真・恋姫†夢想〜世界樹の史〜第三章・枯れ木崩し編
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第T話・『消えた人』

 

 

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その少女は、いつも懸命だった。

地位も名誉も手にした両親に、そして才気豊かな兄君に、ただただ褒めて貰いたい一心で。

 

私はそんなキラキラと輝く少女に仕え、とても誇らしかった。

 

何事にも懸命に、真っ直ぐに…。

 

歯車が壊れても、ただ懸命に。

 

   私はもう見たくない。

 

誰かこの歯車を…

 

   私はもう見られない。

 

早くこの歯車を…

   

“壊して下さい”

 

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---汝南郊外の砦---

 

夥しい数の敵に囲まれ、今まさに砦は堕ちようとしていた。

その砦最上部の広間。

そこには一人の少女と、一人の青年が佇んでいた。

 

???「ふぅ…。」

 

火の手が上がる部屋で、青年は落ち着いた様子で息をつく。

 

???「これしかないもんな。

    ま、しゃあないしゃあない。」

 

張勲「お嬢様をお守りするためですからね〜。」

 

傍らの少女もヘラヘラとした様子で返す。

 

???「…そうだね。

    さて、じゃあちょっと星でも見ないか?」

 

そう言うと、青年は親指で後方の出窓を指さす。

 

張勲「ふふっ、そうしましょうか〜。」

 

固く閉ざされた広間の扉は、槌を打たれ鈍い音を響かせている。

敵がなだれ込んでくるのは時間の問題だった。

 

張勲「ん〜、煙たくて微妙な星空ですね〜。」

 

???「はははっ、残念だ。」

 

張勲「…そろそろ、ですね。」

 

???「あぁ。

    ってことで、これを頼んだよ。」

 

青年は懐から手紙を取り出し、少女に渡した。

 

張勲「頼む…?」

 

少女はそれまで保っていたにこやかな表情を崩し、訝しげな表情を浮かべた。

 

???「あの子に届けてくれ。

    ここから落ちれば下は池だ。」

 

張勲「…なにを…。」

 

???「俺がここで引き付ければ、君一人くらいは包囲を抜けられるだろう?」

 

張勲「残るなら私が」

???「俺が女の子をこんなとこに一人置いて行けると思う?」

 

張勲「っ…、で、でも…それじゃあ美羽様が…!!」

 

少女は、城で待つ年端もいかない女の子を思い浮かべていた。

 

???「…帰りが遅くなるって伝えといて。」

 

張勲「遅くなるって…お言葉ですが貴方の腕じゃここは抜けられません!」

 

???「じゃあ、袁家当主代理として命ずる。

    戦場を離脱し、この手紙を城へ持ち帰れ!」

 

青年の言葉からは、有無を言わさぬ力強さと意思の堅さを感じる。

それを受け少女は俯く。

 

張勲「そ、そんな…

   それはあんまりです!!貴方を…愛する人を置いて行くなんて…!!」

 

???「…これは命令でもあるけどさ…お願いでもあるんだよ。」

 

張勲「…?」

 

???「あの子から、兄と姉をまで同時に奪わせないでくれ。」

 

張勲「っ…。」

 

???「それに、俺は元々よそ者だからね。

    当主が代理じゃなくなるんだから、家としてはいいことじゃないか。

    

    あの子は素直だし、とても真っ直ぐだ。

    良い当主になると思うよ。だけどあまりにも優しすぎる。

    だからこそ、これから先を見守ってあげて欲しい。」

 

張勲「…。」

 

少女の目からは、既に幾重もの大粒の涙がこぼれ落ちていた。

そしてその時は訪れる。

バンッと大きな音が聞こえ、扉が破られる。

 

???「っ…!!」

 

青年は少女を窓から突き落とす。

 

張勲「…っ!!

