ハーモニーラヴ(聖霊機ライブレード)
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                ★ハーモニーラヴ★

 

 

 

 

 セリカが倒れた。

 

 連日のライブレードの調整とパワーアップのために相当無理をしたらしかった。

 

 自分の命を預ける愛機ということで、トウヤは暇を見つけては1Fの第一聖霊機格納庫へ足を運

 

んでいた。

 

 トウヤが行くと、セリカはいつも汗とオイルに塗れた顔でメカニックの陣頭指揮を執っていた。

 

 アガルティア王国の第一王女という身分なのだが、こうしているととてもそうは見えない。聡明な

 

その頭脳は、聖霊機の設計からプログラムまでを難なくこなす。ドレスよりも作業着でいることが圧

 

倒的に多いお姫様だった。

 

(変わってるよナ)

 

 最初の印象はそうだった。アイとはまた違った明るさを持つ、好奇心の塊のような女の子。それが

 

セリカだった。王族なのに少しも気取った所がないセリカが、トウヤは好きだった。大切な友人とし

 

て。

 

 格納庫はセリカにとっての"戦場"だから、顔を合わせても忙しい彼女とそうそう話は出来なかっ

 

た。それでもトウヤは明るく元気なセリカを見ているだけで楽しかった。なんだかこっちまで元気に

 

なって来るようで。

 

 格納庫に入って来たトウヤの姿を認めて、メカニックのひとりが挨拶して来る。それに答えなが

 

ら、トウヤは"格納庫の主"がいないことに気が付いた。

 

「あれ、今日はセリカはいないのか?」

 

「あ、チーフですか。実は、今朝突然倒れられまして・・・・・」

 

「何だって!?」

 

「このところ徹夜でライブレードの調整に当たっていらっしゃいましたから。無理が祟ったのではな

 

いかと」

 

「何もそこまで・・・」

 

「責任感の強いお方ですから。あ、今、医務室でガボンさんが診て下さってます」

 

「行って来る」

 

 礼もそこそこに駆け出して行くトウヤの背を見送って、メカニックのひとり、まだ若い女がボソリ

 

と呟いた。

 

「ハァ〜、トウヤさんも案外ニブいわねぇ」

 

「は?」

 

「何でもないわ」

 

 ポカンとしている男を尻目に、女は大声を出した。

 

「さあ、巻いていくわよ。チーフの抜けた穴は大きいからねっ!」

 

 それまで遠巻きにトウヤたちのやり取りを見ていたメカニックたちは、慌てて持ち場に戻って行っ

 

た。

 

 

 

 

 いきなりバタバタと入って来たトウヤに、ガボンが呆れた声を出した。

 

「おいおい、ノックぐらいしろよ」

 

「す、すまねぇ。あの、セリカは!」

 

「鎮静剤を打っといたんで眠ってる」

 

「そうか。ガボン」

 

「ん?」

 

「それで具合の方は・・・」

 

「ああ、過労だな。なあに、今日一日安静にしてりゃあ大丈夫だ。心配はいらねぇ」

 

 ホッと胸を撫で下ろしたトウヤに、ガボンが意味ありげに笑いかけた。

 

「もてる男は辛いな」

 

「はあ?」

 

「何でもねぇ。あ、俺は野暮用があるんでこれからちょいと外すが、おまえさん、付いててやってく

 

れねぇか?」

 

「んな無責任な・・・」

 

「言ったろ。安静にしてりゃあ大丈夫だって。頼んだぜ、トウヤ」

 

「あ! おい、ガボン!」

 

 さっさと出て行ってしまった機関士兼船医をトウヤは呆然と見送るのだった。

 

「ったく、とんでもねー医者だな」

 

 悪態をつきつつセリカの寝かされているベッドに近づく。確かに顔色も良く、薬が効いているのか

 

規則正しい寝息が聞こえて来る。

 

「無茶しすぎだぜ、おまえ」

 

 ベッドサイドの椅子に腰掛けながら、少しずれてしまった毛布を直そうと伸ばした手に、何かが触

 

れた。柔らかくて、温かい・・・セリカの手だった。

 

「 ! 」

 

「・・・ヤ」

 

 小さく何か呟きながら、セリカはトウヤの手に自分の手を重ねた。

 

「・・・ん・・・・・・トウヤ」

 

「え?」

 

 いきなり名前を呼ばれてビクリとするが、当の本人はスースー寝ている。

 

(寝言かよ。だけど、なんで俺の名前・・・)

 

 自分の夢でも見ているのだろうか?

