僕は君の街を焼いた
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1君の街を焼いたのは僕だ。

 

東京1945

 

 

「君のこの町と、君の家族を焼いたのは、僕だ」

 

 当時最強とされていた米軍B-29爆撃機の指導爆撃手、ウェンツ少尉は、彼女に深く謝っていた。

 

 1945年。東京から少し離れたとある街の闇市のはずれの焼けあとで、ウェンツは苦しみながら、その言葉を胸の奥からしぼり出した。

 

 そして、その前で、ぼろぼろのもんぺ、当時の粗末な布で作ったパンツを履いた香椎鏡子(かしい・きょうこ)は泣き続けた。

 

「兄さん、お母さん、お父さん!」

 

 泣きながら、もう戻ってこない家族を、鏡子は呼び続けた。

 

 焼夷弾、強烈な炎を撒き散らして家々を、逃げ惑う人々ごと炭になるまで焼き尽くす爆弾を落として、その鏡子の家族を殺すスイッチを自分が押したことを知ったウェンツは、ただただ、うろたえを超えて謝っていた。

 

 それが爆撃手として避けられない任務だったとしても、ウェンツにはつらかったのだ。

 

 それを彼と同じ飛行機に乗り組むレオナルド少尉が、やめておけよ、という顔ながら、同時にウェンツに共感の瞳で、ジープに座って見守っていた。

 

 米軍をはじめとした連合軍が、日本を占領して数ヶ月、もうあの暑い日ざしはなく、人々の心の傷を表すような、うつろな日差しが、この運命を照らしていた。

 

 

 

 この悲惨な戦争、第二次世界大戦は夏に終わり、これから日本は冬を迎える。

 

 寒い冬が来る。

 

 それも、飛び切り寒く、陰鬱な冬が。

 

 

 

 

運命の残酷

 

 太平洋戦争と呼ばれる戦争に負けた日本、もう街も、住む家も、食べ物を運んでくる鉄道も、すべて破壊された。トラックそのものも、あったとしても燃料もなく、焼け跡にできた闇市、勝手に人々が物を持ち寄って売る市場は、市と言っても、売っているのは米軍基地の残飯や、米粒が数粒泳ぐだけのおかゆとはとても呼べないおかゆ。

 

 残飯をお湯に溶いたそんなものさえ、「栄養スープ」と売られるほど困窮していたのだ。

 

 たとえその中に海老の殻やスプーンまで混じっていても。

 

 そんなものでも、買えるだけまだマシ、それがそのころの日本だった。卵や肉など夢のまた夢、食べれるものならなんでもというほど、みな飢えていた。

 

 鏡子もやせ細っていた。しかし、それは美しさにつながるものではなく、疲れた顔にうるんだ大きな瞳だけが光る、どこか病んだやせ方で、痛々しくすらあった。

 

 だが、ウェンツは、その鏡子のその痛々しさのなかに、かすかに漂う品を感じていた。

 

 このひとは、ただの女の子ではない。

 

 ウェンツは、申し訳ないと謝りながら、同時にかすかな恋に似た気持ちの芽生えを、焼きつくほどに後ろめたいなか、感じていた。

 

 安っぽい気持ちと言われれば、確かにそうだ。

 

 でも、ウェンツは、アメリカに住む日本人の母と家族を守るためには、その運命のボタンを押すしかなかった。

 

 それはわかっている。

 

 でも、それならなぜ自分はここにいるのだろう。

 

 ウェンツは、その鏡子の痛々しさに、自分のジャケットを着せようとした。

 

「ノー・サンキュー!」

 

 鏡子の感情の嵐は、秋から冬に向かう若干の寒さよりも、父母、そして兄を奪ったウェンツへの敵意に吹きすさんでいた。

 

 そして、思いがけずに出たその立派な教育を受けたことを感じさせる英語に、ウェンツはさらに追い詰められた。

 

 

告発のまなざし

 そう向かい合う鏡子とウェンツを、遠巻きに闇市の人々が見ている。

 

 その視線が痛いほどウェンツたちに突き刺さる。

 

「みなさん、私はアメリカに渡ったあなたたち日本人の子です。日本語もしゃべれます。そして、合衆国も連合軍も、あなたたちを見捨てはしない。そう信じています」

 

