こっち向いてよ!猫耳軍師様! 11
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「あんた。昨日の政策案のまとめ、今日中に出しなさいよ!」

 私がそう言うと、北郷は書簡がうずたかく積まれた机から顔を上げた。

「あ、あの。荀ケさん? この書簡の山が見えないですか?」

 苦笑いと言うのにふさわしい表情をした北郷が、なぜだかとても可愛らしく思えた。

「そこに積んである書簡も、全部あんたが出した政策案なんだから、あんたがちゃんとまとめなさいよ」

 こいつの机の上に積まれている書簡は、すべてこいつが出した政策案に関するもの。なんでこんなにもこいつの政策案に関する書簡があるのかと言えば、こいつが未来の知識をもとにした政策案をたくさん出したからだった。

「ひ、日付が変わるまでには出しに行くよ」

 そう言い終えると、北郷は机に広げられた書簡に視線を落として言った。

 

(ふぅ。体に異変はなさそうね)

 書簡仕事をしている北郷を見ながら、私は少し安心していた。

(この前の仮説が正しいのか。それを確かめるために未来の知識を使った政策案を出させてみたけど、やっぱり“大局”が示しているのは、三国鼎立までの流れみたいね)

 そのことを確かめたくて、色々と政策案を出させてみたけれど、こんなにも使える政策案があったことには、少し驚いた。

 こいつを私の部下にしたのには、それらを確かめたいという思いもあったが、その他にも色々と確かめたいことがあったから、こいつはついこの間から城内の一室に住むようになっていた。

「うーん……」

 書簡を前に頭を抱えている北郷を見ながら、私は少し頬を緩めていた。

「日が変わるまでじゃ遅すぎるわ。今日の夕暮れまでには出しなさいよ」

「その他の書類を、全部後回しにしていいならなんとか……」

「そんなの許すわけないでしょ。全部今日中にやりなさい。それくらい出来るでしょ?」

「じゅ、荀ケの基準で考えれば出来るかもしれないけど、俺は荀ケほどの能力はないよ」

 顔をこちらに向けることをせずに、北郷は書簡を書きながらそう言った。

「あんたは、私がつくった政策決定局のただ一人の局員なんだから、それくらいは出来なさいよ」

 私がそう言うと、少し間をおいてから北郷が答えた。

「……この場所を目指して頑張ってきたから、出来る限りのことはするよ。まぁ、俺が頑張ったところで、たかが知れてるかもしれないけど。それでも、出来ることはやっておかないと」

 その声色は何かを決意しているかのようで、私はその言葉になんと答えていいのかわからなかった。

「と、とにかく。今日中に提出だからね! 遅れるんじゃないわよ!?」

 私はそう言ってから、隣にある自分の執務室へと向かった。

 

 

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一刀視点

 

――バタンっ

「……ただ一人の局員。か」

 荀ケが執務室へと向かった後、俺はそう口に出していた。

(あの荀ケが、あんなことを言ってくれるとは思ってみなかったけど、これも曹操さまのためなのかな?)

 今までは、ただ荀ケのそばにいられればいいと思っていたけど、実際に近くまで来ると、もっと近くに行きたくなる。

(荀ケに触れてみたい。真名を呼んでみたい。抱きしめたい。キスをしたい)

 そんな願望があふれてくる一方で、俺を取り巻く現状が、願望は所詮願望のままで、叶うことなどないんだと、そうささやいてくる。

(荀ケが俺を呼んだのは、赤壁の後に滅んでしまうだろう俺の知識を、未来の世界での知識を、少しでも多く出させるためなんじゃないだろうか?)

 この前の定軍山での出来事で分かった俺が滅びてしまう条件。歴史が変わってしまえば、俺が滅びてしまうという条件。

 荀ケが敬愛している。というか、愛している曹操さまを勝たせれば、俺は滅びてしまうだろう。

(たとえ、そうだとしても。荀ケが危険な目に合わないためには、曹操さまには勝ってもらわないと困る。俺の知る歴史通り、赤壁で曹操さまが負けて、それで俺が生き延びたとしても、もし荀ケが死んでしまったら、俺はきっと、きっと後悔をする)

 ふと、書簡を書く手を止めて、俺は荀ケが出て行った扉を見つめた。

「俺が死んだら、君は悲しんでくれるかい?」

 そう呟いた俺の声は、扉に阻まれた後、かすかな余韻を残して消えて行った。

「って、そんな訳ないか。……さ。仕事しよ」

 俺は一度頭を振ってから、書簡に視線を戻した。

 その時の俺には、そう言って自分をごまかすぐらいしか出来なかった。

(もう荀ケは諦めるしかないんだ)