 

 トウヤは何だか微笑ましい気持ちになって、セリカの手をそっと握り返した。

 

「俺はここにいるから、おまえはゆっくり眠ってろ」

 

 起こしてしまわないようにゆっくり手を引っ込めると、毛布の中に入れてやった。

 

 

 

 それから二時間-------

 

 ガボンはまだ戻って来ない。

 

「何やってんだ、あのおっさんはっ!!」

 

 落ち着いて眠っているとは言え、ガボンに頼まれた以上好き勝手に席を外すわけにはいかない。

 

 いや、それよりも何よりも、トウヤは段々この状況に耐えられなくなっていた。さして広くない医

 

務室にセリカと二人っきり--------。

 

 一方は寝ているとはいえ、何か甲息苦しいと云うか。

 

(どこで油売ってやがんだよ。患者ほっぽっといて・・・)

 

 トウヤの苛々が頂点に達しようという頃、セリカが目を覚ました。

 

「トウ・・・ヤ?」

 

「セリカ、気が付いたか」

 

「どうしてトウヤが」

 

「バカ、心配だからに決まってっだろ」

 

 一瞬セリカは驚いたような顔をしたが、すぐにパッと笑顔になった。

 

「うれしい」

 

 

「その、どっか痛くねーか? 大丈夫か?」

 

「うん。お薬が効いたみたい。もう、平気よ」

 

 頬にも赤みが差しているから、大丈夫だろう。

 

「セリカ」

 

「何?」

 

「おまえ、無理し過ぎだぜ。もっと自分の体を大切にしろよ。整備だってもっと他の者に任せ

 

て・・・」

 

「トウヤはライブレードに命を預けてるんでしょ?」

 

 トウヤに皆まで言わせずに、セリカは遮った。

 

「あ、ああ」

 

「だからよ」

 

「え?」

 

 セリカはゆっくりと半身を起こしてトウヤを見つめた。

 

「ライブレードはトウヤの命そのもの、でしょ。だから、少しでも強化して・・・そして、守りたいの」

 

「セリカ・・・」

 

「私、私ね、ホントはライブレードに乗りたい。そして、トウヤと一緒に戦いたい。でも・・・」

 

「乗ればいいじゃねぇか」

 

「え?」

 

 セリカが瞳を見開いた。

 

 何ともいえない沈黙が流れる。

 

 言ってしまってからトウヤは気が付いた。

 

(これって告っちまったってことにならねぇか?)

 

 ライブレードは副操縦席に想いの通い合った相手が乗ることによって、その本来の力を遺憾なく発

 

揮することができるのだから。

 

「いい・・・の? 私で・・・いいの?」

 

(ああ、もう!!)

 

 トウヤは髪を掻き毟り、そっぽを向いた。

 

「おまえさえ・・・良ければ、だけどな」

 

「うん」

 

 零れるような笑みを浮かべて、セリカはトウヤを見つめた。

 

(みんなに恨まれるかな?)

 

 そんなことを考えながら心の中でペロリと舌を出す。

 

「ね、トウヤ。もう一度、手握ってくれる?」

 

「ええっ?」

 

 ためらいがちに口を開いたセリカの台詞に、トウヤは顔を引き攣らせた。

 

「き、気が付いてたのかよ・・・もしかして・・・」

 

「ふふっ、ヒ・ミ・ツvv」

 

(このお姫様には敵わねぇな)

 

 腹を括ったトウヤは、セリカの小さな手をそっと両手で包み、握りしめた。

 

「もう少し寝てたほうがいいんじゃねーか?」

 

「うん。ずっとこうしていてくれるってトウヤが約束してくれたらネ」

 

「・・・さ、さっさと寝ろっ!!」

 

「お休みなさ〜〜〜いvv」

 

 キャハハと笑いながら、セリカは横になった。

 

 

 

 ゼ=オードとの死闘の合間の、つかの間の平和なひと時であった。

 

 

            

                                    おしまい

説明
7年前に出した同人誌に収録したSSのうちの一本です。
トウヤ×セリカでvv
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タグ
聖霊機ライブレード トウヤ セリカ ウインキーソフト 

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