 ウェンツは大きな声をみなにかけた。

 

「GHQ民生局のウェンツ・サクライといいます。何かお困りのことがあれば、何でもお聞かせください」

 

 まだ視線は痛い。あたりまえである。日本の軍隊は230万人、一般の日本人も80万人も死んだのだ。1億人のうち310万人、100人いれば3人が死んでいるほどの大きな戦争だったのだ。

 

 父を、母を、子を、孫を、皆失っていた。そして、まだ戦争に行ったままかえってこれない人々が、東南アジアにも、中国にもシベリアにも多くいた。

 

 そこに連合国、英米軍が戦後復興のためといって入って、まともに受けいられるはずがない。それは米軍人であり、流れる血の半分は日本人のウェンツもよくわかっていた。

 

 だからレオナルドはひそかにジープでいつでも逃げられるようにしていたし、また通訳をかねて日本の警察官・中居巡査もつれて万が一のときに備えていた。

 

 その一触即発の恨みと悲しみで満たされた場で、巡査もどうしていいかわからないようだった。

 

 いや、巡査もまた、その感情を持っているのだ。

 

 ウェンツもそれを思い、レオナルドはどう思っているかわからないにしても、半分以上、殺される覚悟だった。

 

「明日また来ます。何か食べるものを持ってきます」

 

 闇市のみなの視線が泳ぐのが明らかにわかった。うらみはあるが、それ以上にひもじいのだ。

 

「本当ですか!」

 

「急いでください! うちの嫁が赤ちゃんがいるのに、飢えでお乳が出ないんです!」

 

 女たちが叫んだ。

 

「わかりました。GHQ民生部、合衆国陸軍ウェンツ少尉として、責任を持って皆さんにお届けします」

 

 ウェンツはそう答えて、振り返ったが、鏡子はその瞳で最後の力を振り絞って、ウェンツを強く、告発するような視線で見上げていた。

 

 まだ、ウェンツはその告発する罪に、内心は身体が裏返るほどの痛みからは解放されない。

 

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まぼろしの夜

 

 その夜、ウェンツは連合軍が接収、つまり占領した日本を支配し続けるために借り上げたホテルの部屋で、眠ろうとしていた。

 

 

 

 母は日本の美しい町並みのことをよく話してくれていた。

 

 瓦屋根がつながるなか、美しい月。それを愛でながら飲む日本酒。

 

 蚊帳という蚊の入ってこないように張るネットのなか、母親の子守唄を聴きながら眠る夜、畳と布団のにおい。

 

 

 

 それを、自分は焼き尽くした。

 

 その住む人々、母親も子供も。

 

 命令とはいえ、あまりも心が痛んだ。

 

 かといって、米兵仲間、米士官仲間で話す内容は、どっちみち俺たちには代わりがいるんだ、ということだった。

 

 

 

 

 眠れない夜が、これまでのことを蒸し返してくる。

 

 ウェンツはドイツとの戦いで、爆撃の名手として活躍してきた。

 

 

 

冷たい物理学

 

 ウェンツはドイツとの戦いで、爆撃の名手として活躍してきた。

 

 ユダヤ人を組織的に抹殺した狂気の集団、ナチスの指揮するドイツ軍の、ヨーロッパでの拠点を攻撃した。

 

 鉄道橋、高速道路、そしてナチスドイツの戦闘機や爆撃機を組み立てたり、部品を作る工場を狙った。

 

 ウェンツは連合軍の爆撃機に搭載された当時のハイテク兵器、ノルデン爆撃照準器の理論と、その実用について、指導的な役割となるほど勉強していた。

 

 物理学で大学に在籍していたが、そして戦争が始まる直前、米陸軍航空隊に入り、給費学生として大学を卒業し、そのまま着任したのだ。

 

 ノルデン照準器、それは爆撃手が狙った目標に爆弾を落とすためのタイミングの計算と、爆撃機全体の操縦を一台で統合して行うものだった。

 

 それまで爆撃手の照準操作は、パイロットとの息のあった協力が必要だった。

 

 ちょい右、左、そのまま、そのまま、と声をかけながらパイロットに舵を切ってもらう、それしかなく、それは伝言ゲームとなって次第に狂っていく。

 

