楽園都市防衛戦
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 201X年3月24日 0402・午前4時02分 夜明け前

 東京都渋谷区の代々木公園に突如、謎の機甲部隊が出現した。

 目撃者の証言や監視カメラの映像によると、それらは極彩色に輝く霧から現れたという。

 まず、全長200メートルはあろうかと思われる、潜水艦を思わせる黒い流線型の何かが表れた。

その下部には左右二列の進行波型全方位移動装置・カタツムリのように地面に接する鋼鉄のブロック・腹足に波を作ることで移動する装置を持つ。

 腹側は船体の左右に2列つけられており、復胴船のようにも見える。

 それが3隻。

 そのうち1隻は前部に2つ、後部に1つ3門の砲を持つ砲塔を積んでいた戦艦タイプ。

 もう2隻は兵器や兵員を乗せた輸送艦タイプだった。

 陸上艦隊は、新宿副都心から周囲1キロの街を円形に砲撃した。

 内側の人々をビル群に避難せざるを得ない状況に追い込んだ。

 そして1時間後、艦隊は移動を開始した。

 東京都庁第1庁舎。そして周囲の高層ビルに砲撃を加えると、3隻はビルの間に陣取った。

 そして兵を発進させた。

 エンジン音を轟かせ、戦車、戦闘ヘリコプターなど、我々になじみ深いが、見たことのない種類の兵器。

 そして異形の兵士を吐き出した。

 彼らは、砲撃音で飛び起き逃げ惑う人々を捕獲し始めた。

 そして無傷だった高層ビルに監禁した。

 さらに不思議なことに、ヘリコプターを使って高層ビル群に赤いペンキを塗り始めた。

 消火器のような物から噴出されたペンキの跡が、ビルの壁面に何十列も斜めに走る。

 人によっては、そのさまは切り刻まれた人体のようにも見えた。

 

 明らかに未知の知的生命体による侵略だった。

 

 日本政府はすぐさま自衛隊に防衛出動を許可した。

 その頃、富士演習場では、自衛隊、アメリカ軍、韓国軍による合同演習が行われていた。

 

 そして26日。

 関東地方から新潟までを守護する陸上自衛隊東部方面隊と、たまたま居合わせた米韓軍を中心とした約2万人を動員した、首都奪還作戦が開始された。

 もし東京直下型地震が起こった際には、瞬時に日本各地から9万人の救出部隊が駆けつけると言う試算がある。

 だが今回は、自然現象ではなく明確な侵略行為であるため、あのワープを行う雲がどこに現れるか分からない。

 そのため他の方面隊はそれぞれの管轄にて待機している。

 

 陸上自衛隊 東部方面隊 第1師団第1戦車大隊は、夜明けとともに重要な避難ルートである高速道路、中央自動車道を確保。

 その後を後続の普通化部隊に任せ、調布ICから国道20号線に降り、高速道路の陸橋を盾にしつつ新宿方面へ進んでいた。

 そしてついに、新宿から10キロ手前の上北沢で最初の攻撃を受けた。

 おそらく陸上自衛隊も装備する120mm迫撃砲や自走砲に似た兵器によると思われる攻撃はその後も続き、そのたびに自衛隊の特科部隊の援護を受けつつ進んでいった。

 しかしなぜ、異次元からやって来ることができる種族がそんな旧式と呼べそうな兵器を使ってくるのか?

 謎をはらみながら、戦いは続いていた。

 

 現在、1521・午後3時21分。

 大隊は救出要請のあったそれぞれの目標に向かって分散していった。

国道20号線沿いにある渋谷区の代々木警察署には、51人の民間人と警官32人が敵戦車に襲われ、立てこもっていた。

 第1戦車大隊A中隊第1小隊と第34普通科連隊第1中隊は、そこへ向かった。

「十二時方向。目標、敵戦車。鉄鋼榴弾装填。目視で照準」

A中隊長、中倉 和彦一等陸尉が10式戦車の中で叫んだ。

 「撃てぇ!」

 44口径120mm滑空砲が火を噴き、車体が大きく揺れた。

 液晶ディスプレイに映る目標の戦車は、全長9,42mの10式戦車より2回りは大きい。

 その装甲はお椀をかぶせたような、理想的な流形状。

 あれは、旧ソ連製の試作戦車・オブイェークト279ではないか?

 中倉はそう思った。

 

 ガン!

 

