遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その11
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 普段は生徒の声がやまないデュエルアカデミアだが、年に数回は静かになる時もある。

 デュエルアカデミアにも、冬休みが訪れた。

 年末年始を挟む長期休暇には、生徒達は一時帰省するのが常である。そのせいか、オシリスレッドやラーイエロー、オベリスクブルーの寮はいつになく静かになっていた。

 しかし例外は存在する。家の都合が合わず残留する生徒もいないわけではない。

 早乙女ケイもその中の一人だった。

 

「………………あ゛ー……」

 

 身体の奥底から緩い叫びを上げる。

 それは痛みではなく癒しからくるものであり、彼の現状を最もよく表していた。

 

「昼間から雪見風呂というのも……オツだなぁ……」

 

 アカデミアの秘湯に入浴時間の制限はない。

 ケイはまだ日の高いうちから雪見風呂と洒落こんでいた。

 

「……亮は帰省したし、吹雪は女子とデート。優介は優介で、用事があるとか言っているしなぁ…………まぁいいが……」

 

 個人の用となれば、無理に引き止めることもない。休みの間に今のデッキをもう少し実戦向けに調整したかったケイとしては残念だったが、他に協力してくれそうな相手は軒並み帰省しているということもあり、風呂に入りながら考えるという結論に至ったのだった。

 

「『グリード・クエーサー』を使うには、やっぱりレベル関係だなぁ…………ラヴァ・ゴーレムでも使って見るか……? いやそれだとポリシーに反する…………うぅむ……」

 

 以前のデュエルで使用したカードについて考察してみる。しかしシナジーのあるカードはポリシーに反する上、他のカードは高価なため入手が困難。身体は温まるものの、反対に頭は冷えきっていった。

 

「どこかに無いものかなぁ…………何もせずにレベルが上がるモンスターとか、一瞬でレベルを変えるモンスターとか…………………………ん?」

 

 無い物ねだりな愚痴を言っていると、何やら不可思議な音がした。

 ガサッ、という木々の間を縫うように動く音がする。

 この近くに寄る人は滅多にいないため、すわ野生の動物かと思ったケイだったが、どうにも違うらしい。

 木の葉の擦れ合う音は聞こえるものの、足音らしきものは全く聞こえない。湿気の多い場所のため、周囲を歩けば泥となった地面により音が出るはずである。

 それにもかかわらず、木の葉の擦れる音は止まない。

 

「(猿……? いや、もっと小さい…………というか…………)」

 

 ????別の何か?

 

「誰かいるのか?」

 

 そう感じたところで、耐え切れなくなったケイは声を出した。

 お化けや幽霊などという非科学的なものを信じる気のないケイだが、それが自分の身にふりかかるかどうかという瀬戸際では別である。確証のない未知の存在より、便宜的にもはっきりしているものに頼ったほうが心理的な安心感は高い。

 

「…………」

 

 ケイの問いかけに答えることはなく、木々の間を進むような音はやんだ。

 温泉に入っているのに、体の芯から底冷えするような気持ちを抱きながら、ケイは湯を出る。

 あれは何だったのか。考えることもなく、大急ぎで着替え自室へと向かった。

 

 

 

「…………という事があったんだ」

「そりゃぁ……奇妙な話じゃないか」

 

 口づけていた紅茶を離し、吹雪はそう答える。

 夕方となり女子生徒から開放された吹雪は暇を持て余していた。夕食には早く寝るには中途半端な時間である。

 不意に喉が渇きジュースでも買おうかと考えて寮のラウンジに行ったところ、先客としてケイがいたのだった。

 ひと通り話を聞いた後、吹雪は口を開いた。

 

「そういえば、今日一緒にいた子も似たようなことを話していたよ。なんでも、森の中で人影を見たとか」

「他に外に出ていた生徒じゃないのか?」

「……足、なかったらしいよ」

「…………人類はついに舞空術を」

「ケイ、現実逃避よくない」

 

 二人は話をまとめ始めたが、いかんせん情報が足りなすぎた。

 結局この日は寒さに耐え切れず、互いに早々に布団へ潜り込むこととなった。

 

 

 

「その噂なら知ってますよ?」

 

 翌日、二人は絢から件の噂について聞かされた。

 この日は朝から雪が降り、吹雪のデートの予定は延期となっていた。

 ならばと思い吹雪はケイの部屋に押し入るや否や「かまくら作ろう!」と提案し、それに乗ったケイと共に朝から雪遊びに精を出していた。

 完成したかまくらは二人で入るには充分過ぎる広さがあり、レッド寮から借りてきた七輪までセットするという徹底ぶり。のんびり餅を焼いて食べていたところを、絢に見つかったのだった。

 

「冬休みに入ってから急に増えているんですよねぇ。それも森の中での目撃情報が一番多い……熱っ」

「……普通に入って食うな」

「でもこれで、大体の見当はついたってところかな」

 

 PDAに表示された地図を見ながら、吹雪はそう呟く。

 地図にはいくつか?印が付いている。これはケイの話、吹雪の話、そして絢の話に出てきた謎の現象の目撃場所である。

 印は全部で十二個あり、いずれもとある地点を中心に円を描くように付けられていた。

 

