恋姫無双 武道伝 2話
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「うう、尻が痛い・・・」

 

歩くだけでも袈裟と擦れてチリチリとした痛みが走る。結局邑を見つけたのは日が暮れてからだった。少しでも早くという思いで馬を走らせた結果、なんとか夜になる前に邑に入ることができたのだったが、代償として馬に乗り慣れていない俺は尻を擦りむいてしまったのだった。

 

「馬くらい乗れるようにならねばな。あれだけの武を持っていながら馬も乗れんとはもったいないぞ。」

 

邑に着くなり程立と戯志才は邑の長のところに挨拶をしに行った。俺と星はすることもないので、軽く運動でもしようかと空き地に向かっていた。

 

「俺のいた世界では馬なんかほとんど使われてなかったからな。まあ徐々に慣れていくさ。それより星、本当に体は大丈夫なのか?」

 

「ああ、まだ多少痛みはあるが大丈夫だ。子文がくれた薬がよく聞いた」

 

「それでもそんなにすぐ動けるようになるはずないんだがなぁ」

 

 

そんな会話をしながら歩くうちに、邑の中心にある空き地についた。ここは邑で集会などを開くと時に使うらしく、それ以外の時は子供の遊び場になっているらしい。今は夜も更けているので周りには誰もいない。俺は立ち止まり、星を振り返る。

 

「星、今日お前が俺に負けたのはなぜだと思う?」

 

俺の突然の問いに、昼のことを思い出すように目を瞑る。そしてゆっくりと口を開く。

 

「・・・読み切られた、と言うしかないだろうな。いくら子文に腕があろうと、あの距離で我が槍を見てから逸らすことができるとは思えん。それも素手でやってのけたとなると、槍を出す瞬間もわかっていたとしか言えん」

 

「概ね正解だ。俺はお前の突きが完全に見えたわけじゃない。星、お前の槍はそれくらい速い。その若さで独学で身に付けたものとは思えんほどにな」

 

俺の言葉に訝しげな顔をする。なんで独学と知っているのか、というところだろう。

 

「一回手合わせしたんだ。動きを見りゃ分かるさ。お前の槍はそれなりに場数を踏んではいる。なのにそれに見合う技術がついてない。そこから考えるに、お前、賊みたいなのを相手に鍛えてきたんだろ?だから槍には躊躇いがない。相手を倒すために打てる。だが反面、自分と一対一で戦える相手がいなかった。自分の身体能力で押し切ってきたんだろう?」

 

「手合わせ一つでそこまで見られるとはな。いやはや、実に面白い。たしかに子文の言うとおり、私は今まで賊を相手に命懸けで戦ってきた。我が槍もその中で鍛えてきたものだ」

 

星の言葉通り、本当に己が命を賭けて戦ってきたのだろう。よく見れば星の持つ槍には無数の傷がついていた。だが、命を掛けたからといって強くなれるわけではないのだ。もしそうであるならば武術など存在しない。

 

「別にお前の槍を否定するわけじゃないさ。俺が言いたいのは、お前は今まで本当に強い相手と戦ってこなかったせいで、基本が全く出来てないんだよ」

 

「基本?」

 

「そう、基本だ。さっき俺は言ったよな、お前の槍が完全に見えたわけじゃない、と。ならなぜ受け流せたのか。それはお前の構えと足運びを見て、突いてくる場所と攻撃に移る瞬間を読んだからさ。あとは穂先で自分の手を切らないように見切って受け流しただけだ」

 

俺の言葉に星は絶句する。まあ武術として技法が確立してないこの時代だ。彼女たちにとってみれば神業に近いかもしれない。

 

「つまりお前ができてない基本ってのはまず歩法。それに構えだ。とりあえず早急に改善すべきは歩法だ」

 

「なるほど。確かに歩法というのは気にしたことがなかった。基本的に相手が突っ込んで来て乱戦、というのが多かったからな」

 

俺の説明にうんうんと頷く星。ちょっと可愛らしい。

 

「これから先、戦国の時代で名を挙げるには一騎打ちをすることもあるだろう。そんな時、歩法を知っているかどうかで勝負が決まるといっても過言じゃない」

 

「それは流石に言い過ぎではないのか?歩き方一つで勝敗が決まるとはとても思えんのだか」

 

「それはお前が今まで相手にした人間に、きちんとした歩法を使うやつがいなかっただけだ。口で説明するより見たほうが速いな。目も慣れただろう?」

 

せっかく教えてやるのに、暗くて見えませんでした。などと言われては面白くない。

 

「ああ、お主の顔まではっきり見えるよ。しかし、見せるのが目的ならわざわざこんな夜にやらんでもよかろうに」

 

「そう言うな。今から見せるのは多分この世界で俺しか知らんものだ。見ただけで理解できるものではないが、盗まれるのも面白くない」

 

「そんなものを教えてくれるのか。それは楽しみだ」

 

「まず相手との距離を詰める歩法だ。星、少し下がってくれ。・・・よし、そこらでいい」

 

星と俺の間は約4間(約7m)。普通に間を詰めていては相手に先手を取られてしまう距離だ。

 

「よく見ておけよ」

 

俺はその場で強く震脚をする。右足、続いて左足。そして上半身の捻り。ザザッと地面を擦るような音と共に体を前に滑らせる。

 

ボスッ

 

「おうつ!?」

 

一瞬で距離を詰め、腹部に掌底を当てる俺に驚く星。思わず変な声が出てしまったようだ。

 