 そこでナチスも日本も、パイロットが飛行機を急降下させて爆弾を目標にたたきつける急降下爆撃が本命とされ、そのためには激しい対空砲火の只中に飛び込むしかなかった。

 

 だが、アメリカは日本やドイツでは命中率が低すぎるとした水平爆撃を、当時のハイテクの応用で高高度からの可能にした。米軍の最高機密であり、1944年まで爆撃手は自分の命と引き換えにでもその秘密を守ることを特別に誓わされた。

 

 ドイツも必死に科学を使い、電波で誘導する爆弾を作り、戦艦を一発で沈める戦果をあえたが、結局ノルデン照準器を搭載した爆撃機の大群に負けた。

 

 日本でも海上の船のエンジンの熱を感知して落ちていく爆弾を作ったが、これも圧倒的な戦力差をひっくりかえすことは出来なかった。

 

 

 

若き決意

 

 そのノルデン照準器の操作の研究から熟練をめざしたウェンツには、思いがあった。

 

 ドイツ人も、日本人も、イタリア人も、ひとそのものが悪いのではない。

 

 いつの間にか狂いだした世界の歯車が、善悪を作り出してしまったのだ。

 

 特に士官仲間では、日本陸海軍をさげすむことはあまりなかった。

 

 ナチスとの戦いでも、あの独裁者ヒトラーに対する気持ちはあったが、日本の場合、中国を侵略しているというファシズムの国だとアメリカの新聞は書きたてたが、母も父も、中国と日本について、やっぱり歯車が狂っている、というだけだった。

 

 ならば、歯車を直そう。それがウェンツの心だった。

 

 

 

 

 そして、できるだけ小さな犠牲で、歯車を直したかった。

 

 一人の士官にとって、それは大きすぎるのぞみだった。

 

 それほどに、戦争は苛烈だった。

 

 

 

 ドイツが占領したフランスへの爆撃任務では、多くの仲間を失った。

 

 乗っていたB-17爆撃機は、白昼の爆撃任務では必死に武装を強化したものの、ドイツの迎撃戦闘機に次々と撃ち落とされた。

 

 それでも数で押し切って独裁者ヒトラーを追い詰めたが、ドイツは世界初のジェット戦闘機やロケット戦闘機を実戦に投入し、猛烈に抵抗した。

 

 ウェンツも、爆撃照準の前後は、機銃を操作し、ドイツ戦闘機と撃ちあった。

 

 クルーという同じ機に乗る仲間も、何人もその戦いで負傷した。

 

 

 

 墜落する爆撃機からの悲鳴、そして地上に着弾した爆弾の爆発に寄って震える空気、そして絶望的な戦況にもかかわらず、驚嘆すべき意地で抵抗する迎撃機。

 

 機上で被弾したクルーの絶叫。

 

 もう二度とやりたくないが、しかしそうもいかないことをなまじ知っているがゆえに、ウェンツは苦しかった。

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焼け跡のマリア

 

「ウェンツ君、眠れなかったようね」

 

 

 GHQ民政部のオフィスにウェンツが入ったとたん、いつものマリー・アントニー民政官補がさきに話しかけてきた。

 

 

「すいません」と答えながらウェンツはコーヒーをマリーとともに入れ始めた。

 

 

「早速視察ね。あなたは優秀と聞いているし、経歴もそうだし、なによりもフルハウ中佐が推薦しただけのことはあるわ」

 

 

 マリーはそういいかけると、一気に話し出した。

 

 

 

 

「で、視察先でわざわざ自分の任務の犠牲者に会って、謝罪したり、支援を約束したりして罪の意識から逃れようとしていたんでしょ。

 

 それも、そういうところにありがちなことにあなたの心を惹くような女の子がいたりして、それで」

 

「ミス・アントニー、それはひどすぎます」

 

 ウェンツが弱ると、マリーは笑ったが、直後にトーンを落として続けた。

 

 

 

「そうするの、わかるわ。

 

 だって、私があなたの立場だったら、きっと同じことしていたと思うもの」

 

 マリー民政官補は目を流した。

 

 