 10式の砲弾は、その砲塔にはじかれた。

 「土屋一曹!もう1度だ!」

 『了解!』

 中倉が無線で叫んだ先は、隣を走るもう1台の10式戦車だ。

 そこには中隊のサブリーダーである土屋 邦弘一等陸曹がいる。

 敵の砲塔は曲がったらしく、動かせないようだ。

 それでも、車体下部すべてを支える4列の無限軌道を回して砲を向けようとしている。

 その時、10式の2発の砲弾が敵戦車を貫いた。

 「やったぞ!」

 熱くなる中倉に対し、土屋が冷静に語りかける。

 『隊長、警察署から要救助者が出てきます』

 「分かった。ここで停車する。俺とお前、2台で車間距離を詰めて後方を守れ」

 左側に警視庁代々木警察署を見ながら、彼らは停車した。

 強化ガラス張りだった警察署はすべてのガラスが割られ、駐車していたパトカーは破壊され、ガソリンも燃え尽きていた。

 2人は砲塔の上にある車長用ハッチを空け、周囲を警戒し始めた。

 どんなにテクノロジーが発達しても、人間の目による確認は必要だ。

 それに彼らは、人が顔を見せることで、助けを求める人へ与える安心感を信じていた。

 彼らの戦車小隊には、後2台の74式戦車がある。 

 その2台はガードレールを乗り越え、四車線道路の反対車線に陣取っていた。

 後ろからは何台も96式装輪装甲車や高機動車が走ってくる。

 どちらも一度に10人前後の人を運べる。

 輸送車が警察署の前に止まると、隊員たちは次々に下車した。

 そして周囲を警戒したり、警察署の中へかけてゆく。

 警察署に向かった隊員の中に、大きな箱型の背嚢を担いだ者がいた。

 その瓦礫となった警察署からジェラルミンの盾と拳銃を持ち、防弾チョッキを着た警官たちが飛び出してきた。そして周囲を警戒する。

 その影を市民たちが走ってきた。

 「子供は21人!自力で歩けない老人も2人います!その人たちを優先してお願いします!」

 小さい子供を背負った父親らしい男性が叫んだ。

 そして子供を託すと、すぐ警察署へ戻っていた。

 このような受け渡しが続き、やがて子供たちと老人が乗り込んだ最初の装甲車が発車した。

 皆、2日間も狭い警察署内で閉じこもっていたのだ。

 その表情には疲労が滲んでいた。    

 周りの街には人気がない。

 敵の出現が早朝だったにもかかわらず、逃げ出せたのか、それとも…。

 遠くから雷のような砲音が、まだ戦いが終わっていないことを伝えていた。

 「おーい!中倉!」

 その時、普通科中隊の指揮官、永易 司一等陸尉が89式小銃を構えながらかけてきた。

 「これから無人機を飛ばす!映像を見ていてくれ!」

 あの箱型背嚢の中身だ。

 「了解!」

 中倉は車内に戻ると、コンピュータで地図情報を呼び出した。

 タッチパネルディスプレイには、周辺の地図の上に敵味方の配置を表すアイコンが映し出されていた。

 しばらく待つと、警察署から高速で新宿方面へ向かうアイコンが現れた。

 最近配備された無人機・UAVとも呼ばれる近距離用偵察ロボットだ。

 先端にカメラを持つ、エイのような形をした幅1mほどの全翼機タイプの飛行機で、羽についた2個の電動プロペラで飛行する。

 無人機を運び、紙飛行機のように飛ばす隊員と、コントロールする隊員の2人がいれば運用できる。

 無人機のアイコンをたたくと、撮影した映像が映し出された。

 正面のオブイェークト279似の戦車の残骸の後ろから、3台の同型戦車がやってくる。

 その後ろには歩兵装甲車か?それが3台。

 1台に歩兵8人積めるとして24人か。

 中倉は立ち上がって叫んだ。

 「前方から敵機甲部隊! 総員警戒しろ! 」

 そしてもう1度ディスプレイを見る。

 無人機は左に旋回し、代々木署と住宅地をはさんだ向こう側の国道431号線を映し出した。

 軽快な動きの軽装甲車が5台、こっちへ向かってくる!

 これにも歩兵が8人乗っているとして、総勢40人か。

 どう見ても、人質救出作戦で動けないわれわれを狙った十字砲火だ。

 「中倉!見たか!?」

 永易一尉が呼んでいる。

 中倉は顔を出した。

 永易は決然とした表情で言った。

 「431号線のほうは任せろ!戦車はお前たちに任せる!」

 「分かりました!だが戦車の残骸があっては先に進めません!救出が終わったらそっちへ進みます!」

 永易は「了解!」と叫ぶと、部下たちと街に消えていった。

 そのとき、土屋からの連絡が入った。

 『前方に敵戦車!撃ちます!』

 その「撃ちます」のタイミングで、彼の戦車砲が火を噴いた。

 「うわ!」「きゃあ!」

 その音と衝撃波に、最後に車に乗ろうとしていた大人たち、そして警官たちが折り重なるようにして倒れた。

 「立て!早く乗るんだ!」

 誰かの叱咤が飛び、再び走り出す。

 だが、60人も逃さなければ、ならないのだ。

 まだ戦車がここを動くわけには行かない。

 「全車、撃て!制圧射だ!」

 74式戦車の105mmライフル砲が連続して火を噴き、その後に10式の120mm滑空砲がつづく。

 土屋のおかげで先手をとることができた。

 それでも敵も砲撃してくる。

 10式の装甲に当たり、車体が大きく揺れた。

 それでも最新の複合装甲は、しっかりと耐えてくれた。

 「歩兵装甲車が来るぞ!」

 楔形に並ぶ3台の戦車は、先に破壊された仲間の戦車を押しのけてこっちへ向かってくる。

 その後ろで3台の装甲車が停車した。

 その後ろから、人間のような二足歩行をする何かが現れた。

 だがその顔は、魚のオコゼそのものの身長2m近くある半魚人だった。

 顔は丈夫な鱗でおおわれており、情報では警察のリボルバーでは歯が立たなかった。

 全身を覆うプロテクターは、我々と同程度の技術で作られたように見えた。

 背中には、プロテクターが何本もの突起となって伸びている。

 中身はオコゼと同じ毒の棘だ。

 刺されると激痛に襲われ、死にいたる。

 それが木製ストックの巨大な自動小銃を構え、自動車のようなスピードで走ってくる。

 銃の口径は我々で言うところの対物ライフルくらいありそうだ。その口径は12.7mm。

 当たれば人間の体などミンチにされてしまう。

 

