真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第十六回 番外編:虎牢関の戦いB・覇王曹孟徳
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高順が虎牢関本陣へ急行していた頃、虎牢関右翼では、後を託された臧覇・曹性・侯成らが中心となって、公孫賛軍の襲撃に備えていた。

 

 

 

侯成「いやー、それにしても、実はオレ一度でいいから白馬長史の白馬義従に会ってみたかったんスよね」

 

 

 

戦場に不釣り合いな軽装備の侯成は、敵兵を剣で切り伏せると、童顔をうっとりとした表情にさせ、遠くに見える白馬の軍団を眺めた。

 

 

 

曹性「油断は禁物でさぁ侯成殿!」

 

 

 

曹性は、ギョロリとした大きな目で敵兵を凝視し、手にした弓で敵兵の目玉を的確に次々と射抜き終えた後、

 

汗をぬぐうために兜を脱ぐことで、やや心許ない頭を露わにさせながら侯成に注意を促した。

 

 

 

臧覇「そうだぜ侯成。白馬義従といえば、公孫賛が降伏させた異民族の烏丸族の中でも、特に騎射の腕に覚えのある奴ばかり引き抜いて

 

作ったっていう幽州最強の騎馬軍団。戦力的には馬騰率いる西涼の騎馬軍団には劣るが、馬に見とれてると、一気に蹴散らされるぜ」

 

 

 

頭以外全身重装備の臧覇は、馬上で長い黒髪のポニーテイルを靡かせながら、

 

小柄な体格に不釣り合いな双戟を駆使して敵兵を次々になぎ倒しつつ、同様に注意を促した。

 

 

 

侯成「ちょっと待ってくださいッス臧覇さん!確かに白馬義従は西涼の騎馬軍団に戦力では劣るかもしれないッスけど、大陸一の美しさ

 

を誇るんスよ!その整然と戦場を駆け巡るさまは、まさに天上を自由に舞う鳥獣の如しッス!そこにシビれる!あこがれるゥ!ッス!」

 

 

臧覇「そうかよ、じゃあ余計に見とれねぇことだぜ。本当に踏みつぶされるぜ」

 

 

 

しかし、侯成はうっとりした表情で臧覇の馬を見つめており、頭はすでに違うことでいっぱいであった。

 

 

 

侯成「はぁ・・・臧覇さんの馬は可愛いッス・・・あ、臧覇さんも可愛らしいッスよ」

 

臧覇「・・・テメェあとで殴る・・・さぁ冗談はここまでだぜ。さっさと高順殿の期待に応えるぜ!」

 

 

 

臧覇は侯成を双戟でボコボコにした後、女性のような整った可愛らしい顔でギロっと一睨みしながらそう告げると、

 

白馬義従に、具体的には先頭を走る赤髪の女性に向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 

公孫賛「まったく、袁紹の奴、さっきまで出撃する必要はありませんわとか言ってたくせに、急に右翼を攻めろなんて、人使いが荒いぞ。

 

こっちにも準備ってのがあるのに。それに曹操の奴も、勝手な行動なんかして、いったい何を考えてるんだ?」

 

 

 

曹操が右翼を離れてしまったため、急遽右翼へ向かうよう命じられた公孫賛は、

 

愚痴をこぼしながら白馬の一群を率いて虎牢関の右翼を目指して進軍していた。

 

しかしその時、

 

 

 

公孫兵「公孫の姐さん、なんや前から一騎突っ込んで来まっせ!」

 

公孫賛「本当だな・・・何なんだあれは?」

 

 

 

ガラの悪い、もとい、威勢のいい兵士の報告に対して、そのように疑問に思っていた公孫賛だが、

 

その騎兵はみるみる内に公孫軍との距離を縮め、あっという間に眼前まで接近し、手にした双戟を公孫賛の首目掛けて振るってきた。

 

 

 

公孫賛「なっ・・・!?」

 

臧覇「テメェが公孫賛だな!?悪いが、これ以上先は行かせねぇぜ!」

 

 

 

小柄な体に不釣り合いな重装備にもかかわらず、その放たれる一撃は想像以上に速く、そして重かった。

 

