真・恋姫†夢想〜世界樹の史〜第三章・枯れ木崩し編
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第U話・『甘い幻想を抱きしめて』

 

 

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袁術「〜♪〜〜♪」

 

張勲「ふふっ、美羽様は本当にお歌がお上手ですね〜。」

 

一刀「あぁ、そうだな。」

 

覚束ない足取りで、ぴょこぴょこと跳ねながら楽しそうに歌う少女。

 

袁逢「何たる…!何たる可愛さ…!

   余の娘ともなればこれほどまでに可愛いのだ…!!

   これはもうアレだな。美羽という名の国を作るべきだそうしよう。

   誰かある!!」

一刀「頼むから落ち着いて下さい袁逢さん…。」

 

袁逢「これ一刀っ!!お父さんと呼べと言っておろう!!

   西洋では『パピー』とか『ダディー』とか言うらしいからそれでもよいぞ?」

 

一刀「はいはい、わかったよ父さん。」

 

それは平和な、どこにでも溢れているようで、誰もが欲する光景。

 

 

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張勲「一刀様…袁逢様が…。」

 

一刀「…あぁ。」

 

床に横たわる、やせ細ってしまった男。

男は疫病にかかり、あらゆる手を尽くすも病魔の進行は止められなかった。

 

袁逢「…一刀か…?」

 

一刀「…そうだよ、父さん。」

 

袁逢「あぁ…一刀…余の自慢の息子…。

   どうかこの哀れな『わたくし』の頼みを…。」

 

一刀「…え?」

 

袁逢「これまで我が身の程を鑑みず…御遣い様を息子などと…

   その罰はどうかわたくしの命一つでお収めくだされ…。」

 

一刀「なに…を…。」

 

袁逢「そしてどうか…どうかお頼みします…

   娘を…導いてくだされ…わたしの…かわいい…美羽を…どうか…!」

 

一刀「…馬鹿野郎!」

 

袁逢「…。」

 

一刀「美羽は俺の大事な妹だ!放っておくわけがないだろう…!」

 

袁逢「ありがとう…有り難うございます…。」

 

一刀「…アンタも、自慢の父親だよ。

   息子になれたこと…誇りに思う。」

 

袁逢「っ…ありがとう…ありがとう…。

   良い…人生…だった…良い…人生…っ」

 

名門袁家における、公族家稀代の名主、袁逢。

若くしてこの世を去る。

 

 

 

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---南陽、台所にて---

 

そこでは、腕組みをしながら娘たちを睨みつける虎の姿があった。

 

美蓮「私が何を言いたいかわかる?」

 

「「「ぅ…。」」」

 

三人の娘は、体を縮こませる。

 

美蓮「アンタ達…

 

   どうして揃いも揃って料理の一つも出来ないの!!!」

 

「「「ごめんなさい…。」」」

 

一刀「まぁまぁ美蓮さん、落ち着いて。」

 

美蓮「そうは言ったってねぇ…!

   ゆくゆくは貴方が困るのよ?」

 

雪蓮「ぅ…じゃあ母様が見本見せてよ!」

 

美蓮「ん?」

 

小蓮「そうよそうよ!母様が料理できるなんて聞いたことないもん!」

 

蓮華「…そう言えばそうね。」

 

美蓮「言ったわね?

   じゃあこれから作ってみせるから、よく見て学びなさい!

 

   祭!豚肉と玉菜、人参、長ネギを!」

 

祭「ほれ、これで大丈夫かの?」

 

美蓮「ありがとう。

 

   良い?まずは肉と野菜を一口大に切って…茹でる!

   火が通ったら一度お皿に移して、今度はその具材を強火で炒めて…。

   醤などで味をつけたタレを絡めて…!」

 

「「「おぉ〜…!」」」

 

美蓮「出来た!!杏仁豆腐!!」

 

一刀「えちょっ、何で?!」

 

美蓮「ん?どうしたのよ一刀。」

 

一刀「いやいやいやいや、可怪しいでしょ!

