真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第三回 第一章:下?城攻防戦・交渉
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突然のことであった。

 

 

 

 

 

ジャーン!ジャーン!ジャジャーン!

 

 

 

 

 

激しく雪が降りしきる中、城内から銅鑼の音が鳴り始めた。

 

 

 

曹兵1「申し上げます!城内から銅鑼の音が・・・!」

 

夏侯淵「言わずとも聞こえている。これはいったい・・・」

 

 

 

水没した下?城をやや離れたところから船を浮かべて眺めていた夏侯淵は、なかなか城を攻め落とせず、

 

どうしたものかと思案していた矢先のことであり、突然の銅鑼の音に戸惑っていた。

 

 

 

曹兵1「将軍、あれを!」

 

 

 

夏侯淵は兵士が指をさした方を見てみると、けたたましく鳴り響く銅鑼の音の中、ある人影が城壁に現れた。

 

 

 

典韋「皆さん、一斉に射かけてください!」

 

 

 

城門前の水没していないところから城攻めを指揮していた典韋は、現れた人影に対して、躊躇なく射撃を命じた。

 

しかし一斉に放たれた無数の矢を華麗にかわしたその人影は、そのまま城門前に飛び降り、ちょうど典韋の目の前に着地した。

 

そして手にした方天画戟で典韋を力いっぱい吹き飛ばし、もう片方の手に持っていた深紅の旗を城門前に突き刺した。

 

旗に記された一文字は、“呂” 。

 

 

 

典韋「きゃっ」

 

 

 

典韋は、突然目の前に現れた人影に一瞬動揺するも、すぐに防御の態勢に入っていたが、攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされ、

 

水中に突き落とされた。

 

 

 

曹兵2「典韋将軍!」

 

曹兵3「深紅の呂旗・・・だと・・・!?」

 

曹兵4「げぇっ、呂布!!」

 

曹兵5「う、うわああああああ!!!りょ、呂布だああああああ!!!」

 

 

 

突然の呂布の登場に、曹操軍の兵士は混乱状態に陥っていた。

 

 

 

夏侯淵「流琉!」

 

 

 

夏侯淵は水中に突き落とされた典韋を救うために船を漕ぎだした。

 

その最中にも城門前の何人かの兵士たちが吹き飛ばされていくのが見えていた。

 

 

 

夏侯淵(呂布・・だと・・!?なぜ今になって出てきた!?)

 

呂布「・・・この城には誰も入れない。・・・誰も殺させない。・・・蒼天を蠢く羽虫ども・・・遠慮はいらない。

 

・・・死にたい奴からかかってこい」

 

 

 

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【徐州、曹操軍本陣】

 

 

 

時は下?城の城門前で呂布が動き出すよりも少し前に遡る・・・

 

 

 

曹兵「申し上げます。呂布軍よりの使者が謁見を願い出ていますが、いかがいたしましょう?」

 

荀ケ「何ですって!?水計で城は完全に出入りができない状態のはず、いったいどうやって出てきたの!?」

 

 

 

ただでさえ城を自軍が囲っているため、城外に出ることなど不可能なはずであり、

 

まして今は水計が成功しているにもかかわらずのこの報告である。荀ケは驚きを隠せないでいた。

 

 

 

曹操「まあ、外に出ている部隊が兵糧不足になっていないようだし、何か種があるのでしょうね」

 

 

 

予想外の事態にもかかわらず冷静さを崩さない曹操は、さすがというべきだろう。

 

 

 

曹操「さて、水計が成立して、恐らく袁術に逃げられる前に終わらせたいって所でしょう。いいわ、謁見の準備をしなさい」

 

荀ケ「華琳様、危険すぎます!もし御身に危険が及べば―――!」

 

 

 

しかし曹操は荀ケの言葉を遮り、

 

 

 

曹操「桂花。覇王たるもの、いかなる者も拒むことはできないわ。それが例え我が身を狙う賊であったとしても、

 

それをも屈服させた先にこそ我が覇業は存在するのよ」

 

 

 

荀ケの言葉に対してそう言い放った曹操の姿は、まさに覇王と呼ぶにふさわしい風格であった。

 

 

 

荀ケ「申し訳ございませんでした。この荀ケ、華琳様のご覚悟を失念しておりました。ですが、念のために護衛を増やします。

 

確か陣中には公明が残っていたはずです。彼女の部隊に任せます」

 

曹操「ええ、そうしてちょうだい」

 

 

 

結局、曹操には陣中に残っていた徐晃が護衛に付くことになり、謁見の準備が進められることとなった。

 

