いらないもの屋〜あなたの楽しい買い取ります〜
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子供から大人になる時っていうのは、どんな時だろう。

 

肉体の成長?

 

成人式をしたら?

 

大人になれない大人ってテレビのニュースでよく聞く。

 

20歳を越えたときに

 

自分が大人になった、なんてことはわからなかった。

 

酒やタバコを嗜めば大人なんてことはない。

 

働いていれば大人なんてことは無い。

 

じゃあ、どうしたら大人なのかなって思った。

 

ある時僕は思ったんだ、大人ってのは失うこと。

 

いつかみたドラマか漫画か小説か。

 

覚えてないけれど、そんな台詞を見てもピンとは来なかった。

 

でもある時気がついたんだ。

 

大人ってのは楽しさを見つけることが下手になる。

 

たくさんの知識と

 

たくさんの出会いが

 

楽しいを鈍らせる。

 

子供の頃あんなにも笑った出来事が今では何ともくだらなくて

 

ただ、それだけになった。

 

大人は安易な娯楽を金で買うことで満足するんじゃないのか。

 

そんなことも思った。

 

でも違うとも思う、楽しいの見つけ方だけが下手になった大人になりきれない大人達が

 

見つけてしまった抜け道なのだ。

 

子供を持つことや、恋人が出来ることは

 

楽しいを生むだろう。

 

それは色んな感情を持って出来上がった、とても崇高な楽しい。だと思う

 

でも、僕達は見つけてしまったんだ。

 

金さえ稼げば得られる安易な楽しい。

 

すぐに手を伸ばして、満たされて、飽きて。

 

また別のを探した。

 

1億分の1くらいの確立で、それがたまに「当たり」になる。

 

それはとてもじゃないが滅多に出ない。

 

成功者がいるから、直のこと安易な楽しいは売れていくのだ。

 

その無意識に求めた「楽しい」を売る店があった。

 

どこかの街のどこかの商店街の端の方。

 

常連にでもならなければ入りにくそうな薄暗い店、いつ通っても誰かがいる様子のない店先。

 

つぶれないのが不思議な店だけれど、商店街ではよく見るものだから気にならない。

 

“いらないもの屋、あなたの飽きた楽しい買い取ります。”

 

看板のないその店先に一枚だけ貼られたボロボロの半紙に走り書きされた文字は

 

そこだけは今時の冗談のような売り文句で、つまりガラクタになったおもちゃやら何やらを買い取るということだろう。

 

その横には小さな文字でこうも書かれていた

 

“売るのは簡単、買うのは苦労”

 

珍しいものだけを買い取るという意味なのだろうか、まあ一応店としてやっているのだからそれもそうか。

 

店先にもならない通りの向こうで、いつも僕はあの店を見る。

 

入る勇気はなぜか出ないのに、足が向く。

 

でもひとたびあの走り書きが目に入れば、怖気づいてまた歩き出した。

 

ゾクリ、突然の悪寒を感じて肩を縮める。

 

店に背を向けると、なぜだかいつも視線を感じるのだ。

 

しかし振る返る気にはならずに、逃げるように小走りになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、残念ですね。今日こそ売っていただけるんだと思いましたのに。」

 

いつもの男が店の前から消えていくと、その店の店主は店の奥で眉をひそめた。

 

この店は楽しいを買い取ります。

 

買いはしますが、売ることはなかなかに難しい。

 

特に上質の楽しいをいただけるのなら、お金などいくら払っても構いません。

 

「ですから、貴方もどうぞいらっしゃってくださいね」

 

大きめの口が白い肌を裂くように釣りあがり

 

鋭い細い目が銀色の髪の毛の間を縫って怪しく光っていた。。

 

ここは

 

いらないもの屋

 

貴方の飽きた楽しい、買い取ります。

 

説明
プロローグです。
連載に挑戦。

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“いらないもの屋、あなたの楽しい買い取ります”
そんな走り書きをされたのボロボロの半紙がゆれる、古い商店街の一軒のお店。なぜだか気になるけれど、入れずにいるそこには一体なにが売られているのか…。
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コメント
華詩さん>お久しぶりです、コメントありがとうございます。少しホラーテイストを含めたものにしていく予定です。良かったら続きも読んでやってくださいませ。(とかげ。)
どんな物語が続くのか楽しみです。ちょっぴり怖い感じもしてますけど。(華詩)
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