島津一刀と猫耳軍師 2週目 第23話
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「おでかけですー」

 

嬉しそうだなぁ……。言葉の後ろに音符マークでもつきそうな感じだ。

 

今日は天泣と一緒に街に出てきている。というのも霞との勝負に勝った時の景品を買いに、ってことなんだけど。

 

ついでに街をぶらぶらしようっていうことになって、屋台を物色したり小物屋のぞいたり。

 

しかし、天泣がこう、ものすごい目立つ。

 

ほわほわした雰囲気にひらひらしたドレスみたいな服着てるもんだから、すれ違う人がみんな振り向いていく。

 

戦場にでたらこのドレスを血みどろにしながら、次々に敵をなぎ倒していくんだから恐ろしい。

 

見た目に反して意外と安いらしいけど。この服。

 

「いっとくけどそんなに高いものは買えないからね?」

 

「分かってますよー。ふふ……、それにこうして2人で出かけられるのが嬉しいのでお買い物は重要じゃないですー」

 

そういって俺の腕に抱きついてくる天泣。

 

いや嬉しいけど回りの目が痛いよ!?

 

なんだか生暖かい目で見られてる気がする……。

 

これ桂花あたりに見られたらヤキモチ焼いて大変なことになりそう。

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「おや、今日は将軍様2人でおでかけですかい?」

 

「ん、まぁそんなとこだけど」

 

あれ? この店……。ていうかこのおやじさんにも見覚えが……。

 

やっぱり! この店紫青や桂花の髪飾り買った店じゃないか。何で洛陽に

 

「どうかしましたかー?」

 

「ん、いや、なんでもない」

 

髪飾りか、天泣は髪下ろしてるほうが似合いそうな気がするし。

 

俺としては髪下ろしてるほうが好きだし。んー……あ、これいいな

 

「おやじさんこれ頂戴」

 

天泣が髪飾りを物色してる間にこっそりと目当てのものを購入してと……。

 

「めぼしいのはあった?」

 

「特に無いですねー……、私に似合いそうなのってありましたかー?」

 

「天泣は髪下ろしてるほうが似合いそうだしなぁ。俺は好きだし、この柔らかそうな髪」

 

髪に触れるとあうあうと何だか恥ずかしそうな顔。可愛いなぁ……。

 

結局このあとも天泣は特に欲しい物はなかったらしく、お昼ごはんを食べてお茶を飲んで城に帰る事となった。

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翌日、朝一に天泣を起こしに行くと、まぁ相変わらずぐっすりと熟睡中。

 

朝弱いのは治りそうにないなぁ、なんて思いながら、軽く肩を揺さぶる。

 

まぁこれで起きてくれるわけはないんだけど、いつもすごい勢いで叩き起こしてるからたまには優しく起こしてあげたいなーなどとおもってたり。

 

次は手を引っ張って上体を起こさせて。

 

……どうにか薄目開けたな、今。まぁこれだとすぐ寝なおしちゃうんだろうけど

 

「天泣、髪梳いてあげるからこっちおいで」

 

「むー……」

 

そういうとのろのろと鏡台の前に来て椅子に座る。

 

で、天泣の後ろに立って、昨日こっそり買った櫛で髪を梳く。

 

しばらくそうしてるとどうやら頭がハッキリしてきたらしく、状況を認識するとみる間に顔が赤くなっていって。

 

「な、なな、一刀さん何をー!?」

 

「ん、何って髪を梳いてあげてるんだけど、ヤだった?」

 

「や、やじゃないですけどっ……!」

 

「じゃあじっとしてるように、人に髪梳いてもらうと気持ちいいでしょ?」

 

「うぅ……」

 

真っ赤になりながらもされるがまま、昔母さんに髪を梳いてもらったのを思い出すなぁ……。

 

ほんとに何で人に髪を梳いてもらうとあんなに気持ちいいんだろう。

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「あのー……。

 

以前、私が、一刀さんが寂しそうだからお傍にいるといったのを覚えてますかー?」

 

「ん、覚えてるよ」

 

「最近、一刀さんが寂しそうな顔をすることもずいぶん少なくなってきましたので、思うんですー……。

 

私はまだお傍に居てもいいのかなーって」

 

相変わらず、抜けてるようにみえてよく人を見てる。でも、その物言いは気に入らないなぁ……。

 

「ひゃう!? 髪を引っ張っちゃヤですー!?」

 

「天泣は俺の寂しさを埋める道具なの? 違うでしょ?」

 

軽く髪を引っ張ったけど、それからもう一度ゆるく髪を梳いてあげて。

 