  途中までどころか最後まで回鍋肉だっただろ?!」

 

美蓮「何を言ってるのよ。

   ずっと杏仁だったじゃない。」

 

一刀「その杏仁を一瞬も使ってねぇんだよ!!」

 

雪蓮「ぶ〜!なんか悔しいから私もやってみよ!

 

   豚肉を切って…炒めて…タレをかけて…。」

 

蓮華・小蓮「「おぉ〜…!」」

 

雪蓮「出来た!!ごま団子!!」

 

一刀「豚肉どこ行ったーーーーーーーーーー!!!」

 

小蓮「む〜!シャオだって負けないんだから!

 

   肉と野菜を茹でて…!」

 

蓮華「おぉ〜…!」

 

小蓮「出た!鳩が!」

 

一刀「手品か!!てか生命体創り出しちゃったよすげぇな!!」

 

蓮華「やるわね…!なら私も」

一刀「も、もう!もう勘弁して下さい…。」

 

祭「ふむ、揃って花嫁は遠そうじゃな。

  ところで北郷は料理出来ぬのか?」

 

一刀「俺ですか?

   ん〜、簡単なものならひと通りは。」

 

「「「??!!」」」

 

美蓮「へ〜。

   得意料理は??」

 

一刀「はちみつ水、かな。」

 

 

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---汝南---

 

袁術「な、何を言っておるのじゃ…。」

 

張勲「ですから、孫堅を攻める許可を」

袁術「駄目なのじゃ!

   七乃!冷静になるのじゃ!」

 

張勲「美羽様、私は冷静です。」

 

袁術「だったらどうして…。」

 

 

そう、私は冷静です。

私の頭から足の先まで、キンと凍えた血が巡っているのがわかります。

 

 

張勲「攻めるなら今しかないと判断しました。

   これも美羽様を思ってのことです。」

 

袁術「妾はそんなこと願って」

雷薄「ほっほっほっ!

   いやはや張勲将軍は話がわかるようじゃな!」

袁術「っ…?!」

 

雷薄「筆頭の将までが攻め時と判断しておりますれば…。

   これはもう止めれらませぬぞ?」

 

袁術「そんな…!」

 

陳蘭「うむ。兵糧や兵の手配はもう済んでおる。

   あとは出陣するだけじゃ。」

 

袁術「ま、待つの」

雷薄「ささ、将軍、合図を。」

 

張勲「…(美羽様、お許しを。)

 

   目標は荊州南陽!偽りの天を名乗る者の首をあげよ!!」

袁術「っ…。」

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」」」

 

 

 

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---南陽---

 

明命「報告です!

   敵の数が判明しました!その数およそ7万!」

 

報告を聞き、軍議の間には緊張が走る。

 

冥琳「何だと?!」

 

雪蓮「こっちはせいぜい2万が限界ね…。」

 

蓮華「姉様…。」

 

一刀「ん〜…、なぁ冥琳。」

 

冥琳「なんだ?」

 

一刀「とりあえず俺が一当てするよ。

   それでどうにか数と士気を削る。」

 

蓮華「っ?!」

 

蓮華「待て一刀!大事な客人に」

一刀「客“将”、だろ?

   それに一当てしたらちゃんと離脱して戻ってくるよ。」

 

美蓮「…出来るのか?」

 

一刀「あははっ、もちろん!

   守りの戦なら慣れてるし、適任でしょ?

   だからさ、俺に君たちを守らせてくれ。」

 

雪蓮「…そう。

   なら貴方に任せるわ。」

 

蓮華「姉様!?」

 

美蓮「蓮華。

   …控えていなさい。」

 

蓮華「っ…!」

 

一刀「よし、じゃあさくっと行ってくるよ!」

 

 

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---袁術陣営---

 

兵士「張勲将軍!部隊の展開が完了しました!

