機動戦士 ガンダムSEED Spiritual Vol11
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SEED Spiritual PHASE-50 咄嗟の嘘に罪の意識

 

 以前と同じ不可解がそこにあった。統一性のないモビルスーツ群、所属のわからない敵部隊。だが、情報の前進が彼らの所属を教えてくれている。ターゲットは、クライン派≠ニの関係を拒絶するターミナル=Bアスランとミリィがもたらせてくれた情報により、平和に一歩前進できる。

「ムウさん、イザーク、僕が先行します」

〈了解だ〉

〈侮るなよ〉

 ソートの代わりにと宇宙へ上げられたアカツキ=Bラクスへの――と言うよりもイザークへの――言い訳はこれでクリアできたわけだが、オーブに対しての不安が残ってしまった。アスランが彼をこちらに寄越したという。彼は全快したのだろうか? 多忙を極める毎日では精確で詳細な事実など望むべくもない。

(アスランやカガリが大丈夫って言うんなら――)

 キラは先行し、戦場にたどり着いた。デブリ舞う闇の世界に一つ、加工された小惑星が視認できる。ストライクフリーダム≠認めた敵機群が無数の照準をこちらへと向けた。

(僕が心配しても何にもならない)

 知覚したときには撃ち抜かれている、光の速さ。メインモニタに映るビーム兵器とはそういうもの。しかしキラは殺意の光雨に注意を払うこともせず、ただ内面と語り続けた。

(でもあの黒いデスティニー=A地上にこそいるんじゃないかな?)

 心とは裏腹に指先がひらめく。距離を取った瞬間解き放たれたのは8条の蒼い翼、EQFU-3X スーパードラグーン°@動兵装ウイング。その砲塔全てがコーディネイターにすら追い切れぬ速度で宇宙を縫い回り、牽制射撃もミスショットもゼロをキープし武装のみを無力化していく。

(わかんないか。デブリベルトに紛れた工場とか、あり得るし)

 殺意の海を泳ぎ切っても二丁のライフルに阻まれる。敵の後続を憂うまでもなく、一機でありながら九機、否、それを遙かに超える戦略兵器の前に指揮は崩壊の色に染まり始めていた。

(……実際のところどうなんだろう?)

 命のやりとりとは全く別種の懸念を抱え、キラは漆黒の宇宙空間を見つめる。やれ放射線が犇めいているやれダークマターが満ちていると言われる黒の世界だがキラの心に訴えかけるものも、目を引くものも、危害を加えるものさえ無である。

〈流石だなおい! 俺のやることなくなるじゃねーか!〉

〈フン。油断するな。全滅させたわけじゃあないっ!〉

〈じゃ、俺は後方支援と行きますか〉

 ムウ、イザーク、そしてディアッカを映したサブモニタに微笑みを返し、更にスロットルを開く。ザクウォーリア=Aグフイグナイテッド≠燻U開していくがこの対決――いや、掃討はフリーダム=Aアカツキ=Aデュエル=Aバスター=c…ここまでの戦力は過剰のようにも思える。

〈なあ、俺ら固まってても無駄が多い。バラけて囲んでやらねえか?〉

「……そうですね」

〈了解だ〉

〈どっちにしろ、前は任せるぜ〉

 三機が散開。その間にもザフト軍による掃討は続いている。機体種で識別できない戦場、各々が常にシグナルに目を光らせ、敵機と僚機を確認する手間を費やすためか、見知った戦場より火線の数が少ないようにも思える。どちらにせよアカツキ≠ネらばビームの驟雨にさらされようと無傷で突破できる。

「んじゃあおっぱじめるかァ!」

 宇宙用パックシラヌイ≠ノ搭載された金色の砲塔が解き放たれて飛散する。7つのM531R誘導機動ビーム砲塔システムが煌めきの尾を引き敵機と対峙、3連装の閃光が迫る者追う者区別なく沈めていく。エースクラスのパイロットは高速で飛び交う砲塔を狙い撃つ者もいたが特殊装甲に鎧われたそれらを撃ち落とせる者は皆無。ムウは砲塔に周囲を守らせターゲットサイトに捕まった敵機へと72D5式ビームライフルヒャクライ≠連射し、徐々に数を減らしていく。

「そらそら次ぃ! 生きてる奴がいたら捕まえとけよお前ら!」

 周囲に檄を飛ばしながら掃討を繰り返す。戦場にいながら物足りなさを感じ始めたムウだったが、突如脳裏に走った感覚に指先を震わせた。

「む?」

〈どぉしたぁフラガ一佐!?〉

「いや、何でもねえよ」

 キラがスーパードラグーン≠操る際の精神を知覚したものだろうと結論づけ、戦場に意識を戻した刹那、再び閃きが脳髄を貫いていく。

「ぬ?」

〈何だよおっさん!〉

「おま……いい加減にしろよクソガキ! じゃなくって、気をつけろ。敵さんに変なのが――」

 警告が皆に染み渡る前に付近の味方モビルスーツが貫かれ、音もなく爆散した。

〈っ!?〉

 走る『感覚』。ムウは機体を走らせた。

「気をつけろ!」

 感覚が伝える危険域へとアカツキ≠ねじ込めば多角的なビームの連射がヤタノカガミ≠叩いていく。今ので死ぬはずだったパイロットから賛辞と感謝が返ってくるが、それに応えている余裕はなさそうだ。ひっきりなしに反応する空間認識能力が無数の棘を持って脳を刺していく。目で追えない事実に辟易したムウはセンサーの感度を上げてみた。デブリ帯でこれをやると小型機動砲塔なのか虚空のゴミなのか判別がつかなくなるがこの状況では気づけないよりましだ。

 見つけた。

 ライブラリがデータを返す。ドラグーン<Vステムだ。データがあると言うことは……在来機か? 更なる情報を求めてライブラリをかき回せばそれより速く機体を確認できた。ZGMF‐X13A。

「なにっ!?」

 黒い機体。重厚なフォルム。背負われた特徴的な兵装プラットフォーム。連想される名はラウ・ル・クルーゼ。ムウは口腔に苦みを感じた。

 ZGMF‐X13A プロヴィデンス

 史上初めてドラグーン<Vステムを実戦で運用し、一騎当千を誇った核動力搭載機。フリーダム=Aジャスティス≠ニ共に産み出された。パトリック・ザラの切り札的存在。

「こ、こんなもんまでどこで造ってんだよ……っ!」

〈よう。久しぶりだな〉

 突如差し込まれた通信に怪訝に思うが、確かに声に聞き覚えがあった。

〈この間オーブで会っただろが。もう忘れたか? 統合国家の狗〜。ロゴス≠フ簒奪者〜。専制君主の使い走り〜〉

 オーブで? それ以前の記憶が疼くも、連想のピースが当てはまる。

「おまえ、ザクファントム≠ナ自爆しやがった――」

〈ようやく思い出したか。第八一独立機動群大佐 ネオ・ロアノーク!〉

「また! お前は何を知ってる!? お前は誰なんだ!?」

 プロヴィデンス≠ェドラグーン≠解き放つ。舌打ちを零しながらアカツキ≠燒C塔を解き放つ。援護に入ろうとしたディアッカ達だったが、光の格子に阻まれ近づききれない。

〈えぇいっ! 下がれ! 俺とガナー¢部の奴に任せろ〉

〈流石だなムウ・ラ・フラガ! メビウスゼロ&泊熏ナ後の生き残り!〉

 どっちが流石だか。こちらの装甲はたとえ避け損ねても敵の射撃を無効化できる。しかしプロヴィデンス≠ヘ普通のPS装甲に過ぎない。ノーダメージイコール完全回避の図式。その機体にフリーダム£の機動性はあるまいに!

「っ! お前は!」

 ドラグーン≠ナの牽制は視覚を奪うためか。気づけば左腕を振りかぶる敵機がある。MA-V05A複合兵装防盾システムから出力された長大なビームサーベルをシールドで受け止めるもライフルの照準を合わせる間に横手に回られ蹴りつけられる。激震がコクピットをシェイクしムウは悪態を撒き散らした。

〈敵中枢施設確認。これより――〉

 キラだか誰かかから通信に取り合う余裕もなく、接近戦を避けようとすることに腐心する。しかし脳裏に引っかかる何かが戦闘に集中させてくれない。

「このっ! お前は何を知ってるんだよっ!」

〈アンタが『エンデュミオンの鷹』って呼ばれてる間――以外かな?〉

「なんだとっ!?」

 斬りかかった閃光が小型シールドに阻まれる。

〈月面の、グリマルディ戦線、忘れたかフラガ「少佐」〉

 グリマルディ戦線。月面のエンデュミオンクレーター。戦略級広域マイクロ波照射加熱装置サイクロプス=c…。そんな事実を記憶しているのは地球連合の上層部か、C.E.70に壊滅した『メビウスゼロ部隊』くらい……。

「バカな……。生き残ってるのは俺だけのはず……」

〈電磁レンジの地獄、私も生き残ったんだよ〉

 確かに。ならばプロヴィデンス≠操る空間認識能力も頷ける。あの部隊にはメビウスゼロ≠フ特殊兵装(ガンバレル)を扱うため、かの能力者がかき集められていた。

「お前、まさかケインかっ!?」

〈ようやく思い出してくれたかムウ。久しぶりだな〉

 アカツキ≠ニプロヴィデンス≠ェ武器を下ろした。取り囲んだバスター≠轤ェ訝しみ、砲撃の手を止める。

「ほ、他の奴らは? お前とラッセルは、同じとこで戦ってたはずじゃあ?」

〈私はガンバレル′bスれてふっ飛んでったとこに電子レンジ。渦中にいたラッセルは……駄目だったよ〉

「そ、そうか。でもまだ良かったぜ。生き残りは俺だけだと思ってたしな……」

 エンデュミオンの鷹。それを嘯く者は恐らく尊敬を込めてくれている。しかしそれでもムウにとっては呪われた称号だった。当時の地球連合上層部は、唯一生き残ったムウを英雄として祭り上げ、疑似戦勝ムードを流すことで世論を押さえつけた。エンデュミオンの鷹。そう呼ばれる度彼の中では友を救えなかった悔しさと、エライさん達に人形として飾られた口惜しさに満たされてきた。

