黒剣王 第一章 -聖杯戦争- prologue -日常-
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誓おう

世界に

自分に

人に

神に

この世に存在している全てに

俺が奪った全ての命に

俺は誓おう

 

 

この誓いは破らない

拒まれても

否定されても

笑われても

見捨てられても

恨まれても

呪われても

俺はこの誓いを破らない

 

 

ここに誓う

絶対に諦めないと

己の道を進み続けると

仲間を信じると

幸せになると

生きていくと

悪を全て滅ぼすと

俺はここに誓う

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『黒剣王~ Sword king of the darkness ~』

第一章 −聖杯戦争−

prologue −日常−

朱い、朱い月が昇る。

星のない夜空に上る朱い月が、大地を照らしている。

朱い月に照らされた大地には荒れ果てた建物がそびえ立ち、静かな世界が広がっていた。

建物からは無数の煙が立ち上り、メラメラと燃える炎は朱い月に負けじと光を放っていた。

地獄というものがあるとしたらこのような景色のことを言うのだろう。

生きた人間がいるとは思えない静かな世界に幾百、幾千、幾万もの怨念が渦巻いていた。

音が消えたように静まりかえる世界の中に一つの影が飛び込んできた。

「クソッ!誰か!誰か生きている人間はいないのか!?」

くたびれたコートを着た男が人を求めて叫び続けていた。

朱い月に照らされながら、男は叫び、探し続けた。

その声が辺りに響き渡るがその声に反応するものはいない。

それでも男は叫び続けた。声に反応するものがいないかと辺りを見回し続けた。

突然男の前方で光が輝き始めた。

男はその光に見とれた。

それは美しくこの世のあらゆる光よりも輝きを放っていた。

やがて光は何かに吸い込まれていくように消えていった。

「・・・・・・・・・」

男は無心に走り始めた。

先程の光は何だったのか。

そんなことすら考えずに男は走り続けた。

無心に走り続け男は光があったであろう場所へと到着した。

「・・・ああぁあああぁぁあぁああああ!」

男はがらがら声を振り絞り、最後の叫びを放った。

男はしゃがみ込み、何かを抱えた。

「生きてる!良かった。生存者がいたのか!」

男が抱えたのか一人の少年であった。

「良かった。本当に良かった」

男は崩れるようにその場に座り込んだ。

その胸に少年を確り抱きかかえて。

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2005年2月1日

暗い暗い闇の中、青年は夢を見る。

幸せだったあの頃の夢か。幸せになろうとしている今の夢か。

だが、それはどちらにしても青年には辛い夢であった。

暗く閉ざされたそこは青年にとってはとても居心地の良い場所であった。

それは青年の特性のせいか、この場所に親しみがあるせいかは分からない。

でもそこはとても居心地が良かった。

「・・・また、やっちまったか」

誰に言ったでもなく放たれた言葉は闇の中に解けるように消えていった。

青年の名は衛宮士郎。髪は赤く、背は高く、また体格も良い。

同学年の男子よりも大人びており、性格も相まって密かに女子の間で人気だ。

「"あそこ"で修行するのは少し控えるべきか?まずは、―――解析(トレース)・開始(オン)」

その言葉と同時に士郎は目を瞑り集中を始めた。

「――問題なしか・・・。でも、こんなところで寝ていると体痛めちまうか」

少年が何事かを考え始めたその時ギィイィ〜と音が鳴り光が差し込んできた。

 

「・・・先輩、起きてますか?」

その光の中に少女が一人立っていた。

「おお、桜か。おはよう」

少女―間桐桜に気づいた士郎は少女に向かって挨拶をした。

桜は1年ほど前から衛宮家に朝食と夕食を作りに来ている。

「おはようございます。またここで寝てしまったんですか?」

「む、すまん。何か癖になってきているようだ」

「癖にするのだけはやめてくだいさいね。体を痛めてしまいます」

「うん、分かってる。今度からはちゃんと布団で寝るよ」

「・・・分かりました。今度はここに起こしに来ることがないようにお願いします」

それでは先に行っていますと言って桜は出て行った。

「・・・桜はどうするんだろうな?」

少年は桜が出て行った先を見ながらそう呟いた。

「まあ、考えても仕方ないか」

周りを少しかたづけて士郎はそこ―土蔵より出て行った。

 

