その人は何処へいった? 9.ある副担任の困惑
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スザク・神薙・フォン・フェルナンド

 

新学期より麻帆良学園女子中等部3−Aの副担任に正式に就任。

年は17歳。ネギ・スプリングフィールドと同じくウェールズ出身。国籍は日本。

「フォン」の称号が付いているが、フェルナンドの姓が準貴族に列せられた記録は確認できず。

容姿は銀髪、((金銀妖瞳|ヘテロクロミア))。

先天的な虹彩異色症、色素欠乏症を発症している。これによる視覚障害、皮膚疾患はなし。

最終学歴不明。教員免許は未取得。

担当教科はなく、ネギ・スプリングフィールドの身辺補佐がメイン。

現在、女子寮管理人室に滞在中・・・と。」

 

 

「突っ込み所が多すぎて逆に突っ込め無ぇよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「ある副担任の困惑」

 

 

 

なぜいきなり千雨さんの副担任であるフェルナンド先生の個人情報を調べたのか。

発端はまた千雨さんの趣味にある。

 

今日は日曜日であるため、千雨さんは学園都市の外に買い物に行った。

私はバイトがあったのでついて行かなかったが、外のご贔屓の店に新作コスプレ用の生地を買いに行ったそうだ。いつもはネットとかだが特別に譲ってもらった物らしく、お礼も兼ねて直接取りに行ったそうだ。

目当ての物が手に入り上機嫌で麻帆良に帰ってきたが、麻帆良の駅前で人に盛大にぶつかってしまったそうだ。

 

 

・・・ここまで来るとぶつかった相手は検討も付きそうだが、そう我等が副担任フェルナンド様である。

 

辺りに散らばった荷物を拾い集め早く立ち去ろうとしたが、やけに馴れ馴れしいフェルナンド先生(本人はスザクと呼んで良いと言われたらしい)が執拗に一緒に帰ろうと誘ってきたので、断るのも面倒になって来て了承したそうだ。

適当に話を合わせつつ、やっと寮が見えて来た所で我等が((副担任|フェルナンド))は爆弾を落とした。

 

 

 

―――そういえばさっきの奴、ホームページ更新のコスプレ用の生地?

 

 

 

後はもう分かるだろうが、顔を青くした千雨さんはその場を脱兎の如く逃げ出して、すぐに我が家に駆け込み彼の口封じのための殺害依頼をしてきた。

私にフェルナンド先生を海に沈めるつもりが無いと分かると、今度は持ち前の情報処理技術でもってスザク・神薙・フォン・フェルナンドの個人情報をそれはクレジット履歴からレンタルビデオ屋の会員番号までつぶさに((調べ上げた|ハッキングした))。

 

おそらく握られた弱みに匹敵するような相手の弱みを握ってやろうという魂胆なんだろうが。

 

この娘のこういう行動力やスキルは流石麻帆良だなぁと感心するのだが、それを言うと彼女の目が空ろになって暫らく帰ってこないので本人には言わない。

 

彼女が鬼気迫る感じでキーボードを叩いている間、確認のためにこの間茶飲み友達になったネギにメールを送った。しばらくして返信が返ってきた。

フェルナンド先生にホームページの話はした事は無い様だ。

彼も今厄介事に巻き混まれているらしく、それが片付けばお茶でも飲もうと約束をする。

 

 

そうして千雨さんが情報処理技術を裏表関係なく、フルに活用して調べたのが先程の個人情報だという訳だ。

 

そう、これだけ。

 

 

たったこれだけなのだ。

 

 

少なすぎる。

本人の戸籍はあったが、見る人が見れば明らかに偽造。

あんなに目立つ容貌なのに、六年前以前の足取りはぱったりと掴めない。

 

 

「ネギ君の補佐や管理人をしているんです。

こっち側の人間だとは思っていましたが、ここまで見事に痕跡を残さないとは。

その道のプロでしょうか?それにしては・・・妙ですね。」

 

 

私の独り言に千雨さんが反応した。

 

 

「確かに妙だな。

ここまで綺麗に自分の痕跡を消せる奴が、六年前から急にそれを辞めちまった。

しかも作られた戸籍もお粗末なもんだ。何か裏でもあんのかと疑っちまう。

 

