Alternative1-10
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   Crimson Sick Record―とある手記―

 

 

 人間とは、生まれながらにして平等ではない。誰かが「神は人の上に人を創らず、人の下に人を創らぬ」と言ったらしい。

 だが、私は、否、私だからこそ断言しよう。

 人は生まれ堕ちてしまった瞬間、すでに平等という理の元にいない。人として生まれてしまった以上、平等などというものは決して存在しない。

 あるのは苦しみだけだ。

 なればこそ、人という存在は泣きながら生まれて来るのだろう。

 私だから、言える。

 人とはそういう生き物なのだ。

 平等などどこにもなく、ただ生まれ持ったなけなしの個性と呼ぶべき性能差で、競争せざるを得ないのだ。

 この世界はそういう風に創られている。

 私だからこそ言える。断言できる。決めつけられる。

 誰もが競争を繰り返さなければ、生きていけない。人間だけではない。この世に蔓延る、ありとあらゆる生命は争うことを前提に生まれて来る。

 何故、争うか。

 それは平等ではないからだ。

 全てが平等であるのなら争う必要はない。争える要素がない。だからこそ競い合わせるために個体の性能に差がある。

 そうやって種の中で争い、奪い合わせることで種はさらなら進化を遂げ、種族間における争いは、世界そのものへの進化と繋がる。

 そんな思惑があればこそ、世界とは常に平等ではない。

 しかし――結果は惨憺たるものだった。

 生き残るのは強いものでもない、ましてや賢いものでもない。

 最も脆弱で、愚鈍な種族が、結果として世界を支配した。その脆弱さ故に殺すことを効率化し、その愚かさ故に世界を衰退させる。

 そんな生き物が世界を統べた。

 これは――失敗作だ、と私は思う。

 世界は失敗していた。当初の軌道を逸脱し、世界は全く異なる方向へと進んでいるのだろう。

 この世界はすでに根本から破綻していた。

 だからこそ、不要なのだ。

                            〜とある手記より〜

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   #A757A8 Th―群咲の魔女―

 

 

     〆

 

 ここは……どこだ?

 体中が痛む。くぐもったような鈍い痛みだ。身体を少し動かそうと思っただけで、ずきずきと身体の芯から痛みが走った。

 なんだか全身が重い。鉛のようとはこういうことを言うんだろう。関節は油が切れた機械みたいにぎこちなく、なんとか動かそうとしても骨だけが軋んだ。

 体中のありとあらゆる場所が痛い。痛みにそれ以外の感覚が埋もれている。もうどこが痛いのかさえはっきりとは分からず、ただ痛いという感覚だけを脳が捉えていた。

 頭がぼーっとする。視界が定まらない。絶え間なく鳴り響く騒音も、くぐもっていて何が何だか分からない。なんか、鼻につんと刺すような痛み。なんだ? この刺激の強い臭いは……。酷く臭い……不快だ。

 でもそこから逃げるように行動することも億劫で、俺はずっと横たわっていた。きっと横たわっているんだろう。よく分からない。

 なんか頭には心地よい、適度に弾力のある感触。少し表面がざらざらしてるけど、温もりがすごく落ち着く。ああ、こりゃ寝心地が悪くない。

 全身に痛みがなかったら、もっと最高だった。

 俺は……寝ていたのか?

 状況を把握できず、俺は重い瞼を何とか押し上げる。

 靄のかかった視界。全ての輪郭が崩れ去り、何が何だかさっぱり分からない。視界の上半分を何かが覆っている。そういや、なんか額に濡れた感触がある。

 こりゃ、手ぬぐいか?

 はは、まるで熱でも出したみてぇじゃねぇか。

「ガンマ……? 起きた、の?」

 何か聞こえる。

 耳に触れるだけでとても落ち着く声だった。でもなんだかその声は湿り気を帯び、震えていた。

 一体、何がどうしたんだろうか……。

 視界のピントがようやく合ってくる。俺は何かを見上げていた。紅い髪が見える。長いその髪は俺の頬へとかかりなんだかくすぐったい。

 それに、すごくいい香りだ。ずっと漂っている刺激臭がなかったら、もっと素敵だっただろう。

 ぼんやりとだけど、視界に映るものが顔だと理解する。ゆっくりと定まっていく焦点。やがてそれはブレていた輪郭を纏め上げ、明瞭なものへと変わっていく。

「ああ……セシウ、か」

 自分の口から出た声は驚きほど掠れていた。なんだこれ、すごく喋りづらい。ていうか声を出す度に喉が痛む。

 なんだこれ……。身体が全然思った通りに動かない。少し無理をしただけで全身に激痛が走る。

 目の前にある顔は、すごく見慣れたもので、でも今は見慣れない表情をしていて――それが何を示しているのか考えるのも億劫だった。

 目が紅い……。一体どうしたんだ。唇を震わせ、じっと俺を見下ろしている。

 頬に水滴が落ちてくる。なんだ? 雨でも降ってるのか?

 未だに頭がまともに動いていない。考えるのがすごくダルい。

「ガンマ……? 大丈夫?」

「だ、だいじょうぶにみえる、か? なんかあっちこっち……ッ、イテぇんだ……なんだ、こりゃ? そんな、ハードなプレイは……あんま、すきじゃあねぇんだが……」

 掠れた声でなんとか声を絞り出す。身動ぎ一つで、なんでこんなに痛い思いをしなきゃいけねぇんだ?

 俺ァ、痛ェのあんま好きじゃねぇんだけどな……。

 一体何がどうしたってんだか……。

 セシウはじっと俺を見つめたままだ。なんて顔してんだ、こいつ。すごく情けない顔してるぞ。

 洟をすすって何か言おうとして、それでも何も言えずにただ唇だけが震えている。

 なんだよ、全く……風邪でも引いたのか? 夏風邪はバカが引くっていうけど、春風邪はどうなんだろうな? つぅかなんで何も言わないんだ? 語彙力がないせいか?

「ば……ばか……」

 掠れた声でセシウが言う。それは今にも消え入ってしまいそうな声で、なんとも頼りなくて……どうしてかそんなこいつを愛おしく思ってしまう自分がいた。

 変な感覚だ。こいつはただの家族だろうよ……。

 頭がまともに機能していない。

 ふと俺の半身が浮き上がる。気付いた時には視界からセシウの顔が消えていた。

 痛みに埋もれる感覚の中、背中に何かの感触があった。

 抱き締められているのだと、理解するのに数秒を要した。まるで掻き抱かれているようで、背中には確かな感触があった。温かい温もりを感じる。甘い匂いを感じる。

 ぼーっとした頭でそれだけを知覚する。

 その意味を考えることはできないまま。

 ただ、全身を心地よく締め上げる感触と、柔らかな温もり、鼻腔をくすぐる甘い匂いに俺は身を委ねていた。

 なんか、眠くなるな、これ……。

「ここは……どこだ……? 何があった?」

「今は気にしないで……。今はゆっくり休んで……お願い……お願いだよ……」

 湿った声でセシウが耳元に囁きかける。洟を啜る音が聞こえる。

 俺には何が何だか、さっぱり分からない。自分で考えるのも面倒なのだ。説明してもらいたい。

「あー、そう、だ……魔導陣は……? どうなった……?」

 セシウが耳元で息を呑む。抑えたつもりなんだろうけど、この状態じゃ丸聞こえだ。隠せるはずがない。その様子に、俺は不安を覚える。

「一体……どうした……? 何が、あった?」

 そもそも、ここはどこだ?

