M-Mission(SDガンダム外伝)
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「…さすがにコレでは…どうにもならないだろう」

 

 灼熱卿F91はふぅ…と1つ、息を吐いた。

 彼の目の前には視線を落としているF90Jr.3兄弟の1人・騎士F90Jr.(サポート)がいる。

 その手には、連日の戦いですっかりボロボロになってしまった彼の2本の剣が握られていた。これではこの先の更なる戦いで、生き残る事はまず出来ない。

 

 たとえ彼が、ブリティス王国がその名を世界に誇る13人の『円卓の騎士』の1人だったとしても…だ。

 

「ここの城内に鍛冶屋はおりません。城下の方まで行けば、腕のいいのがいますが」

 

 F91にそう声をかけたのは、機兵の修理が本業であるシーブックである。現在は父親のレズリーを手伝い、ガンレックスの修理を手がけている。

 

「…マルスのおかげでパンゲア界への行き方が分かった矢先だと言うのに…」

「…」

「でもまぁ、行く前で良かったと思うべきか」

「…」

「騎士F90Jr.、シーブック殿が今言っていた鍛冶屋に行って、剣の打ち直しをしてもらって来い。その間は…仕方がないから、お前は私と留守番だ…ガンレックスが直るまで」

 

 

 それまでションボリしていた騎士F90Jr.だったが、F91の『私と留守番…』と聞いてその顔がぱあああッと輝く。

 

 

「うん、わかった!! 兄ちゃんやアイツらに置いてけぼりされンのつまんなーいッて思ってたけどさー、F91と一緒にいられるならそっちのが全ッ然いいや!! 俺、今すぐ行って来るー!!」

 

 バビューーーン……と。

 素早さが身上の騎士F90Jr.は、猛スピードで城の外に飛び出して行った。

 

 

 

「随分と慕われているんですね、灼熱卿」

「…城の中で走るなと何度言えば気が済むんだ……」

 

 シーブックの声は、頭を抱えるF91には届かない。

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 マルスガンダム達がパンゲア界に旅立って数日が過ぎた。

 ガンレックスの修理は思う様に進んでおらず、城の一室で遅い昼食を取っているF91もさすがに焦り始めていた。

 

 そこへ、城の見回りをしていた騎士F90Jr.がやってくる。

 

「あ、F91!! ねーねーあのさー、俺さー、俺の剣、今日仕上がるだろうって言われてるからー、もー少ししたら取りに行って来ようって思ってるけど…もうすぐ見回り交代だし…でさでさ、何か城下町で買ってきてやろッかー?」

「……」

 

 騎士F90Jr.の心底明るい声は、F91の耳に届いていなかった。彼の頭の中は、いまだ動かないガンレックスの事でいっぱいだったからだ。

 

「…ねぇ、F91!!」

 

 まるで聞こえていない様子のF91に、騎士F90Jr.は軽く腕を押した。

 そこでようやく、F91が正気づく。

 

「えッ? あ・ああ…何だ、騎士F90Jr.か」

「ボーっとしてたの? らしくないね」

「ガンレックスの事を考えていたんだ」

「ガンレックス…かぁ…でもきっと動くよ。近いうちにさ!!」

「お前が言うと何でも簡単に聞こえるなぁ。まぁそれがお前のいい所なんだろうがな」

「……褒められてる気がしないんだけど」

「お、少し成長したじゃないか。偉い偉い」

「うーーーッ!! …まぁイイやもー。で、今から鍛冶屋に剣取りに行くんだけど、何か食べたいものとか必要なものとか…ある?」

「そうだな…特に今はないから…まかせる。でも、無駄遣いはするなよ?」

「ちぇー、いつまでたっても子供扱いなんだから」

「じゃあ、大人になるんだな」

「うー…」

 

 しばらく騎士F90Jr.はむくれていたが、やがて『行って来る』と言って例の如くバビューーーン……と『走って』いった。

 

 

 

「…だから子供扱いなんだと何でわからない……」

 

 

 

 ガックリと肩を落とすF91の姿に、普段の優麗な騎士然とした面影はなかった。

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「たっだいまー!!」

 

