どうしてお前はそうなんだ?
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 アーバンラマ。新大陸へと旅立つ大型船がそこにあった。

 

 河川を行き来する小型の船は珍しくもないが、このキエサルヒマ大陸を離れて旅立つともなれば、これぐらいの大きな船で無いとダメだろう。

 着々と準備が進む中、この船を開拓業者に提供したオーナーは晴れ晴れとした気持ちで、港にあるこの船を今日も見に来た。

 

 船尾から船首へと視線を巡らす。

 もうすぐ、ここから離れていくこの船を愛しおしげにながめた。

 眺めたがすぐにその視線は止まった。

 

 半眼でただ一点を見つめる。

 「まぁ、こういうわけで許可がほしいんですが」

 隣に立つ黒髪の青年も同じような表情で船を見ていた。

 「いったいいつのまに、こんなことになったんだ…」

 たしかこの船の進水式で海へと浮かべたとき、こんなことにはなっていなかったはずだ。と、オーナーは自分の記憶をたどる。

 眉間の皺を伸ばすように指先を当ててしばらく、唸る。

 「どうでしょうか?」

 青年は再び訊いた。

 オーナーは、ため息をつくと青年に向き合った。船首部分にある船の名が刻まれた部分を指さして。

 「いますぐ作業に取り掛かりたまえ」

 

 青年は礼を言うと、足早に造船スタッフのいるオフィスへと向かった。

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 スクルド号。のちに伝説ともなるこの大型戦は、新大陸とキエサルヒマとを結ぶ唯一の連絡船だった。

 そして不思議な話にも満ちていた。

 

 

 作業員1の証言。

 「おれは確かに、内装作業終わって宿舎に行ったんだ。そのときに、確かに日が落ちかけていたけど、船の名前はマトモだった」

 

 作業員2の証言。

 「しらねーよ!俺じゃねーって!!……たしかに外装とかで、塗装作業はしてたぜ?でもな、いくらなんでも、一人で夜中にペンキ持ち出して、しかも船体の外側に塗ろうとはおもわねーよ」

 

 事務員の証言。

 「わたし、みたんです!!この事務所から、家に帰るとき船の先…えーっと船首っていうんですかそこに、人影がいたのを!!!……だって、そのあとロープみたいなのが付いてるの見て…わたしてっきり自殺だとおもって……でも、いそいで船に近づいたら誰もいないんです!!」

 

 そして一夜にて、大きく船に刻まれた新しい名。

 オーナーも呆れてしばらくそのまま動くことが出来ず、その硬直した姿勢のまま馬車で自宅に送り届けられたという。

 

 窒息。

 船にこの名前が刻まれた。

 新たなミステリーである。

 

 開拓会社の警備は大騒ぎだった。

 「新手の嫌がらせかっ!!」

 「侵入者がいたのか?」

 と憶測が飛び交った。

 

 「妨害工作にしちゃぁ、やけに地味だな。しかもダメージが、痛いんだか痒いんだか…」

 キムラックの難民指導者となったサルアも呆れた。

 小指で耳の穴を掻いて出すと、ふぅっと息で吹き飛ばす。

 オーナーの元から戻った黒髪の青年が、半眼で港のほうを見ていた。

 今は魔王とまで、呼ばれている男だ。

 「まーこういうことをやりそうなやつに、心当たりがあるといえばあるし、ないといえばないかもしれないが……」

 こめかみを押さえて悩む魔王など、珍しい光景かもしれない。と、サルアはそんな感想を持った。

 「船長が来て、謝ってたぜ。 難民の皆様に不安を与えるような事件が起きてしまい、申し訳ないってな。」

 

 どこまでその言葉を信用するべきか、魔王は悩んだ。

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 旅立ちの日。

 キエサルヒマを離岸して、ひと騒動があった。

 密航者。

 いや、船に途中乗船してきたのを多数目撃されているから「密航」とは違うのかも知れないが。

 

