スーパーマッスルパワー
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 いつものように僕と真人の部屋に恭介が遊びに来た。

小刻みに身体を上下させ、その度にフッ、フッ、フッ

とリズミカルに腕立てをしている真人がいる。

 その腕立てを見て、恭介は雷に打たれたように愕然

としていた。

「理樹。真人の様子が変だ」

恭介が僕に耳打ちをしてきた。

「気付かないか? いつものあいつじゃないことを」

その声のトーンは真面目そのものだった。真人の様

子を恭介と一緒にじっと見る……がいつもの真人と同

じように見える。筋トレに勤しむ姿は井ノ原真人その

ものだ。

「筋肉……筋肉……大好きだぜ…………!」

 恍惚の表情を浮かべて筋トレをしている真人。他人

からしてみれば、何をしているんだろう。と思われて

も仕方ないが、僕たちには普通の光景に見えるはずだ。

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「恭介? 何が違うかわからないよ」

 理樹。耳を澄ますんだ……と僕は恭介に促されて、耳に意識を集中させる。

「フッ、フッ、フッ……」

 身体に電撃が走ったようだった。突き抜ける衝撃。それは真人の声が一段階いつもより

高いことだった。

「理樹気づいたか」

 こくりとうなずいた。一度気づいてしまえば、もう意識を逸らすことはできなくなった。

妙に気味が悪い。

「理樹。後は……任せた」

 恭介がふらふらと部屋から出て行った。何か恭介のことだから考えがあるかもしれない

と思ったが、相部屋の僕が解決しないといけないようだ。

「理樹ー! 恭介が来てたのか?」

「うわぁっ!」

 考え事をしている最中に話しかけられて思わずびっくりしてしまった。

「ま、まぁね! 真人は最近変わったことある?」

 直球勝負。真人なら隠し事をせずに答えてくれるはずと思って。

「……………………」

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「ないぜ」

一瞬の間が空いたのちに真人にそう言われた。この間がすべてを物語っていた。

 その夜、少し寝付けなくて水を飲もうとした。するとベッドには真人の姿はなかった。

「真人……?」

 気になって眠らずに、真人の帰りを待っていた。午後三時くらいにドアが開く。廊下か

ら差し込む光が眩しい。そのせいで真人の表情を見ることはできなかった。

 翌朝、真人の様子に変わりは何もなかった。授業中もうごぉ……うごぉ……といびきを

たてて寝ている。昼も食欲旺盛に、カツ丼を特盛りで頼み、僕の野菜ライスよりも早く平

らげている。と言うことはやはり問題があるのは夜だった。

 謙吾は剣道部の合宿なので頼ることもできず、恭介は相変わらずだった。

 その夜、僕は真人をつけた。真人が、教室に入っていく。場所は科学部だった。そのあ

と、少ししてから真人の絶叫が校舎に響いた。

「うぎゃあああああおええええええぬわあああああああ!」

 いつもより、オクターブが二段階くらい上がっていて気持ち悪い。じゃなくって、真人

を助けなきゃ!

「真人! 大丈夫!?」

 教室のドアを開けると、そこには白目をむいている真人がいた。

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「真人……どうしてっ…………」

「これは彼が望んだことなんだ」

 科学部の鈴木君がそう言っている。

「西園君のNYPで負けたのが悔しいらしく、我々に頼みこんできたんだ」

 NYP。なんだか・よくわからない・パワーである。それに対して我々は筋肉に目をつ

けたんだ。それはSMP。スーパー・マッスル・パワーだ。つらつらと語っているが、白

目をむいている真人を見ていると、僕の耳にそれが入ってくることはなかった。

「筋肉! 筋肉! キ……ンニク……!」

 もう僕は耐えることはできなかった。声が鈴より高い真人なんて嫌だ!

「うわああああああああああっっ!」

 目を開けるとそこは自分の部屋だった。夢だったのか……部屋ではフッ、フッと真人の

声が聞こえる。普通の声を聞くと安心するってどうなんだろう。

「よう、理樹……」

真人の姿を見た瞬間、僕は逃げ出した。何にも構わずに。だって、真人の声で鈴の顔を

しているのは耐えることができなかったらだ。

「どうしてこうなるんだあああああああああ!」

 どうしてこうなった…………

 

説明
真人は愛すべき馬鹿である。
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2006 1983 1
タグ
ct017ngm リトルバスターズ 理樹 真人 

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