ドーンババババババッババ

 

 沢山の銃声がこだました。

 『市民の非難が完了しました!それと、国道431号線側の住宅地でも戦闘が始まっています!』

 トランシーバーから聞こえてきた。

 「こちらが終わり次第すぐ向かう!」

 中倉はトランシーバーに答えると、再び立ち上がり、砲塔上にあるM2重機関銃を撃った。

 その12,7o弾はオコゼ人が隠れていた電柱などを突き抜け、目標をミンチにして吹き飛ばした。

 「LAW(110mm個人携帯対戦車弾)をお見舞いしてやれ!」

 普通科隊員が肩撃ち式ロケット砲を放つと、後方の歩兵輸送車が吹き飛んだ。

 その時、一人のオコゼ人が中倉の戦車に飛びついた。

 ・・・まさか!

 とっさに拳銃を抜いた中倉めがけ、オコゼ人がとびかかった。

 その銃剣が迫る。

 中倉は死に物狂いで拳銃を撃った。

 あんなものに体当たりされたら、例え銃剣はよけても骨を折られる!

 必死の銃撃は、オコゼ人を砲塔の手前ぎりぎりで食い止めることができた。

 だが、止めには至らない。

 その時、左側から一人の普通科隊員が飛び出し、オコゼ人を小銃で撃った。

 その頭を打ち抜かれ、ようやくオコゼ人は絶命した。

 「大丈夫ですか!?」

 「ああ、ありがとう」

 そのとき、新宿の方向から何かが舞い上がるのが見えた。

 それは、機体の左右に1つづつ、プロペラを大きなダクトで守ったダクティッドプロペラを持つヘリコプターだった。

 それが2機、こっちへ向かってくる。

 この局面で出てくるということは、対戦車ヘリコプターだろう。

 「全車スモークを炊け!」

 中倉の命令で、4台の戦車は砲塔横にある小さな筒の中身を発射した。

 たちまち前方に濃い煙が立ち込める。

 頭上からミサイルや機関砲を撃ちまくるヘリコプターは戦車の天敵だ。

 だがこの煙で相手の目を眩ませることができるし、中に入ったチャフ・小さなアルミの破片はレーダー波を反射してくれる。

 「左の住宅地に入る!全車続け!」

 代々木署の横の道路をとおり、永易率いる普通化中隊の後を追った。

 そこは銃撃戦の真最中だった。

 敵の迂回部隊が来たのだ。

 つい昨日まで多くの人々が暮らしていた街だ。

 その往路の真ん中に敵の装甲車の残骸が燃え、隊員たちが倒れている。

 オコゼ人がこっちを狙って撃ってくる。

 その事実に中倉の腹は煮え繰り返りそうになる。

 「屋根の上にもいるぞ!」

 中倉は見つけた敵目がけてM2重機関銃を撃った。

 1分間に2,900発放たれる12,7mm弾が、オコゼ人をなぎ倒す。

 そのとき、前方で戦っていたオコゼ人の背中を守るボディーアーマーが外れた。

 その下から、無数の突起物があらわになる。

 オコゼ人はその突起を一番近くにいた自衛隊員に向けると、バックステップで迫ってきた!

 

タタタ

 

 正確な89式小銃の射撃がオコゼ人を貫いた。

 しかしオコゼ人の勢いは止まらず、射撃していた隊員はその突起に刺されてしまった。

 「ぎゃー!」

 彼は叫び声を上げると、もんどりを打って倒れた。

 「くそっ!」

 中倉はM2を撃とうとした。だがすでに弾切れだった。

 急いで車長席の横にマジックテープで固定されていた、折りたたみストックの89式小銃を取り出す。

 痛みのあまりだろうか、ぴくぴくと体を痙攣させる男に、電柱の陰から新たなオコゼ人が銃を向ける!   

 中倉は89式小銃を構え、迫るオコゼ人を撃った。

 オコゼ人は頭を吹き飛ばされ、あおむけに倒れた。

 その銃弾の下を、2人の隊員が駆けつける。

 2人は倒れた隊員を抱えると、引きずるようにして後方へ運んでゆく。

 突然、猛烈な風が吹き出した。

 家の間から、あのダクテッドローターが見えた。

 その機首にはバルカン砲らしきものがあり、それがこっちを向いた。

 だが。

 「こっちも来たぞ!」

 自分達を挟んで反対側からも風が吹き付けてきた。

 地上すれすれに匍匐飛行を行っていた、味方のAH−64D対戦車ヘリコプターが2機表れた。

 さっそく30ミリ機関砲を放つ。

 それは屋根の上にいたオコゼ人を瓦ごと薙ぎ払った。

 塀の向こうに落下したオコゼ人に、隊員が手榴弾を投げた。

 

ドン!