 心のどこかにそう思う俺がいて、自分は死んでしまうのだろうと、そして自分が死んでしまっても、きっと荀ケは特に気にすることもなく、曹操さまが勝ったことを喜んでいるんじゃないかと、そう諦めていた。

(俺の本心はどこにあるんだろう。生きたい? 荀ケを守りたい? それとも……)

 そんなことを考えながら、俺は書簡を埋めて行った。

 

 

「……ねぇ、風。最近、桂花が自分の直属の部下に男を採用したっていう噂を聞いたのだけど、それは本当?」

「そですねー。風もまだ直接確認したわけではないのですが、書面上はそうなってますねー」

「書面上?」

「はいー。噂を聞いてから人事を確認したのですが、書面上では北郷一刀さんって人が部下になってましたねー」

「北郷一刀? 珍しい名前ね。……どんな人物だかわかる?」

「えっとー。この前の文官採用試験で合格した人で、元警備隊の人なんですが、なかなか面白い発想をする人ですよー」

「面白い発想? そう言えば、この前の採用試験は風が責任者だったわね。でも、この前の採用試験で入ってきたのはいいとして、そんなに有能なの?」

「試験の解答を見るに、かなりの発想力は持っているとは思いますがー」

「それがすぐに発揮されている訳ではない。ということ?」

「はいー。前の部署では、それなりに政策案を採用されていたようですが、あの桂花ちゃんが目をとめるほどのことはしてないように思えますねー」

「ふぅむ……」

「あ。それとですねー」

「うん? まだ何かあるの?」

「どうやら、この北郷さんは文官になってから、秋蘭ちゃんと親しくしていたみたいですよー」

「秋蘭と?」

「はいー。秋蘭ちゃんの部屋から出てくる北郷さんの目撃情報が、多くありましたので、たぶん間違えではないと思いますー」

「そう。……風、悪いけど引き続き調べてみてくれないかしら?」

「いいですけどー……」

「な、何よその目は」

「いえいえ。華琳さまもやきもちをお焼きになるんだなぁと思いましてー」

「や、やきもちなんかじゃないわよ!」

「そですかー。では、そう言うことにしておきますねー」

 

 

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桂花視点

 

「うーん……」

 その夜、私はある部屋の前を行ったり来たりしていた。

(まったく、私がここまで来てるんだから、気が付いて出てきなさいよ!)

 つい最近、城内にあるその部屋の主になった男は、私が心の中でどんなに悪態をつこうと一向に出てくる気配を見せなかった。

(なによ。もう寝たって言うの? この私が、直々に来てやってるって言うのに!)

 そもそも、夜更けにあいつの部屋に来たのには訳がある。最近、風が北郷のことを嗅ぎまわっているのだ。そのことに私が気付けているということは、風がわざと私に気付かせようとしているようにも思えた。

 そもそも風は、北郷が文官になった時の試験責任者だし、あいつの発想力のことは知っているはず。それに、もし私が男を部下にしたことを疑問に思ったのなら、風の性格からして、直接私に聞いてくるか、または私にばれない様にあいつの身辺を探るはずだ。

 それがわざわざ私にばれるような調査の仕方をするということは、風の意思で調査をしているのではないということではないだろうか。風ではなく、それでいて風に調査を命じられる人なんて、この国に一人しかいない。

(華琳さまが北郷のことを調べさせていて、風はそのことを私に知らせようとしているんじゃないかしら)

 もしそうだとしたら、北郷自身が呼び出される可能性も出てくる。あいつのことだ、華琳さまに何か聞かれたら、包み隠さずすべて話してしまうかも知れない。

 そんなことになったら、北郷が消えてしまう運命が決定づけられてしまう。それだけは避けたかった。

(あいつには生き残ってもらわないと。少なくとも、私の気持ちがはっきりするまで……)

 

 この時の私はそう思うことで、華琳さまへの思いと一刀への思いとに、どうにか折り合いをつけようとしていた。

 

(と、とにかく。あいつにそのことを伝えておかないと。いつ本人が呼び出されるとも限らないし)

 今日は、そのためにわざわざこんなところまで来たのだ。早いところ、あいつに話をして自分の部屋に帰りたかった。

(北郷は別にいいにしても、こんな夜中に男と出会ってしまったらどうしよう。……あぁ、想像しただけで鳥肌が立ってきたわ)

 そんなことを思いながらも、あいつの部屋の前で声をかけられずにいるのは私で、声をかけようとして、その声が私のからあいつへと発せられる前に、私は口を閉じてしまう。そんなことを繰り返していた。

「ほ……」

 数度目で、なんとか初めの言葉を発することが出来たけど、それでもその後を続けることが出来なかった。

(わ、私がここまで来てるんだから、気配とかで気が付きなさいよ! あんた元警備隊でしょう!?)