衛宮士郎の一日は土蔵から始まる。

土蔵を出てまず自室へと向かい、制服をタンスから取り出すと洗面台へと向かう。

洗面台で身支度を調えると台所へと向かう。

台所では桜が料理の準備をしていた。

「先輩。今日の朝食はどうしますか?」

「そうだな。味噌汁はネギに豆腐。おかずは鯖の塩焼きに納豆、そして漬け物。

 今日は和風にしよう。桜、味噌汁やって貰えるか?」

「分かりました」

そう言うと二人は料理に取りかかった。

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ちょうど料理が出来上がるかそうでないかという時にその声は聞こえてきた。

「ごはん、ごはん♪おっはよーーーーーー!!」

玄関の方から朝からハイテンションな声が聞こえてきた。

「藤ねえ。もう出来るから食器出してくれるか?」

「じゃあ、私は居間で待ってるねーーー!」

「聞けよ、おい」

人の話を聞いていないこの女性の名は藤村タイ・・・ゲフン、ゴホン、間違えました。

藤村大河。士郎の姉的存在である。士郎がこの家に来る前からこの家に入り浸る存在だ。

ある呼び方をすると鼓膜が破れるほど叫ばれるので注意が必要だ。

彼女はなんとこう見えても士郎や桜が通う学校の先生をしている。

世の中謎で満ちている。

 

いただきますと声をそろえ三人の朝食が始まる。

食事をしながら三人は四方山話を始める。

衛宮家の日常風景は何時もこんな感じである。

「お味噌汁作ったの桜ちゃん?また腕上げたわね」

「そんなことないです。まだまだ先輩には及びません」

「そうでもないぞ?もうそろそろ俺も追い抜かれそうだ。うん、才能があるな桜」

「そんな、まだ全然先輩には追いつけませんよ」

桜が衛宮家に通うようになって結構な年月が経ち、料理の腕は既に士郎に並ぶところまで来ている。

「そうか?まぁ、桜がそう思っているなら何とも言えないが。藤ねえ、時間大丈夫か?」

そう言うと士郎は居間にある掛け時計を指さす。

「大丈夫、大丈夫。士郎は心配しょ・・・」

藤村大河の動きが停止する。

時刻としては決して遅くない時間である。

しかし・・・。

「今日は職員会議がある日だったーー!!」

教師というものは朝、職員会議をしたりする。

その為、例え遅くない時間であっても遅刻してしまうことがあるのだ。

 

「士郎、桜ちゃん。先に学校行ってくるけど遅刻しないようにね」

玄関より聞こえる声を士郎と桜は台所で聞く。

「やれやれ、藤ねえは何でいつもこんなにどたばたするんだろうな。呪いか何かか?」

「先輩・・・、いくら何でもそれは酷すぎますよ」

苦笑いを浮かべて隣で洗い物をしている桜が言う。

「そりゃあ、一週間に一度や二度だったら俺も何にも言わないよ。でも毎日だし」

「あ、あはははは・・・。」

最早彼女には笑うという手段しかなかった。

そう、藤村大河はこの様にバタバタとした朝を引き起こしている。

「いっそのことお払いでもしてもらおうか」

桜が洗い終わった食器を拭きながら士郎が言う。

「先輩・・・」

真剣な面持ちで考え込む士郎を桜は心配そうに見る。

「ん?あぁ、冗談だよ。冗談」

「もう、本気で行ってるように聞こえるじゃないですか」

桜の目線に気付いた士郎が訂正する。・・・割と本気だったりするが。

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「先輩、裏手の戸締まりしましたか?」

「ああ、閂かけたけど、問題あるか?」

「ありません。じゃあ、鍵賭けますね」

がちゃり、と門の鍵を桜が閉める。

門の鍵は士郎、桜、藤村、そして今旅行中の居候の四人が持っている。

家を空ける時に最後の人が鍵をかけるのが決まりとなっている。

「先輩、今日は遅くなるんですか?」

「遅くなる、と思う」

「そうですか。じゃあ、私の方が早いと思いますから、夕食作っておきますね」

「・・・ん、助かる。俺も出来るだけ早く帰るから」

士郎の帰りは常に遅い。

アルバイトをしていたりするためだ。

「行こうか。急がないと朝練に遅れる」

「はい。それじゃあ少し急ぎましょうか、先輩」

そう言うと士郎と桜は学校の方へと歩き始めた。

 