   城門前には二千ほどの兵で敵が展開しているようです!」

 

張勲「…ご苦労さまです。敵の旗は?」

 

兵士「黒旗に白地の十文字です!」

 

張勲「?!」

 

  一刀『…仕方ないか。

     俺が二千の兵を率いて囮になる。その間に美羽を逃すんだ!』

  張勲『私もついていきますからね。』

  一刀『だ、駄目だって!』

  張勲『あらあら〜?無事に帰るのなら問題ないんじゃないですか〜?』

  一刀『そ、それはそうだけど…。』

 

過去の光景が彼女を通り過ぎて行く。

 

張勲「…っ。」

 

頭を振ってそれを追い出そうとするも、次々と湧いてくる思い出たち。

 

張勲「(しっかりしなさい私っ。

    幻想なんかに踊らされちゃダメっ。)」

 

雷薄「張勲将軍、如何されましたかな?」

 

張勲「なんでもありません。」

 

雷薄「それは結構。」

 

そこで彼女は一つ息をつき、

 

張勲「全軍…突撃!!!」

 

開戦の合図を出した。

 

 

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戦の初手は一刀の思惑通りに進んでいった。

敵先鋒を一点突破で突き破り、食いついた敵だけを着実に仕留めていく。

「化物だ!」と叫び潰走する袁術兵達を尻目に、一刀は早くも撤退の指示を出した、

 

その様子を、城壁の上から孫策達が見守る。

 

雪蓮「流石ね。」

冥琳「あぁ、任せて正解だった。。」

 

一刀の獅子奮迅の働きにより、戦況をほんの少し押し返すことに成功した。

 

---かに見えた。

 

美蓮「っ?!」

 

敵右翼を食い破り、戦線を離脱しようとした一刀の隊。

それを追撃せんとする

 

   ---約六万強の軍勢---

 

冥琳「なんだと…?!そんな馬鹿な!!」

美蓮「まさか…敵の狙いは一刀?!」

雪蓮「っ!!」

 

唐突にかけ出す雪蓮。

弾かれるように走りだした彼女を、周囲は止める間もなかった。

 

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雷薄「な…な…何をしておる!!

   そんな寡兵など放っておけ!!!城を落とさぬかバカ者どもめ!!

   張勲!!早く指示を出さぬか!!!」

 

張勲「…これで良いのです。」

 

雷薄「?!」

 

張勲「これで。

   ふふ、ふふふふっ…。」

 

 

 

その頃、一刀達の隊は、一団となって逃走していた。

 

一刀「総員振り向かず逃げろ!

   ぐずぐずしえると押しつぶされるぞ!」

 

兵「た、隊長ぉ何なんすかコレぇ!!」

 

一刀「俺も知らん!ていうかこんなの初めて見た!あははっ!」

 

雪蓮「笑ってる場合じゃないでしょ!!」

 

一刀「雪蓮?!なんでこんな所に?!」

 

雪蓮「助けに来たのよ!

   …この歳で寡婦になるなんてゴメンだもの。」

 

一刀「だからって…」

雪蓮「四の五の言わずに逃げるわよ!

   このずっと先に朽ち果てた砦があるから、ひとまずそこを陣にしましょ!」

一刀「応!」

 

 

 

 

   張勲『ちょっと一刀様〜、何ですかこれぇ〜!!』

   一刀『俺が聞きたいわ!いいから逃げるぞ!』

   張勲『あ、アラホラサッサ〜!』

   一刀『あははっ!その意気だっ!』

 

 

 

 

張勲「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…

   美羽様を…いえ、私をこれ以上傷つける天など殺してやる!!!!

   

   もうあの人は帰ってこない!!!私に希望なんて与えようとしないで!!!

   消えてしまえ消えてしまえ!!!!」

 

 

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一刀たちは森や河を巧みに利用し、袁術軍から逃走を続けた。

馬も兵も限界まで来た時、砦のような場所にたどり着く。

 

その砦は門が壊され、そこら中が煤だらけであった。

 

一刀「…。」

 

頭のなかに浮かぶ、見たことのある風景。

 

   張勲『そ、そんな…

      それはあんまりです!!貴方を…愛する人を置いて行くなんて…!!』

 

   ???『愛していたよ。俺も。』

 

 

胸がズキンっと響く

 

   

   袁逢『何たる…!何たる可愛さ…!

