艦隊 真・恋姫無双 137話目 《北郷 回想編 その2》
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【 苦難 の件 】

 

? 南方海域 拠点 にて ?

 

 

 

────ガタンッ!!

 

 

『───き、貴様ぁ! 何をするかぁ!!』

『三本橋中将、至急お下がりください!!』

『上官に盾突くかっ! 頭を冷やせ、北郷!!』

 

 

三本橋の後ろで佇んでいた提督達が、一様に血相を変え、三本橋を守るように前へ並ぶと、一刀の行動に警戒心を抱く。

 

何故なら、提督達の目の前で、座っていた椅子を弾き飛ばしながら立ち上がり、三本橋達を睨み付ける一刀の姿があったからだ。

 

 

『………どうしたんだい、一刀君。 その不機嫌な態度は?』

 

『三本橋中将、貴女は……彼女達を使い……本気で……本気で、そんな事を実行に移すつもりでしたかっ!?』

 

 

別に、今までの言葉に対して、無反応だった訳では無い。

 

その前から怒っていた。 

 

艦娘を捨て艦にする行為に。

艦娘を木偶などと呼んで蔑んでいた事に。

艦娘を己の出世の踏み台にする浅ましき考えに。

 

 

『うぅ〜ん? えっと、誰? 彼女達って?』

 

『貴女達が連れている、艦娘達の事ですっ!!』

 

 

長門より頼まれた件もあった。 

 

長門を純粋に慕う艦娘に憐憫を覚え、何とかならないかと面談するつもりだった。 まだ、実戦……それどころか訓練さえもろくに行ってない彼女達が心配だった。

 

 

『あの木偶の事ぉ? なぁーんだ、そうならそう言ってよ。 ってきり、一刀君の好い人かと思った』

 

『戯れ言など結構! 私は、真実を知りたいんですっ!』

 

 

警護の艦娘に対して、疑問を問い質したかった。

 

出会った艦娘だけでなく、遠目から見た艦娘も表情が抜けていた。 一刀の接した艦娘達は、普通の女の子のように騒がしく、明るく、優しい心根の子達ばかりだった。

 

 

『────当然じゃないか。 だって、アレは深海棲艦を倒す兵器、ボクらを助ける使い捨ての役立つ玩具だね。 擬似的感情を持つのが、些か鬱陶しいけど………』

 

『─────貴女はっ!?』

 

 

ある意味、想定はしていた。

 

捨て艦……どう不定しても、現状からして結びつく言葉は、これしか浮かばなかった。 捨て艦禁止を大本営に訴えてきた、一刀にとっては哀しい現実だった。

 

だが、この一刀の考えは……半分当たり、半分は外れた。

 

 

──────もっと悪い方向へ、と。

 

 

『そうそう、一つだけ訂正。 この計画は、既に何回も実行しているんだよ。 そういや、今回で何回目になるのか、誰か知ってる?』 

 

『さて、我々は大本営から命じられて行くので、何回と問われると………一応、私は四回目です』 

 

『おっ、俺は五回目だ!』

 

 

『────!!』

 

 

『お陰で凄く練度も上がったけど、ボクにとっては嬉しい誤算があったよ。 あの鬱陶しかった木偶達がねぇ、同じ木偶達を攻撃したせいか、とっても静かになったんだぁ〜!』

 

『成る程、成る程。 今度は私もやってみましょう。 ただの兵器の癖に馴れ馴れしくて、実に腹立たしい。 少しは痛い目に合わせねば、付け上がって困りますからな』

 

『ダブりなど、解体か近代化改修するしかない厄介物よ。 どちらも少なくない投資が掛かるが、三本橋中将のやり方が一番大きな利益が挙がる賢い方法じゃわい!』

 

『泣き叫びながら轟沈する奴らの声を聞くと、日頃のアイツらの事を思い出して、スーとするぜ! ストレス解消には持ってこいだ! ガーッハッハッハッ!!』

 

 

『────お、お前達はっ!!!』

 

 

聞くに耐えない悪意、侮り省みない現状、見下すしか出来ない価値観が、この狭い会議室内に充満し、僅かなる良識は無力を晒し、己の無力さを嘆き哀しんだ。

 