そのような予想外の奇襲を受け、かろうじて剣で受けとめた公孫賛は顔をしかめながら愚痴った。

 

 

 

公孫賛「くっ・・・!可愛らしい顔して、物騒な武器を振り回す女だな!」

 

臧覇「・・・ぜってー討ち取る・・・!!」

 

 

 

公孫賛の発言に機嫌を損ねた臧覇は、より一層猛攻を強める。

 

そして臧覇に続いて、侯成と曹性らも兵を率いて白馬義従に突っ込んでいった。

 

 

 

虎牢関右翼での乱戦が、今始まった。

 

 

 

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【司州、虎牢関、董卓軍本陣】

 

 

 

時は少し遡り、まだ曹操軍の虎牢関内侵入が起こる前のこと・・・

 

 

 

董兵5「伝令!予定通り我が軍の投石部隊による攻撃により、敵軍の虎牢関正面への進軍が滞っています!現在進軍しているのは劉備軍

 

のみです!」

 

 

賈駆「わかったわ。そのまま投石を続けてちょうだい」

 

董兵5「はっ!」

 

 

 

董卓軍は、虎牢関から投石機による攻撃を行っており、その雨の如く降り注ぐ巨岩のせいで、

 

 

 

劉備軍が虎牢関正面に進軍して以来、連合軍の虎牢関正面への後続の軍は、進軍をためらっている状況であった。

 

 

 

賈駆「よし、正面が手薄な今が好機ね。みんな、恋が劉備軍を退け次第、すぐに補給物資に紛れて月を長安に脱出させるわ。それと李儒、

 

えっと、その・・・ボクは月について行くから・・・」

 

 

 

そこで賈駆は言葉を濁した。次に続く言葉は、事実上李儒の命を危ぶめるものに他ならないからである。

 

 

 

李儒「全部言わんでもええで〜。ここの指揮のことはウチに任せて、安心して脱出してや〜」

 

 

 

ここで脱出が少しでも遅れるというのは死を意味するに等しいことであった。

 

しかし、それでも李儒はニコニコした表情を崩すことなく、たてた人差し指をくるくる回しながらやんわりと答えた。

 

自身の役割をはっきりと理解しているからこその、迷うこと無き確固とした返事であった。

 

 

 

董卓「りっちゃん・・・」

 

李儒「大丈夫です〜ゆえちゃん。ウチは見かけによらずしぶといですから〜♪」

 

賈駆「ごめん李儒・・・李?、李儒の護衛、頼んだわよ!どんな手を使ってでも必ず生きて長安に脱出しなさい!」

 

李?「必ずや!」

 

 

 

賈駆は一言李儒に謝ると、再び毅然とした表情に戻り、指示を出していく。

 

この切り替えの早さ、そして、主君を守るための非情な采配をやってのけることこそ、優秀な軍師として必要な素養なのかもしれない。

 

 

 

賈駆「よし、そろそろ補給物資の準備を!郭、あんたには月とボクを運んでもらうから、すぐに一般兵の姿に―――!」

 

 

 

しかしその時、事態は大きく動き出した。

 

 

 

董兵6「伝令!虎牢関内への敵軍団の侵入を確認しました!旗印は “曹” 、曹操軍です!」

 

董卓「・・・!!」

 

賈駆「何ですって!?曹操軍は右翼から攻めていたはず!それよりも、呂布はやられたの!?」

 

董兵6「いえ、呂布将軍は依然門前にて劉備軍と交戦中です!」

 

賈駆「じゃあいったいどこから・・・!」

 

 

 

賈駆は予想外の事態にやや混乱していた。

 

そのため、周囲の崖を強行突破し城壁をよじ登って侵入する、というイレギュラーな侵入経路をすぐに思い浮かべることができなかった。

 

 

 

李?「賈駆様、とにかく私が止めに参ります!郭、ここは頼んだぞ!」

 

郭「心得た!」

 

 

 

李?は手勢数名を引き連れて部屋の外へ飛び出し、侵入者の迎撃に向かった。

 

