手順が必要か、君が一番よく知っているはずじゃないか。まったく意味がわからない… 」

 

「俺だって本当は兄さんを助けたいんだよ。でもあれじゃ…… 」

 

その時、遠くから馬の足音が聞こえてきた。男を乗せた二頭の馬が真っ直ぐこちらに向かって来る。

 

「チッ、見つかったか。いつもまとわりついて鬱陶しいヤツらだ。」

 

カノンは小声で悪態をついた。二頭の馬の額革の中央に着けられた装飾具には双児宮のシンボルマークが刻まれていた。

 

「カノン様、探しましたよ。いきなり凄い速さで馬を走らせて驚きました。」

 

「お前たちの馬では私のテジャトには敵わぬ。」

 

露骨に不機嫌な顔をしたカノンは、すぐに馬に掛け声をかけるとアイオロスの横をすり抜けて双児宮に向かって走っていった。従者たちはアイオロスとアイオリアに一礼するとすぐに後を追った。彼らが起こした風が落ち葉を舞い上がらせ、二人は遠ざかっていく彼らを黙って見つめていた。

 

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「すべては王国のため、そしてお前自身のためでもあるのだ。」

 

ベッドに身を投げ出し、シーツに顔を伏せながら、サガは父親の言葉を黙って受け止めていた。失意に身も心も衰えた愛息の姿を、父親は憐れみの目で見つめている。黄金聖闘士としてあれほど理想的な美しい身体をしていたのに、この数カ月の間ですっかり痩せ細ってしまった。最愛の息子はこのまま衰弱し、短い人生を終えるだろう。しかし、そう落胆しつつも父親の発する言葉は断固としてこの状況を変える気がないことを示していた。

 

「双児宮のことは城主となったカノンに任せればよい。あれはお前と並んでとても優秀な子だ。もともとはお前の副官としてこの城に置くつもりでいたから都合がいい。サガよ、お前はここで心穏やかに余生を過ごせ。そのために特別大きな部屋をしつらえたのだ。この部屋に一人でいること以外は、一切お前に不自由させないつもりでいる。」

 

サガは顔を伏せたまま頷くことも返事をすることもなく、ただ黙っている。父親は咳払いをすると急に話題を変えた。

 

「ところで、今日もフィロド様が遣いをよこした。お前をどうしても召し抱えたいと申し出てきたが、もちろん丁重にお断りした。いくらあの方がご所望でも、お前を引き渡すわけにはいかん。」

 

フィロドクスィア… 通称フィロドはシオン教皇の参謀で、長年に渡って教皇庁を取り仕切っている重鎮である。女王陛下や王族に対しては表面上恭しい態度で紳士的に接していたが、その本性は残酷と言えるほど辛辣な面があり、時折自分より年下のシオンを抑えて独断で事を進めることがあった。占星術や魔術の知識にも長けていて、上層部の者たちには“影の教皇”とまで噂されている。小柄で長いあご髭を蓄えた老人でいつも頑丈な杖をつき、片目にはダイヤモンド製の義眼がはめ込まれていて不気味な出で立ちである。侍女や従者たちもこの老人となるべく関わらないようにしようと、遠くから杖をつく音が聞こえるだけで途端に廊下を引き返すほどだった。

 

「確かにあのお方は有能かもしれんが、わしから言わせれば野心家で狡猾な老人だ。それになんじゃあの下品な側近どもは。聖闘士のなり損ねの中から粗暴な輩だけ集めて、勝手に自分専用の部隊など作りおって。シオン教皇はお優しいゆえ、彼の知識を買って側に置いておられるが…… まったく、“名は体を現す“とはよく言ったものだ。」

 

フィロドの名前を聞いて、サガはようやく顔を上げた。その顔は血の気が失せていたが、自身をこのような状況に追いやった老参謀に対する怒りが浮かんでいた。そもそも、フィロドが下した占星術の結果からこのような監禁が始まったのだ。女神アテナの神託などといってサガの父親を怖がらせ、そのせいでサガは外界のすべてから遮断されている。忌々しい老獪。自分と最愛の人を隔てる大きな壁を作った張本人。その暗い憎しみのオーラを察した父親は、何かに怯えたように不自由な足で歩み寄り、サガの肩を優しく撫でた。

 

「サガ…… お前は生来とても優しい子だ。常に正しくあろうとするが、真面目な性格ゆえに情に流されやすくもある。それが危険なのだ…… 」

 

サガの?に涙がつたう。父親から見ても我が子の美しさは奇跡に等しい。サガとカノンは夫婦が年を取ってから授かった子供だ。先立った妻の面影に生き写しの双子の子供たちを心から愛しく思っている。逃れられない重大な宿命を背負ったサガを守ってあげたい。この子を誰にも渡してはならない…… その強い決心だけが父親の頭の中を占めていた。

 

「野心ある者にお前を奪われたら大変だ。真実を知った今、もはや一歩もお前を外へ出せぬ。わしの元にいることがお前の宿命であり、王国の平和でもあるのだ。わかっておくれ。」

 

サガの中で父親の声が次第に遠のいていく。瞼を閉じると、愛しい人の姿がより一層はっきり見えてくる。再び彼の?をいく筋もの涙がつたった。

 

アイオロス…… 誰よりもお前に会いたい。

私はここにいる。生きてここにいるんだ……

でも私はここから出られない。どうか、どうか会いに来て欲しい……

 

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革張りのソファに深く身を預けて、アイオロスは大きくため息をついた。図書室に差し込む夕日が赤く目にしみてゆっくり瞼を閉じる。カノンと会って以降、アイオロスの胸中は常に不安と謎だけがひしめき合い、今ひとつやるべきことに身が入らない。表面上はそつなくこなしているつもりだったが、今日はついに“心ここにあらず”の状態を語学の教授に見抜かれて、初めて注意を受けた。

 

あの時、もっとカノンを引き止めて聞けば良かった。

それにしても、双児宮の者たちはどうして本当のことを話さないのだろう?

なぜ、彼らの父親はサガを隠すのか………

 

アイオロスは再びぼんやりと目を開けて、次第に濃い影を落としていく部屋の中を見渡していた。宮が築かれてから一冊も失うことなく保管され続けている貴重書が、ほとんど手に取られることなく整然と棚に並べられている。この部屋に出入りしているのはいつもアイオロスだけだ。最近では、私室で休むよりもこの部屋であれこれ考える方が多くなってきている。進展しない状況にさすがに疲れを感じて、アイオロスは再び盛大なため息をついて部屋の中へ視線を巡らせた。

 

図書室の最も奥の壁に古びた巨大なタペストリーがかかっている。人馬宮の名前の由来になっている半人半馬の神ケイロンが、星の海の中で弓矢をつがえる雄々しい姿が描かれている。過去に大きな戦乱を早期終結させた十二宮の手柄を讃えて、女王陛下から贈られた物だとアイオロスは聞かされていた。その後も手柄を立てる度に王宮から貴重な品々が贈られ、それらは宮の至る所に飾られている。このタペストリーは最も古い褒美の1つとして、保存する意味も込めてこの図書室に飾られていた。日没を迎え、すでに朧げに見えるほどの暗闇の中で、ケイロン神はその存在を誇張するようにアイオロスの目を強く引きつけた。

