真・恋姫†無双‐天遣伝‐(17)
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・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

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砂塵を巻上げて進む、金ぴかの目に痛い軍団がいた。

 

 

「おーほっほっほっほっほっほ!! さぁ、皆さん、華麗に! 雄々しく! 優雅に! 賊を滅して差し上げるのですわーーー!!!」

 

 

その中程で、筋骨隆々の男共の担ぐ御輿に揺られながら耳に痛い高笑いをする女が一人。

袁本初―麗羽である。

 

 

「あらほらさっさー!」

 

「うぅ・・・」

 

 

呑気に大声を上げながら、武器を何度も振り回すのは文醜―猪々子。

涙を薄らと流しながら進むのは、顔良―斗詩であった。

麗羽がここでこうしている理由は、実は至極単純。

唯、「名族袁家である自分に対し、『天の御遣い』とは言え命令するのは間違っている」という価値観に基づいただけの事。

つまり麗羽は、自分が間違った事をしている等とは全く思っていないのである。

だが、そうなると別の問題として、「何故今まで御遣いに従っていたのか」という疑問が浮かぶだろうが、これも実は至極単純。

「名族の余裕を見せ付けてやろう」という考えがあっただけだ。

それで失敗を続けていれば、何れは自分に大将をして欲しいと頼み込みに来る筈、と高を括っていたのだが。

結局そうはならず、大した戦勲を上げていない事に気付き、慌て始めた所で件の情報が舞い込み、真っ先に食い付いた訳だ。

今、麗羽の頭にあるのは、黄巾本隊を相手に完勝して官軍が皆して自分を称えるシーンしかない。

 

しかし、麗羽は大きな勘違いを犯している。

兵達の士気が、これ以下なく低い状態にある事を全くもって理解していないのである。

麗羽の兵運用の基本方針は、「数で一気呵成に圧倒的に押し潰す(つもり)」である。

だが、如何な大軍であろうとも、兵の士気が極端に低い現状では、その程度も不可能に等しい。

何故ならば、そんな兵達なら我先にと逃亡しようとするのは想像に難くない。

 

おまけに袁紹軍の兵達も、麗羽よりも天の御遣いに絶対の信頼を抱いているのだ。

元々、彼等は唯の一般人から徴兵された者達だ。

兵隊は軍団長の為に戦って当然と見なしている麗羽と、兵だって人間だと思いその意思を尊重してくれる天の御遣い。

どっちが慕われるかは、最早比べるまでも無い。

故にこそ、兵達の士気が上昇する訳がないのである。

 

そんな中、とても扇情的な姿をした将軍と思われる女性が溜息を吐いていた。

 

 

「もう袁紹軍も飽きてきたなぁ・・・そろそろ新しい身の振り先でも考えようか」

 

 

張?儁乂、真名は悠。

何度も無謀を繰り返す麗羽を面白がって袁紹軍に所属していたものの、最近では少し度が過ぎるのが嫌になり始めていた所であった。

 

 

「天の御遣いがいいかねぇ、それとも曹操。

・・・いやいや袁紹の同類と名高い袁術ってのも意外とありかな?」

 

 

ブツブツと呟きながらも、顔はニヤニヤとしている。

傍から見れば、相当不気味だ。

横目で斗詩や麗羽をチラ見してから、思い付いた様に手を叩いた。

 

 

「よし、決めた」

 

 

悠と付き合いの長い彼女の部隊の者達(傾き者だらけ)は、毎度の事だと笑っていたが。

 

 

「敵が見えたぞー!」

 

 

前の方の兵から飛んだ声で、軍全体に緊張が奔る。

各々は武器を構え。

 

 

「総員、突撃ですわ!!」

 

 

麗羽の号令で混乱と共に突撃した。

 

 

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真・恋姫†無双

―天遣伝―

第十六話「誤差」

 

 

 

「急げ急げ! 全速力で馬を飛ばすんだよ!」

 

「すいません碧さん、無理言って!」

 

「いいって事よ!」

 

 

一刀は美里に後詰めを任せ、勝手に進軍を始めた袁紹軍を、最も足の速い董卓軍と西涼軍を伴って全速力で追いかけていた。

しかし、既に袁紹軍は接敵してしまっている。

だからこそ、一刀は全力で追っていた。

一刀は、袁紹軍を出来る限り戦わせたくないと思っていた。

その理由は、先にも解説した通り士気の低さ故にである。

 