 

 隊員が走り去った後、堀のコンクリートブロックに少し隙間が開くほどの爆発が起こった。

 

 2機のアパッチは、急上昇しながら敵のヘリコプター隊を撃っている。

 敵も機関砲で反撃する。

 現在、1601・午後4時1分。

 太陽は西側。アパッチ隊の後ろにある。

 太陽を背にすると、位置エネルギーを利用して敵の後ろめがけて襲いかかった。

 その間にも敵ヘリは前進、上昇。

 装甲に自信があるのか、アパッチの真横を通って後ろに回り込もうとする。

 たちまち、互いの後ろを取り合うドッグファイトに陥った。

 

 「今だ!431号線まで突っ走るぞ! 敵が浮き足立っている今しかない!」

 中倉の10式戦車には、車体前部にブルドーザーのようなブレードがついている。

 それで大破した敵装甲車を押しのけた。

 その時、土屋一曹から通信が入った。

 『隊長。たった今、敵の対空陣地はすべて沈黙しました。30分後に最終フェイズが始まります!』

 最寄りの敵陣地であった、代々木公園の方を見た。

 向こうには同じ大隊のB中隊が向かっている。

 長い白煙が上がっているのが見えた。

 敵は浮足立っている。

 今しかない!

 「1630で最終フェイズ発動!繰り返す!1630で最終フェイズ発動!これより装甲車に乗れない者は全力で地下に退避しろ!!」

 

 1時間後。

 彼らは国道431号線を敵歩兵の抵抗に合いながらも新宿方面に向かっていた。

 だが、難易度は段違いに下がっていた。

 ディスプレイを見る。

 付近を飛行中の攻撃機に空きがないか調べる。

 注文。

 「十二時方向。目標、敵戦車。近接航空支援要請。レーザー照準」

 

ドカーン

 

 最終フェイズとは、航空自衛隊とアメリカ空・海軍、海兵隊による一大空爆作戦で始まる人質救出作戦なのだ。

 中倉たちは、しばらく戦車の中にこもった後、近くのビル地下に避難していた隊員と合流した。

 その後は豊富な空からの支援を受けつつ、ここまでやってきたのだ。

 

 ここが決戦の地、新宿。

 だが、彼らに安穏とする気分はまったくなかった。

 すでに到着した部隊とオコゼ人の戦いが、これまでにない数で行われている。

 銃声や爆発音が引っ切り無しに聞こえてくるからだ。

 オコゼ人はたとえ戦車は失っても、あの対物ライフル並みの口径を持つ自動小銃はやはり脅威だ。

 戦車でも窓や通信機など、破壊可能な部分を狙われれば無力化されかねない。

 首都高の下を通ると、高層ビル群が見えてきた。

 あそこには、最初の襲撃時に捕らえられた人々がいる。

 周辺には燃やされた敵戦車が幾つもある。

 そして、巻き添えになった多くの家々も・・・。

 もうひとつの脅威もあった。

 目の前にその痕跡がある。

 国道431号線に垂直に交わり、住宅地をすりつぶして伸びる2本のみぞ。

 地上戦艦の腹足の跡だ。

 

ビービービービービービービービービービービービービービービービービービービー

ビービービービービービービービービービービービービービービービービービービー

 

 耳障りな電子音に、中倉はディスプレイを見つめた。

 画面の淵に派手な赤と黒の縞模様が走っている。

 新宿副都心の地図情報の中で、敵を現す赤に巨大な3つのアイコンが動いていた。

 そのとき、中倉の胸ポケットで私物の携帯電話が振動した。

 カミュ・フリードマン?

 昨日まで富士演習場で一緒に演習していた在韓アメリカ陸軍(第8軍)の戦車中隊を率いる大尉だ。

 オコゼ人でも素手で取り押さえられそうな長身丈夫の白人で、宴会を盛り上げるジョークの使い手。

 電話の向こうでは、激しい砲音が響いていた。

 『よう。ナカクラ。戦艦大和が何時間で沈んだか、知ってるか?』

 急いでアイコンを探す。

 「全速前進!!新宿中央後援手前で左折!西新宿5丁目へ急行!繰り返す!全速前進!!新宿中央後援手前で左折!西新宿5丁目へ急行!」

 『隊長!無理です!』

 いつもは冷静な土屋が、声を荒げて言った。

 ・・・その通りだ。

 目の前にある34階建ての東京第2本庁舎と25階建ての新宿ワシントンホテルの間から、巨大な黒い影が迫ってくる。

 巨大な砲塔を持つ戦艦タイプか。

 「移動中止!目標、前方の地上戦艦!」

 『おいおい。質問に答えろよ』

 電話の声はどこまでものんきだ。

 「・・・2時間くらいじゃないですか?新記録を立てようなんて考えないでくださいよ。ここは地上だから沈みません」

 『そりゃそーだ。じゃあ、あの砲塔にしよう。爆発したら上に吹っ飛ぶだけか、船体が裂けるかー』

 「だ!か!ら!何であんたはそうなんですか!どうせ手柄総取りを狙って3隻全部に威嚇したんでしょ!そのせいで3隻ともこっちのほうに・・・こっちに?」

 『ようやく気づいたか。今、李大尉が新宿の韓国大使館に向かってる。副都心の向こう側は、機甲科が少ないから、不公平だろ?』

 李 秀晶(イ スジョン)大尉!

 韓国と北朝鮮の軍事境界線を防衛する第1軍第2軍団の機甲中隊長だ。

 旅嫌いで、「中国が小笠原諸島まで勢力下に置く。なんて誇大妄想を抱かなければ日本くだりには来なかった!」と言っていた。

 だが、戦場になるかもしれない地域への視察と言う名の東京でのお買い物には、目をキラキラさせていた女性だ。

 彼女が向かった韓国大使館は、港区と新宿区の2箇所にある。

 そこには、大勢の韓国人が駆け込んでいるはずだ。

 新宿のほうは、ここからビル郡をはさんだ反対側にある。

 あまりに副都心に近いので、最終フェイズまで近づくのは許可されていなかったのに!