「さあて、仕事は山ほどあるわ。戦争なんて、簡単に始まるけど、終わらせるのは本当に大変ね」

 

 しかし、ウェンツは思っていた。

 

 

 僕の戦争は、まだ終わっていない。

 

 

傷跡

 

 

 マリー民政官補の視線の向こうの焼け野原。

 

 

 

 瓦礫と灰と炭と、焼夷弾爆撃の熱で、空にもがきつこうとしているかのように曲がった鉄材の焼け跡。

 

 

 

 それがかつては見ることが出来なかったという東京という都市の中の起伏が、もうここには草木も生えないと思えるほどのすさまじい爆撃の爪あととして見える。

 

 

 

 それが余計にウェンツをそのボタンを押した人間として苦しめる。

 

 

「きっと、あなたの気持ちは収まることはないでしょう。

 

 でも、私がこういったところであなたはまた行くでしょう。

 

 あなたって、実はやさしいように見えて強情だし」

 

「恐縮です。でも、いいですか」

 

「手配はしてあるわ」

 

「ありがとうございます!」

 

 ウェンツは敬礼した。

 

 

 

「あなたのレポは私のサインを沿えて提出した。

 

 ネメシス、1万メートルの高高度を飛ぶB-29をさらに上から襲う、日本陸軍の伝説の迎撃機。

 

 あなたの仕事は本来はその調査よ。忘れないでね。

 

 まあ私としては、あなたを信頼しているわ。

 

 実はね、フルハウ中佐と賭けてるの」

 

「なんですかそれ」

 

「あなたの気持ちが届くかどうか」

 

「ひどい」

 

「まあ、がんばってね。いつもの中居巡査と一緒に行ってね。日本人を信頼しているけど。あ、今日はコート着ていったほうが良いわよ。雨も降るみたいだし」

 

 マリーは微笑んだ。

 

 

 

「いえない傷とはわかっていても、どうしてもそれを埋めたい。

 

 人間は悲しいわね。生まれながらにして傷を負っている。そして、傷ついて傷ついて。

 

 どこにいけば、こんな悲しい連鎖が終わるのかしらね」

 

 

 

 マリーはそういうと、窓から空を見上げた。

 

 

 

「きれいな空。本当に雨なんか降るのかしら」

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不屈の魂

 

 ウェンツは甲州街道を走るジープから空を見上げながら、思い返した。

 

 ところどころにバラック、基礎もなく端切れの柱と板だけで作った粗末過ぎる小屋が建ち、人々が生活している。

 

 物資不足はひどいものらしく、民政局でも対応を急いでいるのだが、やはり戦争の後始末は難しい。

 

 後ろからトラックがついてくる。憲兵のジープと車列を組むが、人々は目もやらずに、黙々と芋の蔓を切って、それを瓦礫を燃やした火のうえに、スチールヘルメットを鍋にしてかけ、食事の支度をしようとしている。

 

 物資は戦時中からの配給制がのこっていて、配給所には、到底皆をまかなうには足りない量ながら、人々は行列を作って配給を待っている。

 

 赤子の声が聞こえる。あやす母親の声。

 

 自分がおとした殺戮から逃れられた命。

 

 そして、この命から、すべてが始まる。

 

 

 

 日本も、ここからはじまる。

 

 

 

「馬鹿野郎! カンナをそんな使い方するんじゃねえ!」

 

 大工さんらしき声が聞こえる。

 

「刃がもたねえだろうが! ったく、手前らの刃物は音でわかる。音ばっかりギシギシ立てて、ちっとも切れやしない。カンナがけってのはな!」

 

 見えたバラックづくりの現場で、法被(はっぴ)を着た棟梁が、寸時の呼吸ののち、一息にかんなをかけぬく。

 

 しゃあっと絹の音のような美しい響きとともに、かんなくずが優雅なリボンさながらに空へ吹き上がっていく。

 

 すげえ、と誰かが口にする。

 

「おら、とっとと身体動かせ! 動いてナンボだぞ!