 鍛冶屋でピッカピカに鍛えなおされた(しかし鞘に収められている状態の今ではイマイチ良くはわからないが)剣を腰に下げ、左手には大きな紙袋に果物やら何やらをめいいっぱい詰め込んで(顔が半分隠れる位に)、騎士F90Jr.は城に戻ってきた。

 

「お帰りなさいませ、騎士F90Jr.様」

「あ!! ご苦労様!! えっと、ジム…カスタムさん」

 

 城の入り口を守る衛兵に礼を返しつつ、騎士F90Jr.は「あッ」となって質問をする。

 …最も、彼がする質問なんて、そういくつもあるものではないのだが。

 

「ねーねー、F91どこにいるかわかる?」

「灼熱卿F91様は先程、ガンレックスの様子を見に行かれた様ですよ」

「ガンレックスか、じゃあレズリーさんの所かな。わかった、行ってみる!! どうもありがとー…そーだ、コレ!!」

 

 ゴソゴソと紙袋の中から取り出したのは、爽やかな香りを放つ、熟したオレンジ。

 

「お勤め、ご苦労様!! 交代した後にでも食べてね。ンじゃ、俺F91探してくるからー!!」

 

 顔が隠れる位の大荷物を器用に抱えながら、騎士F90Jr.はまたまたバビューーーン……と走っていった。

 

 で。

 衛兵のジムカスタムはと言うと。

 

 

「え、円卓の騎士様からオレンジを頂いてしまった…!! か…家宝にしなければ…いやそれとも……」

 

 

 …とりあえず、腐るから食え。言われた通りに。

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「F91ぃー、果物屋のオバちゃんが持ってけ持ってけって言うからオレンジ買って来たよー。F91ぃー」

 

 ガンレックスを修理している所の近くの壁まで来ると、騎士F90Jr.の耳に話し声が聞こえてきた。

 

「…が…のです…聖機兵は……にしか…ません」

「…レックス………のだ? どうすれば………のだ?」

 

 話し声は間違いなくF91と機械工レズリーのものだった。ひどく難しい話をしているのが、騎士F90Jr.にも聞こえてきた。

 

(F91の声だ!! レズリーさんの声も聞こえる…大事な話をしてるから、邪魔しちゃいけないなー…ウン)

 

 そのまま騎士F90Jr.は壁にもたれかかって、2人の話がひと区切りつくのを待つ事にした。

 

(ここで待ってよーっと。話終わったら、レズリーさんにもオレンジあげよう。いい香りするから、きっと喜んでくれるよ。疲れも取れるだろうし)

 

(F91、熟したオレンジ、喜んでくれるといいなァー…それともコレも無駄遣いって言われんのかなー)

 

 

 紙袋では隠しきれないオレンジの甘い香り。

 その香りが鼻腔をくすぐる度、騎士F90Jr.は笑顔になった。

 

 

 

 …と、その時。

 騎士F90Jr.の騎士としてのカンが、異様な気配を感じ取った。

 

 

 

(え?! 何…コレ?!)

 

 F91の声も聞こえる。同じ気配を感じ取っての声だ。

 

「! 何だ? この気配は…」

(F91も、感じてるんだ、この感じ…)

 

 

 

 そして、その気配がさらに大きく膨らんで行きそれが限界に達した時―――F91の声が響いた。

 

 

 

「スペリオルドラゴン!」

『灼熱卿F91…一刻を争う事態だ』

 

(スペリオルドラ…? F91が夢に見たって言う、金色の竜の騎士? 何で今…)

 

 スペリオルドラゴンの強烈な気配に圧倒されて、騎士F90Jr.は壁にもたれかかったまま動けなくなっていた。

 それでも、耳だけは集中力を失わずに聞こえてくる声を全て拾おうと意識を集めていた。

 

『パンゲア界へ向かった騎士達が……ガンレックスと共に向かい……のだ』

「!!」

 

 聞こえてくるスペリオルドラゴンの言葉に、紙袋を持つ手が小刻みに震える。

 

(に、兄ちゃん達が…そんな!?)