だが、悲劇は──これだけでは終わらない。

 

 

『残念だけど………これで、決まりだね。 コレって、かなり大事な情報だから、知ったら仲間に入って貰うか……消えてもらうしかないんだ。 ごめんね、一刀君』

 

『──────!?』

 

『だけど、ボクって意外と優しいんだよ。 一刀君、君が大事にしてた木偶達と一緒に、ボク達の栄華の礎にしてあげるから。 あの世で皆と再開できたら、ボクに感謝してね』

 

 

◆◇◆

 

【 相談 の件 】

 

? 南方海域 拠点 にて ?

 

 

丁度、一刀達が会議室に居る頃。

 

拠点内にある、艦娘専用の建物内で待機していた艦娘達。

 

初めての遠征、初めての場所、初めての戦闘と、初めてづくしの任務に、殆どの者が疲れ果てていた。

 

そんな中、一刀に率いられた長門達は手分けして、それぞれのできる役割を果たしていた。 

 

 

『無理しなくても……大丈夫なのです。 ここは安心できる場所ですから………は、はにゃあーっ!? 駄目ですよ! こんな所で泣いちゃ───』

 

『何も心配する事は無い。 この長門が、このビッグ7が、此処に居るのだ。 何かあれば、私が護ると約束しよう。 だから、今は、今だけは……ゆっくりと休め』

 

 

『生き残っても、どっちみち轟沈するしかないっていうの? じゃあ、此処で今すぐ私の魚雷を食らってみる? 一度しっかり被弾すれば、轟沈する気持ちが分かるかも〜』

 

『うがぁ、うがぁぁぁっ!!』

 

『もう、天龍ちゃんたら、冗談よ。 ほら、泣いてる貴女だって嫌なんでしょう? 怖がるほど嫌なら、もっと足掻かないと。 轟沈したら生きる希望さえも、持てないわよ?』

 

 

彼女達も馴れぬ任務で疲れていたが、あの一刀の鎮守府で務めていた艦娘達である。 困っている姿を見て黙っていられず、何かしら手助けをしていた。 

 

因みに約一名、遠征途中で艦娘を無闇やたら怖がらせた罰により龍田に拘束され、今も継続中ではあったが。 

 

 

★☆★

 

そんな中、金剛と雷は別々で、とある艦娘の悩みを聞いていた。 ダブるという事象により、後から建造された自分が自分の為に身を引き、この任務へ投じたという悲しい話を。

 

 

『私が……建造された時……すでに、もう一人の《 私 》が……第一線で活躍していました。 他の第七駆逐隊の皆と……笑顔で成果を喜び合う……私……が……うぅぅぅ………』

 

 

『───しょうがないよ。 だって……あの鎮守府にいる翔鶴姉には……既に《 私 》が居るんだもん。 翔鶴姉は大好きだけど……二人の関係を壊すなんてこと……私は絶対に……嫌だった……から……』

 

 

始めは警戒と緊張で口を閉じていた彼女達だが、金剛の明るい性格と自称英国流スキンシップ、雷によるお袋さん並みの世話焼きにより、その口からボツボツと語りだした。

 

それによると、その彼女達の居た鎮守府には、既に自分が居た。 しかも、先に居た分……練度も交友関係も……提督の信頼や興味までも、失っている状態だった。

 

それでも建造されたからには、その鎮守府の為に働くのだが、皆との差は余りにも激しい。 追い付く為にと、任務等を一所懸命に取り組むが、差は離れるばかり。

 

しかも、建造を命じた提督さえも、厄介者として白い目で見られ、酷い時には暴力や無理を押し付けられた事も。 

 

 

『もう、私なんて……いらない子なんです。 だから、最後に提督さん達へ……恩返ししようと……この任務に……』

 

 

『せっかく………翔鶴姉ぇと、また共に戦えるって、今度こそ汚名返上するんだって……意気込んでたんだ。 けど、これ以上、翔鶴姉ぇを……不幸艦呼ばわり、されたくなかったから』

 

 

