ro 広い世界で ep2旅立ちの日に
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伊豆の夜も、また早い。仕事を終えた人々が、波の音を肴に一杯やり始めるのが夕日が落ちきる前だったりする。

首都であるプロンテラの衛星都市として機能しているこの街は昼夜問わず賑やかで、街の中央にあるテントではだいたい、なんらかの催し物が行われていたりした。

そんな賑やかな街でも、基本的には一本道を外れれば静かな物で、そんな商売には向いていないような場所に、僕の住むボロアパートは立っていた。

夜は一階の食堂でお酒も出せるようになっており、一人静かに飲みたい人にとっては重宝されているようだった。

二階から降りてくる僕に手を振る子が一人。あの日以来、変な経緯でPTを組むようになった女の子だ。

彼女は僕を手招きすると、椅子に座らせた。

「ここに来るの二回目だけど、夜はこうなってるんだねぇ」

アップルジュースのストローを加えながら、もにもにと喋る彼女。

行儀が悪いといえばそれまでだが、落ち着いた外見とは裏腹に幼さの残る性格に、その行為が似合っていて、僕はなんとなく納得してしまう。

「ここのおばちゃん、働き者だからね。いつ来ても居るような気がするし」

へー、と、おばちゃんの方を見る。カンテラの明かりで部屋の中はかなり明るいのに、おばちゃんの周りだけ暗くみえるのは気のせいだろうか。

「でもねぇ、あれくらいの妙齢の方をおばちゃんって言うのも、さすがにどうかと思うなぁ」

「そうなの?」

「当たり前じゃない。化粧してないから分かりにくいけど、まだ30代よ、きっと」

あの……おばちゃんが30代?信じられないような話である。が、これ以上この話題について言及するのは危険な気がした。

主に、目の前の女性から放たれる殺気によってな訳ですが。

「そ、そうなんだ。女の子には分かるもんなんだねぇ」

「たまには男の子にも分かってもらいたいんだけどねぇ」

そんな事を即答してきた。別になげ掛けた訳でもないのだが、返しがストレートすぎて痛い。

と、ここである疑問が浮かんだ。

「そういえば、姉さんっていくつなのさ」

「女性に年齢を聞くのはタブーだって、知らないのかしらね、この子は」

まぁ、世間一般ではそういうのもあるんだろうけど。

「それくらい知ってるよ。知ってる上で気になるから聞いてるの」

と、珍しく粘ってみる。ユリカは結構姉御肌だったりするので、頼られたり聞かれたりすると、つい答えてしまう癖があるようだ。

今回も、仕方ないなぁ、とジュースを飲み干しながら呟いた。

「23だよ。ラスティより5個上」

「へぇ」

と、言うしかない。勿論、それくらいだろうと思っていた年齢とほぼ合っていたからだ。

そんな僕の反応に納得が行かないのか、ちょっとムっとしたような表情をするユリカ。

「どうせ実年齢よりも幼いですよーだ」

そういう仕草が幼く見せている原因なんだろうが、彼女はそれに気づいてないようだ。

最も、性根が真面目な分、そんな幼い印象さえ吹き飛ばしてしまう程の実直さがある事をこの数日で何回か見ている為、僕の中での印象は、実年齢を聞いた所で変わらないでいた。

「そういうラスティは18歳には見えないね、なんていうかこう、擦り切れたボロ雑巾みたいな?」

笑いながらそんな事を言ってくる。

「まぁ、色々あったからねぇ。家を出てからモンクに成るまで、随分必死だったから」

「あっ……」

息を呑む彼女。あまり触れてはいけない話題に触れてしまった自分の迂闊さを悔いているようだった。。

そんな、大した話でもないんだけれど。

「姉さんが気にする事じゃないよ」

でも、実際問題として、僕はまだ、何の進展すらできていなかった。実姉の行方を探すべく彷徨ったあげく、諦めかけて日々をただ過ごすようになった。

今までの月日なんて、本当に、ただこれだけの話で終わってしまう程何も無く、簡素だった。

「結局、僕は何も得られていないんだ。相変わらず、行方は分からず仕舞いだしね」

この世界は広いようで狭い。プロンテラを中心とした各都市部、秘境や海の向こうの島もあるが、そういった所には国が率先してカプラや飛行艇、船などの移動手段を儲け人の行き来がしやすいようにしていた。