 絶え間なく耳朶を打つ騒音はなんだ?

 鼻を貫く刺激臭はなんだ?

 どうして……空は、こんなにも歪な色をしている?

 俺の意識が次第に鮮明になってくる。不確かだった意識は急速に収束を果たし、脳みそが回り出す。

 焦点が定まる。

 夜空に瞬いているはずの星はなく、月もなく、紫色の煙のようなものに包まれている。空を覆う煙を照らし上げるのは橙色の光……あれは、炎、か……?

 ……なんだよ、こりゃ?

 疑問が駆け巡る俺の頭の中――埋もれていた記憶が次第に蘇ってくる。

 ――そうだ、俺達は魔導陣の破壊作戦の際に、ベラクレート卿の私兵に捕まったんだ……。あの時俺は衝動のままに銃を抜き、立ちはだかった男を――

 その後は、どうなった……。

 紫色の光を放ち、回転を始めた魔導陣が脳裡を過ぎる。

「魔導陣が発動しちまったのか……?」

 すぐ傍らにあるセシウの頭が顎を引く気配。それだけで十分だった。

 じゃあ、ここは村だっていうのか?

 痛みを堪えながら、首だけを巡らして周囲を観察する。

 そこは屋内だった。木造の古びた家だった。天井の一部に大きな穴が空き、家具などは荒らされていた。真ん中から割られたテーブル、床に転がる傘を被った電球、クローゼットは倒れ中の衣服をブチ撒けていて、そのすぐ側に心臓を抉られ、倒れる誰かの姿があった。

 ワンピースを着た女性だった。白いワンピースは胸から溢れる血によって真っ赤に染まり、両手を投げ出したまま倒れて動かない。こちらへと向けられた顔は絶望と苦痛と恐怖を塗りたくられ、在りし日の面影なんてどこにも見出せないほどに歪んでいた。

 関わりはあまりなかったけど、覚えている。村人の一人だ。

 愛らしかった表情はただ歪んでいて、胸が痛んだ。

 あの私兵どもはどうなったんだったか。

「あいつらは……兵士どもはどうなった……?」

「みんな、死んじゃった……魔物に襲われて、みんな……」

 ……だろうな。あいつらに見境なんてないんだから。

 魔導陣が回転を始めた直後、隊長格の男は勝ち誇ったように高笑いを上げていた。きっとあいつらは信じて疑わなかったのだ。ベラクレート卿のことを。

「やってきた魔物に最初の一人が食べられちゃって……それから、みんな逃げたり、戦ったりしたんだけど、結局誰も……。みんな、戸惑ってた。泣きそうな顔で戦ってた。あのおっさんに対して何か答えを求めて、どうしてですか、何故ですか、って言いながら、結局は……」

 そこでセシウは言葉を詰まらせる。

 みんな、死んだか……。

 確かにあいつらは村人の命を蔑ろにして、みんなの生き方を無意味だと、ムダだと言った。そこに怒りはある。憎しみさえある。殺意だって抱いていた。

 それでも、哀れだと思わずにはいられなかった。

「……クローム達とは?」

「一回合流はした……。それでプラナがあんたのこと治療してくれて……でも、その後は私があんたのこと看ることになって別行動になってる。多分、今頃、魔物と戦ってる……」

 ……あいつらしい。

 きっとあいつらもベラクレート卿の私兵に作戦を阻害されたことだろう。

 その時、あいつらはどうしたんだろう。

 いや、今は考えるな……。

「じゃあ、今こんなことしてる場合じゃねぇだろ……できるだけ多くの人を助けねぇと……」

「ううん……もう、いいの」

「いい、ってお前……何がいいんだ……」

 こいつは何を言ってやがんだ?

 まだ村人全員が死んだと決まったわけじゃねぇ。森にいる式神達は全員、俺達を狙われないようにキュリーが手を回している。

 今ならまだ逃げ出すことはできる。

 それでもセシウは俺を強く抱き締め、何かから逃げるように頭を何度も振った。

「ううん、いいの……だって……だって……もう誰も……いない、の……生きてる人なんて……誰も……」

 ……え?

 傍らでセシウが嗚咽を上げる。言葉にすることさえ辛かったのだろう。できれば口に出したくなかったのかもしれない。言葉にしてしまえば、事実は自分の中で確定してしまうから。

 だけど、必死に絞り出してくれた。

 弱々しく震えるセシウの、細い身体を……俺は怯えるような手つきで抱き締め返そうとして、結局抱き締めることができなかった……。

 そんな勇気が俺にはなかった。

「死んじゃった……みんな、死んじゃったの……! 助けようともした……だけど、みんな……私の目の前で……! 次々と死んでいっちゃって……! こんなの……こんなのあんまりだよ……! なんでっ! なんで……村の人が、こんな……こんな……」

 そこから先に言葉はなく、ただ堰を切ったように溢れ出すセシウの泣き声だけが部屋の中に響いた。

 抱き締めてやりたい、と思った。

 例えその場しのぎでも、都合のいい慰めの言葉をくれてやりたい、と思った。

 全てを忘れてやりたいとさえ思った。

 でも結局俺は、そのどれか一つだけを行うこともできなかった。

 そんな自分が酷く情けなかった。

 守ってやる、と俺は言った。

 でも、結局あいつが一番危なかった時に何かをすることしかできなくて、がむしゃらに助けようとしてやったことは結局人殺し。

 きっと一人だけじゃない。

 衝動に任せて何人か撃った覚えがある。

 今となってはその死体さえも魔物の餌となり、クローム達には気付かれないだろう。そこにほっとしている自分にも腹が立ったし、人を殺すようなことをしなければ助けられない自分を殺していまいたくてたまらなかった。

 そして、今この瞬間、目の前にある残酷な現実に涙する一人の少女を抱き締めることさえできない自分。

 もう、なんだか、自分がどうしようもない存在に思えて、どうすることもできない自分がまた嫌になって。

 このまま溶けるように消えてしまいたい、なんて生温い考えさえ浮かんでくる。それでもこいつに優しい言葉をかける勇気はなかった。

 作戦が始まる直前、俺はこいつに何か優しい言葉をかけた気がする。でもそのどれか一つでさえ果たせたのか、といえばそんなことは全然無くて。

 あの時の能天気な自分を叶うならば殺したかった。

 こいつはこんなにも純粋でひたむきで、目の前の現実を自分なりに必死に受け止めようとしている。こんな俺の生存に安堵し、抱き締めてくれる。優しい言葉をかけてくれて、村人の死に涙を流すことさえできる。

