そらのおとしもの 今、そこにある嘘(既成事実)
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「ニンフ、お前が好きだっ!」

「………へっ?」

 

 こんにちは、智樹です。

 いつもは平和な日々を至上とする僕ですが、今日はちょっと刺激的な一日にしたいと思います。

 4月1日のエイプリールフールぐらい冒険してみたいと思うのが男の子なんです。

 というわけで。

「…俺、前からお前の事を愛してたんだ。今さらだけど、その、やっぱ我慢できなくて」

「う、うん」

 ニンフに嘘の告白をしてみる僕なのでした。

 うーむ、ニンフは頭が良いしこっちの習慣にも詳しくなったから騙せないかとも思いましたが、案外あっさりいきましたね。

「結婚を前提に付き合いたいんだけど、いいか?」

「し、仕方ないわね。トモキがそこまで言うなら考えないでもないけど」

 自分ではそっけない態度をとってるつもりなのでしょうが、照れくさそうに頬を緩めるニンフさん。

 まだだ。まだ笑うな俺。嘘だとばらすのは一日の最後だ。そして自分が散々勘違いをした後で知らされる事実に悶えるがいい。いつもスケベだの変態だの言われ折檻されてきた恨みを今こそ晴らすのだ。

「じゃあ、俺行くところあるから。返事は夜にでもしてくれよな」

「…うん」

 そう。僕にはまだ行くところがあるのです。僕は平和と同時に平等も愛する男。ニンフだけ騙しては不公平なので、他の連中にも似たような嘘をついてやろうと思います。

 

 

「アストレア、俺、お前が好きだ!」

「むぐむぐ、ふーん。………ぶぅっ!?」

 うわ、物を食べながら噴き出すなよ。

「ちょ、なななななに言って…!」

 反応がワンテンポ遅れるあたり、やっぱりこいつはバカだなぁ。

「…俺、前からお前の事を愛してたんだ。今さらだけど、その、やっぱ我慢できなくて」

「ええぇぇーーー!?」

 ここまで綺麗に騙されてくれると気持ちが良いものですね。

 さて、次に行きますか。

「じゃあ、俺行くところあるから。返事は夜にでもしてくれよな」

「そ、そんな急に言われてもどうすればいいのよー!」

 完全にパニックになったアストレアを尻目に、僕は次の標的へと走るのでした。

 

 

「そはら、俺、お前が好きだ!」

「………あ、そっか。これ夢だったんだ」

 お? そはらさんはさっきの二人と違う反応ですよ?

「現実のトモちゃんが私に告白するなんてありえないもんね。うん」

 その言われ方はちょっと傷つくなぁ。

 確かに非モテのチビ男である俺が容姿端麗、スタイル抜群のお前に告白なんて場違いだけど、それでも幼馴染なんだからもう少し相手の言葉に耳を傾けてだね?

「そうだよ、トモちゃんにはイカロスさんやニンフさんがいるじゃない。今さら私に入る余地なんて…あはは」

 …なんかそはらの奴、目が危なくなってきたんですけど。具体的にいうと瞳のハイライトが消えてきたんですけど。

「このトモちゃんが夢なら…うん」

 あ、やばい。デットエンドの香りがしてきた。

「じゃあ、俺行くところあるから。返事はしてくれなくていいからなっ!」

「やだもう。夢くらい逃げないでこっちにきてよトモちゃん…!」

 チョップの素振りをしつつにじり寄ってくる幼馴染から僕は全速力で逃走しました。

 あいつの事だからほどなくして今日がエイプリールフールだと気づいて正気に戻ってくれるでしょう。

 

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 その後も僕はいろいろな人に嘘の告白を続けました。

 

「カオス、俺、お前が好きだ!」

「うんっ。私もだよお兄ちゃん」

 

「風音、俺、お前が…何でもない」

「そうですか? 何か言いたそうでしたけど…」

 

「会長、俺、アンタが好きだ!」

「…あら、そうなの。桜井君はそうなのね〜」

 

 まあ、ニンフ達以外にはあまり芳しい結果ではありませんでしたけど。

 カオスは素直すぎて嘘をついた気がしないし、風音はなんか気恥ずかしいし、会長の反応は意味不明でした。

 特に会長の反応は不気味です。あの人が僕に対して苛烈な言動をしない時は必ず裏があるのですが。

 

「ただいま〜。腹減った〜」

「お帰りなさいませ、マスター」

 ともあれ、夕暮れ時に家に帰った僕を迎えてくれたのはイカロスだけでした。台所で包丁を握るこいつもずいぶんと様になったものです。ニンフやアストレアはまだ部屋で悶々としているのでしょうか。いい加減に嘘だと教えてやるべきかもしれません。