だから、今となっては行けない土地などそんなにはなかった。まして、人が長時間滞在するような所だったら、尚更だ。

おばちゃんが、頼んでおいたコーヒーを持ってくる。

それを置くと、隣に手紙まで置いた。

「おばちゃん、これ、僕宛?」

目線だけ軽く上下させて頷く。

「誰からだろうね」

「うん、僕がここに住んでいる事を知っている人なんてそう居ないし、余程用事があったんだろうね」

封を破り、中を開けてみる。そこには、一枚の便箋が入っていた。

そして、そこには。

 

僕は席を立つと、ユリカに断って店を出た。

伊豆の海風が冷たく、強く頬を打つ。先ほどまで静かだった海が、こんなにもざわめいている。

これは、何かの兆候なのかもしれない。まして、手紙の主が彼ならば。

僕は久々に冷徹な感覚を思い出し、自分の素直さと非情さに鼓舞されつつ、足をプロンテラ元剣士ギルド前演習場へと向けた。

「プロンテラ騎士団北方支部団長シリウス=ブライトが、僕を………呼んでる」

 

 

 

 

僕には姉が居て、姉には思い人がいた。その頃の僕にはそれがどういった感情であったのか知る由もなかったが、姉はその人の事を慕い、神に仕える身ながらも心の底から慈しんでいたように見えた。

彼の名は、シリウス。プロンテラ騎士団所属の騎士だ。彼には多くの友人と、多くの部下、そして守るべき市民があり、その責任感の重さと技量から、次期支部団長候補とも言われていた。

名声、実力、共にそろった騎士の鏡のような男であり、誰もが彼の姿に憧れた。

きっと、勇者の称号を冠するなら彼ほどそれに相応しい人は居ないんじゃないか、そう思っていた。

小さい頃から彼に憧れて剣の練習を毎日していた、あの時の自分。将来は騎士になり、彼と肩を並べて共に戦うのだと息巻いていた幼稚な自分。

だから、姉さんと一緒に居る姿を見ても、ちっとも嫌じゃなかったし、寧ろ誇らしかった。

 

だけど、あの日。姉さんが失踪した日。

彼は、雨に晒されて、ボロボロになったままの姿で僕にこう告げたんだ。

「あの子はもう…………いないんだ」

と。

まるで、全てを知っていて、それで結果だけ告げにきたような。そんな、諦めとも悟りともつかないような言葉、僕は欲しくなかった。

だから僕は彼を責めた。どうして、何故、きっと彼は全てを知っているであろうに、何も喋ってはくれない。

強まる雨脚。そんな中で、一言、彼はこう言った。

その凛とした、騎士としての誇りを込めたような言葉だけは、今でも耳に残っている。

「彼女は……生きている。生きているんだ」

僕はその言葉を聞くと、その場に崩れ落ちた。涙が溢れすぎて、辛かった。

何よりも、彼ならなんとかしてくれると期待していた自分に落胆したのかもしれない。

だから、次の朝、僕は騎士ではなくモンクとしての道を選び、自らの手で探し出そうと決心したのだった。

 

 

 

懐かしい風景だった。街の南南東にある元剣士ギルド前は、僕が剣に励んでいた頃と変化はなく、相変わらず案山子が何体も立ち並んでいた。

そして、その案山子に寄りか方、一人の男の影が真っ直ぐ、こちらに伸びている。

「元気だったか?ラスティ」

記憶の中にあるシリウスよりも一段深みのある声。あれから7年も立てば、お互い変わるもの。

30代半ば独特の、抑揚がないのに常に一定の緊張感を保ったかのような声で挨拶をしてくる。

僕は一歩近づくと、できるだけ冷静に答えられるように、トーンを抑えて答えた。

「僕は元気です。支部団長様もお変わりなく」

「やめてくれ、他人行儀な喋り方は。私が君を呼び出したのは、なにも挨拶する為ではないのだから」

姉が失踪してからすぐに彼は北方支部団長に任命され、プロンテラより北部の治安を取り仕切る為奔走する事になる。

そしてそれが、事実上、姉の捜索を諦めてしまう事になるのも知っていた。

「今更、僕になんの用ですか?」

彼は身を起こすと、こちらに向かって歩いてくる。

「今更、か」

丁度10メートル手前で止まる。

「今更、じゃない。俺がこの街を発つ、今じゃなくてはならないんだ」

 

