真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 66
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 連行されていく男を見送ってから雛里の肩に手を置いて無事を確認する。

 

「……無事で良かった」

「…………………」

 

 しかし、雛里は帽子を目深にかぶってしまい、目を合わせてくれなかった。

 

「……雛里、聞いてほしい話がある。そのままでいいから聞いてくれ」

「…………」

 

 彼女は目深なのは変わらないが少しだけ頭を上げてくれた。

 

「俺は正直、今まで男女の色恋なんて全く無縁だった」

「っ!」

「復讐だけを目指してただ走ってきた俺にはどうでもいいものだったんだ。でも、お前はそんな俺に対してその、何だ……」

 

 自分で他人の気持ちを言うのってよくよく考えるととてつもなく恥ずかしいことなのではないかという考えが頭を支配しかけるが、ここはもう押し通すしかない。

 

「……好意を持ってくれてたんだよな。あ〜、その、男として」

「っ!!!!」

 

 その言葉に帽子の外に出ている彼女の顔が朱に染まる。

 

「……初めての事で本音を言えばうれしいよりも、何というか驚いてる。絵物語のようなことが俺に起きるなんて本当に考えたことがなかった」

 

 でも、大切なのはここからだ。俺は肩においてある手に少しだけ力を込めて口を開く。

 

「ただ、俺はお前の気持ちには答えられない」

「っ!!!」

 

 息を飲む音。朱に染まっていた顔がスッと元の色に戻る。それだけで彼女の顔が想像できるが、言わなければならない。

 

「俺は、俺には、あ〜くそっ」

 

 思わず頭を掻きむしるがやり遂げなければいけない。これだけは。

 

「……想いを、寄せ」

 

 だが、覚悟を決めた言葉は雛里の両手で塞がれてしまう。

 

「い、言わないでくだしゃい」

 

 ……思考が止まった。ただ、言わなければという衝動に駆られて両手を外そうとするが理性が“それでいいのか?”と歯止めをかける。板挟みの思考は手を動かすには至らずそのままになる。

 

 永劫にも思える短い空白は雛里の次の言葉で動き始める。

 

「一つだけ、一つだけ答えてください……」

 

 注意して聞かなければ雑踏に流されそうなほどの小さな声。でも、想いがこもっているからなのかやけにはっきりと聞こえた。俺はその言葉に応えるべく、首を縦に振った。

 

 口から両手が離れ、彼女の問いが俺に向けられる。

 

「玄輝さんは、玄輝さんは私のこと好きです、か? そ、その! 女性としてではなく、一人の人として……」

「……ああ、人として好きだ」

「っ! で、でも、私は……」

 

 途切れる言葉。しかし、彼女も俺と同じなんだろう。止まらないと決めた言葉はやがて心から口に伝わり漏れ出てくる。

 

「雪華ちゃんを、使ってひどいことを言いました。悪い子、なんです……」

「どうしてそう思うんだ?」

「あの言葉は、私の気持ちなんです。でも、でも、それを、わた、わたしは……」

 

 涙混じりの声。でも、一度漏れ出たものは止まらない。

 

「私は、玄輝さんにそばにいてほしいんでしゅ! ど、どこにも、どこにもいかないでここで一緒にいてほしいって、そう、そう思ってるんです! それを、雪華ちゃんを使って、自分が正しいみたいに……っ! こんなの、こんなのは悪い子のすることなんです!」

「………………それで、俺がお前を嫌いになるとでも?」

「…………」

 

 俺の問いに彼女は小さく頷く。

 

「……はぁぁぁ」

 

 俺は盛大なため息をついてから少し強めの拳骨を振り下ろす。

 

「いひゃあ!?」

「お前な、いくら何でもそれは怒るぞ」

「げ、玄輝さん……?」

 

 目深にかぶっていた帽子を上げた彼女に顔は怯えた表情で、まるで親に叱られた子供のようだ。でも、話したいのは叱るような内容のものじゃない。

 

「あのな、自分を嫌いになるのは、まぁわかる。俺なんぞさっきまで自分の鈍さに心底呆れてたし“この馬鹿野郎”って本気で思った。でもさ、お前の言葉を聞いて若干目が覚めた」

 

 多分、これも信頼の形の一つなのだろう。俺は今さっき感じたことをそのまま言葉にして伝える。

 

「なぁ、お前は俺がさっき言いかけたことを最後まで言ったところで、俺の事を嫌いになるのか?」

「そ、そんなことありません!」

 

 彼女にしては珍しい大声で即刻否定する。つまりはそういう事だったんだ。

 

「なら、俺だってそうだ。そんなことぐらいで嫌いになるわきゃねぇだろうが。その、なんだ? それだけの想いってことだろ」

「…………」

 

 その言葉に彼女は唖然として俺の顔を見ている。俺は雛里の帽子を取って笑顔でその頭をくしゃくしゃにしながら撫でる。

 

「俺を見くびんな。この御剣玄輝、その程度で人を嫌いになんぞなるかっての」

「…………うぅ、うぐ、ふえぇえええええええええええええええ!!!!」

 

 大声で彼女は俺の胸に飛び込みながらしばらくの間泣き続けた。

 

(……ありがとう)

 