「最初の目撃情報は(モグモグ)……釣りに出かけたイエロー生徒の証言ですね」

「(モグモグ)……確か朝釣りに行ったら見かけた、だったか」

「ええ。これが冬休み初日の話です」

「それに続くように、三日と置かず謎の存在の目撃証言が出ていると……(ハフハフ)」

「はい(モグモグ)……害はないんですけど、みんな怖がって外に出ようとしませんね」

「もったいないなぁ(ムグムグ)……こういう日こそ、外に出て駆けまわるのが学生だと思うんだけどなぁ……」

「(モグモグ)…………とりあえず、食ってから話せ」

 

 しばらくして満足したのか、何枚か写真を撮って絢は帰っていった。

 折角だからということで二人のスナップ写真も撮っており、上機嫌の様子だった。

 

「…………さて、吹雪君」

「なにかねケイ君」

「そろそろ行くとしようか」

「ほう。どこへかね?」

 

 七輪の中の火を消しながら、二人はそう掛け合う。

 

「もちろん件の噂の中心地????廃寮だ」

 

 狼煙のように上がった煙は、冬の風に靡いて消えた。

 

 

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『さむっ!!』

 

 廃寮とは、文字通り使われなくなったことで廃れた寮を指す。手入れされていないところも多く、全体的に老朽化しているためすきま風がよく入る。

 冬の気温は氷点下を通り越し、肌をつく風は氷のごとき冷たさになっていた。

 

「吹雪お前の季節だろ、なんとかしろ」

「まさかのムチャぶり!?」

 

 正面から入り、入り組んだ通路を進んでいく。すると、途中大きな扉が開いていた。

 中を覗きこみ、怪しいものが無いことを確認しながら入る。

 昼間のせいか、中は電気も付けずも明るかった。

 

「なぁ吹雪。これは……」

「見た感じ、千年アイテムのようだね」

 

 部屋の中のレリーフに刻まれた千年パズル、千年リング、千年錫など合計七つのアイテム。これらは全て、古代エジプトに縁のあるものだと二人は感じ取った。

 それぞれの道具のレリーフのそばに、注釈文のように様々な言葉が刻まれている。

 このアイテムがどういったものか。

 このアイテムの力は何か。

 このアイテムは闇のゲームにどう作用するか。

 ひと通り説明文のようなものはかろうじて読み取れるものの、崩れてしまった部分もあり全て読み取ることはできないようだった。

 

「まさか特待生寮で闇のゲームの研究がされていたとはな……」

「こりゃ封鎖もしたくなるだろうね。こんなことを研究していたなんてばれれば、オカルト嫌いで有名なアカデミアのオーナーが黙っていないよ」

 

 ????カランッ

 

『?』

 

 何かが落ちてきた音がした。

 足元を見る二人。そこには、一本のネジが落ちていた。ただし小さいものではなく、なにか大きな物を固定するためのものである。

 不意に、二人の首筋にパラパラと粉のようなものが撒かれた。

 

「吹雪、いたずらするな」

「僕じゃないよ」

 

 もう一度、パラパラと粉が降ってきた。今度は、はっきりと上から。

 背中を冷や汗が伝う。

 二人は上を見上げると、本能が判断したのか、とっさに退いた。

 

 ??ガシャァァァァン!!!!

 

 シャンデリアが、一瞬前まで二人のいた場所に落下した。

 

「…………」

「…………」

“………………フフッ”

 

 シャンデリアの落ちた、遥か前方。誰かの笑う声が直接頭に響く。

 ピタ、ピタ、ピタ、ピタ。

 裸足で床を歩くように、音は少しずつ近づいてくる。

 思わず、二人は互いの顔を見る。それと同時に頷く。

 ゆっくりとシャンデリアから距離を取り、後ずさりのように廊下へ出た。

 

『????ア゛ア゛ァァァァァァ!!!!』

 

 走る。

 走る、走る。

 走る、走る、走る、走る。

 脇目もふらず、ひたすら通路を走りだす。

 途中にある部屋も。途中みかけた階段も。床に散らばる瓦礫に目もくれず、一心不乱に走り続けた。

 やがて二人は広い場所に出た。階段が降りられるよう設置されており、降りた先には広々した空間がある。四角いホールのような場所は大広間だったのか、テーブルや椅子がいくつか置かれている。

 一直線に駆け下り、ほこりだらけなのも気にせず椅子に飛び座った。

 

『ゼー…………ゼー…………ゲホッ、ゲッホ!』

 

 大きく深呼吸した時、いっしょにほこりを吸い込んでしまったらしい。二人は同じように咳き込んだ。

 

「ゼー……ハー…………吹雪、見たか」

「ゴッホ……ゲッホ…………ああ、目に焼き付いている」

「……足、あったよな」

「……少なくとも、幽霊とかじゃないな」

「なら、妖怪か?」

「どっちかというと、そっちに近い……かな……?」

 

 足音は確かにあった、と二人は思う。

 偏見ではあるが、幽霊に足はない。その認識が、二人の頭から幽霊という選択肢を弾いていた。

 

 ??ヒュゥゥゥゥ……

 

 北風が、高い場所の窓から吹き込む。

 同時に、細かい砂埃も舞い上がった。

 反射的に目を閉じる二人。やがて北風が止むと、再び目を開いた。

 

 

“    ア    ソ    ボ    “

『ノワアアアアァァァァァァァァァ!!!?』

 

 二人は人間どこからそんなに声が出るんだというくらいの叫び声を上げた。

 広間の中央に、先程の得体のしれない存在がいたのだった。

 

“ア  ソ  ボ  ? ネ  エ  ネ  エ  ?”