衛宮家は街の中心地よりも離れており、坂の上の方にある。

衛宮家から出て塀を抜け、坂を下りるとそこに住宅地がある。

さらにそこから坂を下りると街の中心地である交差点へと出る。

この交差点は隣町へと繋がる大橋や柳洞寺に繋がる道、商店街への道、学校への道など様々な場所へと行く分岐点だ。

学校へと進む道を歩く士郎と桜。

二人以外にもチラホラと生徒達が歩いている。

まだ早い時間帯のため、朝練をする学生以外来ていない。

二人は会話することなく、学校まで無言で歩いた。

正門が見えてきた。

そこに袴姿で仁王立ちしている人物を見付け士郎は眉をひそめた。

 

「やあ、衛宮、桜。おはよう」

「おはようございます、美綴先輩」

「・・・おはよう」

「なんだい、衛宮。そんな変な顔をして」

「袴姿で正門に突っ立てる人物見ればこんな顔になるって」

「人を変人みたいに」

「充分変人だと思うんだが・・・」

朝から正門に仁王立ちしているこの女性の名は美綴綾子。

桜の所属している弓道部の主将で、士郎の元クラスメイトでもある。

ちなみに姉御肌である。本人はそれを言うとそんなに年取ってないと否定するが。

「そんなこと言われたってやめないよ。どう?弓道部に戻る気はない?」

「何度言われたって戻る気はないよ」

この様に綾子は毎朝士郎を連れ戻そうと毎朝正門に立っている。

士郎は一年生の時弓道部に所属していたが、一身上の都合により弓道部を退部した。

「あたしは衛宮が戻るまでやめる気はないからね。

 弓道部までどう?桜だって来て欲しいだろうし」

「え、いや、でも・・・」

急に話を振られたからか、別の理由でか桜は士郎の方をちらちらと見ながらしどろもどろな返事をした。

「悪いが今日も先約が入ってるんだ」

「じゃあ、しょうがないね。そんじゃ、またな」

「先輩、夕食期待しててくださいね」

そう言うと桜と綾子は弓道場の方へと歩き出した。

「相変わらず竹を割ったような性格だな」

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桜たちと別れた士郎は校門から校舎の方へと歩き始めた。

「よお、衛宮じゃんか」

「おはよう、衛宮君」

「やあ、衛宮。今日も早いな」

その士郎に声を掛けてきた女生徒たちがいた。

女の子は、褐色の肌をした蒔寺楓、長髪の眼鏡をかけた氷室鐘、ほんわかした雰囲気の三枝由紀香の3人だ。

氷室、蒔寺は陸上部の選手で三枝はマネージャーで三人とも士郎とは違うクラスである。

「おはよう。三枝さん、氷室さん、蒔寺」

「おい!なんであたしだけ呼び捨てなんだよ!」

「まあ、気にするな。世の中知らない方が良いものもある」

「そう言われると余計気になるだろうが!」

いつも行事といえばそれで終わってしまってしまうが、この様に2人が言い合うのは日常風景になっている。

「わあ、衛宮君と蒔ちゃんは仲いいね」

「どこをどう見ればそう見えるんだ?由紀っち」

「いや、私にも仲が良く見えたよ」

「鐘まで何を言ってるんだ?」

士郎のことを忘れたように蒔寺と氷室が話し始める。

「ほらよく言うではないか」

「言いたいことは分かったからそれ以上言うな」

士郎は言い合ってる2人より離れ校舎に入ろう歩き出した。

「じゃあ、またね。衛宮君」

「ああ、またな。三枝さん」

聞こえてくる声を背に受けながら士郎はその場より去っていった。

「ト○とジェリー。仲良くケン「だーーー!!!」・・・うるさいぞ、蒔の字」

「喧嘩するほど仲が良いじゃねえのかよ!!つーかそれは大人の事情に引っかかるぞ!!?」

「ふむ、どうやら認めているようだな。やはり仲が良いのだな」

「だから違うって言ってるんだよ。衛宮、お前も何か言って・・・いねえし!!」