 

 

李儒「恐らく、正門以外からの侵入経路があるんでしょうね〜。例えば、城壁をよじ登らはったとか〜」

 

 

 

李儒はニコニコとしつつも真剣な面持ちで、たてた人差し指をクルクル回しながら一つの可能性を述べた。

 

 

 

賈駆「そんな馬鹿なことが・・・!いや、周囲の崖を強行突破したら可能か・・・すぐに城壁及び崖付近に敵が移動した痕跡が残って

 

いないか確認して!」

 

 

董兵6「はっ、しかし、すでに正門は完全に封鎖してしまっているため、正門から城外へ出るのは困難を極めますが・・・」

 

 

 

城内に敵が侵入してしまったということは、敵軍が董卓の首のみを狙わない限り、

 

例えば戦功をあげようと呂布を背後から狙うため、もし正門が内側から破られてしまえば、呂布が挟み撃ちになってしまう。

 

そのため、正門は完全に封鎖され、内側からすら開けることはほぼ不可能となっていた。

 

 

 

李儒「ほなら、城壁から降りはったらええんとちゃう〜?曹操はんは城壁を登って侵入しはったんやから〜」

 

 

 

李儒はニコニコした表情でとんでもないことを言いだした。

 

 

 

董兵6「し、しかし、城壁を登るのと降りるのでは・・・」

 

 

 

木登りと似たところがあるが、登るのは出来ても降りるのは難しいことはよくあることで(落ちるのであれば簡単ではあるが)、

 

曹操軍は城壁を強引に登って虎牢関内へ侵入したが、何の道具もなしに何メートルもある城壁を降りることなど、

 

並の人間には到底不可能である。

 

 

 

賈駆「グズグズ迷っている暇なんてないわ!!そんなの気合で何とかしなさい!!」

 

董兵6「は、はっ!!」

 

 

 

軍師たちの無理難題に一瞬躊躇するも、賈駆に叱咤された董兵6は急いで城壁へと向かった。

 

 

 

董卓「詠ちゃん・・・」

 

 

 

董卓が心配そうに賈駆の名前を呼んだ。しかし、その瞳にはあきらめの色が見え隠れしていたのを賈駆は見逃さなかった。

 

 

 

賈駆「大丈夫よ、月。絶対に死なせたりなんかしないんだから・・・!」

 

 

 

賈駆はグッと握りこぶしに力を込める。

 

 

 

賈駆「とにかく最悪の事態を想定して、ボクと月、李儒は侍女の服装に着替えて。董卓はすでに虎牢関から脱出した態を装うわよ!」

 

 

 

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数十分後、放った斥候が帰ってきた。どうやら本当に気合で城壁外へと降りたらしい。

 

このあたり、董卓様のためならどのようなことでもやってのけましょう!と常々豪語している、よく訓練された兵士たちである。

 

中にいるのは郭とその手勢数名、そして侍女姿をした董卓、賈駆、李儒である。

 

内部の人間でなければ、まず董卓が本陣内にいるとは分からないだろう。

 

 

 

董兵6「伝令!賈駆様のおっしゃる通り、周囲の崖及び城壁に人の通った形跡を確認いたしました!さらに、崖の近くには大量の軍馬が

 

放置されてありました!」

 

 

賈駆「やっぱり正規の道からの侵入じゃなかったようね・・・!」

 

李儒「あの崖はお馬さんがいはったらまず突破できませんからね〜。まさか虎牢関にこんな穴があったやなんてね〜」

 

 

 

李儒が人差し指を立ててクルクルしていると、そこへさきほど曹操軍を止めに行った兵士が息を切らして走ってきた。

 

 

 

董兵7「伝令!・・・敵の攻撃が激しく・・・李?将軍だけでは抑えきれそうにありません・・・!」

 

賈駆「くっ・・・分かったわ!すぐに城壁から外に出て各戦場に状況を説明、援軍を呼んで!」

 

董兵3・4・6「「「はっ!」」」

 

 

 

一度成功すればもう遠慮することはなく(最初から遠慮などしていなかったが)、賈駆は再び城壁を移動手段として、兵士たちに命じ、

 