 ――だが、ここにエンデュミオンの鷹がもう一人。それだけで肩の重荷が下りたような気がする。

 しかし――

〈良かった、だ?〉

 押しつけた重荷を突き返される。

〈腐った支配者(うえ)にキレてたのはあなたも同じじゃなかったのか?〉

「あ?」

〈大西洋連邦だけが腐ってたってのか? 他はみんなまっとーか? 私はそうは思わん。今のオーブも、プラント≠燗ッじように感じるぞ!〉

「け、ケイン?」

 ああ、俺は何を思っていたのか。数ヶ月前のオーブで、彼とは敵対していたではないか。地球圏汎統合国家を、簒奪者と罵ったではないか。

「……お前らしくない。あぁムウ! 今のお前はらしくない!」

 後背から無数の砲塔が宇宙に飛び散る。ムウのような高度空間認識能力のない兵士達は無数の小型機動兵器に対応しきれず撃ち落とされていく。

「おまっ!? やめろ!俺はお前と戦う気はない!」

 全方位からのドラグーン≠ノよる攻撃もビームである以上アカツキ≠フ鏡面装甲には何の痛痒ももたらさないが――

「くっ! 全員下がれ!」

 更にグフイグナイテッド≠R機が立て続けて撃ち抜かれた。

 プロヴィデンス≠ヘアカツキ≠フ2倍を超える計43の砲塔で完全にこちらの意識を攪乱、掌握してしまう。

 ムウは脳裏に閃く感覚に従い、ライフルから出力したビームバヨネットを叩き付ける。ビームの閃光の煙幕に使い気配を絶って接近していたプロヴィデンス≠ヘ辛くも小型シールドでその刃をいなすとそのままサーベルを吐き出しアカツキ≠追い払う。続けざまに間合い空間にドラグーン*C塔が3つ差し込まれ、ビームを連射した。装甲で全てをはじき返すも不完全な姿勢では反射光を相手に撃ち返すには至らない。更に後を追い撃ち込まれ、無傷を保ちながらも冷たい汗が背筋を伝う。ムウはラウ・ル・クルーゼとの戦いと酷似する今に翻弄された。アカツキ≠ナなくストライク≠セったらとっくに死んでいることだろう。

〈おいおっさん!〉

 ディアッカからの通信だった。高速で飛び回り狙いをつけづらく、無数の機動兵器が飛び回り、バスター≠熏Uめあぐねている。

〈おいおっさんって! 何で反撃しねぇんだよ!?〉

「黙ってろ! お前には……関係ねぇことだ!」

 メビウスゼロ&泊焉B栄光の、そして悲哀と苦渋に満ちた部隊。地球連合軍で唯一、モビルスーツ群に対抗できた部隊。大西洋連邦の、地球連合の軍隊ではブルーコスモス≠フ影響で反コーディネイター意識が強いのは周知のことだが、それが日常化すれば露骨な差別行動も日常化する。彼らはコーディネイターではない。彼らは対コーディネイターの切り札。だが『人とは違う能力』を持つ集団は、羨望と同時に奇異の視線も受け続けた。

「こ…のっ!」

 アカツキ≠ェ長刀型ビームサーベルを手にしたが、それを叩き付ける気概は生まれない。

 心から分かり合えるはずの、苦を共にした仲間。永遠に失われたと諦めていた価値。それを自らの手で切り捨てるだと? 考えられない。

〈おっさん! キラの奴と――〉

「くっ……黙ってろ。こいつは俺が相手するからよっ!」

 突如爆光が閃いた。望遠サブモニタが空間を切り取れば映し出された世界には蒼い翼を虚空に散らすフリーダム≠ニ翼からの閃光に切り刻まれる一つの小惑星が見て取れた。ムウと時を同じくしてそれを知覚したケインは眦をわずかにつり上げ通信機に手をかけた。

「ちっ! そっちは大丈夫か? フリーダム≠ェ行ってる!」

〈だ、大丈夫だ! 回収だけは完了した〉

「よし。ならとっとと離脱しろ。私のことは気にするな」

〈ケイン! お前そんなテロが正しいこととか思ってんのかよっ!?〉

「思ってはいない」

 冷たい言葉と共に高度空間認識能力者の特権――量子通信型無線機動兵器――最近はある程度融通が利くようになっているが――をかつての戦友の眼前にばらまいた。

 ムウはそれらを避け、あるいは格闘戦を予知して意図的に受けながら破壊よりも舌鋒に力を加えてしまう。話し合わねばならないと心が叫んでいる。

「ま、待て! 話を聞けよお前! なんで俺達が戦わにゃならねーんだよ!?」

〈私はメサイア攻防戦≠ェ発端も経過も結果も気にくわなくてな〉

「ケイン!」

〈だがそれ以上に気にくわねーのは貴様の今の立ち位置だ。やってたこと、全部思い出せ。そして罪を償ってからそこにいろ!〉

〈ムウさん!〉

 二度目の爆光と共にキラからの通信が入ったが、ムウにはそれが救いとは思えない。自身の正義を頑なに貫くキラを説得する術を、ムウは持ち合わせていなかった。

「待てキラ! こいつは――」

 聞く耳を持たずフリーダム≠ェ腹部カリドゥス≠解き放つ。かろうじて躱したプロヴィデンス≠ヘ全身を取り囲む凄まじい数の棘を放ちフリーダム≠拒絶する。光の格子を舞い縫いながら、キラが呻いた。

「くっ! ムウさんお願いします!」

 混乱する頭はただキラが攻められている状況だけを認識し、それを指先へと流してしまった。アカツキ$齬pの宇宙戦パックシラヌイ≠フ砲塔は四つが立方体を形作ることで光波シールドを形成することができる。

(やっちまった!)

 キラをシラヌイ≠フシールドが包み込んだ。彼が更なる高みに立つ。光波シールドは当然のこととして、発生源である砲塔もヤタノカガミ≠ノ覆われている。この装甲が戦艦クラスの陽電子砲さえ跳ね返したのは周知の事実、つまり――モビルスーツクラスの装備でこの防御壁を突破するのは事実上不可能であるとさえ言える。

 ケインの棘を全て飲み込みビームサーベルが握り込まれる。プロヴィデンス≠ヘドラグーン¢Sてを盾として扱ったが左手に握られるライフルの連射がその悉くを撃ち落としていく。舌を巻くしかない。百発百中を具現化させながら右手のサーベルを振りかぶる。シールドを掲げたケインだったが動力炉の差か、圧倒的な出力に押し遣られ、そのまま体を真下に流された。プロヴィデンス≠ヘ大型ビームライフルユーディキウム≠突きつけるも大型故に取り回しに難があり、フリーダム≠ェ射上から消えてしまう。

〈これが……っ! 大戦を超える、力っ!〉

 苦しげな友の声にムウは思わずそれを解除してしまっていた。

 放たれたビームの一閃、無視できるはずだった。が、突然消えたモニタの緑光にキラは肝を冷やしながらもビームシールドにアクセスする。機体寸前で光が弾けた。

〈ムウさんっ!?〉

「す、すまん。こ、こっちのエネルギーが、な……」

 咄嗟の嘘に罪の意識を感じる。キラがビームシールドを操作する間にプロヴィデンス≠ヘ距離を開けていた。その事実にムウは安堵を覚え、別種の罪悪感が心を苛む。

 解き放たれた小型砲塔が飛び回り、攪乱し、本体が飛び去る。ディアッカはさせじと砲を構えたがムウからの通信がそれを遮った。

〈待て! 撃つな!〉

「おっさん! 知り合いだかなんだか知らねえが、野放しにできるもんじゃねーぞ!?」

 ディアッカの脳裏に2年と少し前、そして数ヶ月前の記憶がフラッシュバックする。レジェンド≠烽ヌきにせよプロヴィデンス≠ノせよ単機で戦局を変えかねない兵器なのだ。それをいくつ保有しているかはわからないが、一機でも多く削いでおくに越したことはない。

〈こんなもん逃がしたら、今度はアンタが撃たれるぜ?〉

「う……っ、分かってる。だが、あいつなら分かってくれるはずなんだ。頼む!」

〈……っ。まぁ、おっさんが責任取るってのに俺がどーこー言うわけには……なぁ〉

 ディアッカはレバーから手を離して首を鳴らした。

〈こっちはあらかた掃討したぞっ! どうだそっちはぁっ?〉

 サーベルで片付けた敵機のなれの果てか、レールガンに機械のはらわたを張り付かせたデュエル≠ェ少しばかり不審に思いながらもこちらに近づいてきた。

 何機かのモビルスーツがザクウォーリア≠ノ囲まれている。中に閉じこめられたパイロットは、自決用の薬などを仕込んでいたりするのだろうか? その想像は、ケインの覚悟をも想起させ、ムウを震え上がらせた。

「あーと…………取り敢えず目標施設の破壊は終わったよな?」

〈ああ〉

「ならとっとと帰ろうぜ」

 その本音は、他人の視線が気になった。

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SEED Spiritual PHASE-51 破壊運命で幸せを

 

 汎ムスリム会議。旧世紀での中東の一部から東南アジアまでを含めた連合国家である。『ムスリム』とは、とある宗教で「神に帰依する者」つまり該当教徒を指していた言葉である。この隅から隅までが神を信じているのか神ならぬクロには伺い知ることもできないが、それらしい寺社や宮殿が散見されるのは事実だった。

 全てが神を信じているかは分からない。それでも教義の違い、解釈の違い、その他諸々――結局は心の違いによって――殺し合う。

「あぁ。やっちまったな……」

 ライフルから伸びた光線はミナレット二本を叩き折り、ドームに大穴を開けていた。クロは流石に自嘲に沈む。無数の人間がルインデスティニー≠見上げている。見上げていなくても見上げられているような気分に苛まれる。