「蒔の字が叫んでいる間に言ってしまったか。もう少し2人のじゃれ合いを見たかったのだがな。なあ、由紀香」

「うん、そうだね。」

「だから違うって。そんなんじゃないって」

士郎の背中を三人はその少年の背中を見つめた。

「うん。衛宮君、"今日は大丈夫そう"だね」

「ああ、大丈夫なようだな」

「・・・あんな奴のことはいいから部活戻ろーぜ」

「おや、一番心配していたのは蒔の字ではなかったか?」

「な、なんであたしがあんな奴のことを心配するんだよ!」

そう言うと蒔寺は他の陸上部のメンバーが居る方へと走っていった。

三枝と氷室は少しその後ろ姿を見、後を追うように走っていった。

 

「いつもながら、蒔寺は面白いな」

「・・・衛宮。人をからかって楽しむのはいただけないぞ」

校舎に入り二階から三人娘を見ながら呟いた士郎の一言に返事をする人物が居る。

「そう言うな、一成。アレは俺の愛情表現だ」

彼の名前は柳洞一成。柳洞寺の跡取りだ。

士郎の友人で生徒会長をしている。

士郎は一成からの頼み事をたびたび聞いている。

「ならば良いのだが」

「で?今日はどれを修理すれば良いんだ?」

「うむ、このリストにのっているもの達が臨終してしまってな」

「・・・一成、いつも言ってるが臨終したらいくら俺でも修理できないぞ?」

「なに、俺が見ると臨終しているように見えるがお主が見ると仮病でしかないのであろう?」

「まあ、その通りなんだがな。・・・じゃあ始めるか」

2人は廊下を目的地に向かって歩き出した。

 

「ではまずこのストーブからしてくれないか?」

目的地の部屋に辿り着いた2人は修理が必要なストーブに手をかける。

「じゃあ、やるからいつも通り」

「ああ、俺は外で待っていれば良いのだな?」

そう言うと一成は部屋より出て行った。

「―――解析(トレース)・開始(オン)」

士郎はそう呟くと目を瞑った。

彼の瞑った目にストーブ中身が視えた。

もちろん本当に見えた訳ではない。

ストーブの中のイメージが頭の中に流れ込んできたのだ。

士郎はソレを基に修理を開始していく。

(ん、配線がいかれているな。でもこれくらいなら絶縁テープ使えば何とか・・・。

基盤も痛んでるが何とかなるだろう)

そう言うと士郎は生徒会室から持ってきた道具箱を開き、絶縁テープを取り出し作業を始めた。

「一成、終わったぞ」

士郎は全ての作業を終えたことを廊下にいた一成に知らせ、教室から出た。

「うむ、いつも通り速いな。どうだ?」

「この冬は持つだろうが、基盤が痛んでるからもう駄目だな。新しいのにできないのか?」

「残念ながら予算が無くてな。しかし、来年の最優先事項としておこう。では次にいくか?」

「そうだな」

そう言うと2人は部屋より出て行った。

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朝練がない生徒としては早く学校に来る士郎であるが、教室に着くのは何時も予鈴直前になる。

それは士郎が生徒会や他の部活などからの頼みなどを聞き、それをこなす便利屋的事をやっているからである。

今日も生徒会の手伝いが終わった後、別の手伝いをしていたために予鈴ギリギリになってしまった。

「全く、衛宮の人の良さにも困ったものだな」

「・・・一成、どうしたんだ?いきなり」

「先程までバスケ部の道具修理をしていたのだろう?

 仕事を頼んでいる俺が言うのも何だが、相手を選ぶべきだ」

「一成が心配してくれるの嬉しいが、好きでやってるんだ。俺はやめるつもりはないよ」

「全く、衛宮は来る者拒まずだな」

「八方美人と言ってるようにしか聞こえないぞ?」

「な!俺は別にそのような事は!」

一成と下らない話をしながら士郎は自分の席に着く。

「朝から騒がしいね衛宮。

 部活やめて何をしているかと思ったらなんでも屋?