   …と…一刀…ま!!!一刀様ああああああああああっっ!!!!」

 

落ちゆく中、少女の手は空を掻き、愛する人の名を叫ぶ。

 

一刀「愛していたよ。俺も。」

 

喧騒の中でも、その言葉だけはしっかりと聞こえた。

やっと言ってくれた。ずっと待っていた言葉。

 

 

  私は子供、貴方は大人。

  私があと5つ年を重ねれば、貴方は5つ歳を重ねる。

  ほら、近づきますよ?

 

  あははっ、七乃は頭が良いな〜。

 

 

頭に浮かんだ思い出。

貴方はいつだって笑ってた。

 

だが、池に落ちる直前、最後に見えた彼の姿は

 

槍に貫かれ、血しぶきに覆われていた。

 

張勲「イやっ…!」

悲鳴を上げる瞬間、ざぶんと池に落ちたお陰で、敵に悲鳴を聞かれずにすんだ。

 

暗い水の中、水面には赤が揺らめく。

それは誰が血か、誰が火か。

 

 

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---それから年は過ぎゆき、襄陽近辺、?山にて---

 

孫堅「はぁ…はぁ…!」

 

江東の虎が、息も絶え絶えに山中にて敵に取り囲まれていた。

足に矢傷を受け、部下も既にみな討たれている。

 

劉表討伐の折、黄祖の裏切りにより孫堅軍の本陣は潰走する。

だがただ一頭となっても、虎はその牙を折ることはない。

 

黄祖「くくくっ、満身創痍だな孫堅!」

 

孫堅「下衆が…!この様な裏切り、貴様には誇りはないのか!」

 

黄祖「誇りぃ?くっはははは!!誇りより金よ金!!

   貴様の首を上げれば劉表様から莫大な恩賞が入るんだ!てめぇも終いだ孫堅!!」

 

孫堅「くっ…。

   (娘たちを連れてこないで正解だった。雪蓮、蓮華、小蓮…!後のことは任せるわ…。)」

 

黄祖「死ねぇえええええええええ!!!」

 

男は剣を振りかぶる。

 

孫堅「(ごめんね…。)」

 

その時、キランと夜空に流星が現れた。

そのまばゆい光は夜を照らす。

 

孫堅「ん?」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

黄祖「ぬ?」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

黄祖「なんだ?」

 

「うおああああああああああああああああああああああああああ!!!

 そこどいてえええええええええええええええええええ!!!!」

 

黄祖「人が落ち?!ぎょえええええええええええええええ!!!!」

 

兵士「黄祖様!!!!???」

孫堅「??!!」

 

輝く流星と共に空から落ちてきた男により、押し潰される黄祖。

 

「イテテテ…ん?」

 

兵士「ビクッ」

 

「あれ?さっきまで下に居た人は?」

 

兵士「(いやお前の足元!!足元みて!!)」

 

「まぁいいや。」

 

兵士「(よくねぇよ!!)」

 

「うわっ!君怪我してるじゃない!大丈夫?」

 

孫堅「え、えぇ…大丈夫。

   …っ」

 

「全然大丈夫じゃないじゃないか!とりあえず治療できる所まで運ぶよ!」

 

孫堅「そ、それより早く逃げて!!」

 

「ほえ?」

 

孫堅「こいつらに殺される前に早く!!」

 

黄祖「いでででで…何だってんだ畜生ぉ!」

 

「あ、さっきの人…生きてた。」

 

黄祖「てめぇこの野郎…この期に及んで刺客を放つとはいい度胸じゃねぇか。」

 

「もしかして、殺されるってこの人に?」

 

孫堅「えぇそうよ!だから早く逃げなさい!」

 

黄祖「もう遅ぇ!!

   その女もろとも死ねやガキが!!!」

 

黄祖は剣を振りかぶり、力いっぱい振り払った。

 

孫堅「…!!」

 

が、次の瞬間、男の両手はあらぬ方向を向いていた。

 

黄祖「な…な…お、俺の…俺の腕がああああああああああああ!!」

 

孫堅「…!?」

 

一刀「ねぇ、ひとつ聞かせて。」

 

孫堅「?」

 

一刀「この人にやられたの?」

 

孫堅「え、えぇ、そうだけど…。」

 

一刀「ワルモノ?」

 

孫堅「…私にとってはそうね。」

 

一刀「ふ〜ん。

   なら…。」

 

すると、唐突に女を抱き上げる一刀。

 

孫堅「え?え?」

 

一刀「スタコラサッサ〜♪」

 

一刀たちは逃げ出した。

 

兵士「…。」

 

黄祖「くっ…くそっ!!くそっ!!!