兵士たちも、もはや文句ひとつ言わず賈駆の命令に従った。

 

 

 

郭「賈駆様!その城壁からの移動手段を使って董卓様をお逃がしすることはできないのですか!?」

 

賈駆「馬鹿言わないで!月にそんなことさせられるわけないでしょ!?」

 

 

 

兵士たちがどのような方法で城壁を降りているか分からないが、おそらくとんでもない荒業であることは疑いようもない。

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

董卓「んーん、詠ちゃん。いざと言うときは私頑張るよ。みんなが命懸けで戦っているのに、私だけ楽をするわけにはいかないよ」

 

賈駆「月・・・」

 

 

 

董卓の瞳は真剣そのものだった。

 

 

 

李儒「賈駆ちゃん、ここは決断の時かもですね〜」

 

 

 

董卓の真剣な眼差しと、李儒のニコニコした表情を交互に見やり、一度目を閉じた賈駆はついに意を決する。

 

 

 

賈駆「・・・わかったわ。すぐに城壁から月を逃が―――」

 

 

 

しかし、続く言葉は次に起きた出来事によってかき消されてしまった。

 

 

 

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バタンという扉が開け放たれた大きな音と共に、血まみれの李?が入ってきた。

 

 

 

李?「ぐぅぅ・・・董・・卓・・様・・・お逃げ―――」

 

董卓「李?さん!」

賈駆「李?!」

 

??「しぶといわね、邪魔よ」

 

 

 

李?の背後からそのような冷めた声が聞こえたかと思うと、その手に持った死神が持っているような大鎌で李?の首を刎ね飛ばした。

 

李?の首は胴から切り離され、胴が自身の血の海に沈むと同時に、董卓たちの目の前に転がっていった。

 

 

 

董卓「・・・!!」

 

賈駆「あれは死神鎌、絶・・・あいつが曹操か・・・!」

 

郭「おのれ、よくも李?を!!」

 

 

 

長年共に董卓に仕えてきた李?を殺された郭は激高して、曹操に向かって突撃した。

 

 

 

賈駆「待って!無暗に出たら・・・!」

 

 

 

しかし、賈駆の制止は郭に届くことなく、郭は突撃を続けた。

 

そしてそんな様子を静観していた曹操は、横に控えていた女性を呼んだ。

 

 

 

曹操「夏侯淵」

 

夏侯淵「御意」

 

 

 

呼ばれた夏侯淵は、愛弓・餓狼爪を無駄のない滑らかな動作で構えると、偶然なのか恐るべき勘の持ち主なのか、

 

侍女姿をした董卓に狙いを定め、躊躇なく矢を放った。

 

放った矢は郭の顔の横を通り抜け、董卓へに向かって飛んでいく。

 

 

 

董卓「!!」

 

賈駆「月!!!」

 

郭「チッ、おのれ董卓様を・・・!」

 

 

 

その矢を遮るものは何もなく、無情にも一直線に董卓の額に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もがそのようなイメージを抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

李儒「アカン!!」

 

 

 

普段のニコニコした表情からは想像できない程目を見開いて、李儒が董卓の前に飛び出した。

 

結果、夏侯淵の放った矢と董卓の軌道上に李儒が重なり、そのまま矢は李儒の額へと突き刺さった。

 

トスッと乾いた、無情な音が室内に響き渡った。

 

これが人を殺傷する道具の出す音かと疑わずにはいられないような、滑稽なまでに無機質な軽い音。

 

 

 

董卓「りっちゃん!!!」

賈駆「李儒!!!」

 

李儒「ゆ・・・え・・・ちゃ・・・」

 

 

 

李儒は董卓の方へ振り向くこともかなわないまま、董卓の真名を呟きつつ、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

郭「かこぉぉぉぉぉぉぉぉぉえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっっっ!!!!!!」

 

 

 

郭は李儒の死にさらに怒り狂い、夏侯淵に向かって自身の持っていた槍を至近距離から投げつけた。

 