 

 

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【徐州、曹操軍本陣前】

 

 

 

小舟に乗って下?城より離れ、曹操軍の本陣までやってきた北郷と陳宮は、曹操への謁見を申し出ていた。

 

つまるところ、北郷の出した策とは、曹操との停戦交渉である。

 

そしてすんなりと謁見の許可が出たことに陳宮は安堵するとともに驚いていた。

 

 

 

陳宮「まさか本当にこんなに簡単に謁見が許されるとは・・・これが天の御遣いの先見というわけですか」

 

北郷「天の御遣いの先見かどうかは分からないけど、曹操といえば、覇道を突き進もうとしている人だからね。

 

敵軍の謁見の申し入れくらいならすぐ聞き入れてくれると思ったんだよ」

 

 

 

その場で切り捨てられてもおかしくない状況だっただけに、すんなり謁見の許可が出た北郷の策は、

 

城外に無事脱出できた第一段階に続き、ひとまず第二段階が成功したといったところだろうか。

 

 

 

陳宮「ですがここからが問題ですぞ。下手をすれば間違いなく首が飛ぶです」

 

北郷「大丈夫。さっき言った通りに話が進めば、必ず曹操は交渉に乗って来るよ」

 

 

 

北郷はこれから命を懸けた交渉が始まるという不安と、夢とはいえ曹操に会えるという楽しみが入り混じった感情の中、

 

やってきた曹操軍の兵士に導かれるまま、陳宮と共に陣中へと進んでいった。

 

 

 

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【徐州、曹操軍本陣】

 

 

 

結論から言えば、北郷は曹操もやはり女性だったという事実につっこみを入れる余裕もなく、曹操の覇気に圧倒されており、

 

陳宮に小突かれてようやく我を取り戻していた。改めて見てみると、曹操の両脇には二人の女性が控えている。

 

一方には猫耳フードをかぶった女性、荀ケがおり、こちらを、特に北郷を激しく睨みつけている。

 

もう片方には、全身を軽微な鎧で包み、両手に巨大な両刃斧を持った女性、徐晃が立っていた。

 

綺麗なシルバーブロンドをまっすぐに切りそろえ、どこかシスターのベールを思い起こさせるシルエットになっているが、

 

その表情は、前髪がちょうど両目を完全に覆っていたため読めない。玉座の前まで来ると、北郷は陳宮と共に跪いた。

 

 

 

曹操「顔を上げなさい」

 

 

 

曹操に言われるまま顔を上げて改めて曹操の顔を見た北郷は、再び曹操の覇気に圧倒される。

 

 

 

曹操「久しぶりね、陳宮。いったい何のようかしら?」

 

陳宮「お久しぶりです曹操殿。本日は曹操殿に兵をお引き頂きたく、お願いに参った次第です」

 

 

 

陳宮は曹操の覇気の前に臆することなく話を進めていく。

 

見た目はかわいい女の子だけど、このあたりはさすが陳宮といったところか、と北郷は内心感心する。

 

 

 

荀ケ「ふん、さんざん抵抗した挙句、自軍が不利になるや兵を引けですって?」

 

曹操「荀ケ、黙りなさい」

 

荀ケ「は、申し訳ありません」

 

 

 

荀ケは陳宮の申し出にかみついたが、曹操の一声で引き下がった。

 

 

 

曹操「こちらが納得のいく理由はあるのでしょうね?分かっているとは思うけど、返答次第ではあなた達の命はないわよ」

 

 

 

二人は曹操の最後の一言で覇気が一層増している感覚に襲われていた。

 

 

 

陳宮「・・・・・・」

 

 

 

陳宮はやや曹操の覇気に気おされてしまい、次の言葉がすぐ出ずにいた。

 

陳宮「(・・・本当に大丈夫なのですか?)」

 

 

 

臆した陳宮は北郷に目配せをし、小声で再度確認する。

 

再び我に返った北郷は、陳宮の様子を見、今こそ自分が文字通り夢の舞台に立つとき、と心の中で決意をした。

 

 

 

北郷「陳宮さん、ここはオレが」

 

陳宮「北郷殿・・・」

 

 

 

北郷は曹操の覇気に圧倒されることなく、まっすぐに曹操の顔を見る。

 

 

 

曹操「あなたは何?さっきから気になっていたのだけれど、見かけない顔ね。それに妙な格好をしているようだけれど」

 

 

 

曹操は陳宮の代わりに発言しそうであった妙な男に怪訝な顔を向けた。

 