   んの野郎ぉ…ぶっ殺してやる…!!

   テメェら!!ボケっとしてねぇ追え!!追えぇええ!!」

 

兵士「は、はっ!」

 

 

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---南陽の地---

 

時はほんの少し遡る。

そこには、空を見上げる孫策の姿があった。

 

孫策「…今日も駄目か。」

 

母・孫堅の隊と連絡が途切れてもう数日が経っていた。

日を追うごとに、最悪の事態が現実味を帯びてくる。

 

周瑜「ここに居たのか雪蓮。」

 

孫策「冥琳…。」

 

周瑜「…美蓮様の事か?」

 

孫策「えぇ。」

 

周瑜「我らも覚悟を決めねばなるまい。

   旗印を失えば、各豪族も隣国の袁術も掌を返してくるだろう。」

 

孫策「わかってるわ。

   …孫家の宿願は果たさなきゃいけない。私の手で。」

 

周瑜「…あぁ、そうだ。

   ところで、こんな話を知っているか?」

 

孫策「え?」

 

周瑜「黒点を裂いて流星が現れ、その流星には世に安寧をもたらす天の御遣いが乗っているそうだ。」

 

孫策「へぇ、冥琳が占いを信じるなんて意外ね。」

 

周瑜「…そんな気分にもなるさ。」

 

孫策「そうね。

   …って、冥琳アレ!!」

 

その時、空には一筋の光が流れていた。

 

周瑜「そんな馬鹿な…!あの占いは本当だったのか?!」

 

その流星は、強い光を放ち山の向こうへと落ちていった。

 

孫策「(あっちは母様のいる方向ね。)

   ただの流星だとしても、綺麗なものね…。」

 

周瑜「あぁ。」

 

孫策「(もし、本当に天の御遣いが乗っているなら…どうか母様を…。)」

 

 

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---汝南近郊---

 

木々が生い茂る山の中。

袁術配下の軍勢が捜索隊を編成し、流星の行方を探っていた。

 

紀霊「本当に御遣いなんて居るのかねぇ。」

 

張勲「お嬢様のご命令ですから…。」

 

紀霊「それはそうなんだがよぉ、たかだか占い如きにこんな大部隊で行くことはねぇんじゃね?」

 

張勲「…お嬢様のご命令ですから。」

 

彼女は占いを耳にした時からずっと考えていた。

数年前の彼の事を。

 

数年前、お嬢様と私の目の前に落ちてきた彼。

 

私の目の前で命を落とした彼。

 

紀霊「おい、どした。随分顔色が悪ぃが…。」

 

張勲「っ…、なんでもありません。」

 

貴方が帰ってくる事はない。

それだけは分かってる。きっとお嬢様も。

 

だからこそ私は願う。

 

  貴方に会いたい、と。

 

 

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---数日後、南陽城壁にて---

 

孫策「何よ明命〜、そんなに急かして。」

 

周泰「おおおおお、お早く!!

   大変大変大変なんです!!」

 

周瑜「ここに何があるというのだ?」

 

周泰「あ、あそこを見て下さい!!」

 

そう言うと、周泰は陸の遥か先を指さす。

そこにはただ大地が広がっていた。

 

孫策「ん〜?

   馬鹿な賊でも攻めてきたと思ったのに…なにもないじゃない。」

 

周泰「よく見て下さい!!

   三里ほど先のところです!!」

 

孫策「いや見えるはずないでしょそんな先…。」

 

周泰「そんな…!」

 

周瑜「それはこちらの台詞だ。

   で、何がある?」

 

周泰「孫堅様です!!」

 

孫策・周瑜「…。」

 

孫策「そ、その河は渡っちゃ駄目よ!!」

周瑜「早まるな明命!!」

 

周泰「はぅあ?!