通常敵軍と対峙している時に自身の武器を手放すことは愚の骨頂であるが、至近距離から放たれたそれは、回避不可能の必殺の一撃。

 

 

 

しかし、

 

 

 

夏侯淵は回避することもせず、無表情を崩さないまま流れ作業のように五本もの矢を続けざまに放ち、

 

その内の三本で槍の軌道を変えた上で打ち落とし、

 

残りの二本のうち一本で郭の額当ての布部分を、あたかも狼に食いちぎられたかのごとく正確に破りとって無効化し、

 

もう一本で郭の額を正確に打ち抜いた。

 

接近戦では圧倒的に不利とされる弓であるが、この辺りは魏武の閃光と恐れられる夏侯淵だからこそできる神技であった。

 

 

 

董卓「郭さん!!!」

賈駆「郭!!!」

 

郭「お二方・・・早く・・・お逃げ・・・くだ・・・」

 

 

 

郭も李儒と同様に、その場へと崩れ落ちた。

 

 

 

気が付けば、郭の手勢も皆夏侯淵の弓隊に射殺されており、本陣にはもはや董卓と賈駆しか残っていなかった。

 

 

 

ほんの数十秒、あっという間の出来事であった。

 

 

 

曹操「ようやくうるさいのが片付いたみたいね。まあ、私の兵士を随分痛めつけてくれたみたいだけど」

 

 

 

李?が応戦し始めてから数十分もの間は、まだ曹操や夏侯淵は虎牢関深部に到達しておらず、

 

先に到着していた先方隊の大方は李?の部隊に蹴散らされていたが、

 

曹操と夏侯淵が到着するや否や形勢が一気に逆転し、李?は窮地に追い詰められたのであった。

 

今は夏侯淵の弓隊が董卓と賈駆に狙いを定めている。

 

 

 

賈駆(李儒・・・李?・・・郭・・・くそっ!こんなにも早く敵が本陣に入ってくるなんて・・・!)

 

曹操「さて、想像していたのと随分違う容姿のようだけれど、一応確認するわね。あなた達が董卓と賈駆かしら?」

 

 

 

曹操が董卓と賈駆を交互に一瞥した後、背筋も凍るような鋭い眼光を両者に向けた。

 

 

 

賈駆「な、何を仰っていらっしゃるのかは存じ上げませんが、私たちは董卓様の侍女にございます。董卓様なら、すでに洛陽にお戻りで

 

ございます」

 

 

 

当然ここで、はい私たちが董卓と賈駆です、などと言い出すはずもなく、賈駆は白を切る。

 

しかし、

 

 

 

曹操「あなた達、私を舐めているのかしら?さっき、首を刎ねた男が、あなた達に向かって『董卓様』と言っていたわ。それに、そこに

 

倒れている男も、あなた達に向かって『お二方早くお逃げください』と。果して、侍女相手にこんな丁寧な言葉遣いをするものかしら?」

 

 

 

曹操はその場しのぎで誤魔化せるほど甘い人間ではなかった。曹操はわずかな情報から、この場に董卓と賈駆がいることを看破していた。

 

 

 

賈駆「・・・そうよ、ボクが董卓よ」

 

 

 

こうなってしまえば、後は自身が董卓の身代わりになり、何が何でも本物の董卓を生かしてもらう。

 

これが今できる賈駆の最善の方法であった。

 

 

 

しかし、

 

 

 

曹操「そう、あなたが賈駆ね」

 

賈駆「何を言っているの!?ボクが董卓よ!」

 

曹操「董卓をかばおうとしているのが丸わかりよ。それなら、何もしゃべらなかった方がまだましだったわね」

 

 

 

そんな賈駆の思惑をあざ笑うかのように、曹操は賈駆の嘘をも簡単に看破してみせた。

 

この女をだますことなどボクにはできない。賈駆は心底思い知らされることになり、ついに観念した。

 

 

 

賈駆「くっ・・・!あんた達は諸侯に踊らされているのよ!そんなこともわからないの!?」

 

 

曹操「あら、もちろん知っているわよ。あなた達が張譲に嵌められたことも、袁紹がこの戦いを利用して中央への影響力を強めようと

 