「そばにいるかどうかは、天泣自信の気持ち次第だよ。

 

俺は天泣が傍にいたいと思ってくれてるなら、傍に居て欲しいと思ってる」

 

「なら、天泣はこれからもずっとお傍にいますー」

 

「ん。ならまた髪を梳いたげよう」

 

髪を梳くのをやめて、その櫛を天泣に差し出す。

 

「この櫛は天泣にあげるよ」

 

「いいんですー?」

 

「うん、そのつもりで買ったやつだしね」

 

「ありがとうございますー」

 

嬉しそうに笑って、よほど嬉しかったのか俺に抱きついてきた。

 

この日、髪を梳いたりするのに時間を取ったため、朝の鍛錬はお休みとなった。

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「うーん……」

 

どうにも資料の数字が食い違ってる。微々たるもんだからスルーしてもいいんだけど、なんだかなぁ。

 

何でここに齟齬が出るのか。確かこれは……天梁から上がってきた資料か。

 

今日は天梁は休みだから自室にいるかどうか、資料を作った本人に聞いてみるのが一番はやいと考えて取り敢えず天梁の部屋に向かう事に。

 

「天梁、居る?」

 

「あ、ちょ、ちょっとお待ちください!」

 

バタバタと部屋を片付けるような音。

 

天梁の部屋に来るのって初めてだけどってひょっとして汚部屋なのか……?

 

だったらヤだなぁ……。

 

「ど、どうぞ」

 

許しが出たので部屋にはいる。

 

別にゴミが片隅に寄せられているわけでもなく、普通に整頓された部屋だ。

 

こー、家具とかすごい女の子してるけど。

 

カーテンとかピンクだし、ぬいぐるみらしきものが置いてあるし、

 

こうしてみると、部屋の片隅に立てかけてある弓矢一式がすっごい違和感。

 

ていうか、休みの日は髪下ろしてるのか。一瞬天泣が居るのかとおもった。

 

「どうかされました?」

 

「これなんだけど、ん?」

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トンとつま先に何か当たった。視線を足元に移すと……赤い毛糸玉?

 

「〜〜〜〜っ!?」

 

俺がそれを拾い上げるとわたわたとものすごい慌てた様子。

 

毛糸玉から出た毛糸の続く先は……、天梁の後ろ?

 

「んー?」

 

「み、みちゃだめです!」

 

って言われても既に見てしまった後。布をかぶせた籠からはみ出てる編み針が2本。

 

「編み物してたのか」

 

「ええ、まぁ……」

 

諦めたようにため息を一つついて。

 

「それで、用件は何でしょう?」

 

「これと、この資料なんだけど、間違ってるみたいだからどっちが正しいのかと思ってさ」

 

「見せてください」

 

天梁が資料を見てる間に、転がって長々と毛糸玉から伸びる毛糸を適当に巻いて、天梁の後ろにある籠へポイっと……。

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あ。

 

「ああああ!?」

 

「ご、ごめん! そんなツモリじゃあ……」

 

うん、狙い通りきっちり籠に毛糸は入ったんだけどさ……。

 

籠がバランス崩して床に中身ぶちまけたんだ。ごめん、ほんとごめん。

 

資料を放り投げて籠の中身を回収する天梁、ぎゅっと握りしめられたそれは、マフラー……?

 

「酷いです」

 

言ってから涙目になってこっちを振り返って。

 

「酷いです……」

 

2回も言われた……。

 

俺はといえば平謝り。いやもう弁解の余地も無いし。

 

「……、もういいです。本当は完成するまで内緒のつもりだったんですけど」

 

「え?」

 

「これから寒い季節ですので、一刀様にあげようと思って作ってたんです」

 

そういって、大事そうにそれを籠へと片付けて。

 

そ、そうだったのか……。

 

「私からこんなものもらっても嬉しくないかもしれないですけど」

 

「いや、嬉しいよ」

 

「嘘でもそう言ってもらえると嬉しいです。でも、一刀様は私より天泣の方がお気に入りじゃないですか」

 

「ん? 何で?」

 

「天泣がいってました、一刀様に髪を梳いてもらったーって」

 

あの時のこと天泣から聞いたのか。

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「天梁」

 

「はい?」

 

「編み物俺に教えてくれる?」

 

「いいですけど……。どうするんです?」

 

「お返しに俺も天梁に一つ作るよ」

 

「そういうのは、贈りたい人に頼んじゃだめですよ」

 

くすくすと小さくわらって、でも嬉しそうな顔。

 

