真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 7
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〜店の中(事後)〜

 

「はぁ〜〜〜……疲れたよぉ〜〜〜……」

「まったくです。戦場で槍を持つならば、まったく疲れなどしないのですが……」

「右に同じく……くはっ」

 

 結局、無銭飲食(雪華は免除)を許してもらうために課せられたのは店の皿洗いだった。これがまたしんどいのなんのって……

 

「はっはっはっ。厨房だって女の戦場なんだよ。そんなんでこれから先、人助けなんか出来るのかい?」

 

 明るく、朗らかに話す女将はバンバンと俺の背中を叩く。だが、それよりも気になったのは、女将の発言だった。

 

「女将、あんたまさか、話を聞いていたのか?」

 

 その質問に、女将は気前のよさそうな笑顔で頷いた。

 

「ああ、厨房であんたらの話、しっかり聞かせてもらったよ。……応援してるからね、お嬢ちゃん達」

 

 だが、その言葉を思わぬ方向から返したのは張飛だった。

 

「ううー。応援しているなら、皿洗いは勘弁してほしかったのだー……」

 

 彼女も俺と関羽同様、慣れぬ皿洗いがしんどかったようだ。その言葉に女将は大声で笑う。

 

「それはそれさ。これから大きなことをやろうとしている人間が、小さなことを誤魔化しちゃいけないねぇ。お天道様の下で胸張って生きていくためにゃ、ケジメってもんが必要なのさ」

 

 その笑顔のまま、女将は陶器でできた瓶をこちらへ差し出してきた。

 

「これは……?」

 

 北郷がそう聞くと、女将はさっきとはまた違った笑顔で答える。

 

「ウチで造った酒さね。……大望を抱くあんたらにご進呈ってやつさ」

「おかみ……」

 

 関羽が、すこし目を潤ませながら、呟くように言った言葉、その言葉のせいなのか、照れくさそうに女将は話を続ける。

 

「こんなご時世だ。うちらがいつまで生きていられるかは分からん。でも、あんたらみたいな子がいれば、いつか世の中は良くなる。……そう思うからね」

「ありがとう……。きっと……きっと、私たち、もっともっと力をつけて、みんなを守れるぐらいに強くなってみせます!」

「ははっ! それじゃ、期待して待っておくよ!」

「まかせろなのだ!」

 

 その言葉に、小さな胸を張る張飛を微笑ましく見ていた女将は、ふと、気になったことを聞いてみた。

 

「そういや、あんたたち、行くあてはあるのかい?」

「そ、それは……」

「ま、まだ特に決まってないですぅ……」

 

 その言葉に呆れたのは他でもない。質問した女将本人だった。

 

「……まったく。言っていることはデカイけど、何にも考えていないんだねぇ」

「あぅ……すみませぇん……」

 

 俺も女将ほどではないが、さすがにそれには呆れた。女将の言う通りだ。と、言っても、俺もその中に不本意だが含まれているのが、なんとも言えない。

 

「まぁ、いいさね。みたところ、あんたら武芸に長けているようだしね」

「うむ。私と張飛に勝てる者は、そうはいないと自負している」

「鈴々、超強いのだー!」

 

 まぁ、確かにそうだろう。三国志はよく知らないが、少なくともこの二人の強さだったら聞いた事ぐらいはあるし、目の前の彼女たちの佇まいからしても、それは容易に想像できる。

 

「よしよし。それならこの街近辺を治めている、公孫賛様の所に行ってみな。最近、近隣を荒らしまわる盗賊どもを懲らしめるために義勇兵を集めているらしいからね」

 

 その名前を聞いた瞬間、劉備は思い出したように両手を叩いた。

 

「あっ! そういえば、白蓮ちゃんがこの辺りに赴任するって言ってた!」

 

 それに呆れたのは関羽だった。

 

「……桃香さま。そう言うことはもっと早くに仰ってください」

「あぅ、ごめ〜ん……」

「まったく、お姉ちゃんは天然すぎるのだ。……で、どうするのだ? お兄ちゃん」

 