   ちちちち違うんです!!本当におられるんです!!

   あ、ほら!もうすぐ皆さんも見えてくるはずです!」

 

孫策「そんな事言われても何も見えないし…ん?」

周瑜「あれは…?」

 

孫策「まさか母様?!」

 

 

それから少し時を置き、一刀と孫堅は建業へとたどり着いた。

 

 

孫堅「お〜、着いた着いた。」

 

一刀「流石に疲れた〜。

   もう腰がバッキバキだよ。」

 

孫策「ちょ、ちょっと母様!!

   無事だったの?!」

 

孫堅「おぉ、雪蓮。

   なに、黄祖の奴に一杯食わされ死にかけたが…この男に助けられてな。」

 

周瑜「よくぞご無事で…!

   そこの御仁、礼を言わせてくれ。

   我らが主を助けてくれたこと、心から感謝する。」

 

一刀「いえいえ、お気になさらず。」

 

孫策「貴方、名前は?」

 

一刀「北郷一刀。こんなんでも一応、天の御遣いだよ。」

 

孫策・周瑜「…。」

 

孫策「はい?」

周瑜「はい?」

 

一刀「まぁ、信じられないかもしれないけどね。」

 

孫堅「一応言っておくが、本当に一刀は流星とともに現れた。

   占いなど信じておらんが…本物かもしれんな。」

 

孫策「ほ、本当に天の御遣いなんて居たの?!」

 

周瑜「にわかには信じられんが…美蓮様が仰ることを考えれば合点がいくか?

   いやしかし…」

 

そこへ、孫権たちを引き連れた周泰が駆け込んできた。

 

周泰「雪蓮様!!皆さんをお連れしました!!

   美蓮様…ご無事で何よりです!!」

 

孫堅「おぉ、明命。」

孫権・孫尚香「母様!!」

孫堅「娘たちも一緒か。心配をかけたな。」

 

孫尚香「も〜〜!!本当に心配したんだからね!!」

孫権「ご無事で良かったです。」

 

孫堅「ふふっ、悪かった。」

 

涙ぐむ二人の娘の頭を撫でながら、孫堅は笑う。

 

黄蓋「??

   …そこの小僧は誰じゃ?」

 

孫堅「あぁ、巷で噂の天の御遣いだよ。

   此奴に命を助けられたのだ。」

 

黄蓋「なんじゃと?!」

 

孫策「どうやらそうらしいわよ?

   流星と一緒に落ちてきたって。」

 

孫堅「あぁ、敵に囲まれ覚悟を決めた瞬間、空から流星が降ってきてな。

   そしたらこの男がそこに立っておった。」

 

陸遜「へぇ〜!何かスゴイですねぇ〜!」

 

孫権「礼を言わせて。

   母様を助けてくれて本当にありがとう。

   貴方は我ら孫呉の恩人よ。」

 

一刀「どういたしまして。」にこっ

 

孫権「っ///」どきんっ

 

甘寧「(蓮華様…。)」

孫堅「(お…?これは…。)

   

   あー、そうそう!礼で思い出したわ!」

 

孫策「どうかしたの?」

 

孫堅「私から一刀への礼なのだが…娘たちの婿なんてどうだ?」

 

一刀「…はい?」

 

孫権「か、母様?!」

 

孫堅「いやなに、お前たちも年頃だろう?

   そろそろ良い話があってもと思ってな。」

 

孫尚香「ん〜、私は全然良いかも!