結局のところ、二名の艦娘は、鎮守府内の酷い扱いに耐えきれず、または自分が存在する事で迷惑を掛けたくないと、この任務の内容を噂で知りつつ、志願して参加したという。 

 

普通なら、何も言えなくなる重い話だが、そこは金剛と雷。

 

 

『ある喜劇の名優は、こう言ったヨ。 You’ll never find a rainbow if you’re looking down(下を向いていたら、虹を見つけることは出来ないよ)って。 だから……上を向きまショウ! まずは、そこから始めるのが、大事ネ!!』

 

『HEY、行くとこなければ提督の所に来なヨ! 今なら受け入れO.K. ネ! 衣住食完備、おまけにCoolな提督もついてお得デース!! でも……提督は渡さないからネ!!』

 

 

 

『そんなんじゃ駄目よぉ! 大丈夫、雷にまかせなさい! 雷の司令に頼んであげるから、一緒に翔鶴さんを探しましょう! うーん、雷だけだと厳しいから電にも頼んで……』 

 

『えっ、行き場所? そんなの心配いらないわよ! 来ればいいじゃない! 何処って……もっちろん雷の居る鎮守府よ! 大丈夫、大丈夫、司令官は優しから絶対───』

 

 

こうして、○○鎮守府に更なる艦娘達が集う事になり、一刀や加賀が後で大慌てするのだが、それはそれで置いておく。

 

こうして、烏合の衆であった連合艦隊は、不幸か幸せか、長門達を中心に団結を固め士気を高める事ができたのだった。

 

★☆★

 

 

次の日の早朝、三本橋からの命令を受けた直属の艦娘達より、集合との呼び出しが入り、艦娘達は拠点の庭へ集まる。

 

そこには、笑顔で迎える三本橋と六名の提督達が並び、簡単な作戦行動を示した。 

 

 

『皆も既に聞いていると思うが、大本営としては、この危険な南方海域を早期に解放し、深海棲艦達に奪われたシーラインを取り戻すのが、最大の目的である!』

 

 

そして、訓戒等を示した後、第一艦隊の二名が先導役、次に其々の艦隊が陣形を取りつつ進み、後方に第一艦隊所属の艦娘四名が警戒の為と称し、後方に位置する。

 

総司令官である三本橋と提督達は指揮の為、拠点にて作戦本部を臨時に設置し、指示を出す。 ここには、護衛として第一艦隊所属の四名を警備に回した。

 

 

こうして、準備が整えた連合艦隊は、南方海域へ進出。 

 

緊張と恐怖、不安と高揚を胸に抱き、無事に皆が帰投できる事を祈りながら、未知なる戦場へと向かっていた。

 

 

 

───だから、第一艦隊の艦娘の他、誰も気付かなかった。

 

 

連合艦隊の更なる後方より、第一艦隊の艦娘が太紐で曳航している……一隻のボロい漁船の存在を。

 

 

 

◆◇◆

 

【 明暗 の件 】

 

? 南方海域 海原上 にて ?

 

 

慎重に進む連合艦隊の前に、大海原より突如現れる複数の深海棲艦達。 まるで、未熟な練度を嘲笑うかの如く、艦隊に向けて攻撃を仕掛けて来た。

 

 

『さあ、出番よ! 今度こそ………皆の実力を発揮する時! 第一次攻撃隊、発艦始め!!』

 

『……やっと、出番ね。 よし、稼働全機、発艦始め!』

 

 

初めて飛ばす艦載機に目を細めつつ、味方の負担を減らす為、大空の制空権をいち早く得ようと、慣れぬ指示を懸命に出す正規空母。

 

 

『あ、当たると……痛いですよ!? だから、早く、早く逃げて下さいっ!!』

 

『ああああああっ、ウザイ、ウザイのよっ! 台所に出てくる黒いナニカみたいに集まって来んなっ!!』

 

『見せてもらおうか。 深海棲艦の、駆逐艦の性能とやらを!!!』

 

 

この日の為に整備された初期艤装を展開し、あまり行えなかった訓練を思い出しながら、弾よ当たれと祈り必死に攻撃する駆逐艦。

 