 からかった口調のまま、彼女はこちらへ話しかけてきた。

 

「ん?」

「こっちのお兄ちゃんからは返事を聞いたけど、お兄ちゃんからは聞いていないのだ」

 

 そう言えばそうだった。関羽と劉備も思い出したのか、こちらを見てくる。だが、俺の返事は決まっていた。

 

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「悪いが、俺は神輿には……いっ!?」

 

 言葉が途中になったのは、雪華が俺の弁慶さんを蹴っ飛ばしたからだ。しかも、割と本気で。

 

「お、お前何を……?」

 

 彼女の方を見れば、蹴った俺のことなどを見ずに、頭巾の下から劉備をひたすら見ている。

 

「…………」

「え、えっとぉ……」

 

 劉備はどうしたらいいのか、おろおろして、こちらへ視線を向けてくる。だが、俺もどうしたのか、また、どうすればいいのかわからない。

 

「ゲンキ」

 

 その時、ゆっくりと彼女は口を開いた。

 

「どうした?」

「……私、この人達が見たい」

 

 その言葉に、俺は一瞬固まった。何を意味しているのかは、よく分からなかったが、一つだけ分かったことがある。それは、雪華は彼女たちと共に行きたいということだった。

 

「……本気で言っているのか?」

 

 その問いに、彼女は力強く頷く。

 

「神輿になるということがどんなことになるのか、分かって言っているのか?」

 

 その問いにも、彼女は力強く頷く。

 

「…………」

 

 どうやら、全て分かって上での発言のようだ。だが、それが彼女の幸せになるとは限らない以上、はいそうですかと首を縦に振るわけにはいかない。

 

「分かった上で言っているのなら、馬鹿なことは言うな。何をこいつ等に見たのかは知らない、だが、それはお前にとって……」

「でも、ここで何もしなかったら、私はそれをずっと気にして生きるよ?」

「ぐっ」

 

 こう言われては、俺は何にも言えない。彼女の方もそれが分かっているのだろう。つまり、こういった手を使いたくなるほど、この4人について行きたいと思っているのだ。

 

(雪華、お前はこいつ等に何を見たんだ……?)

 

 改めて横目で劉備を見る。彼女は俺たちの話し合いを不安そうに見ている。だが、その目に雪華が何を見たのか、それが若干気になったが、数多の暗殺者から彼女を守るなんて芸当は……

 

「……あなたが、何を考えているかはわからないが、一つだけ言わせてほしいことがある」

 

 そう言って会話に入り込んできたのは、関羽だ。

 

「もし、あなたがその子のことを気にして返事ができないというのであれば、その子は私が命をかけて守ると誓う」

 

 ……気安く言ってくれたものだ。

 

「……俺の勘違いでなければ、お前には既に二人、いや、三人かもしれないが、守るべき人がいるのではないか? その状態でさらに一人守れるのか?」

「……確かに、私には守るべき人達がいる。しかし」

 

 そこで、彼女は眼を閉じながら言葉を区切り、そして、再び口と共に開いた眼には、劉備に負けないほどの力強い光を宿していた。

 

「この関雲長! 約束したからには如何な事があろうとも、違えるつもりなどない!」

「…………」

 

 さすが、と言うべきか。俺はその言葉を信じてみたくなってしまった。だが、やはりそれでも……

 俺が否定の言葉を口にしようとしたのを知ってか知らずか、その言葉が出る前に関羽が再び口を開いた。

 

「もし、信じられないというのであれば、せめて、その機会を貰えないだろうか?」

「機会?」

「……私と、一手お手合わせをしていただきたい」

「愛紗ちゃん!?」

 

 驚く劉備を差し置いて、彼女は目線で訴えかけてくる。俺は、気がつかぬ間に口から言葉をこぼしてしまっていた。

 

「……いいだろう」

 

