初詣
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あれ・・・・・・いつのまに、年が明けたのだろう・・・?

 

気付けば、既に時刻は3時を回り、騒いでいた仲間も何処かへ行ってしまっていた。

 

ああ・・・寝てたのか。

 

騒ぐ為に、日雇いバイトしまくったのが原因だろう。

 

今日寝たら元も子もないのに。

 

そういや、母親から計画性がないとかいつも言われてたっけか。

 

ちょっと反省しながら半身を起こそうとする。

 

「ん・・・」

 

ふと、自身の顔に影がかかっている事に気付く。

 

よーく耳を澄ませば、微かな寝息。

 

視界と思考が元に戻り始め、目の前の状況を理解した。

 

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

 

可愛らしい寝息を立てながら目の前で眠る彼女。

 

そして、後頭部に感じる柔らかい感触。

 

膝枕。

 

全世界の男の憧れらしいが・・・・・・古くないか?

 

心の中で苦笑しながらも、意外と心地よく、そのまま感触に埋もれそうになる。

 

しかし、このままという訳にもいくまい。

 

ぺちぺちと彼女の頬を叩くが、ちょっと顔をしかめるだけで起きる気配は無し。

 

むにーと頬を引っ張る。

 

お、柔らかい。

 

こりゃ癖になるわ。

 

ぺちぺち・・・むに―――・・・つんつん・・・・・・

 

コロコロと変わる表情は見てて飽きない。

 

やべぇ、楽しい。

 

終いにはマジックを取りだし、嫌な笑いを浮かべながら・・・

 

「・・・・・・・・・何してんの」

 

「・・・起きていらっしゃいましたか」

 

「折角遊ばせてやったのに」

 

「おりょ、まさか初めっから?いんやー、お前の顔って面白ぇよなぁ」

 

起きているにも関わらず頬を引っ張ってみる。

 

「・・・いひゃい」

 

反撃してみろやコラ的な視線を送るも、何もしてこない。

 

はぁ・・・と深い溜息を吐き、俺は立ち上がった。

 

「何で残った・・・なんて、野暮な事聞かないわよね?」

 

やっぱり・・・あれか。

 

「悪かった・・・で、許してくれる筈もねぇよなぁ」

 

上着を羽織り、ぶすっとしながら座る彼女に手を差し伸べる。

 

「行こうぜ・・・初詣。約束だろ?」

 

「・・・破ったのはどっちよ」

 

渋々・・・と言った感じで、彼女が俺の手を握り返す。

 

その手はとても冷たく、少し、罪悪感が俺の心を突き刺した。

 

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「おおーおおー、賑わってんなぁ」

 

「今帰りたいとか思ったでしょ?」

 

だいせぇかーい。

 

「んな訳ねぇじゃん」

 

はぁ・・・と溜息をつく彼女。

 

「ほら、行くわよ」

 

「へいへい」

 

賑わう人の波に乗り、繋がれた手をしっかりと握ったまま列に割り込む。

 

「きゃ・・・ちょ・・・・・・」

 

しかし、些か強引だったのか小柄な彼女は波に飲まれて徐々に離れていった。

 

その時、一瞬だけ鼓動が早まる。

 

「世話かけさせんじゃねぇよ」

 

「ごめん・・・」

 

波を力技で押しのけ、彼女を胸に引き寄せた。

 

「ったく・・・だから俺はこういう場所が嫌いなんだよ・・・」

 

 

いつのまにか、彼女が何処かに消えてしまいそうで。

 

 

気付かぬ間に・・・俺の目の前からいなくなってしまいそうで。

 

 

「・・・ごめんね、私の我儘で・・・付き合ってもらっちゃって・・・・・・」

 

突然潮らしくなる彼女。

 

らしくない。

 

俺が本気で面倒くさがってるからだろうか。

 

「行くぞ・・・」

 

そんな顔されたら、断るなど出来ないじゃないか。

 

常に彼女の肩を抱き、俺が安心できる位置に引き寄せながら、人の波を進んでいく。

 

十数分後、ようやく最前列についた。

 

「はい、五円」

 

彼女から真新しい小銭を受け取り、賽銭箱に放り込む。

 

2人で鈴を鳴らし、柏手。

 

ちゃんとした礼儀作法があるらしいが、知るかんなもん。

 

 

しかし・・・一体、何を願えというのか。

 

 

大学二浪、ニートで親からの生活金を糧に、仲間ん家に居候中の俺。

 

願っても、叶う訳がない。

 

そんな資格、俺にはないのだから。

 

じゃあ、今年の抱負?