 

『さて、と。 楽しみにしてる夜戦の前に、軽〜くやっちゃいますかっ!!』

 

『きゃー、敵艦多数発見! 攻撃開始しますねぇ、ぱんぱかぱ──ん!』

 

『もう少しぃ! いい声でぇ! 鳴いて見ろよぉお! オラァッ! ───ふん、あたしより弱い癖にイキりやがって!!』

 

 

自分が役に立つのは、今この時、この場所だけと決意を固め、半壊した深海棲艦に止めを刺し、満足感に満たされる間もなく、次の敵を探す軽巡洋艦や重巡洋艦。

 

 

『そんな………姉さまと会う前に敵艦が……不幸だわ』

 

『今宵の瑞雲は血に飢えている……って、本気に取るな、馬鹿者。 雰囲気作りも大事だ。 主に……私の士気高揚に、な』

 

 

全員無事に帰るんだと、その華奢な双肩に重い責任を乗せながら、危ない艦娘を護る戦艦。

 

動ける者、皆が皆、頑張った。 

 

日頃黙っていた鬱憤を晴らすが如く、獅子奮迅の活躍を見せた。 見敵必殺と言わんばかりに。

 

 

★☆★

 

 

龍田は、向かってきた駆逐ロ級を薙刀状の艤装で一瞬にして切り割き、大海の深淵へ叩き込む。

 

攻撃をしようと中途に大口を開けた滑稽な姿のまま、青黒い水面下に沈む駆逐ロ級を見送った後、騒がしい原因である一角を睨み付けて、溜め息を吐いた。

 

 

『──ったく、何よ何よ! アイツら何様のつもりよぉ!! こっちが一緒懸命頑張ってるのに、黙って見てるだけって! 護衛なら、少しは手伝っていいじゃない!!』

 

『おい、こらっ! お前は艦載機を飛ばして、制空権の制圧するのが役目だろうがっ! アイツらの悪口いってる暇があるなら、少しでも早く制圧下にしやがれぇ!!』

 

『て、天龍さん……あんまり怒鳴ると、また……龍田さんが……』

 

 

世話好きの天龍は未熟な艦娘達に我慢が出来ず、航海で通過する海域を利用し、練度を上げさせようと頑張っている。

 

いや、頑張っているのはいいのだが、すぐに調子に乗りやすいから困る。 現に熱くなり過ぎて周りを警戒を怠っている始末。 

 

その為、龍田が代わりに周辺の警戒しながら、三名の様子を見守っている次第である。

 

 

『ハッ! 心配すんなって、潮。 オレが本気になれば、龍田はワンパンで泣かせてやれるんだぜぇ? どこぞの提督と違って、オレは世界水準軽く超えてる軽巡だからなぁ!』

 

『ふん、どぉーだか。 天龍なんか、アウトレンジも出来ないほど射程が短いじゃない! 悔しかったら、私や翔か……ううん、私より多く轟沈させて見なさいよ!!』

 

『ふふん、いいぜ。 どうやら……隠された真の実力を知らしめる機会が訪れたか。 瑞鶴、このオレ様を本気にさせたこと───たった今、後悔させてやるよ!!』

 

 

早くも説教された事を忘れたか、天龍が再び嘯(うそぶ)く言葉を聞き、龍田の額に青筋が浮かぶ。 同時に、頭の上で光る円形状の艤装も光輝きながら、高速回転を始める。

 

そんな時、横から金剛が現れて合流し話掛けた。

 

 

『HEY、龍田ぁー、ちょと………What is that(それ、何デスカァ)!?』

 

『あら、金剛さん? ちょっとだけ待ってくださいねぇ。 天龍ちゃんを……懲らしめないと───えいっ!』

 

 

龍田の軽い掛け声と共に、光輝く艤装が一気に加速し、自慢気に刀の艤装を構える天龍の脳天に直撃。 頭を抱えて悶え苦しむ天龍を見て、飛行物体発射先の龍田に怯える潮達。

 

その様子を見て唖然とする金剛に、龍田は笑顔で戻って来た飛行物体を受け取り、何食わぬ顔で話の続きを促した。

 