    このお兄さんカッコイイし!」

孫権「小蓮?!」

 

一刀「あ、あの…お気持ちだけ…。

   それに、まだ会ったばかりですし。」

 

孫堅「ふむ…無理強いするわけにもいかないか。

   なら、あくまで婚約者ってだけならどう?」

 

一刀「ま、まぁそれなら…良いのかな?」

 

孫権「っ〜///

   で、でも母様っ!」

 

孫堅「(頑固な子ね…誰に似たのかしら。)

   安心しなさい。

   一刀とは道中色々話してたけど、人柄も良いし度胸も知恵もある。

   そして武の方も相当イケるわよ?残念ながら、ウチじゃ敵う相手がいないほどね。」

 

「「「 ?! 」」」

 

孫堅「鍛錬してるところも見たけど、正直化物かと思ったわ。」

 

「「「 …。 」」」

 

孫策「…ねぇ。」

 

一刀「ん?」

 

孫策「私と試合わない?」

 

周瑜「雪蓮!北郷殿も疲れているだろうに何を言い出すんだ!」

 

一刀「そうだね、正直もうクタクタだよ。」

 

孫策「ぶ〜ぶ〜。」

 

一刀「だから一本だけなら良いよ。」

 

孫策「本当に?!」

 

孫堅「良いのか?」

 

一刀「うん。俺も腕を鈍らせたくないし。」

 

黄蓋「あっはっはっはっ!

   何じゃ、気骨のある男ではないか!気に入ったぞ!

   では儂が立ち会おうかの。」

 

甘寧「…。」

 

孫策「場所は…城の中庭で良い?」

 

一刀「いいよ。

   そして出来れば今晩泊めてくれ。」

 

孫堅「そこは按ずるな。

   ゆっくりして行くといい、未来の息子よ。」

 

一刀「き、気が早いなぁ…。」

 

孫権「ぅ…///」

 

 

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---中庭にて---

 

皆が見つめる中、二人は向き合った。

 

孫策「ん?貴方得物は?」

 

黄蓋「なんじゃ、剣や弓でよいなら訓練用のものを貸すぞ。」

 

一刀「大丈夫。無手でやるから。」

 

孫権「ちょ、ちょっと正気?!」

 

孫堅「おやおや、旦那が心配か?」

 

孫権「ち、違いますっ!」

 

一刀の言葉を聞くと、孫策の目は次第に鋭くなっていく。

 

孫策「…一応言っておくけど、舐めているならたとえ恩人でも容赦しないわよ。」

 

一刀「やってみればわかるんじゃない?」

 

孫策「…そうね。

   祭っ!」

 

黄蓋「応!

   それでは…はじめ!!」

 

真っ先に動いたのは孫策だった。

剣を横薙ぎに振り払い、返す刀で二度三度斬りかかる。

ところが…。

 

孫策「…っ!!ふっ!!

   (なんなの?!全然当たらない…っていうか動くたびに見失う?!)」

 

一刀「…。」

 

孫策「くっ…!なんでっ!当たらっ!ないの…よっ!!」

 

一刀「あははっ、そう焦らない焦らない。

   (なんか懐かしいな…これ。)」

 

孫策「っ〜〜〜〜!!ムカつくムカつく〜〜〜っ!!」

 

一刀「おっと、今のは危なかった。」

 

孫策「このっ…!」

一刀「右脇がガラ空き。」

孫策「っ?!」

 

咄嗟に右をガードする孫策。

だが、一刀は距離をとっただけだった。

 

孫策「…なんのつもり?

   そのまま攻撃すればよかったじゃない。」

 

一刀「君の動きは本能的で鋭く、とても力強い。けどすごく雑だ。

   今みたいに隙ができたら致命的だよ?」

 

孫策「っ!っ!せっ!!」

 

今度はよりコンパクトに連撃を繰り出していく。

 

一刀「それは君の剣技じゃないだろ。

   足捌きがぎこちないぞ。」

 

孫策「ふっ!!はぁっ!!」

 

一刀「そうそう!その調子!」

 

孫策「(何かしら…掠りもしなくて悔しいのに…楽しい!)