「し、しかし、まだガンレックスが動かないのです!」

『目覚めたばかりの時に……晒されたせいで………ガンレックスの魂は…傷ついて……』

 

 震える手で紙袋をしっかと掴みながら、続けて聞こえてくるスペリオルドラゴンの声に騎士F90Jr.は神経をさらに集中させた。

 

(そ、そっか、神様が作ったものだもの。心とか、意思とか、あるんだよね。乗り手にF91を選んだ様にさ…)

 

 

 

 けれど。

 次に聞こえてきた言葉のやり取りに騎士F90Jr.は考える言葉さえ無くしてしまうのだった。

 

 

 

『ガンレックスの…傷を埋める為には君の魂が必要だ。灼熱卿F91、ガンレックスに君の魂の半分を与えてくれるか?』

「わ、私の…魂を?」

 

 

 

(何? 何を言って…ンの…さ?)

 

 

 

「もし、魂の半分を失ったら灼熱卿はどうなるんです?」

(レズリーさん…?)

 

 

 

 

 

『正直に言おう。長くは―――』

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「騎士F90Jr.!! 騎士F90Jr.!!」

 

 先程F91が昼食を取っていた1室に騎士F90Jr.はいた。

 F91が座っていた椅子に座って、F91が昼食を置いていたテーブルに大きな紙袋を乗せて。

 

「…あ、F91」

「どうした、こんな所で座り込んで。私を探していたと聞いたから、てっきり私の所まで飛んでくるかと思ったのに」

「へっへー、残念でしたー。…あ、ガンレックス…どうだった?」

「ああ、何とか…な。お前の剣は?」

「うん、バッチリだよ。いつでも、行けるよ? …あ、あのね、オレンジ持ってけって果物屋のオバちゃんが言うから、紙袋いっぱいに貰ってきたんだ。レズリーさんや、みんなにって思って」

「そうか。ずいぶん気がきく様になったな。…さぁ急ぐぞ、ガンレックスが…マルス達が待ってる」

「うん、兄ちゃん達だけじゃ、心配だモンね。早く行ってあげないと」

「…騎士F90Jr.? どうかしたのか? 元気がない様だが」

「え、俺? …ううん、何でもないよ。走り過ぎて、ちょっと疲れちゃったんだ」

「城で走るなといつも言っているだろう。全く、お前と言うヤツは手がかかっていかんな…さぁ早く」

「うん、F91」

 

 近くの見回りをしていたジムカスタムに紙袋を引き渡し、2人はガンレックスの元へと急いだ。

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 ロナ家の本拠地・パンゲア界…。

 日の光の当たらぬこの地で、F91を中心としたダバード騎士団は最後の戦いに臨もうとしていた…。

 

 

 

 が。

 

 

 

「マルス!?」

「問答無用ッ!!」

 

 他の面々がアッと声を上げる間もなかった。

 傭兵騎士マルスガンダムが突如、F91に斬りかかっていったのだ。

 

「兄さん!?」

「兄貴、何を!!」

 

 法術士F90Jr.(アサルト)と重戦士F90Jr.(デストロイド)が兄の突然の行動に抗議と戸惑いの声を上げる。

 

 一方その2人から少し離れた位置にいた騎士F90Jr.はと言うと、ただ無言で兄の仕掛けた騒ぎを見ていた。

 

 

 

 ……ひどく、虚ろな目で。

 

 

 

「よしなさい、マルス!! 一体何の真似ですかコレは」

「外野は黙ってろ!! コレは、俺とコイツの問題だ!!」

 

 吟遊騎士レッドウォーリアRの制止の声をマルスは一喝して退ける。

 剣を向けられたF91は…と言うと、その2つ名とは裏腹に常々冷静な彼ではあるが、さすがに困惑の表情を隠せないでいた。

 

 

 

(マルス…? それに、騎士F90Jr.……?)

 

 

 

 常々火と氷の関係(含・剣技)である2人だが、マルスがダバードに戻ってきてからはそれなりにうまくやっていた。

 意見の相違から度々小さな衝突はあれど、それでもまわりへの配慮と何よりF91の大人な対応(笑)により、事は大げさにはならなかったのだ。

 

 だが、今回は違った。

 

 

 

 そう。

 今回は違ったのである。

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 時はさかのぼって数刻前。

 

 

 

 『紅の真聖機兵』に進化したガンレックスと共にやってきたF91(+騎士F90Jr.)。

 魔機兵・ガルゴテトラーの大群を退けた彼らは先行していたマルスガンダムの隊と合流し、魔物除けの結界を張った中に仮の拠点を組んでいた。

 

 そんな中、マルスガンダムは気が付いた。

 