 

「一刀ぉ! 大丈夫なんか? こないに飛ばせば、馬がへたってまうで!」

 

「済まないけど、今は一刻が惜しいんだ!」

 

 

横に並んだ霞の言葉を一瞬で切って捨てる。

相当に焦っている。

それを霞も瞬時に理解し、口を噤む。

霞自身、今回の袁紹の無謀を遙かに通り越した愚行は我慢がならなかったのだから。

 

 

 

官軍内。

こちらでは、袁紹軍が抜け駆けをしたと耳にした各諸侯は混乱し、更には一刀が涼州勢を率いて袁紹軍を追ったと聞き、今度は憤慨して口々に彼等を罵り始めた。

しかも、止められる者が中々現れず、終いには自らも飛び出そうと勝手を起こそうとした者が出始める。

それを止めたのは意外にも。

 

 

「お主等うるさいわ! 少しは落ち着いて沙汰を待てぬのかや!?」

 

 

袁術であった。

これには、物事の推移を呆れながら見守っていた曹操や、飛び出そうとして張昭に止められていた孫堅も揃って愕然とせざるを得なかった。

よりにもよって、【あの】袁術が。

と、諸侯等の間で全く別のざわめきが強くなる。

当代の袁家の長は揃って無能と噂されていただけに、この衝撃は相当なものだった。

最も、美羽の方は自分の言葉一つで鎮まり返った場に気を良くし、踏ん反り返っているのだが。

それを見て、華琳は鼻で笑い、大蓮は少し難しい顔になり、雪蓮は興味がありますと言わんばかりの視線を送っていた。

そして、美羽のその意図せぬファインプレーが、功を奏した。

 

 

「おや、思ったよりも落ち着いているじゃないか。

これは、嬉しい誤算だねぇ」

 

「・・・・・・本当に予想外です」

 

「・・・・・・ぐぅ」

 

「起きろっ!」

 

「おぉっ! つい現実逃避を」

 

 

美里と稟と風が皆の揃う天幕へと入って来た。

それに、諸侯の者達は身を固くする。

 

 

「お前等、総大将よりの命だ。

これより、我等は黄巾との決戦に臨む!

手柄を立てたい奴は気張りな!」

 

『おぉっ!!!』

 

 

皆が気勢を上げる中、華琳は鼻で笑って天幕を立ち去る。

それを華蘭が追い、訊ねた。

何故、最後まで美里の言葉を聞かぬのかと。

華琳は三度鼻で笑って答えた。

 

 

「最早、茶番と化したのよ。

麗羽は負けるわ、確実にね。

そして一刀も勝てない、あのままの兵力では決して。

ならば、一刻も早く向こうに行き私の目的を果たす事、それが肝要。

そして何より・・・・・・」

 

 

華琳は哂う。

それはもう、楽しそうに。

 

 

「あの麗羽の屈辱に歪む顔が見られるのよ? これ程心躍る話は無いじゃない」

 

 

クックッと暗い哂いを零しながら自陣へと向かう華琳の背を見ながら、華蘭は肩を竦めるしか無かったのであった。

 

 

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戦場。

此方は泥仕合の様相を呈していた。

麗羽の求めた「華麗に、雄々しく、優雅に勝つ戦い」など何処にも存在しない。

あるのは、唯の殺し合いと命乞いの声と絶望の絶叫。

故に、麗羽の苛々は相当であった。

 

 

「なぁーにをグダグダしているんですの、家の兵達は!

栄えある袁家の兵が、賊如きに苦戦する等許されませんわよ!」

 

 

兵士達の心中を理解しようという欠片も感じさせない辛辣な言葉が、麗羽の口から次々に飛び出す。

その度に、その言葉を聞いた兵士達は、すぐにでも麗羽に飛び掛かって剣を心臓に突き立ててやりたい衝動に駆られるが、眼前の殺意を以って襲いかかって来る敵兵から注意を逸らせない為、実行する事は出来なかった。

そう言う意味では、麗羽は幸運と言えただろう。

 

 

「やれやれ、ウチの大将は相も変わらず無茶無謀ばかり仰る事で・・・」

 

“シュッ”

 