   

   っ!!ふっ!!ぜいっ!!」

 

休むこと無く連撃を続け、対する一刀はするりするりとそれを避け続ける。

まるで踊るように軽やかな二人の試合は、見るものを皆魅了していた。

 

片や情熱的に、片やそれをリードするように。

 

孫権「(すごい…。)」

甘寧「…。」

 

だが、先に限界を迎えたのは攻撃を続けていた孫策だった。

剣技に対し足が遅れ始めている。

 

一刀「そろそろかな…っ!」

 

孫策「えっ?」

 

次の瞬間、孫策は地に寝そべり空を見上げていた。

 

孫策「…。」

 

一刀「よしっ、一本!」

 

孫堅「流石ね。」

 

孫権「…。」

 

黄蓋「こ、これは驚いた…。」

 

一刀「ほら、立てる?」

 

孫策「…。」

 

一刀「孫策さん?」

 

孫策「も〜!!悔しい悔しい!!

   ちょっとアンタ強すぎよ!!」

 

一刀「あははっ

   孫策さんもかなり良い腕してると思うよ。」

 

孫策「ぶ〜、簡単にあしらってた癖に。でも、すっごく楽しかった〜!

   

   あ、それと…念のため言っておくけど、腕だけじゃなくて脚にも自信あるのよ?

   まぁ、お尻は蓮華に負けるけど。」

 

孫権「ね、ねねねねねね姉様っ?!!」

 

孫策「改めて、私は孫策。字名は伯符よ。

   雪蓮って呼んでね、一刀♪」

 

一刀「あぁ、宜しく雪蓮。」にこっ

 

雪蓮「っ…///

   ふふっ♪」

 

周瑜「真名まで預けるとは、相当に気に入られたようだな。」

 

雪蓮「だって〜、私の夫になるかもしれない人でしょ?」

 

孫権「っ…!」

 

孫尚香「お姉ちゃんズル〜い!!

    シャオが先に結婚するんだもん!!

    

    ねぇ一刀♪シャオの真名は小蓮よ!シャオって呼んでね♪」

 

孫権「ぅ…。」

 

孫堅「よし、そろそろ良いだろう?

   一刀を休ませてやってくれ。私ももうクタクタなんだ。」

 

大将の一言で、その場は一旦お開きとなった。

そしてその晩、一刀には一室が与えられ、夕飯時には密やかな宴が催された。

 

孫権「か、一刀…さん

   ご、呉の料理は口に合うかしら?」

 

一刀「うん、すごく美味しいよ!

   あ〜それと、一刀でいいよ。」

 

孫権「っ…!

   な、なら、私の事も。…蓮華よ。」

 

一刀「ありがとう、蓮華。」

 

孫権「えぇ。

   よろしく、か、一刀…。」

 

甘寧「…。」

 

 

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---汝南---

 

所変わって、袁術の治める揚州。

その一つ汝南の玉座には、小柄な少女の姿があった。

 

袁術「駄目なのじゃ!」

 

雷薄「…袁術様、お言葉ですが孫堅を叩くのであれば今しかありませんぞ。」

 

袁術「そんな事、妾は望んでおらんのじゃ!」

 

雷薄「(馬鹿者め…虎は弱っているうちに狩らねばならんのがわからんのか!)」

 

陳蘭「(まぁまぁ、落ち着きなされ雷薄よ。

   前太守のお父君や兄君と違い、こんな小娘など好きにさせておけばよいのよ。

   我らは『準備』だけしていようではないか。)」

 

雷薄「(…そうじゃな。

   そうしてふんぞり返っていられるのも今のうちじゃぞ小娘…!)」

 

袁術「七乃っ!もう軍議はおしまいなのじゃ!」

 

張勲「は、はい〜っ!」

 

紀霊「(…。)」

 

 

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Anotherview 〜袁術〜

 

 

私室に戻ると、妾は真っ先に机に備え付けられた小さな引出しを開ける。

 

そこにはもう古びて嗄れ、所々見えなくなった手紙がある。

 

心が締め付けられるようで、それでも、暖かく包み込んでくれるその手紙。

 

それはいつだって妾に勇気をくれていた。

 

袁術「…あに様…。

   妾は頑張ってるのじゃ。」

 

 文官A『あんな小娘じゃ袁家は終わりだな。

    孫堅を攻めるなら今しかないというのに後手を踏みやがって。』

 文官B『あぁ、雷薄様の進言にこそ理がある。』

 文官C『袁家は終わりだ終わり。』

 文官A『ま、金はあるからな。たんまり稼いで他所行きゃいいか!』

 文官『あっはっはっはっはっ!!!』

 

陰口が思い出され、唐突に視界がゆがむ。

 

袁術「ぐっ…泣いで…ひっく…ないのじゃ…!