 ……こいつに抱き締められていい人間なんかじゃない。

 俺はこいつの優しさに身を委ねていい人間なんかじゃない。

 もう、ダメだ。

 自分の中の何かが限界に達していた。

 俺に縋るように抱きついて泣き続けるセシウを、ゆっくりと引き剥がす。できるだけ優しい手つきで、硝子細工を扱うように。

 でもそれは結局、どんなに丁寧に振る舞っても拒絶であることに変わりはなく、セシウの口から小さな声が漏れる。

 事実を受け入れたくないような、疑問の声だった。俺はその声の弱々しさに付け入って気付かないふりをして、痛みに堪えながらも立ち上がった。

「クローム達と、合流しよう……」

 何でもないように、俺は言った。それがさも正しいことであるかのように。

 救いを求めるように俺を見上げるセシウの瞳は充血していて、頬は涙でぼろぼろで、唇は震えていて、しゃくり上げる声を必死に抑え込むような仕草が、胸に痛みを膿んだ。

 セシウは目に溜まった涙を掬い上げ、洟を力一杯啜って、弱々しく立ち上がる。

「行く、の……?」

「このまま、ここでじっとしているわけにはいかない……こうなってしまった以上、俺達はできる限りのことをしなきゃならない」

 本当は知っていた。できることなんてないことくらい。

 誰かを助けることもできない。確定してしまった事実を変えることもできない。

 だけど、そうやって自分を誤魔化さなければ、気が狂ってしまいそうで……。

 今にも零れ落ちてしまいそうな嗚咽を必死に咽喉の奥に押しやる。

 身体の痛みは随分と引いた。動く度に痛みは走るけど、それほどではない。

 体中にあった傷も今はない。剣を突き立てられたはずの肩も、さんざん蹴っ飛ばされて出血した頭部も、今は痛みが全然ない。

 きっと大きな傷を優先的に治療してくれたんだろう。プラナの治癒魔術は侮れない。

 これなら動ける……。この現実から目を背けられる……。

 仲間の良心を悉く踏み躙っている俺は、本当にもう勇者なんていう英雄の隣に立つ資格のない、最低野郎だってことぐらい十分理解していた。

 

 

 

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 痛む身体を引き摺るようにして、民家を出た先は悲惨な有様だった。

 何故、セシウがあんな死体の転がる部屋に籠もっていたのかが理解できた。あの家は他のものと比べれば幾分かマシだった。

 今や、建物の多くは半壊し、炎に包まれていた。そして足下に散乱するのは人々の死体、屍、亡骸、骸、残骸。

 ……死臭が鼻に付いた。

 転がる死体の多くは人の形を成しておらず、身体の一部分だけも多く転がっている。

 眼球を抉り取られ、頭蓋骨を割られ脳みそを啜られた生首、食いちぎられた後の目立つ手首に脚、糞便を撒き散らす胴体。

 食われたのか、はたまた引き千切られたまま放置されたのか。散乱する肉片が個人のものなのか、それとも複数人の残骸なのか、それも判別ができない。

 血溜まり、引きずり出された内臓、撒き散らされた糞便。異臭が敷き詰められていた。

 傍らのセシウが息を呑み、吐き気を抑えるように口を覆う。

 今はそれも気付かないふりをした。

 ただ、今もなお、夢中で屍肉を貪る獣の背中を俺は凝視していた。見た目自体は獅子に近い。でも大きさはその二倍近い。筋肉も獅子なんかよりずっと強靱そうだ。皮の下から浮き出る筋肉の動きがありありと見える。

 黒い表皮に覆われた背中からは蝙蝠を思わせる大きな翼が生えている。

 俺は特に何かを言うこともなく、荒々しい鼻息を鳴らしながら少女の亡骸の胸部に顔を埋め、肉を貪る獅子に銃を向けていた。

 なんでも、魔界に住む者達からすると、人間の心臓っていうのは最高に美味いらしい。そういえば、セシウが潜んでいた家の中で死んでいた奴も、心臓だけ抉り取られていたっけ。

 セシウはこの状況に吐き気を催し、また哀しむ程度に正常だっていうのに、俺はなんでこんなに冷静に、それどころか感情の機微もなく思考しているんだろうか?

 自分のことで精一杯だからか?

 まあ、いいや。

 俺は引き金を引き、獅子の背中に銃弾を撃ち込んだ。しかし、獣の表皮は硬く、銃弾は容易く弾かれる。

 獣が俺に気付き、振り返る。口の周り、鼻先まで血で真っ赤に染まっている。爛々と輝く金色の目が俺を睨み、唇を捲り上げるようにして牙を剥き出しにした。

 獅子が唸る。

「汚ぇ食い方だな」

 ぼそりと俺は呟く。

 特に意味はなかった。

 そのまま俺は駆け出し、獣の顔面に蹴りを叩き込んでいた。僅かに怯む獣。

 俺だってそれなりに常人を上回る力くらい持っている。そうでなきゃ、今まで戦場で生き残ることさえ不可能だっただろう。

 一応、多少のダメージは与えられる。獅子が呻く。特に気にすることもなく、俺は獅子の頭部を左手で掴む。指が食い込むほど強く掴む。骨が軋む感触を聞く。

「盛ってんじゃねぇよ、節操がねぇ」

 右手を引き、人差し指と中指だけを立てた。それをそのまま、獅子の両目に突っ込む。力の限り突っ込む。獣が唸る。それがどうした。眼窩の中で指を曲げる。ぶにゅぶにゅとした感触の眼球をかき混ぜる。眼から紅い涙を流している。

 魔物でも血は紅い。

 その事実がどうしようもなく苛々した。

 俺を引っ掻こうと藻掻く獣に、指を引き抜き後退して簡単に襲いかかる爪を躱す。

 ホルスターに戻していた銃を再度引き抜き、下がりながら銃弾を浴びせる。何度でも引き金を引こう。

 一発。俺が抉った眼に入る。骨まで硬いせいか、脳までは達しない。もう一回。同じ場所に銃弾が撃ち込まれる。眼を潰されたせいで動きが鈍っていて狙いやすい。

 それでも嗅覚を頼りに俺の位置が分かっているらしい。

 鼻に二、三発銃弾を撃ち込む。普段は計算しながら撃っているけど、今はいいや、んなこと。

 どうせ兵士どもに何発くれてやったかも覚えてねぇんだ。数える意味も大してねぇ。

 鼻が潰れる。あとはなんだ? ああ、聴覚か?

 耳を撃ち抜く。獣が痛みに呻く。痛みは分かるらしい。

 なんだかまた苛々した。そういや耳を削いだところで意味ねぇな。そう考えて俺は、獣との距離を詰め、素早く横合いへと回り込み、左腕と脚で獣の首を締め上げる。

 そのままの体勢で空いてる右腕に持った銃を耳の穴に突き付けて、何度か引き金を引いた。

 何回引いた? 覚えてねぇや。数えるの面倒だ。

 獣が俺の口を噛もうとするのに気付き、素早く手を引いた。そういやその口も邪魔だな。視覚も嗅覚も聴覚もほとんど奪われてんだ。味覚もいらねぇだろ。

 俺は脚を振り上げ、踵を獅子の眉間に叩き込んだ。動きが鈍ってるから、随分とやりやすい。三半規管もイカれてるためか、割れた額から血を流しながら簡単に倒れてくれる。

 魔導陣破壊用にプラナから与えられたスローイングナイフを腰に巻かれたホルスターから引き抜く。破壊すべき物を破壊できず、最早存在する理由さえなくなった、大勢の村人を救うはずであったナイフ。今はもう、凶器でしかない。なら、凶器として使わなければおかしい。

