訳あり一般人が幻想入り 第1話
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 十一月。夜中の道路には無数の人。車。散りばめられた電飾。どこぞの店の曲。なにもかもせわしなく動いている。

 

 その中にある十五階建てのビルの屋上。そこに一人の男が、柵を越えて残りあるスペースに佇んでいた。

 

「あばよ、このうざったい世界」

 

 そう男はつぶやき、頭を下に飛び降りた。

 

 

 

 

 

第1話 ((Unwilling Another World|幻想郷))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 男の名前は 横谷優 二十歳の元大学生 田舎から上京してきた只の田舎人間。

 友達はおらず、必要最低限の会話以外は誰にも話さずずっと一人で勉強ばかりしていた。

 家に帰っても誰かとどこかに遊ぶわけでもなく、パソコン画面とにらめっこ状態。飯も最近はコンビニやスーパーの弁当。たまに食べずに捨てたりする。

 バイトもしてはいたが、周りとの人間関係に、客への対応に疲れ一月足らずで辞めた。実際、金に関しても親からの仕送りだけで生活ができたので特に困ることはなかった。

 

「俺はいつまでこんな生活するんだか……」

「しかし変えてもいいことなんかねぇだろな……」

 

 などと自問自答の愚痴をこぼすことが最早この男の習慣にもなっていた。

 そのことを誰かに相談するつもりはなかったが相談する相手もおらず、両親も物心が付いたころに離婚。その半年後に母をがんで亡くし、祖母に妹と一緒に引き取られている。

 

「もう考えるのも、生きてるのもツライ……」

 

 横谷は突然呟き、行動に走った。朝早くから退学届に書名、((捺印|なついん))を済まし、即日学生課に提出。理由を求められたが何も言わずにその場を去った。

 その後一度も行ったことのない高そうな料理店に入り、値段の張る料理を二品ほど頼み時間をかけて食べた。その時の店員が男のことを好奇の目で見ていたような気がしたが、気にせず食べた。食べ終わった後、家に帰り少し汚かった部屋を片づけてきれいにした。

 午後五時。自分の住んでいる場所より都心よりの駅にいた。そして近くにあった今は見かけることも少ない電話ボックスに入った。携帯は持っているが、どうせならという気分で男は、電話ボックスに入ったのだ。

 十円玉を投入口に入れ受話器を手にし、ダイヤルをカチカチと押した。

 

プルルル  プルルル  プルルル ガチャッ

「もしもし」

 

 聞こえてくる声は老婆の声で、((幾分|いくぶん))かイライラとした声だった。

 

「チッ、よりによってお前かよ」

 

 声の主は横谷の祖母、横谷タヱ。横谷は実家に電話をかけていた。

 

「お前とはずいぶんな口のきき方じゃないの えぇ?クソガキ」

「うっせぇ黙れクソババァ」

 

 いきなり口汚い会話から始まる。優には祖母との良い思い出がない。

 幼いころから名前を呼ばずガキ、ガキとしか言われなかった。近づいたら必ずと言っていいほど叩かれ、離れては気色悪いお面をかぶって泣いて逃げる姿を面白がって見ているような性悪婆さんだった。それを見ていた両親からの忠告も意に介さなかった。

 

「で、なんの用だい。仕送りを増やせってのかい」

「そんなことで電話するほど金に困ってねぇ」

「じゃあアタシの声を聞きたいために掛けたのかい? っひっひ」

「……ブッ殺すぞオイ」 

 

 お前の声を聞きたくて掛けたんじゃねーよ――そう心の中でつぶやき、気だるさ混じりのため息を吐いた。

 

「お前のために掛けたんじゃなくて――」

「――妹のほうだろう」

 

タヱは、まるでさも当然だろうと言わんばかりに言葉を((遮|さえぎ))った。

 

「今は学校に居る。セイトカイの集まりで帰りが遅くなるとさ」

「……そうかよ」

 

 優の妹、((愛美|エミ))は地元の高校に通うよく出来た妹だ。偏差値が60とそこそこ高い学内で常にトップ3に入るほど優秀で生徒会にも入っており、次期会長候補との呼び名も高い。加えて性格が兄とは正反対に明るく分け隔てなく誰とも接する。それを疎む人もいたが接しているうちに憧れに変わったと言う人もいるほどだった。

 兄のことを知る人は「まるで兄のを吸い取った感じね」と悪気なく言う人もいた。事実、優も同じ高校に通っていたが特に優れた学力はなく、人と喋らない性質だったため同じクラスでも存在を知らない人もいた。