 だが、不思議とそのことを後悔しなかった。自分も、劉備達、いや、関羽に何かを見たのだろうか? 疑問に思う俺がふと意識を戻した時には、手合わせの場所へとたどり着いていた。そこは、大きな桃園の開けた場所だった。

 

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 関羽は既に自身の得物、後の代名詞である青龍偃月刀を構えている。俺はそれを確認すると、腰を落とし、刀の柄を握った。

 

「参る!」

 

 関羽のその一言で、手合わせは始まった。

 

 関羽は上段から振り下ろしてくるが、その速さは、竜の一撃にも劣らぬものだ。だが、対処できない速さではない。

 

 俺はその一撃を抜いた刀で左に逸らすと、刀を返して、袈裟に切りかかる。しかし、彼女は自身の左肩を使い、当て身を放つ。このまま振り下ろせば、当たるのは俺の腕の部分、対し彼女は当て身だ。どちらのダメージが大きいかは一目瞭然。

 

(ちぃ!)

 

 仕方なく、俺は鞘で迎撃をする。この距離と時間ならば、当て身と同等のダメージが入るはずだ。

 

(ん?)

 

 だが、そこで気が付いてしまった。彼女の右手の甲が体の外側へと向いていることに。

 

「……くっ」

 

 ほとんど反射だった。俺が無理な体勢で避けるのと同時に、さっきまで体のあった場所を偃月刀の柄尻が貫いていた。左右から襲い来る刀と鞘は頭を下げることによっていとも簡単に避けられてしまう。

 

 関羽はそのままの姿勢から右腕を引き上げるようにして、胴へ向けて偃月刀を振り上げてくる。持っているところが刃に近いため、その速度はさっきの一撃よりも早い。強引に飛び退くことで、何とかその一撃は避けられたが、その隙を逃す関羽ではない。左手で得物を掴むと、すぐに右手を返し、両手で薙ぎ払うように振るってくる。

 

 仕方なく、刀を逆手に持ちかえ親指と人差し指で懐の暗器を投げつける。当たるなどと思ってはいない。こんなその場凌ぎに投げつけた暗器に当たるような間抜けではないはずだ。案の定、関羽はそれを偃月刀の軌道を少し変えることで弾き落とす。だが、それで十分だ。

 

「ふっ!」

 

 軌道が変わったことで生まれた隙間へ身を入れると、すぐに刀を鞘に戻しながら駆け抜けて背後へ回る。俺が振り返った時には関羽もこちらへ振り向いていて、構えを取っていた。

 

「……さすが、といったところか」

「…………」

 

 こうなると、もう一段ギアをあげるべきだ。

 

「次は、こちらから行かせてもらう!」

 

 俺はそう言いながら一気に間合いを詰める。

 

「なっ!?」

 

 加速することなく一気に詰め寄ってきたことに驚く関羽だが、すぐに気を取り直し、柄を振り上げて迎撃する。だが、そんなのは予想の範囲内だ。それを左に半歩ずれることで避けると、左手で鍔を抑えながら鞘で殴りかかる。

 

「なんの!」

 

 関羽が振り上げた得物をその鞘へ向けて振り下ろせば、刃は鞘を捉え、叩き落としてしまう。だが、落とされたのは鞘だけだ。

 

 関羽がそのことに気がついた時には、すでに刃が彼女の腹に当てられていた。

 

「俺の勝ち。でもないか」

 

 しかし、俺の首には、偃月刀の柄が当てられていた。彼女の全力であれば、首の骨が折れているだろう。つまり、相打ちということだ。

 

「いえ、あなたの刃のほうが早かったでしょう。私の負けです」

「いや、早かろうが何だろうがこの一撃で互いに命を落としていただろうさ。それを相打ちと言わずして何を相打ちと言う?」

「ですが、これは手合わせ。やはり早く当てた方が勝ちだ」

「だから、手合わせってのは実戦を想定してやるもんだろ? 実戦だったら互いに死んでるって」

「いや、ですから」

「ですからもなにも」

 