      余の娘ともなればこれほどまでに可愛いのだ…!!

   

      これはもうアレだな。美羽という名の国を作るべきだそうしよう。

      誰かある!!』

   ???『頼むから落ち着いて下さい袁逢さん…。』

 

   袁逢『これ一刀っ!!お父さんと呼べと言っておろう!!

      西洋では『パピー』とか『ダディー』とか言うらしいからそれでもよいぞ?』

 

   ???『はいはい、わかったよ父さん。』

 

 

もう一度ズキンと

 

 

   七乃『私は子供、貴方は大人。

      私があと5つ年を重ねれば、貴方は5つ歳を重ねる。

      ほら、近づきますよ?』

 

   ???『あははっ、七乃は頭が良いな〜。』

 

 

---思い出した。

 

   この世界で俺は…

 

      一度死んでる。---

 

 

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一刀「…雪蓮。」

 

雪蓮「ん?どうしたの?」

 

一刀「皆と一緒に城へ逃げてくれ。

   敵の目標は俺だからさ。」

 

雪蓮「馬鹿なこと言わないで!」

 

一刀「頼む。」

 

雪蓮「っ?!」

 

それは悲しそうで、しかしとても力強い一言であった。

息を呑む雪蓮を横目に、一刀は続ける。

 

一刀「俺一人のために二千もの兵を犠牲にするのか?

   それが君なりの、王としてのやりかたか?」

 

雪蓮「…。」

 

一刀「それに、俺も確認したいことがあるしね。」

 

雪蓮「??」

 

一刀「ま、それは置いておいて。

   さぁ、早く皆に指示を。」

 

雪蓮「…本当に良いのね?」

 

一刀「勿論。」

 

雪蓮「…。

   皆の者聞け!!これより我らはこの砦を離脱、南陽に帰還する!!」

 

兵に動揺が走る。

 

一刀「砦に旗を立てれば、囮に使えるでしょ?

   だからその隙に逃げちゃおう!」

 

ほんの少し、兵の顔が緩む。

小休止をいれ、その日のうちに砦を発つ孫策達。

 

砦には十文字の旗と一刀一人を置いて。

 

 

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一人残った一刀は、砦の中を歩いていた。

一歩一歩踏みしめながら、上へと進んでいく。

 

最上部にたどり着くと、打ち破られた扉が目に入った。

その先には広間があり、一刀はゆっくりと出窓に近づいた。

 

窓の縁に手をかける。

下を見れば、もう枯れてしまった池の跡。

 

どれくらいそうしていただろうか。

もうすっかり日も落ち、辺りには眩いばかりの星空が広がっていた。

 

一刀「…あははっ、煙がなければこんなに綺麗だったのか。」

 

雪蓮「煙?なにそれ?」

 

あるはずのない返答に驚く。

 

一刀「ちょっ、あれ?!

   南陽に帰ったんじゃないの?!」

 

雪蓮「あ〜、適当に隊長任命して全員帰したわ。

   一人で戻ってきただけよ。」

 

一刀「いやいやいやっ!君も逃げようよ!」

 

雪蓮「言ったでしょ?

   この歳で寡婦にはなりたくないって。」

 

一刀「だからって…!

   …あ〜も〜、君って子は…。」

 

雪蓮「それにしても、まだ短い間なのに一刀ったら随分人望あるのね。」

 

一刀「へ?」

 

雪蓮「いや〜、みんな一刀がいない事に気がついたらもう大慌て。

   仕方なく状況説明したら泣きながら『戻りましょう!!』なんて言い出しちゃって大変だったわよ。」

 

一刀「…あ、あはは…。

   てかそんな状態で君まで抜けてきたの?!」

 

雪蓮「大丈夫大丈夫っ!

   なんか気の弱そうな奴居たから、そいつ締め上げて責任者押し付けてきたから。」

 

一刀「う、うわぁ…。」

 

雪蓮「ん〜、名前なんだっけ…確か…魯粛、だったかな?」

 

一刀「(…良い目してるな。流石は勘で生きる女。)」

 

雪蓮「何か失礼なこと考えてない?」

 

一刀「滅相もありません!!