「ぎぃやあああああああああああ!!」

 

 

呆れた様に溜息を吐きながら、装着した爪手甲―風月で襲い来る敵兵を切り裂く悠。

最も、表情は笑顔なのだが。

その後ろでは、彼女の配下が更に敵兵を斃した。

 

 

「儁乂様ー、どうしやす? 俺等こんなとこで、あんな滅茶苦茶な命令で死にたくないっす」

 

「あー・・・」

 

 

うっかり風月で引っ掻かない様に注意しながら、後頭部をポリポリと掻く悠は、内心この状況を楽しんでいた。

何分、人以上に何でも楽しめてしまう性分ゆえに、麗羽の無茶な命令を楽しんでこなす事は多々あったが、流石に部下の命まで懸けさせるのは、悠の善しとする所では無い。

更に迫って来た黄巾兵を薙いで、言葉を発した。

 

 

「しょうがないな、お前達は退いていいよ。

・・・私は残るけどね」

 

「いや、儁乂様捨てて逃げるのは流石に気分が悪いんで」

 

「だーかーらー、逃げるんじゃなくて退けって言ってんの。

私一人なら、もしものとき以外は逃げられるじゃない?

そのもしもの時になったら、お前達が助けに来てくれればいいよ」

 

「・・・了解!! おーし、お前等退くぞー!」

 

『応!!』

 

 

配下の一人が発した言葉を、次々に他者へも伝わって行き、張?隊は次第に後退を始める。

その中で唯一人、悠が残る。

満足気に頷き、周りを取り囲む外卑た目をする黄巾を見渡す。

おおよそ、魅惑の身体を持つ悠を組み敷く有り得ない妄想でもしているのだろう。

普通の人間ならば絶望しか抱けない状況の筈だが、悠は返って昂っていた。

 

命の瀬戸際を楽しめる。

それが、悠の異常な部分だ。

だが、悠はそれを変える気は一切無い。

唯只管に、楽しみ続ける事。

だからこそ。

 

 

「人生は、楽しい!!」

 

 

周りの黄巾共が怪訝な顔をするが、悠には全く関係ない。

そして、その瞬間がそのまま隙になった。

恐るべき速度の横移動が、黄巾達を置き去りにする。

姿を見失い、辺りを見渡そうとする頃には既に身体は切り裂かれ、血飛沫を上げて倒れる。

 

態と動きを止め、両手で敵に「おいでおいで」と手招きをし、挑発する。

激昂した黄巾兵が、槍を水平に突き出して来るのを態とギリギリを見計らって身体を捩りながら避け、そのまま右の爪で切り裂く。

異常なまでの見切りと、超が付く程の反射神経があるからこそ成せる驚異の業だ。

しかしそれは、黄巾達に僅かな希望を与える光景でもあった。

悠がそうなるように【見せた】だけとは知らず、紙一重で躱すしかなかったと錯覚したのである。

そうなれば、後もう少しと思い込んで、同様に槍が次々に突き出される。

だが、中らない、全くもって中らない。

そして槍が突き出される度に、黄巾を巻いた屍が増えるばかり。

 

おかしいと思い始めた頃には、黄巾達の数は殆ど残っていない。

頬を染めて上気する悠は非常に色っぽく官能的なのだが、返り血と爛々と光る目の所為で恐怖しか感じさせない。

武器も捨てて、慌てて逃げ出す黄巾達に対し、悠は面白くなさそうに口を突き出しただけだった。

 

悠の戦場だけを見れば大勝利なのだが、全体を見れば、完敗と言っても差し支えない。

中央は敵将韓忠によって完全に制圧されているし、猪々子は入り込み過ぎて退路を断たれて孤立している。

斗詩は良く頑張っているが、正直麗羽の元へと敵兵を通さないだけで精一杯の様だ。

悠がいる辺りだけぽっかりと穴が空いているかの様な状況な訳だ。

 

 

「あらら、こりゃまずったか?」

 

 

悠の後頭部を、漫画の如きでっかい冷汗が流れ落ちた。

自身の戦いに夢中になり過ぎて、全体の様子を掴み損ねていた。

これはまずいと思うが、次いで聞こえて来た地響きに安堵を抱いた。

それは当然。

 

 

「到着!!」

 

「ようやっと着いたー!!」

 