「あががががが…………!」

 

 一歩、また一歩近づいてくる謎の存在。人に近い形をしているが、その姿は全身を覆う長いローブで全くわからない。

 吹雪が声を上げ退いている中。

 

「おん、まからぎゃ、ばそろ、しゃにしゃ、ばさら、さとば、じゃく、うん、ばん、こく、おん、まからぎゃ……」

「ってオイ! なんで君はひたすら愛染明王の真言を唱えているんだぁ!」

 

 パニック状態に陥ったケイは吹雪からツッコミをもらっていた。

 

「…………よし!」

「え、ちょ、ケイ!」

「……逃げるぞ!」

「イエッサー!」

 

 勢い良く立ち上がると、一目散に階段目掛けて走りだす。

 しかし。

 

 ????バタン!!

 

『なぁ!?』

“クスクスクス……ダ ァ メ”

 

 扉という扉が全て閉められていく。その様子を見て、二人は感覚的に悟った。

 

『(……あいつを何とかしないと、ここから出られない!)』

 

 謎の存在は歩みを止めた二人を追いかけることはなく、広間の中央にとどまっていた。

 

“クスクスクス……デュ ? エ ? ル ……”

 

 謎の存在はそう言うと、腕と思しきものを出す。そこには二人にとって見慣れたもの、デュエルディスクが装着されていた。

 

「……吹雪、どうやらデュエルをご所望のようだぞ」

「……そのようだね。だけどケイ、実はちょっと問題があるんだ」

「……聞こう」

「……デッキがない」

 

 ドスッ。

 ケイの人差し指と中指が、吹雪の眉間に突き刺さった。

 

「俺が相手をする。勝ったら解放しろよ……?」

“イ ー ヨ”

 

 悶絶する吹雪を放置し、ケイは自分のデュエルディスクを構える。

 表示されるライフは4000で、謎の存在が持つデュエルディスクにも4000が表示された。

 

「……デュエル!!」

“デュ エ ル”

 

早乙女ケイ LIFE4000

???? LIFE4000

 

「いくぞ、俺の先攻! ドロー!」

「ケイ、頼むぞ! 勝ってくれよ!」

 

 吹雪が応援するも、その姿は椅子の後ろに隠れている。ケイはそれを見てため息をついた。

 

「俺は『起動砦のギア・ゴーレム』(DEF2200)を守備表示で召喚! カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

「あれ? 最近使ってるデッキじゃない?」

 

 最近、ケイは『グリード・クエーサー』を中心に据えたレベル操作デッキを使っていることを吹雪は知っていた。他のデッキもないわけではないが、ここ最近では使用頻度も少ない。

 

「……調整中だ。ちょっと黙ってろ」

「あい!」

 

 そう答えると吹雪はすぐに椅子の後ろへと身を潜める。顔はケイのデュエルを見ているので、あまり意味ない気がしないでもなかった。

 

“ウフフ……ドロー”

 

 独特な、先程までとは違う声が頭の中に響く。

 謎の存在は、モンスターカードゾーンに一枚カードを置いた。

 

“フフ……『フォーチュンレディ・ライティー』(ATK?)召喚”

 

 モンスターは召喚されたと同時に、一瞬で消えた。その様子を見て吹雪は訝しむ。

 

「召喚と同時に墓地送り? 一体なんて効果だい?」

「……いや、違う! これは、別の効果だ!」

“『ワーム・ホール』発動”

 

 召喚されたモンスターは破壊されたのではなく、『ワーム・ホール』の効果によって一時的に除外されただけなのだった。

 なぜそんなことを、と考えるケイに対し、相手は手を進めた。

 

“クスクス……『フォーチュンレディ・ライティー』効果発動……『フォーチュンレディ・ファイリー』(ATK?)召喚”

 

 デッキからフィールドに、新たにモンスターが召喚される。しかし消える前のモンスターが金色の風貌だったのに対し、こちらは赤い。

 八頭身の女性をイメージしたかのようなスタイルをしており、額に光るウジャト眼の文様が禍々しさを出している。

 

“効果 発動”

 

 ファイリーの持つ杖が怪しく輝く。

 すると、ギア・ゴーレムの身体は熱を帯び始め、全身が赤くなった瞬間内側から爆ぜた。

 ギア・ゴーレムの破片がケイへ襲いかかる。

 一際大きな破片が、腹部へと激突した。

 

「おぐ……!?」

 

 神経を逆流する痛み。そして突き刺すような腹部の衝撃。

 ソリッド・ヴィジョンでは決して味わうことのない感覚をケイは文字通り痛感した。

 

「……っ……! これ、は……!」

「ど、どうしたんだケイ! 今、ソリッド・ヴィジョンが……」

「違う……これは、現実のダメージだ!」

「はぁ!?」

 

 わけがわからない、といった顔をする吹雪。しかし、そちらに気を回す余裕は、今のケイにはない。

 デュエルディスクを構え直し、再び相手を見据える。

 しかしその時視界の端に見えた液晶には、自分のライフポイントであろう”3200”という数値が映されていた。

 

早乙女ケイ LIFE4000 → 3200

 

「モンスターの破壊に、効果ダメージか……えげつないモンスターだ……」

“攻  撃”

 

 謎の存在はファイリーに次の手を支持した。しかし、その攻撃は通ることなく、ケイが発動させた罠により一瞬で爆散した。

 