   まぁ、そんな事より…もう来ちまったなら仕方ない。

   日も落ちたし、腹くくって一眠りしようぜ?」

 

雪蓮「そうね。

   私も疲れちゃったわ。」

 

そう言うと二人は、汚れるのも構わず横になった。

所々崩壊した天井の隙間から、星空が漏れる。

 

雪蓮「…ねぇ、一刀。」

 

一刀「ん?」

 

雪蓮「一刀って、何者なの?」

 

一刀「…何者って?」

 

雪蓮「天の御遣いっていうのは知ってるわ。

   母様を助けてくれたし、すごく強くて…とても佳い人。

   でも…でもね?うまく言えないんだけど…貴方が時折すごく儚く感じるのよ。」

 

一刀「(…ホント、いい勘してるよ。)」

 

雪蓮「答えたくないなら無理には聞かないけど…。」

 

一刀「俺はね…。」

 

彼はポツリ、ポツリと語り始めた。

元居た世界のこと、前の世界のこと、そしてこの世界のことを。

 

あまりにも突拍子のない話を、雪蓮は黙って聞いていた。

 

一刀「…こんな所かな。」

 

雪蓮「…一刀…。」

 

雪蓮はぎゅっと一刀を抱きしめた。

それは本能で『ここに居る』ことを確かめたかったのだろうか。

 

一刀「雪蓮…?」

 

雪蓮「…辛くない?」

 

一刀「…正直キツい時もあるよ。」

 

雪蓮「貴方はきっと私よりずっと年上なのかもしれないけど…、たまには甘えてくれても良いのよ?

   見た目は蓮華とそう変わらないんだから。」

 

一刀「あははっ、これでも結構甘えてるつもりなんだけどな。」

 

雪蓮「足りないっ。」

 

一刀「…それ逆じゃないか?」

 

雪蓮「ふふっ、良いの♪」

 

その日は月明かりの下、二人は寄り添い合って夜を明かした。

 

 

翌日。

日も高くなると、袁術軍が砦まで迫ってきていた。

大群が砦を取り囲み、続々と兵が押し寄せる。

 

そんな中、一人の少女が他には目もくれずにただ砦の上へ歩を進める。

 

そして少女は扉をくぐり、広間に辿り着いた。

 

 

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Anotherview 張勲

 

 

どこまでも巫山戯ている。

あの旗も、この地も、そしてこの世界も。

 

---殺してやる---

 

私はあの広間に辿り着く。

もう二度と訪れたくなかったこの広間。

 

そこに男は居た。

 

張勲「天の御遣い!!!!」

 

私は精一杯叫びます。

すると、男はゆっくりと振り向きました。

 

一刀「…。」

 

張勲「っ?!」

 

やっぱり貴方だったという嬉しさと、

どうして貴方がという憎悪が渦巻きます。

 

一刀「やあ、久しぶり…なのかな?」

張勲「ヤメロ!!!!」

一刀「っ…!」

 

張勲「その声で喋るなその目で私を見るなその顔で笑うな!!!!」

 

一刀「…。」

 

張勲「一刀様は私の目の前で死んだ!!もう戻ってこない!!」

 

そう、絶対に戻ってくることはない。

 

張勲「何年も…何年も私は貴方の死を受け止めたわ…。

   だからこれはただの幻想!夢を見すぎて狂った私の幻想!!

   こんな幻想は消さなきゃいけない!

   殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!」

 

私は渾身の力で剣を振ります。

ガキン、と何かに阻まれました。

 

雪蓮「…随分身勝手ね、貴女。」

 

張勲「あなたは…孫策?

   どうしてあなたがここに?」

 

雪蓮「あら、夫の横に妻がいるのは当然じゃない?」

 

一刀「ちょっと?雪蓮さん?」

 

鋭い痛みが私の胸を走ります。

その痛みは、簡単に怒りへと昇華されました。

 

張勲「…いつだって横に居るのは私のはずだった…。」

 

そう、私のはずだったのに!!