「あぁ……」

 寺院に踏み入り、突き崩し、打ち払い破壊した。天罰覿面間違いなし……。

 二つの対立構造が持ち出した銃座とモビルスーツが一斉にこちらを向く。これが天罰か? クロは嗤い、そして破壊を散らしてきた。

「神官や司祭とかの方々は言ってたんだろうな……。「この神聖な地でー」とか」

 クロは報告映像から目を背けた。集まった視線にやはり棘を感じて視線を逸らす。

「利権にまみれた血で汚れた土地の、なぁにが神聖だか……」

 神の被造物最高傑作――もしくは究極の失敗作――たるヒトの根幹、遺伝子にまでメスを通して久しい現代でも神々は時折人を支配している。そこに本当に正義はあるのだろうか。クロは再び流れる映像に目を落とした。ルインデスティニー≠ェ渦を巻いて飛び来るディン≠蝿でも払うように撃ち落とし、虎の子らしきイージス≠ノまで肉薄する様が見て取れる。モビルスーツは完全破壊しても一般人には最小被害、そう取り決めたところで殺された人間にとっては死が全て。こちらの配慮など何の意味も持たない不幸。

「言うわね。クロって、無神論者?」

 その不幸を呼び寄せたのは、信仰、つまりは神。究極の善がもたらした地獄。どういう矛盾だ……。

「お? その質問は意外だな。コーディネイターこそ全員無神論者かと思った。そう言うルナマリアには……あー、なんつーか。自分の力と目に見える者以外に信じられるものがあるのか?」

「あー! クロ、それ偏見。ナチュラルだから縋って、コーディネイターなら自立できるって訳じゃないわよ。わたしだって何かに縋ってお参りとかするし、クロだって神頼みするでしょうが」

「そー言うのとは違うような気がしますが。それよりクロ。次行ってください。貧困階級の人道的援助、お願いします」

「え? まだどこか行くのクロ」

「あぁ。オレは――」

「暇みたいです。アフリカ共同体の口減らし、伝えましたら頑張ってくるそうです」

 シンに、隠れていたいと言った男はどこに行ったのか。それともティニとクロには世論を操作する計画でも立てているのか、ルナマリアは憮然とティニを睨み付けるクロを不思議そうに見やったが彼は気づかず格納庫の方へとふて腐れた様子で歩いていった。

 

 

「何やってんだろうな……オレは……」

 今は待てばいい。ティニからはジャンク屋ギルドの保有するマスドライバーを利用させてもらう手はずは取り付けたと聞いた。あとは船か、それが手に入らなければ仲間を放り込めるコンテナでも用意できれば当面は必要な仕事などないはずだ。オーブを瓦解させて、次はプラント=Aそのメインシナリオに枝葉をつける必要を、クロはあまり感じない。

〈私達は世界に喧嘩ふっかけました。世界というモノは新参者を嫌います。流行に乗っても、続かなければ忘れ去られますよ。意見は言い続けないと黙殺されて消えていきます〉

 それでもティニの言葉に異を唱える理由も見つけられず……。

「じゃあ、アフリカ共同体か。……船手配できたらすぐ教えてくれよ。オレ達にはそっちの方が重要なんだしよ」

〈善処します。ですから心おきなく苦しんでる人達に幸せを与えてください〉

 クロは小さく嗤った。破壊する運命を用いて幸せをもたらす。それをしてしまったら、宗教家が説く幸せの近道を誰も信じなくなるではないか。

「いやもう充分世の中腐ってるか……」

〈なにか?〉

「いや。ルインデスティニー=A行ってくる」

 

 

「困ったなぁ……」

「ホントですね」

 舗装もされていない道を、歩く。帰り道である。

 整備の合間に秘蔵のお菓子を引っ張り出した。あくまで合間だ。怠慢などとんでもない。が、そこをティニに見つかったらこうなった。

〈お時間ありましたら実験手伝ってもらえますか?〉

 山積した仕事を分担していく。迷う下々へ、的確に仕事を配ってくれるのは理想の上司であるとも言える。ヴィーノは別に、彼女の行動に困ったわけではない。休憩が欲しかったわけではない。いや休憩は必要だが、困ったのは彼女の人使いの荒さではなくもたらされた仕事内容の方だった。

「クロのせいだよね?」

「陰口は、拙いかと思いますよ……」

 そう言うフレデリカもクロの発言が発端だとは思っている。あの妄言があったからこそ宇宙生物がここまで形にしてしまったのだから。

 

「ありがとうございます。これで、夜……」

 

 先程全身の力を抜くようにして、心の底からお礼を言ってくれた男の人はそう言った。それ以上の言葉は、繋げられなかったようだが。

 ヴィーノとフレデリカが振り返り見上げた先には……ヴィーノの知ってるプラント≠フ、フレデリカの知ってるユーラシア連邦のモノとは数ランク質の落ちた病院がある。

「俺は……特効薬と言うには、抵抗があるな……。薬じゃないけど」

「数十オーブ円程度の電力だけで精神遅滞や薬物依存治しましたけどね……」

「サイボーグ扱いじゃないか……」

「あのお父さん、何日ぶりに眠れると言ってましたっけ?」

「でも、脳改造とかで……」

「怒ることを抑制する、悲観することを抑制する……そのフレーズに縋ってきましたよ皆さん。喜んで――と言うよりせっぱ詰まってという感は否めませんが」

 ティニやノストラビッチでは顔が割れるなどと言われて一般人の三人が選ばれたわけだが……。知名度など関係ないほど繁盛した。しかし二人はどうしてもそれを喜べずにいた。

 クロは始終言っている。代替案を出せてこそ意見提議だと。

「うーん……確かに、平和になったよねぇ」

「あぁ……ヴィーノさん、私もこの結果が嬉しい……とは……いえ、嬉しいんですけどその……」

 困った困ったを繰り返して歩く内に病院は遠くなっていった。機械を一つ置いてきた。喜ばれた。あのままいたら、もう一つ造ってくれないか? いや一つと言わず希望するだけ置いてくれないかと詰め寄られていたのだろう。

「うーん……ボケ老人になる前には死んでやろうとか言ったこともあるけど……」

「旧世紀には輸血ですら悪魔の技だと言われた時代があったそーよ」

 患者さん家族から病院に差し入れられたクリームワッフルをもぐもぐやっていたディアナが唐突に二人の弱気に異を唱える。ヴィーノ達はそんな彼女に驚愕を向けた。

「でぃ、ディアナさんは、人の思考操作、み、認めるんですか?」

「ヤだわよ流石に。だってアレよ? ティニと喧嘩したり強請れる秘密握ったりすると寝てる間にカイゾーされるかもしれないのよ?」

「そう思うなら……」

「ち、ちょっと! 別に私は推奨してるんじゃなくてっ! 目的にしてる戦争根絶とかするには、クロの言う通りかなーってとこ、感じないの? アンタ達は」

「でも……」

「私達は無茶やってるのよ。だとすると、やっぱ考え方も無茶しないと駄目なとこあるんじゃない? 食べる?」

 女二人に取り残されて歩きながら、ヴィーノもその考えを反芻した。常軌を逸した思考が必要かもしれない――の下りではない。寝ている間にカイゾー――という部分だ。

「成る程」

 知らぬ間に二人の足下から頚もとまで視線を流してしまい、少しばかり嫌悪感に苛まれる。

「なに? ヴィーノ君も考えあんの?」

「――っ! いいいいやっ! えーと、俺は、やっぱりよくわからねーよ!」

 追い抜いていったヴィーノ、二人は顔を見合わせて首をかしげながら、精神操作論について毒にも薬にもならない議論を戦わせた。

 

 

 

 眼下に一面の砂漠。そこを疾走するバクゥ≠フ群れ。もし、ザフトでも宇宙組には見られる機会が滅多にないラゴゥ≠竍バクゥハウンド≠フフォーメーションを眼にできたらちょっとした感動だ、などと考えていたクロの予想は現実に脆くも打ち砕かれた。南アフリカ統一機構はステップ気候地帯であり、丈が短いながらも草が生えている。そのためバクゥ≠謔閧熬ハ称丘ジン――ジンオーカー≠フ数が多かった。

 政府軍の仮説基地に併設された食糧貯蔵庫を囲うモビルスーツ群が警報に引かれて見上げた先には光を撒く黒い機体が佇んでいる。

「ティニ、もう一回だけ確認させてくれ。アレは、独占だな? 泣く泣く配給できず未来のために確保してる、ってんじゃないな?」

〈はいデータどうぞ〉

 昨年度の東アジア共和国等々からの募金の7割と先日WFPより提供された糧食の8割が裕福な方々のポケットに入っているとの数字が見られる。地球連合の代わりを統合国家が行わなければならないのだが、このような政策がまかり通っているところから推せば、とても眼が行き届いているとは言い難いようだ。

「了解。自分が正しいと思えればオレはしっかり仕事する!」

 機銃を向けてくるジンオーカー′Qを立て続けて撃ち抜いていく。瞬く間に丸裸にされた食料庫に遅れて人垣ができるも、歓声が上がりきるより早くバクゥ=Aラゴゥ≠ゥらなる編隊が到着。

「おぉ! ザウート=I」

 そこに紛れていたザウート≠ェ人民に重突撃機銃を乱射した。虐殺の現場を目の当たりにするかと思ったが、肉片となって撒き散らされたのはごく少数。むろん非人道的ではあるがクロには意外に思えた。

「意外って……悪い発想だな……。死んじゃった人は――」

 自責に沈む時間も与えられず、バクゥ≠フレールキャノンが人垣を吹き飛ばした。同時に指揮官機らしいラゴゥ≠ェこちら目がけてビームキャノンを連射してくる。クロの胸中に赤黒いモノが燃え上がり、彼はそれを表に出さぬまま冷静ぶって溜息をついた。