「今のが活歩という歩法だ。震脚の時に生まれる反発力を使って前進する。初見殺しにはもってこいだ」

 

「・・・そうだろうな。一足で4間も詰められるとは思わなんだ」

 

「だが所詮は踏み込みだからな。詳しい説明は省くが、欠点としては一足で詰められるのがせいぜい5間ってところだ。それに応用が効かない。基本的に直進しかできない歩法だ」

 

「それ以上離れていたらどうするのだ?」

 

「逃げる。わざわざ不利な間合いで戦う必要はない」

 

「武人としてそんなことできるわけがなかろう!」

 

俺の答えが武人としての矜持に触れたのか、星が声を荒げて突っかかってくる。そんな星の内股に脚を差込み、俺の膝で星の膝を外に押してやる。バランスを失い、傾いた星の胸ぐらを掴み、スパンと脚を払う。支えを失い、星が背中から地面に倒れる。

 

「これが梱鎖歩な。歩法は移動だけじゃなく、足さばきの総称だと思っておけよ」

 

倒れた衝撃に呻く星を起こしてやる。

 

「お前らは頭に血が上りやすすぎだぞ。戦でこんなことやってたらあっという間にお陀仏だ」

 

「しかしっ、武人が相手を前にして逃げるなどということできるものかっ」

 

「命あってのものだろう。それとも勝ち戦でわざわざ将が一騎打ちに出て、勝利を敗北にするのが武人なのか?」

 

「そうではないが・・・」

 

「まあ俺はそう考えるだけだ。星は星のやりたいようにやればいい。だが武の本質は生きることにあるというのを忘れるなよ。」

 

「・・・うむ、肝に銘じておこう」

 

星が渋々、といった感じで頷く。いきなり生き方を変えるというのも無理な話だろう。俺が口うるさく言うものでもないし、忠告はできたので良しとする。

 

「さて、今二つの歩法を見せた訳だが、活歩は移動、梱鎖歩は相手を崩すためと、それぞれに用途がある。次に鶏行歩という歩法を見せるから、この歩法にはどんな用途があるか当ててみろ」

 

それだけ伝え鶏行歩に移る。両手をだらりと腰の位置に垂らし、中腰になってタッと歩を進める。活歩のように一気に間合いを詰めるでもなく、梱鎖歩のように相手に何かするようには見えないだろう。何度か星と俺のいた位置を往復したところで動きを止める。

 

「どうだ、わかったか?」

 

「いや、全然。ただの変な歩き方にしか見えなんだぞ」

 

「まあそうだろうな。ならこうしたらどうかな?」

 

先ほどと同じように鶏行歩で星に近づく。そして星の目の前で、鶏行歩から虎撲、横拳、挑領と技を見せていく。

 

「・・・なるほど、この歩法は次の一打目の動きを袍しておるのだな?立ち会いになれば、一つの動きで二つの動作ができるというわけだ」

 

「その通り。歩法というのは大きく分けて移動、足さばき、そして次の一打の出を無くすという三つの要素に分けられる。絶招歩法の中にはこれら三つを一度でこなすものもある」

 

「絶招とは何か聞いても良いかな?」

 

耳慣れない言葉に説明を求めてくる。どうやら聞き上手でもあるようだ。

 

「絶招とはその流派の実践用の技とでも思ってくれればいい。兵法でいう定石みたいなものだ。多くは秘伝とされて、他流派の人間には教えてくれない」

 

「それにしては子文は多くを知っていそうだが?」

 

「何のための坊主姿だと思っているよ。他流派に教えてくれないなら、そこの流派になればいいだけだ。武術の多くは寺院に伝えられているからな。宗派を替えたと言えば教えてくれる」

 

実際はそれほど簡単でもなかったのだが、そこはお察し。いろいろやった訳だ。そんな俺の無節操振りも相まって破戒僧と呼ばれたわけだ。

 

「さて、もうそろそろ二人も戻ってくるだろうし、ここらにしようか。筋力強化も兼ねて鶏行歩で戻ろう。ついてこいよ」

 

鶏行歩の動きを説明し、慣れないながらも必死で付いてくる星を横目で見ながら、二人が待っているであろう宿へ足を向ける。どうやって星を鍛えてやろうかと思いながら。

説明
今回は星への指南です。心意六合拳、八極拳の歩法が出てきます。
相変わらずわかりにくい文章ですいません。精進します。
更新は基本二週間で一話くらいになると思います。

今作で登場する武術は基本的に実在するものですが、私の独学のものが多いので誤りや偏見等多くあります。ご了承ください。
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コメント
匿名希望さんありがとうございます。勉強になります(やはから)
nakuさん、コメントありがとうございます。拳法では下半身重要ですからね。歪みねぇ締まりですよww(やはから)
「」の文末は句点(。)をつけない。沈黙を表すなら“・・・”ではなく“……”三点リーダーを二つ並べるようにしたほうがいいですよ。(匿名希望)
陸奥守さん、はじめまして。コメントありがとうございます。拳児は私のいい教材ですwといっても、主人公は自分が覚えているほど有名な将に、拳法を全て教えるつもりはないので、教えるのは本当に基礎だけになります(やはから)
始めまして。なんか星が拳児に見えてきた。次回も期待してます。(陸奥守)
耶蜘蛛さん、コメントありがとうございます。モデルは李書文ですが、人格やらは完全にオリジナルになります。やっぱり八極拳なら李書文かなとも思いますので(やはから)
神槍李書文wktkwww(耶蜘蛛)
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武道 武術 恋姫無双 

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