恋姫無双 武道伝 7話
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「ずるいではないか、二人だけでお楽しみとは!」

 

宿屋の窓から飛び降りてきた白い物体・・・もとい星は着地するなりまくし立ててくる。

 

「変な言い方をするな。風に頼まれて護身術を教えていただけだ。」

 

「子文、お主・・・」

 

俺が風を真名で呼んだことにぴくりと眉を上げる。場合によっては叩き切ると言外に伝えてくる。

 

「いいんですよ星ちゃん、風はおにーさんと真名を賭けて約束をしたのです。風が自分で託したのですよ。」

 

「そうか、ならばよい。すまなかったな子文」

 

素直な謝罪とともに星がぺこりと頭を下げてくる。

 

「いや、いい。それで?お前も体を動かしに来たのか?」

 

「おお、そうだった。お主に話があってな。」

 

「星が俺に?なんだ改まって」

 

そもそも星なら前置きもなしに話し始めそうなものだが。

 

「話があるのは星殿ではありません。私ですよ。」

 

声がした方に目をやれば、戯士才がこちらに歩いてきていた。

 

「あなたの行動はいささか行き当たりばったり過ぎます。もう少し計画立てて行動しなくてはいけません。今回の賊討伐もそうです。その場の雰囲気で公孫讃殿の客将などと言ってみたりして。もしこの嘘がばれればあなただけでなく我々も被害を被ることになるのですよ?」

 

「あー、確かにお前らに相談せずにホラを吹いたのは悪かった。だがどうせ公孫讃のところに行くなら手柄があったほうが良いだろうと俺なりに考えてだな」

 

「言い訳無用、このままあなたのやりたいようにさせるわけにはいきません。ですが、私たちがあなたを警戒して最低限の情報しか教えなかったのも、この状況を作り出した原因の一つではあるので、今までのことは目をつぶりましょう。」

 

つまりどういうことなのだろうか。こんなに回りくどく分かり難い説明をされても正直答えに困るだけなのだが。

 

「要するに、お互い悪い点があるから反省して、これからはもっと互いを信用して頑張りましょうと凛ちゃんは言いたいのですよ」

 

「おお、わかりやすい。そういうことならこちらとしては否はない。改めてよろしくな」

 

握手を求めて右手を差し出すと、その手をじっと見つめた後、握手に応じてくれた。

 

「言っておきますが、あくまで旅の連れとして、です。私は星殿や風ほどあなたを信用していません。もちろん真名を預ける気もない」

 

「構わんさ。会って二日目の男を信用しろってのも無理な話だ」

 

二人ほど例外がいるのだが。

 

「ですが旅の連れに偽名を呼ばせるのも無粋、多少の信頼の証として名乗りましょう。性は郭、名は嘉、字は奉孝と言います。少し訳ありなので人前では戯士才か奉孝とお呼びください」

 

ここで郭嘉か。確か曹操のお気に入りで軍師だったはず。俺が覚えている数少ない軍師のうちの一人だ。趙雲、郭嘉ともに後世に名を残す英雄、その二人と旅をする風も、もしかしたらこれまたすごい英雄なのではないだろうか?そう思い視線を投げると、意味深な笑みを返された。

 

「さて、改めて自己紹介も終わったところで本題に移りましょう。これからの行動についてですが」

 

郭嘉の言葉に視線を戻す。

 

「まず状況を整理しましょう。我々は公孫讃殿の客将で、賊討伐を依頼されて義勇兵を募っている、こうなっています。これ自体には大きな問題はありません。しいて言えば嘘がばれた時に公孫讃殿がどう動くかですが、これは嘘がばれるまでに手柄を立てることでどうにでもなります。」

 

官軍が頼りにならない中、賊討伐を指示し、民を救ったとなれば公孫讃の名声は跳ね上がる。そしてその名声をもたらした李文達を簡単に処すことはできない。それをすれば実は公孫讃は何も指示しておらず、賊討伐を果たしたものを処したと逆に悪評が広まりかねないからだ。

 

「問題は義勇兵の方にあります。どれほど集まるかわかりませんが、もし嘘がばれれば我々についてくるものは大きく減ってしまいます。そうならないために星殿と李文殿には集まった義勇兵の心を掴んで欲しいのです」

 

「難儀な役目だな」

 

「身から出た錆、というやつですよ。それにお二人の実力があればそう難しくもないでしょう。人間とは強い者についていく生き物。お二人が先頭を走れば他のものも勝手についてきます」

 

「そこまで言われてはできんとは言えんな。この趙子龍の名に懸けて兵の心を掴んで見せよう」

 

先ほどまで蚊帳の外だった星が、やる気満々で郭嘉に応える。まあこいつが声をかければその辺の男どもはホイホイついてくる気がするしな。

 

「義勇兵の調練と編成についてですが、以前李文殿が言っていた二交代制では体力面で不安が残ります。そこで兵を六班に分け、二班は星殿、李文殿が兵士として調練を。一班を私と風で細作として育成します。一班は夜勤として警戒に、残る一班は交代で休みとします。調練の時間は任せますが、あまり無茶はしないように。ここまでで何か質問は?」

 

「俺たちは夜誰も番をしないのか?夜襲をかけられたらたまらんぞ」

 

「兵の中から有能なものを探して夜勤の部隊長としましょう。昨日聞いた話では、最近賊が近くの邑を襲ったそうです。その邑の資源を食いつぶすまでは襲ってはこないでしょう」

 

 

それにいくら国境付近とはいえ短期間で暴れては諸侯が黙ってはいないでしょうからね、と付け加える。

 

「では旅費はどうするのだ?夜の見張りをやらないとなると我らの収入も減ってしまうのではないか?」

 

「幸いにも長が衣食住に関しては取り計らってくれるようです。収入はありませんが、飢えるということもありません。贅沢がしたければ空いた時間に邑の手伝いをすればよいでしょう」

 

いよいよもってホラ(嘘ではない、ホラだ)がばれないようにしなければならない。だが飢える心配がなくなったのはよかった。

 

「それから討伐の予定ですが、目安としては一月後を考えていますので、そのつもりでお願いします」

 

「たった一月では精強な兵ができないことはわかっています。錬度の低さは風達が策で補いますので、おにーさんたちはとりあえず戦場で命令通り動ける兵を作るようにしてください」

 

「これ以上は兵を集めた後にしましょう。時間も頃合いですしね」

 

空を見れば日がだいぶ上ってきていた。いつの間にか邑の人々も起き始め、それなりの活気が出始めていた。

 

「演説に関してはお二人にお任せします。くれぐれも軽率な発言はしないようにだけしてください」

 

わかりましたね?と念を押してくる。どうもこいつは自分の思い通りに物事が運ばないと気に入らない性格のようだ。軍師という職業を考えたら当たり前かもしれないが。

 

「説法は本職だからな、まあ任せておけ」

 

自信満々に胸を叩く。それを見て余計に心配そうな顔をしたのは気のせいではあるまい。

 

「ほれ、そろそろいくぞ。我らが遅れていては示しがつかんからな」

 

手を振り送り出す郭嘉と風を背に、俺と星は広場に向かい歩き出した。

?

 

説明
武道伝七話になります。遅くなってしまい申しわけないです。仕事の関係上、更新ペースはだいぶ遅くなってしまいそうです。

はてさて、李文達の賊討伐の計画はどうなるのか?
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