 

「…………………………… 」

 

アイオロスは視線をタペストリーに向けたまま、ソファからゆっくり立ち上がった。正確には、視線を外すことが出来なかった。日に赤く染まる絨毯を静かに歩き、アイオロスは驚いた表情のままある部分に釘付けになった。ケイロン神が肩にまとう長い衣の一部にその文字があった。長い時の流れを封じ込めたような色合いを見せる刺繍糸の中で、古代ギリシャ文字を記すその金色の糸だけが、今のアイオロスには光輝いて写っていた。

 

「十二の星 闇の道を照らし 女神の下に集う……… 間違いない!…… あの時カノンが言っていた言葉だ!」

 

灯台下暗しとはまさにこのことだろう。物心ついた時からここでこの絵を眺め、あまりにも当たり前に存在していたために深く気にかけたことがなかった。この文字が全体の構図に比べて極端に小さく書かれていることも、記憶にあまり残らなかった原因かもしれない。

 

「どういう意味なのだろう? 今まで誰からもこの言葉について聞いたことはない。」

 

その時、アイオロスの脳裏にカノンが言ったもう一つの言葉が過ぎった。

 

「カノンは私のことをまだ城主になっていないと…… 早く黄金聖闘士になれと言っていた。もしかして、城主になった者しか知ることの出来ない秘密だということか?」

 

アイオロスは他に何かヒントがないか周辺を探り、そのうちタペストリーをめくって裏側の壁を見た。手探りでよく調べてみると、レンガが組み合わされた一部に明らかに切れ目のような隙間がある。それもかなり大きく、四角い形で溝が出来ていた。この形で想像できるものとしたら”扉“しかない。肩を当てて思い切りグッと押してみると、溝の隙間から埃が吹き出し、鈍い音を立てて壁は後ろへと下がっていった。アイオロスの目の前に地下へ続く石段が現れ、その先は真っ暗な闇だった。彼の興奮は最高潮に達していた。

 

「信じられない…… この宮にこんな地下道があったとは…… 空気が淀んでいないということは、この奥は相当長く続いているのかもしれない。こんなにも大理石を綺麗に積み上げて少しの破損もない。しかし…… いったいどこへ繋がっている道なのだ?」

 

アイオロスは懸命に考えた。長く続く道…… 暗い道……

 

「あの言葉だ! 十二の星、闇の道…… おそらく十二の星は十二宮のことだろう。闇の道はこの地下道。そして…… 女神の下へ集うということは………!」

 

アイオロスは一度外へ出てタペストリーで壁を隠すと、図書室を飛び出した。驚いた顔ですれ違うメイドや従者たちの横をすり抜け、廊下を全速力で走り一気に鐘楼台を目指す。この宮で最も高い位置にあるその場所からなら明確に判断できるはずだ。身軽な身体で階段を駆け上がり、鐘のすぐ側へたどり着いた。図書室とタペストリーのあった壁の位置を思い出し、その先にある方角を食い入るように見つめる。そこには、夕闇の中にそびえたつ王宮のシルエットがはっきりと見えた。

 

「間違いない、あの地下道は王宮へ向かって進んでいるんだ。遥か昔、十二宮の祖先たちが王国を守るために築いた秘密の通路なのだろう。万が一の時は、あの通路を使って12人が集結し、女神アテナである女王陛下を守る。すべての宮にこの通路があるとしたら…… 」

 

この推理が正しければ、あの道の先には。アイオロスは強い決意を持って拳を握りしめた。

 

 

その日は数日後に突然やってきた。

 

「獅子宮からの申し出で、アイオリアを同伴して尋ねることになった。養子縁組の件だが、彼の成長を見てみたいというのが本心であろう。急ではあるが、今夜一晩この城を留守にするゆえ、従者たちのことを頼むぞ。」

 

「承知いたしました。兄の私から見ても、最近のアイオリアは勉学と体力作りによく励み、日に日に男らしくなっています。獅子宮の城主様もきっと頼もしく思われるでしょう。」

 

「お前がそこまで言うのなら安心だな。あの子をどこへ出しても恥ずかしくない。先方へ連れて行くのが楽しみだ。」

 

父親だけでなく、好奇心の旺盛なアイオリアも一緒に出かけるのは好都合である。アイオリアの明るい将来が約束される喜びもあるが、それ以上に自身の企てた計画を実行するチャンスが訪れたことに鼓動が高鳴った。午後過ぎ、予定通り父親はアイオリアと数名の従者を連れて人馬宮を出発した。

 

その日の夜をどれほど待ち焦がれたことか。自室で夕食を終えたアイオロスは、今夜は早々に休んでよいと従者やメイドたちに伝え、宮の中が完全に寝静まるのを待った。猟犬のように耳をそば立て、彼らがいつもの片付けを終えてそれぞれの自室に入って行く様を根気よく確認する。窓から差し込む月明かりや廊下の所々に灯された松明を頼りながら、アイオロスは誰もいない宮の中を影のように歩き、例の図書室までやって来た。タペストリーをめくって壁の中に入り、手に持っていた松明を灯す。白い大理石の壁が松明の炎に不思議なほど強く反射し、まさに闇の道を明るく照らし出している。初めてこの地下道を発見してから何度か偵察していたが、こうして改めて見てみるとその広さに驚かされる。いざという時は、馬で走ることが出来るようにと推定された幅と高さを持った道だ。

 

「最初の目的地まで約3キロ…… よし、行くぞ!」

 

アイオロスは勇気を奮い立たせると、松明を持って走り出した。持久力には相当の自信がある。アイオロスは自身の生まれ持った運動神経に深く感謝した。彼にとって3キロという距離は大した長さではなかった。それよりも、この初めて進む道の途中で何が起こるのかわからなかったので、アイオロスは走りながらも周囲に注意して進んでいった。地下道は思った以上に完璧な姿を保っており、古の優れた技術にアイオロスは感嘆した。そして想像した通り、出口と思われる場所を抜け出た途端、円形の大きな部屋へたどり着いた。床には極彩色のタイルによる女神アテナの姿と、女神を取り巻く黄道十二星座が描かれている。この真上は王宮で間違いない。松明を掲げると、円形の部屋の壁には全部で13の入り口があり、1つは王宮へ上がる入り口。そして残る12の入り口はそれぞれの宮へ繋がる地下道になっていた。振り返ると、アイオロスが出てきた場所には人馬宮のシンボルマークが埋め込まれていた。

 

「すべてがあの言葉に合致する。黄金聖闘士は闇の道を辿り、ここで女神の下に集う。でも今の私は違う……… サガ、私は君に会うためにこの道を進むのだ。」

 

心の中に愛しい人の顔を思い描き、アイオロスは笑顔を浮かべた。そして、迷わず双児宮の紋章がある入り口に飛び込むと全速力で走っていった。

 

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出口は双児宮の図書室にかけられたタペストリーの裏側にあった。そっと布をめくって慎重に顔を出し、誰もいないことを確認してから外へ出る。振り返ってタペストリーを見ると、双子神カストールとポリュデウケの身体を取り巻いている長いリボンの中に“あの言葉”が金色の糸で刺繍されていた。感慨深げに指先でその文字に触れ、アイオロスは図書室を後にした。