「…?」

 

 あたりから集めてきた焚き木をゆっくりと火にくべつつも、その炎に照らされた顔はひどく空虚な騎士F90Jr.―――この戦いの最中で出会った己の弟の1人―――に。

 

 

 

「…どうした、怖くなったか?」

「……」

 

 わずかに首を動かして、騎士F90Jr.は声をかけてくれた兄を見る。

 しばらくそのまま特に何を言うでもなくじっ…と兄を見ていたが、やがてその視線は下にそらされた。

 

「…聞かれた事に答えろ。何せ法術士F90Jr.のヤローが言うには俺はクソ親父 そ っ く り らしいからなァ〜。気の短さもあンのクソ親父 そ っ く り だぞ多分? …冗談じゃねぇや全く」

「…ぷ」

 

 自分の物言いに少し笑顔を見せた弟の姿に、マルスガンダムは少しだけ安堵した。

 

「……ねぇ、兄ちゃん」

「うん?」

 

 

 

「ちょっとだけ…いい? アイツら…重戦士F90Jr.と法術士90Jr.には…F91にも…聞かれたくない……聞いてほしくない…聞かせらンない…だから……」

 

 

 

 今にも消えそうなか細いかすれ声でそう言われてしまっては、マルスガンダムにイヤだとは言えない。

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 それからすぐ、仮の拠点があらかた組みあがった後である。

 マルスが、F91に斬りかかって行ったのは。

 

「よせ、マルス!!」

「言ったはずだ、問答無用だと!!」

 

 マルスの右手から無数に突き出される槍先を剣を抜く事無く、紙一重でF91はかわし続ける。

 

 

 …が。

 

 

 

「F91!!」

「ッ!?」

 

 焦れたマルスが左手で剣を抜き、槍と同時に突き出したその剣の動きに、F91は1瞬反応が遅れた。

 

(かわ、せ、ない…!!)

 

 

 

 ギィンッ!!

 

 

 

 条件反射、だった。

 

 F91はそれまで抜いてなかった剣を咄嗟に抜いて、マルスガンダムの剣を払い難を逃れた。

 もし抜くのが僅かでも遅れていたら、文字通りマルスガンダムに『貰われた』のだ。

 

 

 

 彼の―――命が。

 

 

 

「フッ、ようやく抜いたか。そう来なくては面白くない」

「マルス、何故…」

「…フフン、ココじゃ場所が悪いな」

 

 そう言うや否や、マルスガンダムはマントを翻して結界の外―――薄気味の悪い森の方へと駆け出して行く。

 

「ついて来い、F91!! 俺達の決着をつけてやる!!」

「…ッ!!」

 

 咄嗟の行動とは言え剣を抜いてしまった以上、もはや逃げる事も退く事も止める事もかなわない。

 その視線をマルスガンダムが消えた森の方に向けながら、F91の表情は厳しくなった。

 

「…レッドウォーリアR、ここを頼みます。マルスを連れて、すぐに戻りますから」

「え、ええ」

 

 

 幾多の修羅場を潜り抜けてきたF91は、決断も早かった。 

 

 

「F91!!」

「俺達も…」

「ダメだ」

 

 ついて来ようとする重戦士F90Jr.と法術士90Jr.をF91はキツく制止する。

 

「お前達はついて来るな。きっと…マルスの言う様に、コレはきっと私とマルスの問題なんだ」

「そんな、どうして!!」

「バカ兄貴がそう言うならともかく、F91までそんな言い方しなくたって…」

「それに」

 

 ギャアギャアと騒ぐ重戦士F90Jr.と法術士90Jr.の抗議の声を遮って、F91は2人に伝える。

 

「騎士F90Jr.の様子がおかしい。お前達は、アイツについていてやってくれ。なるべく早く戻る。…マルスと一緒に、な」

「騎士F90Jr.が? …ハイ、分かりました」

「ちぇー…分かったよ」

「頼んだぞ、お前達」

 

 F91は2人に微笑みかけて、すぐにマルスガンダムの後を追った。

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「……」

「ガンレックス…に……が?」

「…うん……」

「……」

「分かってるんだ。F91がとった行動は正しいもので、必要なモノだって事は」

「…」

「でも…ついていかないんだ…俺」

「…」

「俺…バラバラになっちゃう…よ…」

「……何で、泣かない? 泣けば解決はしないが、楽になるだろうに」

「…兄ちゃん、それだけは出来ないよ…」

「何故。お前位なら、泣いたってまだ許される年頃だろ」

「だって」

 