「皆、済まないがこのまま戦いに入るぞ!!」

 

『応っ!!』

 

 

官軍の先遣が追い付いたからであった。

 

 

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天の御遣い率いる部隊の到着。

その事実は、思った以上に周囲を揺るがした。

具体的に言うのならば。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!! 御遣い様に無様な姿は見せられんぞ!!」

 

「天の御遣い様、万歳!!」

 

 

袁紹軍所属の筈の兵達が大いに奮い立ったのである。

しかし、少し危ない感じがしないでもない。

まるで神風特攻のノリだ。

 

 

「あ、あら? ・・・おーっほっほっほっほ!! そうですわ! それでこそ、袁家の兵ですわーーー!!!!」

 

 

何か勘違いをしたっぽい麗羽の高笑いは、普段ならば無視する事は難しいのだが、今回ばかりは薄っぺらで、虚しく聞こえた。

戦線が一気に押し返される。

ここに来て一刀を始めとする官軍が援軍として現れた事は、大いにプラスに働いた。

袁紹軍の士気が鰻上りに上昇したのと同時に、黄巾達の士気が目に見えて下がっていっているのだから。

一刀は白澤に跨ったまま前線に飛び込み、暁の白刃と制服の輝きを閃かしながら次々に敵を斬り倒していく。

それだけではない。

 

 

「り、りょりょりょ呂布だーーーーー!!!」

 

「・・・・・・邪魔!!」

 

 

一騎当千と黄巾中でも名高い呂布の闘気を身に浴び、その武によって仲間がポンポン宙を舞うのを目撃すれば、賊でしかない黄巾党の心を折るには十二分過ぎる。

そうなってしまえば、壊走は時間の問題だった。

筈だった。

 

 

「野郎共、気張れぇ!!」

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

「何っ!?」

 

 

先程まで楽々と蹴散らしていた筈の黄巾の後ろから、姿に殆ど統一感が無いものの、一糸乱れぬ統制を魅せる部隊が前進して来たのである。

 

 

「何や、あれ・・・ホンマに賊かいな?」

 

 

神速の用兵を自負する用兵のスペシャリストの霞が、畏怖を抱いた程度に統率された部隊は、押し込まれかけていた筈の前線を再び押し戻し始めていた。

一刀はこの状態を、綱引きの様に感じていた。

 

 

「天和ちゃん達を渡すなぁ!! 俺達で皆守るんだよ!!」

 

『応!』

 

『天和ちゃーん!』

 

『地和ちゃーん!』

 

『人和ちゃーん!』

 

「(何だこれ? 程遠志が言っていた事からもおかしいと思っていたけど・・・明らかに賊の統率のされ方じゃないぞ!?)」

 

 

一刀の背筋を、冷たい物が伝う。

数は、約三万。

官軍よりも少なく、ここに集結していた黄巾の十分の一に満たない筈なのに。

一刀は此処に至って互角の戦況に持ち込まれたと、確信した。

まず、士気の面では相手に軍配が上がる。

人の名前(真名っぽい)を叫んだだけで、ここまで士気・・・いや、この場合テンションと言った方がしっくりくる。

テンションがこれ程までに上昇するのは、一刀にとっては未体験だった。

いや、違う。

そう一刀は心中で自身の言葉を否定する。

一度、似た様な場面を見た事がある気がするのだ。

あれは、そう・・・

 

 

―――回想

 

 

「かずピー! 見てや、プレミアチケットやで、プ・レ・ミ・ア!! 一緒に行こでー!!」

 

「断る、俺アイドルに興味無いし」

 

「かー! 嘆かわしいなぁ。

高校生のくせして、なしてそないに枯れとんねん!」

 

「いや、俺枯れてないし。

もう女の子大好きだし」

 

 

―――略

 

 

「・・・・・・耳が痛え」

 

「かずピー、それ熱狂的ファンに言うたらフクロにされるで」

 

「俺の耳に痛かったのは、アイドルの歌じゃねえよ。

人の耳元だろうがなんだろうが、気にせず絶叫する奴等の所為だ。

何で【アイドルの名前を叫ぶだけであんなにテンションを上げられるんだ】?