その言葉が聞こえるか否かの寸前で、僕は無意識に何かを感じ取り篭手を装備した腕で頭を守るように振り上げる。

刹那、金属の響き渡る音が演習場にこだまする。

明らかに、殺意の篭った一撃。篭手の優秀さと、インパクトの瞬間に力を流して居なければ腕ごと切り取られていたに違いない。

僕はそのまま相手の背後に回るように体をかわすと、そのままバックステップで距離をとる。

その距離でさえ、あの踏み込みの前には意味を成さないだろうが、今の気力ではモンクのこちらには分が悪すぎる。

「なんとなく、こうなる事は分かっていましたよ」

「そうか」

自分の中で気を練りつつ、相手の姿を捉える。相手の獲物は、一般的な片手剣とされるツルギ。曲線の美しい、鞘走りからの瞬撃を得意とする武器だ。

だが、威力は両手剣には及ばない。小回りの利く武器なので接近時の対応は気をつけなければならないが。

手数の多さならこちらが上だ!

僕は意を決すると、自身に満ちる気を一気に開放させる。体外に放出された気は目に見える程の波動となり、それが空気中で破裂する。

その隙を見逃さなかったのか、あえて釣られてくれたのか、シリウスは一直線にこちらへ飛び込んでくる。

尋常ではない踏み込み速度。再度開いた10メートルの間合いを一瞬にして詰め寄り、鞘走りを利用した下段からの逆袈裟切りを放とうとする。

冷静にそのモーションを確認すると、シリウスの後ろのタイルを見つめる。

「残影」

意識が飛ぶような錯覚を一瞬味わう。超高速の見避しで相手の背後をもう一度取る。そのまま左拳の三連撃を見舞う。

が。

「騎士相手にその程度のダメージでは、倒す事はできない」

確実に急所を突ききったはずなのに、シリウスは平然としている。防御力が高いだけでなく、予め苦痛耐性を掛けていたのだ。

そのまま肩で体当たりされ、僕は吹き飛ぶ。後方の案山子にぶつかると、そのまま動けなくなった。

「耐久力の無さ、差し詰め、力と知力、素早さに偏らせた一人で狩る為の力か。だけどラスティ。一人で出来る事には限界があるぞ?」

「うるさいッッッ!!!」

気力を振り絞り、もう一度気を爆裂させる。

「姉さん一人、連れて帰ってこれなかった癖に!!」

激情に任せた一撃。全職業の中でも最大ダメージを誇る、モンクの最終最強の技。

「阿修羅、覇王拳ッ」

全身全霊を以って、相手の胸を打ち抜く。人がその身に受ければ一撃で絶命しかねないその技を食らって尚、彼は立っていた。

そしてゆっくり腕を上げると、僕の頭を撫でた。

「ほら、一人で出来る事なんてそんなにないんだ。こんなちっぽけで、弱い騎士すら倒せない」

僕は………居た堪れなくなった。急に抜ける力。全てをぶつけても尚、倒せなかった相手の強さと、存在の大きさ。そしてそれには程遠く、小さく、弱い自分の力。有り方。

「どうして」

僕はきっと泣いているだろう。

「どうして、シリウスはそんなに強いのさ………どうして、姉さんが居ないのに、そこまで強く居れるんだよ……」

彼は、ゆっくりと答えた。

「それは、私が何も諦めていないからだ」

「え?」

「あの子………スピカは生きている。それだけは確かなんだ」

あの時もその言葉を聞いた。その言葉には、どういう意味が込められているんだろう。

「ただ、もうスピカはスピカではないかもしれない」

その、次に繋がる言葉を聞くために待つ。

 