「口減らし、か。心おきなく殺す理由ができた!」

 ビームシールドで二条の光を散らし、敵陣へと急降下する。四足獣型モビルスーツ達が無限軌道を展開して濁流のように散っていったがクロは惑わされることなくラゴゥ≠追った。下草を蹴立てて疾駆するオレンジの機体は流石の加速を見せつけたが、ルインデスティニー≠振り切ることは叶わなかった。ライフルの数発を小刻みな平行移動でかわしきるも結果間合いが消え失せる。ラゴゥ≠ヘ汗を落としながらも口端からビームサーベルを出力するが、光が形になるより早くその頚が切り離されて草地に突き刺さる。

 が、TMFシリーズのコクピットは腹部にある。カメラを失いながらもキャノンを放ち、後退していく獣の様はかなり不気味であった。

「怖いから死ねって」

 眼を失ったラゴゥ≠ヘクロのライフルから逃れられず、爆散する。元はフォーメーションでも取りたかったか遅ればせながら包囲を完成させたバクゥ£Bがミサイルポッドとレールキャノンによる波状攻撃を仕掛けてくる。

 両手のソリドゥスフルゴール≠全開にし銃弾の嵐を焼き潰す。脳波でAIへの指令を追加すると左のマニピュレータにもエネルギーをチャージする。再装填か、ともかく銃弾の嵐が止んだ刹那を狙いビームライフルとパルマフィオキーナ=Aゾァイスター≠ナ全面を狙う。

 吹き飛んでいくバクゥ≠視線で流す。銃身のないパルマフィオキーナ≠ナは満足な収束率が得られなかったことに舌打ちしながら綻びの見えた一点目がけてスラスターを全開にする。メナスカリバー<rームソードに突進の勢いを乗せ敵機を大上段から叩き落として両断する。十三連装型のミサイルポッドを全弾撃ち尽くす勢いで乱射して逃げる二機をライフルと長射程砲で黙らせ背後から斬りかかってくる一気にブーメランを一つ投げつける。三つの爆風を身に受けながら新たなアラートに目をやれば飛来したのは再び二条の粒子兵器だった。

「またラゴゥ≠ゥ…?」

 だがライブラリが返してきたナンバーは宇宙型、ZGMF‐X88S。すぐさま光学データが追いつき、ステップ地帯を疾駆する二色の獣を決像させた。

「ガイア≠ゥ……。まさかあのカラー、砂漠の虎か?」

 疾駆する獣がライフルの間合いで人型に変じた。朱と黒のガイア≠ェこちらをロックし銃を向けてくる。朱色(ヴァーミリオン)のガイア≠ヘ先の大戦の際、『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルドが搭乗していたとされている。目の前に猛将が現れたかと動揺しかけたがよくよく見ればガイア≠フ盾はどちらも黒い。ただの電圧調整ミスか、もしくは可変相転移(ヴァリアブルフェイズシフト)を適切に扱える施設がないか……。どちらにせよ技術力の底が知れる。

 こちらを挟み込むビームライフルの殺意を飛び上がり回避、お返しにライフルの一射を浴びせかけるも紅いガイア≠ヘ四足獣形態に変じ、照準の隙間を駆け回る。更に何発か撃ち込むが撃墜よりも銃身のオーバーヒートの方が早かった。憮然とする。ディン≠竍バビ%凾ヘ面白いように打ち落とせたというのに地上滑走型にはどうしてこうも当てづらいのか。加速力の問題か。悩む間にも獣型ガイア≠ェMA-81Rビーム突撃砲、人型ガイア≠ェビームライフル、更にはCIWSを乱射してこちらを切り刻もうと迫り来るが、一般的な出力ではTPS装甲を貫くには至らない。元より実弾兵器ではフェイズシフトに対抗しきれない。

 人型のガイア≠ノ狙いを定めたクロは射線を無視して肉薄するとフラッシュエッジ2≠そのコクピットに突き立てた。電磁を散らし頽れるガイア≠尻目に次の獣を狙ったルインデスティニー≠セが、その機体にいきなり不可解な負荷がかかる。

「な!?」

 リアモニタを確認して息を飲む。死にかけたガイア≠ェ、それでも脚部に縋り付いていた。推力を全開にすれば当然振り解くことや引き上げることも可能な出力はあるが、常に全開で機体を操作できるわけもない。スラスターレバーに手をかける間にメインモニタに接近するガイア≠ェ大写しになる。敵機が左右にウィングを広げた。撃つべきか、守るべきか、逡巡の間にビームエッジが迫る。ビームシールドを展開する時間を逸した。武器を選べない右腕にMR-Q17Xグリフォン2<rームブレイドが喰らい込む。空間を揺らがせた闇の装甲だったが収束された光の氾濫を――阻み切れていない。

「マジかよ……! おい…」

 戦場に浸りながら久しく感じていなかった死の臭いが充満する。装甲を削る光に視界を塞がれ恐慌に陥りそうになる精神を胃に落とした唾液で鎮める。動かせないほどきつく握りしめていた操縦桿からわずかに指を解き、平静を装って別の武装を引っ張り出す。すれ違い様に敵を両断するビームブレイドの切れ味を過信していたガイア≠ヘシールドから飛び出した二本のビームサーベルに為す術もなく貫通され、次いで吐き出されたカリドゥス≠フ接射が黒い獣を粉々に吹き飛ばした。

「ふぅ……」

 一息つく。そして見やる。右腕部の装甲がブレイド一本分押し遣られている。フレームにまで届いているようには見えないが、動かす勇気が出せなかった。

「傲慢してたってことだな……」

 AIの警告音に冷え切っていた精神が揺さぶられ、苛立つ。精密機器に囲まれていなければそこらの物体に当たり散らしたい気分ではあったが任務途中だ。食料庫が開放される様と現政府に暴力が投げ込まれる様だけはこの目で確認して帰らなければと、仕事を理由に感情を踏み潰し、戦闘開始地点まで飛んでいく。

 消し飛んだ人の残骸と、守る物のなくなった貯蔵庫以外に――ザウート≠ェ残っていた。アレの機動力ではガイア≠竍バクゥ≠フ速度に追いつくことも、増援を呼びに行くこともできなかったと言うことか。少し望遠の倍率を上げれば新たな人垣が見受けられる。ルインデスティニー≠、ザウート≠フ眼前に降り立たせた。

 会敵するなりザウート≠ヘ全ての煙幕放出発管(スモークディスチャージャー)から煙幕をぶつけてきた。次いで4連のキャノンを叩き付けてくる。敵機のなせる究極の攻撃手段だったが装甲に毛ほどの傷すら付けられずに終わった。煙幕はしばらく残ったがクロの視界は直ぐさま赤外線・光増式モニタに切り替わり鈍そうな姿が丸裸にされる。

 クロはメナスカリバー≠引き抜くと、頭頂から左右に分断する。

 そう言えば、とも思う。

「お前、人を殺そうとはしなかったな……」

 機体の死に吹き飛ばされ人命も散った。腐った組織の中で人の道を貫こうとしていたのかもとか考えるが――その志は散った。無為だかどうだかはクロが判断することではない。

 集音センサーが歓声を拾った。傷ついたルインデスティニー≠ヘもっと奥地を攻める必要がある。クロは重苦しい気分を抱えたまま、ティニとの通信を開いた。

「クロだ。食料庫の開放は完了したこのまま現政権の武装解除に向かう。次が来る前にアフリカ共同体(北っ側)の勢力連れてきてくれよ」

〈ご苦労様です。既に流しました。こちらも準備整えられそうですので、終わり次第寄り道せずにお帰り下さい〉

 ティニの仄めかしたそれが待ちに待った報告だ――と、思えるといいなー……。などとクロは邪推し――数分の後に腐敗政権一つを暴力でもって無力化せしめる。現地民による占領行動は思いの外迅速だった。つまり決起を目論んでいた証なのだろう。旗を燃やし暴行を繰り返す人々――その行為よりも未来に――懸念を覚えないでもなかったが、崇められて悪い気がするはずもなく、クロは眼下の人々に微笑みを送った。

(いや、拙いな……虐殺野郎がなに神の真似事してやがる……)

 神像など見かけない空間で、眼下の歓声に浸り込まないよう自制するのはかなりの労力が必要だった。

「何かに縋ることで……後々まで楽になれるものか? 今だけじゃ意味ねぇぞ」

 AIに語りかけ、小突いてみるが反応はなく、真実どころか面白味すら得られなかったクロは嘆息し、ミラージュコロイドの展開を思い留まった。

-3ページ-

SEED Spiritual PHASE-52 余所の国の惨状に没入

 

 コクピットハッチが開き、ラダーが下りてくる。クロは爪先を床に着け、帰投時以来の溜息を漏らした。

「はぁ……」

「お帰りクロ。気分良かったんじゃない? 正義の味方やって手ェ振られるのは」

「軽いなディアナ。オレが抑止力ぶっ壊した結果、あそこの治安が良くなるとは、あんまり思えないな……」

「なんで? 提供食料が富裕層独占からみんなに行き渡るようになってめでたしめでたし、じゃないの?」

 クロは大きく溜息をついた。もし、ティニもこう考えているのなら、一度あの国を見てくるべきだと思う。

「WFP最後の難関であった専制君主な制度が潰れて、提供食料が皆に行き渡ってめでたしめでたし――じゃねえぞ……」

 ディアナのもの問いた気な眼にクロは目頭を揉みほぐす。

「あそこの奴らは次やることが見えてない。あそこで抵抗勢力やってた奴らと話してきたが……奴隷っぽい扱いを受けてたことも祟って技術水準や識字率とか……まぁつまり知識や道徳が非道い。今は飯が分配されたわな。で、政府が潰れて、ひたすら提供される食い物を貪りまくって、いずれ食い尽くし、与えられなければ途方に暮れる餓鬼地獄完成な気がする」

