帝記・北郷:五〜彼方の面影:後之参〜
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『帝記・北郷:五〜彼方の面影:後之参〜』

 

 

「ククク…ハハハハハ!!どうです!!愛しい者の手で命を絶たれる!!なんとも滑稽でなんとも美しい結末ではないですか!!」

高々と声を上げる于吉に、龍志は何の反応も示さない。

「いやあ、大変でしたよ。弱った今ならば傀儡にすることも簡単だと思っていたら、頑強に抵抗するのですよ。何とか一つだけ、自分を触れたモノを刺せということだけを刷り込みましてね。それも一回実行したら解けてしまう程度……ですがその一介の結果は見ての通りですよ!!」

いやその肩が、腕が小さく震えていた。

「……一つ聞きたい」

「はい、何でしょうか?」

「魏で李斯と李信を名乗ったのは何故だ?」

「ああ、そのことですか。なかなか良い余興だったでしょう。秦の名宰相・李斯に猛将・李信。かつてあなたと共に始皇帝に尽くした方々の名を使うというのは。まあ、思ったよりもあなたは動揺しなかったみたわばっ!!」

于吉は最後まで言う事が出来なかった。

その顔に龍志の拳がめり込んだから。

「俺や北郷様がいた世界のとある漫画にこう言うセリフがある……」

極めて淡々とした声で龍志は語る。

そう、荒れ狂う激情を押し殺すかのように。

「くっ…」

凄まじい龍志の殺気に身の危険を感じた于吉は咄嗟に空間転移で逃げようとするが…。

「君の敗因は一つ……君は俺を怒らせた!!」

ゴバキッ!!

それより速く、龍志の拳が于吉を吹き飛ばす。

「うわらばっ!!」

奇声を上げながら于吉は壁に叩きつけられる。

「君は俺が一刀様の死を前にして絶望に打ちひしがれると思っていたかもしれないが…それほど俺は弱くない。策に溺れたな于吉」

それに…。と龍志は言葉を続け。

「一刀様はあの程度で死ぬような方ではない」

「なっ!!」

口から血を流しながら、一刀達の姿を見た于吉は我が目を疑う。

 

「つ…っと。大丈夫だよ華琳。誰も君を傷つけたりしない」

心臓を刺されたはずの一刀は、優しく華琳の手から短剣を取り投げ捨て彼女を抱きしめた。

「う…か…ず…と……」

小さく呟いて、華琳は再び深い眠りに落ちる。

それを見届けると、一刀は優しく微笑み胸元から何かを取り出した。

「ふう…念のために街で見つけた阿蘇阿蘇を胸に仕込んでおいて助かったぜ」

中央より少し上あたりに穴のあいた流行情報誌が、そこにあった。

 

「ば、馬鹿な……」

「残念だったな。策士としては一流の君だが、今回ばかりは趣味に走りすぎた」

「…!!」

もはやこれまで。于吉は一か八か最後の切り札に取っていた呪符を龍志に投げつけ、再び空間転移を図る。

飛来する三枚の符を、龍志は左手の長剣で一度に撃ち落とし。

「しっ!!」

もう一本の剣を右手で抜き放ち、抜き打ちに于吉へ斬りつけた。

「ぐああああ!!」

その剣は今当に消えんとしていた于吉の左腕を斬り飛ばすも、彼自身はそのままどこかへと姿を消す。

「逃がしたか……」

忌々しげに呟き、血を振り払った剣を鞘に収めると龍志は主の元へ行くべくその部屋を後にした。

 

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「あらあら真っ赤ねぇ…でも残念、ブ男とお揃いになっても嬉しくとも何ともないの」