色々おかしいだろ」

 

 

―――終了

 

 

ああ、そうか。

漸く合点がいった一刀。

 

 

「(あれは、熱狂的信奉から来てるんだ。

それも、宗教的な意味で無く、極々一般的な意味で)」

 

 

ここに至り、一刀は遂に理解した。

黄巾首領張角の正体に。

 

 

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戦場を見渡せる小高い丘の上に男は居た。

手を瞼の上に翳しながら、戦の趨勢を見物している。

 

 

「おーおー、こりゃまた混沌の様を呈してきたな」

 

 

楽しそうににやけ、あちらこちらで戦う者達に視線を向ける。

麗羽は、援軍の到着で折角互角まで状況を戻したにも関わらず、突撃以外の命を下さない為、自軍の者達の混乱を増長する役割を担っていた。

それによって生まれた穴を、一刀を始めとする官軍が必死に繕っている御蔭で、今でも何とか互角の様を保つ事が出来ている状況だ。

だと言うのに。

 

 

「後詰めの癖に、何で私の邪魔しているんですの!?

私の華麗な勝ち戦に無様な汚名を被せる気で!?」

 

 

自身のやっている事を全く理解していないのだ。

一刀達が、袁紹軍の救援に来た事さえも。

一刀達が限界ギリギリの今にもはち切れそうな緊張の中必死に作り直した前線に、麗羽が次から次へと兵を送り込んで来る所為で、すぐに前線の統制が崩れてしまうのだ。

 

 

「袁紹の大空けが!! 用兵の『よ』の字も知らんのかい!!」

 

 

霞が、そう声の出る限り怒鳴ったのも無理は無いだろう。

その傍では、恋が険しい表情で方天画戟を二度ばかり振るい、黄巾の雑兵を吹き飛ばした。

だがそれだけでは勝てない。

何故かと言えば、奥の方から現れた黄巾の精兵連中の錬度は、涼州軍に匹敵しているのだ。

これは相当な事である。

何せ、先程から葵の部隊を三度程押し返してしまっているのだから。

しかも、三度目は碧の部隊も同時にだったと言うのに、だ。

最大の敵は味方(最早そうとすら呼びたく無くなってきていた)の上、今の今までその存在が明らかになっていなかった黄巾の精兵連中。

均衡が徐々に崩れ始めていた。

無論、悪い方向に。

 

 

「ちぃっ! ?徳隊は後退、代わりに華雄隊前へ出ろ!」

 

「任せろ!」

 

 

付き合いがそれなりに長い涼州兵同士の連携はお手の物だ。

だが、今回その間には、袁紹軍兵が数多いる。

それらの全てを躱しつつ黄巾のみを討つ等、無理もいい所だ。

だがしかし、それでもやらねばならない。

ここで退けば、袁紹軍兵の者達は揃って全滅間違い無し。

袁紹は例えそうなっても、自分の期待に応えられなかった兵が悪いと、平然と言い切る事は想像に難くない。

しかも、そうなった場合。

袁紹は間違い無く、懲りずに再び自領で徴兵する。

それだけは何としても避けねばならない。

 

一刀の人を見る目は、それなりに良い。

その一刀をして、麗羽は救い難い存在だ。

美羽はまだ良かった。

彼女は、幼い頃は立派に他者の心の機微を察する聡明さがあった。

そして人は変わらないのだ、良くも悪くも。

「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものだ。

その一方、麗羽は幼い頃から【コレ】なのである。

後先考えぬ大空け。

自身の幸せこそが、他者にとっての幸せにもなると本気で信じている。

自分は名族袁家の跡取りなのだから何をしても許されるべきだと、心底信じている。

家柄こそが、この大陸においては絶対だと。

そして、その考えを諫める者は誰一人としていなかった。

故に、ここまである意味全くぶれずに成長してしまったのだ。

完全無欠の驕り高ぶる暴君として。

 

華雄が黄巾の精兵の壁の一カ所に、ほんの僅かな混乱を巻き起こす。

だが、その僅かな隙を見逃さない者はいた。

碧である。

 

 

「吶喊!!」

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 

全速力でその隙に突っ込み、大将首を狙う。

そして、その加速を保ったまま、敵将韓忠の胸を極一閃で貫いた。

だがしかし。

 

 

「何!?」

 

「同志、やれーーー!!」

 

「おおっ!」

 

「ちぃっ!」

 

 

