Fリーナさんライジング!! 第2話 I just want to talk (私は話し合いたい)
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リーナさんライジング!! 〜星の準則〜 

 

第二話

I just want to talk (私は話し合いたい)

 

 これは今から五年前のお話。

 十一歳になったばかりのリーナお嬢様に背負わされた悲しい重責。

 彼女を見守り続けようと僕に決意させた ある事件のお話……

 

 浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな街、名古屋の大須。

 その大須の喫茶店でモーニングを楽しんでいた僕達の所へ、謎の使者、十六夜真紀

(いざよい まき)さんが「ヒエロニムス・マシンを探して欲しい」と超高額な依頼金を

持って仕事の依頼にやってきた。その正々堂々とした依頼人の姿勢からは、よくある悪人が

仕掛ける〈罠〉のニオイは全く感じられなかった。

 夜遅くセントレアに到着した、黒く塗装された超音速旅客機コンコルドに、僕とリーナ

お嬢様は乗りこみ、最高速度マッハ六の猛スピードでフロリダ空港へ向かった。(改造され

てるみたいだ) フロリダ空港に到着すると、十六夜さんが笑顔で出迎えてくれた。

 一緒に、ピカピカに磨きこまれた一九七九年式のマセラッティ・クワトロポルテVに

乗りこみ、近港へ向かう。

 マセラッティ好きなリーナお嬢様は乗ってる最中も、終始ご機嫌で、

「すごいねー、広いねー、欲しいねー、前金八百万も、もらってるしさ、

これ買っちゃおうよ♪」と大はしゃぎだ。

「この位程度のいい物を買いたいなら、追い金であと千二百万ほどご用意して

頂かないと」と釘を刺しておく。

 すっかりシオシオにしょげてしまったリーナお嬢様には悪いけど、この先

まだ何が起こるか判らないので、手持ちの軍資金は少しでも余裕をもたせたいところだ。

ルパン三世みたいにハデな冒険活劇をやらかして、収支決算ゼロみたいなマネを

しでかすわけにはいかないのである。

 しかしコンコルドといい、マセラッティといい、移動費用は十六夜さんサイドが

全部負担してくれている殿様旅行で、全く感謝感激雨あられだ。

 港では、すでに四層立ての豪華な小型プール付き特大高速クルーザーが待機

しており、ヒエロニムス・マシンを乗せたクルーザーが消息をたったという

バミューダ海域のポイントへ、早々に出港した。

 バミューダ海域は世間一般の暗くてヤバくて、すぐ行方不明になりそうな

イメージと違い(笑)実際は、日差しは強いものの、すっきりとした海水浴に

もってこいの気持ちの良い暑さだった。波も穏やかで平穏そのもの。名古屋や

岐阜など中部地方特有の、湿気をふくんだ猛烈な暑さの方がよっぽど身体に

こたえると思う。

 日頃、家庭教師の仕事で部屋に籠もってのデスクワークが多いので、

こういう貴重な空き時間は日光浴にあてるに限る。

 Tシャツと短パンに着替え、甲板に出てサングラスをかけ、プールサイドの

横に常設してあった日光浴用ベンチシートに優雅に寝そべり、来る前に

セントレアで買っておいたヌルヌルにぬるくなったドクターペッパーの

ペットボトルをテーブルの横に置いて、小説を読みふけっていると、下の階から

ビキニ姿の十六夜さんがクーラーボックスを肩に掛けて上がってきた。

 美人で背は高いし、引き締まるところはキッチリ引き締まっていて、

出るところはバッチリ出ている、モデルみたいな抜群のすんばらしいプロポーションだ。

 サングラスをずり上げて思わず肉眼で見入ってしまった。

「フフ、ぬるいドクターペッパーはお止めになった方がいいですよ。

冷やしてくるのでこちらを飲んでてください」

 氷入りのよく冷えた大瓶のアップルタイザーとタンブラーを渡され、

ぬるぬるドクターをひきとってもらった。

 遠目で僕らの様子を見ていたリーナお嬢様が、つかつかと近づいてきて、

羽織っていたバスタオルを目の前で放り投げる。

 お嬢様は、栄で選ぶのに三時間もつきあわされたビキニを着込んでいた。

 お嬢様的には会心のビキニ姿で、クルリと三回転して「どうよっ?!」と、

なんかよくわからないポーズを決めた。

「将来に・期待・します」

 サングラスを下げて、にこやかに感想を述べると、

「私のときはサングラス下げるんか!! どターケっ!!」

 何が気にさわったのか、猛烈に怒り狂ったリーナお嬢様の回し蹴りで

ベンチシートごとプールに叩きこまれた。

「ハルロー、覚えときなさいよ、将来あんた絶対鼻血ブーにしてやるからねっ!!」

 半気絶状態で水面にプカプカ浮いていた僕に、頭上から捨てゼリフを浴びせたお嬢様は、

「あーあ、仕事しよ仕事仕事。さっさと終わらせて帰ろ」

 とか、ぼやきながら、下の階にズカズカ降りて行った。

 うーむ、気のせいか周りまで暗くなってきた気がする(笑)