 

「また妹に愚痴話かい。好きだねぇ、えぇ? このロリコン。イヒヒヒ」 

「・・・・・・」

 

 どこでそんなの覚えやがった――憤慨混じりの疑問を心の中に吐露した。横谷は3か月に1回実家に妹に向けてに電話を掛ける事になっている。

 東京がどういう街なのか知りたいからと上京前に約束していた。実家にはパソコンはあれど、ネットはつながっていない。

 原因は祖母にある。俗世間の情報などアテにならんという理由で繋いでないようだ。優の中ではうまく使いこなせないからじゃないのかと暗に嘲笑していた。

 電話に掛けると十中八九、タヱが出てくるのでいつも掛けるのに((躊躇|ちゅうちょ))していたが、他に話し相手がいない横谷にとっては救いでもあった。

 東京の街の外観を伝えるついでに愚痴をこぼし、日ごろの((鬱憤|うっぷん))をここぞとばかり晴らすことが恒例となっている。愛美もその愚痴を((真摯|しんし))に聞き入れ、時にはアドバイスもくれる。愛美と話す時間が心休まる時間にもなっていた。

 

「いないのなら切るぞ」

「フン、老い先短い婆さんの愚痴ぐらい聞いたらどうだい」

「お前の話聞くくらいなら、耳((削|そ))ぎ落とした方がよっぽどいい」

「ならその耳を食いちぎってやるよ」

「フン、切るぞ」

「待ちな」

 

 耳から受話器を離し切ろうとした時、荒げた声がボックス内に響いた。

 

「……こっちに戻ってきても構わないぞ。今ならアタシの専属((主夫|しゅふ))にでも任命してやるよ」

「誰がそんなブラックな職業やるか。お前が死んだときに行ってやるよ、お前の死に顔を見るためにな」

 

 皮肉な冗談交じりの叶うことのない捨て台詞を吐き、すぐさま電話を切った。そして足早に電話ボックスから出た。

 

「……あのバカ息子がっ」

 

 もう受話器から届かない息子への言葉をくぐもり声で、しかし語気を荒く独白した。

 

 横谷のその後の行動に迷いがなかった。駅を離れ少しにぎわいのある道路を歩き、そこから高すぎず低すぎない建物を探し、駅から十分ほど離れたところでビルを見つけ、そのビルの裏階段から上り、屋上の扉を開け柵を越え、前に書き留めていた遺書を自分の横に置く。ここまでの行動に横谷はやや悲しみにふけっていた。

 

「こんなにスムーズなのは今までなかったな。屋上のカギもかかって無かったし…こんなときでなく、別の時に来て欲しかったもんだ」

 

 しかし、天があざ笑うかのように物事は思ったようにいかなかった。目を閉じて屋上から飛び降り、地面に叩きつけられ死ぬ。

 

 

はずだった。

 

 

 優の落下軌道上に突然空間が裂け、そこに新たな空間が展開し、その裂けた空間に横谷は入ってしまった。その空間は全て闇に覆われ、先が見通せなかった。

 

 目を閉じている横谷は気づかず重力に従いその闇の中に落ちて行った。

 

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 秋の季節を向えている幻想郷では、外は落ち葉が散らばり木々に付いている葉はほとんど赤や黄色となり、妖怪の山は青葉の色から紅葉の色に衣替えしている。空気は手が((悴|かじか))むほど冷たい。

 

「ふあァ……ん〜」

 

 妖怪の山を正面から見て右奥にあるやや大きめのな神社の中から、布団の上で寝巻姿で大きく((欠伸|あくび))をした少女。起きたばかりで目は半開きのまま、今にも二度寝しそうだった。

 少女の名前は博麗霊夢。幻想郷の最東端に位置する博麗神社の巫女である。

 

「起きないとなぁ……ふぁ〜あ」

 

 と目をこすり、またも欠伸をしながら布団から出て、身支度を整えていく。

 

「ううぅ……寒いなぁ」

 

 服の((懐|ふところ))の中に((懐炉|カイロ))を入れて外に出た。火鉢の中の炭を入れたばかりだから、身体が温まるのは少々時間がかかりそうだ。

 それ以前に小高い山奥の寒い中、((腋|わき))をさらけ出している奇抜な紅白の巫女服の上に、防寒着を羽織るだけという状態では寒いのも当たり前であろう。

 身体を震わせながら宝物庫の方へ向かう。神社の境内は、囲まれた木々の落ち葉が全体的に広わたっていた。

 

「ん?」

 

 ふと赤々と塗られている巨大な鳥居のある方を見渡した。

 

「ナニコレ?」

 

 なにやらデカい物体が転がっていた。その姿はまるで人のよう……

 

「!?」

 

 霊夢はその物体に近づいて目をギョッとさせた。

 

(なんでこんなところに人が!? しかも誰!?)