「攻撃宣言時、『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』を発動させた。この効果でファイリーは破壊だ」

“セ ッ ト”

 

 モンスターを破壊されたことによる動揺など微塵もなく、淡々とターンを進める。

 二枚のカードがセットされると同時に、ケイの緊張も高まる。

 全く相手にしたことのない未知のカードを使う相手。それだけで警戒するには充分だった。

 

“エ  ン  ド”

 

 ターンエンドを宣言される。セットカードへの警戒を解かないまま、ケイはドローした。

 

「俺のターン、ドロー! 『強欲な壺』を発動し、二枚ドロー! そして手札から『融合』を発動! 手札の『魂を削る死霊』と『ナイトメア・ホース』を素材にする!」

 

 既に若干歪んでいる時空に、もう一つ時空の渦が現れる。

 死霊と幽霊馬はその渦へ飛び込み、融合される。

 

「冥府の遣いよ! 現世と幽界の架け橋となり、幽冥道を駆け抜けろ! 融合召喚! 『ナイトメアを駆る死霊』(ATK800)!!」

 

 馬を駆る独特の蹄鉄の音が聞こえてくる。

 次元の渦へ飛び込んだ二体は魂が混ざり合い、一体のモンスターへと進化した。

 

「よし! 『ナイトメアを駆る死霊』は戦闘では破壊されない不死のモンスター! 直接攻撃もできるし、相手の攻撃を受け流すこともできる!」

 

 吹雪の声に反応したのか、相手は伏せられていたカードを発動する。

 

“『誘発召喚』……『エンジェル・リフト』”

「そっちも特殊召喚か……」

 

 表になったカードを見て、ケイは苦々しく呟く。

 チェーンの逆順処理により、『エンジェル・リフト』の効果が発動した。

 

“『フォーチュンレディ・ファイリー』召喚……クスクス”

「……『エンジェル・リフト』は星2以下のモンスターを蘇生させるカード、『誘発召喚』は相手が特殊召喚した時、互いの手札から星4以下のモンスターを特殊召喚するカードか。なら俺は二体目の『起動砦のギア・ゴーレム』(ATK800)を特殊召喚だ」

“『フォーチュンレディ・ウォーテリー』召喚”

 

 三体目のフォーチュンレディが召喚される。ケイは改めて、相手のカードをよく観察した。

 

『フォーチュンレディ・ファイリー』星2 ATK400

『フォーチュンレディ・ウォーテリー』星4 ATK1200

 

「(初期攻撃力は不定だったはず……何かの条件で攻撃力が決まるのか)」

“効果 発動”

 

 先程とは違い、今度はウォーテリーが杖を振り上げた。

 杖の先に生成される水球からカードが二枚こぼれ落ち、相手の手札に収まった。

 

「ウォーテリーはドロー効果か」

 

 効果を確認する反面、内心ではほっとしていた。

 ファイリーが特殊召喚されたことでまたモンスター破壊を使われるのでは、とケイは勘ぐっていたのだった。

 

「だが、手札が増えたところで今は使えん! 『起動砦のギア・ゴーレム』(ATK800)で『フォーチュンレディ・ファイリー』(ATK400)を攻撃! インパクト・クラッシュ!!」

 

 身体の装甲を引き締め、さながら弾道ミサイルのようにファイリーへ向かって発射される。

 杖を前に構え防御を試みるも、圧倒的な質量差の前に杖は折れ、吹き飛ばされたファイリーは破壊された。

 

???? LIFE4000 → 3600

 

「続いて『ナイトメアを駆る死霊』(LIFE800)でダイレクトアタック! 死霊の鎌!!」

『キヒャハハハハ!!』

 

 大きく振り上げた鎌を、袈裟懸けに相手に振り下ろす。

 その相手は鎌を直に受けないよう、一歩、二歩と後ずさる。しかし死霊の鎌は、ローブの端を捉え引き剥がした。

 

『……!?』

“クスクスクス……ミ ー チャ ッ タ”

 

 ローブの下から現れる素顔。

 それは紛れもなく、“最初”に見た顔だった。

 

「ケイ……僕は幻覚でも見ているのかな……」

「生憎俺にも見えるから違う……と、思う……」

 

 最初に見た“その顔”は、現実としてダメージを負っているというのに苦悶一つ見せない。それどころか、より愉しそうに笑い始めた。

 

“ハ ー ヤ ー ク”

「ぬぐ……だ、ダイレクトアタックに成功した時、相手の手札を一枚捨てさせる! 一番左のカードだ!」

 

 相手の手札から一枚のカードがはじけ飛ぶ。

 弾かれたカードは溶けるように消え、痕を残さなかった。

 

???? LIFE3600 → 2800

 

「そしてカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 このターン、吹雪の目にはケイが優位に立ったように見えた。

 手札こそゼロ枚だが、相手もハンデス効果を負ったため僅か二枚。フィールドもモンスター二体に対し一体と、明らかに有利である。

 

“ウフフ……ド ロ ー”

 

 デッキからドローする。そして、『ワーム・ホール』によって作られた時空の穴が揺れた。

 

「『ワーム・ホール』の効果……モンスターを除外して、このスタンバイフェイズに、除外されたモンスターは戻ってくる……だったか」

“ア ッ タ リ ー”

 

 独特な間延びする声で肯定する相手。

 そのフィールド上に、“同じ顔”が現れた。

 