赤い衣を翻し、鋸歯刀を振るいながら紅燕が嗤う。

「紅燕さん、こっちは片付きました!!」

「あ〜ら、ありがとう流琉ちゃん」

すでに体の自由を取り戻した流琉も戦線に加わっている。

…というか、何時の間に真名を呼ぶような仲になったのだろうかこの二人は。

「どうした?動きが鈍くなってきたようだぞ」

「黙れ……」

華雄と左慈の戦いも徐々に華雄の優勢へとなりつつあった。

単純な技量だけならば互角の二人だが、華雄は鳳嘴刀のリーチを生かして左慈に有利な間合いを取らせない。

逆に左慈は思い通りに動かない戦いに冷静さを欠きつつある。

実力の拮抗した二人だからこそ、この差は大きい。

「ふむ…やはり思ったとおりか」

大きく鳳嘴刀を振り、華雄は距離を取る。

「はあ!!」

それを見計らって逆に一気に距離を詰めてくる左慈だが、華雄の返しの刃を前にどうしても近寄る事が出来ない。

「左慈とやら、一つ聞こう」

「何だ!!」

「貴様は人間か?」

思いがけない問いに、狐につままれたような顔をする左慈。

やがて、大声で腹を抱えて笑い始める。

それを華雄は黙ってみる。

「何を言うかと思えば……くく、俺もお前達も所詮は外史の傀儡だ。そのことに気付いているかいないかの違いはあるがな」

「外史…か。それについては良く解らんが、一つだけ納得がいった」

鳳嘴刀を下ろし、華雄は髪を掻き上げる。

かつて董卓軍にいた時に比べて随分と伸びた髪を、そう言えばあの人が似合うと言ったから伸ばしたのだったなと、場違いだが思いだしてしまった。

「お前の攻撃には、ここぞという時に必殺の殺気がない。どうやら、我々の持つ生死とは違った観念を持っているらしいな。生命を断つ重さも覚悟も無い……だからお前の武技は完成されているようでいてそうではない」

改めて鳳嘴刀を大上段に構える華雄。

左慈は華雄の言葉に何ら反応を示すことなく、彼女を見ている。

「だからお前は……弱い」

「黙れぇ!!」

絶叫すると共に、渾身の力で横薙ぎの鎌鼬を放つ左慈。

大きく横に広がったそれは、横に避けることも刃で受けることも許さぬ必殺の刃……であるはずだ。

「言っただろう…お前の必殺は必殺ではない。ただ感情に任せて放たれる単なる技だ」

一気に鳳嘴刀を振り下ろす。

発生した鎌鼬が空中で激突する。

しかし、華雄の鎌鼬は左慈のそれにかき消された。

「無駄だ!!大人しく死……」

「いざ…忠義の嵐!!」

右脚を軸に何度も体を旋回させて無数の鎌鼬を放つ華雄。

それは文字通り触れるものを斬り裂く嵐となって左慈の鎌鼬を迎撃する。

左慈のように脚ではできない、武器を使うが故にできる乱撃。

そして最後、ぐるりと旋回して放った今までで最大の鎌鼬が威力の削がれた鎌鼬を打ち砕き左慈に襲いかかる。

その軌道は左慈が放ったものと全く同じ…つまり必殺の一撃。

ただ左慈のものと違ったのは、それに込められた気迫であった。

「馬鹿な…傀儡ごときにこの俺がぁ!!」

それが左慈の最後の言葉だった。

「成敗!!」

両断され塵のように消えゆく左慈を見て、華雄はそう締めくくった。

 

