真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第四十七話
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 「とりあえず、向こう半年の間、税の徴収は無しにするということで」

 

 「……大丈夫でしょうか?税収無しですと、交易による収入のみでの運営となりますが」

 

 成都城の執務室にて、今後の施政方針を話し合う面々。その顔ぶれは、

 

 一刀、劉備、徐庶、法正、張翼の五人。

 

 「多分大丈夫だと思うよ。これからは荊州・揚州、それぞれとの交易もできるようになるしね」

 

 「……確かに、今までは益州内と、交州の一部のみとの交易だけでしたから、国の管理する貿易だけでも、かなりの増収になると思いますが」

 

 「朔耶さんて、本当に多芸だよね。歌と踊りだけじゃなく、こうして文官の仕事もできるんだから」

 

 「……生きていくのに必要だったからですよ」

 

 成都攻略の戦から、すでに十日。この間に、法正も一刀たちに真名を許しており、彼女は文官として、一刀と劉備の補佐を務めていた。

 

 「次は食料だけど、こっちはさすがに全部無しってわけには行かないから、そうだな、三公七民位が妥当かな?」

 

 「不足分は荊州から送ってもらうって事でいいかな?」

 

 「ああ。あと、美羽たちからもいくらか買い付けるとしよう」

 

 荊州南郡を統治する袁家は、名目上は一刀の配下という形ではあるが、実際は対等な同盟者という立場である。

 

 「袁術どの、ですか。噂では紅花さまに負けず劣らずな方とか」

 

 「確かに、少し前の美羽はね。でも、その噂は今は完全に、誤った情報だよ。……彼女はいい娘だよ。母と慕った人の遺志に応えようと、必死で頑張ってる」

 

 しばらく会っていない、”妹”の顔を思い出し、一刀の顔は優しい表情になる。

 

 「……なるほど。一刀さんは袁術殿を信頼しておられるのですね」

 

 「まあね。……ところで、桔梗さんは、”まだ”?」

 

 「……はい。部屋にこもったまま、出てこられません」

 

 一刀に対して張翼がそう応える。

 

 「……もう少し、時間がかかるかな?」

 

 「そうですね」

 

 先の戦いの後、厳顔は中々皆の前に顔を出してこない。やはり、友であった益州の元牧、劉焉に対し、いろいろと思うところがあるのだろう。だから、暫くは一人にしておこうというのが、全員の一致した意見だった。

 

 「食事はとっておられますし、復活されるまでそうはかからないと思います」

 

 「わかった。蒔さん、時折様子見だけは頼みます」

 

 「はい」

 

 

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 「さて、と。財政と食料に関しては良いとして、次は」

 

 「州内の治安かな?そっちはどうなっているんですか、蒔さん」

 

 一刀の隣に座る劉備が、張翼に問いかける。

 

 「は。今は愛紗殿と蒼華殿が、それぞれ早矢と美音を連れて、各地の鎮撫にあたっておられます」

 

 「漢中の方は結局どうなったわけ?何か騒動があったらしいけど」

 

 「はい。漢中で五斗米道を束ねる師君、張魯どのが急逝し、その後継問題で揉めていたようですが、謎の軍団の襲撃を突如受け、……壊滅、したそうです」

 

 『な?!』

 

 漢中が滅んだ。

 

 だが、その事よりも、一刀たちが驚いているのは、別の一点。

 

 「……その、謎の軍団てのは、もしかして全身黒ずくめだったりする?」

 

 「!!……よくご存知で」

 

 「……お兄ちゃん」

 

 「ああ。またしても、虎豹騎、か」

 

 視線を交わす一刀と劉備。その額には、うっすらと汗が滲む。

 

 「虎豹騎というと、現在の漢の丞相、司馬仲達公の直属部隊、ですか」

 

 「ああ。……はっきりいって、とんでもない連中だよ。ひるむということを全く知らないからね。腕を斬られようが、脚を折られようが、ね」

 

 「そんなやつらに勝てるのですか?」

 

 「武器自体が効かないわけじゃないからね。首を落とせば、やっぱり死ぬよ。……一応、人間なんだろうから」

 

 虎豹騎の兵の話を聞き、不安な表情を浮かべる張翼に、劉備がそう声をかける。

 

 「厄介には違いないけど、個々の兵の強さはそれ程でもないから、決して勝てないわけじゃない。対処法さえ判っていればね。……で、連中はまだ漢中に居るのかい?」

 

 「はい。ですが、民すら居ない地を支配して、どうするつもりなのでしょうか」

 

 「民が居ない?……まさか」

 