 ボクには関係ないけどさ、うちの評判落とすような事してないだろうね?」

自分の席に着いた士郎の目の前に士郎の中学からの友人―間桐慎二が立っていた。

間桐という苗字で分かる通り、桜の一つ上の兄で、同じく弓道部に所属している。

「よお、慎二。弓道部はどうだ?」

「目立ちたがり屋が一人いなくなったから平和になったよ。次の大会はいいところまで行くさ」

「そうか。そいつは良かった」

そう言うと士郎は一限目の授業の教科書を鞄から取り出した。

「・・・僕の弓道部に興味がないってコト?」

「そうじゃないが、部外者が口を出す訳にはいかないだろ?」

「っ・・・・・・!ふん、その通りだ。おまえはもう部外者なんだから道場に近づくなよ!」

そう言うと慎二は自分の席へと戻っていった。

 

「・・・なんだか今日はいつも以上に苛立ってるな」

席へと戻っていく慎二を見ながら士郎が呟いた。

「噂で聞いたが、あの女狐に告白してふられたそうだ」

「何だ一成、居たのか」

今まで黙っていた一成がひょっこりと現れた。

「なんだとはなんだ!気を利かせて聞き耳を立てていた友人に向かって、何と冷淡な男なんだオマエは!」

「?なんで気を利かすのさ。俺、一成に心配される事してないぞ」

「衛宮が慎二を相手にしていないのは知っているが、慎二がどんな難癖つけてくるか分からん」

「中学からの付き合いだからな。慎二の扱い方は知ってるよ。・・・ところで一成」

「なんだ?」

「さっきの女狐ってのは・・・」

「もちろん、あの女だ。全くあんな女のどこがいいのか」

「やっぱり遠坂凛か。ホント仲悪いね」

「当たり前だ。なんであんな女が人気なのか分からん!」

遠坂凛。坂の上の洋館に住むお嬢様で優等生。

美人で成績優秀、運動神経抜群で欠点もない。

性格は理知的で礼儀正しく、美人である事を鼻にかけない。

ミスパーフェクト、というあだ名がつけられている。

そのミスパーフェクトと生徒会長柳洞一成は所謂犬猿の仲だ。

士郎と凜は仲が悪い訳ではないが良い訳でもない。

しかし、彼女が成績で負けるのは一成と士郎くらいなのでライバル視されているようだ。

彼女と士郎との関係はそれ以上でも以下でもない。

(まぁ、俺は"それ以上の事"を知ってるけどね)

士郎は彼女が知られたくないであろう秘密を知っている。

そして彼女に知られたくない秘密が士郎にはある。

それが知られた時、これ以上にないって位面倒な事が起こる。

だから彼女が[管理者]だと知ってはいるが、士郎は出来るだけ関わらないようにしている。

「一成、そろそろ席に着かないと藤村先生が来るぞ」

教室にかけてある時計は8時5分を示していた。

いつも通りであるなら藤村大河がやってくる時間である。

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ダダダダダー、と遠くから地響きが聞こえてくる。

「遅刻、遅刻、遅刻、遅刻〜〜〜!」

そんな叫び声を上げて藤村は士郎達の教室―2年C組に近づいてくる。

2年C組の朝はこの叫び声とともに始まる。

「よし間に合ったーあ!みんな、おは――――」

勢いよく教室に入ってきた藤村はぎごん、と生物的にヤバイ音をたててすっころんだ。

「――――――」

教室に静寂が訪れる。

シャレにならない角度で教卓に頭を打ち付けた藤村はそのままの状態で倒れている。

しかし、誰も助けに行こうとするものはいない。

この一年間で藤村とはどんな女か全員把握しているのだ。

「・・・みんな耳をふさげよー」

士郎のその言葉を聞き誰もがすぐに耳をふさぐ。

「おきろー、タイガー」

隣の人と話す程度の声で士郎が言う。

静まりかえっているとはいえ教卓まで結構遠い。

普通なら何か言ってるのは分かるが何を言ってるかは分からないだろう。

普通ならの話だ・・・。

「がぁ――――!タイガーって言うな――――――っ!」

雄叫びを上げ、藤村が復活する。

藤村の放った叫びが学校中に響き渡る。

何事かと他の教師達が飛び込んできてもおかしくないが、いつもの事であるため誰も来ない。

「・・・あれ?なんでみんな耳ふさいでるの?ホームルームするから耳ふさぐのやめて」

まるで何事もなかったかのように普通にホームルームを始める藤村。

どうやら教室から入ってきてから復活するまでの記憶が抜けているようだ。

記憶がない方が良いため、そのことを指摘する生徒は誰も居なかった。

 