 流石にそこまで放置はされまい。統合国家も無能集団と言うわけではない。どこかで援助が入るだろうが……。

「はぁ……地球圏汎統合国家のやり方に異を唱えるためにテロってるわけだが……。オレらも次の段階に進む時期かもな。気に入らねぇ政権は暴力で潰し、悪政もせずそのまま放置はやっぱり拙いぞ……」

 クロの脳裏に思い浮かぶのはバクゥ≠フキャノンに切り刻まれた凄惨極まる死体の数々――ではなく先導者すらいない群衆が食料貯蔵庫に雪崩れ込み、快哉を上げて袋を抱える細すぎる腕とあばらだった。フレデリカに声をかけ、ティニとのアポイントを取ると彼はそのまま奥へ消えていく。ディアナはしばし惚けていたが、クロの発言に好奇心を隠せずにいたシンの視線を感じ、駆け寄って話しかけてみた。

「なに? クロのことちょっと認めた?」

「別に……」

 年下でなければ憎らしかったかもしれないが、ディアナはそれ程彼に悪印象を持ってはいなかった。ぶっきらぼうな彼の反応にも微笑みかけながら彼の視線を追えば、ルインデスティニー≠ェあった。

「クロって職業軍人の割に政治するよねー」

 世界を支配する力を持ったものの傲慢か。クロの言葉に感心しながらもディアナは密かにそう感じる。が、彼女の心に頓着することなく、シンはただ期待をしていた。

(ルナの話からすれば、こいつらの行く先に……おれのデスティニー≠ェある。それを使えるときが来たら――)

 彼らに協力する気は、ない。ならば逃げるか? 機体を奪って、ルナマリアやヴィーノ達を説得して、逃げるのか? シンは再び、ディアクティブモードになれば愛機と見分けのつかないモビルスーツを見上げていた。

 

 

 

 彼からこちらに連絡があったのは初めてかもしれない。

〈私には信じられんのだよ〉

 ティニが貼り付けている網膜走査ディスプレイにはガイア≠フビームブレイドをくわえ込み火花を散らすルインデスティニー≠フ姿が映し出されていた。

〈これが要の姿か?〉

 続いてオーブを攻めた際、大型マガノイクタチ<Vステムに特攻し、システムダウン寸前に陥る姿、ノストラビッチを救うための長距離飛行の結果、フェイズシフトダウンする様等々が繋げられた映像として映し出される。彼の言いたいことはこの羅列で充分解った。

「クロの、性能ですか……」

〈もし普通のモビルスーツしか用意できなかったらどうなっている? は! 何度死んでいるか数えきれんな。良くヤキン・ドゥーエ≠竍メサイア≠生き残ったものだ〉

 嘲笑に次ぐ嘲笑。ティニはふと、クロ本人に聞かせた見たくなる。怒るか? それとも鬱に塞ぎ込むか? 後者のような気がしたティニは相づちを打つこともやめた。

〈そんな様で『変革』など起こせるか? 白紙に戻せば良いのだよエヴィデンス。試行錯誤などしている時間はない。もう終末さえ終わっているのだ。ジエンド≠貸せ。そして全てを私に委ねてみるがいい〉

「今回は殊勝ですね。許可を取ろうなんて――」

「ティニ。失礼するが、いいか?」

「あ、お客です。またこちらから連絡いたします」

〈――使用許可は取り付けたと考えて良いかな?〉

「――ではただいまより十二時間の限定で。防衛以上の戦闘行為は認めません。報告は細大漏らさず私の端末へ直にお願いします」

 彼――今そう呼んで良い存在なのかは疑問だが――に見せつけながらタイマーを起動させると同時に通信を切る。歩み寄ってきたクロに視線を向けながら小さく頭を下げる。先程の相手に冷笑以上の感情が浮かばないことを当然と思いながら思考を彼へと振り向けた。

「ティニ。南アフリカ、ネットで見てる程度じゃねえぞあそこ。反政府軍とちょっと話してきたんだが……教育とか追いつかねえぞ。レジスタンスのとこには――旧式だけど――まともな機材が揃ってた。けど、使える人間がついて行ってねーんだよ」

 クロはスーツからミッションレコーダーを取り出すとティニへと差し出す。

「知識が足りない。一日話した程度の話だが、先進国じゃ馬鹿なと思うような詐欺とかあるぞ。あと、これも教育の問題かもしれんが、先進国家みたいに戦いを忌避する感覚が薄い。というかゼロだ。オレが行ったのは無意味かと考えるぞ……」

「で、クロはどうしようと考えてます?」

「壊してほったらかしはもうヤバイだろ。オレ達は混沌が造りたいわけじゃない。今の恐怖政治じみた世界を、まともに戻すことが第一だ。安定した社会なんてのはその下地を作ってこそだろ」

「はい……クロはみんなが幸せにならないと困るわけですねぇ……。でもアフリカ圏、見た目凄惨な不幸であることは想像がつきますが……だとすると倭国は、大洋州は、大西洋連邦は幸せなんですか? 同じくあなたが破壊した場所ですが、そこは放置しても心は痛みませんでしたか?」

「言いたいことは解るが……急務なとことしばらく大丈夫なとことかあるだろ……」

「平等を度外視するその価値観、問題ですね……。いえ、平等を極める考え方でしょうか」

「ティニ…!」

 クロは言葉遊びを苛立たしく感じているようだ。

「解りました。こちらで操作及び検討してみますので、クロは結果だけをお待ち下さい。それより、宇宙(ソラ)への手筈ですが――」

「おぉ! そうだ。隠密できる船とかあったのか?」

 彼はアフリカへ行くとき嫌そうな顔をしていたと記憶している。それが今はどうだ? 自身が第一優先事項としていたことを忘れ去るほど余所の国の惨状に没入しているではないか。他人のために自分のを後回しにできる。それは生命に必要な価値なのか、ティニには判断がつかなかった。

「残念ながら一般的な貨物船です。ギガフロート≠ェ七十八時間後にインド洋を通過するそうですが、その補給作業船の復路に紛れる予定です」

「ギガ……あぁ。浮島にマスドライバーが乗ってる奴の名前か。ジャンク屋はテロ組織にも優しいな……」

 ギガフロート≠ヘ旧地球連合が移動可能なマスドライバー施設として建造させたものだが、地球とプラント≠ニの戦争のどさくさに所有権がジャンク屋ギルドに渡り、現在はジャンク屋ギルドの地球圏での拠点となっていたはずである。洋上の空港として建造されるメガフロートとほぼ同じ思想に基づき造られたものだが、それとは違い、完成後も移動可能なため、その利便性は一歩抜きん出ている。

「じゃあオレは搬送の準備に取りかかる。アイオーン≠ヨの連絡だけ頼むな」

 頷いてきびすを返すクロの背中に声をかけようとしたティニだったが、やめた。また人道主義を語られて反論するのが面倒である。

「アイオーン≠フ航路はマスドライバー利用時に調節しますから。さて――彼の行方でも追いますか」

 冷笑が浮かぶ自分を止められず、止める意志も生まれぬままケーブルの先の世界へ意識を飛ばした。

 

 

 

 アクセスルームから嬉々として駆けだしてくるクロを見た。シンを探していたルナマリアだったが、彼の様子を無視することができずに足を止める。彼は嬉々として目的へと邁進している。あの部屋から出てきたと言うことは――ティニと話して嬉々としたのだろう。ルナマリアは沈鬱な面持ちで彼を見送った。

 

「欲望に夢などと名付けるものより性欲に愛と名付ける奴の方がムカつきます」

 

 会えないと言うほど溝を造ってしまったわけではないが。

 

「いや、新技術導入への抵抗はあるだろーが、思考操作を没ってするとあとはこいつら殺すしかねーぞ? 殺すよりヒデェと考えるのはどうかと思うがな」

 

 悪い理論だとは思わないが。

 ルナマリアはどちらにもいい顔ができそうにない。だからと言ってオーブの理念が他者の意見に左右されず、敵対者には容赦せず、他がどう動こうと我関せずである感性を捨てられない。そして、クロがしつこいくらい言うような代替案は……何もない。

「あ、シン……」

 ディアナに言い寄られているのがかなり気にかかる。が、そこでルナマリアは呻いた。彼を弄くったのは、本当にクライン派なのか? ティニの推論に過ぎないが、だとしたら自分はキレるのだろうか。あぁ、色々と鬱陶しい。

(シン、ああ、わたしを連れて逃げてくれないかな……)

 いじけたディアナを放り出して歩いていくシンを見ていたらふと、そんなことを思った。

 

 

 

「――なんなのよー……」

 アスラン・ザラ。思いこみが激しく融通のきかない男だとは思っていたがそれを差し引いても最近の剣幕は異常だった。ターミナル″\成員の立場を役立て彼の望む情報を与えてやったが、お礼もそこそこに――最近は諜報機関の真似事をしているとか。

「統合国家、大丈夫なのかしらね……」

 カガリが負傷した、もしくは死亡したなどという流言飛語も飛び交っている。スカンジナビア王国は古くからオーブとの繋がりが深い。あの国への打撃が直通するほどに。だが、ミリアリアには他人事だ。彼女は彼女の仕事のみを見据え、バッグを片手に王宮を通り過ぎた。

「ったく……私は私で調べることがあるのにっ!」

 キラとラクスとカガリの懇願がなかったら繰り上げてまで頑張る仕事ではなかった。国王のために(・・・・・・)ターミナル≠扱うのが自分の主業務。決してアスランに仕える義理はない。自分のお人好し加減に辟易しながら駆け込む先は――彼女が世界と関わる仕事場だった。

 ノストラビッチ博士の暴露、そしてターミナル≠名乗る正体不明の離反宣言。どちらも信じられないミリアリアは街の形をした暗がりへと靴先を投げ入れ、紙面を広げる男に硬貨と言葉を落とした。