 そんなことを思いながら、私は部屋の扉を恨めしく見つめた。

(私が、私が来てやってるのに……)

 北郷が出てくるのなんて待たずに、自分から入っていけばいいことなのは分かっていた。

 でもそれが出来なかった。自分から入ってくのがひどく恥かしくて、入ってなんて言えばいのかわからなくて、あいつがどんな顔をするのか少し不安で。とにかく、自分から入れないでいた。

 

 

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 そうして、北郷の部屋の前で右往左往していると、ふいに後ろから声をかけられた。

「……? 荀ケ?」

「ひゃっ!」

 その声にびっくりして、私は思わず尻もちをついてしまった。

「いったぁーい……」

 床に思い切りぶつけてしまったお尻をさすりながら、声のした方を見上げると、部屋の中にいるはずの北郷が不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「やっぱり、荀ケだ。……こんなところでどうしたの?」

 そう言いながら差し出された北郷の手を、私は無意識のうちにつかんでいた。

「び、びっくりさせるんじゃないわよ!」

「ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど……。んで、どうしたの? こんなところで」

 私の手をひいて立たせたあと、北郷はそう尋ねてきた。

「そ、それは……」

 素直に“あんたに用事があったから”とは言えなかった。これが、華琳さまからの命令だとか、仕事とかだったらすんなり言えたのだろうけど、完全な私用で来た私には、それを言うだけの勇気がなかった。

「それより、あんたはどこに行ってたのよ! も、もしかして女!?」

「違うよ。てか、そんな風に見える?」

 北郷は少し不服そうにそう言った。

「ふ、ふん。違うならいいわ」

「ふぅ。……」

「……」

 少しの間、私たちはお互いに黙った。

(と、とにかく用事を済まさないと)

 私がそう思っていると、北郷が話しかけてきた。

「まぁ、立ち話もなんだし、部屋入る? お茶までは出せないけど、ここよりはマシだと思うよ」

「そ、そうね」

 私が同意すると、北郷は部屋の扉を開いた。

「ちょっと待ってね。今灯りをつけるから」

 そう言って、北郷は先に部屋に入った。私は部屋の前で、灯りがつくのを待っていた。

「……お待たせ、どうぞ」

 しばらくすると、北郷がそう声をかけた。

「え、ええ」

 少し緊張しながら、私は北郷の部屋に入った。

 部屋の中は、昔行った長屋の部屋と同じように、色々なものが置いてあった。でも、前は見かけなかった本の類が多く机に置いてあった。秋蘭から本を借りてまで勉強をしていたという北郷の頑張りを垣間見れたような気がして、少しうれしかった。

「ごめん。李典隊長からもらった発明品とかで、少し散らかってるんだ」

 少し恥ずかしそうにそう言いながら、北郷は私に座るように促した。

「ふん。ちゃんと整理しなさいよ」

 そう言いながら、私は勧められた椅子に座った。

「……それで?」

 私が椅子に座ると、北郷は寝台に腰掛けて、そう話しかけてきた。

「な、何よ」

「いや。こんなところにわざわざ来たってことは、なんか訳があるんだろう?」

 そう言う北郷に促されて、私はここに来た目的を話した。

「あんたを私の部下にしたことで、華琳さま、いえ曹操さまがあんたのことを調べ始めたようなのよ。今はまだ、程cに過去の行動とかを調べさせてる段階みたいだけど、いずれはあんた自身を呼びだして、直接お調べになる可能性があるわ」

 私がそこまで話してから北郷の方を見ると、あいつは真剣に私の話を聞いていた。

「そこで、もしあんたが直接曹操さまに呼び出された時の対応の仕方を言いに来たの」

 私がそう言うと、北郷は何かを考え込むような表情になった。

「いい? 何か聞かれても、あんたが未来から来ただとか、未来の知識があるだとか、そう言うことを言ってはだめよ。あくまで、あんたは東の島国から来た渡来人で、たまたま私の故郷にいて、たまたま私の部下になった。そう言うことにしなさい」