 

 

北郷「申し遅れました。オレの名は北郷一刀、訳あって呂布軍にいます。この服はオレの故郷のものです」

 

曹操「・・・まあいいわ、では北郷とやら、言ってみなさい」

 

 

 

曹操はまだ怪訝な表情を崩さなかったが、構わず続きを促した。

 

 

 

北郷「まず曹操さん、あなたの軍の兵糧はもう尽きかけているんじゃないですか?」

 

曹操「なぜかしら?」

 

北郷「水計なんてのはその土地を殺すのと同じですよ。呂布軍を退けたのち、ここは曹操さんの領土になるわけなんだから、

 

普通に考えればそんなリスキーな策は取りません」

 

 

 

水計によって水没した土地は、長い間作物が育たない土地となり、

 

これから治めることになる曹操軍にとっては、あまり好ましい策とは言えない。

 

 

 

荀ケ「りすきい?」

 

 

 

荀ケは聞きなれない横文字に不思議そうな顔をしていたが、構わず北郷は述べる。

 

 

 

北郷「だとすれば、曹操さんの軍は早く戦を終わらせたがっているとしか思えません。その理由として思いつくのが・・・」

 

曹操「兵糧不足、というわけね。でも仮に我が軍が兵糧不足だったとして、それはあなた達も似たような境遇じゃないのかしら?」

 

 

 

確かに水計による兵糧攻めを受けているのは呂布軍の方である。

 

この北郷の論でいくと、このままいっても共倒れだからこの辺りで止めときましょう、ということだが、

 

曹操軍の兵糧不足が回復すればこの論は成立しない。しかし、ここで陳宮がはったりをかます。

 

 

 

陳宮「我が軍の兵糧はあと二か月ほど持ちますです」

 

 

 

しかしこの陳宮のはったりに荀ケが異議を申し立てる。普通に考えれば当然の意見と言える。

 

 

 

荀ケ「ばかな!そんなはったり誰が信じると思っているの!」

 

 

 

しかし陳宮は怯むことなく切り返す。

 

 

 

陳宮「我が軍はこの下?に入って以来、籠城戦になることを予め想定していたのです。ですから兵糧の準備は万全だったのです。

 

さらにそこへ劉備から妙な書簡が届いたので兵糧をさらに蓄えることになったのです。

 

まあ、そのせいで劉備と仲違いする羽目になったのですが」

 

荀ケ「ちっ・・・」

 

 

 

偽の書簡を出した張本人である荀ケは顔をゆがめ舌打ちをした。

 

陳宮は特に書簡のくだりを強調することで荀ケを黙らせたのだ。

 

 

 

曹操「・・・・・・」

 

 

 

対して曹操に反応はない。何かを考えているのか、眉間にしわが寄っている。その様子を見て陳宮がたたみかける。

 

 

 

陳宮「曹操殿、このまま戦いを続けてもお互い消耗するだけで、どちらにも利益はありませんです!」

 

曹操「・・・・・・」

 

 

 

先ほどよりも強い語気で曹操を説き伏せようとした陳宮であったが、

 

やはり曹操に反応はなく、目を閉じて、眉間にしわを寄せて、何かを考えているようである。

 

北郷はそんな曹操の様子を見ると、次のように切り出した。

 

 

 

北郷「曹操さん、兵糧の問題以外にも、早く戦いを終わらせたい理由があるんじゃないですか?」

 

陳宮「北郷殿?」

 

曹操「・・・どういうことかしら?」

 

 

 

陳宮は北郷の切りだしに内心戸惑っていた。城で北郷から聞いた策にはなかった展開だったからである。

 

そして、先ほどまで反応を見せなかった曹操も、北郷の意味深な言葉に興味を示し、反応した。

 

そして次に発する北郷の言葉が、結果として、呂布軍の命運を決定づけるものとなる・・・

 

 

 

 

 

 

 

北郷「これ以上戦いを続けていたら、もっと悪化するんじゃないですか?・・・頭痛が」

 

 

 

 

 

陳宮「頭痛?」

 

曹操「!!!」

 

徐晃「・・・!」

 

 

 

陳宮は、この人はいきなり何を言い出すのか、といった様子であったが、

 

目を見開いて驚いている曹操の様子を見ると、どうやら本当のことらしいと感づく。

 

曹操自身も、先ほどまで黙っていたのは、頭痛が再発したためであったのだが、

 

そのため、他人に気取られないよう細心の注意を払っていた。実際、陳宮や、徐晃、荀ケでさえ気づいていなかった。

 