 

既に人生の脱落者道を歩んでいる俺に抱負などない。

 

ちらりと・・・隣を見る。

 

静かに目を閉じ、何かを願う彼女。

 

その姿はとても美しく、清らか。

 

思わず吸い込まれそうになるのを抑え、とりあえず俺も目を閉じた。

 

 

ああ・・・駄目だ・・・・・・やはり何も、思い浮かばない。

 

 

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帰り道・・・人気の少ない道を、2人で歩く。

 

「ねぇ・・・何、お願いしたの?」

 

「んー・・・世界平和」

 

嘘つけ、と肘をいれられ、苦笑する。

 

「そういうお前は?」

 

尋ねると、彼女は小走り気味に前に出、大きく腕を開きながら笑顔で言う。

 

「世界平和!」

 

「嘘つけ・・・・・・」

 

「だってぇ、世界が平和だといい事あるかも知れないでしょ?」

 

「そうかねぇ?」

 

平和だけじゃダメじゃないのだろうか。

 

不幸があるから、幸せを感じられるのであって。

 

平和だけな世界など、ただ単調な毎日なだけじゃないのだろうか。

 

まあ、そんな毎日を・・・人々は願っているのかも知れないが。

 

「んで、本当は?」

 

「だから、平和だよ。平和で・・・ずっと、あんたと一緒にいる事」

 

寒さからか、それとも恥ずかしさからか・・・赤らむ頬を隠さず、彼女は俺に告げる。

 

「ねぇ・・・あんたは、何お願いしたの?」

 

「さぁな・・・神のみぞ知るって事で」

 

「何それ・・・」

 

呆れる彼女。

 

そんな彼女の頬に、冷たい結晶が舞い降りた。

 

「あ・・・っ」

 

冷たい感触に、彼女は頭上を見上げる。

 

それに釣られ、俺も白雲の空を見上げる。

 

 

「雪・・・だ」

 

 

雪なんて、久しぶりに見る。

 

しんしんと・・・しんしんと・・・振り続ける雪。

 

「うわぁ・・・これ積もるかな?」

 

「さあなぁ・・・積もるかもしんねぇなぁ」

 

あはは・・・と笑いながら、彼女は雪の中でくるくると回り出す。

 

その姿は、まるで雪の中で遊ぶ子犬のようで・・・雪の中を舞う妖精のようでもある。

 

そんな彼女が可愛らしく・・・とても、愛おしい。

 

 

ああ・・・と、俺は自身の中の願いに気付いた。

 

 

彼女の笑顔を・・・ずっと見ていたい。

 

 

彼女の隣で・・・ずっと。

 

 

中年になっても、爺になっても・・・彼女の隣で彼女の笑顔を見ていたい。

 

 

でも、高望はしたくない。

 

 

打ち砕かれた時・・・どうしようもなくなってしまうから。

 

 

だから・・・まあ、とりあえずは・・・・・・彼女が、笑顔でいますように。

 

 

今年も・・・彼女の隣にいられますように。

 

 

親不孝者だし、ニートだし・・・はっきり言って、駄目人間だし。

 

 

何の取り得もないけれど・・・彼女の隣にいるぐらい許されるよな?

 

 

こんな俺でも・・・そんぐらいの幸せなら、得る資格・・・・・・あるよな?

 

 

「今年も・・・いい年で、ありますように・・・・・・」

 

 

そんな願いを・・・遠くにいる誰かへ、投げかけた。

 

 

 

 

 

説明
あけましておめどうございます。

冬ですねぇ〜・・・

最近忙しかったので更新してませんでしたが、連載作品の方も頑張ります(^−^)
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