 

『た、龍田は……変に、思いませんカァ?』

 

『それは………天龍ちゃん、じゃなくて………あの□□鎮守府の?』

 

『Quite so(その通り)!!』

 

 

周辺を見渡し安全と監視の有無を確認した後、龍田の答えに勢いよく肯定の言葉を発した金剛は、とある疑念を伝える。

 

曰く、護衛の割りには動く気配が無い。 現に、助けがいる場面になっても全く動かず、手透きの艦娘が動き救っていた。

 

曰く、此方から話掛けても、無表情のまま無視する。 金剛だけではなく、他の艦娘が言葉を掛けても駄目だったとか。

 

 

『そして、これが一番、Essential(非常に重要)な事デース! 龍田は、後ろの護衛が曳航しているDilapidated ship(オンボロな船)を知っていますカァ!?』

 

『気付かなかったわ。 それが………』

 

 

淡々と理由を語っていた金剛だが、最後は小声になりながらも、真剣な顔、明瞭な発音で理由を説明した。

 

 

『あそこに……私達の……Admiralが居マス』

 

『─────ッ!?』

 

 

それは、金剛や龍田、いや○○鎮守府所属の艦娘に取っては、晴天の霹靂な如く驚愕すべき事象だった。

 

 

『え〜と、その根拠は………』

 

『金剛型ネームシップの内蔵型対提督電探は、伊達じゃないヨ? 何海里離れようとも、私とAdmiralの絆は繋がっているのデース! その絆は、正にDiamondの如くネ!』 

 

『………………』

 

『Don't tell anybody yet(まだ、誰にも言わないでネ)』

 

 

金剛は軽くウインクすると、龍田より離れ自分の持ち場に戻る。 普段より二割増しで英語を交えて語るのは、防諜を意識しているらしい。

 

金剛を見送った龍田は、表情こそ出さなかったもの、後ろで待機している護衛の艦娘へ一瞬だけ視線を向け、すぐに前方へ戻した。 

 

艤装である得物の柄を、力一杯、握りしめたままで。

 

 

◆◇◆

 

【 内情 の件 】

 

? 南方海域 海原上 にて ?

 

 

何気ない振る舞いをしながら、龍田に情報を流した金剛だったが、実は相当焦っていた。

 

何故なら、一刀は怪我をしていると……《聞いた》のだから。

 

 

『Shit! 提督の事を知っているつもりで、油断したネ! あんな話を聞けば、Direct bargaining(直談判)するに決まっていたヨ!!』

 

 

今更、愚痴を言っても仕方がないのだが、やりきれない。

 

提督を愛していると、日々憚らない彼女にとっては痛恨の出来事であり、教えてくれた長門達に感謝し、限られた時間の間に一刀をどう救おうか、頭を悩ましていた。

 

 

★☆★

 

? 南方海域 拠点付近 にて ?

 

 

実は、一刀が三本橋達に会いに行った、その日の夜。 三名の艦娘が外に出ていた。

 

 

『あああぁぁぁぁ…………やっぱり、夜は良いよね〜、夜はさぁ! 特に、月明かりの無い夜なんて、夜戦にサイコォー!!』

 

『那珂ちゃんも夜の方がいいけど、あんまり深夜のお仕事したくないな〜。 だって、寝不足だと肌が荒れちゃうし、観客の数も少ないだもん』

 

『あ、あの……姉さん、那珂ちゃん、幾ら……人気(ひとけ)が無いっていっても、騒ぐのは良くないと………』

 

 

既に消灯の時刻を過ぎ、殆ど周りの建物から明かりは消え、夜間警備の艦娘が一人、二人と見廻りをしている状態。

 

そんな中を、この三名が歩いているのは、何かしら重要任務があったと予測してもおかしくないのだが、多くの提督、司令官諸兄が確信している通り、ただの散歩である。

 

 

『流石、こんな真っ暗だと夜戦のし甲斐があるよね。 ねぇ、ほんの少し夜───ウグッ!?』

 

『ま、待って下さい! 誰か……来ます!』

 