 私が言い終えると、なぜか北郷は少し悲しそうな表情になった。

「……」

「ど、どうしたのよ?」

 悲しそうな表情のまま黙っている北郷が、少し不安に思えた私は、思わずそう声をかけた。

「……それは、さ」

 意を決したように、北郷は口を開いた。

「荀ケが曹操さまに気に入られるためかい? それとも……」

 不安そうな目で私を見つめる北郷から、目をそむけることは出来なかった。

 

 

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一刀視点

 

「荀ケが曹操さまに気に入られるためかい? それとも……」

(それとも、俺を守るためかい?)

 俺はそう聞きたかった。

 

 部屋に戻ってくるまで、城壁でずっと考えていたことを聞いてしまいたかった。たとえ自分が死んでも、荀ケを守りたいという気持ちはもちろんある。でも、そうすることで、荀ケの中に俺は残るのか。それが、ただただ不安だった。

 荀ケの迷惑になることをやめて、少しでも荀ケのそばに行って、それで少しでも荀ケの役に立てるように頑張ろうと誓った時は、こんなことで悩むなんて想像もしなかった。

 でも、近くに来れば来るほど、荀ケにとって俺がどんな存在なのかが気になった。

 

 このまま荀ケが歴史を変えて、曹操さまが天下をとる代わりに俺が死んで、それで荀ケは俺のことを覚えていてくれるだろうか。

 すこしでも、俺がいなくなったことを悲しんでくれるだろうか。

 

 ずっとそのことを考えていた。城壁の上でもそのことを考えていて、結局答えが出なかった。

(そんな訳ないだろう? 荀ケはあくまで曹操さまのために俺を利用しているだけなんだ)

(けど、俺が倒れた時に、俺の名前を叫んでくれたじゃないか。きっと、少しは俺のことを心配してくれているはずだ)

 そんなやり取りを頭の中でずっと繰り返して、それで部屋に帰ってきたら、荀ケがいた。

 

 胸が高鳴った。

 

 もしかしたら、俺に会いに来てくれたのかもしれない。こんな夜更けに、わざわざ俺の部屋まで。

 動揺しながらも、なんとか平静を装って、俺は荀ケを部屋に招き入れた。

(どうすればいい? ていうか、荀ケの目的は何?)

 そんなことを頭の中でぐるぐると考えながら、俺は荀ケの言葉を待った。

 そうして言われたのは、曹操さまに呼ばれた時の対応についてだった。

 もしかしたら、ロマンチックなことを言ってもらえるんじゃないかと期待していた自分が落胆したのと同時に、城壁で考えていた疑問がまた起き上がってきた。

 荀ケは、未来のことを曹操さまに言うなといった。それは、未来の知識を使うのは荀ケで、俺はあくまで荀ケの捨て駒だということなのか。それとも、曹操さまに話してしまったら、赤壁の戦いで歴史が変わってしまい、俺が死んでしまうから話すなということなのか。

 これまでの荀ケとのやり取りからは、前者の結論に向かうのはたやすくても、後者の結論に向かうのはひどく難しいように思えて、なんだかとても悲しくなった。

 

「それとも……」

 確かめたかった。荀ケはどんな気持ちでそう言っているのか。もし、俺のことを心配してくれているのなら、俺はそれだけで死ぬことを受け入れられるような気がしていた。でも、そうでなかったら、俺はこのまま自分の死を受け入れられるかわからなかった。

 荀ケは、俺が次に何を言うのか待つように、俺の方を見ていた。

「それとも……」

 聞いてしまいたかった。でも、俺が望む答えでなかったら、俺は荀ケを危険にさらしてでも生き残りたいと願うかもしれない。聞いてしまったら、もう今までの気持ちのままでいられないような気がした。

「……」

 俺の言葉を待っている荀ケを見つめると、その目が、口が、鼻が、髪が、荀ケという存在そのものが、とても愛おしく思えた。

(……ふぅ。やっぱり、荀ケを危険な目にあわせたくないな)

 そう思った。荀ケが危険な目に合わないためなら、俺が死んでもいいように思えた。

 

「……いや。何でもない」

 

 俺はそう荀ケに言うことで、荀ケを守るのだと、自分に言い聞かせた。

 

 

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桂花視点

 

「……いや。何でもない」

 北郷はそう言って、少し悲しそうに微笑んだ。

(何でもないって何よ! なんでそんな顔で笑うのよ!)