「…………ケイ、僕の目はどうかしてしまったのかな」

「お前だけだったら楽だったのにな……」

 

 同じ髪。同じ服装。同じ目。同じ模様。

 フィールドに立つ『フォーチュンレディ・ライティー』。その後ろでデュエルディスクを構える『フォーチュンレディ・ライティー』。

 謎の存在。それは、モンスター自身だった。

 

“効 果 発 動”

 

 プレイヤーのライティーが宣言する。その言葉に、ケイの背筋に冷たいものが走った。

 相手の使うカードはいずれも見たことのないものばかりで、何をしてくるのか全く予想ができない。

 油断など、微塵も考えない方がいい。そう思い直し、相手の効果を待った。

 

『フォーチュンレディ・ライティー』星1 → 2 ATK200 → 400

『フォーチュンレディ・ウォーテリー』星4 → 5 ATK1200 → 1500

 

「レベルが上がった! 攻撃力もということは、二つは連動しているのかい?」

 

 吹雪の考察に、ケイは内心同意する。

 上昇する数値は異なるが、フォーチュンレディは自分のターンにレベルを上げ、同時に攻撃力を上げるモンスターということがわかった。それだけでも、未知の相手として充分な収穫であろう。

 

“『フォーチュンレディ・ライティー』、生贄……『フォーチュンレディ・ダルキー』(ATK?)召喚”

 

 ライティーは自身である『フォーチュンレディ・ライティー』を生贄に、四体目の新たなフォーチュンレディを召喚した。その色は黒。五ツ星の上級モンスターだった。

 

『フォーチュンレディ・ダルキー』ATK0 ATK2000

 

「攻撃力2000! まずい、ケイのモンスターじゃ相手にするには厳しすぎる!」

 

 ケイは何も言わない。吹雪は現状を危惧するが、反対にケイは静かにダルキーを睨みつけていた。

 

“攻  撃”

 

 ダルキーの持つ杖から、黒いエネルギーが球体のように集まっていく。

 大きく振られたそれは、ギア・ゴーレムを容赦なく包み込み破裂した。

 

早乙女ケイLIFE3200 → 2000

 

「ぐぁ……! ……くっ、これ、しき……!」

 

 最初のように正面から受けてはいないものの、余波だけで充分な衝撃が伝わる。

 しかしどんな事情があろうと相手が待つことはなく、無常にも手は進められた。

 

“『フォーチュンレディ・ダルキー』効 果 発 動”

「(! きたか……!)」

 

 ダルキーが杖をかざすと、大地に暗く深い穴が開いた。さながら奈落の落とし穴を再現したかのようなその穴からは、前のターンに破壊した炎属性のフォーチュンレディ、『フォーチュンレディ・ファイリー』が飛び出した。

 

“効 果 発 動”

 

 ダルキーの次は、召喚されたばかりのファイリーが杖をかざす。かざされた杖の先に炎のエネルギーが込められていく。

 そして杖を『ナイトメアを駆る死霊』に合わせ、その膨大な火炎エネルギーを照射した。

 

「一度は破壊されても、二度はやらせん! カウンター罠『闇の幻影』!!」

 

 死霊の姿がグニャリと揺らぐ。

 火炎エネルギーは死霊を捉えることはなく、あろうことか変質した死霊の空間からファイリー目掛け逆噴射した。

 突然のことにファイリーは為す術もなく、自身の炎によって瞬時に燃え尽きた。

 

「『闇の幻影』は自分の闇属性モンスターを、対象を取るあらゆる効果から守るカードだ。ファイリーは対象を取る効果だったから、無効にした」

 

 それを聞いたライティーの顔が、一瞬、本当に刹那だけ、怒りに歪んだ。

 しかしコンマ数秒という速さで、元の表情に戻った。

 防いだことで気の緩んだケイは確認できず、外野からデュエルを見ていた吹雪だけがそれを確認した。

 

「(ダルキーの効果は、戦闘破壊をトリガーにした蘇生効果か……。残しておけば、また今のように別の効果を使われてしまう、か……。いやはや、実に面倒だ)」

 

 そうは思ったものの、顔には出さなかった。顔に出さないことが、ケイの得意技だった。

 

“攻  撃!”

 

 表情はそのままだが、やや感情の乗った声で攻撃を宣言するライティー。ケイの場に伏せカードはなく、今度は防ぐことはできなかった。

 ウォーテリーはエネルギーを溜めず、杖を振りかぶりそのまま殴りかかった。死霊が鎌を盾にして杖の攻撃を防ぐと、弾かれたウォーテリーがライティーのフィールドに舞い戻った。

 

早乙女ケイ LIFE2000 → 1300

 

“セ ッ ト。エ ン ド”

 

 今度は伏せられたカードは一枚。それだけすると、ライティーはエンド宣言をした。

 

「俺のターン、ドロー! ……俺はモンスターをセットする」

 

 ドローしたカードはモンスターだったらしく、そのままセットした。

 

「『ナイトメアを駆る死霊』を守備表示に変更。ターンエンドだ」

 

『ナイトメアを駆る死霊』ATK800 → DEF600

 

 この様子を見守っていた吹雪もまた、現状に焦りを抱いていた。

 

「(このままじゃケイは負ける……そうなると、僕らはどうなる? そういえば、ここで何人も生徒が行方不明になったから立入禁止になったって聞いたことが……。てことは、僕らも行方不明になるのか!? なんとか勝ってくれよケイ! いや本気で!)」