『だ、誰かな? もしかして、那珂ちゃんのゴシップ写真を狙うパパラッチ!? や、やだ! 油断してすっぴんで出てきちゃたから……』

 

 

そんなやり取りをしながらも、日頃の訓練の賜物か、闇夜に溶け込むが如く物陰に潜む三名。

 

先程、神通が聞き付けた音の主達が数人、何かを長い物を運びながら、港へ向かっていた。

 

 

『────何やら話し声が聞こえたようだが、ただの気のせいじゃたかのぉ』

 

『歳だよ、歳っ! そろそろ引退考えていいんじゃねぇ?』

 

『とりあえず、静かに急げ。 この荷を出撃前に船の中へ入れなくてならないのだ。 誰にも気取らずに……』

 

 

闇に浮かぶのは、作業服を来て荷を運ぶ男達。 長い荷を毛布に包(くる)み、港へと向かって行く。 

 

暗闇ならば、艦娘ならともかく普通の人間には、明かりが必要。 だから、男達の前に照明が出され、その光が地面に反射し、帽子しか被らなかった男達の顔を照らす。

 

 

『あ、アレって……提督……じゃない!』

 

『那珂ちゃんとこのマネー……じゃなかった提督、もだよ?』

 

『私の居た鎮守府の……提督も………です』

 

 

意外にも、この三名の鎮守府は三名とも別々。 特に神通と那珂は重なりやすいと噂されるだけあり、この任務に赴くのは必然的だった。

 

三名は自分達の提督を見て、思わず渋面(しぶつら)を浮かべた。 罵声、怒声は日常茶飯事、限界ギリギリまで任務で扱き使い、最後は用無しと此処に送られた身だ。

 

《せっかく三姉妹揃った記念すべき日に、誰が見たくも会いたくもない上司に鉢合うなんて、なんて最悪》──当時、そう思ったと……後に川内が語る。

 

だが、そんな川内に沸き起こった悪戯心が……まさか、自分達の運命どころか、世界観まで変わるとは思わなかったのだ。

 

 

『何を言うか! 《老當益壮(老いては益々壮んなるべし)》と諺にもある! これくらいの荷、軽々──痛たたたたっ!?』

 

『おいっ! 気をつけろっ!!』

 

『ったく、ほら貸せよ──よっと。 だがな、《老いては子に従え》って言葉もあるぜ。 《老兵は死なず只消え去るのみ》っていうのもあったな。 まあ、無理すんなって事だ』

 

『い、いや、違うっ! 儂の手に、何か! 何か硬い物が跳ねて当たったんだ!! だから、儂の歳のせいでは───』

 

 

先頭で進んでいた、年老いた風貌の大男に小石を投げ付けた川内。 狙いは違わず荷物を持つ手の甲にあたり、思わず痛みで離してしまい、地面に落下させてしまう。

 

後ろに居たチャラそうな若者が、前方の老人をからかいながら、もう一人の人物と二人掛かりで持ち上げ、その瞬間に布が外れ、隠されていた荷物より《 顔 》が見えた。

 

 

『姉さん、あの方は───』

 

『うん、あのビック7がベタ褒めしていた、○○鎮守府の提督……だったよね?』

 

『ま、まさか……死んでるの!?』

 

 

更に意外な人物の顔が現れ騒然とするが、やはりそこは歴戦の水雷戦隊旗艦。 外に気配など漏らさず、ただ内密で騒いで、その後の足取りを窺った。

 

 

『…………どうやら、目覚めないようだな。 此処で目を覚まされても、後始末が困る。 そもそも解体する道具も……』

 

『あれだけ暴行を受けたんだ。 そう簡単には覚めないと思うぜ。 しかし、まあ……頑丈な奴だったよ。 六名でタコ殴りにして、数時間掛かって気絶だなんて……』

 

『免許皆伝を誇る儂の剣術の奥義を難なく避けるとは……本当に素人か、北郷は? 儂の流派は、実力派と名高い飛天御剣───』

 

 

偶然、この提督達の会話で、一応生きている要旨が確認できた三姉妹は、最後まで提督達を見届け、長門に報告。

 

聞いた長門は驚き、直ぐ様救助に向かうと息巻くが、川内達の話では、三本橋の配下の艦娘が二人、寝ずの番で見張っているとの事。 

 

流石に長門と言えど、高練度の二人相手に立ち向かい、一刀を無事に奪還するのは困難を極めた。

 

★☆★

 

 

? 南方海域 海原上 にて ?