 

「懐かしいな…… 数ヶ月前までは当たり前のように来ていた場所なのに。」

 

宮の中を忍び足で進む。サガの私室がどこにあるか知っているが、外から彼の姿を目撃した窓はその部屋のものではなかった。アイオロスは記憶を頼りに時間をかけてその部屋を探し出した。サガが閉じ込められている証拠に、その部屋の扉には見たこともないほど分厚い錠前がかかっている。さすがにこの状況は予想外だ。迂闊に大きな音を出すわけにもいかないので、思い切り打ち壊すことが出来ない。せっかくここまで辿り着いておきながらアイオロスは扉の前でしゃがみこみ、どうしたものか考えあぐねた。

 

「仕方ない。細い針金か何かで試してみるか…… 」

 

そう小声で呟き、宮の中を探そうと立ち上がった時だ。

 

「おいアイオロス、これを使え。」

 

背後で突然名前を呼ばれて、アイオロスは心臓が止まりそうになった。振り返ると暗がりの中でカノンが鍵を差し出している。アイオロスと目が合うと、彼はおなじみの不敵な笑顔を見せた。

 

「カノン……… 今のは死ぬほどびっくりしたぞ…… 」

 

「よく謎を解いたな。まあ、お前なら気づくかなと思ってわざと喋ったんだけどな。それで本当に来るんだから、まったくお前の愛と勇気は筋金入りだよ。」

 

そう言って、カノンは鍵をアイオロスに手渡した。

 

「昨日ついに発見したんだよ。父は寝る前に必ずワインを飲むんだが、それに睡眠薬を入れて、大イビキかいて爆睡してる間に部屋中を探しに探したんだ。毎晩だぜ?」

 

カノンは含み笑いをしていたが、サガを監禁している張本人の部屋に侵入するのだから、相当の覚悟を強いられたはずだ。

 

「枕の下に鍵を隠しているのを知った時は本当に驚いたよ。昼間は見張りの従者がつきまとうから妙な行動は出来ないし、これがバレたら俺もサガと一緒に幽閉生活だな。」

 

「ありがとうカノン。お前がいなかったら、私は一生ここまで来れなかっただろう。」

 

アイオロスが真剣な眼差しでお礼を言うと、カノンは珍しく穏やかに微笑んだ。サガを助けたい、その心を癒してあげたいという想いはアイオロスと一緒だ。いよいよ鍵を開けようとすると、カノンは思い出したようにアイオロスを引き止めて言った。

 

「とりあえず今日は会うだけにしろ。そして夜明け前にはここを立ち去れ。俺が鍵をもとの場所に戻す。お前が部屋を出るまで俺が見張っているから安心しろ。」

 

そういうと、カノンは真剣な面持ちのまま暗闇の中へと姿を消した。

 

 

コトコトと小さな音に気づき、サガは夢から覚めた。寝衣を着た後すぐにベッドに入らず、椅子に腰掛けてぼんやりしているうちに眠っていたらしい。窓の外は月明かりに満ちて美しいが、この心に光が灯ることは二度とないだろう………

物音は扉の向こうでずっとコトコト鳴り続けている。清掃の行き届いた宮の中で見たことはないが、ネズミでも入ったのだろうか。

 

「……………………?」

 

それにしては音が大きいし、鳴き声もない。父親はいつもの時間に就寝の挨拶に来てすぐに出ていった。もうすぐ日も変わろうという時間に彼が起きてきたことはない。鍵は父親だけが持っていて、カノンが一人で来たこともない。サガはじっと扉を見つめていたが、音が止まないので、正体を探ろうと椅子から立ち上がって歩き出した。その瞬間、カタリと錠前が外れる音がして、ギギギ…… と扉が開いた。

 

その時のサガは何も考えられなかった。目の前に現れた大きな奇跡に声を失い、ただただ食い入るように見つめていた。すぐに扉は閉められ、その人物は何も言わずにサガの方へ歩み寄り、両腕で強く彼を抱き寄せた。

 

「サガ……… 会いたかった…… この瞬間をどれだけ夢見たことか……… 」

 

「アイオロス……… なぜ…… どうしてここに……… どうして…… 」

 

言っているうちにサガの目から涙が溢れ出した。アイオロスはサガの髪に何度も口付け、両手で背中と腰を強く抱きこんで身体を密着させている。震える手で、サガもまたアイオロスの背中に手を回した。互いの温もりを確かめようと二人は強く抱きしめ合い、?を撫で、そして迷うことなく唇を重ねた。まだ一度も告白したことがなかったが、彼らはそんな手順さえも飛び越えて、待ち望んだこの瞬間にすべてを投げ出して夢中で唇を重ね合った。ふと、サガのある異変に気づいたアイオロスは慌てて唇を離し、彼の両肩に手を置いた。

 

「………………サガ!……… 一体これは…………!? 」

 

「アイオロス……… 大丈夫だよ…… きっと、アイオロスだからこそ…… 」

 

弱々しく話すサガの姿に、彼の課せられた宿命の重さを思い知る。

 

サガを助けたい。

命をかけて彼を守りたい。

そして……

誰よりも深く愛したい……

 

そうアイオロスは心に強く誓うと、再びサガを抱きしめ、二人はそのまま後ろのベッドへ倒れ込んだ。

 

 

 

山際が薄っすらと青く染まり始めている。アイオロスは身体を少し起こして、すぐ横でシーツに包まれているサガを労うように優しく撫でた。長い髪が身体を隠すように覆い、幸福に満ちた白い容顔はアイオロスの与えた熱のおかげで幾分か血の気が戻っている。

 

「大丈夫かい?無理させてごめんな…… 」

 

首をそっと横に振りながら、サガは笑顔のままアイオロスの唇を指先でくすぐった。

 

「早朝、チャンスがあるたびに君に会いに来ていたんだ。あの窓から君が小鳥に餌をあげているのを何度か見かけたよ。」

 

「そんなに早い時間に…… 思い詰めていたせいで全然気づかなかった…… 」

 

ある日を境に突然会えなくなり、虚しさに打ちひしがれた日々。しかしそれも、この悦びの時を迎えた今は遠い記憶に感じられる。サガは嬉しそうに身体を起こし、この数時間で数え切れないほどした口付けをもう一度深く交わした。その時、コンコンと遠慮がちにノックする音がしたので、サガは飛び起きて寝衣を身につけると扉の方へ駆け寄った。僅かに開いた隙間からカノンの顔が覗く。

 

「サガ、大丈夫か? アイオロスにそろそろ出るよう伝えてくれ。もうすぐ従者たちが起き出す。お前も身支度を整えて、アイオロスの痕跡を残さないようにしておけ。」

 

「ありがとうカノン、すぐ準備するよ。」

 

カノンは悪戯っぽくウインクすると、静かに扉を閉めた。サガが振り返ると、アイオロスも大急ぎで衣服を身につけていた。サガは散らばっていた上着や靴を揃えてアイオロスの前に差し出した。

 

「今からあの距離を帰るなんて…… アイオロス、お前には本当に申し訳ないことを…… 」

 

「君のことを想いながら走れば大した距離じゃないさ。今の時間ならそれほど全速力で走らなくても人馬宮まで行けるよ。私が長距離得意なの、知ってるだろ?」

 