この様にして士郎に学校での一日は始まり、過ぎていく。

「すまない、衛宮。今朝の続き頼んでもいいか?」

赤い空から差し込む光に教室が染められる放課後、帰り準備をしている士郎に一成が話しかける。

朝は別の頼み事を聞いていたため、生徒会の頼み事は途中までしか終わっていない。

冬も終わりに近づいているとはいえ、寒さはまだまだ続く。

出来るだけ早く暖房器具を修理したいのだ。

「悪い、今日はバイトに行かないと」

「そうか、頼み事をしているのは此方だからな。

衛宮の都合がつく時で良い。じゃあ、衛宮また明日」

士郎の放課後は大体アルバイトして潰れる。

学校からバスに乗り大橋を渡り、20分ほどすると新都に到着する。

「・・・まだ時間があるな」

彼がしているバイトは五時から八時の三時間、荷物を運ぶ仕事だ。

力仕事に自信がある士郎にうってつけのバイトである。

バイトまでの時間を潰そうと彼はふらふらと近くの公園に立ち寄った。

 

公園には夕方にも関わらず人っ子一人いない。

時間帯のせいではなくこの公園はいつも人がいないのだ。

およそ10年前、冬木市で大火災が発生した。

この公園はその大火災の現場なのである。

数々の心霊現象がこの公園の近くで起こっているという噂話は絶えない。

怨念のせいか、人々の心についた大きな傷跡のせいかは分からない。

幾つもの気味悪い噂話のせいで誰も近づこうとしない、・・・士郎一人を除いて。

シロウはその大火災で唯一の生き残りだ。

シロウは何も覚えていなかった。

自分に何が起こったのか、なんで自分がこんな目に遭わなければいけないのか。

彼には何も分からなかった。

ただ、シロウという事だけを覚えていた。

それがシロウに残った最後のものだった。

火災の痛手から少しだけ回復した頃、衛宮切嗣という人物に現れ、シロウは衛宮士郎となった。

その切嗣も亡くなった。

もう9年も前の事である。

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日が沈みきった頃、衛宮士郎はバイト先から家に帰宅しようと歩いていた。

光り輝くビルとビルの隙間に星空が見えた。

人工の光よりも淡いその光は弱々しく輝いていた。

ふとビルに不自然な影が見えた。

彼は目をこらした。

影はあまりにも遠く、人には確認できないだろう。

しかし、彼には"見えた"。

「何してんだ?」

影が自分の知っているものであったため、士郎は眉をひそめた。

それは朝、一成と話した遠坂凛であった。

ツインテールを風にゆらし、彼女はただビルの屋上から見下ろしているだけだった。

「・・・まぁ、俺には関係ないか」

彼は何事もなかったかのように家への道を再び歩み始めた。

 

「ただいまー」

大橋を通り、坂を上り、士郎は自宅へと帰ってきた。

「ああ、士郎お帰り〜」

居間に辿り着いた士郎を迎えたのは煎餅を食べる藤村であった。

「あれ?藤ねえだけ?」

「桜ちゃんなら早めに帰ったわよ?今日、用事があるんだって。あ、料理作ってくれてたわよ」

その藤村の一言が示すとおり食卓には料理が並べられていた。

思い返せば、朝彼女は夕食に期待していてくださいと言っていた。

「そうか。悪い事したなぁ」

「そうだ、そうだ。士郎は悪者だー」

「そこまでは言ってないって」

藤村と関係のない話をしながら士郎は食事の準備を始める。

「士郎ー、早くしてー。お姉ちゃん、お腹すきすぎて死んじゃいそー」

口に煎餅をくわえながら藤村が士郎に対して文句言い始める。

「今してるから、藤ねえも手伝って」

「むーりー、お腹空きすぎて動けない」

そう言いながらもパリパリと煎餅をほおばる。

「嘘付け。確りと煎餅を食べてるじゃないか」

「こんなの腹の足しにもならないわよー。士郎、早くー」

「・・・」

藤村のその一言に呆れながらも士郎は食事の準備を続ける。

 