   だから良い子なのじゃ…あに様…あに様…!うぇぇ…えぐっ…。」

 

 

 

「   美羽へ

      

ちょっと帰るのが遅くなる。

だからいい子にしてるんだよ?

はちみつ水ばかりじゃなく、お野菜もちゃんと食べること。いいね?

 

俺の自慢の妹。いっぱい笑って、まっすぐ立って生きるんだよ。

帰ったら美羽の歌と踊りを楽しみにしてる。

 

         北郷一刀  」

 

 

袁術「うぇええええええええええええん…!!

   あに様…!!!会いだいよぉ…あにしゃまに…えぐっ…会いだい…!!」

 

胸に手紙を抱え、誰にも聞かれないように顔を枕にうずめて叫びます。

 

 

 

Anotherview end

 

 

 

---執務室にて---

 

兵「失礼します!」

 

張勲「どうかしましたか?」

 

兵「報告します。

  細作より、天の御遣いに関する言伝がありました。」

 

張勲「聞かせて下さい。」

 

兵「はっ。

  話しによると、天の御遣いを名乗る男が南陽に居るとのこと。」

 

張勲「…。」

 

兵「如何されましょうか?」

 

張勲「そう…その男の名はなんと?」

 

兵「はっ、『ホンゴウ』と聞いたそうであります。」

 

張勲「…っ!!」

 

 

動くはずのない歯車は動き出す。

 

 

-11ページ-

 

 

お読み頂き、誠に有り難うございます。

今度の外史は、袁家+孫家ルートです。

過去と未来が交差していきますのでご注意を。

 

登場予定のオリキャラに関しては、自分の中では固まっているのですが、

もし皆様の出して欲しい武将がいればメッセージやコメントなどで教えて下さい!

 

ちなみに…登場予定は今のところ『魯粛』『太史慈』『例のアレ(女中)』となっております。

もしご応募がなければこちらで追加チョイスして物語に当てはめますので。

説明
遅れてしまって申し訳ありません!
仕事が忙しく全く執筆が出来ていなせんでした。

そして三章の始まりです。
原作と少しキャラが違う人物がいますが、再構成と捉えて頂ければと思います。
それでは、はじまりはじまり〜
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コメント
呉の後期に留賛という武将がいます。調べると色々と面白い話が解りますが、一番凄いのは「戦場で歌を歌ってから戦い、しかも必ず勝っていた」のと「最期は病で歌を歌えないまま戦死した」という話が史実であることですね。正に「歌う」ことが自身の命運を分けたといえる武将でしょう。(h995)
更新待ってましたwwww!? 何やら、のっけから色々と派手にやらかしてますね。 これからの展開が楽しみです!?(劉邦柾棟)
例のアレ・・・・・ま た お 前 ら かw(2828)
おかえり まってたよ  お姉さま(言葉間違えると矢が飛んでくるんで)が 黄蓋だけだと可愛そうだから文官で二張と武官で2名で(miramira)
女中ABCか、孫家と袁家どっちにいるんだろう。(神木ヒカリ)
待ってました!今回はこうきましたか。一刀が関わることで両家にの関係にどんな変化があるのかな?楽しみです。(act)
来やがったな!!変態女中!?!?(noel)
同一人物なのか、あるいは別の「北郷一刀」なのか。んでもって1章2章3章のそれぞれの関係は何なのか。次回を楽しみにしています。(アルヤ)
待ってました!今度はこうなるか…同一時間軸の違う時間に現れたということですね?楽しみです。(Jack Tlam)
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