韓忠が極一閃を掴み、そこへ黄巾精兵の一人が碧に向けて槍を突き出してきた。

咄嗟に極一閃から手を離して回避しようとするが、間に合わず。

 

 

「ぐぅっ!!」

 

「はっ、ざまぁみやが・・・れ・・・・・・"ゴフッ”」

 

 

碧の右腕を槍が貫いた。

結構な勢いで血が流れていく。

動脈に近い部分を疵付けられた様だ。

朔夜が碧に近付き、応急処置の為に西涼軍を退かせる。

西涼軍が戦線離脱してしまった事で、実質黄巾党側に戦況は傾いてしまった。

 

敵将を討ち取ったにも関わらず、黄巾精兵勢の士気は落ちる事無く。

いや寧ろ激昂の意を見せて、上がってすらいる。

一刀の背筋を冷たい物が降って行った。

この状況を打破するには、援軍が必要なのに、その援軍はまだ来ない。

そうなるべき時間では無い。

そう、思っていた。

そして予想は覆される。

良い方向へと。

 

地響きが聞こえる。

相当な大勢が、この場へと近付いて来る音。

一刀は視線を上げる。

そして。

 

 

「間に合ったか! 援軍連れて来たぞー!!」

 

 

その美里の言葉に、丘の上から見ていた男は実につまらなそうに舌打ちを漏らした。

 

 

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援軍の到着。

これを機に、一刀は一時全軍を後退させる事を選択した。

その際袁紹軍は徹底無視。

最も、殆どの袁紹軍兵は一刀に付いて来たのだが。

 

一刀と合流した美里が真っ先に行った事は、取り敢えず御輿の上で今でも踏ん反り返っている麗羽の脳天に拳を振り下ろす事だった。

 

 

「痛っ!? 美里さん、何をするんですの!?」

 

「ええい、この馬鹿! 阿呆! 空け! 脳無し!

お前にはこの後でも説教するから覚悟しとけ!!」

 

「痛たた! そ、そんな暴言許されませんわ!!」

 

「じゃかしい!!」

 

「痛たたたたたたたたたた!!」

 

 

そのまま腕を捻りあげ、一刀の方へと視線を飛ばす。

そこに籠められた意味を正しく受け取った一刀は、官軍全体に命を下した。

 

 

「曹操軍は敵の右側面に、孫堅軍は左に回り込み、袁術軍は退路を断て!!」

後は俺について、正面から敵を討つ!!

袁紹軍は下がり、後の沙汰を待て!!」

 

 

的確に指示を飛ばし、白澤を駆けさせる。

袁紹軍が退いて来る時の表情を見れば、とてもホッとしたような顔をしていた。

奥歯を強く噛み締め、前を見る。

そこにいるのは、然程混乱していない黄巾の精兵連中。

紛れも無く強敵、集中を乱して勝てる相手では無い。

 

 

「一刀、行きましょう!」

 

「お兄様!」

 

「ああ!」

 

 

横に並んだ葵と蒲公英と、ほんの少しだけ言葉を交わし、三人とその後に続く兵達は一直線に黄巾の群れに突っ込んだ。

 

 

「夏候元譲参上! 賊共覚悟ー! 一分一秒でも早く死ねー!!

そして私は華琳様に(検閲削除済み)してもらうのだー!! ウハハハハ!」

 

「ははは、姉者ー、欲望が垂れ流しだぞ〜」

 

「・・・(検閲削除済み)か、私も一刀相手なら・・・・・・”ゴフッ!”

いかん、想像するだけで気を失いそうだっ!」

 

「あんた等まじめにやんなさいよ!!」

 

「ふふふ、いいわ春蘭。

この戦で私の望む結果を出せたら、叶えてあげる」

 

 

曹操軍はフリーダムに。

 

 

「死ねぇ!!」

 

「あんた達には命乞いをする事すら許されないのよ!」

 

「堅殿も策殿も、当初の目的本当に覚えとるんじゃろうか?

今更ながら、非常に心配になってきおった」

 

「大丈夫でしょう、堅殿は愚物ではありませんし。

しかし・・・私が戦場に来る意味、あったのでしょうか?」

 

「済まぬ、儂一人では火の付いたあの二人を到底止められん」

 

 

孫堅軍は暴風雨の様に。

 

 

「う〜む」

 

「美羽様、どうかしましたか?」

 

「七乃ー、おかしくないか?