 と、その前に。

「イカロス、俺お前が好きだ。結婚しようぜ」

「………はい」

 うむむ、いつも通りの無表情。実に薄い反応です。

 今さらですがわりと気恥ずかしい思いをして言ってるんですよね、これ。

「あのだなイカロス。実は今のは嘘なんだ」

「はい。97%の確立でそうだと思いました」

「なんだ、ばれてたのか。どうりで反応が薄いと思った」

「人間は嘘をつく生き物。そう教えてくださったのはマスターです」

「あ、そういえばそんな事言ったな」

 もう随分と昔の事の様に感じますが、確かに僕は彼女にそう教えた事がありました。

「ちぇっ。お前の驚く顔が見れなくて残念だ」

「…私も同感です。ひどく残念です」

 う。表情こそ動かさないイカロスですが、どうも僕を責めているみたいです。

 思えばイカロスは僕の事を変態扱いもしないし折檻も(故意では)しません。日ごろの仕返しという趣旨を思えば的外れな事をしてしまいました。

 

「ところでマスター。今日は何月何日かご存知ですか?」

「4月1日だ。実は今日はエイプリールフールといって、嘘が許される日なんだぞ」

 だから俺は悪くないぞ、と精一杯の自己弁護をしてみます。

「…やはり、そうでしたか」

 あれ? なんでイカロスのやつはそんな沈痛な表情するんだ?

「マスター。もう一度今日の日付を確認してください」

「いやだから4月1日…げっ!?」

 ケータイで今日の日付を確認した僕の目に飛び込んできた数字は―

 

 3月、31日。

 

「………茶の間のカレンダーは1日だったよな?」

 今日の朝、我が家の日めくりカレンダーは確かに4月1日となっていたハズなんです。

「あれはアストレアが一枚だけ鼻紙として余計に使っていました」

「…いつ?」

「一昨日です」

 なるほど。

 普段の僕なら気づけていそうなものですが、きっと今日の嘘の為に気分が高揚していたせいで見過ごしていたのでしょう。

「アストレアの奴…!」

 僕の綿密な計画が台無しになってしまいました。

 これではアストレアに一杯食わされたバカのレッテルを貼られてしまいます。

 今思えば、会長のあの意味深な態度はそこまで知ってのものだったのでしょう。

「ですから、マスターの嘘は許されないのです」

「うぐ。ど、どーすっかな…」

 イカロスに言われてようやく事の重大さに気づいてしまいました。

 わりと取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないでしょうか、僕は。

 

『…トモキ、そこにいる?』

 

「あ、ああ」

 噂をすればニンフが台所の前まで来てしまいました。

 さて、どうやって弁明するべきか。僕が頭を悩ませていると。

 

『そっか。ここに居たんだねトモちゃん』

『まさか、今度はイカロス先輩が毒牙に?』

 

 あ、やべ。

 そはらとアストレアもいるという事は。

 

『二股どころか三股。しかもアルファーに色目つかって四股って事ね………うふふ、いい度胸してるじゃない♪』

『やっぱりトモちゃんはドスケベハーレム王だったんだね。やっぱり私が修正しないとね、うん』

『乙女の純情を踏みにじった紙…じゃなくて罪は重いのよっ!』

 

 あー、やっぱりそういう解釈なんですね。

 きっと僕の弁明なんて紙くずのように捨てられて公開処刑が行われるでしょう。

 彼女達が台所のドアを破ってここに押し入ってくるのも時間の問題。かくなる上は。

「なあイカロス、お前の方から説明してくれないか?」

 我が家の最後の良心、イカロスに説得してもうしかないでしょう。あいつらもこいつの言葉なら耳を傾けるかもしれません。

 僕のお願いにイカロスは少し考え込んだあと。

 

「…お断りします」

「………えっ」

 屹然とした態度で、そう断言したのです。 

 

「先ほども申し上げた通り、マスターの嘘は許される物ではありません」

「いや事故なんだ! お前だって分かってるだろ?」

「…先ほどマスターが私に嘘をつかなければ、別の判断をしたかもしれません」

 お、おやおや〜?

 なんだか我が家の最後の良心はひどくご立腹な様ですよ?

 

『もういいわ、力づくで開けてやるから。パラダイス―』

 

 そうこうしている間にも迫るタイムリミット。

 時間切れは問答無用のデットエンド。

「少し時間をつぶしてきます。御武運を祈ります、マスター」

「明らかに祈る態度じゃねぇっ!?」

 翼を広げて台所の窓から優雅に脱出するイカロスさん。

 これからこの家が地獄と化す事を十二分に理解しているのでしょう。

 

『―ソングっ!』

 

 そして訪れる死の砲火。

「ああもう、やっぱ嘘なんてつくもんじゃねぇなぁ…」

 ニンフさんの超音波による衝撃に吹き飛ばされつつ、僕は今さらながら懺悔をするのでした。

 

 

 〜了〜

説明
『そらのおとしもの』の二次創作になります。 
 今回はエイプリールフールネタ。
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コメント
久しぶりにtkさんのそらおと見ましたな〜。ストックで2つあるのを俺も投稿しようかな。でも投稿すると新しいネタが思いつかないんだよな。エイプリールフールネタは去年したし・・・。(BLACK)
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