 俺はナイフを獅子の舌に突き立て、地面へと縫い付ける。一本じゃ足りねぇよな。魔物だもんな。

 さらに二振りのナイフを獅子の桜色の舌に突き立て、地面へと完全に固定する。

 これでもう使い物にならねぇだろう。

 一種の充実感に満たされつつ俺は倒れ伏した獅子に銃口を向け、気軽に引き金を引いた。いつもは重いはずの引き金がいつもよりずっと軽くて、調子に乗って何度も引いてしまう。

 肉が爆ぜる。もう一発。甲高い悲鳴が聞こえる。もう一発。鮮血が舞う。もう一発。肉片が散る。もう一発。火薬の匂いが鼻を衝く。いい香りだ。もう一発。何度も銃声を聞いて、耳がイカれてきた。心地いい。もう一発。ぴちゃりと足下で濡れた音が聞こえる。もう一発。紅くなる。もう一発。魔物の身体が跳ねた。もう一発。もう一発。もう一発。もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発もう一発。

 気付くと弾が切れていた。遊底が下がったままになっている。俺としたことが珍しいドジを踏んでしまった。予備弾倉を素早く叩き込む。

 まだだ。まだ足りない。

 再度、引き金を引く。

 撃って、撃って、撃って、撃って――

 俺はいつの間にか高笑いを上げていた。最高に気分がいい。

 こんなにも簡単に優越感ってのは味わえるものなのか。

 最高だ。

 笑いが止まらない。止めようにも止まらない。止める気にもなれない。

 ふと誰かが俺の手を掴んだ。俺は震えるその手を振り払い、さらに引き金を引く。

 まだ満足できないんだ。まだまだ足りないんだ。こんなもんじゃ全然収まらない。

 そういや、魔獣が全然動かない。銃弾を撃ち込まれる度にびくんと身体が跳ねるだけだ。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 また誰かが俺の手首を掴む。邪魔くさい。興を削ぐな。俺は鬱陶しげにそれを振り払う。

 また誰かの手が俺の手首を掴む。

 邪魔だ……!

 手を振り払うと、今度は肩を掴まれた。

 なんだよ……今、いいとこなんだよ……邪魔すんじゃねぇよ。

 振り払おうとするけど、それはできなくて、誰かが俺の肩を引っ張って、自分の方へと無理矢理向かせる。そこには紅い髪を結い上げた女性の顔があった。

 そう思った瞬間には俺の頬に衝撃があって、よく分からないうちに視界が回転した。口の中に鉄の味が広がる。

 なんだこれ……?

 殴られた?

 なんで?

 つぅか誰だ……邪魔したの。

「もうやめてよ!」

 誰かが俺に、張り裂けそうな声で叫んだ。その誰かって誰だ?

 気付けば俺は地面に転がっていて、しゃがみ込んだ誰かは未だに銃を握り続ける俺の右手の甲に手を当てていた。

「ねぇ! ガンマ! そんなのガンマらしくないよ!」

「うるせぇな……黙ってろ……お前に何が分かんだよ……」

 俺は立ち上がる。頬がずきずきと痛い。口の中を切ったらしい。俺も血は紅いんだな。痛みが分かるんだな。なんか苛々すんな、それ……。

 誰かが俺の名前を呼ぶ。

「お願いだよ……! もうやめて……!」

 そしてそいつは俺の名前を呼ぶ。その名前は今の俺の名前じゃなくて、もう随分と昔に捨てたような気がする名前で――

 俺は、泣きそうな顔の幼馴染みの顔を見ていた。

「あ……」

 呆然と、両腕を垂らし、そいつの泣きそうな顔を見つめていた。

 視界の端に映るのは最早原形を留めていない獅子の亡骸。単なる肉の塊となった哀れな残骸。

 紅い血溜まりに今にも沈み込んでしまいそうだった。

 …………。

 また、俺は、こいつを哀しませてしまった。

 違う。

 こいつは俺のために哀しんでくれている。それは思い上がりに近い物なのかもしれないけど。

 セシウは、ぽろぽろと大粒の涙を流しながらも唇を引き結び、じっと俺を睨み付けていた。拳は握り締められ、震えている。

 本当は弱いくせに、どうしてこいつはこんなに強くあれるのか……。俺には到底理解できなかった。

 俺のように卑屈にもならず、自分に強くなろうとして、事実強くなってしまって。

 だけど、心はあの頃と全然変わってなくて……まだまだ繊細なままで……簡単に泣き出してしまうくせに、最近じゃ全然涙を見せなくて、涙を見せたと思ってこうやって強気に睨み返してみたり……。

 本当、変わらないんだな……。

「ガンマ……私は、ずっと一緒にいるよ……それしかできないけど、それだけは絶対に守るから……お願い……自分を見失わないで……誰もガンマを責めたりなんかしていない……責めたとしても、そんな奴、私が絶対に赦さないから……お願い、ガンマは自分のことを忘れないで……」

 ……それはあの時、俺がこいつに言った台詞とほとんど同じもので……。

 こいつにこんなことを言わせてしまう自分が不甲斐ない物に感じた。でもそれは卑屈な自嘲的感情なんかじゃなくて、だからこそ、しゃんとしなければいけないと思える。

 今、この時、こいつがいてくれてよかった。

 こいつがいなければ、俺は壊れていたのかもしれない。

 俺はセシウの真っ直ぐすぎる瞳から逃げるように顔を逸らす。

「すまねぇ……」

「ううん、いいよ。やっと、ガンマらしくなった」

 にっこりと視界の端でセシウが微笑む。涙で顔をぼろぼろにしながら、今も涙を湛えた瞳で、それでも柔らかく微笑んだ。

 それはなんだか、この非日常の風景において遠い幻みたいだった。

 手を伸ばしたら消えてしまいそうで、俺はやっぱりこいつを抱き締めることができない。

「ありがとな……」

 そう呟いた瞬間、轟音が俺達の耳朶を打った。弾かれたように音の方へと顔を向けるセシウと俺。

 そこには建物が砂埃を巻き上げて崩れ去っていく様があった。そして一拍遅れた飛び出したのは鈍色の奔流。

 生き物のようにうねったそれは、空へと舞い上がったと思うと、再び急降下してまた異なる建物へと突撃していく。

 再び崩壊する建物。

 砂埃が舞い上がる。木片が飛び散った。

 なんだあれは……?

 生きてるようじゃない。生きている。

 俺の眼は確かに奔流の側面に蛇腹を見た。

 蛇? いや、違う。あんなでかいのは蛇じゃねぇ。

 しばらくの間を置いて、今度は俺達のすぐ側の建物が破砕され、鈍色の奔流が空へと舞い上がる。

「おいおい……マジかよ……」

 蛇竜だ……。

 あんなの図鑑でしか見たことねぇぞ、おい……。

 空へと舞い上がった鈍色の蛇竜の全長は、目測でおよそ七〇〇メートル。胴体もかなり太いな。高さだけで言っても、俺の一.五倍はあるだろう。

 信じられねぇサイズだな。

 そして最悪っていうのは続くのか、蛇竜の大きく開かれた顎には、もっと眼を疑うものがあった。

「ク、クローム!?」

「え!? どこ!?」

「あ、あそこ!」

 俺が指差したのは、空中へと舞い上がった蛇竜の頭部。大きく開かれた口に、クロームが挟まれていた。下顎に足を引っかけ、上顎の牙に剣を噛み合わせ、噛み砕かれまいと足掻くクロームがいた。

 ……何やってんだ、あいつ……。

「セシウ、あれはピンチなのか? それとも新しいアトラクションなのか?」

「ピンチに決まってんでしょ! 助けに行かなきゃ!」

 助けるって、どうやって?