 そんな不毛な会話をしていると、横から押し殺したような可愛らしい笑い声がした。二人一緒に視線を向けると、笑っていたのは雪華と劉備だった。

 

「く、くく、ゲンキ、なんだか可笑しい。いつもそんなにむきにならないのに」

「ぐっ」

 

 言われてみれば、確かにそうだった。これまでこんなにむきになったことはなかった気がする。

 

「愛紗ちゃんも、なんだか鈴々ちゃんと言い合っているみたいだったよ?」

「と、桃香さま」

 

 関羽のほうも劉備に言われてすこし恥ずかしそうに頬を染めた。

 

「で、結局どっちの勝ちだったのだ?」

 

 そこへ張飛がのん気に言ったもんだから張飛以外がさっきの雪華達のように笑いだした。それに釣られて張飛も“にゃはは”といって笑い出した。

 

 なんだか、こうやって笑いあうのが、すごく懐かしくて、嬉しかった。まるで、7年前のあの世界に戻ったかのようだった。

 

 しばらく笑った後、関羽は少し、気まずそうな表情で俺に問いかけた。

 

「その、先ほど話なのですが……」

「手合わせの機会、その結果ってことだな?」

 

 頷いた彼女の顔は、少し不安そうだった。まぁ、勝ちで無かった時点で断られる可能性が高いと思うのが筋だが、俺はさっきまでとは違う思いだった。

 

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「……いいだろう。あんたらと一緒に行くよ」

 

 その答えに、劉備たち三人は歓喜の声を上げる。が、

 

「ただし、雪華が離れるといったら離れるからな」

 

 だが、その言葉で少し気まずい雰囲気が流れる。

 

「つ、つまりこの子の機嫌を損ねたら?」

「まぁ、離れると言い出すかもしれんな」

「そんなぁ……」

 

 だが、それは無いはずだ。ついて行きたいと言い出したのは彼女なのだから。まぁ、こう言っておけば劉備たちも雪華を大切にしてくれるだろう。言わなくてもしてくれそうだが。

 

「まっ、そういう条件付きだがよろしく頼む。あと、雪華についてなんだが」

 

 と、俺が雪華の角のことを説明しようとしたとき、不意に外套の端がくっと引っ張られた。雪華だ。

 

「それは、自分から言う」

 

 すこし驚いた。彼女は人見知りなほうで、話しかけられると固まってしまって、すぐに俺の後ろへ隠れてしまう。だが、そんな雪華が自分から、しかも一番重大なことを言うと言ったのだ。

 

「……わかった」

 

 俺はその意思に任せることにした。雪華は一歩一歩、ゆっくり近づいて目の前で止まった。そして、モジモジしながら話し始めた。

 

「あ、あの、私、その、人と違う、あの、所があって」

「ん?」

 

 劉備はしゃがんで雪華と同じ目の高さにすると、優しそうな笑顔で次の言葉が出るのを待った。

 

「その、えっと、それでも、一緒に行っても大丈夫?」

「大丈夫!」

 

 即答だった。

 

「えーと、御剣ちゃん、でいいのかな?」

 

 その問いに雪華は小さく頷いたのを確認してから劉備は話を続けた。

 

「人って、違うのが当たり前だと思うの。優しい人もいれば、怖い人もいる。だから、そんなの気にしないよ。私は」

「…………」

 

 雪華が息を詰まらせたのが手に取るように分かる。かく言う俺も少し詰まらせていた。嬉しくて、本当に嬉しくて。でも、角を見てもそう思ってくれるのだろうか、不安だった。

 

「これでも、その、えっと、気にしないでくれる?」

 

 だが、雪華は勇気を振り絞ってその頭巾を頭から外した。

 

「え?」

「なんと……」

「…………」

 

 三人の反応を聞いた彼女は、俯いてしまった。だが、その顔はすぐに上がることになる。

 

「か、かっくいーのだ!」

「え?」

「すごーい! 髪きれい! ご主人様の服みたい!」

「な、なんと可愛らしい……」

「え、え?」

 