 確かに、今東京にいる戦車は第1大隊と富士教導団の物がほとんどで、どちらも東京の西側から近づいている。

 だが、出発点は韓国軍も同じはず。どうやって向こう側へ向かったのか?

 「なんて無茶なことするんですか!」

 そのとき、戦艦の砲塔がこれまでに見たことのない大きな砲撃を放った。

 その直後、携帯から先ほどの砲音と同じ音が聞こえた。

 それっきり、何も聞こえなくなった。

 「フリードマン大尉?フリードマン大尉いいいいいぃ!!!」

 アイコンに彼の部隊は、映っていなかった。

 「永易一尉、ここからは大砲同士の砲撃戦になります。普通科部隊を下がらせてください」

 中倉の声は,自分でも驚くほど冷淡だった。

 中倉は、フリードマンの死を確信した。

 だが彼は、ふさわしい形見を残してくれた。

 その形見から生まれた提案を本部に要請することにした。

 

 「貫通爆弾による地上戦艦の砲塔への攻撃を要請します」

 貫通爆弾とは、分厚いコンクリートや地下深くに埋められた目標を撃破するための爆弾である。

 GBU−28バンカーバスターが有名だ。

 「現在の対応は、腹足への集中射撃とレーダーに最も反応する、すなわち最も装甲の厚い部分に着弾する対艦ミサイル攻撃です。どちらも打撃力不足です」

 今、夕闇が迫る中、地上艦隊には自動小銃から長距離砲まで、ありとあらゆる兵器が雨あられと集中している。

 中倉達も目の前の地上戦艦へ砲撃。

 しかし、街をすりつぶす腹足の動きは止まらない。

 結局中倉たちが退き、戦艦は悠然と街を蹂躙している。

 「しかし、遮る物が無い今がチャンスです。戦車が破壊されても、爆発は砲塔を吹き飛ばしますが、車体は原形をとどめます。あの戦艦はそれを利用して、艦そのものは無事になるよう作っていると思われます」

 反撃は、攻撃された分をそのまま返すような、激しい弾幕。

 中倉たちには、船体横から張り出した対空射撃も可能なドームに収められた多数の機関砲が宛がわれた。

 中倉たちは、残ったビルの残骸に隠れながら、それを一つづつ潰すことにした。

 司令部からは、まだ承認は得られない。

 やはり証拠か?

 「分かりましたよ。証拠を見せればいいんでしょ?!全車、目標、敵戦艦の後部砲塔。鉄鋼榴弾装填。レーザー照準」

 隣に座った砲手が声を荒げた。

 「中隊長!?それは命令違反では!?」

 「かまわん。どの道ビル街へ戻らせるわけにも行かないんだ!尻に火をつけてやる!!繰り返す!全車、目標、敵戦艦の後部砲塔。鉄鋼榴弾装填。レーザー照準」

 もともと16台有った中隊の戦車も、いまや5台減った。

 それでも11の砲口が敵砲塔の側面装甲に向けられた。

 「うてぇ!!」

 いまだに四方八方から砲弾が降りしきる中、11の火の玉が、やけに目立った。

 それは、まっすぐに砲塔のほぼ同じ部分に導かれ、その分厚い装甲に阻まれ、天に散った。

 「もう1度だ!」

 「待ってください!今ので弾切れの戦車が出ました!わが車にも残弾が後1発しかありません!!」

 中倉は迷った。

 このまま砲塔を狙うか、それとも破壊可能なほかの目標を狙うか?

 そのとき、戦艦の後方から多数の火の玉が接近。

 そのほとんどは砲塔の正面装甲に阻まれたが、うちの一つはきれいに砲身の中へ消えていった。

 その直後、砲塔は真上へ吹き飛んだ。

 

どどどどどど

 

 副都心のほうから、多くの無限軌道の音が聞こえてきた。

 それは、韓国軍の最新型戦車、K2と、仮想的として持ち込んでいたロシア製のT−80Uだった! 

 彼らも激戦を潜り抜けたのだろう。

 元は1個中隊16台だったのに、今は4両づつ、計8台まで減っていた。

 それでも闘志は衰えているようには見えない。

 戦艦に追いつけ追い越せとばかりに猛スピードで機動している。

 「李大尉?!無事だったのか?!」

 『ごめん、道が込んでた!』

 韓国軍が、中倉たちA中隊に合流した。

 そのとき、戦艦前部の二つの砲塔が、砲口を左右別々に向け始めた。

 後ろの砲塔がこっちを向く。 

 『私たちに任せなさい!』

 再び韓国軍の砲撃が行われた。

 そのうちの一つは確かに砲身の一つの中へと消えた。

 だが。 

 

ドン

 

 砲口から炎が見えたかと思うと、その砲身だけが、へたり込むように下がっていった。

 「なんだ!?なぜ吹き飛ばない!?」

 中倉の疑問に、砲手が答えた。

 「・・・閉鎖機だ!主砲の後ろで砲弾を打ち出す炸薬に耐えられる閉鎖機が閉じているから、砲塔内部の火薬庫まで届かないんですよ!」

 「じゃあ、どうすれば届く!?」

 「・・・一度発射した後、次弾を装填するために閉鎖機を空けた瞬間を狙うしか・・・」

 砲塔は、いまや船体の斜め後ろを狙うほど回っている。

 中倉は考えた。

 今や、あの戦艦も穴だらけだ。

 射撃を管制するレーダーなども、まともに機能しているかどうか分からない。

 そんな時、敵はどこを狙う?