 どう考えても無理だろ、これ。

「んじゃ、任せた」

「ホンット使えないなぁ!」

 などと言いながら、セシウは単独で蛇竜へと向かっていく。向かっていくのかよ。

 こいつの無謀さ半端ない。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 雄叫びを上げて、一気に蛇竜との距離を縮めたセシウはそのまま蛇竜の鈍色の胴体に飛びつく。

 おいおい、マジかよ。そっからどうするつもりだ。

 いろいろと考える間もなくセシウは蛇竜の頭部目指し、胴の上を走り出した。

 ……え、ちょ……マジ?

 確かにそこは地面とある程度平行だけど、蛇竜の首は空高くにある。

 つまり途中から勾配がきつくなり曲がりくねり、場所によってはほぼ垂直だ。どう考えても上れるわけが……。

「うおりゃあああああああああ!」

 上っていた。

 ほぼ真上に向いた状態で、セシウは壁同然の坂を勢い任せに上っていた。しかも勢いがなくなると今度は蛇腹を蹴って、昇り始めた。

 ありえない……。

 人間じゃねぇ、あいつ。

 身軽にもほどがあんだろ……。

 そのまま一瞬たりとも止まることなく蛇竜の身体を登り切り、大きく飛び上がったセシウは蛇竜の頭部に跳び蹴りをかましていた。

 うわあ……蛇竜が怯んだよ……。たかだか小娘のキック一つで……。

 ありえねぇ……ガチでありえねぇ……。

 宙へとクロームの身体が投げ出される。セシウは蛇竜の頭を蹴って跳躍し、クロームの身体を素早くキャッチ。そのまま最寄りの建物の屋根へと華麗に着地を――果たせるわけがなかった。

 セシウとクロームが着地した瞬間、天井は騒々しい音を立てて崩れ、俺の視界から二人の姿がふっと消失する。その後すぐに、屋内からやかましい音が聞こえてきた。

 こりゃ大丈夫か?

 呆然と二人が落ちていった家屋を眺める。

 生きてるか? いや、むしろセシウは頭をぶつけて賢くなったりしてくれないかな。ここで、二人が頭をぶつけて魂が入れ替わっても面白い。

 ……そこで俺は唇が綻ぶ。

 こんなことを考えられる余裕も出てきたか。

 いい傾向だと捉えよう。俺は誰もいないのに照れ隠しをするように眼鏡を押し上げようとして、眼鏡がないことに気付く。

 そういや……あの時に落としたんだっけ。回収は不可能か。

 気に入ってたのにな、あれ。そこそこいい眼鏡だったし……。

 もったいないことをした。

 そんなどうでもいいことを考えている間に、セシウとクロームが礼儀正しく正面玄関から出てくる。二人とも埃は被っているが目立った怪我は見当たらない。こいつら、どうしてこんなに頑丈なんだろう? 本当に炭素生物か? 珪素でできてたりして。

 まあ、何はともあれ無事でよかった。俺は二人の元へと駆け寄る。

「よう、大丈夫か?」

「大丈夫に見える?」

「全然大丈夫だろうよ」

「じゃあ聞くな」

 ……要するに大丈夫なんだな。セシウとこうやって軽口を叩き合っているのが、なんだかすごく久しぶりな気がして心が落ち着く。

 ほんのちょっと前まで普通に話せていたのにな。

「クロームも大丈夫か?」

「……誰だ、お前?」

 長時間戦闘を続けていたのだろう。僅かに息を乱し、額に浮いた汗を拭ったクロームは俺を見て眉を顰める。

「まさか、お前、頭強く打ったか?」

「……お前、誰だ?」

 なんで逆にした。

 いや、しかしクロームの顔は至って真面目だ。マジで記憶を失ったか? あんだけ派手に落下すりゃ、そりゃ記憶の一つや二つ飛びそうだが。

 なるほど、どうでもいい記憶から飛んだか。

「まあまあ、ちょっと待ってなさいって」

 言いながらセシウは俺の背後へと回り込む。

 なんだ?

 そうして俺の顔の前に手を回り込ませ、親指と人差し指の先を合わせ、輪っかを作ってみせる。ところで背中に胸が当たっている。

「これをですねぇ、こう……目に当てますと……」

 言いながらセシウは俺の目の周りを覆うように指で作った輪っかを顔にくっつける。

 瞬間、クロームの顔がはっとなる。きっと漫画とかだったら、頭の上で電球が光ったことだろう。

「……なんだ、ガンマか」

「おい、ちょっと待て。いや、待て。かなり待て。すごく待て」

 何がどうしてそうなった……!

「いや、眼鏡がないから全然気付かなかった」

 前髪を掻き上げて、さも当然のように言うけど俺は納得できない。セシウの手を払いのけて、俺はクロームへと歩み寄った。

「俺の個性が眼鏡であることはどうでもいいわ! この際! でもよ!? 指眼鏡で代用ができるってどういうこと!? 俺の個性ってそんなもん!?」

「やかましいな。黙って、物陰にでも潜んでいるがいい」

 言いながらクロームは剣を構えて、俺を後ろへと突き飛ばす。思いの外強い力に蹈鞴を踏んだ俺は、そのまま止まることもできず、無様に尻餅をついてしまう。

 うおうお、なんだなんだ……?

 そう思った瞬間にはクロームが突っ込んできた蛇竜の頭をいなしていた。顎の下に滑り込ませ剣と鱗が激しく擦れ合い、無数の火花が咲き誇る。なんて硬度の鱗だ。蛇竜の突撃を上方へと逸らすその腕力も半端ねぇけどさ……。

 あっという間もなく七〇〇メートル近い細長い体躯が俺達の上方を過ぎ去っていく。後を追いかけるように突き抜けた風が頬を叩き、服を、髪を、はためかせる。

 うお、目が渇く……。

 即座にクロームは身を翻し、過ぎ去った蛇竜を睥睨する。空へと舞い上がっていくその背に、剣を持っていない左手を翳す。瞳が淡く白い光を微かに放ち、引き絞られる。

「デュランダル……!」

 クロームの呼びかけに呼応するように右手に握られた剣が脈動する。

 ――ドクン、と確かに今鼓動した。

 剣であるはずだというのに。

「蘇れ」

 短く、クロームが呟く。

 途端に空を舞う蛇竜の周囲にいくつもの小さな閃光が瞬く。十、二十、三十、四十……百、いやそれ以上だ。閃光は周りの光を渦巻くように集め、より一層輝きを増していく。大気中のエーテルを集約させているのだが、いつもよりも光の量が多い。