 なんだか無性に悔しかった。

 こいつは何かを悩んでいるのに、そのことを私には話さなかった。そして、すべて自分でしょい込む決意をしたかのような顔で、悲しそうに微笑んだ。

(なんで私に言わないの? あんたが何でも話せるのは、この世界で私だけなんじゃないの?)

 こいつが私に送った初めての手紙に書いてあった文面を、私ははっきりと覚えていた。

 

“俺が何でも話せるのは、この世界では、荀ケだけだから”

 

 あいつの手紙には、確かにそう書いてあった。それなのに、こいつは今話さなかった。それが悔しかった。一刀を悲しそうに笑わせていることが、ひどく悔しかった。

「……何よ」

「え?」

 私が呟くと、よく聞き取れなかったのか北郷がそう聞き返して来た。

「何よ! なんで言わないのよ! なんでそんな顔するのよ!」

 出てくる言葉を止められなかった。その一言ひとことを言うたびに、胸が締め付けられて、目に涙がたまっていった。

「自分だけで抱え込んで、なに格好つけてんのよ! あんたは手紙に嘘を書いたの!? これだから男は嫌なのよ!」

 そんなことを言いたいわけじゃないのに、口をついて出てくるのはひどい言葉ばかりで、それも悔しくて、悲しくて、目からあふれる涙をぬぐうこともせずに、私は叫んでいた。

「じゅ、荀ケ……」

 私が泣いていることに気が付いたのか、一刀が立ち上がって私に近付いてきた。

「帰る! こんなとこ来るんじゃなかったわ!」

 一刀が私に触れる前に、私は一刀の部屋を飛び出した。

 

――バタンっ

 自分の部屋の扉を閉めると、私はその場に崩れ落ちた。

「何よ……なんで、あんな顔するのよ」

 涙は依然として止まらず、私が言葉を発するたびに、大粒の涙が頬を伝っていった。

「なんで、私に言わないのよ。なんでこんなに悔しいのよ、なんでこんなに悲しいのよ……」

 扉に背をもたれさせながら、流れる涙を止めようと必死でぬぐっても、涙は頬を伝うのをやめてくれなかった。

「なんで。……なんであんたのことを思うと、こんなに胸が苦しいのよ」

 私の言葉に答える人はいなくて、私の問いかけはむなしく消えていった。

「なんでよ。……答えなさいよ、バカ一刀……」

 私の問いかけに唯一答えることが出来る男の名前をつぶやくと、一段と涙があふれてきた。

 

 

 赤壁へと向かうまであと少しと迫った日の夜、私は流れ出る涙をただただぬぐっていた。

 

 

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あとがき

 

 お久しぶりです。komanariです。

 

 気が付けば斗詩が……。間違えました、年があけて、正月も終わってしまいましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 まずば、こんなに投稿が遅くなってしまい済みませんでした。頑張れば、2009年のうちに11話は投稿できたのですが、色々と頑張りが足りず、こんなに間を開けてしまいました。

 

 さて、その11話ですが、どうだったでしょうか?

 何と言いますか、「あぁ、これはもう恋姫に出てくる桂花さんじゃないなぁ」などと思いつつ書いていました。読んでくださった方の中にも、違和感をもたれた方がいたかもしれませんが、その辺はご容赦いただけるとうれしいです。

 一刀くんに関しても、なんか暗めになってしまいましたが、本来支えになるべき人が自分をどう思っているのかわからず、しかも、このままいったら自分は消えてしまうという状況だったら、精神的にだいぶきついんじゃないかと思い、こんな感じになったしまいました。

 

 そんなこんなな11話でしたが、次で赤壁に入れたらいいなと思っています。何話まで続くかは……依然として不透明ですw

 でも、今年はなんだかんだで忙しいので、出来るだけ早めに最終話までもっていきたいと思っています。

 

 少しあとがきが長くなってしまいましたが、これくらいで失礼いたします。

 

 それでは、今回も閲覧していただきまして、ありがとうございました。

 