その言葉に、サガは二人でよく森の中で競争をしたことを思い出した。幸せだった。あの日々をもう一度取り返せるのだろうか……

アイオロスが服を着終わると、互いの腕を引き寄せて再び強く抱きしめあう。

 

「一日も早く一緒に君の父親に話そう。何とかここから出してもらえるように。」

 

「………まるでロミオとジュリエットみたいだ。」

 

「違うよ。私たちは彼らとは違う。」

 

アイオロスはグッと力を込めてサガをさらに強く包み込んだ。

 

「私たちは必ず幸せになる。そして絶対に離れない。サガ、約束するよ。」

 

再びノック音がしたので二人は扉の方へ振り返った。カノンは扉の隙間から顔を突っ込んで部屋の様子を伺ってから、滑り込むように入ってきた。手には小さな鳥カゴを持っている。アイオロスは不思議そうにそれを見つめていたが、サガはそのカゴをカノンから受け取るとアイオロスの前へ差し出した。

 

「これは…… ?」

 

「秘密兵器だ。急に思いついたんだが、これを使うしかないと思って。」

 

カノンは真剣な眼差しで答えた。カゴに入っているのは一羽の伝書鳩だ。十二宮では長きに渡って伝書鳩を飼育する習慣があった。古くは地下道と同じくいざという時の伝達手段だったが、平和な時代になってからはその役割を終え、愛玩用として飼育されているのが現状である。しかし、その優れた能力は今も健在だ。

 

「次に来る時はこの子を使って教えてくれ。このアルヘナは双児宮の鳩たちの中で最も勇敢でとても賢い。それに私に一番慣れていて、鳩舎が開いてない時は必ず私の所へ来るように訓練されている。今の状況では、お前とカノンが会ってあれこれ連絡を取るのはかなり難しい。しかし、アルヘナなら直接私の元へ手紙を送ることが出来る。」

 

サガの瞳に涙が浮かぶ…… 伝書鳩の力を借りるほど切羽詰まった彼の心の内を察して、アイオロスは大事そうにカゴを受け取るとサガの?に優しく触れた。名残惜しいが、無情にも窓の外が僅かに白み始めている。タイムリミットだった。

 

「よし、もう行くぞアイオロス。兄さん、辛いだろうが父の前ではうまく演技しろよ。」

 

握ったサガの指先を優しく擦り、アイオロスはカノンと共に扉の向こうへ消えていった。その後、ガチャガチャと錠前がはめる音が聞こえてきて、サガは扉に額を押し付けるとしばらくその場で泣いていた。

 

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「アイオリアの件はこのまま予定通り進みそうだ。先方も彼の成長をとても喜んでいた。今後は定期的に獅子宮の方へ伺おうと思っている。」

 

翌日の朝食の時、父は満足げにこの二日間の成果をアイオロスに話した。隣では朝からモリモリと料理を頬張る元気なアイオリアがいる。屈託のない弟を見て、アイオロスは様々な状況がうまく運んでいることを喜んだ。その後はアイオロスも落ち着いた日々を送り、抜き打ちで指導教授が行う試験でも最高点を出すなど、彼は完璧に冷静な騎士を演じてみせた。サガに会う方法が見つかっている今、アイオロスは次にすべきことを真剣に考えていた。

 

何とかサガを解放してもらえるよう、彼の父親と話さなくては……

あのままではいけない。

サガに直接会ってその変化を知った以上、もう躊躇していられない。

必ず打つ手はあるはずだ。

 

二週間ほど勉学や父の補佐に励み、一片も疑われることなく過ごしているうちに次の来訪のチャンスが迫ってきた。父たちが出発する日の前日、アイオロスは内緒で飼育していたあの伝書鳩をカゴから出してサガ宛の手紙を脚にくくりつけた。

 

「頼むぞアルヘナ、必ずサガに届けてくれ。」

 

鐘楼台からパッと放すと、アルヘナは一直線に双児宮めがけて飛んで行った。きっとサガは毎日あの部屋の窓から鳩が帰ってくるのを心待ちにしていることだろう。直線で結べば人馬宮と双児宮の距離は約6キロである。たったこれだけの距離なのに、今ほど羽根のある者たちが羨ましいと思った瞬間はない。アイオロスとサガの期待を一身に背負った小さな姿が霧がかった空の中で見えなくなるまで、アイオロスは鐘楼台から見送っていた。

 

アルヘナは順調に街の上空を飛び、やがて双児宮のある森の上へ差し掛かった。その直後、どこからか矢が飛んできて鳩を射抜いた。弓を引いた狩人は落下した鳩を拾い上げると、脚にくくりつけられた手紙をそっと外し、横に立つ人物にそれを差し出した。

 

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アルヘナ……… 今日も帰って来ないのか……

 

日もとっくに沈み、暗く長い夜が始まろうとしている。この時間では無理だと知りつつもサガはもう一度窓辺に立って目を凝らしている。あの日以来、サガは鳩の姿を求めて窓の外を見ては、落胆して部屋の中を歩き回るという行動を繰り返している。すぐに次のチャンスが訪れる確証があったわけではないのに、アイオロスに会いたい気持ちが先行しすぎてつい過度な期待をしてしまう。あの夜、彼から与えられた温もりと優しさを思い出しては、この閉鎖された空間でサガは必死に生きようとしていた。痩せ細った体内に巣食う秘密が暴走し、身も心も狂いそうになる気持ちを抑え込みながら。

 

「手紙が届いたらすぐにカノンに知らせなければ。カノンは毎日決まった時間にこの下を散策するふりをして歩いている。私が窓から落とす手紙を受け取るために。」

 

突然、ガチャガチャと錠前が荒っぽい音を立てたのでサガはギョッとなった。父親にしては珍しい開け方である。まさかアイオロスが……と思ったが、連絡がない以上それはあり得ないだろう。それにしても随分と焦っているような鍵の開け方で、サガは初めて感じる緊迫した空気に思わず身構えた。錠前が外れて床に落ちる音が大きく響く。入ってきたのは父親だったが、その顔は幽霊でも見たかのように真っ青だ。

 

「父上、どうされたのです?」

 

「サ、サガ………… 」

 

父親は足を引きずってサガの前まで来ると、振り絞るように叫んだ。

 

「サガ……! 今すぐ逃げ……… 」

 

言葉の途中で鈍い音がして、父親は前のめりになって倒れた。驚いて駆け寄ると、すぐ後ろにいた複数人の影が一斉に部屋に入ってきて、サガの手を掴みその口元を布で塞いだ。

 

 

その夜、アイオロスは予定通りあの地下道をひた走りに双児宮へ向かっていた。初めて通った時は不安でいっぱいだったが、二度目ともなるとサガに会える喜びに浮き足立って身体が軽く感じる。まるでヘルメス神の有翼サンダルでも履いているようだ。走るペースもどんどん上がって、アイオロスはあっという間にあの円形の部屋まで辿り着いた。

 

「……………………… !?」

 

喜びに満ちていた顔が一瞬で驚愕の表情に変わる。そこで待ち構えていた思いもよらない事態にアイオロスの心臓が跳ね上がった。

 