していることもね」

 

 

 

つまりはこの虎牢関の戦いとは、結局諸侯の権力争いになるわけで、曹操や孫堅ら反董卓連合軍は、

 

袁紹と張譲ら中央の諸侯との権力争いに巻き込まれた形になるわけで、袁紹の駒に過ぎないのである。

 

 

 

曹操「むしろ、知らないのは劉備とかいう新参者くらいじゃないかしら?」

 

賈駆「じゃあボク達の悪い噂が全部諸侯によるものだと知ってて・・・袁紹に利用されていると知ってて・・・なぜ・・・!」

 

曹操「ふふ、どうやら、賈文和ともあろう者が、この戦いの価値を理解していないようね。あなた達董卓軍を討つことの本当の意味が」

 

賈駆「何ですって!?」

 

 

 

曹操は手持無沙汰なのか、絶を手元でくるくる回しながら賈駆に語った。

 

 

 

曹操「袁紹は馬鹿だから、悪名高い董卓を討つことで、英雄を気取りたい程度にしか考えてないでしょうけれど、この戦いにはもっと

 

大きな意味がある」

 

 

 

夏侯淵の弓隊に命運を握られている中、董卓と賈駆は、ただ曹操の話を聞くしかなかった。

 

 

 

曹操「あなた達董卓軍は、いうなれば張譲ら宦官勢力を守る最後の砦だったのよ。それを愚かにも張譲は自ら手放した。己の愚かな行動

 

のせいで、そして、目先の面目を守るために」

 

 

賈駆「どういう―――」

 

曹操「あら、まだ分からないのかしら?あなた達を討つことは、同時に宦官勢力の終焉をも意味するのよ」

 

賈駆「―――ッ!!」

 

 

 

賈駆の反応を見るに、どうやら曹操の言いたいことを理解したようである。

 

 

 

曹操「あなた達という矛を失った宦官勢力なんて丸腰同前。退けるのなんて赤子の首をひねるよりも容易いことでしょうね。そして、

 

腐敗した世の原因を作った宦官勢力を廃することは、新たな世の担い手となる機会を得ることになるわ・・・」

 

 

賈駆「つまり、この反董卓連合軍に参加している群雄は、袁紹の駒どころか、むしろ隙を見て次世代の中央に潜り込もうとしている餓狼

 

ということ・・・!?」

 

 

 

つまり、政治腐敗の象徴であり、世間の評判も最悪であった旧時代の中央のトップをすべて退け、

 

その勢いのまま世間の支持も受け、中央のトップに躍り出ようということである。

 

この戦場では、様々な人間のドロドロした思惑が渦巻いていた。

 

 

 

賈駆「でもそんなことしたら、世の中は今以上に乱れ―――!」

 

 

 

当然、皆がその座を狙っているのなら、さらなる戦いは避けられず、本格的な戦乱の世の始まりとなる。

 

しかし、

 

 

 

曹操「当然よ。まさか、何の犠牲もなく太平の世を築けるとでも思っていたのかしら?これからは群雄割拠の時代になるでしょうね。

 

でも、最後に勝つのは、この曹孟徳よ。我が覇道の先にこそ、真の太平の世は訪れるのよ」

 

 

 

自らの行動が戦乱の世の引き金となる事を理解していてなお、自身の覇道を邁進しようとする曹操。

 

それだけ、曹操には乱世を勝ち残れる絶対的な自信があった。

 

 

 

賈駆「くっ・・・!」

 

 

 

諸侯の思惑を話せば曹操を説き伏せられるのでは、という淡い可能性に賭けていただけに、賈駆は何も言い返すことができなかった。

 

 

 

曹操「それより、そろそろ私は董卓から話を聞きたいのだけれど?」

 

董卓「・・・・・・」

 

 

 

曹操は、今度は董卓に刺すような鋭いまなざしを向けた。

 

しかし、董卓は目を閉じたまま何も語らない。

 

 

 

曹操「死ぬ前に何か言い残すことはあるかしら?」

 