説明
正月も終わってしまいましたが、明けましておめでとうございます。
長らく間があきましたが、やっと11話が出来ました。

今回も、誤字脱字などありましたら、ご指摘をよろしくお願いします。
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コメント
種馬じゃない一刀なんて一刀じゃない!(都非様)
泣けてくる・・・(斑鳩弍號)
キョン様>まず桂花さんにここまでなってもらうのが長かったですw 心理描写に関しては、そう言っていただけて嬉しいですw とにかく、楽しんでいただけて良かったw(komanari)
とうとう桂花がデレましたね。(一刀君には伝わってないのかもしれないけど)心理描写が深く描かれていて、とても面白いです(キョン)
FULIRU様>1話から見ていただきましたか!ありがとうございます!!しかも、感動したしたなんて嬉しいお言葉をいただけて、これからも頑張って書いていかなければと改めて思いましたw(komanari)
katyu様>そ、そんな。そんなに言ってただけるなんて、うれしいです!いい意味でパネェ感じになるように、これからも頑張っていきたいと思います!(komanari)
1話から見てきましたが・・・これは面白いというより感動しましたね! これほど胸にグッとくる小説はあまり無いと思います! さて、次の話も見てきます^^(FULIRU)
パネェ!!この小説マジパネェっす!!(katyu)
BookWarm様>なぜでしょうか……。でも、一刀くんが一生懸命だったように、桂花さんも一生懸命なんだと思います。そのせいかもですね。(komanari)
yasu 様>そう言っていただけてうれしいですw桂花さんには今後頑張ってもらう予定なので、そこで輝いた桂花さんを描ければと思っています。(komanari)
こんなにグッ!!!っとくる桂花を初めてみた。。。もっと、もっともっと桂花が輝いた姿をみたい。(+yasu+)
よしひろ様>桂花さんのデレの威力は絶大ですww 面白いと言っていただけてうれしいです。次の話も頑張ります!(komanari)
やばい、すごく胸に来た……!! 桂花のデレはすさまじい威力ですね。 とても面白かったです(よしひろ)
rekuhana様>1話からご覧いただき、ありがとうございます。戦闘がない分、頑張ろうと思っている部分なので、そう言っていただけてとてもうれしいですw少しでも楽しんでいただけるように、次も頑張ります!(komanari)
最初から作品を拝見させて頂きました。心理描写等がとてもうまく感じられる素晴らしい作品だと思います。楽しみにしてますのでこれからも頑張ってくださいね!(rekuhana)
新咲柊様>あ、ありがとうございます。桂花さんが自分の気持ちに気付いて、それでどんな行動を起こすのかを頑張って書ければと思っています。(komanari)
ブックマン様>ありがとうございます!今回の話は、一刀くんと桂花さんの葛藤メインと言いますか、そんな感じになったので、そう言っていただけてうれしいです!12話も早めに投稿します!(komanari)
あいかわらず、読み読み応えの作品ですね。一刀と桂花の葛藤がいいですね。(ブックマン)
Kazushi様>出会いの時に、一刀が変なことをするやつじゃないと認識しているのと、一刀くんのこれまでの頑張りとで実現される特別扱いだと思いますw幸せになってもらえるように、頑張ります!(komanari)
キラ・リョウ様>段階を踏んでですが、桂花さんにはもっとデレてもらいたいと思っていますw(komanari)
く、この桂花の破壊力はすごすぎる。(北郷は別にいいにしても、こんな夜中に男と出会ってしまったらどうしよう)。どれだけ、一刀が特別なんだ。悶え狂いそうです。ああ、もうこの桂花に幸せになって欲しくてしかたがない。一刀頑張れ、とにかく頑張れ(Kazushi)
桂花よ、もっとデレてしまえwww(キラ・リョウ)
sg様>一刀くんは鈍感さんなので、デレられていることに気づいてないかもですが、でも、デレる桂花さんを書くのは楽しいですww(komanari)
moki68k様>ありがとうございます!そう言っていただけると安心できますwみるさんで再生していただけているというのは、本当にうれしいです!一刀くんは弱くてもイケメンだと思いますw(komanari)
ジョージ様>ありがとうございます!今年もよろしくお願いします!恋愛もののドラマと言っていただけて、うれしいですw桂花さんや、華琳さまと一刀くんのやり取りなど、これからも頑張って書いていきたいと思います!(komanari)
hokuhin様>タイトル通りに、一刀くんの方をふり向いてくれるまで、頑張ります!(komanari)