「人馬宮のアイオロスだな。こんな暗い地下道を歩き回って、ネズミの真似事か?」

 

毒々しい黒い竜をイメージした甲冑を身につけた男が嘲笑気味に言い放った。彼の後ろにはすでに剣を抜いている騎士が数名並んでいる。松明に赤く照らされたその者たちは、まさに地獄の使者のように不気味な出で立ちである。アイオロスにはその甲冑に見覚えがあった。

 

「……… あなた方はフィロド参謀長の護衛部隊。あなた方こそ、なぜここにいらっしゃるのです?」

 

「答える必要はないだろう。お前は今すぐここで死ぬんだからなあ!」

 

途端にアイオロス目掛けて剣が突き出される。その動きを見切ったアイオロスは男に足払いをかけた。見た目の異様さとは打って変わって男は簡単に引っかかって倒れ、自分で壁に激突した。彼らのことは噂で聞いたことがある。騎士の中でも特に気性の激しい者の集団だというが、アイオロスからしてみれば統制が取れていないただの乱暴者の集まりで、一角が崩れればあっけなく陣形を失うような部隊である。その上、アイオロスは常に黄金聖闘士である父や有能な指導教授から剣術や体術を学んでいる。アイオロスは倒れたリーダー格の男から剣を奪い峰打ちを食らわせると、次々と襲いかかる騎士たちをも同じように打ち倒していった。ものの数秒でアイオロスは容易く彼らを全員気絶させ、壁に寄りかかっているリーダー格の男の側に立った。

 

「う、う?ん………痛え。 」

 

頭を押さえながら男はぼんやりと瞼を開いた。しかし、目の前に光る切っ先に気づいて男は悲鳴と両手を同時に上げた。

 

「た、助けてくれ…… !! フィロド様の命令で仕方なくやったんだ! 勘弁してくれよ!これ以上お前を追いかけるつもりはねえって!………… 」

 

「フィロド参謀長がなぜ私を?…… お前には知っていることをすべて話してもらう。そうしたら許してやってもいい。」

 

「ほ、本当か……!?」

 

怯える目が一瞬チラリと泳いだのに気づき、アイオロスは切っ先をさらに男の喉に近づけた。フフッと笑いながらわざと穏やかな声で言い放つ。

 

「ああ、助けるとも。ついで言っておくが、お前の懐刀はここにある。観念するのだな。」

 

言葉通り、アイオロスの腰のベルトに懐刀が差し込まれていた。奥の手もバレていた男は、円形の部屋いっぱいに寝転がる仲間たちの情けない姿を見てガックリと肩を落とした。

 

 

 

「呼び出しをしていないとはどういうことだ!?」

 

馬上で怒鳴り声を上げるカノンに、従者頭の男も慌てて双方を取りなそうとしている。感情が収まらないカノンはその取りなしをピシャリと拒否した。

 

「お前は黙っててくれ。天蠍宮の城主が直々に私と話したいことがあるとの通達を受けて、こうやって急ぎで駆けつけたのだ。急用と銘打って双児宮の主人を呼びつけておきながら、今さら知らぬでは通用せんぞ。」

 

「カノン殿が何と申されても、私はそのような伝令は出しておりません。別の宮とお間違えではないのかな?」

 

壮年で大柄な身体をした天蠍宮の黄金聖闘士は、次期候補である息子のミロを側に置き、断固としてカノンの言い分を否定している。まだ幼いミロは、カノンの激しい形相と彼を乗せて落ち着きなく蹄を鳴らす巨大な黒馬テジャトに恐怖を感じて、涙目で事の成り行きを見つめている。最初こそ天蠍宮の城主も落ち着いて対応していたが、カノンがなかなか承知しないので、ついに堪忍袋の尾が切れてしまった。

 

「このような夜分に戯れで十二宮の城主を呼びつけるなど、私がそのような馬鹿者とでもお思いか? これ以上言いがかりをつけるようならば、たとえ若き双児宮の城主といえども容赦できぬ。シオン教皇のお許しを得て、公衆の面前で正々堂々と決着をつけても良いのですぞ!」

 

十二宮同士の争いなど前代未聞である。周囲にどよめきが走った時、暗闇から蹄の音が響いてきたので全員がそちらに注目した。馬上には双児宮の使用人が乗っていたが、彼は手綱を取らず馬の首にしがみついた形で必死にこちらに向かってくる。カノンの前まで来ると男は滑るように馬から落ちたので、皆は慌てて彼に近寄った。彼の服はボロボロに破れて血に汚れ、その身体には無数の傷があった。

 

「おいどうした!!宮で何かあったのか?!」

 

「カノン様…… ようやく追いついた……… さ、サガ様が…… フィロド様の…… 部下…… 」

 

断片的だったが、それだけで何が起こったのか大抵の検討がつく。これには天蠍宮の城主もただならぬ事態だと理解し、カノンに向かって叫んだ。

 

「この男はこちらで介抱しよう。カノン殿、すぐに双児宮へ!!」

 

カノンはすぐに今までの謝罪とお礼を伝え、テジャトを全速力で走らせた。彼の後を従者たちも追いかけて一斉に双児宮に舞い戻っていく。

 

「頼む! 二人とも無事でいてくれ……!!」

 

カノンの頭の中は、父と兄サガのことでいっぱいになっていた。

 

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天井から雫の落ちる音が暗い岩牢の中に響く。薬を含んだ布で思い切り口を塞がれて連れ去られたサガは、まだぼんやりと霞む視線で辺りを見渡した。厚い手錠と鎖で繋がれた両手首がガチャリと音を立て、薄衣を着させられた姿で岩壁に貼り付けられていることに気づく。この部屋は教皇庁の最も奥深くにある牢獄で、戦争が多かった時代に捕虜を何十人と収容していた場所である。フィロドが参謀についてからは、封鎖されたはずのこの牢獄で罪人に対して過剰な拷問や生贄まがいの虐殺が行われているとの噂が立っていた。

 

「父上…… そうだ、父上はご無事だろうか?」

 

双児宮のことを思い出し、サガははっきりと目を見開いて身体を揺らした。

 

「おお、目が覚めたかねサガ。」

 

その声と共に暗闇に突然灯りが広がる。中央にフィロド参謀長、そして周囲には彼の護衛部隊が整然と並んでいる。サガはすぐにフィロドを睨みつけた。

 

「父上は? 双児宮の者たちはどうしている!?」

 

「心配ない。お父上殿は黄泉の国で安らかに微睡んでおられる。あの馬鹿者め、早々にお前をこのわしに預ければもっと長く生きられたものを。」

 

「ええっ……… 」

 

サガの顔がさっと青くなった。呼吸が乱れ、身体が小刻みに震えてくる。

 

「お前を外へ出すと危険だと抜かしておったが、どうせお前を独り占めして、何とか力を引き出そうとしておったんじゃろ? 無能な人間が欲を出すから寿命を縮めることになるのだ。」

 

「違う!!…… 父は心から王国の平和を守ろうとしておられた!私の力を悪用しようなどと露ほどにも考えておられなかった!!」

 

「心の奥底にある欲望なぞ、そう簡単に見抜けるものではないぞ?」

 

