八陣・暗無13
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 風間の強い希望で、単独での任務、及びそれまでの通行手段もバイクでとのことで決定した。 風が身を揺さぶり、それを文明の利器で対抗する。

 スピードは140を超え、更に加速増す。

 その先には、あの男が存在する。

(・・・・・・あと、10分ぐらい、か。)

 ハプネスを出て40分。こんな近い距離に軽部がいたなんて思いもしなかった。いや、別館から出て徒歩で遭遇するぐらいだ。冷静に考えればその程度かもしれない。

「先代・・・・・・社長には、感謝しないとな。」

 上部の二人と社長、それと位置を確認するために少数の技術者しか知らない極秘任務との扱いと、給与さも与えられたのだ。

「・・・・・・まあ、そうは言っても、」

 ―――私が死ぬ可能性も0ではないがな。

 そう、決して0ではない。相手はあの軽部である。

 ハンドルを持つ手が小刻みにビートを打つ。自分の意思でないその動きに自嘲した。

「・・・・・・・っふ、この私が震えるとは・・・・・・・っ!」

 スピードを上げ、さらに加速する。

 

 時間もかからず、すぐに軽部が占拠しているという廃ビルへと辿り着く。

「・・・・・・。」

 まるで燃え焼けた後の様に、人はおろか生物が存在する気配さえもない。だが、コンクリートでできた無残なビルは、まるで軽部という人格を表しているようにも見えなくはない。

 半信半疑で、音を立てずに進入する。入り口にはロックや防犯システムはおろかドアさも無い。あるにはあるのだが、それはドアだった物体であった。

「・・・・・・。」

 とはいえ、暗殺を専門とする風間からすれば、この造りはよくできていた。これだけ壊れやすい物質で作られ、以外に音響がよいのならすぐに軽部は気付く。変な防犯機能など使うよりは、よっぽど合理的であると読み取った。

 階段があり、それをあがっていくと、

「――――――っ!」

 強烈の血の匂い。いや、それはもう慣れている。だが、それよりも大きい要素。それは、

(―――軽部の、匂い・・・・・・っ!)

 ドクンっ!

 今、この場でやっとあの男と対峙できるという喜びを抱きながら、ゆっくりと足を進めていく。生唾をゆっくりと飲み込み、爆発しそうな心臓を押さえながら進む。

(・・・・・・この場所に、軽部がいる―――っ!)

 それはついこの間まで夢のような物語だったが、それが今では現実のものとなっている。

 そう。

 普段の暗無ならここで気付いただろう。・・・・・・いや、本来の暗無ならばバイクを降りた地点で気付いていた。

 風間はゆっくりと、全ての部屋を見回り、やがて一番奥に存在する生活感のある部屋の前までやってきた。

 もう、風間の心境は大変だった。心臓が暴れ、今すぐ飛び込みたいのと引き返したい衝動に同時に襲われる。

 ―――その時、

《ブ――》

「―――っ!」

 風間の携帯が震えだした。

 ガガガガアアアン!

 それと同時に部屋に侵入すると、すぐにナイフを構え戦闘態勢をとる。

 ・・・・・・だが、

「・・・・・・む、無人だと・・・・・・っ!」

 わけも分からず混乱していると、再び携帯が鳴り震えた。

「・・・・・・。」

 どうするか迷った挙句、この空間に人の存在がないと判断するとそれを耳元に当てる。

「・・・・・・はい。」

《暗無っ!葉山だが大変なことが起きたっ!》

「・・・・・・。」

 拍子抜けというか、まるでもうどうでもいい衝動に襲われたが、その一言で風間は動き出す。

《軽部がハプネスに潜入し、今も潜伏してる!》

「―――なっ!」

《とにかく、すぐに戻ってきてくれっ!私は社長を逃がしていたんだが、その間恭平が食い止めて・・・・・・》

 これ以上聞いている暇はなかった。

(・・・・・・何故っ!何故気付かなかったっ!)

 自分の無力さに腹を立てる。

 考えてみれば、情報が漏洩する可能性も0ではない。軽部が単独であると心の何処か決め付けた己の弱さがこの事態を招いたのだ。

(これじゃあ・・・・・・これじゃあ・・・・・・っ!)

 すぐにバイクに跨り、ハプネスを目指す。

(あの時と同じではないかっ!)

 あの時、軽部に殺されたとき、誓った言葉。

 

 もし、私が生きていれば――――次は無い。

 

 昔と何も変わらず、どこも成長していない自分の不甲斐なさを恨んだ。これも、5年も前に経験した屈辱であった。

(―――あああああああっ!胸が熱いっ!軽部、軽部、軽部ぇぇぇええええっ!)

 ただ思い切りアクセルを回す。

(殺してやる。殺してやる!殺してやるっ!)

 心に刻み、風間は軽部の後を追い続けていた。

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