 「あ、いえ。元々漢中は五斗米道の信奉者だけが住まう土地でして。民と呼べるような者たちは、始めから住んでいないんです」

 

 虎豹騎が、民まで虐殺したのかと、そんな考えが頭をよぎった一刀たちに、法正がそう説明をする。

 

 「それでも、かなりの人数が居たはずですよね?」

 

 「はい。……おそらく、二千人は」

 

 「……二千人が、全員殺されたんだね。ただの、医者の集まりに過ぎない人たちが」

 

 「……そう、なります」

 

 『…………』

 

 室内を静寂が支配し、暫し沈黙が流れる。そこに、

 

 

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 「一刀、わたしだ。入るぞ」

 

 「白蓮?」

 

 扉を開け、室内に入ってくる公孫?。

 

 「……どうしたんだ?皆そろって暗い顔をして」

 

 「……漢中が、虎豹騎の手で、壊滅した」

 

 「なん「なんだって?!」(どがっ!)うわっ!」

 

 「それは本当なの?!(げしっ!)「はうっ!」」

 

 公孫?を押しのけ、室内に飛び込んでくる二人の少女。

 

 「翠と蒲公英じゃないか!二人とも、なんでここに?!」

 

 「んなことは後で良い!それより、漢中が滅んだって、本当なのか?!」

 

 「……本当だ、馬超、馬岱。……三日ほど前のことだそうだ」

 

 「くそっ!あたしらがその場に居たら、そんなことはさせなかったのに!!」

 

 「お姉さま!蒲公英悔しいよ!!優しかったみんなが殺されるなんて!!」

 

 机を叩きつけ、悔しがる馬超と、その馬超にしがみつき、涙を流す馬岱。

 

 「……二人の気持ちはわかるよ。けど、だからって憎しみにだけは囚われちゃ駄目だよ?何も見えなくなっちゃうから」

 

 「……解ってるさ。もう、経験済みだしな」

 

 「うん。同じ過ちは二度としないよ」

 

 「……どういう事?」

 

 「それは私から話すよ一刀。実はな……」

 

 綿竹関での経緯を、公孫?が一刀に説明をする。

 

 「そうか。馬騰さんが……」

 

 「……大変だったね、二人とも」

 

 「一刀、桃香。正直、こんなことを頼める資格が、あたし達にあるとは思っていない。だけど、恥を忍んで頼む!あたしたちを二人の配下に入れてほしい!!」

 

 「私からも、お願いします!!」

 

 一刀と劉備に、頭を下げる馬超と馬岱。

 

 「……それは、復讐のためかい?」

 

 「確かにそれもある。憎しみで頭が真っ白になったあたしたちに、よりにもよってお前を仇と思い込ませた奴、そして」

 

 「おば様を殺した奴を突き止めたい!漢中の人たちの仇を取りたい!!」

 

 「でもそれだけじゃない!!そんな連中を野放しにしておいたら、それこそ大陸から戦乱は無くならない!だから!!」

 

 「あいつらを倒して、これ以上悲しい想いをする人が出るのを防ぎたいの!お願いします!!」

 

 じ、と。一刀の目を真摯に見つめる二人。

 

 「……解った。敵討ちだけが目的だったら、確実に断っていただろうけど、それなら良い。……歓迎するよ、翠、蒲公英」

 

 にこり、と。

 

 最高の微笑を向ける一刀。

 

 「あ、ああ!よろしく頼む!一刀!!」

 

 「よろしくお願いします!!」

 

 頬を紅く染めながら、拱手をする馬超と馬岱であった。

 

 

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 「それで、一刀。漢中の事はどうするんだ?今すぐにでも落としにいくのか?」

 

 公孫?が一刀に問いかける。

 

 「いや。さすがにすぐは無理だよ。俺たちも戦が終わったばかりだしね。暫くは静観さ。蒔さん、愛紗と早矢に伝令を。二人は培城に入って、漢中の警戒を頼むと」

 

 「御意」

 

 「由、中原に動きは?」

 

 「今のところ、大きな動きはないようです。ですが」

 

 「いつ大きく動いてもおかしくない、か。……命には十分注意するよう、伝えておいて」

 

 「はい」

 

 張翼と孟達、それぞれに一刀は指示を出す。

 

 「……嵐の前の静けさ、だね」

 

 「ああ。……大きな嵐の、な」

 

 椅子に背を預け、そんな予感をひしひしと感じる一刀と劉備。

 

 

 大陸に大きな嵐が吹き荒れる。

 

 

 その後に残るものは何か?