 ……はっ!? 予想の斜め上、っていうかなんて言うか3600度くらい方向が変わったかのような、いや、変わってねぇか? ……じゃなくて。

 

「その、えーと」

 

 俺も何か言おうとしたのだが、言葉が浮かんでこない。思った以上に頭が嬉しいやら訳が分からんやらでゴッチャゴチャだった。

 

「こ、怖くないの?」

 

 混乱する俺を差し置いて、雪華が自分から問いかけた。それに最初に答えたのは張飛だった。

 

「怖くないのだ! むしろ羨ましいのだ……」

 

 ……目から星が出とる。

 

「私も、羨ましいなぁ。髪がすっごくきれい……ねね、どんな手入れをしているの?」

「可愛らしい……」

 

 ほかの二人も、まったく怖がっていないどころか、逆に興味津津といった感じだ。そこで、ふと思い出したことがあった。

 

(そういえば、確か中国って鬼がいないんだっけか?)

 

 うろ覚えだが、中国で鬼というのは日本で言う亡霊の類のことであり、日本で言う角の生えた鬼というのはいないという話をどこかで聞いたことがある。

 

 もし、その話が本当であれば、彼女たちの態度もうなずける。要は価値観の違いってやつだ。

 

「まったく、予想外のことがよく起きる日だな、今日は」

 

 雪華を囲む彼女たちに聞こえないよう、小さく呟いた俺は、そろそろ話を戻そうと、彼女たちに近づいて、話へ割り込んだ。

 

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「そろそろ話を戻したいのだが?」

「あ、ご、ごめんなさい! 可愛かったからつい」

 

 てへっ、といった笑顔で嬉しいことを言ってくれたもんだ、と思いながら話を始める。

 

「まぁ、雪華のことは理解してもらったようだが、この世界の人間が全員あんた達みたい受け入れてくれるとは思わん。なので、その辺についてなのだが……」

「大丈夫!」

 

 ……まだ何にも言ってないんだが。

 

「きっと何とかなりますよ! だってこんなに可愛いんですから!」

「そうですとも!」

「……可愛いは正義ってか」

 

 盛大な溜息を吐いたところで、張飛が不思議そうな顔で話に入ってきた。

 

「この子を天の御遣い様にすればいいのだ。そうすればみんな受け入れてくれるのだ!」

「おお! 鈴々ちゃんそれいい!」

「……人が言おうと思っていたことを」

 

 俺は苦笑しながら張飛の意見に賛成した。元々そう言おうと思っていたしな。

 

「まぁ、それで決定でいいか?」

「はぁーい!」

「ええ」

「了解なのだ!」

 

 三人の了解を得た後、北郷へ顔を向けた。

 

「お前の意見は?」

「え、いや、俺は三人がかまわないならそれで何の問題もないよ」

「そうか。それと、一つだけ言っておくことがある」

「へ?」

 

 俺は出来るだけ耳へ近づいて、ぼそりと言葉をそこへ放り込んだ。

 

「手を出したら、細切れにするからな?」

「ひっ!?」

「まぁ、そういうわけだ。よろしく頼む」

 

 そう言いながら差し出した手を、北郷は恐る恐る掴んだ。

 

「よ、よろしく」

「おう」

 

 そうして、握手を交わした瞬間、一陣の風が通り抜けた。その風につられて多くの花びらが舞い踊る。

 

「わぁ……」

「キレイ……」

「なんと美しい……」

「雅ってやつかな」

「……ふむ」

 

 五人がその光景に見とれていたが、最後の一人は違った。

 

「さぁ酒なのだぁー!」

 

 ……ぶち壊しだな。元気いっぱいに北郷と俺の周りをくるくると走り回る。

 

「約一名、雅というものを分からぬ者がいますね」

「まっ、分からんでもないが」

 

 関羽と互いに苦笑を漏らしながら、俺たちは持ってきた盃と酒を取り出し、酒を注いでいく。

 