まるでライトノベルかなんかの((設定|・・))読んでる気分だぜ。」

 

「・・・」

 

 

スザク・神薙・フォン・フェルナンドの足跡は六年前から始まる。

 

―――まるで突然この世界に現れたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どうも上手くいかない。こんなはずじゃないのに。

 

スザク・神薙・フォン・フェルナンドは困惑していた。いや苛立っていたといってもいい。

 

 

彼は所謂転生者、トリッパーと言ってもいい存在である。

 

日々を鬱屈して生きていた彼は自称・神様とかいう幼女の「ごめーん、ヤッチャッタ。てへ☆」という手違いであっけなくその生を終えた。

お詫びにどこでも好きな世界に、好きな能力を与えて行かせてあげると言われ是が非も無く了承した。

 

 

その時の彼の脳裏には彼が良く巡回していたネットのSS投稿掲示板での、魅力的なヒロイン達に囲まれたオリジナル主人公の華やかで心躍る活躍が浮かんでいた。

 

 

 

―――俺もあんな風に

 

 

 

早速彼は魅力的なヒロイン達が多い、魔法先生ネギま!の世界へ行くことを希望した。魔法世界の帝国と連合との戦争は良く覚えていなかったのでネギの村が襲われる夜を指定した。

 

彼は以前自身が考えていたSSの主人公の容姿を望み、望めばいつでも死ねる不老不死の膨大な魔力を持つ吸血鬼してもらった。もちろん弱点などすべて無効で。さすがに完全無欠だと面白くないからとトマトが嫌いという弱点をつけた。

 

次に能力はまず直死の魔眼に、絶対尊守のギアス、エミヤシロウの固有結界にインテリジェンスデバイスのバルディッシュ、さらには境界を操る程度の能力とネテロ会長の感謝の正拳突きと念能力、ギルガメッシュの黄金率とゲート・オブ・バビロンを貰った。

 

貰うものを貰って気が大きくなったのか、いざ出発という段になっててめぇ幼女覚えてろという捨て台詞を吐いて彼はその世界に堕ちて行った。

 

 

降り立った場所は指定されたネギが住んでいるウェールズの山村のはずれ。

そして今まさに悪魔の襲撃を受けているところだった。

 

意気揚々とこれから俺が奴らを救ってやるぜと村に向かおうとしたが、ここまで聞こえてくると人々の悲鳴と悪魔の人を不快にさせる悪意ある嘲笑に気分が悪くなり、後で助ければよいかとナギが来るまでここで待っていることにした。

 

しばらくして村から山に向かって光の奔流が迸り、事態が終息しつつあるのを知った。

気分も良くなり、これからの思案を巡らせていると、向こうから人影が見えた。

 

スザクはすぐにそこに向かい助けに来たと言った。偶然通りがかり助けに来たが間に合わなかったと。

初めは警戒していたナギもネカネの石化を|破戒すべき全ての苻(ルールブレイカー)で解除すると、取り合えず敵ではないと分かったのだろう。警戒を解き時間が惜しいとネギと話しを始めた。

 

 

 

 

それからは別に語ることは無い。

ナギは去り、ネギは杖を託された。

 

 

 

 

村の異常を察した救援隊がやって来る前にスザクは直死の魔眼で村人全員の石化を殺して周り、助けた村人にこの事を他言無用とした。

原作や他のSSを読む限りメガロメセンブリア元老院と関わりを持ちたくなかったからである。

村人達も恩人がそう言うならとこの事は自分の胸にしまい込んだ。

 

余談ではあるが悪魔を送り込んだ犯人(メガロメセンブリア)は石化した者が一人も居ないことに疑問を持ち、突然村に現れたスザクに当然疑いを持つのだが幸か不幸かそれを彼は知らなかった。

 

戸籍や衣食住がないというスザクに村人達はそれらを彼に与え、彼もそれを当然のように受け取った。

ネギやネカネが魔法学校のある街に移り住む事になった時、彼はそれについて行くと言い張った。

村人達は当然それに困惑したが、何か考えがあるのだろうそれを認めた。

 

 

別に彼に深い考えが有った訳ではない。

ただネギが麻帆良学園に行くのに置いて行かれてはたまらないと考えていただけだ。

 

 