 

 吹雪の祈りもつゆ知らず、デュエルはライティーのターンとなった。

 

“ドロー……効果 発動”

 

『フォーチュンレディ・ウォーテリー』星5 → 6 ATK1500 → 1800

『フォーチュンレディ・ダルキー』星5 → 6 ATK2000 → 2400

 

 スタンバイフェイズが訪れ、フォーチュンレディの攻撃力が上昇する。このいずれかでも、死霊の守備を通り抜けられた場合敗北するに充分な数値である。

“『フォーチュンレディ・ウォーテリー』生贄……『フォーチュンレディ・アーシー』召喚”

 

 水のフォーチュンレディを生贄にされ、五体目のフォーチュンレディが召喚される。見てみるとそのレベルは6。しかし攻撃力の上がり方がダルキーと同じようで、上級モンスターとして妥当な攻撃力を備えていた。

 

『フォーチュンレディ・アーシー』星6 ATK2400

 

“攻  撃”

 

 ダルキーが杖を振りかぶり、セットモンスターへ襲いかかる。この攻撃でモンスターを倒し、墓地のフォーチュンレディを特殊召喚して効果を使おうとしているのだろう。

 しかし攻撃をした瞬間、リバースモンスターがダルキーに襲いかかった。

 

「セットされていたのは『人喰い虫』! こいつはリバースした時相手一体を破壊する! ダルキーを破壊だ!」

 

 『人喰い虫』はダルキーの攻撃で弱りながらも、必死に食らいついた。

 そしてダルキーの中の魔法エネルギーが人喰い虫の毒と交じり合い、傷口で爆発した。

 

“……『フォーチュン・インハーリット』”

 

 相手フィールド上の、一枚限りのセットカードがオープンされる。しかし、何も起こらない。

 これまでデュエルを通して見たライティーの性格上、懇切丁寧に説明してくれるはずもないと結論づけたケイは、デュエルディスクを通してカードの効果を調べた。

 

「……フォーチュンレディが破壊されたターンに発動し、次の自分のターンに手札から二体までフォーチュンレディを特殊召喚できる………………ゑ?」

「……ケイ、今僕はとんでもない事態を想像してしまったんだけど」

「言うな。いや、言わないでくれ」

 

 吹雪の言葉を遮るケイだが、内心では理解していた。

 特殊召喚される。ということは、特殊召喚時に効果を発動していたウォーテリーやファイリーが出てきた場合暴れまわるということ。

 それを理解してしまった瞬間、心臓の鼓動が早まった。

 

“エ ン ド”

 

 相手がターンエンドを宣言した。このターンのうちに何とかしなければ、次のターンに最低でも一体、フォーチュンレディが増えることになる。それだけはなんとか阻止したいケイは、ドローするカードに願った。

 できることなら、なんとかなるカードを引かせてくれ、と。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを確認する。そして、表情には出さず、心の中でガッツポーズを決めた。

 

「俺は『ナイトメアを駆る死霊』を攻撃表示に変更! ダイレクトアタック!」

 

 死霊は守備体勢のフォーチュンレディの頭上を飛び越え、一気にライティーの元まで駆け抜ける。そして大鎌を振り上げ、一気に振り下ろした。同時に、手札からカードが一枚弾かれた。

 弾かれたカードは、モンスターカードだった。

 

ライティー LIFE2800 → 2000

 

 大鎌によるダメージを受けたはずだが、微動だにしないライティー。ライフが確実に削られているため、防がれたいるわけでもない。

 奇妙に思いながらも、ケイは自分のターンを進めた。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

“ドロー……効果発動”

 

『フォーチュンレディ・アーシー』星6 → 7 ATK2400 → 2800

 

 スタンバイフェイズが訪れ、アーシーの攻撃力が上昇する。その数値は2800。既に最上級モンスターと遜色ない数値である。

 

「(……くるか?)」

 

 同時に、この瞬間『フォーチュン・インハーリット』の効果も発動する。

 ドローしたカードがフォーチュンレディなら特殊召喚され、スタンバイフェイズ中なのでレベルも上がり火力が上昇する。ケイはそこまで考えていた。

 だが、所詮はそこまでだった。

 

“『フォーチュンレディ・アーシー』効果 発動”

「なに!?」

『ハアアァァッ!!』

 

 叫びと同時に、杖を大きく振り回し床に突き立てる。すると、次々と床のタイルが砕け飛び、ケイへ襲いかかった。

 

「うぐ……ォォオオッ!!」

「ケイ! だいじょ……ぅおおおお!?」

 

 ケイの身を案じた吹雪が椅子の裏から身を乗り出すが、そこに一際大きな破片が飛んできた。反射的に身を隠し事なきを得たが、肝が冷える思いだった。

 

早乙女ケイ LIFE1300 → 900

 

「……ふ、ぶき……。邪魔だから、隠れてろ……」

「……それだけほざければ大丈夫……なのかな?」

 

 満身創痍、とまではいかずとも傷だらけといった様子のケイだが、吹雪に対する口の悪さは変わらなかった。

 しかしアーシーの効果は、ケイのライフを400ポイント削りとった。残りライフが1000を切ったこの状況では、400のダメージすら危険である。

 そして、ケイの恐れていた動きがあった。

 

“『フォーチュン・インハーリット』発動”

「! 引いていたか……!」

“『フォーチュンレディ・ウォーテリー』召喚”

 