 

 ずっと倒れたまま謎の人物を目から離さず――もとい突然の出来事過ぎて目から離せず――考えうる疑問を頭の中で駆け((廻|めぐ))らせた。

 ややあって霊夢は再び宝物庫の方へ走り、竹箒を取り出し未だ動かない人物の方へ駆け寄った。そこからまた少し観察していたが動く様子は((微塵|みじん))もない。

 

(まさか死んでるの?) 

 

 最悪な考えを脳裏によぎった霊夢は、竹箒の柄の方をその人物の頭に向けて二、三回つついた。

 

ピクッ ズ ズ ズ

「うぅ……ん」

 

 まるでスイッチが入ったようにその人物は動き出した。

 

(起きた…しかも男……)

 

 うつ伏せに倒れていて顔も見えず、体はやや((華奢|きゃしゃ))で髪も長めであったためか男か女か霊夢は見当が付けずにいたようだ。

 

 

「・・・・・・」

 

その男、横谷優はあぐらで座りこみ、鳥居を中心に周りを見渡し、

 

「……随分変わった地獄だな」

バシン!

 

 周りの景色を見て一言((呟|つぶや))いた後、突然頭頂部に衝撃が走った。

 

「いっ!? ッ〜〜〜〜……なにすんだゴルァ!」

 

 頭を抱えながら荒々しい口調で後ろを振り返る。

 

「ここを地獄と呼ぶなんていい度胸ね」

 

 竹箒を逆さに持ち、巫女と思しき服の上に防寒着を着てジト目でこちらを見ている少女が、物々しい出で立ちの神社をバックに立っている光景が横谷の眼に広がった。

 

「ていうか、アンタ誰? 見たことのない顔だけど」

「人をそれで叩いておいて謝罪ひとつもないのかよ!」

 

 未だ痛みが引かない頭を抱えて立ち上がり、

 

「つうか、聞きたいのはこっちだ。お前は誰だ? ここはどこだ?」

「それらを知りたいならまずアンタから名乗りなさいよ」

「あぁ?」

 

 面倒なことになりやがった――横谷は心の中で呟いた。今頃は地面の上で、もしくは救急車・病院のベットの上で、痛みに苦しんでいるかとっくに死んでいると思っていた。

 しかし、今起こっていることはどれも当てはまらない(と思う)。わけのわからない土地になぜか倒れていて死んでいるわけではない。いや、もしかしたら死んでここに来たのかもしれないがここは(想像した)地獄てはない、ときた。しかも目の前に居る少女は、状況の収拾がつかない自分を優しく構うどころか頭を箒で叩きつけるわ、タメ口で話してくるわと巫女らしい振る舞いを一切しない。

 

(何でこんなことになってやがる!)

 

 横谷は雲を((掴|つか))むかのように頭の中で有りもしない答えを探る。

 

「どうするのよ!」

 

 すぐに答えを出さない事に腹を立てたのか、霊夢はキツイ口調で横谷に問いただした。

 

「チッ……わぁーった、わぁーったよ」

 

 半ばあきらめた感じでなだめるように返事をした。

 

「……横谷だ」

「え?」

「横谷優だ」

「ふぅん、普通な名前ね」

 

 さらりと余計な一言をつけて

 

「私は博麗霊夢よ」

 

 その一言だけ名乗った。

 

(ハクレイレイム? お前も随分変わった名前だな) 

 

 横谷は名前を聞いて思ったことを、皮肉交じりに声に出そうと思ったが((呑|の))みこみ、

 

「えっと、じゃあ、霊夢……さん、いったいここはどこなんですか?」

 

 横谷は丁寧な言葉で尋ねた。自分の素の口調や態度だとまともに取り合わないと踏み込んでの言葉だった。

 

「ここは幻想郷っていうのよ、外来人さん」

(コイツ、名前出してやったのに……)

 

 さっき名前を教えたばかりのはずが、名前を言わずに外来人という意味のわからない言葉で自分を名指しすることに、横谷はただただムカついた。しかしそれを抑えて話を続ける。

 