 

 

「だって、俺、…俺だって、騎士だから…円卓の騎士、だから…」

 

 

 

「…」

「だからだから、アイツらには死んでも言えないよ…。アイツらは、アイツらだから、きっとすぐF91の所に行って、話を聞こうとするだろ…。…でも俺、騎士だから、F91のした事、分かるから、だから、だから…」

 

 

 

「…『騎士』……か」

 

 

 

「でもね…」

「ん?」

 

 

 

「もう、誰かに置いて行かれるの、ヤだ…。父さんは、帰って来たけど…父さんは帰って来たけど…F91は……」

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「くッ、見失ったか…こっちに来たのは間違いないはずだが……」

 

 森の中ほどでF91はマルスガンダムを見失ってしまっていた。

 

「しかし解せないな…マルスは何故こんな真似を……」

(解せないのは騎士F90Jr.もだ…何故あんなに思いつめた顔を…)

 

 1歩。

 また1歩。

 

 周囲に気を配りながら歩みを進め、その中でF91は現在の状況を頭の中で整理する。

 

 

 

(そう言えば拠点の設営中、マルスと騎士F90Jr.が何か話をしに外の方に出て行ってたな…何か関係あるのか?)

 

(騎士F90Jr.の様子がおかしくなったのは……そうだ、パンゲア界に来る直前だ。あんなに元気に走り回っていたのに、急に…)

 

(マルスは騎士F90Jr.と話をした後に私に斬りかかって来た…間違いなく騎士F90Jr.に関係があるだろう…だが…)

 

(…騎士F90Jr.がおかしくなったのはパンゲア界に来る直前…その前に何かあったのは間違いない…。……その、前…?)

 

 

「!!!!!」

 

 

 F91の頭の中で、何かがカチ…と音を立ててはまった。まるで、パズルのピースの様に。

 そして、全身にものすごい悪寒が走った。

 

 

 

(騎士F90Jr.…お前…まさ、か……)

 

 

 

 はらり、と。

 

 F91の前に風に乗って白い小さなものが落ちてきた。

 

「え?」

(雪…?)

 

 

 

 白い雪のつぶがはらりはらりと落ち行く様に、F91はほんの1瞬それまでの事を見失った。

 

 

 

「!! 上かッ!!」

「氷雪流星斬ッ!!」

 

 大木の枝の上から、真っ直ぐに降下しつつ氷の剣技をマルスガンダムは繰り出してくる。

 F91は氷雪流星斬にあわせる様に剣を構えた。

 

「バーニングノヴァ!!」

 

 上から降下してきた氷に対し、炎がそれを包み込む。

 金属的な音が1度森に響いた直後、辺り一面靄に包まれた。…雪と氷が炎で蒸発したためだ。

 

「くっ…!!」

(何て重さだ…!! さすがはフォーミュラ様の…!!)

「フン、他愛のない…」

 

 甲高い金属の音が響いて、両者共に距離をとる。

 さほど間合いは外れていないはずだが、先程発生させてしまった靄のおかげでお互いの姿は霞んで見えた。

 

「ここまで靄がヒドイとさすがに視界が悪いな……視界を良くしてやろう」

 

 ピキュイィイィイィイィ…ン…という小さな音が聞こえたかと思うと、周囲の気温が急激に下がっていく…マルスガンダムの必殺の剣、『フォーミュラ氷河剣』の前触れだ。

 

 

 

 靄が急激に冷やされ氷の粒になり、霜となって辺りの木々を白く染め上げる。

 

 

 

「どうした? 得意の炎の剣…使わないのか? ン?」

「……ッ!!」

 

(灼熱烈炎剣…ここでは…!!)

 

 冷気と氷に包まれていても、ここは森。

 下手に炎の技を繰り出そうものなら、大変な事になるのは明白であった(先程のバーニングノヴァはあくまで氷雪流星斬に合わせただけ)。

 それに威力を抑えて発動させたとしても、先程以上に靄が発生してしまえば元も子もなかった。

 

「考えているヒマがあるの…かァッ!!」

「ちィいッ!!」

 

 霜によって白く凍りついた森の中で、いつ果てるとも無い戦いが始まった。

 

 

 キィン!! ガキン!! ガィイイン!!!!!