 

 

そんな長門から連絡を受けたのは、実に、つい先程。 この連合艦隊が編成され、敵と交戦している最中であった。

 

話を聞いた時は、思わず敵に向けていた35.6cm連装砲を長門へ向けてしまい、慌てた長門から大声で怒鳴られて正気に戻り、何とか誤爆にならずに済んだ。

 

落ち着いた後に一考してみれば、様子を窺い長門に報告、それから突撃を止めたと考えれば、ゆうに早朝。 

 

その頃と言えば、更なる進撃をするため、連合艦隊を編成し直している時。 どう考えても、報告する暇が無い。 

 

長門と川内達は、金剛の様子に恐縮している状態だったが、金剛も自分の過ちを謝罪し、今後の状況を各自で考えるように決め、それぞれが別れた。

 

あれから、金剛は考えた。 

 

幸い、戦艦だったので味方の救助に向かえば、後は比較的自由。 だから、どうすればいいか、時間の許す限り考えた。

 

早く、提督を助けたい。

早く、皆を安心させたい。

早く、あの優しげに微笑む顔を見たい。

 

そう思いつつも何も出来ない自分に、苛立ち落ち込み考える負のスパイラルが何周も続いた時、かの人物の言葉が頭に浮かぶ。 

 

英国が誇る──かの名探偵の名言が。

 

 

《 君は、ただ眼で見るだけで、観察ということをしない。

見るのと観察するのとでは大違いなんだ 》

 

 

《 見るべき場所を見ないから、それで大切なものを全て見落とすのさ 》

 

 

《 Keep cool,keep cool.Take a break,take a break 》

 

 

『Oh, no! 三番目は明らかに変でショウ!? 有名なPhraseですが、英国も名探偵も関係アリマセン! That's a different story!!(それは違う話デース!!)』

 

 

思わずセルフツッコミをするが、何にしても金剛は落ち着き、名探偵の言葉を理解し状況を把握する。 

 

ただ、見るだけではなく、冷静に一刀や自分達の周りの味方や敵、奪回のタイミングなどを考える。

 

とりあえず浮かんだのが、自分達の仲間への連絡。 この場合は、長門や金剛自身を省くと、残りは四名。

 

だけど、残りの三名は、教えて冷静に振る舞うかは判断ができない。 一名は間違いなく一刀を救援すると言って突っ込み様子が直ぐ浮かぶ。

 

だから、一番柔軟に対応でき、相談にも乗ってくれそうた龍田に話を通した。 念のため、情報提供者は誤魔化したが。

 

後はタイミングをどうするかと、悩むところだが……不幸か幸せか、その時は訪れた。

 

 

深海棲艦と戦う連合艦隊から、先導する艦娘や護衛役が突如離脱したのだ。 何もせず見ていただけの存在ゆえ、別に居なくなっても大丈夫だった。

 

 

────今までなら。

 

 

だが、いつの間にか、目の前の深海棲艦が強くなった。 具体的には、駆逐ハ級や軽巡、重巡、空母まで現れたからだ。

 

それと、同時に………こちらに向けて、一隻の船が流れて来る。 建造されて何十年も過ぎ、ボロ船と化した漁船。

 

だが、長門、金剛、龍田、そして事情を聞けば、一目散に向かってくるであろう天龍、雷、電。

 

○○鎮守府にとっては、必ず死守しなければならない船。 しかし、他の艦娘にとっては足を引っ張る、足枷になる船が、連合艦隊の下へ流れついたのだった。

 

 

説明
一刀君の回想 その2 です。
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コメント
未奈兎提督 コメントありがとうございます! まったく持って、その通りです。 どうなるかは次回にて。(いた)
敵味方ともにどう考えてもろくなことにならない(未奈兎)
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