「じゃあそうですね、仕事が終わったらまたここに来てください。

 

その代わり、ちゃんと冬が終わるまでに完成させてくださいね?」

 

「頑張るよ。じゃあ早く仕事終わらせないとな」

 

俺はここにきた当初の目的を終わらせて仕事に戻り、それから再度天梁の部屋に向かった。

 

結局編み物を教わりにそれからしばらく天梁の部屋に通う事となった。

 

編み物って難しいなぁ……、俺が不器用なだけかもしれないけど。

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本格的な冬を前にして一つ、動きがあった。

 

楽成城が落ちたらしい。という情報がはいってきたのだ。

 

落としたのは袁紹。

 

城主の黄忠……紫苑は袁紹に下りその配下になったらしい。

 

正直いって紫苑が袁紹に下るわけ無いとは思っていたので忍者隊に調べ上げさせた所。

 

やはりというべきか、璃々ちゃんが捕まっており、いうことを聞かざるをえない、って状況らしい。

 

正直言えば、はらわた煮えくり返ってる。

 

今すぐにでも助けに行きたいとおもう。前の時はそんな人と戦いたくないからっていうので助けたけど、

 

正直今回は重みが全然違う。紫苑も璃々ちゃんも、面識がなかったあの時とは違う、俺の仲間なんだから。

 

でも一介の将が勝手に軍を動かすわけにもいかないし、手の届く範囲を超えていた。

 

月達の時とは違う、俺が一人で乗り込んでいってどうにかなる問題ではないし、

 

璃々ちゃんを助ける事は出来るかもしれないけど、あとからどんな難癖をつけられるかわからないし。

 

「視線だけで人を射殺してしまいそうな顔をしているな?」

 

部屋で悩む俺に声をかけてきたのは意外な人物。

 

子和だった。情けない事に、声をかけられるまで気づかなかった。

 

「いつも柔和に笑っているお前がそんな顔をするんだ、よほどの事があったのだろう?

 

私に話した所で何にもならないかもしれないが、私に話してみる気はないか?」

 

「愉快な話しじゃないよ?」

 

「その顔を見れば誰にだってわかる。遠慮するな、私はお前の友人であったはずだろう?

 

それに、私はお前から何かをもらってばかりだからな、たまには世話を焼かせてくれ」

 

「ん、じゃあ話すけど……」

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1つずつ、自分で状況を整理するように話していく。

 

かつて仲間であった人物の子供が人質に取られている事。

 

今の自分の気持と状況。

 

「なるほど、お前はその御仁を助けに行きたいわけだ」

 

「うん。あれぐらいの子にこの境遇は酷すぎるよ。それに、俺には子がいないから親の気持ちは分からないけど、

 

同じように子供を人質に取られた人を何人か見てきてる。だからその気持の欠片ぐらいは分かるつもり。

 

その欠片でもつらすぎる……」

 

「劉協に直談判すればいいではないか、お前はその気になればそれが出来る立場だろう?」

 

ゆっくりと首を横にふる。

 

「私情で軍を動かしたらろくなことにならないよ。

 

それにこれから冬がくる、冬の戦は過酷だからより多く人死が出る。それは避けなきゃいけない。

 

他にも色々理由はあるよ。馬騰との戦の傷がまだ癒えてない事もあるし、第一さ」

 

一つため息をつく。

 

「兵達にとってみれば、黄忠とその娘は『他人』なんだ。だから士気が上がるはずもない。

 

いくら俺にとって大切な人であったとしてもね。反乱軍として袁紹を叩き潰す事はできても、その人を助ける事はできないとおもうんだ。

 

それに無理に袁紹を倒したとしてもその後ろに呉と公孫賛がいる。袁紹と戦って疲れた所を攻めこまれたら終わりだよ。

 

だから助けたくても手が届かないんだ。手を無理に伸ばしたら、俺だけじゃない、ここにいる皆まで崖から落ちる事になる」

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「歯がゆいな、だがな北郷よ。

 

悩むのをやめろとは言わん、だがお前は何も悪く無いんだ。

 

助けに行かなかったとしても、黄忠はお前を恨みはしないだろう。

 

私にはお前のその視線が自分自身を責め立てているように見える。

 

ここにいる友と、助けを求める友を天秤にかけた自分を。友を助けに行けない自分を、な

 

笑えとはいわん、だがあの顔はよせ、見ているこちらも辛いからな。」

 

「……、ごめん、心配かけた」

 

「かまわん、私もお前にすがりついて泣いたんだ」

 

「そうだったね」

 

「そこで笑うな馬鹿者」

 