 

 

 静まりきった森に、剣と剣がぶつかる音が無調律に響き渡った―――。

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「何だよそれ、『言えない』って何だよ!! 騎士F90Jr.!!」

「落ち着けよ、重戦士F90Jr.…。でも、悪いけど、私もそれじゃ納得出来ないよ騎士F90Jr.。兄さんの様子から、恐らく兄さんには話したんだろ? なのに、私たち2人には言えないなんて…そんなのおかしいんじゃないか?」

「……」

 

 場所を移して、仮組みの拠点。

 騎士F90Jr.は彼の兄弟達―――重戦士F90Jr.と法術士F90Jr.―――に囲まれていた。

 

「何でだよ、俺達何でも話し合ってきたじゃんか!!」

「そうだよ、騎士F90Jr.。一体、何があったんだ」

「……言えない、言えない、よ」

「おい!!」

「……私達に話せない程の内容…と言う事…は…」

「…ッッッ!!」

 

 ドン!! と。

 騎士F90Jr.は重戦士F90Jr.を法術士F90Jr.の方に突き飛ばした。突き飛ばされた衝撃で重戦士F90Jr.と法術士F90Jr.は情けない声を上げながら2〜3m程転がって行った。

 

「「うわぁああああ!?」」

「し、知らないよ…俺、何にも、何にも…何にも知らないよッ!!」

 

 そう叫ぶと、騎士F90Jr.はマルスガンダムとF91が駆けて行った森の方へと走り出した。

 

 

 

 

 で、突き飛ばされた2人はと言うと…。

 

「…き、騎士F90Jr.のヤロォ…突き飛ばされた恨み晴らさいでか…!!」

「と…とりあえず私の上からサッサと降りてくれ重戦士F90Jr.…アイツ追いかけるのはそれから…だ!!」

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「うわッ!!」

 

 ドカン、と。

 1瞬の隙をついてマルスガンダムの肩からの突撃をまともに食らったF91が跳ね飛ばされ、派手な音と共に全身を強く木の幹に打ち付けられ、背中に激痛が走る。

 

「ぐ…うゥ……」

「隙アリ!!」

「!!」

 

 

 

 ガィイイイイン!! …ガン!! ザスッ!!!

 

 

 

「く…ッ……ゥッ!!」

「…勝負あったな」

 

 F91の剣は彼の手元から弾き飛ばされ、そしてマルスガンダムの槍と剣はF91の首の左右の動きをそれぞれ封じていた。

 

 

 マルスガンダムの言う通り、勝負はついたのだ。

 ―――F91の完全な敗北―――で。

 

 

「…マ、ルス…」

「いい眺めだぜ、さんざん俺をコケにしてきた報いだ」

 

 マルスガンダムの目元が、嘲りを含みつつ細められる。

 F91は真っ向からその視線に歯向かっていた。

 

 

 

「…何を聞いた?」

「何度も言ったよな。問答無用だと」

「勝負はすでについているのに、まだそんな返事しかしないのか」

 

 100%敗北が確定した状況下でも常に冷静さを保っているF91に、マルスガンダムの方が逆上する。

 

 

 

「誰のせいだと思っている!!」

 

 

 

 激しい言葉とは裏腹に、F91に向けられるその視線はほんの少し前の嘲りを含んだものとは全く違うものに変化していた。

 その視線の変化を見て、F91は全てを悟った。

 …マルスガンダムの行動の意味も、様子がおかしい騎士F90Jr.の事も…。

 

 

 

「……やはり、『あの時』…騎士F90Jr.は聞いていたのだな」

「……」

 

 

 

 

 

「私と…スペリオルドラゴンの会話…を……」

「……」

 

 

 

 

 

 …マルスガンダムは、答えない。

 それが何よりの『答え』であった。

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「……」

「マル、ス……」

 

 

 

 長い、長い沈黙が流れた。

 その長い沈黙を打ち破ったのは、以外にもマルスガンダムの方だった。

 

 

 