 近ければ近いほど。動かない物の方がいい・・・。

 ある一つの答えが頭に浮かんだ時、彼は青ざめて言った。

 「やつらは、人質が入ったビルを撃つつもりだ!」

 「ええ!?」

 「A中隊と李演習部隊に通信!目標、戦艦の後方の砲塔!全弾撃ち込め!」

 たちまち生き残った戦車砲が戦艦の行く手を阻む。

 中倉の乗る戦車でも,砲手が最後の1発をこめようとした。

 だが。

 「すまん、その1発は取って置いてくれ」

 中倉は、砲手にそう頼んだ。

 「砲手も代わってくれ。あれが、もし発射されたら、その時は俺が・・・」

 

 敵戦艦は主砲発射準備を始めてから、対空砲を銃砲の上に集中させていた。

 その先でいくつもの爆発が起こる。

 その爆発に巻き込まれ、ひときわ大きい爆発を起こすのは、主砲を狙っていた爆弾か。

 もしかしたら、貫通爆弾かもしれない。

 

 『中倉君。韓国軍は残弾ゼロ』

 李大尉が言った。

 『こちらは後1発です』

 土屋が言った。

 中倉はすでに砲手の席についていた。

 この手段だけは。

 守るべき人々を犠牲にする、この不名誉だけは他人に背負わせてはいけない。

 今、車長席に座る砲手には妻子がいる。

 方や自分は独身だ。

 なんという好運だろう。

 中倉はそう思った。

 やがて、戦艦の主砲が発射された。

 その直後、中倉は発射ボタンを押した。

 お互いの最後の砲弾は目標に命中した。

 敵戦艦の二つの砲塔は、ひときわ大きな爆発とともに同時に吹き飛んだ。

 最初の砲塔の爆発で、部品に亀裂が入っており、そこから引火したのかもしれない。

 そして、ぶちまけた溶鉱炉の中身を思わせる赤い塊となって、戦艦のすぐ近くに落下した。

 

 中倉は、砲主用ハッチを空け、後ろを見てみた。

 ワシントンホテルが、煙に包まれていた。

 中倉は泣いた。

 ほかの自衛官も、韓国軍も、戦艦には勝利したが、もっと大きな敗北を悟った・・・!!

 

 そのとき、不思議なことが起こった。

 ホテルを包んでいたはずの爆煙が、ゆっくりと地上に降りてきたのだ。

 その中からは、無傷のホテルが現れた。

 その煙は、極彩色に輝いていた。

 「隊長!戦艦から何か降りてきます!」

 中倉と同じようにハッチから身を乗り出していた土屋が、戦艦から飛び出すハンググライダーのようなものを見つけた。

 夕日と爆炎に照らされて、はっきり見えるそれを、双眼鏡で除いてみる。

 グライダーの下には前方の装甲が大きく張り出した舟のような装甲車が吊り下げられていた。

 おそらく、水陸両用の装甲車。脱出ボートのようなものだろう。

 市街地へ降下していく。

 「追うぞ!」

 

 数分後、即席の日韓合同部隊は脱出装甲車の前に陣取っていた。

 もうこっちには自衛用の自動小銃と、主砲の隣の同軸機関銃。そして残弾の少ないM2重機関銃しかない。

 必要のなくなった車長や砲手や砲手たちは、降りて小銃を構える。

 中倉や李も一緒だ。

 目の前の脱出装甲車は、ジープを思わせる4輪駆動車を改造したように見えた。

 車体の上には、一応機関銃と思われるものが乗っている。

 だがオコゼ人は、すっかり戦意をなくしていた。

 

ゴオオオオオオオオ

 

 対空砲が無くなったために一気に高度を下げて飛ぶ攻撃機が、音の暴力となって鼓膜を揺さぶる。

 オコゼ人は装甲車から降りると、汚いものでも捨てるように自分たちの銃を捨て始めた。

 そして膝を付き、両手を高く上げた。そして。

 {う,撃たないでくれぇ}

 しわがれた声で叫んだ。

 しかも、確かな日本語だ!

 {われわれは、人間から進化した生命体だぁ。この世界には、理想的な都市を作って、住もうとしてきたんだぁ}

 中倉は89式小銃を構えて距離を詰める。

 その銃口に怒りがこもる。

 「お前らの世界がどんな世界かは知らんが、そのせいで俺たちは被害をこうむったんだ!」

 {狂っているのはお前達だぁ!何で攻撃するんだぁ!我々は人質を誰も殺していない!古代ローマ帝国とおなじだぁ!彼らにも楽園都市の建設の協力してもらうはずだったのにぃ!!}