「M‐SK2。あのケース27とケース35本当なの?」

「合成とかではないな。どちらも真実だ。当人二人とも『言わされてる』可能性はゼロだ。本気だ。サーバ℃gいから直通。恐らく間違いはない」

「そう……」

 こちらの性格を熟知されたと言うことか。幾重にもして念を押されてしまった。

「はか……おっさんの技術面の言葉も?」

「それに関しては、一切流れてきてないんだな……。但しあの装甲はホンモノだろう。悪名高いジェネシス≠ノ実装され、イズモ級戦艦の陽電子砲を防ぎきったデータがある。不可能な技術ではない」

 彼に言われるまでもない。ミリアリア自身、当時のヤキン・ドゥーエ≠体験しているのだから。

「黒い――ルインデスティニー≠セっけ?」

「製造にはターミナル≠ェ関与してるとの情報ありだが……どこのファクトリー≠セかは、な。虱潰しする根性のある奴を探しな」

「――って、そこまで流れてるならロールアウト時に情報はなかったの?」

「役に立たんよ。3つ、条約違反で新型製造との話も出てたが、それが全てブラフかどうかは今じゃ確かめようがない。量産や、どこぞの国が最新技術を提供したと言う話でもあれば追えるが……独自開発の試作じゃあ発表されるまでわからんよ」

 ミリアリアは気のない相づちを返した。ターミナルサーバ≠ェ知識の宝庫と言ってもデータサーバなど過去の蓄積。分析者が現れなければただの貯蔵庫に過ぎない。彼女はこの『端末』に見切りをつけた。後は国益のための情報を受け取り彼が望む何かを行う。この間はコインロッカーにやたらと重いゴルフバッグを運ばされたが、今回はネットカフェでデータ送信だけと比較的面倒のない仕事だった。更に幾つかの端末を巡り、似たような質問を繰り返したが、似たような回答を返されるに終わった。

「はぁ〜……」

「姉さん、空振り続きって顔してますね」

 流石に浸りきっている奴らは表情を読む手腕に長けてる……とでも思えばいいのか。

(ジャーナリストの特技って、裏世界で使えてる?)

 一抹の不安にまとわりつかれながらも手帳のメモを読み返す。既に頭に入っている事柄しかない。

「確かにね……。追っかけても捕まえられないものってイラッてくるわ……」

「あのテロリストは追っかけても何も出てきませんよ。まあ私情で動いてる組織なのは確かでしょうが」

「そんなに調べたけりゃ、サーバ使いに聞けばいいだろ」

 奧で葉巻を切っていた男が顔も上げずに呟いた。軽薄そうな男は意外そうに振り返ったがミリアリアはそこから目を反らした。

「サーバ使いに心当たりが? どーせただのオタクとかでしょう?」

「いや、あいつに趣味はないだろう」

 その言葉に眉を跳ね上げた。どうせ他に心当たりも手掛かりもない。

 駄目元で聞きつけたその先は暗く湿って奥まった場所だった。

「………いや……どー考えても、紙媒体でしょここは……」

「ようこそ」

 肉声? それとも電子音? 判別つけがたい音声が奧から漏れ、ミリアリアは全身をこわばらせた。

「誰? ターミナル=H」

「私はラウ・ル・クルーゼ」

「ら、ラウ・ル・クルーゼ!?」

 第二の故郷へリオポリス≠破壊し、アークエンジェル≠執拗に追い、フレイを殺した。戦火を際限なく広げた災禍の申し子。――情報でしか知らないが、確かキラに倒されジェネシス≠ノ焼き尽くされたはずだが? そこまで思い描けばぼんやり明かりが浮かび上がる。ミリアリアは戦慄した。そこには機械に繋がれた肉塊がある。肉塊には、甲虫の複眼を思わせる無機質な双眸――白い仮面が張り付いてた。

「……機械?」

「ミリアリア・ハウ。確か君はアスランに男を殺されたはずだな。そんな君が、何故統合国家に与する?」

 機械に質問されるとは思わなかった。

「な、なによ? 何に協力しようが私の勝手でしょう? 世界をまとめていくためにみんなが協力すべき、くらい思わないの?」

 敬語を使おうなどという気持ちは生まれなかった。

「平和の定義など決めかねているものが……それを求めるか? 守りたい世界を、戦うことでしか得られぬとその考えを踏襲することがお前の平和か?」

 回答を返す人外のモノに戦慄も覚えぬではなかったが、それを苛立ちが上回る。ミリアリアは手を振って相手の話を途切れさせると聴きたいことだけを強引にねじ込んだ。

「あんたの意見はどうでもいいわ。対価は支払うから教えて。それに異を唱えることは違反よ」

「無論だな。何なりと問うがいい。お前が真に求める疑問なら可能な限り答えてやる」

 見下ろす機械の「上から目線」には承伏しがたいモノもあったが……態度がどうであろうが望む宝が手に入るのならば我慢もできよう。そんな理論武装を自分に施し仮面の機械を睨み据える。

「黒いデスティニー≠扱う組織について、できうる限り教えて欲しいの。まずは現在の所在――」

「違うな……」

「…………は? 何がよ?」

 質問を強引に遮られ、代わりに不可解な断定を返され鼻白む。そんなミリィの胸中に拘泥することなく仮面の機械は言葉を継いだ。

「君はそんなものを求めてはいない。今の君は、常に一人だ。そんな状況に追いやった元凶は誰だ? 復讐できる力も持ちながら、何故しない?」

「復讐ぅ? ハッ! ちょっとあなた、ターミナル≠ナは情報の共有が原則よ。勿体ぶらないでクライアントの希望には答えて」

「答えているさ。君の心が真に望むものをな。へリオポリス≠ェ襲われなければ! 執拗な追っ手がなければ! 恋人を撃墜されなければ! お前の運命はザフトに狂わされた! 第二の故郷と思いの人を殺した、ザフトのアスラン・ザラに!」

「うっ、うるさい! ラウ・ル・クルーゼ! あ、あんたがそれをさせたんじゃないの!? そ、それを人のせいにしてっ!」

「そのアスランは今怒りに狂っている。思いの人を殺されてな」

「えっ?」

 殺された? カガリが? それともあのメイリンという娘か。流言飛語と断じた幾つかの情報が脳裏を流れ、全てに真実の可能性検証を行えないまま混沌になる。ミリィは激した心も忘れ冷たい心地に突き立てられる。

「そんな男の裏をかくなど容易なこと。国王に掛け合い失脚させようか? それとも彼の部隊に刺客でも紛れ込ませようか? 君にはそれができる力があるだろう? それを望むなら、幾らでもプランを提供してやろう」

 反論も聞かずクルーゼは接続されたディスプレイに次々とデータを表示させていく。頭に吸い込まれたプランに反抗しようとするが、その的確な論理性、どこから得たのか分からないデータの数々に度肝を抜かれることしかできない。

(どこから持って来てんのよ……こんな――)

 思い当たり、戦慄が苛立ちを凌駕する。現在とほぼ同義の過去を組み立て近未来を作り上げて見せた。このサーバ使い――いや、もしかすると、

「ま、まさかあなた、ってより、これがターミナルサーバ≠ネのっ!?」

 絶叫に、クルーゼを名乗る奇妙な物体は身を震わせることはないままくつくつと笑って見せた。

「莫迦な。君も知っているのだろう。私がこうなってまだ2、3年と言ったところだ」

 そこでブツリと音声が途切れ……ミリアリアが眉をひそめるほど続く沈黙がしばらく続く。

「ち、ちょっと?」

「フ……最近は体が灼き尽くされるような『データ』に苛まれたばかりでね……。フフ…こんな欠陥品が中央サーバでは信頼性など期待できないだろう? そんなことより、君だ。復讐は、何も生まないと信じているかな?」

 ディアッカを思い出した。

(あいつも言ってたわね。アスランを指して「お前の恋人殺したのはあいつだ」みたいなこと。で、私はなんて返したっけ……)

 キラの言っていたことを聞いていなかったの? だったかと思う。そのキラの言っていたことは――そうだ、憎しみの連鎖は断ち切るべきだと……。

 悪魔が嗤い続けている。私はアヤシイ宗教に勧誘されても簡単にはね除けられると思っていた。しかしこの機械に背を向けて手を振ることには――抵抗がある。

(話を聞くだけなら、引き返せないなんて事はない……)

 ミリアリアはその場に立ち続けた。

-4ページ-

SEED Spiritual PHASE-53 虐殺の容認

 

 基地らしき小惑星は破壊できた。アカツキ=Aバスター≠ヘ早々に武装を下ろしている。そして敵陣には、モビルスーツよりも小型救命艇(ランチ)の方が多く見受けられる。

「……あなた達は……っ!」

 キラは指先を閃かせストライクフリーダム≠ノ意識を注ぎ込んだ。機体は忠実に応える。蒼いスーパードラグーン≠ェ虚空に飛び散り無数の標的にロックを掛ける。射掛けられる対象の中には……脱出艇も含まれていた。

「おいキラぁ! お前何をしているぅっ!?」

 目の前で光に貫通された艇に驚愕したイザークは慌ててデュエル≠走らせた。ドラグーン≠格納するフリーダム≠フ肩にマニピュレータを引っかけ思うままの言葉を喉に集める。

〈離して〉

「奴らに抵抗の意志はないっ! 武装のない搭乗機に対してのモビルスーツでの虐殺は条約違反だぞっ!」

〈離して〉

 淡々と言葉を繰り返すキラにイザークは流石に苛立ちを覚えた。更に怒声をぶつけようとかぶりを振るがその間にデュエル≠フ手が振り払われた。怒りのベクトルが歪む。だがそれを伝えるより早く――フリーダム≠ヘあろう事かデュエル≠フメインカメラにその銃口を突きつけた。