「…仕事の依頼を受けた」

「ッ、依頼?」

「傭兵としての、最後の仕事だ。それで、傭兵稼業からは足を洗う。最後に相応しい大きな―――仕事だ」

「最後の、仕事…?」

 

 マルスガンダムはまだF91の首横に突き立てている槍に手をかける。その視線は、F91に鋭く向けられたままだ。

 

「騎士F90Jr.―――アイツが依頼主だ」

「騎士F90Jr.が…?」

「依頼内容は…」

「…内容は?」

 

 

 

「―――を―――……」

「!!!!!」

 

 

 

「報酬は2つ。1つは貴様の命―――残り、全部」

「…ッ!!」

「そしてもう1つ、は…」

「もう1つ…は……?」

 

 

 そこで1度言葉を切り、マルスガンダムは手をかけていた槍から手を離し、落ちているF91の剣を拾い上げてその斬っ先をF91喉元にピタリ…とあわせた。

 視線は変わらず、鋭いままで。

 

「…それを聞いて、どうする?」

「…」

「聞いた所で、貴様に出来る事は何1つない。そうだろ?」

「…私…は……」

 

 僅かでもマルスガンダムが力を入れれば…という状況下になってようやく、F91の瞳の奥に動揺が見られた―――様々なお膳立てをしたこの状況下であっても、それはとても僅かなものではあるが―――。

 

 

(騎士F90Jr.をダシに使い…ここまで追い詰めてようやく、か…そういうヤツだと知ってはいるが、やはりウンザリするぜ)

 

 マルスガンダムは心底F91という男が面倒くさいと思った。

 

「それでも聞きたいか?」

「っ、マルス…」

「聞きたいか、F91?」

「…ッ…」

 

 

 

「もう1つの、報酬は―――」

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(兄ちゃん、F91…!!)

 

 空気の冷たい森の中を騎士F90Jr.は走っていた。2人を探して。

 

(兄ちゃん、ゴメンなさい。兄ちゃんは父さんにそっくりだから、こんなはなし聞いたら父さんならどういう事するか、すぐわかるはずだったのに)

 

 

 

 雪を乗せた冷たい風が、弱く彼の横を吹き抜ける。

 

 

 

(F91、ゴメンなさい。俺、子供だから、まだまだ自分の事しか考えられない子供だったから。F91の言う様に、俺、大人になるから。大人になって、強くなって、ホントの騎士になるから…!!)

 

 

 騎士F90Jr.のほほに、雪より白い粒が1つ…こぼれて伝い落ちた……1つだけ。

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「兄ちゃぁあーん!! F91ーーーッ!!」

 

 

 

 遠くから、騎士F90Jr.の呼ぶ声が聞こえる。

 どうやら、『時間切れ』の様だ。

 

「…チ、バカが…」

 

 マルスガンダムは騎士F90Jr.がこちらに来る前に、F91の喉元に当てていた剣を降ろし、彼の首の動きを封じていた自身の槍と剣を木の幹から引き抜いた。

 

 ようやく気の抜けない状況下から解放され、F91はさすがにくたびれた様子だった。

 その様子にマルスガンダムは少しだけ溜飲を下げた。

 

「…ホレ、剣」

「ン…」

 

 先程まで己の喉元に突きつけられていた己が剣を返してもらったF91はため息を1つ漏らすと、剣先の露を払い腰の鞘におさめた。

 それを見て、マルスガンダムも剣を鞘に戻す。

 

 

 

 と、そこへ。

 

「いた、兄ちゃん!! F91!!」

「おう、どうした」

「兄ちゃん、ゴメンなさい、俺、俺…」

「あ゛? 何謝ってンだお前? それにしても惜しかったなーお前。ついさっき俺がF91を負かした所、見れなかったモンな」

「えーウソだぁーF91が負けるなんてー」

「何ィ?」

 

 歳の離れた兄弟の他愛無い(?)やり取りを見て、F91は微笑んだ―――もう、いつものF91だった。

 

「あ、F91…」

「騎士F90Jr.、どうした」

「あ、あの、あのさ、その…さ……」

 

 何か言おうと思っている様だが、うまく言葉にまとめられないでいる騎士F90Jr.の様子にF91は苦笑いを浮かべた。

 

「心配するな、騎士F90Jr.。私は大丈夫だから」

「F91…」

 