にもかかわらずあっさりと看破された曹操は動揺した。

 

 

 

荀ケ「お前、なぜそれを・・・!」

 

曹操「・・・言いたいことはそれだけかしら」

 

 

 

しかし動揺したのは一瞬であり、曹操が言葉を発すると同時に、一瞬にしてあたりの空気が凍りついた。

 

曹操は北郷に対して何か表現のしようもない不気味さを感じていた。

 

そしてそばに立てかけてあった、あたかも死神が持っていそうな巨大な鎌、 “絶” を手にすると、

 

一気に距離を詰めて二人に襲いかかった。

 

一瞬の出来事で何が起こったかわからなかった陳宮は、ただただあっけにとられていた。

 

そんな陳宮を北郷はすぐに引き寄せて守るように抱き、しかし自身はまっすぐ曹操を見つめ続けた。

 

曹操は絶を振りかぶり北郷の首をとらえる。

 

 

 

―――そして・・・

 

 

 

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曹操の絶はちょうど北郷の首元で止まっていた。

 

 

 

北郷の首筋から一筋の血が流れた。曹操は北郷を睨みつけていたが、北郷も目線をそらすことはない。

 

陣中の時間が止まった。

 

一触即発の中、止まった時間が動き出したのはこの場に駆け込んできた曹操軍の兵士の一言であった。

 

 

 

曹兵A「申し上げます!」

 

荀ケ「今は謁見中よ、後にしなさい!」

 

曹兵A「しかし、急を要します!」

 

荀ケ「いったい何事なの!?」

 

 

 

謁見よりも優先されることなどよほどのことである。荀ケは仕方がなく報告を聞くことにした。

 

 

 

曹兵A「実は――――――」

 

 

 

曹操軍の兵士は陳宮や北郷に聞こえないように荀ケに耳打ちする。荀ケの顔色がみるみる変わっていく。

 

 

 

荀ケ「何ですって!?」

 

曹操「何事?」

 

荀ケ「それが―――」

 

 

 

荀ケが曹操に事情を説明しようとしたその時、また別の兵士が駆け込んできた。

 

 

 

曹兵B「申し上げます!」

 

荀ケ「今度は何!?」

 

 

 

今回は、荀ケは兵士の報告を拒否することなくすぐに聞く。

 

 

 

曹兵B「実は―――」

 

 

 

先ほどの兵と同じ動きで荀ケに耳打ちをする。荀ケの顔色がさらに青くなる。

 

 

 

荀ケ「・・・本当なの?」

 

曹操「荀ケ、早く報告なさい」

 

荀ケ「は、それが・・・」

 

 

 

荀ケは同様に北郷や陳宮に聞こえないように曹操に耳打ちする。

 

 

 

荀ケ「(補給路を確保しに向かった許緒隊が敵の襲撃を受け撤退。また先ほど呂布が動いたようで、

 

城攻めが一層困難な状況に陥っているようです)」

 

曹操「・・・・・・」

 

 

 

再び曹操は黙り込んだ。今度は頭痛によるものだけではなく、戦況を分析し策を練ってのことである。

 

そんな様子を見ていた陳宮は、陣中からかすかに聞こえてきた「呂布が動いた」という曹操軍の兵士の言葉から状況を把握し、

 

未だ北郷に抱かれていた状況からもぞもぞと脱し、曹操に言い放つ。

 

 

 

陳宮「もぎゅ、それが我らの決意です。我らはもう2か月ほど戦う覚悟はできているです」

 

 

 

曹操は少し考え、そして次のように言い放った。

 

 

 

曹操「・・・いいでしょう、認めるわ。確かに我が軍は兵糧不足よ。補給路もあなた達に絶たれてしまい、

 

多くの兵糧が奪われたようだし。もはや数日持つかどうかというところでしょう。

 

一方であなた達の軍は籠城しているにもかかわらず、なぜか外の人間に兵糧が行き渡っているみたいね。

 

もしあなた達の兵糧が十分にある話が本当なら、我が軍に勝ち目はないわ」

 

 

 

もちろん水没した抜け道から外の兵に兵糧を送ることもできず、援軍の袁術軍も撤退しているため、

 

2か月も戦えるはずもないのだが、曹操軍はそのことを知らない。

 

そして仮に2か月分の兵糧があり、かつ呂布が本気になったのだとしたら、今度は曹操軍が逆に窮地に立たされたことになる。

 

 

 

荀ケ「曹操様!」

 

 

 

そのことをわかってはいても、荀ケは曹操の制止しようとするが、構わず曹操は続ける。

 

 

 

曹操「で、ここからが本題なのでしょう?確かにこちらは兵糧不足で、この戦いを早く終わらせたいわ。

 

でも、だからといってこちらが一方的に兵を退くというのは考えが甘すぎるのではないかしら?