「っ! おまえっ!」

〈この人達は平和に向かうみんなの努力を暴力で邪魔する人達だよ〉

「わがっているぅっ! だが、それが虐殺の容認にはならんだ――」

〈君に、それを言う資格があるの?〉

「な……?」

〈あの時、デュエル≠ヘ連合第八艦隊の脱出艇を撃ったよね〉

「――ぁ……!」

 忘れるはずがない。戦後イザークが軍法会議に掛けられた理由がこれなのだから。重力の腕に絡め取られたその時、イザークは叫び、そして撃った。目の前の、ストライク≠ノ一矢報いる事が出来ない苛立ちから。

 

「逃げ出した腰抜け兵がぁあっ!」

 

 民間人が宇宙艦隊に紛れているなど思うだろうか? イザークは乗組員が兵士だと思い引き金を引いた。だがそれらは全て言い訳に過ぎない。あの議場でデュランダルが異を唱えなければ、イザークは戦犯として極刑を言い渡されていた。

〈僕は、許さない〉

 止めることなど出来なかった。そんな二人に届いたオープンチャンネル通信に誰よりもキラの意識が引き込まれた。

〈貴様ぁ! その機体はもともとファクトリー¥蒲Lの――へ、返還を要求したはずだぁ! それを――〉

 脱出艇からの通信に映し出されたその人相は、記憶にある。少し前にクライン派≠ノ反旗を翻す旨を公言したターミナル″\成員だ。恐怖に駆られていると言うことか、言葉を探しては繋ぎ、途切れることなく叫び続けている。キラはその様子をただただ冷たく見下ろした。どれだけ理路整然と難しい言葉を並べようとこの人は皆が求める平和を崩し、ラクスの心に刃を突き立てたのだ。

 ――『元凶』。その単語に思い至るなりキラの能面のような表情に憤怒の亀裂が走った。

「自分の利益のためなら、人を殺してもいいの?」

 ストライクフリーダム≠ェ両のライフルを重ね合わせる。

〈お、おい! 殺すことが、あぁ! 全ての解決になるのかぁ!?〉

 聞く耳など持たない。これは、断罪すべき悪である。トリガーに掛けた指は――しかし真上からのアラートに押し止められた。咄嗟に上げたビームシールドで光の粒子がはじけるなり前後左右のアラートが喚き立てる。キラは息を飲み、デュエル≠突き飛ばしながらも後退すると幾つかのドラグーン≠ェ視認できた。

「さっきの、プロヴィデンス=H」

 その考えは突貫してくる二つの機動兵器の存在によって打ち消された。プロヴィデンス≠ノは格闘戦可能なビームスパイクを有した装備は存在しない。

〈あっ!〉

〈おいおいあの機体は――〉

 イザークとディアッカさえも注目するその先にはそれぞれのマニピュレータに握り込まれたビームライフルがあった。

「ちぃっ! 気をつけろキラ!レジェンド≠セっ!」

「レジェンド=c…?」

 その名の示す機体データはキラも知っていた。ZGMF‐X666S。デュランダルが用意した決戦兵器の一つ。闇に絡め取られた無垢な少年が操っていた機体だ。思い出すにつれキラは奥歯を食い縛る。まだ、命を弄ぶ、そんな存在が想起される。

「君は! 君もっ! そんなにみんなの幸せを壊したいのか!」

 言葉の代わりにビームが答えた。左右から撃ち込まれる砲塔からの閃光にビームシールドではじき返すとセンサーが描き出したロックオンマーカーへとビームライフルを撃ちかける。彼方の虚空で虹が散る。散らばっていた砲塔が――のみならず四肢までも――虹の散った一点に収束し、一体のモビルスーツを作り上げた。左右に分かれた棘のある輪を背負うそのシルエットは確かに一年前砲火を交えた黒いモビルスーツ、レジェンド≠ノ酷似している。心を持て余すキラは声をかけずにはいられなかった。2丁のライフルを真っ向から突きつけ、答えの返らぬ相手に叫びつける。

「何故こんなことができるっ!?」

『正当な意見定義だと、私の知り合いは言ったな』

「!?っ」

 酷いノイズに混じりながらも、この声は聞き間違えようがない。

「ラウ・ル・クルーゼ………!!」

『覚えていてくれたか……。キラ・ヤマト! 人類の夢の結晶!』

「いや、そんなはずない! まさか、あの時のっ?」

『もう一人の私とも戦ったそうだな。彼の名前すら出てこないのか? それで解り合えたと、何故言える?』

 闇の花火。レジェンド≠ノ酷似した機体は全身を弾けさせ、十を超える砲塔を虚空に放った。突如無数に化けた熱紋目がけ、デュエル≠ェ銃口を合わせるも横手からの一条がライフルを撃ち抜く。煙吹く銃を投げ捨てる間にアラートに追われ続け、イザークは呻きながらも後退せざるを得なかった。

「キラ!」

「そんなはずはない!」

 イザークからの声も耳に入らずキラはビームシールドで左右からの射撃を弾き飛ばした。高速機動するドラグーン≠動体視力で捉えるなりシールドの隙間からビームライフルを放つ。閃光は過たず小型機動兵器に命中したが光は弾かれ黒塊が飛び去る。

「な?」

「あの装甲だ! 黒いデスティニー≠ニ同じなんだよ!」

 遠距離から分析したディアッカがキラとイザークに声を送るも予想だにしない声が割り込みをかけてきた。

『その通りだ。博士の知識は役に立っているようだな』

「なん、だ?」

 返された通信――?――にディアッカが息を飲んだ。戦闘も忘れて機体の通信機をチェックする。全周波数通信(オープンチャンネル)にはなっていない。周波数を間違えたか? いやそれにしてもイザークに繋がりつつ敵機にもなどという偶然があるものか? などと悩んでいる内に二機のドラグーン≠ノ追われ、キラとの連携が不可能な距離にまで追いやられていく。過去のプロヴィデンス≠ノ対し、何もできなかった経験が閃きディアッカは思わず逃げ腰になる。抵抗が無意味だと過去に告げられ牽制すら思いつかぬままただただ避けた。

「キラ! えぇいくそ!」

 通信可能領域を越えたらあいつの思うつぼだ。唇を噛みながら、今度はムウに通信を送る。

「どうしてだ!? あなたがっ! ここにいるはずは!」

『これが現実だ。これが事実だ。否定するのは容易なことだが、それだけでは進歩がないぞ!』

 十の砲塔に加え、ライフルを握った両腕、砲に変わる両足までが分離して飛来する。キラの五感はその全てを知覚し反応するが、破壊不能な小型兵器、それ以上に異常な存在の気配に混乱する。それでも全ての殺意を避けきりロックした黒い機体へ複相砲を撃ち込むが、ボディに張り巡らせた光膜が紅い光を虹に変えてしまう。

「くっ!」

『どうしたキラ・ヤマト? それでも私を殺した男か!?』

 殺した。猛烈な反発が彼の心に生まれる。砲塔を戻しては吐き出す、針を放つハリネズミのような異様を睨め付けるも彼我の距離を潰せない。呻くキラもスーパードラグーン≠解放し、隠された光の翼をも解き放つ。突如の加速にフリーダム≠追い縋っていた砲塔が対象を追い切れずに零した光と混ざって消える。蒼の輝きを翻し、瞬く間に黒の機体との距離を詰める。

『流石は英知の結晶! 侮れんな!』

 ノイズ混じりの賛辞を切り捨て方位を無視した殺意にシールドを向け、速度を落とさず肉薄する。が、連射する砲塔とは明らかに異なる軌道を見せる兵器が一つ。キラは速度を全く緩めず敵機寸前で翻る。そしてなおも追い縋る新たな兵器へとビームシールドを向けた。

 GDU-X7。試験機プロヴィデンスザク°yび特別機レジェンド≠ノ実装された特殊兵装は射撃の他、ビームスパイクを形成し突貫することができる。ダイダロス基地でこの兵器はザムザザー=Aデストロイ≠フ陽電子リフレクターを貫通した実績がある。

「!」

 ビームスパイクがビームシールドを貫通した。急制動がフレームから黄金を散らすも装甲を穿つ紫電に捕らえられる。機体に損傷を与える前に回避でき――なかった。左のビームシールド発生装置が光に穿たれ展開されていた光盾が弾けて消えてしまう。冷たい汗がこめかみで弾けるも速度だけは緩めず、レジェンド≠烽ヌきの眼前で二丁のライフルを連結する。ロングビームライフルがゼロ距離で炸裂するも、張り巡らされた陽電子リフレクターが受け止める。キラは構わず乱射した。エネルギー、及び発生装置冷却の関係でリフレクターを永久に展開できるわけはない。ニュークリアリアクターの出力を存分に解放し、一点突破を狙って撃ち続けた結果、遂に光膜が破れ、黒い機体がさらけ出された、その瞬間を狙い別のトリガーを引き絞る。MGX-2235カリドゥス&。相ビーム砲口が黄金にフェイズシフトし、深紅の閃光を吐き出す! この距離では外しようもなく、レジェンド≠烽ヌきは大きく後方に弾き飛ばされた。

『キラ・ヤマト……! 恐ろしい。お前は恐ろしい存在だ!』

 吹き飛んだ黒い機体に――四肢と砲塔が舞い戻ってくる。分離した部品からモビルスーツが組み上げられる。全ての砲塔が前方に傾き両手に握られたライフルもフリーダム≠ヨ突きつけられる。

『在ってはならないのだよ! その存在、その力はっ!』

 全火力を持ってフリーダム≠狙い撃つ。キラはシールドにアクセスするも応えは返らない。先程壊された機関は自然治癒するはずもない。息を飲む。――が、彼の周囲に張り巡らされた立方体の光膜が束ねられたビームの嵐を弾き飛ばす。

〈無事かよキラ?〉

 ムウの声にキラは息を吐いた。アカツキ≠フ光波シールドを纏ったままフリーダム≠フメインカメラを脇に向ける。その間にもクルーゼを名乗る男からの怨嗟が耳の奧へ流れてくる。