「じゃあ、わたし帰るけど戸締まり気をつけるのよ」

食事も終わり、いつもならまだ家にいる時間帯だ

だが、藤村は書類作りがあるらしく、いつもより早く帰宅するようだ。

「分かってるよ。藤ねえも帰る途中気をつけなよ」

「大丈夫。わたし、強いから」

「襲ってきた人間殺さないように気をつけなよ」

「むー、士郎のいじめっ子ー!!」

そう叫びながら藤村は玄関から飛び出していった。

「・・・全く、藤ねえは」

藤村の後ろ姿を見送りながら士郎は苦笑いを浮かべて呟く。

「賑やかね」

不意に士郎の後ろから声が聞こえてきた。

士郎の後ろにフードをかぶった人物が立っていた。

小柄な体格と声から女性である事が分かる。

「おお、出てこないから居ないのかと思った」

「私が出て行ったら問題が起こるでしょう?だから隠れていたのよ」

「まあ、確かにそうだな。帰ってきたら藤ねえが怒り狂ってるって事にならなくて良かったよ。

 それより何か異常はあった?」

「いいえ、何もないわね。みんな警戒しているのかしら?」

「そうかもな。さてと、まだ時間的には早いな。君はご飯食べてる?」

そう言うと士郎は玄関の鍵を閉めて女性の方へ振り返った。

「・・・あなた、本気で行っている?」

「もちろん本気だ。俺は[衛宮士郎]だからな」

「・・・・・・あなたは確かに[衛宮士郎]ね。そうね、いただくわ」

その言葉を聞き、嬉しくなったのか士郎は微笑むと女性とともに居間の方へと歩いていった。

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深夜、草木すら眠りにつく時間。

衛宮士郎はどこからか家に戻ってきた。

「お帰りなさい」

帰宅した士郎をフードの女性が迎えた。

「ああ、ただいま。こっちも異常はなかったよ。どうやらみんな警戒しているようだね」

「当たり前よ。今回は異常よ。警戒して損はないわよ」

「まあ、確かにな。じゃあ、今日はもう終わりにしよう」

「ねえ、本当に明日・・・」

「ああ、実行する。その方が都合が良いだろ?」

「確かにそうだけど・・・。死ぬかもしれないわよ?」

「そのくらい分かってるよ。そうならないように気をつけるよ」

そう言うと彼は風呂場の方に向かって歩き始めた。

「・・・勝手に死ぬんじゃないわよ」

彼の後ろ姿を見ながら彼女はそう呟いた。

 

彼は風呂に入り、上がるとその足である所に向かった。

ギィィイィ〜、と音が鳴りそこの扉が開く。

そこは士郎の朝が始まる場所―倉であった。

「・・・これかぁ」

呟くと彼は倉の床にある落書きを見る。

(んー、何とか使えるか)

彼はその落書きに何やら書き加えていった。

 

どんな人間にも他人に話せない秘密がある。

誰が好きだとか、実はこんな趣味があるとか人それぞれであるが秘密はある。

熱心で真面目そうで普通の学生に見える衛宮士郎の秘密は普通ではない。

彼、衛宮士郎は魔術師だ。

そんな普通の人と一線を画す士郎の一日は鍛錬により終わりを告げる。

非常識を内包する日常。

それが衛宮士郎の日常だ。

その日常も非常識に歪められていくこととなる。

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楽しんでいただけましたでしょうか。

人生で初めて公開する作品です。

公開しておいてなんですが駄作ですね・・・orz

しかも、今更って感じですね。

アドバイスなどをしていただけると助かります。

また、誤字、脱字、変な文などの指摘も受け付けております。

説明
Fate/stay nightの二次創作です。
出てくるキャラクターの強さが変わっていたり
性格が全然違ったり
そもそも出てこなかったり
オリジナルキャラクターが出てきたり
オリジナル設定があったりします。
嫌いな方は読むのを避ける事をオススメします。
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コメント
モッティー様 コメントありがとうございます。 頑張って書き続けてみようと思います。フードの女性の正体はこの二話後に明かす予定です。(愚王)
書き続けるのは大変だと思いますが、無理せず頑張ってください。 フードの女性って・・・キャスターか?(モッティー)
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