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「皆、無事か!?」

屋敷の中から華琳を背負った一刀が飛びだして来た。

その後ろから、追手を片づけながら龍志が続く。

「これだけ派手に暴れたんだ、いい加減警備隊が来る。急いで逃げよう」

一刀の言葉に、全員は屋敷の裏口へと駆けて行く。

その中には、流琉の姿もあった。

「流琉、君は…」

「私の役目は華琳様をお守りすることです」

それだけ言って、流琉はニコリと笑いかける。

「流琉……」

「っ!!止まれ!!」

その時、先頭を言っていた華雄が叫んだ。

「どうした!?」

獲物を構える華雄を紅燕の隙間から、前方を見る。

そこにいたのは……。

「北郷……」

「秋蘭……」

魏国の重鎮・夏侯淵とその手勢数十人であった。

「お前の背にいるのは、華琳様か?」

「秋蘭…これは……」

「その通りです夏侯淵将軍!!」

彼等の背後から男の叫びが聞こえた。

「彼等こそ、曹操様を拉致し魏国を転覆せんとしている維新軍の重鎮!今ここで討ち果たさなければ禍根を残しますぞ!!」

「于吉…」

龍志が苛立たしげに吐き捨てる。

左腕を失いながらも于吉は彼等を追って来たのだ。

だが彼の姿はもはや冷静な策士ではなく、誇りと愛しい男を失った一人の男にすぎない。

微かだが、龍志の目にも憐れみが浮かぶ。

「北郷、お前は…」

「秋蘭。こんなこと言えた義理じゃないけど…俺を信じてくれ」

「………」

しばらく黙って二人は見つめ合う。

互いの瞳に映る見えるはずのない自分の姿を見るかのように。

「何をしているのですか夏侯淵将軍!!はやくその逆賊を!!」

「………」

おもむろに秋蘭は愛弓に矢をつがえる。

「しゅ、秋蘭様!!」

それを見て流琉が秋蘭に駆け寄ろうとするが紅燕に止められた。

キリキリと引き絞られる弓を一刀は驚くほど落ち着いた目で見ていた。

「そう、そうですよ将軍!それでこそ魏の忠臣!!」

「…黙れ」

放たれる魏国屈指の矢。

それは一刀と華雄の隙間を縫って飛び、于吉の右腕に当たった。

「があ!!か、夏候淵将軍…あなたは魏国を裏切るのですか!!」

「黙れと言っている…貴様ごときに我らの絆は解るまい」

「秋蘭……」

「く…殺してやる…増!!」

再び現れる白装束。

消耗した身でいるにも関わらずその数は先程よりも格段に多い。

それを見て、秋蘭は鋭い声で一刀に。

「行け!!北郷、ここは我々に任せろ!!」

「で、でも…」

「早く行け…華琳様を頼む」

躊躇う一刀を、秋蘭につき従う兵達が促す。

「行ってください隊長!!」

「曹操様を頼みます!!」

彼等はかつて北郷隊にいた、一刀の元部下たちだった。

「も〜う。早く行くわよご主人様!!」

「ちょ…紅燕!!」

「行かないと、あの子達の覚悟を無駄にするわよ!男なら聞きわけない!!」

紅燕の言葉に、一刀は何も言えなくなった。

ただ、一言。

「秋蘭!皆!死ぬなよ!!」

それだけ言って、夜闇へと消えて行く。

それを見送り、秋蘭は白装束を迎え撃たんと自分の隣に立った流琉に声をかける。

「流琉…お前も行け」

「え!?」

「華琳様の親衛隊長の一人が、主を放っておいてどうする!!」

「!!」

厳しいその声色にびくりと身をすくませた流琉だったが、すぐに頭を振って一礼すると一刀の後を追いかけた。

「さて…それでは始めるとするか」

「その前にちょっと良いかしら?」

何時の間にか秋蘭の背後にいた紅燕がちょんちょんと秋蘭の肩をつつく。

「な、何だ貴様は?」

「いやねえ〜、ちょ〜っとお耳に入れたいことがねぇ……」

 

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夜の?を、一刀は駆ける。

背に最愛の人の重みを感じながら、疲労困憊の体を前へ前へと進ませ続ける。

「夜の内に城を抜けて遊軍との合流地点へ行きましょう!」

城を脱出する手筈も、それからの事も全て準備は出来ている。

問題はそれからのことだ。

王を失った魏は恐らく動乱へと突入していく。その中で、自分たち維新軍がどんな道を歩むことになるのか。

「まあ、何とかなるかな?」

ある意味無責任かもしれない。だが、どうにかなるという確信に似た思いが一刀にはあった。

この世界に戻って来て出会った新しい仲間達、自分を慕い旗の下に集ったかつての仲間達、立場は分かれても心が通じ合う仲間達。

そして今背で眠る少女。

「……楽しそうですな」

「そう見えるかい?」

「ええ…まあ、縮こまっているよりも好ましいですがね」

隣を行く龍志が笑う。

つられて一刀も笑った。

 

動き始めた新たな外史は思いもよらない道をたどり始めた。

その道がどこに続いているのかは誰も知らない。

されど言えることは。

北郷一刀という帝王の物語は今始まったばかりだということである。

 

 

                    〜第一部・完〜

 

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後書き

 

ああもう、長い。試行錯誤をしながら七時間かけて執筆です。あまりの現状に最後は息切れ気味……一度書き始めたら止まらないこの性癖何とかならないものか。

 

ええと…はい、第一部が終わりました。前回のコメから第二部の開始は決めているので、まったりとお待ちください。支援してくださった方々には本当に感謝です。

 

今回、やや龍志が出しゃばりました。実は、現在構想中の第二部において彼の立場が一部に比べてかなり変わるので、ちょっと活躍させたかったのです。不快でしたらすみません。

 

それから、こう言う事は本来書くべきではないのですがこの場を借りて書かせてもらうと、この『帝記・北郷』はオリキャラに重要な立ち位置を与えています。つまりはそういう作品です。オリキャラを出しすぎて原作キャラの魅力を食うことや、一刀の魅力が薄くなることは避けていますが、オリキャラを通じて作者が読み手の皆様に伝えたいこともあります。ですので、オリキャラというだけで忌避するのではなく、どうして作者がオリキャラを出したのかという意図も踏まえて読んで下さると幸いです。それは単に人数合わせであったり、原作ではなかったけれどこういう話も恋姫の世界ならばあるのではないかということの表現であったり、原作キャラの魅力を上げるために必要だと思ったためだったりと様々です。それを感じながら読んでいただくと、この作品をもっと楽しめるのではないかと愚考いたします。