『ムウ……フフフ…久しぶりだな!』

〈何がラウ・ル・クルーゼだァ! 生きてるわけねーんだよそいつは! キラ、こいつは任せろ。お前は逃げてった元凶を捕まえてこい! 撃ち落とすんじゃねーぞ!〉

「ありがとうございますムウさん!」

 キラは直ぐさま躊躇いを見せずムウの機体を追い抜いた。敵機は全身ビーム兵器。反射装甲を持つアカツキ≠ネらば有利に立てる。

『お前は本当にいつでも邪魔だな! ムウ・ラ・フラガ!』

「黙れ!」

 黄金と漆黒二つの機体が無数の砲塔を撒き散らす。キラはそれらを置き去りにしながら友軍に通信を送る。イザークとディアッカが追いつき、しばらくして先程逃した脱出艇が現れる。

〈――っ〉

〈キラ、捕獲だぜ?〉

 言葉を詰まらせたイザークの内心をディアッカが次いだ。キラから了解が返ってきたことに胸をなで下ろすが、直ぐさま響いたアラートが3人の意識を引き締めた。

〈おいおい……!〉

 フリーダム≠フ鼻先を掠め、更にバスター≠フいた空間を光が薙ぐ。避けきれなかった付近のザクウォーリア≠ェ脚部を撃ち抜かれ後方へ流されていった。撃墜されたザク≠フ姿にイザークの咆吼が聞こえる。

〈ウチの偉いさんなんでね。連れて帰るが駄目かい?〉

 砲塔が逃げ去り、収束する先には先程撤退したプロヴィデンス≠フ姿がある。ディアッカは呻き、額の汗に苛まれた。単機で戦局を覆しかねない機体が二つ。

(いや、それならキラのフリーダム≠セって……)

 そう考えるも、戦慄は消えない。共に多対一を突破できる機体だが、共に掃討戦を得意とする機体だが、格下を一機に殲滅できるフリーダム′n統と異なり、プロヴィデンス′n列は一機を多角的に攻めることができる。一対一に持ち込まれた場合どちらが有利かは明らかだ。

〈あなたも、なぜそんな人を救う!?〉

〈人を救うことはいいことじゃないか?〉

 通信機越しのキラの怒りを感じながら、ディアッカは思考ばかりを繰り返した。万全のストライクフリーダム≠ネらプロヴィデンス≠ニて相手にはなるまい。だが、背後のレジェンド≠気にしながら戦えるか。振り返ればアカツキ≠ェレジェンド≠ニ思しき機体を抑えている。それでも彼我の距離はあまりに近い。

 嵐のようなビームの乱舞。回避不能な殺意の檻。誰が踏み込もうが死ぬしかないその空間もこの二機には殺意たり得ない。反射鏡面に弾かれ、相転移に飲み込まれ殺意が無意味に消費される。その空間がこちらまで流れてきたら? ディアッカには生き残る自信がなかった。

(これが要塞攻略最終決戦だってんなら――)

 数の有利を盾に部下の命を乱暴に消費し、二機を押し包むこともできるだろう。だが残念ながらそれをよしとする指揮官は自分も含めてここにはいない。

「お前らは下がれ! 荷が重すぎる!」

〈ディアッカ?〉

「仕方ねーだろ。キラとおっさんだけだよ。邪魔にならねーのは!」

 イザークの気持ちもわかる。ディアッカ自身忸怩たる思いを抱えているのだが、こうしている間にも漏れ出るドラグーン≠ェ友軍機を撃ち抜いているのだ。

『とんでもない機体だなムウ。話には聞いていたがオーブの守りが聞いて呆れる見事な破壊兵器だ!』

 再び結合した黒い機体、その両足から柄が生える。マニピュレータが引き抜き組み上げると両端からビーム刃が吐き出された。アカツキ≠ヘ頑ななままにライフルを連射し距離を取ろうと試みるも敵機との推力に差がありすぎる。瞬時に眼前まで接近され、度肝を浮かれる間もなくシールドを持つ手を切り取られた。ライフルを投げ捨て73J2式試製双刀型ビームサーベルを引き抜き振り払うが、黒の機体は真空間でのバックステップで刃先から逃げた。その機体目がけて分離させた刃を投げつけるも敵機はシールドで投剣をはね除け、浮かべたビームライフルを射抜かれた。ムウが失態を悔やむ内にレジェンド≠烽ヌきは背を向けている。

『悪いがお前に構っている暇はないのでな!』

「えぇいっ! 好き放題やりやがってよ!」

 ディアッカは絶句した。イザークと自分にはオールレンジに対抗する装備も実力もない。フリーダム≠ヘプロヴィデンス≠ノ攻撃を繰り返しているが逃げに徹するドラグーン¢部機を捉えきれずにいる。小型機動兵器に道を塞がれてしまえばたとえ推力で勝っていても直線距離を広げられる。焦燥にかられる内にも艇を抱えたプロヴィデンス≠ェ砲塔を撒き散らしながら逃げていく。

「くそっ!」

〈キラ、落ち着けよ。あれは諦めろ。任務は果たしてる。部下を危険に晒すような真似はやめろ〉

 激昂しそうになるが、ディアッカの言葉に反論の余地を見いだせない。

〈あぁ。後ろのバケモノに専念しろ。部下を救うのもお前の仕事だっ!〉

「――っ!」

 キラの睨み据えた先にレジェンド≠ノ酷似した機体が迫る。

 

 

 

「ふぃー……。何とかまいたな。ケーニヒさん、やたらとシェイクしたけど生きてます?」

〈あ……うぁぁ。助かった。援護を感謝する……。が、あんたは?〉

「ケインです」

〈おお! 流石だ。お前にプロヴィデンス≠与えて良かったよ〉

 最大級の喜色を浮かべたとあるファクトリー°Z術主任を抱えながらケインは取り敢えずこの男の影響力がどれくらいか想像する。技術者としては及第点以上だとは思うが……あの演説の時は無駄に肝を冷やす羽目に陥った。プラスとマイナス揺れる天秤に何を加えるか考えていると、アラートも鳴らないまま併走されていたことに気づく。息を飲みながらもサイドモニタを確かめれば、あぁ何故か背後を守ってくれていた所属不明機だ。

「……取り敢えず礼は言う。が、何者だ?」

『君が気にしているのは私の所属か? それとも意図か?』

 含み笑いと共にノイズ混じりの小馬鹿にした口調が響いた。

「両方聞かせてもらおうか。ちなみに私はケイン。L1第8ファクトリー≠フ者だが……ここんところやってることは傭兵だな」

『知っているよ。音に聞こえしメビウス・ゼロ&泊熄椛ョ。私はラウ・ル・クルーゼ。君と同じターミナル≠フ使い走りだよ』

「なぜ、我々を助けた?」

『なに、ただムウとは私も因縁があってね。それともその機体に愛着があったかな?』

 ケインは話している内に彼の名に聞き覚えがあることに気づいた。メビウス・ゼロ&泊熏ナ期の日の、敵軍の指揮官。そしてプロヴィデンス≠駆りヤキン・ドゥーエ≠駆け抜けたザフトの英雄ではないか。

「クルーゼ、あなたもグリマルディ戦線≠ノ? 私達と対峙して?」

『そうだな。君とも擦れ違ったか、殺し合ったか。フフ……変な横やりが入らなければいい勝負ができていたかもねェ』

 ケインは奥歯をきしらせた。いい勝負だと? 当時ジン≠ニ互角以上とまで言われたメビウス・ゼロ≠立て続けに狩り、フラガ機とドッグファイトを演じていたジン<nイマニューバがいたが、それがこいつだったというのか?

『君の思想が貴重なのでね。まぁできればラクス・クラインの戦力をいくらか削いでおきたかったが……流石にキラ・ヤマト。一筋縄ではいかない……』

「……通信機、おかしいのならウチで修理していかないか?」

『丁重にお断りするよ。この機体を人に触らせるとあの女に何をされるかわからんのでねェ……』

 機体の相対速度を外しつつ、いかにも冗談めかした態度で彼がこちらに告げてきた。

『君達にはどうでもいいことかも知れないがプラント≠フアプリリウス市がテロリストに狙われているそうだ。とばっちりを受けたくなければ情報だけは集めておきたまえ』

 聞き返す暇すらくれず黒い機体は信じられない速度で彼方へと消えていった。

〈あ、アプリリウスに? おいおいこれはでかいことになりそうだな……〉

 まずい奴に聞かれたと内心舌打ちしながらも、ケイン自身も昂揚を覚えていた。

説明
ヒトの上に立つ人は神なのか。ならばヒトを導く責任を負わねばならないか――それとも、究極の傲慢を形にしても構わないのか? 悪魔の囁き。それは常に人の道を外れながらも有益この上ない情報。
 果たしてヒト遵守すべき価値を見いだせるか? 思想戦やってこそ風刺。50〜53話掲載。そろそろ根気が異常者だっ!
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コメント
おお!是非気にして下さい。このヒトの虚無主義はカルト教団なんぞで使いやすい平和の作り方ですがそれじゃあ話にもならんし自分も幸せにならんその代替案が出せると良いな−。R運命の性能は「オレが乗ってもコーディを墜とせる」を考え無敵装甲とAIによる思考補助となってます。既にクロも言ってますが「パイロットいらねぇ」化が悩みですが…(黒帽子)
強そうな装備全部つけたぜ!最強だぜ!っていうのはスーパーロボですからね。それはそれとしてクルーゼの本体がジエンドに乗っかているのか気になります(さむ)
く、クルーゼに関しては20話で一度ティニとしゃべくってますが、間に事件がありすぎて覚えてねーです。ジエンドが初めて出たのは16話…。連載初めて2ヶ月クラスですが世界はどれくらい経ってるのやら。当初はR運命にも無敵のドラグーン付けようと考えてたが自分が連ザUでドラグーン機体をまるで使えなかったので断念したのは秘密であります(黒帽子)
遂にクルーゼも出てきましたか・・・『プロヴィデンス』『レジェンド』、どちらもキラを苦しめた機体が登場した今、揃い始めた役者はこの世界をどう踊る?(東方武神)
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