 プールの中からずぶ濡れのベンチシートを引き上げ、ノートパソコンを

使ってネットで調べ物をしていると、しばらくしてクルーザーが停止した。

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「水中用探知レーダーには依然反応はありませんが、私共のキーホール一三衛星と

ロードランナー(※二○○九年時点で世界最速のスーパーコンピューター)で割り出した、

オリジナルヒエロニムス・マシンを積んだクルーザーが、消息を絶ったと思われる

ポイントに着きました」

 十六夜さんが手近の海面を指さす。エメラルドグリーンの海の色からすると、

かなり深そうだ。

「ここまで、捜し物のありかに目星がついていれば、海流とかに流されたり

してなければ、意外と早くお渡しできるかもしれませんね」

「いわくのある所へわざわざ出向くので、万が一を考え、必要最低人数しか

乗船させておりませんので人手不足はご容赦願います。

その代わりといってはなんですが、簡易工作室や引き上げ用クレーンに

潜水用具も用意してありますので、ご自由にお使いください」

「なんかもう、いたれりつくせりで申し訳ありません。これで品物が

見つけられなかったらどうお詫びしていいものやら……」

「いいえ、こちらこそこんな辺鄙なところに、変な物を探しに出向いて

頂いて感謝してるんですよ。それと、船員のことですが、海の男達なので、

礼儀知らずで不躾なところがあるかと思いますが、

ご指示頂ければ大抵のことには従うよう命じてありますので、なにかあれば

お言い付けを」

「そんな、おかまいなく。気にしませんから」

 確かに僕ら以外の操舵士やコックなどの乗組員は、みんなひどく無口で

無愛想な連中だ。

 やる気のない顔で、高給に釣られてイヤイヤ出向いてきましたよ〜〜ん感が

漂っていて、それだけが超一級品装備で固められた今回の旅の中で

ミスマッチな気がした。

 会話を交わしながら、腰のベルトに付けた防水ホルスターの中から護身用の

コルト四五 MkW・シリーズ七○〈ナショナルマッチモデル〉を取り出して

点検する。

 射撃競技用の精度の高い拳銃で重くて反動が少し大きいけど頑丈で、いざと

いうときの弾詰まりも少なく、向かってくる危険な人間や動物を必ず足止め

できる頼れる一品だ。

(もし超弱装騨なんてものがあるなら、暴走したお嬢様に向けて撃ちたいなーと

思うことが年に四、五回あるけど(笑))

 さて、そろそろ仕事開始かなと思っていると下の階から小型で性能の

良さそうな金属切断用電動丸ノコと電動ドリルをつかんでリーナお嬢様が

上がってきた。

「さぁーて、そんじゃあ始めよっか。十六夜さん、私が細かい指示出すから、

それに従ってクルーザーを移動してもらうよう、携帯で操舵士に伝えてね」

「はい、判りました。私、作業の邪魔にならないよう、横で見てます」

 トコトコとクルーザーの舳先部分に歩いていったお嬢様は、何を思ったのか、

しやがみこんで床板に電動ドリルで直径三センチくらいの穴をザクザク掘り始めた。

「うわわ――っ、お嬢様、人の船で何やり始めるんですかーっ!?」

 意味ありげにニッコリしながら、

「別にいいよね、十六夜さん? 補修代がいるんなら払うしさ」

と、聞いてみるお嬢様。

「好きなように手を加えてかまいません。主(あるじ)の命(めい)が最重要です。

今回の仕事に必要なら、このクルーザーも装備としてご利用ください」

 お嬢様に合わせるようにニッコリと微笑み返す十六夜さん。

「ハルローちょっと手伝って。今穿った穴の真横に一メートル位離して、

もう一個同じ大きさの穴あけといて」

 ドリルを手渡されたので、指示に従って穴を開ける。

 何する気なんだろ?