ホラホラと笑いながらフィロドはサガの目の前まで来た。完全に勝ち誇った顔だ。念願のサガを掌握し、すべての望みがこれで叶ったと言わんばかりの表情である。

 

「お前の可愛い弟カノンは蠍の宮へ送ってやった。どちらの城主も血の気が多く、単純な事でもすぐに烈火のごとく怒り出す短気者。呼んだの呼ばないだの言い争って、今頃二人とも剣を抜いて相打ちにでもなっている事じゃろう。正直、カノンほどの戦力を失うのは惜しいが敵に回すと厄介なのでな。」

 

フィロドは太い杖を石床にコツコツと打ち付けた。歌でも歌い出しそうなほど楽しげで、饒舌に話し続けている。

 

「双児宮の者共は全員閉じ込めてある。我が騎士が見張っておるゆえ、お前の出方次第では宮ごと焼失するかもしれんぞ。ああ、それから…… 」

 

フィロドは長い裾の中から小さな紙を取り出し、サガの前で広げてみせた。

 

「王国の空を妙な鳥が飛んでおったので部下に射殺させた。驚いたことにこんな手紙を持っとるではないか。地下道をネズミがウロチョロしとると書いてあるので、早急に駆除係を送っておいた。ああいう害獣は早く始末せんと、面倒な病気を撒き散らすからのう。」

 

矢継ぎ早に伝えられる情報に、サガは言葉を失って驚愕した顔のままフィロドを見つめた。その瞳の色が紅く光り始めたのを見て、フィロドは有頂天になった。

 

「いいぞ、もっと怒れ!憎悪は何よりも封印を解く大きな力となる。”鍵“の存在が未だに判明しない今、どんな形でもよい!力が解放されてしまえばこっちのものだ。サガよ、お前はわしの”対“となる存在。お前さえ手に入れば、女神アテナの代行者である女王陛下も若造のシオンも、もはや敵ではない!美しい伴侶を得て、わしはついに王国どころか全世界がひれ伏す王となるのだ!」

 

サガの瞳が紅く、そして紫色へと変化する。自身の体内で未知の力が暴走しようとしているのをサガははっきりと感じ取っていた。憎い。目の前にいるこの老獪が誰よりも何よりも憎い!! サガの髪が吹き上げる風に大きく揺らめく。フィロドの気分は最高潮に達していた。尖った柄の部分をサガの胸にグイグイと押し当て、さらに彼の怒りを煽る。

 

「さあ早く正体を見せてみろ! お前の愚かな父親が一生封じ込めようとした真の姿を!そしてお前の力も、その美しい身体もすべてこのわしに捧げろ!そうすれば、この老いて朽ち果てた身体も一瞬にして若返るであろう!」

 

その時、岩牢の入り口で物音がした。ウッと呻くような声と、ドサッと倒れる音……… 暗闇の中で剣が冷たく閃き、一人の騎士が現れた。引き締まった体躯と雄々しい顔をしたその少年は、まるで武装した天使セラフィムのようで、フィロドの護衛部隊はついに神の怒りを受けたとばかりに恐怖して後ずさった。

 

「ネズミを始末されたと言いましたなフィロド参謀長。確かにしましたよ。彼らは王宮の地下で大勢転がっております。今そこで一人、案内ネズミも倒れましたが。」

 

「アイオロス………!!! お前、なぜ生きて…… 」

 

「なぜ生きていると? おかしなことをおっしゃいますな。まるで私の死を確信していたかのようなお言葉。」

 

そう言いながら、アイオロスは剣をフィロドの方へ向けた。その目は爛々と輝き、もはやこの少年が、自身にとって遥か上司にあたる教皇参謀長を殺すことに何の躊躇もないことを示していた。呻くフィロドに追い打ちをかけるように、アイオロスの後ろにもう二人の影が現れた。一人はカノン、そしてもう一人は現教皇シオンその人である。

 

「ううっ……教皇様まで…… この小僧どもめ………!」

 

「聞いたぞフィロド参謀長。神聖な教皇庁の中で一体これはどういうことか?」

 

困惑して額に汗の粒を噴き出させながら、フィロドは杖を両手で持って身体を縮ませた。シオンにすべて聞かれてしまったのでは、さすがにあれこれ理由をつけて言い逃れることはもうできない。カノンは即座に剣を抜き、アイオロスの隣に並んだ。

 

「食料庫に監禁されていた従者たちは全員解放した。父上も間一髪助かった。今は意識も戻られて主治医たちがついている。フィロド、お前の可愛い兵隊たちは二度とここへは来ないぜ。俺はアイオロスと違って、あいつらに永遠の眠りをくれてやったからな。」

 

「あの馬鹿者どもめ! 失敗しおったか!…… 」

 

「フィロド…… よくも父上をあんな目に合わせたな。足の不自由な老人に自白剤まで飲ませてサガの部屋へ案内させ、用が済んだら殴打するとは。その上、愛しい兄の人生までめちゃくちゃに…… 」

 

「待てカノン! フィロドからは詳しく話を聞かねばならぬ。」

 

飛びかかろうとしたカノンを、咄嗟にシオンが制止した。アイオロスも一緒になってカノンの肩を掴み、彼を落ち着かせる。そして、アイオロスは一度大きく深呼吸をすると、ゆっくりサガの方へ近づいていった。怒りに燃えていたサガの瞳が急速に静まり、アイオロスの顔をじっと見つめている。その視線はサガ自身のものではなく、明らかに別のものが彼の瞳を通してアイオロスを見返していた。

 

「見ていろフィロド。お前が手にしたかったものは、私の中にある。」

 

アイオロスがサガの?に触れる。その瞬間、サガを拘束していた鎖が砕け、その身体から白い霧の帯のようなものがいく筋も吹き出した。その霧は明確な形を作って全員の前にその姿を現した。白鳥よりも白く神々しい翼を広げ、長く大きなたてがみが波打つ。身体を覆う鱗は水晶のように煌めき、憑代であるサガの両肩に鋭い爪を蓄えた太い両腕を乗せいている。その身体は羽根のように軽いのか、サガはその巨体を乗せていても全く表情を変えない。彼の中から現れた霊獣は燃えるようなエメラルドグリーンの瞳で全員を見渡した。

 

「おお…! これは… これは我が国に伝わる聖なる白い竜!!…… 国が窮地に立たされた時にその姿を現し、女王陛下と騎士たちの味方となって悪を滅ぼすという霊獣…… この竜を手にした者はすべての望みが叶い、富と繁栄を手にすると言われている。サガ、そなたがその憑代となっていたのか!」

 

シオンは白い竜を前にして恭しくひざまづいた。アイオロスとカノンもこれに習って片膝をつくと、それを見ていたフィロドの護衛部隊の騎士たちですら、奇跡の光景に心を打たれて武器を投げ捨てて床にひれ伏した。竜は穏やかに瞼を伏せてサガの上でじっとしている。サガと竜の周りには無数の星屑が光輝き、宇宙空間のように渦巻いていた。

ただ、この厳かな光景の中で唯一フィロドだけが悔しさに身を震わせていた。

 

「畜生め!もう少しでこの身体に若さを取り戻すことが出来たというのに…… アイオロス、貴様がサガの”鍵“だったというのか!」

 