「それにしてもまぁ……まさかあの有名なシーンがホントはこんなに多人数だったなんてなぁ。知らなかった」

 

北郷がこぼした呟きが聞こえていたのだろう。劉備が北郷に話しかけた。

 

「どうかしたの? ご主人様」

「ご、ご主人様?」

 

 驚く北郷に、彼女はニッコリ笑いながらそれに答える。

 

「だって、私たちのご主人様になったんだから、そう呼ばないと変でしょ?」

「しゅ、主人って」

 

 混乱する北郷だが、当然と言えば当然の流れかと思う。天の御遣い、となればその人間が組織において最上位で無いと色々と不都合が生じるだろう。

 

「そう、ですね。確かに桃香さまの言うように、あなたは我々のご主人様だ」

 

 それを分かっているだろう関羽もその言葉に賛同する。だが、北郷は戸惑いながらも言葉を発する。

 

「でも、だとしたら御剣さんは、その、どうするの?」

「ん?」

「御剣さんだって、その天の御遣いというか」

「その話は雪華をその立場にすることで解決しただろう。そうなると、雪華には政治的な判断なんかはできん。となれば、やはり主人となるべきはお前だろう。それに、生憎だが俺はそういったことは苦手でな」

「でも」

「まぁ、案外適任かもしれんぞ? 人の才能なぞ、自身でも分かりはしないものが多いもんさ」

 

 そう言われた北郷はすこし目を閉じて考えると、小さく深呼吸して、はっきりとした口調でこういった。

 

「……やってみるよ」

 

 その言葉には、明確な意思があった。腹が据わったようで、いい目をしていた。

 

「じゃ、みんな準備はいい?」

「はっ!」

「うん!」

「良いのだ!」

「ん!」

「ああ」

 

 全員が返事をしたのを確認して、北郷は杯をあげる。それに倣って皆が盃をあげようとしたとき、“あ!”と何かを思い出したように劉備がその手を止めた。

 

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「大事なことを忘れてた! 私たち真名を預けてないよ!」

「そ、そうでした。私としたことが……」

「あやー、鈴々も忘れていたのだ」

 

 三人で何かを納得すると、盃を持ちながら姿勢を正してこちらへ向き直る。

 

「ご主人様、御剣さん。これから一緒に闘う仲間として真名でこれから呼んでほしいの」

「真名ってなに?」

 

 北郷が彼女たちに問いかけるのを聞きながら、そういえば、と少し前のことを思い出した。

 

「俺が名乗った時に、そんな話があったな。あの時はだいぶうろたえていたようだが……」

 

 その問いに答えたのは、関羽だった。

 

「我らの持つ本当の名です。家族や親しき者にしか呼ぶことを許さない、神聖なる名……」

「その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉なの。だから、親しい人以外は、たとえ知っていても口に出してはいけない本当の名前」

「だけど、お兄ちゃんたちになら呼んで欲しいのだ!」

 

 関羽に続いて劉備、そして張飛が話を締めた。

 

(なるほどな、だからさっきはあんなにうろたえたってワケだ)

 

 知らずに俺の真名を呼んでしまったと思ったのだろう。まぁ、名前の仕組みが違うので、仕方ないと言えば仕方ないが……

 

(逆だったら大惨事だったな)

 

 こっちがうっかり言ってしまっていたら、首を狙われていたかもしれない。

 

「……分ったよ。じゃあ、えっと」

 

 北郷がそう言うと、三人はその顔を見ながら自身の真名を告げていく。

 

「我が真名は愛紗」

「鈴々は鈴々!」

「私は桃香!」

「愛紗、鈴々、桃香……」

 

 その名を大事そうに口ずさむ北郷は、やがてさっきの意志の宿った目で彼女達を見つめる。

 

「何をすればいいのか、何が出来るのか。……今もまだ俺には分からない。だけど、俺は君たちの力になりたいと、そう強く思う」

 

 そこで一旦言葉を区切り、頭を下げた。

 