董卓「・・・・・・」

 

 

 

相変わらず曹操の問いかけに答えない董卓を見て、賈駆は最後の悪あがきをした。

 

 

 

賈駆「(何としても月だけでも救い出す・・・!)ボクならこの命を差し出すわ、だからどうか董卓の命だけは・・・!」

 

曹操「あなたは黙っていなさい、賈駆。私は董卓と話したいの」

 

 

 

しかし、曹操はあっさりと賈駆の命乞いを切り捨てた。

 

 

 

董卓「・・・・・・」

 

賈駆「月・・・」

 

 

 

依然目を閉じたまま無言を貫く董卓であったが、やがてゆっくりと目を開け、曹操にゆっくりと語りかけた。

 

 

 

董卓「曹操さん、あなたはかわいそうな人ですね」

 

曹操「何だと?」

 

 

 

どんな醜い言い訳や命乞いの声が聞けるのかと期待していただけに、その予想外の発言に曹操はやや不機嫌な表情をつくった。

 

 

 

董卓「己が覇道のために何でも力でねじ伏せて。そんなことでは天下は統一できませんよ?」

 

 

 

董卓は周りに倒れる仲間たちを見据えながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出していく。

 

 

 

曹操「ほう、では逆に問おう、((逆賊|●●))董卓よ。あなたならどうするのかしら?」

 

 

 

裏の事情を知っているにも関わらず、あえて逆賊と強調した曹操の問いかけに、目を閉じていったん間を置いたのち、再び答えていく。

 

 

 

董卓「力でねじ伏せた上で成り立つ天下に平和は訪れません。本当の平和とはそのようなものに頼ってはいけないと思います」

 

曹操「答えになっていないわね、私はどうするのかと尋ねているのよ?」

 

 

 

董卓の要領を得ない答えに苛立ちを覚えながら、曹操は董卓に問うた。

 

 

 

董卓「私がその答えを知っていたら天下を統一しています。ですが、そうですね・・・例えば、つい最近管輅が占った “天の御遣い” 、

 

どのような方かは知りませんが、その方ならその答えを知っているかもしれませんね」

 

 

曹操「管輅だと!?あなたは私をバカにしているの!?それともあなたはあんな似非占い師を信じるほどの大馬鹿ものなのかしら!?」

 

 

 

今までイライラしつつも、静かに董卓の話を聞いていた曹操であったが、 “管路” という言葉が出てきた途端、急に声を荒げだした。

 

 

 

賈駆「曹操・・・!」

 

曹操「天の御遣い?乱世の救世主?そんなの、黄巾賊が乱したこの疲弊した世から救われたいと願う者から生まれた妄言にすぎないわ!」

 

 

 

曹操は鋭い形相で一気にまくしたてた後に、賈駆に向かって言い放った。

 

 

 

曹操「賈駆よ、このような愚かな主など捨てて、私に仕えなさい!今ならまだ仕官させてあげるわ。才の無駄遣いよ!」

 

 

 

ここで首を縦に振れば命は助かるだろう。

 

しかし、賈駆が次の判断をするのに時間はかからなかった。

 

 

 

賈駆「生憎、あんたみたいな奸雄様にやる策なんて持ち合わせていないわ」

 

曹操「・・・そう、良い返事ね。でも、賢い返事とは思えないけれど・・・夏侯淵!」

 

夏侯淵「御意、弓隊構え!」

 

 

 

曹操の合図と共に、夏侯淵の弓隊が賈駆と董卓に弓を構えた。

 

この状況から弓隊の矢を防ぐことなどは到底できるものではなく、それこそ天の奇跡でも起きない限り、二人の命はなかった。

 

 

 

董卓「ごめんね、詠ちゃん。ここでお別れだね・・・」

 

賈駆「何言ってるのよ、月!あっちでも一緒なんだから・・・!」

 

 

 

二人はお互いに抱きあい、最期の瞬間を待つ。

 

 

 

夏侯淵「放て!!」

 

 

 

夏侯淵の号令と共に、弓隊が無情なる攻撃を開始した。天の奇跡が起きるとしたら、今この瞬間でないと間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この曹孟徳、逆賊董卓を打ち取ったぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無情な天は奇跡を起こすことはなく、曹操の雄叫びと共に、曹操軍の鬨の声が、怒号響き渡る虎牢関近辺にとどろいた。

 

 

 

【第十六回 番外編:虎牢関の戦い・覇王曹孟徳 終】

 

 

 

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あとがき

 

 

 

第十六回終わりましたがいかがだったでしょうか?

