IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・
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「おい」

 

 ISのオープンチャンネルに、ラウラの音声が流れ込む。

 その対象は、一夏。

 

「……なんだよ」

 

 いつもは人の良い一夏が不機嫌そうにするのも仕方が無い。

 なにせ、一夏は意味もわからずぶたれてるからな。

 それでもお人好しはお人好しだ。俺が一夏だったら、ラウラからの通信は無視してる。

 一夏が返事をすると、ラウラは飛翔して少し近づいてくる。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

 事情を知らない奴が聞いたら、『なんだこいつ、バトル・ジャンキーか?』と思われる発言だ。

 ((素直|ストレート))なのはいいことだとは思うが、素直の方向がなぁ……。

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様には無くても私にはある」

 

 ――ラウラの戦う理由。それは、一夏を排除すること。

 何年か前の、第二回モンド・グロッソ。当時日本代表だった織斑先生は、決勝で不戦敗となって第一回の優勝に続く二連覇を逃してしまった。

 原因が一夏。一夏はモンド・グロッソ決勝戦当日、謎の組織――((亡国機業|ファントム・タスク))――に誘拐された。誘拐の目的は不明。

 その誘拐事件のときに、織斑先生に情報提供をしたのがドイツ軍。俺からすれば、なぜそんなに都合よく情報を手に入れていたのかが謎だが。

 ……まあ、それはともかく。そのときの『借り』で、織斑先生は一年間ドイツのIS部隊で教官をすることになる。

 そしてラウラはそのときに織斑先生と出会った。そしてその強さに惚れ込む。だからこそ、ラウラは織斑先生に惚れ込んだからこそ、一夏を憎む。

 織斑先生の経歴に傷をつけた一夏を。

 簡単に言えば、盲目的な織斑千冬信者ってところだな。

 

 

 ―――この件について、原作知識を統合して考えるとこうなる。

 

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成し遂げただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

 

 存在を認めない。とか、極論もいいところじゃねぇか?

 確かに一夏が居なければ大会二連覇はできただろうさ。けど、もう過ぎたことをいまさらになって持ち出して何になる? ただ良くない事を招くだけだ。

 余計話がこじれるだけだから口には出さないが、それが俺の意見。

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 直後にラウラはISを戦闘状態にシフトさせた。

 そして、その肩の大型レールカノンを一夏に向ける。

 

 

 ――ティエリア、デュナメスを。

 

 ――了解。マイスターズ展開、モード選択GN−002『ガンダムデュナメス』。

 

 

 

 

 ゴガギンッ!

 

 シャルルが、レールカノンの弾丸を一夏とラウラの間に入って左手のシールドで防御。それと同時に、右手にはすでに撃てる状態になっている六一口径アサルトカノン《ガルム》をラウラに向けた。

 

 バシュゥン!

 

「シャルル、俺も手伝うぜ」

 

 ガンカメラを収納しながら言う。

 俺は今、ラウラ向けてGNスナイパーライフルを片膝立ちで構えている。

 今は当てないように、それでもラウラのぎりぎり撃った。読み通り、ラウラは後ろに飛びのいてこちらを向く。

 

「貴様ら……」

 

「突然撃った奴に、反論の余地は無いはずだけど? ……次は当てる」

 

 再度ガンカメラを展開、今度は当てる照準でラウラに狙いを定める。

 

 それにしてもシャルルはすごいな。

 今さっきの武装展開、瞬きの間に――とでも言うのか。それほどの早さで《ガルム》を展開、照準していた。

 

 

 前回の『ラファール・リヴァイヴ・カスタムU』についての補足をしよう。

 あの機体は基本装備《プリセット》をいくつか外して、その代わり拡張領域《バススロット》が倍になっている。

 ただ武装が多くてもそれは有利とは言わないし言えない。どれだけ大量の武装を持っていたとしても、同時に運用することはできないから。

 でもその欠点をシャルルの特技『ラピッド・スイッチ』は克服する。

 先ほどの速度での武装展開。それは、大量の武装であってもむしろ自分を優位に立たせる。

 多数の武装による距離を選ばない戦い。シャルルはそれができたはずだ。名称は忘れたが、近づかれれば距離をとっての射撃、離れられれば距離を詰めての近接戦。という戦法が。

 

 

 俺は誰のために解説しているのか知らないが、その間もラウラとシャルル&俺の間での緊張感は高まっている。

 手も装甲に包まれているから汗で滑るということは無いが、俺はスナイパーライフルのグリップを握りなおし、再度照準を合わせた。

 

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 キィーンというスピーカーの音とともに、教師の声がアリーナに響く。騒ぎを聞きつけた担当教師だ。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 あっさりと戦闘態勢を解除したラウラは、身を翻してアリーナの出口へと歩いていく。

 俺はラウラの背中に向けて『戦ってたら負けたのはお前だ』と言おうと思ったが飲み込んで、デュナメスを解除した。

 