 そうか……魔界と直結されている今、この空間のエーテルはかなり高濃度だ。それこそ無尽蔵と言ってもいい。

 皮肉なことに、《魔族(アクチノイド)》の放った最悪の魔術は勇者の力を増長させていた。

 無数の光はやがて形を定め、無数の剣へと変化する。

 虚空に生まれた、幾百もの剣の群衆。蛇竜を取り囲むように生じた剣の切っ先は全てが蛇竜へと向けられていた。

 形状も用途も材質も全く異なる凶器の群れ。しかしそれらには全て剣という共通点がある。

【旧い剣(アカシックブレイド)】――クロームを勇者たらしめる象徴とも言える力。魔術を越えたさらに高次元の力《魔法》の成せる業だ。

 この力こそが勇者の象徴。ヒュドラより与えられた、かつて唯一神アカシャと共に戦場をかけたと云われる聖剣デュランダルが持つ能力。

 過去、現在、未来――あらゆる剣をエーテルにより再現し、複製し、蘇らせる。例え幾星霜も昔、神話の時代にあった武器でさえ、それが《万物の記録(アカシックレコード)》に記録されている《剣》であるのならば、クロームはそれを今この時この瞬間に再現することができる。

「往け」

 短く、最もシンプルな命令に従い、剣は一斉に蛇竜へと殺到する。鱗に覆われた硬質の表皮を容易く貫き、遙か上空で血飛沫を上げる蛇竜。痛みから逃れるように身をくねらせ、溢れ出た血潮が撒き散らされる。

 それはまるで紅い雨。

 ぽたぽたといくつもの水滴が俺達の足下を濡らす。服に飛び散る。上空を見上げる俺の頬で飛沫が撥ねる。

 それでもまだ容赦なく、生み出された剣は蛇竜へと降り注ぐ。例え目標が暴れて位置がずれようとも素早く剣の切っ先の向きは修正され、蛇竜へと突き刺さる。何度も何度も鮮血が噴き上がる。

 そうして銀の時雨が止んだ後に残ったのは、最早剣に包まれて姿を見ることのできない何かだった。

 蛇竜の飛行は一種の魔術らしい。風の元素を扱う第三魔術――その術者が蛇竜自身である以上、絶命すれば魔術を維持する物は誰もいなくなる。

 結果、剣に冷たい抱擁を受けた蛇竜は浮力を失う堕ちてくる。

 真っ逆さまに。最早、上も下も分からないけれど、墜ちてくる。

 俺達から随分と離れた場所にその長大な体躯は墜落し、一際大きな轟音と砂埃が巻き上がる。空へと昇っていく塵埃に交じるように、分解された剣を構成していたエーテルが螺旋を描いて昇っていく。きらきらとしたその輝きを見つめ、俺はため息を吐き出す。

 蛇竜は魔界でも上位に位置する竜族に数えられる魔物だ。いくら竜族の最下層とはいえ、単体でも十分脅威になるとされている。そんなもんがこうもあっさり倒されるっていうのはなんか複雑な心境だ。

 こいつらといると、強さの尺度が全然分からなくなる。

 大きく深呼吸をしたクロームは剣を手の中で半回転させ、腰の鞘へと流れるような動作で仕舞う。きんという小気味のいい音は耳に心地のいいものである反面、なんだか戦いの終わりを示すには軽すぎる気がした。

「【旧い剣(アカシックブレイド)】――どこまで解放している」

「八小節」

 クロームが短く答える。

 半分か……。

 随分解放したな。普段は二小節止まりだっていうのに。

「負担は?」

「大丈夫だ。戦える」

 言って、クロームは踵を返し、歩き出す。尻尾のように揺れる纏められた後ろ髪を見つめ、俺は思考を巡らせる。

【旧い剣(アカシックブレイド)】はその力の代償というべきか、かなり高負荷な魔法だ。多用すれば、それだけで身体に無理を強いることになる。

 現状を考えれば、妥当な小節数だともいえるが、あまり無理をされても困る。

 なんせこの村のどこかには《魔族(アクチノイド)》がいるはず。そいつと対峙した時、一番頼れる戦力であるクロームが使い物にならないというのは頂けない。

 俺達の最高戦力は考えるまでもなくクロームだ。あまり無理をさせるわけにはいかない。

 俺はセシウに目を向ける。すぐ側にいたセシウは素早く俺の考えを汲み取り、小さく頷いた。

 ……前衛はセシウとクロームの二人。なら、クロームの負担を減らすにはセシウに多少の無理をしてもらう他ない。

 妹分だと言いながら、こういう辛いことを押しつける辺り、俺も相当酷い奴だな。

 それでも、生き残るためにはそれくらいの無理も必要なんだろう。外野同然の俺がそんなことを言うのも滑稽だけどな。

 俺とセシウは、クロームの全てを拒絶するような背中に何か言葉をかけることもできず、ただその後を付いていこうとして――突然クロームが立ち止まった。

 …………。

 振り返ることもせず、ただ黙したまま佇む。

「……どうした」

「何か、聞こえるな」

「は?」

 何も聞こえないだろ……。いや、騒音はある。火は燃え盛り、どこかで魔物達が奇声を上げている。だけど、それだけだ。

 だというのにクロームは視線を巡らし、建物が崩れてできた瓦礫に目を向ける。

「セシウ」

 静かな声だというのにそこには何か冷たいものがあり、名前を呼ばれたセシウはびくりと肩を撥ねさせた。

「え?」

「瓦礫を、掘り起こすぞ」

「え、あ……うん!」

 瓦礫の方へと駆けていくクロームと、それを追っていくセシウ。二人に少しばかり遅れて、俺もやむを得なく後を追った。

 どうせ非力な自分じゃできないことの多いんだろうが、それでも少しくらい手伝なわなければいられなかった。

 ここは何もせずにいると罪悪感ばかりが込み上げてきて辛いから……。

 

 

 

 瓦礫の撤去作業はセシウとクロームの馬鹿力コンビのお陰で滞りなく進んだ。俺も少しは手伝ったけど、ぶっちゃけ二人だけだった方が早いんじゃないだろうか。

 そうやっていくつもいくつも瓦礫を取り払っていった先で、俺達はまだ小さな細い手を見つけた。傷だらけの手だった。指も短く、幼さばかりを感じさせる、まるで人形のような手。でも、傷口から溢れる血が、人間のそれだと訴えていた。

 俺とセシウが息を呑む。対してクロームは冷静だった。

「セシウ! プラナを連れてこい!」

 珍しく張り上げた声でクロームが命令する。

「え……!? どこにいるの!?」

「探してこいっ!」

「あ、うん!」

 案外クローム自身冷静ではないのかもしれないな。助けようと思い、下した判断は的確だけど若干間違っている。全力疾走でプラナを探しに走り出したセシウの背中を見送り、俺はクロームの脇にしゃがみ込んで瓦礫の撤去作業を手伝い始める。

「プラナとはどこではぐれた?」

「町外れ、雑貨屋の近くで竜と交戦になった。その時に離れ離れになった」

 瓦礫を退ける手を止めずクロームは俺を見ることもなく答える。顎先から滴った汗が零れ落ちた。

「なるほどね、分かってんじゃねぇか。なんでそれをセシウに言わなかった? つぅかなんでセシウに命令した?」

 俺を残すよりセシウを残す方が作業はしやすい。なのになんで、セシウに命令したんだ?