ここには本当に張角がおるのかのう?

隠れる場所が見当たらんぞ」

 

「・・・確かに、そんな感じがしませんね。

今官軍は辺りをぐるりと囲んでいるから、隠れる場所も抜け出す隙も無い筈・・・・・・あっ! 凄い、美羽様大手柄ですよ!!」

 

「お、おおっ? そうか、ならもっと褒めてたもー!」

 

「久方ぶりの戦い・・・身体が軽い!

今の私は、誰にも負ける気がしない!!」

 

 

袁術軍は何かに気付いた様に。

それぞれが、黄巾を殲滅していく。

気付けばもう一万いるかいないかといった程度になっている。

勝ち戦は最早間違いない。

だが。

得られるものの差は――

 

これより大凡二十分の後。

黄巾党は全滅。

陣も誰かが炎を放った為に、灰塵へと変わり果てた。

しかし、焼け跡には張三姉妹の姿は無かったのである。

 

 

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戦が終わった頃。

戦場からそれなりに離れた森の中を必死に走る女が三人。

 

 

「姉さん、こっち!」

 

「ひぃひぃ、舞台の上で踊るよりずっと辛いよぅ」

 

「いいから早くしないと、捕まったら終わりよ!」

 

 

張三姉妹その人である。

官軍が攻めて来た時、麗羽の考え無しの突撃の為に、面食らった黄巾党は張三姉妹の天幕付近まで押し込まれてしまったのだ。

それを押し返す為に、張三姉妹の親衛隊は前面に部隊を展開せねばならず、三姉妹の様子を見に来れなくなっていた。

その隙を突いて、三人は逃げ出した。

もしもこれが、一刀の考えていた策の様に、万全を整えてから包囲制圧だったならば、三人は決して逃げられなかった。

だが、三人が失念していた事が二つある。

それは第一に、森を突っ切って真っ直ぐ進むよりも、多少なりとも整備されている道路を進む方が、圧倒的に速いと言う事。

そしてもう一つが。

 

 

「止まれ!」

 

「あっ!」

 

 

そんな処を見られれば、逃亡者に。

そうで無くとも、怪しい人物にしか見えないと言う事だ。

 

 

「こんな所で何をしているんだ」

 

「そ、それは・・・」

 

 

武器を持った男の問いに、人和は言葉に詰まった。

男の目が細まっていく。

怪しいと思われているのだろう。

 

 

「私達、黄巾党に捕まっていて、命からがら逃げて来た所なんです」

 

「(ちい姉さん!?)」

 

「(いいから私に任せなさい)」

 

 

地和が男に出まかせを、立て板に水を流す様に語る。

少しばかり真実が混ざっている辺りが、嘘に真実味を持たせている。

話が進む毎に男から怪しむ様な雰囲気が薄れ、代わりに涙ぐむ様になった。

どうやら本気で信じてしまっているらしい。

 

 

「うぅ、お嬢ちゃん達苦労したんだなぁ・・・それに比べ、俺のやっている事は何てくだらないんだ・・・・・・行きな、俺にはお嬢ちゃん達を止める資格なんて無い」

 

「あ、ありがとうございます、おじさん!」

 

 

遂に多量の涙を流し、三人に背を向ける男。

感極まった様な演技をしながら、感謝の言葉を述べる地和。

伏せた顔は、ニヤリとしてやったり顔だったが。

 

 

「さ、行きましょ」

 

「ちいちゃん凄ーい・・・」

 

 

感嘆の声を上げる天和に、気を良くして笑う地和。

人和は、やれやれと思いながらも地和に感謝していた。

そして、三人は歩いて森を抜けようとする。

だが、それこそが間違いだった。

彼女達は、走って森を抜けるべきだった。

だから。

 

 

「えっ!?」

 

「止まれ」

 

"ズゴンッ!!”