「だから、これからよろしくお願いします!」

 

 それを聞いた三人は俺へ視線を移す。だが、俺は……

 

「……すまない。俺にはその名を預かる心構えがない」

「え……?」

「少し、俺に問題があってな。その問題が解決するまで、少し待ってはくれないか?」

「そう、ですか……」

 

 目に見えて落ち込む劉備だが、すぐに気を取り直して、さっきまでの笑顔を見せてくれる。

 

「それじゃあ、待ってます! その問題が解決するその日まで私たちの真名、預かっていてくださいね」

「ああ。その代わりと言っては何だが、俺のことは玄輝でかまわない。これからよろしく頼む」

「少し、残念だけど、玄輝さん。これからよろしくお願いします!」

「ああ」

 

 そうして今度は雪華へと視線が移る。

 

「えっと、御剣ちゃんは……」

「私は、えっと、大丈夫」

「じゃあ、よろしくね! 雪華ちゃん!」

「よろしく、と、桃香、お姉ちゃん」

 

 頬を少し赤らめ、顔を俯かせていった言葉は、劉備にとっては思わぬ破壊力を持っていたようで、

 

「はぅ!?」

 

 オチた。劉備の何かがオチたなありゃ。そんなことを思っていると、少し頬を染めながら関羽が、

 

「そ、その私も真名で構わないからな?」

 

 なんてことを言い出した。

 

「愛紗、お姉ちゃん?」

 

 で、何の疑いもせず、雪華は同じように関羽の真名をお姉ちゃん付きで呼ぶ。

 

「…………」

 

 関羽が顔をそむけるが、一瞬見えたその顔は真っ赤というか、若干にやけていた。

 

「鈴々も! 鈴々も!」

 

 それに続いて、目を輝かせながら張飛が詰め寄るが、

 

「鈴々、ちゃん?」

「うー、ちゃん付けなのだー……」

「いや、それは、無理がないか?」

 

 見た目、同い年ぐらいだし……いや、下手すると年下に見えるし。

 

「ま、まぁ、これでめでたく結盟だね!」

 

 劉備がそう言ったことが、何かの合図となったのか、関羽がその手に持った盃を空に向けて高々と掲げた。

 

「我ら六人っ!」

「性は違えども、兄妹の契りを結びしからは!」

「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」

「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」

「願わくば、同年、同月、同日に死せんことを!」

『乾杯!』

 

 全員で言ったその言葉で、皆の盃が綺麗な音を立ててぶつかり合った。

 

 こうして、俺たちは見知らぬ大地の乱世に一歩、足を踏み入れた。いかな未来が待っているか、そんなのは分からない。だが、必ず切り抜けてみせる。俺は心の中でいつの間にか、そう誓っていた。

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

はいどうも、おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫で〜す!

 

てなわけで(なにが?)桃園の誓いまで一気に更新です。てか、流れ的に切るところが思いつかずに、載せただけなんですけどね、ええ。手合せ前も考えたのですが、それもなんか微妙だったので……

 

さて、いよいよ普通な人が出てくるの近いです。みなさん、もう少しだけお待ちくださいね〜

 

では、何かありましたらコメント(ネタバレはダメですよ?)の方にお願いいたします。

 

また次回〜

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
劉邦柾棟さん:おやおや、そっちを想像してしまいましたか(ニヤニヤ まぁ、普通はそっちの意味の方が多いですよね!(マテ(風猫)
ツナまんさん:まぁ、竜と単独で戦える実力を持っていますので、このぐらいが妥当かな、と。隠していることは、後のお楽しみ、ということで(風猫)
「事後」って・・・・・何か別の事を連想してしまう言葉だな。 『ナニ』がとは言えませんがね(苦笑)(劉邦柾棟)
自力で愛紗と引き分けですか。他にも何か隠してるっぽいですね。うちの狐とはやはり違いますねえ。(ツナまん)
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鬼子 オリジナルキャラクター 真・恋姫†無双 蜀√ 

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