 

あくまで追い詰められているのはあなた達。このまま無理にでも戦いを続ければ、こちらの被害が大きくても

 

あなた達に勝ち目はないわ。私たちはただ、この戦いをだらだら続けても益がないからあなた達の提案を聞いているだけ。

 

でもまさか、ただ我が軍に退けとだけ言う訳ではないでしょうね?」

 

 

 

曹操を交渉の土俵に上げたことで、北郷の策の第三段階が成功したことになる。

 

あとはいかに仕上げ、自軍の被害を最小限に抑えて曹操の首を縦に振らせるかである。

 

 

 

陳宮「もちろんです。もし曹操殿が軍を退いていただけるのなら、我らは徐州から去りましょう」

 

荀ケ「ばかな!みすみす目の前の敵を逃せというの!少なくとも呂布ほか幹部の首はもらうわよ!」

 

 

 

荀ケの意見は至極当然。北郷もさすがにそんなうまい話はないと考えており、

 

一応最善の条件を提示したうえで、それよりも少し劣るが、結果自軍の被害を最小限に抑える条件で、

 

曹操の首を縦に振らせようと考えており、荀ケの言葉を受けた陳宮は、次の条件を提示しようとした。

 

 

 

 

 

―――しかし・・・

 

 

 

 

 

曹操「いいでしょう、今回は見逃してあげるわ」

 

 

 

曹操の返事は北郷たちの予想とは違うものであった。

 

 

 

荀ケ「曹操様!!」

 

 

 

荀ケは先ほどよりも大きな声で曹操を制止しようと叫ぶ。しかし曹操は荀ケを無視して話を続ける。

 

 

 

曹操「ただし、あと二つ条件を付けてもらうわ」

 

 

 

陳宮はしまった、と思った。これではこちらが望む条件を提示できない。

 

こちらが最初に提示した条件をのむことで、曹操は条件の後付けの権利を得たのだ。

 

 

 

陳宮「・・・何でしょう?」

 

曹操「一つは、今後一切劉備との縁を絶ちなさい。近づくことも許さないわ」

 

陳宮「了解しましたです。元よりこの戦いはすでに劉備に裏切られているのです。戻る気などないです」

 

 

 

ここまでは許容範囲、というよりも、こちらが提示しようとしていた条件と重なる部分があった。

 

しかし問題なのは二つ目の条件であった・・・。

 

 

 

曹操「もう一つは、あなた達の雑兵を全て置いていきなさい」

 

陳宮「そ、そんな・・・」

 

 

 

北郷の策は、表向きは曹操軍の傘下に入り、曹操軍の力が及ばないところに移り、

 

そこでにらみを利かせて曹操軍の勢力範囲拡大に貢献する、という条件を提示し、

 

本当の狙いは、曹操軍の力の及ばない土地で力を蓄え再起を図る、というものであったが、

 

曹操は呂布軍が再起する芽を摘みにきたのだ。

 

 

 

曹操「あら、本来ならあなたと呂布以外の全ての兵とするべきところを、幹部も見逃すと言っているのよ?

 

元より、あなた達の首を差し出せと言いたいところをこちらが譲歩してあげているのよ?少なからず、

 

あなたには昔世話になった恩があるしね。それともやっぱり、交渉決裂ってことでいいのかしら?」

 

 

 

陳宮はやられた、と思った。もちろん命があるだけましと思うべき所なのだが、

 

この戦乱の世を、2、3人の武将がいるだけでは再起を図るのは不可能である。

 

せいぜい客将としてどこかの勢力にもぐりこむのが関の山で、董卓の遺志を継ぐことはかなわない。

 

 

 

陳宮「むむむ・・・了解しましたです」

 

 

 

しかし、そうはいったものの、兵力削減と首を天秤にかけられてしまえば、答えなど一つに決まっている。

 

結局陳宮は曹操の条件をのまざるを得なかった。

 

 

 

曹操「では交渉成立ね。こちらは兵を退きましょう。だから、今すぐ私の前から消え去りなさい」

 

 

 

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【徐州、曹操軍本陣付近】

 

 

 

曹操軍本陣を後にした二人は、小降りになってきた季節外れの雪の中、下?城に向かって歩いていた。

 