 確かに神話では、ローマ帝国は最初に付近の住民から女性をさらってきて自分の住民としたと言う。

 どうやら彼らが人間だったと言うのは本当のようだ。

 〔そいつらを、引き渡してもらえないだろうか〕

 オコゼ人の横に、あの極彩色の霧が現れた。

 今の声は、そこから聞こえてきた。音声合成ソフトで作ったような声だ。

 中から現れたのは、これまで見たことのない、宇宙服と鎧を混ぜたような灰色の装甲服を着た人型だった。

 手には、オコゼ人と同じような銃を持っている。

 警戒していた隊員達が銃を向ける。

 「何者だ。ここは現在立ち入りを禁止している!」

 それを止めたのは、同じく警戒していた土屋だった。

 「待て。彼らは戦艦の砲撃からビルを庇ってくれた」

 装甲服の人々は、銃をオコゼ人に向けていた。

 その数は20人ほど。

 〔我々は彼らと同じ世界の正規軍だ。砲弾については安心して欲しい。今は無人の砂漠地帯へ飛ばした〕

 そして指揮官らしい装甲服が、銃を下ろし、こちらに向き直って一礼した。

 〔今回は反乱軍を鎮圧してくれたことに、感謝する〕

 その言葉に、李が噛み付いた。

 「軍艦3隻で反乱!?ずいぶん大掛かりじゃない!」

 〔それについても説明したいが、あまり時間がない〕

 「待ってください。この無線機で我々の司令部と連絡がつきます。どうぞ」

 土屋がトランシーバーを差し出した。

 「じゃあ、俺たちも撮影しようか」

 中倉は自分の携帯を取り出し、カメラを向けた。

 ほかの隊員もそれに習う。

 あて先はそれぞれがアドレスを知る一番上の上官だ。

 〔お気遣いに感謝する。 我々は君たちを侵略した反乱軍と同じ世界の正規軍だ。砲弾については安心して欲しい。今は無人の砂漠地帯へ飛ばした。実はあのワープシステムは宇宙空間で漂っていた製作者もわからぬ物を応急的に修理したものなのだ。それを反乱軍が盗み出した。科学者によれば、あと1時間持てばよい方らしい。次に使える保証はない〕

 彼の後ろでは、部下の装甲服によってオコゼ人達が取り押さえられていた。

 装甲服の動きはゆっくりだが、パワーは強そうだ。

 オコゼ人の棘を大降りのナイフで切り落としていく。

 辺りには苦悶の声が響き、血ではない黄色い液体が飛び散った。

 そして、切り取ったオコゼ人から極彩色の霧の中へ追いやった。

 〔我々に出来るせめてものお詫びは、反乱軍に投降を呼びかけて、このワープゲートを最大限に広げ、元の世界に帰すことだ。信じられないと言うなら、このまま立ち去ろう。願わくば、早く決めてくれ〕

 そのとき、信じられないことが起こった!

 「これはどんなパーティーなんだ?状況を説明してくれ」

 夕日をバックにして、アメリカ軍のM1A2エイブラムズ戦車隊が現れた。

 その上にいたのは・・・!

 「フリードマン大尉!無事だったんですか?!」

 「ああ。戦艦に撃たれた時はもうだめかと思ったが、電波かく乱も出来る煙幕弾だった。おかげで戦車隊を取り逃がしたぜ」

 そう言いながら襟を払うと、銀色のアルミ破片がキラキラと零れた。

 「ねえ、富士教導団も到着したみたいだよ」

 李が指差す東京第2本庁舎と新宿ワシントンホテルの近くに、10式戦車とそれより大きな90式戦車が見えた。

 その後ろには大量の装甲車が並び次々に普通化隊員をビルへ乗り込ませていく。

 あそこまで見渡せるなんて、ずいぶん荒れ果ててしまったんだな。

 そのとき、中倉のトランシーバーから永井の声が聞こえてきた。

 『そこにいるのは中倉か?今俺たちはワシントンホテルの近くにいるんだが。お前、爆弾処理できただろ!?助けてくれ!』

 切迫した声が聞こえた。

 「はい!こっちからも見えます!どうしたんですか?」

 『やつら、人質に爆弾をまきつけてやがった!解体して欲しいんだが、見たこともない爆薬と配線なんだ!心得のあるやつが一人でも欲しい!』

 〔爆弾とは、これのことだろう〕

 装甲服の指揮官が、棘を切られたオコゼ人の一人が担いでいたリュックサックの中身をぶちまけた。

 中からは、見たことのないマークがびっしり刻まれた基盤や、工具ケースが出てきた。

 〔この男なら、爆弾を解体できるだろう。連れて行きたまえ〕

 そう言ってオコゼ男を突き出した。

 中倉と部下たちは、暴れるその男を苦労して取り押さえた。

 「いいのか?こいつらを連れ帰りに来たんだろ?」

 李が男のリュックを受け取った。

 〔君たちが行ってくれれば、後何倍でも連れ帰られるさ〕

 そう言って、残りのメンバーと共に霧の中に歩みを進めていく。

 〔すでに反乱軍への帰還命令は出してある。もうすぐここに殺到するぞ〕

 そのとき、戦車内に残っていた車長の一人が叫んだ。

 「本当です!たった今ここに緊急避難命令が出されました!それと、司令部は避難する反乱軍への攻撃を禁止しました!」

 「一応反乱軍には、非武装で通るよう、言ってくれないか?」

 フリードマンがそう言ったとき、自衛隊員と韓国軍は信じられないものを見た!という顔になった!

 うそだ!フリードマン大尉がそんな慈悲深いこと言う訳がない!

 あの湾岸戦争から始まるぶっ壊しチャンピオンが!?