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あ、ああ。助かったよ。拓神も」

 

「気にすんな。俺は(今の)アイツが気に入らないだけだ」

 

()は心の中だけに留めておく。明らかに不自然だからな。

 

「拓神ありがとね。援護してくれて」

 

「だから、気にしなくていいっての」

 

「それでも、ありがとう」

 

 ……面と向かってありがとうって言われるのは結構気恥ずかしいな、これは。

 

「気持ちは受け取っとくよ。さて、そろそろあがるか」

 

「あ、もう時間だね」

 

「おう、そうだな。あ、シャルル、銃サンキュな。いろいろと参考になった」

 

 本当に参考になったかどうか心配ではあるな。

 

「俺は先に帰るぞ? いいか?」

 

「うん、大丈夫。じゃあね」

 

「おう、またな」

 

「ああ」

 

 確か一夏がこの後BでLな人まがいな感じになったはず。いや、別にどうでもいいけど。シャルルには一夏がごめんって謝りたいけどさ。

 ……そんなことを考えながら、俺はアリーナを後にした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 部屋に戻ると……まぁアイツが居るのは確定しているわけで。

 なんせ同居状態だし。

 

 ガチャ

 

「お帰りなさい、あ・な・た♪」

 

 ほら、ドアを開けて二秒以内で楯無。

 

「ていうか何でメイド服?」

 

 そう、今日の楯無はどこから調達してきたのかメイド服を着てる。

 似合ってるけどさ。

 

「え? 会長はメイド――」

 

「ストップ! いろんな意味で駄目!」

 

「ええー、いいじゃん」

 

 危ねぇよ……いろんな意味で。

 

「で、どうするの?」

 

「なにが?」

 

「だから……ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

 

「全部無しで。疲れたから」

 

 即答。

 さっきのとかで精神的にも疲れた。ちなみに食欲は単に無いだけだ。

 

「ちぇ、つまんないの」

 

 ちょっ、このメイド(笑)舌打ちしたんですけど!?

 

「寝てるから、なにかあったら起こしてくれ」

 

「ん、わかったわ」

 

 俺はどさっとベッドに寝転ぶ。

 

 ん? 俺は何か忘れてるような気がするんだけど……なんだっけ?

 たしか結構重要なイベントのはずだった気がするんだが。

 

 ――と、知識を掘り起こすより先に睡魔襲われ、俺は疑問を抱えたまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 暗い、暗い闇の中にそれ……否、彼女は居た。

 

「………」

 

 いつからこうなのかはもう覚えていない。ただ、生まれたときにはもう闇の暗さを知っていた。人は生まれて初めて光を見るというが、彼女は違う。闇の中で育まれ、影の中で生まれた。そしてそれはいまも変わりない。

 光の無い部屋で影を抱いて闇に潜み、その赤い右目は鈍く光を放っている。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 それが自分の名前だとは知っているが、同時にそれが何の意味を持たないことも理解している。

 けれど唯一の例外である教官に――織斑千冬に呼ばれるときだけは、その響きが特別に意味を持っている気がして、そのたびにわずかな心の高揚を感じていた。

 

(あの人の存在が……その強さが、私の目標であり、存在理由…)

 

 それは一条の光のようであった。

 出会ったときに一目でその強さに震えた。恐怖と感動と、歓喜に。心が揺れた。体が熱くなった。そして願った。

 

 ああ、こうなりたい―――と。

 これに、私はなりたいと。

 

 空っぽだった場所が急激に埋まり、そしてそれが全てとなった。

 自らの師であり、絶対的な力であり、理想の姿。

 唯一自らを重ねて合わせてみたいと感じた存在。

 ならばそれが完全な状態でないことを許せはしない。

 

(織斑一夏――。教官に汚点を残させた張本人……)

 

 あの男の存在を認めはしない。

 

(どんな手を使ってでも……)

 

 確実に排除する。

 不確定要素は邪魔だ。

 

(玖蘭拓神……)

 

 そこらの代表候補程度であれば、訓練機であっても専用機と対等以上に戦えるIS学園教師。

 あの山田真耶という教師は元日本代表候補だと聞いた。

 それをほぼ無傷で撃破した本人。

 "それ"は不確定要素だ。織斑一夏を排除する上での。

 

(ならば、排除する。目的のために)

 

 暗い闘志をその心に宿したラウラは静かにまぶたを閉じる。闇と一体になりながら、少女は夢の無い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

 月曜の朝、一夏とシャルルと三人で教室に向かっていた俺は、廊下まで聞こえる声の元を自分たちのクラスだと特定した。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

「いつものことだろ」

 

 それがちょっとうるさいだけだ。と付け足す。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝すれば織斑君と交際でき―――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

 一夏がクラスに入って声をかけたら、返ってきたのは悲鳴だった。

 まあ、アレだろうな。楯無の流した噂話。

 

説明
第29話『ドイツの黒兎』
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