 

雪蓮「それは残念ね〜。

   でももうこの人は私の物だから、手出しはさせないわよ?」

 

張勲「許せない…許せない…!

   どうして一刀様は帰ってこないの!!

   どうして一刀様がここに居るの!!

   もうやだ、もうやだよ…!!!」

 

乱暴に、ただ剣を振り回します。

目の前の幻想を取り払いたい一心で。

 

張勲「どうして私をこうまで苦しめるの!?

   どうして!!どうして!!!

   お願いだからもうやめてよっ…!!これ以上私を惑わさないで!!」

 

雪蓮「いい加減にしなさい!!」

 

その時、私の頬に鋭い痛み。

 

雪蓮「あたなね…さっきから聞いていれば幻想だの何だのって。

   一刀はちゃんとここに居るわ!

   天の御遣い?曖昧な存在?だから何!!一刀は一刀でしょ!!」

 

一刀「雪蓮…。」

 

張勲「…っ。

   知ったような口聞かないで。

   目の前で一刀様を失って…もう何もかも失くなって…!」

 

雪蓮「失くなってないじゃない!

   一刀の事好きだったんでしょ!?ならどうしてもう一度掴もうとしないの!!

   幻想だろうがまやかしだろうが…好きなら何度だって手を伸ばせばいいじゃない!!」

 

張勲「そんなの…!!

   …そんなの…できない…できないですよ…。」

 

全身の力が抜け、膝をついてしまう私。

そんな時、ふわりと何かに包まれました。

 

いつだって夢見てきた、とても懐かしい匂い。

 

 

張勲「…ぁ…一刀…様…?」

 

一刀「ただいま、七乃。」

 

七乃「ぅ…ひっく…がずとさまぁ…会いだがっだぁ…会いだがっだです…!!」

 

一刀「ごめん、遅くなった。」

 

涙が止めどなく溢れます。

一刀様の胸に顔をうずめ、大声を上げて私は泣きました。

 

もう私は逃げられません。

だってこんなにも甘い水なんですから。

 

 

 

-14ページ-

 

今回もお読み頂き、誠に有り難うございます。

ここまでが第三章の導入部となります。

これから張勲と孫家の三姉妹がラブコメを繰り広げて行くことでしょう。笑

 

皆さんのコメントに返信ができておらず、大変申し訳ございません!!

徐々に返していきますので、何卒ご容赦を…!

 

 

説明
いや〜、いい女してますねぇ〜
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コメント
七乃可愛いなあ、更新してほしいなあ。(デューク)
更新して欲しいワイなぁ(黄昏☆ハリマエ)
七乃かわいいわー(阿修羅姫)
更新待ってます〜(mame)
料理作りが、銀〇の寿司話を思い出した・・・w 美羽との再会も良いが・・・美羽を蔑ろ?御輿にしてる奴ら一掃しよう!(howaito)
\(^o^)/ナンテコッタイ(M.N.F.)
フジリュー版封神演技の料理対決思い出したwww(耶蜘蛛)
これ孫呉と寿春袁家の併合フラグ立ったんじゃないかなぁ・・・・・・。(アルヤ)
さぁ次は美羽との再会だ。   ところで孫家の人たちの料理はどんなマジック!?(神木ヒカリ)
美羽は妹枠でいいでしょう。……その分、孫呉にとってはある意味で原作以上に大きな壁となりそうです。しかも、排除どころか七乃と同クラスにまで仲良くならないといけない時点で難易度が恐ろしく跳ね上がっていますし。(h995)
さて、ついに過去話と話が繋がりましたね。読んでて???な状態がやっと解消されました。(飛鷲)
親子でやる料理コント面白かったです。(飛鷲)
あれ?美羽はどうなるんだ?ラブコメの中にいれてやってくれよw(nao)
ごちそうさまでした♪杏仁豆腐!最高でしたよ(笑)(サレナ)
なんということだろうか。ああ、愛とは偉大だ…(Jack Tlam)
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