 ずぶ濡れになった彼女に毛布と着替えを差し入れたのは、船長だった。

 魔王となった青年としばらく話をしていたようだ。誰かが持ってきたのかわからないが、その少女は両手の中に、あたたかい飲み物が入ったマグカップを持っていた。

 濡れた服を脱ぐので、魔王も船長も一度部屋から出た。

 

 「黒魔術士どのおおおおおおおおおおおおお!!!」

 船長の声と共に、彼の肩に乗っていたオウムが勢い良く魔王の顔面に飛んできた。

 「どあっ!!」

 オウムは器用に魔王の顔面をとらえてそのまま張り付いた。

 「いけませんねぇ。いたいけな少女を連れ込むなんて」

 「どこをどうやったら、おれが連れ込んだように見えるんだ」

 鳥の鳴き声の中から魔王の声がする。

 「航海日誌にどうかいたものか」

 どこから取り出したのか、船長はノートにすらすらとペンを走らせる。

 

 魔王、大陸から少女を誘拐。

 

 なんとか、オウムを顔から引き剥がして(ぼたっっという音が響く)そのノートを覗き込んだ魔王は、こめかみに血管を浮かせた。

 キィという金属音がして船室のドアが開く。中から少女がひょっこりと顔を出した。

 「あの、着替えありがとう……って、どうしたの?」

 顔に引っかき傷をつくった魔王を見上げて少女は首をかしげた。

 「いや、なんでもない」

 

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 魔王、食堂を占拠。

 「難民に迷惑かけないように、誰もいないときを見計らって食べただけだろうが」

 右舷を破壊。

 「あれは!クリーオウが、船室に虫が出たって騒いでそこらのものを投げたからだろうが!!」

 魔王、巨大魚を召喚。

 「釣り糸垂れて、ギンイロオオメダマサバ(小魚)を釣っただけだ!!」

 

 「いけませんねぇ。嘘なんて」

 「お・ま・え・の!!!!いいかげんな嘘八百の航海日誌のほうに問題があるっちゅーとるんだ!!!」

 数日すると慣れたもので、船長と黒髪のこの青年とのやり取りはもはや日常風景となっていた。

 

 

 後日、破壊されたスクルド号から数冊のノートが発見される。

 それはのちにキエサルヒマ大陸の新大陸開拓業者を経て、子供向けの童話にもなった。

 

 題して、

 スクルド号船長の伝説。

 

 魔王オーフェンがスクルド号を襲う、それと戦うキース船長。

 キース船長は、魔王が召喚した黄金の鳥によって苦難にあうも、新大陸へとたどり着いた。

 云々。

 

 

 魔王の日記。

 スクルド号は悪のキース船長によって占拠され、恐怖支配が行われた。

 云々。

 

 

 「なにやってんのかしら、あの子」

 育児に慣れてきた女性が、子供向けの絵本を見てポツリともらす。

 遠く離れてしまった弟を思う。

 

 

 「何、笑ってんだ?」

 「わたし、こんなに長い間船に乗るのって初めてだから、もうちょっとじめーっとしたっていうか暗い感じだと思ってたんだけど」

 水平線の先に見えてきた、新大陸を見て舷側にもたれながら、風にゆれる髪を押さえて少女は微笑んだ。

 つい先ほどまで船長のオウムとバトル(200戦連勝中)を繰り広げて、難民から拍手を受けていた魔王は複雑な気持ちで彼女を見た。

 「ずっと、こんな旅だったら、いつでもしたいな」

 

 

 

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ああああ。オチが弱くてすいません。中身も薄っぺらいですね。

だれか膨らませてください(ぉぃw 

説明
秋田禎信BOX侵食率上昇中につき、ふとしたことから思いつきました。
ネタバレ気味。
あんまり慣れてないので、暖かくみていただけると嬉しいです。
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魔術士オーフェン オーフェン クリーオウ キース 秋田禎信 

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