その時だった。シリウスの後方に突如として一体のモンスターが現れる。

ありえないはずの召喚、ありえない程の敵が目の前で実体化する。

「ダークイリュージョンかッ」

闇の奥深く、廃墟として魔物が巣食う魔城、グラストヘイムにおいて地下墓地を守る魔物。

一匹いるだけで村など消滅してしまう程の力を持つ、不死者。

それが目の前に居た。

「古木の枝を使っての暗殺とは、また、舐められたものだ……」

それなのに、シリウスは落ち着いたまま、手に持った剣を放り投げた。

そして手に取ったのは、もう一振りの刀。その禍々しいオーラに包まれた刀は以前、どこかで見た覚えがあった。

「妖刀、村正」

東方の高名な鍛冶師が生涯を掛けて打ち込んだ、一生分の怨念が篭った刀。その刀を持つ者は呪われ、命を落とすという。

「ラスティ、そこで見ていろよ。これが、強さだ」

そして、その呪いに打ち勝った者は刀の所有者と看做され、破格の能力を手に入れる。

シリウスが両手で刀を持ち、一言呟く。

「ツーハンドクイッケン」

全身から気が溢れ出し、その粒子が金色に輝く。それを纏ながら、僕と戦った時とは格段に違った速さで敵に切りつける。

その速さ。目視して捕捉できる範囲で秒間5回の連撃。乱舞とも言えるその剣戟は、並みの冒険者では歯が立たないであろうダークイリュージョンを圧倒している。

そして、敵の反撃を許すまでも無く、一瞬の内に屠ってしまった。

刀を静かに鞘に収める。柄の合わさる音が静かに、街に響いた。

 

「狙われて、いるの?」

シリウスは黙して喋らなかった。

街に響くのは、虫の音のみ。静かな空間の中、ゆっくりと、語り始める。

「私は、7年間、ずっとスピカの居場所を探していた。だが結局彼女を見つける事はできなかった」

そこで一呼吸置く。

「そしてその理由が、最近になってようやく分かったんだ」

「………何故わかったんです?」

「それが私が北方支部団長に就いた理由だ。北の国との密接な関係を築く必要があった。そのおかげで、今回も情報を手に入れる事ができたんだが」

言葉を濁す。

「これは君にとっても辛い事実だ。それでも聞くかい?」

彼の目は真剣で、その先の言葉が真実で、それは期待するよりも残酷だ。きっとそうに違いない。

それでも。

「それでも、それを知るために、僕はここまできました」

無駄足だったかもしれない7年間。それでも、少なくとも何かをこなせる程には、いや、この人の露払いをする程度には強くなれたはず。

このまま何も聞かずに、終わる事もできるかもしれない。ユリカと一緒に、楽しく過ごす事もできたかもしれない。

でも。

「僕は、あの日からずっと、姉さんを追いかけています。それ以外は何もいりません」

心は冷めて、決心はとうの昔に終わっていた。

「……………」

黙る、シリウス。

そして意外な言葉が返ってきた。

「ダメだな。どうやら、まだ君には聞く権利がないらしい」

挑発とも取れるその言葉。あそこまで話をしておいて、何故そういう流れになったのか理解できなかった。

「何故!これだけ力をつけてもまだ足りないの?!」

「足りない。それはさっき分かったんじゃなかったのか?」

今まで大人しかった彼の背中から、苛立ちと殺気が立ち上る。訳が分からない、いいたいのかいいたくないのか、どちらなんだ。

「だから、姉さんを守る為だったら命だって惜しくないと」

最後まで喋りきる前に彼は僕に背中を向けた。

「それが、分かっていないと言っているんだ」

そしてそのまま城の方へ歩き出す。僕は、彼をその場で見つめる事しかできない。

「それでも」

シリウスは立ち止まり、呟いた。

「それでも追いかけてきたいのなら北を目指せ。カプラでは行けない、新しい土地へ。俺達は先に行く」

そして遠くの家の角へ手を振ったかと思うと、そのまま闇の中へ消えていった。

ユリカが出てくるのと、僕が意識を失うのは、殆ど同時だったらしい。

もう、疲れすぎて何も考えたくなかった。

何が足りなかったのか、分からなくて。一緒に連れて行ってもらえると思っていた、自分が甘かったのだろうか。

自問もやがてなくなる。僕は、そのままさらに深い意識の底へ沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

伊豆の昼は長い。何もしていなくても、日はずっと僕を照らし続けている。

僕にはそれが眩し過ぎて嫌になり、カーテンを閉めた。

「結局、分からず終いだったのね」

ユリカは努めて明るくしているようだった。僕等の話を殆ど聞いていた彼女にとって、わざわざもう一度聞くまでもないだろうが。

僕はバツの悪さを感じて窓の方を向く。

「だけど、随分と勝手な事を言ってくれたものよねぇ、ラスティってばさ。それ以外、何もいりません、とかね」

彼女は僕を責めている。そのまま彼について行こうとした僕をなじっているのだ。

「ラスティ、こっちむいて」

僕はおそるおそるユリカの方を向く。だが、彼女は怒っていなかった。

その代わり。

「私、邪魔だったかな」

本当に真剣なまなざしで、あの時の様に、目に一杯の涙を貯めながら呟いた。

あの時、僕は彼女に出会い、飾りながらも姉弟の契りを交わした。それに嘘はなかった。

それなのに僕は、そんな事一切考えず、自分の事だけで判断しようとしていた。

そこに、彼女はいなかった。

だから彼女はそれを察して、それでも譲れない物があって、泣いているのだ。

 