 

 

足下に打ち込まれる重量級の得物。

そして、その後ろにいる小柄な金髪の女の子。

この二人に見付かってしまった。

 

 

 

 

第十六話:了

 

 

-9ページ-

 

 

後書きの様なもの

 

一週間以上の間を開けて、十六話の投稿です。

今回は、郁さんの創り上げられた張?姐さんの登場回であり、同時に色々なフラグが見えて来ると思われる回になりました。

因みに、悠姐さんの性格モチーフは元がいます。

よければ考えてみて下さい。

ヒントを一つだけ:モチーフ元の二つ名は<生還者>

 

レス返し

 

 

・悠なるかな様:バカです、バカ故に自分が何をしているかの理解をしようともしません。

 

・mighty様:華蘭は想い込んだら何処までも・・・

 

・はりまえ様:ところがどっこい、モラルある諸侯以外では一刀の方に非難が行きます。

 

・瓜月様:斗詩の頸に死神の鎌が・・・? 残念、それは諸君の愛の手だ。

 

・赤字様:ところがプロットは未だに固まっていないという・・・

 

・poyy様:真・恋姫をプレイしてみてからずっと、美羽は根っこが優しい子だと思っています。

 

・ルーデル様:自分の価値観を重視してしまうバカは特に、ですね。

 

・流狼人様:結果は次回をご覧あれ、です。

 

・ヒトヤ様:その通り、故に一刀は引き分けに拘ったのです。

 

・うたまる様:ある意味一番美味しいポジションじゃないですか、それ。

 

・2828様:あー、結構平気だったりします。 咲は、過去のいい子だった頃の美羽を知っていたから、あそこまで追い詰められたのです。

 

・砂のお城様:彼女にとっては、一刀との時間は全てが掛け替えの無い宝物。 斗詩は原作でも苦労してましたが、最後までそう言った事とは無縁でしたので、罹りません。

 

・F97様:その通りです。 普通の人に手加減無しに撃ったら、頭蓋骨に罅が入りかねない威力だったり。 しかし、春蘭の身体の頑丈さが人並み外れている御蔭で無事でした。

 

・ue様:・・・・・・期待に沿えるよう頑張りましょう。

 

 

皆様の応援の御蔭で、ここまで頑張れています!

皆様に尽きぬ感謝を!

ではまた!

 

 

 

説明
今回は初めてのインスパイアを含みます。

郁さんから借り受けました。

少し遅くなったのは、展開に悩んだ末です。
最も、どこか妥協した感は否めませんが。
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コメント
麗羽はある意味とことん突き抜けてるな〜・・・誰か叱ってあげろよ;美羽は自分なりにしっかりしてきて見ていて嬉しいですね。さて張三姉妹は誰に見つかったのやら?次回も楽しみです。(深緑)
袁術ktkr、展開が楽しみすぎるww(hapines18)
ちょ!?華蘭さん!戦中ですよ!ナニを言っているのですか!!一刀が憎い・・・。今回はいろいろと気になることが出てきましたね、次の更新を楽しみに待ってます? 華蘭の甘〜〜〜い話はまだですか?早く見たい(´Д`*)))ハァハァ(mighty)
死を想え(メメント・モリ)。死について考える、あるいはその淵に立つことにより生を実感する思想。悠のスタイルがそれですね。さぁ、一刀。麗羽も改心させて、今度は斗詩を胃炎から救うんだ!(FALANDIA)
お疲れ様です。華琳軍って重量級の獲物ないし、持ってる人間が「とまれ」なんて固い言葉言わない人間だから、状況から見て美羽に紀霊か??やべぇ、ここで美羽の成長√来たら神展開過ぎる……!!ニヨニヨして続き待ってます。───えっ?麗羽?袁招軍って斗詩しか名前のあるキャラいませんでしたよね?……アレ?( ゚∀゚)(takewayall)
美羽、GOOD JOB!!! 美羽の活躍には、これからも期待しています。応援しています。頑張ってください。(F97)
・・・・・何も言わず受けとれぃ ( ゚∀゚)つ馬鹿に付ける(毒)薬(2828)
麗羽も変われるのだろうか?・・・・・・無理?(w(うたまる)
ダメだ今すぐにでも麗羽を殴りたくなってしまう。(poyy)
なんだろう、袁招に対して湧いてくるこのドス黒い感情は・・・あぁ、そうか、これが殺意か・・・                                                 更新待っていました。美羽の成長ぶりが感動モノです。次回も楽しみにしております。(悠なるかな)
誰だっ!?NEW キャラクターか?袁招、自分勝手の傍若無人っぷりに怒り通り越して殺意わくな。(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 張? インスパイア 

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