ファンネル様>あ、ありがとうございます!僕などの書いたお話で頑張れると言っていただけるなら、僕ももっと頑張ります!てか、ファンネル様にそう言っていただけて光栄です。(komanari)
@@様>ありがとうございますw自分の気持ちを認識したら……ぼ、僕も楽しみですwww(komanari)
Nyao様>そう言っていただけてよかったですw一刀くんには頑張って来てもらったので、本当にうれしいです。僕もハッピーエンドを目指して行きたいと思っています!(komanari)
ダメ猫様>矛盾がないと言っていただけてよかったですwこれまでの一刀くんの頑張りには、ぜひとも報いてあげたいと思っています。(komanari)
jackry様>アケオメです! 一刀くんと桂花さんのすれ違ってしまいましたが、どうにかいい方向に持っていければと思っていますw(komanari)
とらいえっじ様>すれ違いでも、桂花さんが感情をぶつけたということが、今までの流れを壊してくれればと思っていますw頑張れ桂花さん!(komanari)
一刀さんの前でデレるとはおもわなんだ、果たしていろいろとどうなってしまうのか(sg)
この外史のこれまでの積み重ねを考えると自然な桂花にみえますよ。ちゃんと台詞はみるさんで再生されますしw 一刀の覚悟にしびれました。漢だなー(moki68k)
↓につけたし)遅くなりましたが、あけおめことよろっす〜♪(峠崎丈二)
なんか、ちょっとした恋愛もののドラマを見ている気分だわな。 桂花は相変わらずハイクオリティですね、華琳の一刀に対する反応も気になるし。 次の更新も超期待っす!!(峠崎丈二)
桂花も悩みだしていい感じです。次が楽しみだ。(hokuhin)
うおおおお!!良かった!更新してくれてありがとうございます!とてもよかったです!これで自分も頑張れます!(ファンネル)
ここに来るまでの流れを考えれば、今の桂花のデレは全然違和感ないかと(・ω・)。一刀の性格からすれば自分を殺してでも相手の幸せを優先するんだろうけど、やっぱりどちらも幸せになってほしいですね♪(Nyao)
過程が違えば結果も変わります。デレ桂花矛盾ありません。浮気もしないでずっと桂花一筋の一刀ですから、どうか幸せな結末を望みます。(ダメ猫)
失わないと気付けない大切なものってあるよね。それにしても実にいい桂花だ…(とらいえっじ)
asf様>そう言っていただけてうれしいですww続きも頑張ります!!(komanari)
やべぇ 心躍るw 続きお待ちしています(asf)
ゲストさん。様>華琳さまとの取り合い……一刀くんに勝ち目があるのかは少し不安ですが、そんな展開も検討してみますw(komanari)
blue様>これまで、一刀くんにはずっと頑張って来てもらったので、そろそろデレてもらっても罰は当たらないんじゃないかな?と思いました。ただ、少し急すぎたような気もしますが。大切な人を守ろうとする一刀くんは、たとえ強くなくても格好いいんじゃないかな?と思っていますw号泣桂花さんは……どうなるかな?(komanari)
フィル様>そ、そんな展開もありかもですねw実現できるか、は分かりませんが、検討してみたいと思いますw(komanari)
クォーツ様>桂花さんの心の揺らめきみたいな話しだったんですが、確かに見方によってはドロドロの三角関係のような……w出来れば、一刀くんの方を向かせたいなぁと思っています。次も頑張らねければ!(komanari)
↓華琳と桂花の取り合いwwwやばい見てみたいwwwてな訳で作者様がんばれ〜(ゲストさん。)
桂花さんようやっとデレ始めた!さすが桂花さんだ。華琳様よりも遥かに身持ちが固い御方です。無印一刀もそうでしたが、消えると思ってても為すべきことを為そうとする意志は立派です。一刀が消えて号泣する桂花とか見てみたい…。(blue)
あれ?ひょっとしてこれって桂花を一刀と華琳で取り合うんですかwww(フィル)
執筆お疲れ様です。11話、見方によってはドロドロの三角関係の間で揺れる桂花みたいな・・・もう完全に一刀のものだ。一刀は消えてしまうのか、それとも・・・ 次作期待(クォーツ)
areare様>自分の可愛い桂花さんのことですので、華琳さまも気になってしまうのでしょうw華琳さまよりも先に、赤壁が来るかもしれませんが、その話も頑張って書きたいです。(komanari)
MATSU様>ありがとうございます。僕の思う一刀くんと桂花さんが、皆様に受け入れていただけるかはわかりませんが、このお話を好きだと言ってくださる方が、少しでも楽しめるように、これからも頑張っていきたいと思います。(komanari)