 三体目に召喚されていた、青い髪の水属性のフォーチュンレディが特殊召喚された。その効果は、手札補充。

 ライティーに、新たに二枚の手札が生まれた。

 

「……ここで二枚ドローか。さすがに、少しやばいな」

 

 口から弱音が出る。が、事態が好転するでもなし。

 ライティーはお構いなしに進めてきた。

 

“効果 発動”

 

『フォーチュンレディ・ウォーテリー』星4 → 5 ATK1200 → 1500

 

“攻  撃”

 

 ウォーテリーが水球を作り出し、死霊へ向かって打ち出した。

 手にした大鎌でそれを切り裂く死霊。しかし切り裂かれた水は後ろに立っていたケイの近くへ着弾した。

 

早乙女ケイ LIFE900 → 200

 

“攻  撃”

 

 二回目の攻撃宣言。それに反応し、アーシーが周囲に散らばった瓦礫を魔力で浮き上がらせる。

 浮かび上がった瓦礫はケイと死霊を中心に回転し、アーシーが杖を大きく振ると同時に襲いかかった。

 

「一度は受けても、二度は受けんと言っただろう! 罠カード『ガード・ブロック』発動!」

 

 半円状の透明な膜が展開され、瓦礫を次々に弾いていく。

 それを見たライティーは、またも苛立った様子で顔を歪めた。

 今度は、ケイも確認した。

 

「そんな顔もできるのか……変な話だが、安心したよ」

“…………ギッ!”

 

 威嚇するライティーだが、ケイは反面嬉しそうでもあった。

 ずっと微笑み続けていたライティーには、どこか作り物のような感覚さえあった。それがなくなり、生き物らしさが出た、とケイは感じたのだった。

 

「『ガード・ブロック』は相手からのダメージをゼロにして、一枚ドローする。ドロー!」

“……セ ッ ト”

 

 残った手札二枚をセットするライティー。死霊のハンデス効果への対策なのだろうか。

 

“エ ン ド”

 

 相手がエンドを宣言する。

 このエンド宣言時、ケイはうっすらと感じていた。

 おそらく次が最後のターンだろう、と。

 

「俺のターン―?」

 

 次のターンに、何かしらの方法で死霊の壁を超えて攻撃がくるだろうと感じていたケイは、このターンに賭けることを決めた。

 それは頭で考えた理論的な策ではなく、経験で培った、ある種の勘だった。

 

「??ドロー!!」

 

 命運を分けるドロー。

 引いたカードは、モンスターだった。

 しかしケイの顔は、一瞬歓喜に変わった。

 

「……リバースカードオープン! 速攻魔法『融合解除』!! 『ナイトメアを駆る死霊』の融合を解き、素材モンスターを特殊召喚する! 現れろ、しもべ達!」

『キヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!』

『ブルルルッ……』

 

 閃光が走り、モンスターの融合が解かれる。

 『ナイトメアを駆る死霊』は大きな鎌を持った『魂を削る死霊』、幽体の身体を持った『ナイトメア・ホース』の二体に分かれた。

 

「な、なんでだケイ! 壁を作るとしても、戦闘耐性なら『ナイトメアを駆る死霊』でも充分??」

「準備しろ」

「……は?」

「今から勝つ。だから、さっさと身体を温めておけ」

 

 わけがわからない、という顔をする吹雪。

 相手は攻撃力2800のモンスター。それに対し、ケイは融合を解除して作られた壁が二体。どちらも攻撃力は圧倒的に劣っており、どう贔屓目に見ても逆転できるとは思えなかった。

 

「『フォーチュンレディ・ライティー』、それと吹雪……。アカデミアで初めて、お前たちだけに見せてやろう。この俺、早乙女ケイの切り札を」

 

 切り札。

 それは一枚で、デュエルの全てを覆す必殺の一手。

 ケイは、一枚でこのデュエルを終わらせると宣言したのだ。

 

「俺は、二体のモンスターを生贄に捧げ、このカードを召喚する!」

 

 魂が容れ物から抜け、あるべき場所へと還っていく。

 残った容れ物である身体は、次元の渦へと飲まれ、存在をねじ曲げられ再構築される。

 そしてその歪みが晴れた時、一体の“ドラゴン”が姿を現した。

 

「????こい、『破壊竜ガンドラ』!!」

 

 最初は、黒だった。

 視界を全て覆ってしまうほどの黒。それがドラゴンの体だと気づくのは、その巨体を宙に浮かせてからだった。

 鮮血のように赫い瞳。

 触れるだけで切れてしまいそうなほど長い巨爪。

 早乙女ケイのデッキに眠る、破壊のためのドラゴンが目を覚ました。

 

『GIAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 耳をつんざくような悲痛な叫び。

 しかしその眼に映るのは痛みではなく悦び。

 壊したい。

 殺したい。

 そんな意味を含んでいるようにすら思えた。

 

「……これが、ケイの切り札……?」

 

 呆然と、その姿を見る吹雪。

 彼の目には、ガンドラは別のモンスターのようにも見えた。

 

「ガンドラの効果! ライフを半分払い、自身以外のフィールド上のカードを全て破壊し、除外する! デストロイ・ディストラクション!!!!」

『GIAAAAAAA!!』

 

 一鳴きの咆哮。しかしその実態は、全ての物体を等しく破壊させる悪魔の福音だった。

 敵の身体は朽ち、セットされたカードもひび割れていき崩れる。

 まっさらになったフィールドに残ったのは、たった一体のドラゴンだけだった。

 

