SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガールACT:34
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「ああ先生、もうそれくらいに。亜郎くんが可哀想ですよ。解ってるでしょ。単なる好奇心じゃないですか。子供がお化け屋敷を探検したがるのと同じです。だけど大丈夫、彼はばかじゃない。自分が今どんな立場にいるかちゃんと解ってますよ。ねえ、亜郎君」

「ち、違いますよ!! ぼ、僕はっ、ただ………」

「なんや。この期に及んでまだナンか口からでまかせが出せるのか」

「ただ…夕美さんに逢いたくて…」

 これには言った亜郎自身が驚いた。こんなことを言うつもりじゃなかったはずだ。だが、一体自分のどこからこんな言葉がでてきたのか、まったく迷いもためらいもなく、ひとりでにスッとこの言葉が出たのだ。

 言ってしまってから言葉の意味が自分にハネ返ってきてとまどったが、不思議なことに違和感は感じなかった。(ああ、そうだったのか)とさえ思える。

 ほづみの言葉にカチンと来て反射的に出た言葉ではあったが、今の亜郎にとってはけっして口から出任せのウソではなくなっていたのだ。

   

  

 鶏が先かタマゴが先かはこの際もう、問題ではなくなっていた。恋がいつから始まるのか、想いのいつからが恋になるのかなど、恋してしまえばどうでもよいことである。

 そして恋は本人にとっては生死を分ける重大問題だが、他人には時に冗句のタネにさえなってしまう不思議な価値観のものだし、その価値観のホドは本人以外には計るすべはなく、そこに残酷な結果も待っている。

「ええー。ほんまにぃ??光栄やなあ」タオルと真新しいシャツを持って夕美が戻ってきた。別に茶化すつもりではない。夕美にしてみれば亜郎の言葉の源泉がよもや生まれたばかりの恋に起因するとは思ってもみなかっただけのことだ。夕美もまた、恋などとはいまだ無縁なところにいた。

「は………」亜郎の顔色が再び真っ赤に染まる。「───はう。」そしてふたたび鼻血を噴き、もう一度その場にひっくりかえった。

「うわああああっ、た、大変や、また───!お父ちゃん、もう亜郎君に構いな。この子には関係ないんや。そやろ」

「そ、その通りや。お前、はよハナヂ洗てとっとと帰れ、しっしっ」耕介は野良犬を追うように手のひらを振った。

「あほっっっっ!無茶いいな。こんなボロボロの格好で帰したらエラいことになるがな」

「ひ、ひや、僕は大丈夫ねすよ。取材でほんなほほ、ひょっつゅうねすはら」

「…日本語なってへんがな…え、なんやて、あんた普段からこんなことしてんのかいな。」

「はあ」

「はあ…って、いくらなんでもこんなひどい格好で帰ってみいな、ご両親が心配しはるやんか」

「いや、色々あるんで全然大丈夫っすよ」

「あんた、サリゲに不幸自慢してる?」

「ええええええええ?し、心外ですよ、ただ僕はありのままに」おもわず跳ね起きかける亜郎を押さえる夕美。

「ごめんごめん、冗談やがな。ゴシップばっかし追っかけてるんかと思たけど、案外ばか正直なんやね。うーん、また出血してしもたからアレやけど、ま、落ち着いたらこのシャツに着替ええな。」

「あっ。それ、俺のやないか!」

「違う。まだお父ちゃんは着たことないから誰のもんでもない。サラや。…あ。そや…私ら、今日ってやっぱし無断欠席扱いかな?」

「えっ。あっ。」

「いや、無断じゃないよ。一応朝のうちに学校へ電話は入れておいたから。」

「おお。さすがほづみ君。気の効き方がフツーやないなあ」

「ほんまやわ。なんやの、その落ち着きっちゅーか、コンナコトがあったのに完全に日常チャメシゴト状態やもんなあ」

「ちょ、ちょっと待って…じゃ、僕は!? ここに泊まったことになってるんですか!?」

「じっさい、そうだろ」

「まままままま、まっ、待ってくださいよ。それはマズイでしょう。僕はともかく、夕美さんは」

「なにがマズイん」

「ゑえゑえ????!?」あまりの温度差に亜郎は自律神経がどうにかなりそうだった。

「夕美さんは人のウワサの怖さを解ってませんよ。こうみえても僕は有名人なんですよ!?」

「ほっほー。大きく出たなあ。」耕介がチャチャを入れる。「たかが学園内レベルやないか。いくらリン・ミンメイがアイドルやっちゅーても、しょせんはマクロスっちゅう名の閉鎖社会、井の中の蛙(かわず)のやね」

「ナンの話ですか?!そりゃね、たしかに学園アイドルのレベルってのは認めますけどね、いいですかお父さん」

「お父さん言うな」

「あのね」ほづみが話の流れに乗ろうとする。

「いいですか耕ちゃん」

「それはもおええって」

「あの…ですね」───が、乗りきれない。

「その学校内部はそのまんま社会の縮図なんですよ。毎度おなじみイジメもあれば派閥もあるんです。噂話に一喜一憂したり扇動されたりするんですよ。」

「先生、亜郎君?」

「なんですか、あなたはさっきから」

「いや、今日は学校が臨時休校だと言いたかったんだけどね」

「「えっ。なんで」」と亜郎と夕美が同時に反応した。

「昨日のクレーン事故だよ。僕も学校へ電話して知ったんだけど、事故はあれで終わってなくて、閉じこめられている人が居たらしいんだ。で、その救出とか、群がるマスコミの関係者でごった返しているらしいよ。しかも、学校が立地的に撮影ポイントとしても便利だとかで…だからもう今日は休校にしたらしい。」

 ハッとして尻ポケットの携帯電話へ手をやる亜郎。だが手に触れたものは、携帯電話だったはずの複数の断片だった。

 引っ張り出してみると、断片の正体はバッテリーとそのフタ、そして小さなプラスチック片がいくつか。そしてたしかに本体は見事な鯖折り状態だった。

「亜郎君、電話やったら繋がってるみたいやで、ウチのを使て」

「いや、僕は皆目番号を覚えてないんでコレがないと…」

「見せてみい」と耕介が亜郎から携帯電話をひったくる。

「あっ。お父ちゃん、あかん。壊したらあかんから返し」

「アホ。ヒトをいたずら猿みたいにいうな。治るかどうか診たろ、っちゅうのに、なんちう事言うねん。うーん。」

 ヒンジ部分でヘシ折れ外殻は粉々に割れていたが、かまわず耕介は電極の接触部分などを手元にあった木の切れ端を器用に使って調整し、まずはバッテリーを入れられるようにした。

 とたんにほとんど基盤だけ同然になった亜郎の携帯のアラームが鳴った。「うわ」

「あっ。メールの着メロですよ。すごい、直ったんですか!!!」

 

 

〈ACT:35へ続く〉

 

 

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 すんげーはげみになりますよってに…

 (作者:羽場秋都 拝)

 

 

 

説明
毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その34。
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