「幻想郷? ってか外来人てなんだ?」

「幻想郷ってのは簡単にいえば外の世界と((隔離|かくり))された、妖怪や幽霊やら神様やらがたくさん集っている場所。外来人はアンタのように外の世界にきた人間のことよ」

「なんだそりゃ……意味がわからん」

 

 言った言葉は理解してはいるが、なにせ隔離された場所だとか、妖怪幽霊神様がここに集うとか、普通なら下手くそなホラ話か、三流ロールプレイングゲームのストーリーかなにかと思うほどぶっ飛んだ話である。その話をさも当たり前かのように語るので、横谷は面食らっての脳内思考がうまく働かない。

 

「ええっと、とにかくここが日本でないどこかってことはわかった」

 

 横谷はこれ以上考えるのを止め、横谷にとって重要なことを霊夢に尋ねる。

 

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「……帰ることはできるのか? 外の世界に」

 

 深刻な顔をして霊夢に問い詰めた。

 

「まぁ、出来なくはないわよ」

 

 霊夢は横谷の深刻な顔を気にする様子もなくさらりと言った。

 

「そうか、じゃあさっそくで悪いけど俺を外の世界に帰してくれないか」

 

 優は霊夢に詰め寄った。横谷にとって見知らぬ土地に居ることがとても嫌なのだろう、見知らぬ土地で楽しむなどという楽天的な考えは一切出てこなかった。

 

「まぁ、出来るんだけどぉ……」

「なんだよ、出来るんだろ? だったら早く――」

「――時間かかるのよねぇ」

「……はぁ?」

 

 横谷はまたも面食らった。

 

「帰すにはいろいろ面倒なことをしなきゃならないのよ、ここにある博麗大結界を緩めるための準備をね」

「いや、でも、ええっとハクレイ大結界? それを緩めるくらい簡単なんじゃ」

「なんで素人がそんなことがわかるってのよ」

「霊夢はここの巫女なわけだろ? そういう類の物なんかちょちょいと出来るだろうし、それに俺は――」

「――とにかく時間かかるの、今すぐには無理ね」

「なっ……!?」

 

 話を途中に遮られた上にすぐに帰ることができないと言われ、苛立ちと落胆が同時に襲いかかり胃腸がキリキリと痛み出しそうだった。

 

「そんな……ふざけんなよ……」

 

 うまくいかないことはどこ行っても同じかよ――外の世界でも幻想郷でも、いつでも自分の思いどおりにいかないことに横谷は自分を恨んでいた。そこに、

 

「というわけでアンタ、ここで働きなさい」

 

 と霊夢は持っている竹箒を横谷に差す。

 

「はぁ!?」

 

 混乱した。見ず知らずの土地に来てすぐに元の世界に帰れず、見ず知らずの人にここで働けと言われ横谷は考えることも出来なかった。

 

「どうせ行く当てなんかないんだし、どこかに((彷徨|さまよ))って妖怪に喰われるよりここで働いた方がアンタにとっていいってことよ」

 

 それを聞いて、横谷は我に返った。

 

(落ち着け俺、帰ることができないんじゃないんだ、帰れる時期が遅れるだけだ。それにアイツの言う通りなら、妖怪に喰われるくらいならここにいた方がいいし、なにより帰る方法を知っているのは今はこいつだけだ。ムカつく奴だが背に腹は代えられん)

 

「……わかった、そうしよう」

 

 横谷は今までの話を整理し、ここにいた方が((利|り))があると考え霊夢の半ば強制な提案を呑み、差した竹箒を手に取った。

 

「じゃ、まず境内と向こうの石段の落ち葉を払っといて」

「ん……わかった……」

「これが終わったら神社の掃除、納戸の 整理、炊事に洗濯。あと薪割りも頼むね」

「ちょっ、そんなに押しつけんのかよ!」

「それと薪割り終わったらお風呂のお湯も沸かしといてね〜」

「なっ、ちょっと、おい!」

 

 ((粗方|あらかた))言い終えた様子で、霊夢は手を挙げて左右にひらひらと揺らしながら神社の中に戻って行った。

 

「ハァァ……くそったれ。我慢だ我慢」

 

 横谷は((込|こ))み上げてきた怒りを抑制させ、強い足取りで石段の方へ向かった。

 

説明
◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。  初投稿です。拙い文脈が多々あると思いますが、大目に見ていただければ幸いです。それではごゆるりと見ていってください。
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タグ
東方 幻想入り オリキャラ 博麗神社 

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