次にお嬢様は、近くにあった金属の丸棒で作られた大きな手すりを

おもむろに、電動丸ノコでギュイーンと切り始めた。

 十六夜さんの了解をもらったお嬢様は、遠慮無くどんどん切り出して

加工していき、あっという間に大きなL字型の鉄パイプを二本こしらえた。

「お嬢様、これって、まさか……!?」

「そのまさかに決まってんでしょ。これを穴に二本差して私が手を触れて、

〈クルーザーダウジング〉するの!」

 なんてこと思いつくんだ。あっけにとられる僕。

「ククク、なるほど……」

「なんか言った、十六夜さん?」

「いえ、失礼しました」

 珍しく小声でクスクス笑った十六夜さんに、

「これから面白いことになりそうだから、もっと笑えるわよ」

 ニッコリと微笑み返すリーナお嬢様。

 さっき曇ってきたかなと思ったけど薄い霧がでてきたような。

海上は天気が変わりやすいのでスコールでも来るのかな?

 二つの穴に差し込んだ、手すりで作った二本のL字型ダウジング棒の間に、

お嬢様は体操座りをすると、左右の棒を軽く握り、前方を向いて真剣に集中する。

 十分くらい経過しただろうか。

 しばらくクルーザーを時速五キロ程度で流していると、前方に向きを揃えた、

二本のダウジング棒の先がゆっくりと一斉に開き始めた。

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 開く

 

 開く……

 

 開く…………

 

 開く………………

 

 ゆっくりゆっくり左右に開いていった二本の棒は、やがてリーナお嬢様を

中心に百八十度まで開き、ついに三百六十度まで開いてしまい、ガチャッと交差した。

 その交差した棒の先には――――

 お嬢様の後ろに立っていた十六夜さんがいた。

 前方を向いていたお嬢様は、ゆっくりと後ろをふり向き、

「――てことだそうよ、十六夜さん。どこにしまってあるのか知んないけど、

そろそろ出してくんないかな? ヒエロニムス・マシン」と告げた。

 鋭い視線でお嬢様をにらんだ十六夜さんが、左手を前に突き出して手のひらを

上にすると、分解したテレビのクズ部品を適当に寄せ集めたような

十五キロはありそうな木箱が、瞬時に姿を現れた。

 一見すると魔法か超能力かと思えるが、十六夜さんが出したわけでなく、

なぜかこの木箱の方から自らの意志を持ってすすんで「おれ参上!!」と

現れた気がするのは気のせいか?

「フフフ、よく〈見つけ〉ましたね。こんな方法であっさり探し出すなんて、

さすがクラスQの「探し屋」さん。今回の件が済んで無事帰ることができたら、

まだ誰も到達していない世界最高のクラスKやクラスジョーカーの「探し屋」に

若干十一歳で特進できること私が保証してあげますわ」

「あなたに保証されるなら、クラスジョーカーも夢じゃないかもね」

「ハイ、じゃあお約束どおり成功報酬をお支払います。幾ら欲しいですか?」

「二億!」

「それでは今日にでも、あなた方の口座に振り込んでおきましょう。でも不思議ねリーナさん」

「なにが?」

「あなたが望む金額が、好きなだけ手に入るって気づいてるはずなのに、どうして

この位の金額しかいらないんですか?」

「何でも手に入るのって、つまんないじゃん。自分で馬鹿なこと、無駄なこと

何回も繰り返してさ、欲しい物探して手に入れた方が私面白いもん」

「判る気がします」

「十六夜さん、あんた達の本当の狙いは、ただ、私を自分の意志でここに

来させたかっただけでしょ? 罠にハメようとか悪い事企んでたワケじゃなくって。

私が釣られそうなヒエロニムスや大金使ってまで呼び寄せたかった理由ってのが

分かんないけど」

「いつ、それに気がつきました?」

「まず悪いヤツじゃないってのは名刺もらったときに気づいた。あれだけの

スゴイ名刺渡せる財力をバックにつけてる相手だよ。もし敵意があるなら

名刺交換なんて、まどろっこしいことなんかしないわ。

 私たちがのんきにモーニングしてる、その時点で速攻で喫茶店ごと

大須一帯つぶしにかかってるよ」

物騒なことを言ってるけど、お嬢様の言うとおりかもしれない。

「私の来訪が狙いだったのに気づいたのは……あんたねぇ、私十一だからって

ナメてない? こんなあからさまに〈私に来て来て♪〉材料勢揃いなら、

ヒエロニムス・マシンがあんた達のホントの狙いじゃない事くらいネコでもわかるわよ!」

 僕気づかなかった。僕ネコ以下? 