曹操が撤退の号令を出したのか、曹操軍の兵士の前を通っても、特に攻撃されることはなかった。

 

下?城の方も、もう攻められている様子はなさそうである。

 

 

 

陳宮は歩きながら、先ほど北郷が突然曹操の頭痛について指摘したことについて咎めていた。

 

 

 

陳宮「何を考えてるですか!?本当に生きた心地がしなかったのです!あのような時に曹操の神経を逆なでるようなことを言うなんて、

 

本当に殺されると思いましたぞ!」

 

北郷「すまんすまん。人間ってのは知られていないはずの秘密を知られていたら相当焦るものなんだ。

 

そんな中頭痛に悩まされているのならなおさらこちらの思惑を読む余裕はなくなるだろうしね。

 

あのままだと曹操が交渉に乗る様子はなかったし、相手の心理を揺さぶるしかないかなって思ったのさ」

 

 

 

まあ、結局こっちが再起を図る可能性を潰されてしまったわけだけど、と北郷は付け加えて、ははは、と申し訳なさそうに苦笑した。

 

 

 

陳宮「本当に不思議な方ですな。なぜ曹操の頭痛のことに気付いたのかも気になりますが、曹操の覇気の前であのように堂々と・・・

 

あれが天の御遣いの本領ですか?」

 

 

 

曹操の頭痛については、北郷の記憶では確か晩年悩まされていた、と記憶していただけであり、

 

この時期に曹操が頭痛に悩んでいた自信はなく、実はあの発言は成功の見込みのない賭けであったのだが、

 

その事実については胸の奥底に封印しておく。

 

 

 

北郷「まあ、首を刎ねられそうになってからは頭が真っ白になっちゃったけどな」

 

 

 

そういえばあの問題発言以来、北郷の発言が全くなくなっていたな、と陳宮は思い返していると、

 

ふと北郷に抱きしめられたことを思い出してしまい顔が赤くなった。

 

よくよく考えてみれば、未だ普段以上に大きく聞こえる心臓の鼓動は、

 

命がけの交渉の場から無事帰還した緊張によるものとは少し違う気がした。

 

陳宮にとって、形はどうあれ、男に抱きしめられたことなど父親以来である。

 

 

 

陳宮「そういえばまだお礼を言ってなかったですな。先ほどは守ろうとしてくれてどうもありがとうなのです」

 

 

 

陳宮はきっといきなりのことで気が動転しているだけだ、と自分に言い聞かせ、まだ言ってなかったお礼の言葉を北郷に告げた。

 

 

 

北郷「いやいや、気づいたら体が勝手に動いてたんだよ」

 

 

 

北郷は照れ臭そうに頭をかいている。

 

 

 

陳宮「そうですか、やっぱり不思議な方なのです」

 

 

 

自分の命も顧みず、無意識に他人のために自信の命を投げ出せる人間、

 

この戦乱の世では真っ先に死ぬ部類の人間であることは間違いないが、

 

それがこの天の御遣い、北郷一刀の本質であり、乱世を救う救世主たるべき資質なのだろう、と陳宮は感じていた。

 

 

 

陳宮がそのように感心している最中、北郷は内心混乱状態に陥っていた。

 

 

 

北郷(それにしてもさっきの首の傷はまだ残っている。痛みもあったし、妙にリアルだとは思ってたけど、

 

やっぱ夢じゃなかったのか・・・。最初は夢だろうってゲーム感覚で大胆にやってたけど、

 

これは現実で、実際多くの人が死んでいる。下手したら最初にここに来た時点でオレも・・・。

 

信じられないけど、オレは本当に三国志の世界に来てしまったんだな・・・。なんか色々違うけど。

 

けど、そうしたらオレはさっき曹操に向かってあんな堂々と・・・)

 

 

 

考えただけで身震いがした。気づけば北郷は顔面蒼白になっている。

 

 

 

陳宮「大丈夫ですか?顔が真っ青です」

 

北郷「ははは・・・はぁ・・・」

 

 

 

北郷は愛想笑いをしつつ、これからどうしたものかと大きくため息をついた。

 

 

 

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【曹操軍本陣】

 

 

 

曹操軍本陣からは、曹操の撤退の命を受けた兵士たちが撤退の準備をするために、次々に陣外へと出て行っていた。

 

今この場に残っているには曹操と荀ケの二人。

 

 

 

荀ケ「華琳様!どうしてあのような条件をおのみになられたのですか!あのような無礼者、

 

あの場で切り捨ててしまわれたらよかったものを!」

 