あぁ、なんて馬鹿なんだろうか。

 

まだ動かしにくい腕を上げると、彼女を抱く。ベッド側に引っ張って倒す形になってしまったが、そのまま彼女の頭を撫でる。

「ゴメン、僕が、全部悪かった」

もう一人ではなかった。ここにもう一人。僕と一緒に居ようとしてくれる子が居た。

会ってまだそんなに一緒に居ない、それでも、僕の中で大切にしようと決めた人。

それを蔑ろにして、また一人きりになろうとしていたんだ。

これを馬鹿といわずして、何が馬鹿だろうか。

「ユリカ姉がいなきゃ、今の僕がいないって分かってるのにね。周りなんか見れなくて、つっぱしっちゃって」

頭を撫でる。布団に顔を埋めて泣いている彼女。

「また、一人ぼっちにする所だった。また、一人ぼっちになるところだった」

気づくと、彼女の手を握っていた。

「それでも、ラスティはスピカさんを探さなきゃいけない、そう思う」

彼女は手を、ギュッと強く握る。

「だから。これはお願いなんだけど」

そこで一旦言葉を区切ると、彼女手を握り返しながら言った。

「僕と、一緒に行って欲しいんだ」

どんな危険があるか分からない。そもそも騎士団を以ってしても解決できない問題を、たかが個人で解決できるとは思えない。

それでも、そこに可能性があるなら、行って見たい。

「わがままなお願いかもしれないけどさ」

でも、ユリカを一人にする事は、もうしたくない。

「両方とも、僕の大切な姉さんだから」

男のエゴで振り回すのが最低な事だとは分かっている。でも、どちらかを切る事なんてできはしない。

 

ただ、波の音だけが聞こえてくる。彼女は一分ほど、手を握ったままいただろうか。

それから顔を上げ、目じりの涙を拭きながら彼女はこういった。

「私もね、ラスティの事。助けてあげたいんだよ。私の事、気に掛けてくれたように、私もラスティの事気に掛けてる。それはギブアンドテイクなんてものじゃなくてね」

握った手とは反対の方の手で僕の前髪をかきあげると、額に口付けをした。

「大切な人だから、なんだよ」

本当に、彼女は不思議な人だ。僕が散々悩んで、分からなかった物の答えを、こうも簡単に連れてくる。

「そうだった、ね」

僕は今一度彼女の顔を確認した。

そこには、満面の笑みを称えた、黒髪のプリーストが居た。

 

 

 

 

そして僕等の旅立ちがきまった。

目指すは北方。カプラを使ってもよかったが、それでは意味がない。本当に強くなる為には、まだ随分と実力不足なのだ。

自力でレベルを上げ、装備を整えなければシリウスなど視界に入れる事すら叶わないだろう。

だから、僕等は僕等なりのスピードで歩む。

そして、かならず姉さんを見つけ、家に連れて帰る。

そもそも、物語は須らくハッピーエンドであるべきだと、常々思っているのだ。自分の物語だけ不幸なままでは、面白みが無い。

傍らにはユリカ。

まずはゲフェンまで全力で駆ける。

僕等の旅は、やっと、始まったのだ。

 

 

「よぉ、お二人さん、俺様の事忘れてるんじゃねぇか?旅に演奏家連れてかねぇで、何するんだよ。つべこべ言わず、馬車に乗せろ!」

 

と、もう一人、大河も加わり。

モンク、プリースト、バードの旅が始まるのだった。

説明
本編話です。初回が出会い、二回目はコメディ、そして三回目、やっとここから彼等の旅が始まります。
roをやった事ない方にとって、略語や隠語は意味不明な物になるかもしれませんが、雰囲気を残しつつ書きたいので、そのままで行きます。
もし分からない事があれば、聞いていただければお答え致します。
(ゲームの事、興味あるんだけどー、ってのもウェルカムですよー)
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