「お嬢様、そこまで、色々気づいてたんなら、なんで早く教えてくれなかったんですかーっ?!」

「ごめん、十六夜さんの誘い方があんまり楽しいんで、つい乗っちゃった」

「最初、出会ったときはただのお馬鹿なチビッ子かと正直落胆してしまいましたが、

今、私の中であなたの株急上昇中です」

「それはどうも」

「ますます、主(あるじ)にリーナさんを会わせたくなりました」

「お仕事もすんだし、私帰りたいんですけどー」

「お仕事は延長決定です」

「ああ、やっぱダメ?」

「はい。延長料金は思いっきりはずみますよ」

 十六夜さんは頭の後ろに両手を組むとニコリと微笑んだ。

 周りの霧が急激に濃くなり、海面から巨大な水の柱が立ち上り十本、五十本、

百……クルーザーの周りを取り囲んできた。

 巨大なホオジロザメとシャチの大群が一斉にこのクルーザー目指して押し寄せてくる。

 稲妻が炸裂し、雨風が突然吹きつける。

 誰も乗っていないクレーンが回転して巨大なカギ爪が僕らを狙い始めた。

遙か上空で気象衛星三機が、こちらを観ているようだ。

 気象衛星のはずだから、危ない兵器は積んでないと信じたいけど、僕の改造腕時計が

ミサイルのロックオン警報を三つ、電気信号でピリピリ知らせてくる。

 奥に引っ込んでいたはずの十数名の乗組員がバールや水中銃、フライパンなど

得物をつかんで甲板にゆっくり上がってきた。やる気なさそうに。

「このバミューダで亡くなった水死体を完全成形するところまでは、

容易かったんですが、性格や魂の復元はちょっとミスしちゃいましたね」

「うわーっ、無口でやる気ないはずだよ、こいつらー!!」

「用件が済むまで絶対帰さないってわけね」

「ええ」

「十六夜さん、こんな超常現象より、さっきからあんたが、ビシバシ私の頭の中に

ぶつけてきてるビジョンから伝わってくるあんたの物凄い実力の方が私は怖いよ」

「あの人超能力者ですか?!」

「アレそんな生易しいレベルじゃないよ!! もちろん神だの悪魔だの、霊とかいう

オカルト系じゃないし、遺伝子操作生物やらロボットとかいう軍事科学系でもない。

ほら、あの人わざわざ頭の後ろに手を組んでるでしょ。つまり今、周りで始まってる

超常現象は勝手に起こってるんだよって意思表示よ」

「周りの環境が、自分たちの意志で十六夜さんに加勢しようとしていると?!」

「ついでに言うとね、あんな裸同然の、隙だらけなビキニ姿で余裕綽々に

突っ立ってるって事は、なんだか判んないけどあんたのガバメントで、

撃とうが何しょうが絶対に無駄だよって意思表示でもあるのよ」

「なら、一体なんなんですか、あの人……?!」

「とりあえず、今の見たままだけなら正体不明の超常現象使いって

とこだけど、私の勘だと、神だとか宇宙人とか、そんなのブッちぎりで

完全独走っぽいすんごいヤツ……」

「なんかできることないんですか!?」

「絶対ない。あいつがもし本気で敵意向けたら私たち瞬殺」

「ふえぇぇぇ!!」

「フフフ、安心して、ハルローさん。あなた達を消滅させる気なんて

ありませんから。今回の呼び出しの理由はね、私の主(あるじ)……、

いえ、あなた達、人間を含めたすべての主がリーナさん、あなたと

会ってお話したいだけ。本当にただそれだけ。

「どういうこと!?」

「ただね、少し遠いところに来てもらうからしばらく二人には眠ってもらいます……」

 十六夜さんの眼が黄緑色に一瞬まぶしく光った瞬間、周りが白く光り出し、

甘いキンモクセイの香りを含んだ突風が、前方からもの凄い勢いで僕たちに吹きつけてきた。

 その香りに、目眩いを感じて僕たちは気を失った……。

 

 

次回

Gリーナさんライジング!! 第3話 星の準則

 

説明
リーナさんライジング!!
第2話公開します。
しかし、たかだかホームページの
看板娘にあるまじき、大冒険ですね。
 ここまで続けて読んで頂いた方は、お話の決着がつくまで
あともう少しなので第3話まで読み続けてもらえるとうれしいです。
3月に加筆修正しました。

P.S
支援数はプラス2です。
tinamiの当時のシステム上やむなく消して再アップしましたが
応援ありがとうごさいました。
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タグ
リーナ 大須 ツインテール お嬢様 ヒエロニムスマシン photoshop オリジナル 水着 冒険 

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