「更に効果は続く。この効果で破壊したカード一枚につき、ガンドラの攻撃力は300ポイントアップする。破壊したのはお前のモンスターと伏せカード、それぞれ二枚ずつ。よって攻撃力は四枚分アップする」

 

『破壊竜ガンドラ』ATK0 → 1200

 

「効果を使った俺のライフは半分になるが……元々ないようなものだ。特に変わらないな」

 

LIFE200 → 100

 

「駄目だ、これで攻撃しても、まだ800残る!」

 

 吹雪の言うとおり、ガンドラの攻撃力は僅か1200。ゲームエンドまで持っていくには、攻撃力が足りなすぎた。

 だが、ケイは余裕の笑みを浮かべてみせた。

 

「吹雪。俺がそんなヘマをする程、間抜けに見えるか?」

「……徹底的に相手を潰すために、計算づくで追い詰める程度には見えるかな」

 

 不敵な笑みを見せるケイに対し、吹雪はそう返した。

 皮肉にはずが、ケイは笑みを崩さない。

 

「その通りだ。これで終われは終わらせる! 魔法カード『破天荒な風』発動!」

 

 フィールドに、暴風と見紛うような風が吹き荒れる。

 瓦礫がぶつかり合い、粉塵が舞い上がる。

 粉塵をまとった風は、瞬く間にフィールド全体を包み隠してしまった。

 

「『破天荒な風』はモンスター一体の攻撃力・守備力を1000ポイントアップさせる! ガンドラのダイレクトアタック! 消し飛べぇ!!」

 

 粉塵立ち込める空間で、ひと吹きのエネルギー波が駆け抜けた。

 それは正確無比に相手へ着弾し、エネルギー波をまともに受けたライティーは遥か奥へと吹き飛ばされた。

 

 ????ガチャン

 

 鍵の開く音がした。

 

「今だ! 走れ吹雪!!」

「おうよ!!」

 

 階段を駆け上がり、閉まっているドアを二人は思いっきり蹴破った。

 扉はバァン!! と似つかわしくない音を立てながら開かれ、二人は通路を駆けていく。

 走る。

 走る、走る。

 走る、走る、走る、走る。

 脇目もふらず、ひたすら通路を走りだす。

 途中にある一度見たような部屋も。途中みかけた見たことある階段も。床に散らばった見た覚えのある瓦礫に目もくれず、一心不乱に走り続けた。

 やがて外へ出たのにも気づかず、二人は廃寮から出てもしばらく走り続けていた。

 

-3ページ-

 

『??ということがあって』

「色々突っ込みたいことがあるけど最初に言っておこう。……立入禁止だろ」

 

 夕方、ケイと吹雪は優介の部屋へ殴りこみ、暇そうにしていた家主を引っ張りだし再び廃寮へときていた。

 理由は当然、原因の追求である。

 

「なんで俺が連れてこられたんだよ……関係なくないか?」

「そうでもないぞ? ここで以前闇のデュエルについて研究がされていたようでな……その研究過程がところどころに残されている」

 

 闇のデュエル、という言葉に優介の耳がピクリと動いた。

 

「へえ……そうなんだ」

 

「ああ。優介、前に闇のデュエルについて調べていただろ? 参考になるんじゃないか?」

「そうだね……まぁ、後で見ていくか」

 

 喋りながら廃寮の中を歩いて行く。

 最初に来たのは、やはりデュエルを行った広間だった。

 広々したそこはデュエルの爪痕など微塵も残されておらず、床も綺麗なままだった。

 

「あれ……? おかしいな、確かにここで……」

「随分埃っぽいけど、普通の広間じゃないか。ここがどうかしたのか?」

「いや、確かにここでケイがデュエルしていたんだけど……」

 

 三人は階段を下り、辺りを見回す。

 優介の言うとおり埃っぽくはあるものの、それ以外は変わったところなどない。

 いたって普通に寮の広間だった。

 

「はいはい撤収撤収。いい加減戻らないと、こんなところ誰かに見られでもしたら停学処分食らうぞ」

 

 手を叩きながら優介がそう言った。もっとも、口でそうは言っても本人は闇のデュエルの研究のため少し残るつもりではある。

 「本当なのになぁ……」とぼやく吹雪の後ろをケイが続く。その時、テーブルの上に置かれたものを見つけた。昼間より日も落ち、暗かったため見落としていたらしい。

 近づいて見ると、それはカードの束、否、デッキだった。

 

「ケイ、行くよー」

「……ああ」

 

 吹雪に呼ばれ、思わずデッキをポケットに突っ込む。

 結局謎は解明されず、優介が残って調べていくということで今日の探索は終わった。

 その日は終始、変わったことは起こらなかった。

 

 

 

 後日、ケイは絢に先日の件が廃寮を中心に起こっていたことを話した。

 

「怪しげな目撃情報? なんですかそれ?」

「……え?」

 

 謎は、ただただ深まるだけだった。

 

 

To be continued…

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コメント
今まで舐めてたけどすげえなフォーチュン・レディ……リアルでは持ってないけどタッグフォースでは持ってるから作ってみようかな(アインハルト)
フォーチュン・レディいやぁぁぁぁ!!トラウマがあああ!…と。ガンドラはマジでいいカードDA☆と思います。さて、このカード群がどう影響するか楽しみです。(薬草)
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