 

月ちゃんも詠ちゃんも、このような結果になってしまい、非常に心苦しいことこの上ありません。

 

自身で最初に決めた方針であるとはいえ、どうして一刀君はこの瞬間に舞い降りないんだと、

 

自分で書いておきながら憤りを覚えると共に悲しくなってしまいました。月ぇ、、、

 

 

そして臧覇や侯成に称えられる白蓮。そうです。白蓮は出来る娘なのです!

 

相対評価ではなく、絶対評価で判断してほしいものです!普通評価とかありえません!

 

いじられている白蓮もいいですが、そうでなくても十分魅力ある娘なのです!

 

だって他の子と比べても断然輝いているじゃありませんか!何でわかってくれないんだ、、、

 

 

 

取り乱して申し訳ありませんでした。ところで、史実では祖父が宦官の為、宦官粛清論に反対だった華琳様が、

 

バリバリの宦官粛清派になってしまいましたが、例によってご都合主義ですのでどうかご容赦を、、、

 

腐った頭を潰し自身が新たな頭となる、どこの餡パン男だよというような馬鹿っぽい華琳様談ですが、

 

初稿の段階でフワフワしていた虎牢関の戦いの意味を、無い知恵絞って考えた結果、

 

時間制限によるstsの加筆修正の限界とどうかご容赦願います。

 

 

さて、次回で過去編は終了です。あと一回どうか蛇足にお付き合いください。

 

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

 

兵士に姐さんと呼ばれる白蓮すごい新鮮というか違和感 笑

 

 

説明

みなさんどうもお久しぶりです!または初めまして!

今回は過去編の三回目。タイトル通り、華琳様のターンです。

御遣い無き世に蔓延るは、避けて通れぬ悲劇なり、、、


それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・


※虎牢関の戦い@<http://www.tinami.com/view/595571>


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コメント
>ハルカ様  本当にどうにかならんかったのかと今になっても、、、ぐぬぬ、、、(sts)
バックグラウンドが見えてくると残されたメンバーの悲しさが今更になって伝わってきますね…月…詠…(ハルカ)
J 様、ご指摘ありがとうございます!stsの発想力のなさに萎えます 汗 虎は何となく中国だと白虎みたいな神格化したイメージもあるので「餓狼」に修正しときました。(sts)
ここはハイエナではなく「餓虎」とか「餓狼」とかの飢えた獣(当時大陸に生息していた)で良いと思います。意味合い的には中央権力に飢えているという感じで。(J)
>あ、あと詠サンが「ハイエナ」って言ってるんすけど、大丈夫すか?  実は中国でのハイエナと同義の比喩表現が分からなくて、、、一応苦し紛れの修正しときましたので、これでご勘弁を 汗(sts)
話の構成で避けられないことではあったけど、いざ読むと………月、詠( ; ω ; ) 一刀君には右手パワーでなんとかしてほしかった… あ、あと詠サンが「ハイエナ」って言ってるんすけど、大丈夫すか?細かくてすません;;(くつろぎすと)
>何で一刀この時にこなかったんだよ。月ぇ、詠ぃ(グス  一刀君なら絶対救えたはずなのに、、、ホントスイマセン T-T(sts)
>純真無垢な人ほどこの世は何も救ってはくれないんだよな・・・・・・。  せめてこのお話の中だけでも、優しい世界を構築できればよかったのですが、、、T-T(sts)
何で一刀この時にこなかったんだよ。月ぇ、詠ぃ(グス(兎)
真面目で素直・・・純真無垢な人ほどこの世は何も救ってはくれないんだよな・・・・・・。(sonron)
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