「そうだ。彼を想って触れた時、初めてこの正体を目にした。サガの父親はこの正体と力の覚醒を恐れて、誰にも奪われないように幽閉したのだ。心の優しいサガを利用されないように。」

 

アイオロスは立ち上がると再びフィロドに詰め寄った。

 

「”鍵“の役割は、ただ開けることではない。閉じることもまたその一つ。サガ自身に封印を解く力はない。どんな怒りをもってしてもだ。私が彼の側にいる限り、彼の力が暴走することも絶対にない。神はこのアイオロスに“鍵”の役割を与えてくださったのだ。」

 

「黙れ小僧!!たとえ貴様が鍵だろうと、こいつはわしのものになるのだ! サガは貴様ごときちっぽけな人間には過ぎた存在なのだ!」

 

フィロドはアイオロスに向かって杖を投げつけると両腕を大きく広げた。突如、老体から紫の炎が勢いよく吹き上がる。フィロドの部下たちはどよめいて我先に部屋から出て行こうとしたが、ガシャンと入り口に太い鉄格子が降りてきて完全に牢獄を封鎖した。そうしている間にもフィロドの輪郭がドロドロと崩れ、彼もまた本性を曝け出した。その姿は焼け焦げた臭いを放つ巨大な黒いドラゴンだった。筋と薄皮だけで出来たような巨大な翼を持ち、身体は細かな鱗に覆われ、所々黒い骨がむき出しになっていて何ともおぞましい。頭部もほとんど骸骨のようで、左目は完全に潰れ、落ち窪んだ右目の穴の中で赤く丸い目玉が光っていた。逃げ惑う者たちに向かってフィロドが炎を吐くと、途端に白い竜も同じように青い光を吐き出して応戦した。牢獄に悲鳴と怒号が飛び交う。白い竜は羽根を目一杯広げてシオンや騎士たちを守りながら戦った。アイオロスとカノンも加勢しようとフィロドに立ち向かうが、相手は絶えず炎を吐いてなかなか彼らを近づかせない。特に視力を失っている左側の防御は完璧だ。フィロドが繰り出す炎のせいで、牢獄の中はまるで溶鉱炉のような熱さが立ち込めた。

 

「ううっ…… 近くにいるだけで肌が焼かれる……!!」

 

身体中の水分が抜き取られるようで、アイオロスたちはその息苦しさに喘いだ。白い竜はその熱からも何とか全員を助けようと身を呈して彼らの前に立つ。朽ちた図体の割にフィロドの動きは俊敏だ。アイオロスとカノンが何度も後ろへ回り込もうとしても、棘のびっしり生えた長い尾で薙ぎ払われる始末である。たとえ剣を突き立てられたとしても、表面の鱗があまりに硬くダメージを与えることができない。そのうち、身体がより大きく炎の勢いが強いフィロドの方が優勢になり、白い竜は次第に追い詰められていった。憑代であるサガの体力が落ちているためか、白い竜にも連動して影響が起き始めている。それに気づいたフィロドはサガ本体をその爪で掴み取ろうと、隙を狙って白い竜よりもサガ本人を狙い始めた。

 

「危ないサガ……!!! 畜生、この化け物め!」

 

アイオロスが決死の覚悟で飛び出そうとした時、鉄格子の外で自身の名前を呼ぶ声が聞こえた。そこにいたのは獅子宮にいたはずの父とアイオリア、そして各宮の守護者たちだ。瀕死の従者から双児宮での有様を聞いたカノンは、すぐアイオロスに伝えようと人馬宮へ伝令を送っていた。しかし、肝心のアイオロスが不在であることに気づいた人馬宮の従者たちは、慌てて獅子宮へも早馬を出させたのである。伝令は次々と届いて、ついには十二宮の守護者全員がこの事件の真犯人が潜む教皇庁へ集結したのだった。

 

「兄上ぇ!!!」

 

悪夢でも見ているかのような光景に、アイオリアの悲鳴が岩牢にこだまする。

 

「アイオロス!! これを使え!!」

 

振り返ると、父の手には黄金の弓矢が握られていた。それは人馬宮の家宝で、普段は応接室に大切に飾られているものだ。祖先以外は誰一人使ったものがいないという武具だったが、アイオロスは迷うことなくこれを受け取り、グッと力強く弓を弾いた。その鏃はフィロドの紅く光る右目を狙っていた。

 

「こっちを見ろフィロド!! 貴様にサガは絶対渡さない!!」

 

ギリギリと弦が軋む音を立てる。アイオロスの声に気づいたフィロドは、視線をサガからアイオロスへ変えた。その瞬間を狙って黄金の矢が流星のごとく放たれる。矢は見事にフィロドの右目を貫いた。

 

「ギイイイイイィィィィイイーーーーーッ!!!」

 

矢の勢いで黒いドラゴンはそのまま背後の岩壁に叩きつけられ、身体ごと釘付けになった。鼓膜が破れそうなほどの甲高い悲鳴を上げながら、フィロドは炎を吐いて暴れている。その身体へ白い竜が青い光を浴びせて全身を火だるまにした。王国を脅かしていた悪魔はついに声を発しなくなり、メラメラと紫色の炎を噴き上げて燃え続け、最期には真っ黒な焦げ跡と壁に深く突き刺さった黄金の矢が残された。

 

「サガ………!!」

 

アイオロスはすぐに床に倒れているサガへ駆け寄った。サガに触れると同時に白い竜は姿を隠し、アイオロスは恐る恐るサガを抱き起こした。長い苦悩の日々と過酷な戦いに苛まれた顔は精魂果てていたが、その表情はどこか安堵しているようでもある。?を撫でていると、サガの瞼がゆっくりと開いた。

 

「終わったよ…… サガ……君は自由だ。怖いものはもう何もないよ。」

 

「ありがとう…… アイオロス…… ありがとう……… 」

 

たとえ竜の憑代となっても、その素晴らしいエメラルドグリーンの輝きは少しも損なわれていない。皆が見ているのも構わずに、サガはアイオロスの肩に両腕を回してしがみついた。

 

「フィロドはここで果てるのに相応しい罪人だった…… しかし、今回のことは私の甘さが招いたことでもある。魔獣の化身を神聖な教皇庁に置いていた私の罪は重い。」

 

岩壁の焦げ跡と黄金の矢を見てシオンはそう呟いた。外にいた者たちも、鉄格子が消えるとすぐに牢獄の中へ入ってきた。彼らはシオンの前に整列し、一斉に彼の前にひざまづいた。

 

「教皇様。今回の件は我々の城主たちの責任でもあります。これほどの危機が身近にありながら気づけなかったというのは完全に我々の認識不足。“今は平和であるはずだ”、という緊張感のなさが日々の怠慢に繋がったためです。決して教皇様お一人の責任ではございません。罰を受けるならば、我々十二人全員にもお与えください。」

 

黄金聖闘士を代表して宣言したアイオロスの父、そして同じようにひれ伏す守護者たちを、シオンは悲しげな目で見つめ返している。その沈黙を破ったのはアイオロスだった。

 

「シオン教皇。サガが何か申したいそうです。どうか、彼の言葉を…… 」

 

見ると、アイオロスに抱きかかえられたサガが優しく微笑んでこちらを見ている。

 