 「占領地を明け渡させるのだって、立派な戦果だからな。不味そうなら遠くからフルボッコにしてやればいいんだ。総員!転進!!」

 フリードマンは、ガハハと豪快に笑いながら、自衛用のM16自動小銃をハンドガードで持つと、ストックを戦国武将の軍配のように振り回した。

 そして自衛隊員にも韓国軍にも転進させようと命令を出し始めた。

 完全な越権行為だが、中倉には今回はそれが一番血が流れないような気がした。

 「行こう、李大尉。向こうには教導団もいる」

 「・・・そうね」

 彼女も自分の戦車隊に戻っていった。

 「あの」

 中倉は最後に装甲服に礼を言おうとした。

 「ありがとう」

 だが、その言葉は霧の中の声でさえぎられた。

 〔我々を哀れんだりするな!どうせ、悪魔の世界だ〕

 中倉のA中隊が立ち去ると、霧は副都心の西側にある新宿中央公園に大きく広がった。

 

 合同戦車部隊と入れ替わりに、オコゼ人たちが死に物狂いで走ってきた。

 約束道理、武器は公園の手前で捨てられた。

 オコゼ人を運んだ軍用車両がそこで乗り捨てられると、次に個人用武器も捨てられていった。

 時々、裏切り者を狙う狙撃がビルから行われた。

 だが、自衛隊たちにとってはビルは人質がいる場所だ。

 何も出来なかった。

 

 そして1時間14分後。

 霧は消滅した。

 

 それから43分後。

 

 そこから離れた渋谷区スポーツセンターのグラウンドだった場所で、中倉たち正式に結成された合同戦車部隊は待機していた。

 作戦が決行されれば、彼らは地を走り、陽動作戦を決行する。

 午前中から最終フェイズ発動までも、結局は敵を分散させるための陽動だった。

 

 周りの家々は崩れ、隙間から無数のサーチライトで照らされた闇夜のビル群がみえた。

 1kmも離れているのに。

 だが、それ以外は満天の星空だ。

 「ねえ!」

 隣のK2戦車から、李が明るい声で話しかけてきた。

 「あの装甲服の人、いい人達だったわよね!」

 いい人、都合のいい人間。

 装甲服だって、自分のいる国が余り良い物だとは思っていなかった。

 もしかすると、我々に攻め込まれたら簡単に滅ぼされてしまうくらい疲弊しているのかもしれない。

 だから、ご機嫌取りのためにやってきた。

 中倉には,その可能性が、とてもリアリティがあるように感じられた。

 あれだけの出会いで装甲服の部隊が善人であるとは中倉には分からなかったのだ。

 だが、彼女はそう思っていないことは声から明らかだった。

 「そうだな!」

 中倉は、肯定の言葉を言った。

 いまさら士気を下げることもないだろう。

 李は、さらにうれしそうな声を上げた。

 「私ね!仮眠してる間に、違う世界の楽園の夢を見たの!ねえ!宇宙にどれくらい文明があるか、調べる方程式があったよね!」

 「・・・ドレークの方程式のことか」

 「そう!それそれ!楽園を調べる方程式って、出来るかな?」

 中倉には、李の声に、だんだんと涙声が混じっていくように感じられた。

 「・・・いいな、それ。一緒に作らないか?」

 「いい!自分で探す!」

 そう言って李は戦車にもぐりこんでしまった。

 

ガチャ

 

 ハッチが閉まる重い音が、妙にコミカルに聞こえた。

 それにしても、旅嫌いだった彼女が、“自分で探す!”とは。成長したのかね?待てよ、すると俺の“一緒に作らないか?”も?アイツとなら、ほかにもツクリタイモノが有るんじゃないか?!

 と、中倉は自問ながら顔を赤くして、ハッチの中に入った。

 

ガチャ

 

 そしてディスプレイを見た時、その目は鷹のように鋭くなる。

 現実に引き戻される。

 副都心に向かう、2機の輸送機を表すアイコン。

 一つは在日アメリカ空軍のC−17グロブマスター。

 これは空挺部隊80人を運んでいる。

 もう1つは航空自衛隊のC−2。

 これも70人の部隊を運ぶ。

 その高度はどちらも1万m。

 HALO(高高度降下低高度開傘)と呼ばれる、1万m上空から降下し、高度800mで開傘することで敵に気づかれずに降下する方法だ。

 各ビルの屋上に降下する第1陣は、彼らだ。

 そして第2陣は、自衛隊、警察、アメリカ軍、韓国軍の特殊部隊による、彼らが持つすべての消音機能を持つヘリコプターによるピストン降下と、地上からの威力制圧だ。

 現在、2000・午後8時

 最後の作戦が決行された。

 まず、放棄された兵器に特科部隊が砲弾を撃ち込む。

 戦艦破壊以来の、盛大な炎が上がった。

 もはやオコゼ人を守る陣地は内部構造が丸分かりの高層ビルのみ。

 追い詰められたオコゼ人にとって、究極の死の羽音が迫る・・・。

 

 

説明
グーグルのストリートビューありがたや! ゲート自衛隊彼の地にて、斯く戦えりの、冒頭の戦いをイメージしました。 あと、僕好みの試作兵器も少々。 ゴジラみたいな戦車が走り回る!とにかく数をそろえることを第1条件に考えました!
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戦車 兵器 自衛隊 異世界 SF アクション 10式戦車 

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