 俺は知らぬ間に誰にも聞こえない小さな声で感謝の言葉を口にしていた。何の感謝か自身にも分からない。でも、それは心の奥底から漏れ出たものだという確信だけはあった。

 

(こんなにも心が温かい……)

 

 こんな気持ちになるのだから、そうに違いない。絶対に。

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「…………」

「…………ぐすっ、ひっく」

 

 最初の勢いは無くなったものの、雛里は俺の胸の中でまだ泣き続けている。

 

(まぁ、別にいいっちゃいいんだが……)

 

 そろそろ周り視線がなかなか気になぁ、と内心に冷や汗が出始めてきた。

 

(まぁ、多分変なことをしているわけではないってのはみんな分かってはくれているだろうが……)

 

 状況を知らない道行く人からしたら“女の子が男の胸で泣いていて、頭をゆったり撫でている”だけしか目に入らないわけで。

 

(う〜ん、そろそろ茶屋にでも入って落ち着いてもらった方がよさそうな気がする)

 

 とりあえず極力首は動かさないで周辺を見渡すが、茶屋は見当たらない。

 

(というか、そろそろ愛紗が来そうなんだよな……)

 

 逃走犯の後を追うように動くって言ってたから、いつ来てもおかしくはない。まぁ、やましいことをしているわけじゃないから堂々していればいいだけの話なんだが……

 

(……惚れた女に見られたくはないって気持ちがどうにも)

 

 いや、雛里は大切だ。この時間も大切なものだって分かってる。だが、それでもそんな気持ちがふつふつと湧いてきてしまう。

 

(……だぁ〜! めんどくせぇな、俺!)

 

 というか、この感情って正しいのか!? 恋ってやつはこんな感情と戦わなくちゃならんのか!? 戦場に立ってる方がマシなんだが!!!

 

 心中で頭を掻きむしるが答えが出るはずもなく、その掻きむしる手を下ろして盛大なため息を吐く。

 

(はぁ、こりゃ星の言う通り恋愛ものの本をいくつか読んどいたほうがいいな……)

 

 戻ったら、星にお勧めの本はないか聞いて……

 

(……あ、だめだ。からかわれる未来しか見えん)

 

 ……桃香と北郷は答えてはくれそうだがうれしそうな笑顔で勘繰るだろうし、鈴々は論外。となると……

 

(はっ! 白蓮は!?)

 

 手紙を送ってその返信を……

 

(うん、待つ間に旅立ってるな)

 

 間に合うわけがない。こうなれば最終手段、“孔明の知恵”に頼るしかない。

 

(……これはこれで怖いんだよなぁ)

 

 いや、知将ですし。稀代の天才軍師ですし。歴史に名前を残しちゃう人ですし。

 

(…………聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥か)

 

 うん、一番の安牌である以上はそうするしかあるまい。心に固く決意したところで道が若干騒がしくなる。多分、愛紗が来たのだろう。

 

 予想は的中し、人混みから見慣れた偃月刀と黒髪がちらちらと見えた。

 

「愛紗! こっちだ!」

 

 声を出して誘導する。すると、それに気が付いた愛紗がこちらへ駆け寄ってくる。

 

「玄輝殿、雛里は……」

 

 若干安堵した表情を見せてくれた愛紗だが、すぐにその表情が固まってしまう。

 

「………………玄輝殿、ご説明願えますか?」

「へ? いや、何故そんな冷淡な感じなので?」

「ご説明を」

「あ、はい」

 

 得も言われぬ圧に屈した俺は状況を事細かに説明した。いや、だってそうしないとなんか命の危険性があるような気がして。

 

「……ふぅ、状況は分かりました。ですが往来でそのままという訳にもいかないでしょう」

「そりゃそうなんだが……」

「……………」

 

 どうにも雛里は俺の外套をしっかりつかんで離してくれない。

 

「なぁ、雛里。すまないがそろそろ移動したいんだが、構わないか?」

「…………」

 

 胸の中でふるふると横に振られてしまう。

 

「う〜む、このままだと俺はこの状態で城まで運ばないといけないんだが……」

「………っ」

 

 おっ、反応がある。さすがにそれはどうなのかと思ったというところか。

 

「仕方ない、すまないが……」

 

 そう言って腰に手を回そうとしたところで雛里は慌てて外套から手を離して帽子のつばへもっていき、再び帽子を目深にかぶってしまう。

 

「…………玄輝さん、意地悪です」

 

 少しだけ上ずってはいるが、ほとんどいつもの雛里の声に戻っていた。まぁ、拗ねているのは愛嬌という事で流そう。

 

「はいはい、どうせ俺は意地悪だよ」

 

 そう言って俺は右手を差し出した。

 

「で、そんな意地悪な俺は茶屋で仕事をさぼろうと誘うつもりなんだが?」

「……本当に、意地悪でしゅ。あう」

 

 ちょっと噛んでしまったことがタイミング的に恥ずかしかったのか、差し出した手にのせられた彼女の手まで赤みを帯びていた。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

……気が付いたらページ数がとんでもないことになっていたのでワードファイルの分割作業をしていたんですが、なかなか移動させるのが大変でした。

 

やっぱり何ページまで、って決めてやった方が色々と効率よさそうですね。

 

自戒しとかねば、と思った露の夜長でした。

 

では、こんなところでまた次回!

 

 

 

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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