「シオン様…… 王国は救われました。女王陛下も次期女神であられる王女様も、皆が無事です。ここに集う全員が心を一つにして勝利を掴み取ったのです。もう誰も傷つく必要はない…… お願いです。もうこれ以上、誰も罰など…… 」

 

満身創痍でありながら、サガはシオンへ必死に腕を伸ばして訴えている。力を失った白い手を取るとシオンの目から涙が溢れた。

 

「サガよ…… その身に宿る正体を知ってからは随分苦しんだことであろう。そしてアイオロス。お前たち二人の深い絆と勇気に対して、我々は大いに報いなければならない。」

 

シオンの決意を聞き、二人は顔を見合わせて安堵の笑顔を浮かべた。

 

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それから三ヶ月後。

 

町を見渡せる広いバルコニーに、アイオロスとサガが寄り添って立っている。身につけている衣装は教皇の法衣に似ているが、その色は神職者のように純白で、襟元や腰帯に細かな宝飾品が散りばめられている。アイオロスは額に黄金のバンドを付け、サガは長い髪を一部結い上げて水晶の髪飾りを付けていた。仲睦まじく言葉を交わす二人の吐息が白い。王国は長い冬を迎えていた。

 

「午後の任務まで後何分あるかな?」

 

「まだ30分近くあるよ。ふふ…… アイオロス、さっきも同じ事を聞いた。」

 

「だってずっとサガと一緒にいたいからさ。」

 

「任務中も一緒なのに?」

 

現在、二人は教皇庁の隣に新しく建てられた宮で一緒に住んでいる。白亜の美しい宮の門には、王国で最も優れた石工が寝る間も惜しんで完成させたメダイヨンが埋め込まれており、そこには羽根を広げる竜と剣を携えた騎士が描かれていた。宮の中には執務室や応接室など仕事に関わる場所以外に、二人のプライベートスペースとしていくつもの部屋や調度品が用意されている。すべて女王陛下の許可を得たシオンが早急に作らせたもので、王国を救った彼らに対する敬意の深さが表れていた。

 

「王国を守護するペアとして新たな役職を設けて下さったのは嬉しいけど、実際はほとんどシオン教皇の業務補佐だな。でもそのおかげで堂々と君と一緒に住めるなんて最高だよ。」

 

アイオロスはそう言うと、すぐに顔を寄せてサガと唇を重ねた。

 

あの戦いの後、サガはみるみる健康を取り戻して、今は以前と変わらない状態で復活している。不幸にも陰謀に巻き込まれて重症を負ったサガの父親や、傷ついた従者たちも驚くほど早く治癒した。しかも奇跡はそれだけではない。病の床に伏せっていた国民も次々と回復を見せたのである。すべてはあの夜の戦いの後に起こったことであり、この摩訶不思議な出来事に国中が今もこの話題で持ちきりだった。

 

「本来ならば、生死を司る役割までこの私にはない。でも、助けたかった…… フィロドに苦しめられた人たち、不本意に傷つけられた人たちを。」

 

「あの夜、君の心は王国全土に広がって全ての人々に癒しを与えた。自然の流れでそうなったんだから、気に病むことはないさ。大通りを行き交う人たちに活気が溢れているのを見ていると、それで良かったと私は思うよ。」

 

常に正義の在り方をあれこれ思い悩んでしまうサガに対して、アイオロスの考え方は突き抜けるように潔く迷いがない。アイオロスが傍にいる限り、サガの心は救われる。そしてその幸せは一生続くのだ。

 

「そういえば、アイオリアの件はどうなったんだい?」

 

「彼は予定通り獅子宮へ行くことになったよ。私が人馬宮を出てしまったので、父上はアイオリアを手放すことをかなり悩んでおられたが、意外なところで決着がついたんだ。」

 

「決着?」

 

「他家へ嫁いでいた異母姉が三人目の男児を出産したんだよ。赤子が健康そのものだったので、その子を人馬宮が引き取ることになったんだ。振り出しに戻ったとはいえ、父上もまだまだお元気だから、きっと立派な跡継ぎに育てると思うよ。」

 

そう言って、アイオロスはバルコニーの欄干に背を向けて寄りかかった。最近のアイオロスは身長も伸びて以前より大人びて見える。17歳の少年とはいえ、その凛々しさや度量の深さは青年と言ってもおかしくないほどだ。サガをはるかに凌ぐ体躯を持ち、胸筋や腕の隆々とした肉体美に最高の騎士としての頼もしさを感じる。一緒に生活するようになって毎日のように彼の成長を実感しているサガは、同性として少し羨ましくもあり、恋人としてより一層の思慕を深めていた。

 

「あ、ほら帰ってきた!」

 

アイオロスの示す空の彼方に小さな鳥影があった。それはグングンとスピードを上げてこちらに向かってくる。サガが手を伸ばすと、その鳥はサガの指先へ優雅に着陸した。今回起きた奇跡の中でも、最もその恩恵を受けたのはこの鳥だろう。

 

「お帰りアルヘナ。空は楽しかったかい?」

 

指先をついばんでじゃれている鳩と、それを嬉しそうに見つめている美しい恋人。まるで天使が鳩と戯れているようだ。永遠の誓いを立てて想いを交わした相手がサガであることをアイオロスは心から喜んでいた。サガが再び空高く手を上げると、アルヘナはパッと羽根を開いて元気よく飛んで行った。

 

「ねえサガ、今度一緒に旅行しないか?」

 

「ええ?何だい急に。」

 

「ほら、いつか約束してたじゃないか。愛馬に乗って、外国を旅して回るんだ。ここでは学べないことがきっとたくさんあるよ。美味しいものをたくさん食べて、見たこともない綺麗な風景を二人で眺めるんだ。」

 

覚えている…… あの夏の日、森の中で二人でそんな話をしていた。あんな幸せな日々はもう来ないのだと、封鎖された部屋の中で一人絶望していたが、今は………

 

「ねえ、どうだい? シオン教皇にお願いしてさ。半年くらい出られると嬉しいけど。」

 

そう言いながらアイオロスはサガの身体を愛おしそうに抱き寄せる。二人はしばらくその温もりに身を任せていたが、ある視線を感じて頭上を見た。そこには、あの白く巨大な竜がエメラルドグリーンの瞳を輝かせて二人を見下ろしている。キョトンとした丸い目をして、二人の行動に興味津々のようだ。

 

「鍵の使い方をもっと勉強しないといけないな。想いが通じ合うたびにこの竜が出てきてしまう。夜、真横にいてすごくびっくりする時があるんだ。」

 

「私はその方が安心だよ。竜がいてくれれば、アイオロスが暴走しない。」

 

二人は声を上げて笑うと、大きな守護者に見守られながら、もう一度熱い口付けを交わした。

 

 

 

説明
聖域を1つの王国として描いたファンタジーです。基本的にみんな普通の人間で、年齢設定や血縁もいろいろ変えています。今回のオリキャラのモデルは、初代アニメ版を知っていると誰かすぐわかると思います(あくまでも見た目)童話みたいな優しいお話なので、気軽な感じでお願いします(笑) プロプス、テジャト、アルヘナの名前は、ふたご座を構成する星から取りました。ボレアスは風の神アイオロスの配下にある風神の名前です。
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