曹操「・・・・・・」

 

 

 

曹操は何も答えない。特に頭痛が再発したといった様子はないのだが。

 

 

 

荀ケ「華琳様〜、無視しないでください〜」

 

郭嘉「どうしたのですか桂花、やけに荒れていますね」

 

 

 

そんな荀ケの大きな声を聞いてか、郭嘉が入ってきた。

 

 

 

曹操「凛、もう大丈夫なの?」

 

郭嘉「は、ご心配をおかけしました」

 

 

 

一時はもうダメなんじゃないか、というほどの出血(鼻血)だったが、そんな様子は一切見られないほど回復していた。

 

日常的に鼻血を出していたら、血が体内で補充されるのが常人よりも早くなるのだろうか・・・。

 

 

 

荀ケ「まったく、今日は風が来ていないんだから、気をつけなさいよ」

 

郭嘉「申し訳ない。それよりも華琳様、兵を退くとは本当ですか?」

 

 

 

それよりもってどういうことよ!と荀ケが目を三角にして憤慨していたが、特に誰も気に留めない。

 

 

 

曹操「ええ、あなたの水計を逆に利用されてね。こちらの兵糧不足を看破されてしまったわ」

 

郭嘉「そうでしたか・・・弁解の次第もございません。この郭奉孝、いかなる御処罰をも受ける所存です」

 

曹操「いいのよ。あなたの策を採用したのは私なのだから。相手を追い詰めたのは確かだしね。

 

まあ補給路を断たれたのが一番痛かったわね」

 

荀ケ「・・・ですがなぜ相手の条件をおのみになられたのですか?」

 

 

 

荀ケは無視され続けたことが地味に効いており、しょぼんとしたままめげずに再び質問を試みた。

 

そんな荀ケの様子を見た曹操は、満足したといった様子でようやく荀ケの質問に答える。

 

 

 

曹操「今回の戦いの目的は徐州の確保と劉備軍の兵力削減よ。あなたの策のおかげで上手く劉備と呂布を引きはがすことができたし、

 

徐州も手に入れたわ。条件に劉備に近づくなと加えたことだしね」

 

郭嘉「ですがなぜ見逃したのですか?せめて呂布の首だけでも押さえておいたほうがよかったのでは?」

 

 

 

確かに、敵軍の総大将を見逃しては示しがつかない、そう念を押したうえで曹操が続ける。

 

 

 

曹操「けれど、一応劉備に命は取るなと念を押されていたしね。劉備のあの甘い考えにはうんざりだけれど、

 

今劉備との関係を悪化させるのは望ましくないわ。関羽を我が軍に迎えるまではね。それにもう呂布は放っておいても大丈夫でしょう。

 

兵もほとんど奪ったし、今回の戦いでもわかったように、呂布には董卓のところにいた頃の勢いは感じられなかったわ。

 

まあ最後は踏ん張ったみたいだけど」

 

荀ケ「いっそのこと全員引き入れたらよかったのでは?腐っても呂布。下?を落とせなかったのも呂布軍の戦力を物語っています。

 

季衣も退けられたといいますし、戦力としては十分なのでは?」

 

 

 

仮に荀ケの言うことが通っていたら、北郷たちの思惑通りだったのだが。

 

 

 

曹操「今回の一件で貸しを作ったわ。時には自軍に所属していない手駒が必要な時もあるのよ。劉備のもとを離れるとなれば、

 

恐らく今後は西へ向かうでしょうから、こちらとしては、西にはまだほとんど手を付けていない分都合がいいのよ」

 

荀ケ「・・・なるほど、さすがは華琳様」

 

 

 

つまり曹操の考えは、図らずも北郷がたてた策の表向きの面だけを利用しようという形になったのだ。

 

 

 

曹操「まあ兵を失った程度でのたれ死んでしまうような奴を我が軍に引き入れても、足手まといにしかならないのだけれど」

 

郭嘉「劉備といえば、結局劉備軍は小沛城に籠ったままで前線に出ませんでしたね」

 

 

 

一応確認しておくと、今回の戦いの構図は、曹操・劉備連合軍対呂布軍であったはずだが、事実上曹操軍対呂布軍となっていた。

 

 

 

曹操「一応、劉備は最初に後詰でなら参加、と言っていたしね。まったく、どうあっても戦いたくないようね。

 

でもまあ関羽を迎えるまでは大目に見るわ」

 

 

 

仮に劉備軍が全軍前線に出ていたら、下?城が落ちていた可能性は高く、

 