彼にとって今の時期、この場所は原作開始までの準備期間だ。

SSにするとプロローグ以前の話だ。さっさと飛ばしても問題が無い。

原作に絵も載らない様なモブな脇役達とこの自分が仲良くするなんて欠片も思っていなかった。

 

当然そのような考えは彼の態度にそれとなく表れ、ネギやネカネなどのような余り人を疑う様な事を知らない人々以外には敬遠されていた。

 

 

 

 

 

 

彼の最大の不幸は、ここはフィクション/マンガの世界であるという認識を崩さなかった事だろう。

 

 

 

 

 

ある図書館の司書は言っていた。

これは本という形態を取っているが、そこは生きた人々が存在する一つの世界である。

 

 

ここを原作(フィクション)だと考え、そこに住む人々が血の通った喜怒哀楽のある人間だと彼は解ったつもりでいて、本当の意味で理解していなかった。

 

 

 

 

もし彼が何事も上手くいかないと感じているならば、そこが一番の原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう新学年だってのに、全然考えていたのと違う・・・ッ!」

 

 

あのネギに付いて来て麻帆良学園に来ることが出来たのは良い。

今まで助けてやった恩や、俺の実力を見せ付けて3-Aの副担任に就任できたのも当然だ。

ちょっと汚いが学園長にギアスを掛けて女子寮の管理人になれたのも大体計画通りだ。

 

ここまで来ればモデルも逃げ出すような絶世の美貌を持つ俺だ。

3-A生徒の二、三人すぐに俺に惚れるだろう。そうすれば可愛いヒロインに囲まれた楽しい教師生活が待っているに違いないと思っていた。確信していた。

 

 

なのに現実はどうだ。

 

未だに告白イベントは起きず、今の千雨においては逃げ出す始末。

千雨は最も好きなヒロインの一人であるため、絶対確保しておきたかったのだ。

この間のHPばれイベントでは毅然とした態度でネギを批判し、千雨の好感度を稼いだはずだ。

さっきも帰りの道中もフラグを立てようとずっと千雨に向かって銀髪オッドアイの美貌をもって微笑みかけ続けても、顔を赤らめる所か興味も無さそうな感じだった。

 

 

 

好きなヒロインの一人であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルにもフラグを立てようと『桜通りの吸血鬼』イベントにも介入しようとした。

 

介入の切っ掛けとして絡繰茶々丸襲撃を直前で阻止しようとし、ネギと明日菜の後を尾行してみたが、カモミールから襲撃案が出されても何故かネギはそれを断固として良しとせずイベントは発生しなかった。

 

 

本屋店員がアドバイスした事をネギが実践し、ネギの中で明確な教師像が出来ていた事が襲撃案を認めなかった要因となったのだが、そんな事は彼は知らない。

ただ原作と違う事態に混乱するだけだった。

 

 

―――ちなみにネギに経験談を求められた新田先生や高畑先生などは、ネギの教師としての成長に喜びその夜飲み明かした。

 

 

 

 

業を煮やし、今度はエヴァンジェリンに直接交渉に赴いた。

交渉カードは「ナギ・スプリングフィールドの生存」、「学園都市結界のからくり」、「登校地獄の解呪」。

 

しかし、流石600年を生きる老獪な吸血鬼か。

交渉などおこがましいとばかりに気が付けば情報を全部巻き上げられた挙句、

 

 

「登校地獄を解呪してやってもいい。」

 

「貴様!この闇の福音に情けを掛けるつもりか!!」

 

 

愚弄するなとログハウスから叩き出され、

 

 

「貴様、大停電の夜覚えていろよ。貴様を屈服させてから手段を聞き出してやるからな。」

 

 

いらないフラグまで立ってしまった。

 

 

「なにか上手くいかない原因があるはずだ・・・。そうじゃなければおかしい。」

 

 

 

何がおかしい?

 

 

時期か?

 

 

必須イベントが足りないのか?

 

 

それともまさか他にも転生者がいるのか?

 

 

存在しない答えを求め、彼は考え続ける。

 

 

「・・・そうさ。

それさえ解決してしまえば彼女達も俺に振り向く。

これは分岐イベントなんだ。

 

 

 

なんてったって俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
※本作は小説投稿サイト『ハーメルン』様でも投稿しています。
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