 

 絶望か、それとも、希望か。

 

 

 今はただ、静かに時の流れに身をゆだねる。

 

 その先に待っているだろう、更なる苦難の日々を耐え抜くために。

 

 苦難の先に、光明が射すことを信じて。 

 

 

 

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 というわけで、益州編の終了でございます。

 

 「次回からまた拠点をやるの?あ、輝里です、どうも」

 

 「そういう予定なんでしょ?どうも、孟達こと由です」

 

 二人の言うとおり、次回から拠点の回に入ります。

 

 刀香譚における、最後の拠点イベント編です。

 

 「いよいよ物語りもクライマックスですね」

 

 「どんな結末になるか、もう出来てるんですか?」

 

 まあ、一応こんなかんじかなー、みたいのは頭にあるけど、

 

 「話として構成するのが難しい、と?」

 

 「相変わらずえーかげんやな」

 

 ほっといて。てか由、関西弁が出てるぞ?

 

 「えーやん。やっぱこの方がしっくり来るし」

 

 「そういえば、北朝伝、書き直すんですって?」

 

 耳が早いな。年明けになると思うけどね。

 

 「もちろん、うちらの出番はあるんやろな?」

 

 「無い分けないですよねー?・・・・・・ね?」

 

 もちろんあるよ。・・・・・・クス。

 

 「なに、その意味深な笑いは?」

 

 「・・・・・・またしょうもないこと考えてんや無いやろな?」

 

 それはまだ秘密。皆さんも、ぜひ期待してくださいね〜。

 

 

 「それでは皆様、またお会いしましょう」

 

 「コメント等、お待ちしてるでな〜」

 

 では、みなさん、

 

 『再見〜!!』

 

 

説明
さてさて、四十七話なのですよ〜、と。

益州編もこれにて終幕。

短いですがお付き合いのほどを。

それでは逝ってみよ〜。
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コメント
漢中が落ちましたか。要衝を掌中に収めて次への布石としてるんですかね? これからの各国の動きが気になります。・・・白蓮はその他なんかじゃないよ?w(深緑)
よーぜふさま、翠達や法正さんのことは、これからの拠点でお伝えしますよん。(狭乃 狼)
しばさんのねらいはなんでしょう?きになりますねぇ それにしても翠と蒲公英はあっさりですなぁ・・・ その辺の裏とか、法正さんとのお話とかいろいろみたいですw(よーぜふ)
マフェリアさま、こんな駄文を良作と言っていただけるとは、感謝感謝です!(狭乃 狼)
hokuhinさま、さあ、やつらの狙いは何でしょう?(狭乃 狼)
シンさま、寂しいと言ってもらえる、とても嬉しいです!(狭乃 狼)
U_1さま、ありがとうございます。最後までがんばります!(狭乃 狼)
ようやく追いついた。最近読んで無かったらこんなにも更新されていたとは…これ程の良作ssがもうすぐ終わるとは悲しいものです。ともあれ次回の更新も楽しみにしています。(マフェリア)
五斗米道の本拠地が・・・しかも貴重な医者が・・・まさかそれが狙いか!(hokuhin)
もうすぐ終わりとは、寂しいものだ(シン)
大陸に暗雲が…。最後の拠点、そして完結に向けて頑張ってください。(U_1)
はりまえさま、波乱だらけの伏線はりすぎたーの、と。少しこんがらがってますw一つ一つほどいていかんと・・・orz(狭乃 狼)
この後確かに波乱の予感がいっぱいに感じるな。(黄昏☆ハリマエ)
紫電さま、そうですね。中原に魏、揚州に呉、一刀たち蜀(?)組、そこに河北の(一応)漢。そして美羽たち。この後大陸がどう分化して行くか。いろいろ予想してみてくださいな。拠点もお楽しみに^^。(狭乃 狼)
ZEROさま、書くべきことが結構多いんですよね〜。さ〜て、誰の話から行こうかな〜?白蓮はとりあえず置いといて(え^^。(狭乃 狼)
最後の拠点ですか。ここでみんながどのようにすごすか楽しみです。 白蓮を忘れないでください。(ZERO&ファルサ)
村主さま、さっそくのコメ、ありがとうございます^^。さあ、彼らはなぜ怯まないのでしょうか?痛覚処理か?はたして・・・?最後のどたばた劇もご期待ください!(狭乃 狼)
かつて「スーパードクターK」なるトンデモ医者漫画に‘吸血部隊‘(痛覚を消す手術によってどんな攻撃を受けても怯まない兵士)なる話がありましてw「虎豹騎」がそれに見えてきた感じが 拠点の次がそいつらとの決戦・・・ 盛り上がってきましたな つかの間の休息(最後のドタバタ?)楽しみにしてます(村主7)
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