 

 もたもたしてると冬にまにあわねえぞ!」

 

 江戸弁の声が、この国の、この東京の再出発への意思を感じさせていた。

 

 なんと強い国だろう。

 

 日本は負けても、日本の心、魂は、不滅なのだ。

 

 

 

 それが、ウェンツにとっての救いだった。

 

 かすかではあったが、それがあることが、彼をかすかに留保させた。

 

 となりのレオナルドが、彼の肩を叩いた。

 

 

 

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青い地獄

この1年ほど前。

 

「日本上空、いまのところ敵機なしだな」

 

「ああ。空母から出撃した海軍機がかなり日本の航空基地をやっつけたらしい」

 

 

 1944年。

 

 ウェンツの乗ったB-29「サンダーフィッシュ」は、爆撃中隊の指揮機として高高度を飛んでいた。

 

 

 

 この高度では外気温はマイナス20度を下回る。

 

 その過酷さからは当時最新鋭のB-29の与圧空調装置が守ってくれるものの、一枚壁の向こうは地獄である。

 

 与圧は被弾すればすぐに抜け、同時に機内のクルーを外に吸い出してしまう。

 

 何度かの爆撃行で、仲間内ではこのスーパーフォートレスの装甲は知っていても、日本軍迎撃機の機関砲にはかなわない。

 

 機銃で追い払うしかないところで、装備するFCSを持つスペリー遠隔銃塔の威力も操作性も命中率も、B-17よりはるかに高度なことはみな認めている。

 

 しかし、それでも戦いの酷薄さは変わらない。

 

 地上の日本人は知らなかったかもしれないが、ここもまたおなじ戦場なのだ。

 

「変針目標点まであと20分」

 

 航法士が告げる。

 

「ウェンツ、出番までノルデンの動作を見てくれ」

 

 後ろのジャンプシート、折りたたみ椅子からフルハウ中佐が指揮を執る。

 

「はい」

 

「訓練のとおりでいい。あとはノルデンがやってくれる。手を添えるだけでいいんだからな」

 

 ウェンツにやさしく、そして冷静に指示する中佐に、ウェンツは実の父親のような信頼を感じていた。

 

「そろそろ日本機が来るぞ。各銃手、そろそろ休憩を切り上げろ。それと、ストラップをはずすなよ」

 

 前回の爆撃で、日本軍機の体当たりを受けた別の機のクルーが、傷ついた機体から噴出する空気に吸いだされることがあったばかりだったのだ。

 

 ウェンツとしては個人的にはあまり縁のない男ではあったが、空の戦場、明日はわが身、と思わざるを得なかった。

 

 テニアンでもサイパンでも、日本空襲は、日本で知られるよりも、常に戦死者の棺が行きかう過酷な戦場だったのだ。

 

 爆撃を受ける地上も、爆撃する空も、どちらも地獄だ。

 

「レーダーとナビゲーション、もう一度確認だ。ここからの空は戦場だぞ」

 

 ウェンツは、そのとき、B-29の機首のガラス越しに、見た。

 

 

 

 

 富士山だ。

 

 

 

 残酷なほど、青く白く、あまりにも美しい、地獄。

 

 

説明
 若く、そしてやさしすぎる日系の米軍爆撃手・ウェンツ少尉と、彼に課せられた任務の空爆で家族を失った日本人の女の子・香椎鏡子(かしい・きょうこ)。
 本来隔てられるべきその二人。しかしウェンツ大尉の率直な償いの気持ちと、女の子の大いなる意思によって、立場を超え惹かれあい、歴史と運命に立ち向かっていく。
 容赦なく巻き込んでくる戦争。欧州戦線で生き抜いた少尉は、母に聞かされ、あこがれ続けた日本を空爆する運命に苦しみ、終戦後の日本占領の現場で、鏡子に出会い、その貧しさのなかでも失われない意思の力に魅入っていく。
 しかし、そんな少尉の心が鏡子の心を和らげて行くなか、少尉は思い返す。
 日本を爆撃する高高度のB-29編隊を、ただ一機だけ、さらにその上空から襲い掛かる日本の迎撃機がいた。
 トージョーでもオスカーでもフランクでもなく、たった一機なのにネメシスとB-29クルーに呼ばれ、恐れられた伝説の迎撃機。
 ウェンツはGHQに所属しながら、そのまぼろしの迎撃機の秘密を探っていく。

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B-29 航空 飛行 ミリタリー ノルデン 戦争 太平洋 

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