子和の言葉に小さく笑うと、恥ずかしそうな顔をしてふてくされたようにそういう。

 

「ごめんごめん」

 

「まぁいい、そうやって笑えるならもう大丈夫だろうしな。

 

辛くなったら私で良ければまた話しを聞いてやる。いつも世話になっているしな」

 

「ん、ありがと」

 

「腹を割って話しもした事だし、私の真名を教えておく、私は天華-テンファ-という」

 

「じゃあ俺も、俺の真名は一刀だよ」

 

「身に過ぎた真名だとおもっているがな」

 

「そう? 天華は十分可愛いとおもうけど……」

 

「ええい、そういうことを言うな! 全く、私は行くぞ!」

 

そういって、天華は頬を染めながら出て行った。

 

「ありがとう、天華」

 

それにしても不思議な子だなぁ……。

 

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あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は黒天のオリキャラばっかりの回でした。

 

原作の尺度でいうなら、あと1〜2回拠点フェイズを挟んで戦闘って感じで考えてます。

 

天泣、天梁は2週目のメインヒロイン格ですし、割りと優遇してます。

 

次回は多分、紫青、霞、月詠あたりの誰かの拠点予定です。

 

静里、優雨あたりが入ってくるかもですが。

 

あと季節が冬に変わって、コタツ作ったよ!っていうネタがあったんですが、

 

絵面想像すると違和感すごかったんで没ネタになりました。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

説明
今回は天泣、天梁の拠点と、拠点の間に入ってくる話し+子和のお話です。
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コメント
>>N.博也さん 逆鱗に触れた結果、大変な事になったりするかもしれません。フルボッコにされる的な意味で(黒天)
麗羽殿・・逆鱗に触れますなよく・・(mame)
>>naoさん んー、たしかにそうかもです。状況を良くするために手は打っていくと思います。(黒天)
みんな一刀の事好きだからな〜一刀が悩んでることしったらなんとか紫苑と璃々を助けようと動くような気がするw(nao)
>>nakuさん 男色だと……。それはさておき、コタツネタって需要あるんでしょうか?(黒天)
>>レモンさん 普通に、床に穴開けて火鉢を入れて、足切ったテーブル乗せて、布団かぶせて天板のせれば当時の技術で問題なく作れるんですが、それで仕事をしてる図を想像するとあまりといえば……なので。まぁ休憩室(あるのか?)に置くとかはありかもですね 。(黒天)
>>kyougoさん レヴィアタンさん また物騒なものを持ちだしてきましたね。というかどの辺が微力ですかw(黒天)
>>陸奥守さん そこは突っ込んではいけない所です。(ぇ(黒天)
>>Jack Tlamさん 天泣を気に入ってもらえたようで良かったです。洛陽の冬は意外と雪はすくないらしいです。夏の雨は多いらしいですが。(黒天)
>>たっつーさん 雪球を圧縮しすぎて氷玉に……、何人か思い当たる人が……。そして白蓮さんの言われようがひどいw(黒天)
>>D8さん そうですねぇ、本格的に慌てたのはコレが初めてですね。一応お説教されたときにちょっと慌ててますが。(黒天)
>>禁玉⇒金球さん なんという……(黒天)
>>孫縁@ちんきゅーきっく症候群さん うちの麗羽さんは基本残念な人ですねー。(黒天)
一刀さんモゲロ(挨拶) コタツに関しては、真・恋姫†無双ではドリルやパイルバンカーが出てくるんだし、私個人としてはあまり問題ではないような気がしました。(レモンジュース)
↓kyogo2012さん、俺も微力ながら・・・チェーンソー二本(スチャ(レヴィアタン)
本当にもぐか(日本刀2本装備)。どうして、一刀ばかり・・・・・・・ブツブツブツブツ。(Kyogo2012)
頻繁に思うけど鈍感でなおかつ無自覚な主人公って人として色々欠落しているんじゃなかろうか。(陸奥守)
なるほど、慌てるとこんなに可愛いのですか。いいですね。洛陽は山に囲まれてますから、雨とか多かったような。したがって雪も多いような。↓↓↓↓ネタキャラからネタ性を排除するとえらいことになると最近知りました。(Jack Tlam)
登場してから天泣が慌てたのってこれが初めてなんじゃなかろうか。かわいいです。↓↓一応いるにはいる。数が圧倒的に少ないだけで。(D8)
↓?げることがあろうか残念ながらない、?げろと思わない事があろうかいやない。(禁玉⇒金球)
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恋姫†無双 一刀 北郷一刀 天泣 天梁 子和 

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