 どんな理由があったにしろ賢明な判断とは言えないな。

 こいつも内心混乱してんのかね。

「……セシウやプラナが見るべきでないものがあるかもしれない」

「…………」

 また、自分が汚いものに思えてきた。

 クロームはわざと見当外れな指示を出したのか。プラナと離れた場所を伝えなかったのもそのためだろう。

 結局、二人が来るのを遅らせることで、なるべく二人に悲惨な現実を見せないようにしたんだ。もちろんここにいる子供が生きている可能性だってある。その時は最善を尽くしてクロームは助けようとするだろう。

 だけど、もし、死んでいたら?

 こいつはその悲惨な現実を受け止める覚悟をして、今必死に誰かを掘り起こそうとしている。

 ……俺ときたら、なんてバカなんだろう……。

 あいつらはどんなに強くても、俺なんかよりずっと繊細なんだ。その心を考慮することができていなかった。

 冷たい人間だよ、ホント。

「なあ――」

「作戦の際、私兵の邪魔が入った」

 俺の言葉を意識せずにクロームが遮る。

「……ああ、俺のとこもそうだった」

「お陰で作戦の進行が遅れた」

「あ、ああ……」

 なんだ? なんでこいつはそんな話をここで持ち出す?

 一際大きな瓦礫を両手で掴み、脇へと投げ出したクロームは小さく息を吐き出した。

「殺さずに……救うのは、難しいな」

 …………。

 クロームの失敗は殺さずになんとか私兵をやり過ごし、抗った結果なんだろう。こいつはきっと最後の最後まで剣を抜かず、連中を殺さない方法で抗ったはずだ。

 そんなのは考えるまでもない。その先での失敗だった。

 じゃあ、俺はどうなんだろう?

 無様に地面を転がって、大切な女一人まともに助けられなくて、結局は凶器に頼って人を殺した。それでもなお失敗した。

 情けない。あまりにも情けない。

 自分が惨めだった。

 本当、みんなから忘れられて、溶けるように消えていける方法ってないもんかね……。

 誰の記憶にも残らず、完全にその存在を消してしまいたい。

 そんな自分の格好悪さから目を逸らすように、俺は瓦礫を退ける作業に意識を集中させる。

 一つどける毎に子供の小さな身体が見えてくる。真っ白な可愛らしい服が見えた。袖にレースのあしらわれた衣装だ。

 そこでなんとなく女の子なんだな、と思う。そのまま瓦礫をいくつもいくつもどかしていくと、金色の綺麗な髪が見えた。長い髪だ。丁寧に梳られていて、ところどころで細い三つ編みにされている。

 その綺麗な髪さえ、今は砂埃を被って薄汚れていた。

 ……おいおい、まさか……。

 俺はその髪に見覚えがあった。他でもない。この村に来てまだ間もない頃に俺は見た覚えがある。

 気が逸る。

 そうであってほしくないと思いながらも、もう一人の俺はそうであることを確信している。

 ああ、そうだ。きっと間違いない。いや、そんなことはないはずだ……。

 そうやって最後の瓦礫をどけて、ようやく少女の顔を俺は視認した。

「クローム!」

 その時、背後から切羽詰まった少女の声が聞こえてきた。透き通った声音は間違いなくプラナの物で……。

 俺は両手に瓦礫を持ったまま、力なく振り返った。

 そこには肩で息をするセシウとプラナの姿があった。二人とも汗をびっしょりかいていて、荒々しい息からここまで全力疾走で戻ってきたことがよく分かった。

 今だけはセシウの勘の鋭さを呪いたくなった。

「クローム! 怪我人がいるんですね!」

 プラナの声も珍しく強いものだ。

 もしかしたら誰か一人でも救えるかもしれない。そんな思いからのことなんだろう。足早にやってきたプラナは俺とクロームを押し退けるようにして瓦礫から掘り起こされた少女の前にしゃがみ込んだ。まだ下半身にのしかかる瓦礫は撤去できていない。上半身だけが外気に晒されていた。

「酷い怪我ですね……今治してあげます! もう少しだけ頑張って!」

 ひゅーひゅーと少女が掠れた息をする度に胸が力なく上下する。きらきらと輝いていたはずの瞳にも今は光がなく、ただ虚空を見上げていた。

 クソ……ああ……クソッ。見間違えだったのなら、思い違いだったのなら、どれだけよかっただろうか。

 プラナの後ろから少女の容体を窺ったセシウの心配そうだった顔が一瞬で引き攣る。ひっと息を呑むのが聞こえた。

 そうか、プラナは気付けるわけがない。あの時、こいつは宿で留守番をしていたんだから。

 詠唱を終え、治癒術を発動させたプラナは緑色の光を放つ魔導陣を展開させた両手を少女に翳したまま振り返る。その顔にはセシウの反応に対する疑問があった。

「どう、しました?」

 口を両手で覆ったまま、セシウは答えない。答えられない。

「……そいつは……俺達に花環をくれた娘(コ)だ……」

「え……?」

 プラナの円らな目が見開かれる。

 ……ああ、そうだ。こいつは俺達に花環をくれたあの少女だ。間違いない。

 今となっては愛らしい屈託のない微笑も、純粋で眩しかった瞳もないけれど、でも、それでも、こいつはそうだった。

 ……どうして、この子なんだろう。

 どうしてよりにもよって、この子のこんな姿を見なければいけないんだろう……。

 これら全て俺達の罪であり、また罰である。

 この光景が、この空間に蔓延する死が、惨状が、死体が亡骸が屍が、全部俺達の犯した罪そのものだ……。

 少女の瞳が彷徨う。焦点が合っていない。もう意識も随分と朧気なんだろう。

「……ゆーしゃさま……?」

 弱々しい声で、耳を澄ませてやっと聞こえるような声で、少女がクロームを呼ぶ。近づきべきか迷うクロームに、プラナは静かに頷いた。

「手を……握っていて、ください」

「あ……ああ」

 クロームらしくない気弱な返事だった。どこかいつもより緩慢な足取りで歩み寄りしゃがみ込んだクロームは、そっとぼろぼろになってしまった小さな手を掴み、両手で優しく包み込むように握り締める。