無論。悪いところは改善していきますが(そうでないとアンケートの意味もありませんし)。

 

それから、恋姫にシリアスは似合わないという意見もありました。事前に書いておきますが、鬱とまではいきませんがシリアスな展開は今後かなりあります。戦いや人間関係というものがある以上、そこで起こるのは明るい世界ばかりではありません。ハッピーエンドが好きな作者ですが、そういう暗い部分を超えた果てにあるハッピーエンドだからこそ価値があると思っています。ですので、シリアスな恋姫は受け入れられないという方は、これからは自己責任でお読みください。偉そうな意見ですが、作者としてははっきりさせておきたかったので書きました。

 

重い話になりましたが、今後も『帝記・北郷』をよろしくお願いします。インターバルの作品を挟んで、第二部に突入となります。

 

では、また次の作品でお会いしましょう。

 

追記

于吉と左慈はこれからも出ますよ。

 

 

説明

帝記・北郷の五作目後篇二部。 今回は少し龍志が活躍(?)気味それから于吉や左慈が好きな人は見ない方がいいかもです。 オリキャラとパロネタにご注意を。
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コメント
華雄 テラ強す!!!(tan)
なぜオレンジw(りょんりょん)
あしがけアルミハクさん→ジョジョです。第三部しかまだ読んでませんが大好きです。維新軍の今後は…まあ、あっと驚くような展開を目指して頑張ります(タタリ大佐)
TOXさん→いやぁ…何か、ついついあのネタを使っちゃうんですよね、彼女に(タタリ大佐)
まさかのジョジョww しかしここまで魏に対して大きく動くとなると今後の維新軍の展開が気になります(あしがけアルミハク)
何故だろうww華雄がジェレミア・ゴットバルトに見えたwww(TOX)
nokakaki→龍志の記憶力は凄いのです(笑)(タタリ大佐)
灰猫さん→原作キャラをそういう目に合わせるつもりは全くないのでご安心を(タタリ大佐)
Poussiereさん→一刀って、本当に何故か気付くと活躍している気がするんですよね。それに甘えないように書いていきます。(タタリ大佐)
りばーすさん→キャラの個性を生かせるようにこれからも書いていきたいと思います(タタリ大佐)
ビスカスさん→阿蘇阿蘇は…私の故郷の名山であり(聞いていない)まあ、そんなわけで出したくなったもので(タタリ大佐)
Kokさん→一刀と龍志は対であり同じでもあるという複雑な位置なんですよね。作者としても実は扱いが難しかったり…(タタリ大佐)
@@さん→ありがとうございます。華雄は何というか…作者も知らないうちに格好良くなるキャラです (タタリ大佐)
ぬこさん→何故か華雄には某辺境伯のネタを使いたくなる作者です(タタリ大佐)
凍傷さん→私も覚悟決めて書きます(タタリ大佐)
MiTiさん→秋蘭の今後もご期待ください(タタリ大佐)
つよしさん→ご期待に添えるよう頑張ります(タタリ大佐)
(原作メインキャラが)死ぬ・陵辱される等の展開でなければ全然シリアスおkですよ。今後の展開に期待してます!!(猫)
阿蘇阿蘇最強伝説・・・・・オリキャラが一杯出てきてもさして、問題ないと自分は思いますね。 一刀なら出番が少なくても必ず活躍するキャラですし(自分の考えw)。@シリアスな展開があっても、最終的にはっぴーENDなら良いと思います。(Poussiere)
阿蘇阿蘇wwwwキャラがとても素晴らしい立ち回りしていていいですねぇ。第二部勝手ながら期待させていただきます(りばーす)
阿蘇阿蘇最強ですねwww今回はとってもおもしろかったです!!次回作も期待していますwww(ビスカス)
龍志の立ち位置が一刀の救われなかった可能性、一刀の立ち位置が龍志が救われた可能性となり、対比されているのでオリジナル展開でも話しに深みが出ています。第二部も楽しみに待ってます。(Kok)
続き超期待。恋姫にシリアスはあってもいいと思います。あと『忠義の嵐w』某辺境伯を思い出しました…。(ぬこ)
助かったのが雑誌のおかげとか…ま〜一刀らしいね。最後に秋蘭になんて囁いたのかヒデューに気になります!続きに期待(MiTi)
GJです!二部楽しみにしています!(つよし)
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