 F91は騎士F90Jr.の頭をクシャクシャとなでた。

 F91に撫でられた後、騎士F90Jr.はいつもの明るい表情に戻っていた―――少しだけ、大人びた様にも見える。

 

 1言2言で理解出来る程度には成長したという事の様だ。

 

「それに…もう少しお前達の行儀作法を何とかしないと安心出来ないからな」

「え…」

 

 

 

 間。

 

 

 

「……ひでぇ!! 何それ!!」

「聞いたまんまの意味さ。法術士F90Jr.はともかく、あと2人…いや… 3 人 は礼儀がなってないからなー」

「待てF91。法術士F90Jr.抜きで『3人』って…俺も入ってるのか?!」

「お、良く分かっているじゃないか」

「…オイ」

「パンゲア界から脱出したら、私が騎士らしい立ち振る舞い方を教えてやろう。私達がパンゲア界を脱出する頃には、ブリティスから円卓の騎士団が到着しているだろうし…それからフォーミュラ様に会った方がいいんじゃないのか?」

「!!!!!」

「えーッ!?」

 

 マルスガンダムと騎士F90Jr.は、文字通り凍りついた。

 

 

 

「…ん、重戦士F90Jr.と法術士F90Jr.も来た様だな」

 

 静かな森は、一時賑やかになった。

-16ページ-

「…正直、驚いた」

「あ゛?」

「この世界に、私の命を惜しむものがいたなんて」

「はァ?」

「そういうものは、私の横を通り過ぎていくものだとばかり思っていた」

「…」

「だから正直、驚いているし…戸惑っている」

「他には」

「騎士F90Jr.には詫びなければ…1生かけて」

「…それから?」

「…マルス」

「ん?」

「この戦いが終わったら、私はブリティスに……帰る。こんな事にならなければ、円卓を辞してどこか別な所へ行こうかとも思っていたが…このまま円卓の騎士として、ブリティスに帰る事にする」

「……」

 

 

 

「だからいつか―――依頼を果たしに来るといい。ただし、その『報酬』は―――そうやすやすとは渡さんぞ?」

「…いいだろう、覚悟しておけ」

-17ページ-

【オマケ】

 

「…マルス」

「何だ」

「報酬の1つは『私の命残り全部』と言ったな」

「…あ゛?」←イヤな予感

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それって…1歩間違えればプロポーズなんじゃ……」

「…貴様その口で寿命短くした事ねェのか……」

-18ページ-

【オマケ・2】

 

「さっきビギナ・ゼラにも言ったが」

「…今度は何だ」

「たまには手紙くらい出したらどうだ、お前も」

「クソ親父に書く事なんてあるかッ」

「…誰もフォーミュラ様になんて言ってないが」

「…」←イライラ

「あいつら(=三つ子)に書いてやれ。喜ぶぞきっと。なんなら私宛でもかまわない」←終始笑顔

「あいつらにも貴様にも書く事なんてあるかーーーッ!!」

 

 

 数ヵ月後。

 

 

「…と言っていたくせに、月1間隔で出してくるとは…意外とマメなんだな。さすがはフォーミュラ様のご子息と言った所か」

 

説明
・携帯アプリの聖機兵物語ネタ(いきなり)
・しかも4章後半(いきなり!)
・オマケにIFルート(い き な り !!)
・当然、上記3つに関してネタバレ全開注意
・三つ子はF91が大好き(三つ子にとってF91は父がわり・兄がわり・母がわり)
・中でも騎士F90Jr.は1番F91に懐いてる
・ンでもって当のF91は…三つ子に超・甘い(キッパリ)
・マルスさんは何だかんだで三つ子のイイお兄ちゃん(しかしクソ親父の事はやーっぱり苦手)
・マルスガンダム、カードダスイラストだと右手→槍・左手→剣なので、イラスト準拠で(アプリのステータス表示は槍が左手…lllorz)
・見方(?)によっては マルス×F91(しかし激・辛口←?)
・殺し合うのがニュータイp(ry
・メカバレ表現ある…か?(多分無い…と思う…が)
・『×』付いていても、そういう物を期待するとロクな目に合わない→それが友杉クオリティ
・いつにも増して改行並びに『…』『―――』過多
・目標:騎士の姿・三者三様(ウソつけ)
無理だなと思ったらリターン推奨。ホントに。
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