「ここに、いる……」

「ゆーしゃ、さま……」

「……ああ」

 クロームはただ答える。いつもよりもずっと優しい声で、どこか頼りない表情で。

「ゆーしゃさま……たす、けて……」

「…………」

 クロームは答えない。唇を引き結び、ただじっと少女の虚ろな顔を見つめている。

 頷けるわけがない……。俺達は失敗した。村人を救おうとして失敗した。

 そんな奴らが今更助けるなんて言えるわけがなかった。

「すまない……」

「……どう、して……あやま、るの?」

「すまない……!」

「ゆーしゃさまは、みんな、を……たすけ、てくれるん、でしょ……?」

 ……あの日、魔物を倒して帰ってきた俺達を迎えてくれた村人達を思い出す。

 気さくに、それでも身に余るほどの感謝を俺達にくれた村人達。その笑顔が脳裡を過ぎる。

 今となっては、もうどこにもない笑顔だ。

「ねえ……ゆーしゃさま……おかあさん、いないの……。どこに、いる、かな……?」

「……分からない……」

「そ、かぁ……ゆーしゃさま……みつけたら……教えて、くだ、さい……いま、くらく、て……よくみえない、の……」

「……ああ」

 いつの間にかセシウが俺の側に来ていた。口を片手で覆い、もう片方の手は俺の服の裾をぎゅっと握り締めていた。目には涙をいっぱいに溜め込み、必死に嗚咽を堪えている。

 今日は、なんか……泣いてばかりだな……こいつ。

 俺は特に何も言わなかった。敢えて気付かないふりをした。

「本当に……すまない……」

「……どう、して……あやまる、の? ……ゆーしゃさまがきて……なんだ、か……いた、いのもなくなったよ……?」

 …………。

 俺は気付いていた。

 プラナが治癒魔術を止め、鎮痛作用の魔術を少女に施していることを。

 俺はそこからも目を逸らした。咎める権利なんてなかった。

 プラナは俺の傷を、あれだけの重症をできる限りの範囲で治してくれた。その上で魔物との交戦も繰り返していただろう。もう少女一人を治しきる力がプラナには残っていなかった。

 俺があんな傷を負わなければ、少しは違っていたのかもしれない。

 すまない……!

「ゆーしゃさま……おねが、いします……みんな、を……たす、けて……」

「…………」

 クロームはやはり、答えられない。頷くことができない。

 初めてだった。こんなに弱り切ったクロームを見たのは、相手を直視することのできない姿を見たのは。

 しかし、クロームはやがて少女の顔を真っ向から見つめた。小さなを握る手が強くなる。

「……ああ、必ず……助けてみせる……」

 静かに、クロームはそんな優しい夢を紡いだ。それは未来に広がる夢なんかじゃなくて、ありもしないその場しのぎの幻で、どんなに優しくても嘘でしかなくて。

 でもそれは少女にとっての現実だった。

 虚ろだった少女の顔に安らかな笑みが宿る。

「……ありがと、う……ござい、ます……ゆーしゃさま……わたし……なんか、ねむくなっちゃって……」

「今は眠ってくれ……。目が醒めたら、きっとお母さんも……みんなも、いる」

 再会の場所はどこだろうか。

 きっとここじゃないどこかなんだろう。

 そんなことクロームだって分かりきっていた。

 ただ、少女の最期を優しいものにするために、勇者は、誰よりも誠実で実直な男は、そんな嘘を吐き出した。

 俺はそれを偽善だと言うことができない。

 いや、他の誰にも絶対に言わせない。

 他にどうすることも、俺達にはできない。もしこの場所でこいつの行為が愚かだと馬鹿げているというのなら、俺はそいつを絶対に許せないだろう。

 もしこいつを貶せるのなら、今この瞬間俺達が取るべきである行動を教えてくれ。この少女を救済する方法を教えてくれ。

 怪我を治すこともできない。助けを呼ぶこともできない。助けることさえできない。

 せめて安らかな死を、眠るような死を望むことの何が悪い。

 人間なんだ。クロームもセシウもプラナも俺も――ただの人間なんだ。どいつもこいつも、人間なんだ。

 できるわけがねぇ。

 神様だって助けてくれやしねぇ。

「ゆーしゃさま……ありがと、う……あり……とう……」

 そうやって少女はゆっくりと目を閉じた。

 虚空を見ていた瞳を閉じ、安心しきった顔のまま眠るようにゆっくりと少女は――

 プラナの両手に灯っていた光が消える。それはつまり施術する意味がないということで、考えるまでもなく少女は息絶えたのだろう。

 プラナは、沈痛な顔で俺達に対して首を振るようなお決まりの動作さえすることがなかった。そんなことをする必要もない。みんなが分かっていた。

 だからだろう。セシウは俺に撓垂れかかるようにして、俺の腕にしがみついていた。腕に顔を押しつけ、肩を震わせていた。

 服越しに熱い息を感じる。濡れた感触に泣いていることは分かった。きっと鼻水も大量に付着してることだろう。

 お気に入りの服なんだけど文句は言うまい。

 俺はそっと、怯えるような手つきでセシウの頭に手を置いた。置いたと思う。すごく曖昧な触り方をしてしまった。それが俺にとっての限界。

 それ以上を行ってしまえば、何かもう戻れなくなる気がした。

 クロームはずっと少女の手を握っていた。そのままずっと動かなかった。まるで時が止まってしまったかのように、ただその場にしゃがみ込み少女の安らかな寝顔を見つめていた。

 セシウの嗚咽だけが俺に時の流れを伝える。

 村人が全員死んだ。

 そんな事実は分かりきっていた。もう随分と昔に理解していた気がする。

 だけど、こうやって、見覚えのある少女の哀れな死に様を目の当たりにしてしまうと、どこか自分の中で制限をかけていた理解という行為とは比べものにならないほど、何の誤魔化しも効かない事実が心を貫く。

 これが看板娘じゃなくてよかった、と思ってしまう自分がいた。あれほどまでに慣れ親しんだ娘が、こうやって死んでいく様を目の当たりにしたら、きっと俺はどこかがイカれてしまったと思う。

 今でさえこれほどまでに胸が痛む。

 膿んだ傷口をフォークで抉られるような痛みがずっと胸の奥底にある。

 できるなら叫びたかった。そこに何かの意味があるわけじゃないが、とりあえず叫び声を上げてしまいたかった。

 やりきれない感情には当然行き場もなくて、俺の中で感情の許容量はすでに限界へ達していた。

 逃げるわけでもなくただ事実を受け止め、すがりつくように泣いているセシウに視線を落とす。

 こいつみたいに泣ける純粋さが、ほしかった。

 どれだけそうしていたんだろう。

 クロームはしゃらしゃらと埃被った少女の前髪を指先で撫でて、ゆっくりと立ち上がった。

「行くぞ」

 たったそれだけの言葉を、クロームは紡ぐ。

 振り返ることもなく、俺達に背中を向けたまま、まるで自分に言い聞かせるように。

 立ち止まっている場合じゃないことは分かっている。例えどんなに苦しくても俺達は進み続けなければならない。

 何せクロームは勇者で、俺達はその仲間なのだ。

 この現実から、逃げることは決して赦されない。

 まるで罪科を清算するために働き続ける咎人のようんだ。

「行くって、どこに?」

「決まっている。ベラクレートの屋敷だ」

 ……まあ、そうなるわな。

 むしろ、それ以外に行くべきところはない。

 この惨劇にベラクレート卿は必ず絡んでいる。問題はあいつが《魔族(アクチノイド)》と協力関係にあるのか、それとも利用されているだけなのか、という点だ。

 協力関係にあるのなら上手く立ち回って《魔族(アクチノイド)》の居場所を聞き出せるかもしれない。しかし、騙されていた場合、有力な情報は聞き出せないだろう。

 お抱えの魔術師にも引っかかる点がいくつかある。上手いこと、事態が動いてくれるといいが……。

 どちらにせよ行くしかないんだろうな、俺達は。

 それ以外にするべきことがない。

 そうする他に、勇者一行らしく振る舞う手立てもなかった。

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