鮑旭様>これはこれで良いと言っていただき、ありがとうございます。 そうですね。鮑旭様の言うとおりなのかもしれません。外史である以上、そうした認識も大事かもですね。ありがとうございます。参考になりました。(komanari)
ハイドラ様>ご指摘ありがとうございます。脱字を修正いたしました。(komanari)
自由人様>桂花さんの凶悪な攻撃をくらっても、死なないでくださいwwこのお話の桂花さんが大好きと言っていただけて本当にうれしいです。少し原作とは違くなってしまいましたが、これからも“大好き”と言っていただけるような桂花さんを書いていきたいと思います。(komanari)
ついに華琳の目につきましたか。一刀と桂花はどう切り抜けるのか。次回も楽しみにしています!(areare)
nayuki78様>そ、その辺は、これまでの一刀くんの頑張りということにしていただけるとうれしいですwでも、確かに原作の桂花さんとは、違いすぎるかもですねw(komanari)
XPO様>桂花さんの能力の基準でいけば、夕方まででも大丈夫かもしれませんが、一刀くんはそこまでハイスペックではないので、かなりの無理難題だと思いますw(komanari)
燐様>華琳さまとの対面は……たぶん、あると思いますが、いつになるかはちょっとわかりませんね。でも、その場面を書くときは、いつもより気合いを入れて、頑張って書きます!(komanari)
thule様>恋姫夢想での華琳さまの場合は、ツンツンツンツンツンツンツンツンツンデレ~♪でしたが、今回の桂花さんは、きっとそんな感じだと思いますw(komanari)
MiTi様>つ、ツンデレを表現できているのか、自分ではよくわからず、とにかく桂花さんに動いてもらったのですが、そう言っていただけてうれしいですw(komanari)
こんな桂花もまた良し!komanariさんの思うように一刀や桂花を書いていけばよいのでは?二人とも人間味溢れる感じでいいですね。自分はこの作品が大好きですよ。(MATSU)
頬を緩めてツンなこと言わないで…萌え死んでしまう。いやしかし、終わるまで死ねない!!それにこの桂花ほどツンデレの体現者がいただろうか!?微笑ましくも葛藤に苦しむ桂花…もう大好きです♪次回も楽しみです。(自由人)
今見てるのは、”べつの外史”からきた桂花に違いない。華琳さま命(であるはずの)桂花が一刀の心配をするとは(^^;(nayuki78)
日付が変わるって・・・この時代の感覚で言えば夜明けってことか。それを夕方までって無茶させますね。いや、一刀がのんびりしているのか?(XOP)
ついに一刀の存在に華琳様が気付かれましたか。一刀と華琳の対面があるのかは分かりませんが、そうなった時の3人の対応が気になります。今回もとても面白かったです。次も期待してます!!(燐)
ツンツンデレツン〜♪ デレツンツン〜♪ (桂花のツンデレのパターンを歌詞化)(thule)
何故だろう…無性にこう言いたい…「俺は今、本物のツンデレを見ている!!」(MiTi)
村主様>あ、ありがとうございます!本当にうれしいです!!こんなにうれしいことを言ってただけるなんて思いもしませんでした。次の話でもそう言っていただけるように頑張ります!!(komanari)
ふじ様>2クール目までは……行けるかな? でも、1クールでは終わりませんwこれは確実です。(komanari)
ゆたか様>明けましておめでとうございます。そう言っていただけると、本当にうれしいです!少し安心しましたw(komanari)
虎子様>そうですねw恋する乙女度は、通常の三倍ですね。乙女過ぎたでしょうか?(komanari)
ロンギヌス様>も、もしかしたらそうかもしれませんwでも、可愛くさせすぎたのではと、すこし不安ですw(komanari)
いやむしろSSだからこそkomanariさんの斬新な桂花さんデレ進行形が一層映えるでw理由が分からないけど自分の中で大きな存在となりつつある一刀に対する苛立ちまたはもどかしさ・・・いい話の展開かと、2828過ぎて死ぬるw(村主7)
2クール(違)はあると信じてる!(ふじ)
明けましておめでとうございます。 一途な一刀や一刀にデレる桂花も好きですよw(ゆたか)
どんだけ乙女やねん! ってツッコミ入れたくなる程、恋する乙女やってますね、この桂花さんはwww(虎子)
えっ、これは泉に落として、女神さまに貰った“カワイイ桂花”ですか?(ロンギヌス)
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真・恋姫無双 恋姫 桂花 北郷一刀 

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