本来なら劉備軍の行動は曹操軍にとって許されざるべき行動であったが、

 

それを大目に見ると曹操に言わせるほど、曹操にとって関羽は魅力のあるものであった。

 

 

 

荀ケ「それにしてもあの無礼な男、なぜ華琳様の御病気のことを・・・」

 

郭嘉「桂花、それはどういうことなのですか?」

 

 

 

よくぞ聞いてくれたわよ、と言わんばかりに荀ケが説明を始める。

 

 

 

荀ケ「謁見に来た呂布軍の使者の中に妙なブ男がいてこいつが本当に無礼極まりない憎たらしいやつですぐにでもふん縛ってありとあらゆる拷問にかけた後生まれてきたことを後悔するようなこの世のものとは思えないほどのすさまじくも惨たらしい精神的肉体的苦痛を与え――――――」

 

郭嘉「つまりその無礼者がどうしたというのですか?」

 

 

 

このまま荀ケの言葉を聞いていたら日が暮れてしまう、と郭嘉は要点を言うよう促す。

 

 

 

荀ケ「そいつが華琳様の頭痛を見抜いたのよ。恐れ多くもね」

 

郭嘉「頭痛を、見抜いた・・・何やら不気味ですね・・・」

 

荀ケ「まあ、どうせ苦し紛れのあてずっぽうが運よく当たっちゃったって所でしょうけど」

 

 

 

しかし曹操は他にも気になっていたことがあった。

 

 

 

曹操(それにしても気になるのは、流星が下?城に落ちたという報告・・・)

 

 

 

 

 

 

 

<――――――例えば、つい最近管輅が占った “天の御遣い” 、どのような方かは知りませんが、

 

その方ならその答えを知っているかもしれませんね・・・>

 

 

 

 

 

 

 

頭をよぎるのは、かつて自身が討ち取ったものが最後に言い放った言葉。自身がその場で散々に馬鹿にし、嘲笑った言葉。

 

 

 

曹操(まさか、あの男・・・)

 

 

 

 

 

【第三回 第一章:下?城攻防戦・交渉 終】

 

 

 

-8ページ-

 

 

 

あとがき

 

という訳で第三回もだらだらしてしまいましたがいかがだったでしょうか?

 

華琳様との交渉については、かなりのご都合主義がまかり通っている感じがしますが、

 

stsの実力をお察しいただき、ご容赦願います。

 

 

 

そして女性としては2人目となるオリキャラ、徐晃ちゃん。

 

とはいうものの、この魏のコウメイこと徐晃ちゃん(字が公明で、諸葛孔明とは一字違い)は、

 

霞の代わりとなる魏の有名な武将として、初期段階から登場させることは決定していました。

 

まだほとんど活躍していないので、キャラクター紹介はまたいずれ。

 

一応言い訳をすると、真名は考えていません。主役級じゃないのでいいかな、と。

 

なので桂花は公明と字で呼んでいますし、恐らくみんなからも字で呼ばれていると思われます。

 

また、謁見の場で空気になっているのは、そういう性格だからです。

 

いうなれば無駄口をたたかないタイプです。

 

 

あとねねにフラグが立ちつつありますが、別にねねがメインヒロインというわけではありません。

 

あくまで『side呂布軍』なので、特定の恋姫の贔屓はしないつもりです。

 

(もちろん “つもり” なので、無意識に贔屓しているかもしれませんが、、、)

 

一応カミングアウトしますと、恋姫で一番のお気に入りは翠です。

 

呂布軍の中だと、、、、、、、、、、、、、、、、、、ねね 汗

 

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

 

 

次回で第一章が終了します、、、

 

説明

お久しぶりです。

今回は「交渉」、はたして一刀君の策とはいかに・・・

あといつもと比べて少し長めです。まあ何を基準にという話なのですが、

stsの基準は気楽に読める程度の分量を目指しています。

ちなみに泗水付近では未だに霞と春蘭の死闘が繰り広げられています。

特に春蘭はななとの戦闘直後のため、連戦になるのですが、霞と互角に渡り合っています。

春蘭の体力ハンパないですね 笑



それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・


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コメント
>marumo様  ご指摘ありがとうございます。これは俄かファン云々以前の凡ミスですね、、、修正しました。(sts)
身震いが身振りになってません?(marumo )
sonron様、コメントありがとうございます。「あの子」が正解でしょうか、、、?不安なので無難に修正しておきます。 俄かファンで申し訳ないです 汗(sts)
曹操が二人称であいつって言うのかい?www(sonron)
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