真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第78話
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はじめに

 

 

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。

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なんて惨めなのだろう

身動き一つ出来ぬ状態にあって握った拳を震わせるだけの自分

 

なんて無様なのだろう

今日までどれほどまでに取り繕い、それを演じてきた自分

 

それが

 

たった一人の

 

たった一言で

 

その全てが瓦解してしまった

理解してしまった

 

自身が

どれほどに

惨めで

無様であるか

 

「挑発です!どうかお静まりください!」

 

離してくれ

行かせてくれ

 

「それがアイツの狙いやねんて!」

 

解っているさ

 

「あんたねえ!行ったら殺されるってのが解んないの!」

「解っている!」

 

見抜かれた

 

負い目を感じていることに

 

『貴様それでも男か』

 

なんて惨めなのだろう

なんて無様なのだろう

 

この瞬間も簡単に組み敷かれるその姿は

それこそ

あの男の言う通りだろうと

 

「貴方はもう『只の北郷一刀』ではないのよ…自重して頂戴」

 

 

そう言ってくるんだろう

ああ

君はそう言うと思ったさ

でもそれが

 

そんなもの

 

 

何だって言うんだ

 

君が

君らが

この俺に何を期待して

そんなものを背負わせる?

 

それも嘘だ

それも気づいている

 

知っている

 

天の遣いなんてものが

 

只の大義名分で

それで満足なのだろう?

君は

君たちは

 

ここじゃない

『日本から来た誰かが』

『この世界の住人じゃない誰かが』

 

俺は望んでいない

そんなもの

俺である必要すらない

 

華琳

違うよ華琳

俺は天の遣いなんかじゃない

君の望む『天の遣い』なんかじゃない

いずれ君の元を去る俺は

 

君の望む『天の遣い』にはなれない

 

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彼が何を思い、何を言わんとしているのか

理解し、理解できない彼の心の奥底のそれを彼女は探っていた

 

今ここにきて彼に課した肩書きに彼は不満を持ち、そしてそれを降ろそうとしている

あの男の挑発にこれほどまでに取り乱す彼の姿こそ

自分達には話さず、隠し、偽ってきた彼の本心からなるものなのだろう

 

故に

 

これまでの『明け透け』な彼の態度が彼女は気に入らなかった

その彼が今日まで、そして今も尚隠し通さんとしている彼の自分達には言えない『何か』こそが、彼を今突き動かそうとしているのだと

 

その『何か』が理解できずに彼女は眉を顰めた

 

『あの男』への怒りが『彼』にそうさせている

『彼』の『あの男』への怒りはそれを通り越して懇願の表情に変わり、それが今『彼女』へと向けられている

 

行かせてくれと

 

ここで一つ別の疑問が彼女の脳裏に浮かぶ

 

果たして彼は行って何をするのだろうと

何が出来るのだろうと

 

例えば

仮に彼があの男にその刀で斬りかかったところでそれが何になるのだろう

 

彼が

彼の存在がそこで終わるだけだ

 

それとも彼のその刀の力を以てして彼女を、彼女の大切な秋蘭を取り戻してくれるというのだろうか

否、それも否

あの男がそれを見逃すはずもない、許すはずもない

 

つまるところ彼を行かせた時点で負けなのだ

 

ふと気づく

 

今私は何を考えているのだと

何を考えていたのだと

 

同時に

馬鹿馬鹿しいと内心自身に向けて毒づいた

 

『あの男』は『彼』が天の遣いと知って

天の遣いがその実、戦において只の一人の兵にも満たない戦力と見抜いて

それでいて此方の掲げる大義の根幹の一つと見抜いて

この戦の、魏の戦において勝敗の行方を左右する、というよりもむしろアキレス腱と見抜いて

『彼』を取り押さえようとしている

『彼』を抑えることで有利に立とうとしている

 

それを

 

彼を守りながらに戦うことを前提に前線へと引連れてきた彼女達がそれまでに経験せずにいたこと

天の遣いを直接に狙ってくるという敵

 

さてもさても、困ったものだわ

 

この場にいる誰もが彼にとっては挑発の材料となり

彼はこの程度の挑発に簡単に乗ってしまう

 

馬鹿馬鹿しいわね…ほんと

 

それを見抜けずにいた自分達

それを見抜いていた

『あの男』

 

『あの男』といえば

何をしているのだろうと思い城壁の外へと視線を向ければ、彼の軍が群がる城門から一人離れて此方を見据えるその姿が目に入った

その男の足元には彼女がよく知る人物がうつ伏せ地面に伏している。

その頭の上にあの男はその足を乗せ、真直ぐに此方に顔を向けている

 

何をしているのだろう

何をしてくれているのだろう

 

何の権利があって

『あの男』は彼女の大切なそれを足蹴にしているのだろう

忘れていたわけではない、天の遣いの怒りが頂点に達するまでの経緯を見過ごしていた訳でもない

だが戦場にあって彼女が自身に冷静にと言い聞かせていた

その理性を押しのけてふつふつと湧き上がる感情に彼女は肩を震わせていた

 

「あぁ」と漏らした彼女の溜息とも呻き声ともとれるその声に、その場にいた誰もが息を呑んだ

今し方に声を張り上げていた天の遣いでさえ、頬を引き攣らせ不敵な笑みを浮かべる華琳に言葉を失った

笑みを湛えたまま一刀の元へと歩み寄る膝を抱えるようにしゃがみ込むとその右手がゆっくりと彼へと伸び、その冷たさに彼の表情が強張る

 

「まず貴方に謝罪するわ一刀…そして貴方の怒りに同調するわ、でもね…一刀、『あれ』は貴方にはあげられないの」

 

彼の激情の火照りを冷ますように彼女の手が彼の頬をなぞっていく

 

「頂戴な…貴方のその怒りも、悲しみも、まだ私に隠しているその『思い』も…全部私に頂戴。」

 

貴方は私のもので

貴方も貴方以外の何もかも

私が望むものは全部

私のものなのだから

 

私がそう決めて

そう望んだのだから

 

「それを拒否するというのなら…いらないわ…貴方であっても」

 

途端、彼女の手にあった感触が消え、霧のように透ける一刀の身体をその手がすり抜けた

周囲の驚嘆の声を余所に彼女はさも愉快気に喉を鳴らした

 

「ふふ…う・そ」

 

再びに彼の姿が鮮明になり彼女の手のひらに彼の体温が浸透していく

 

「嬉しいわ…『天』もそれを認めてくれるのね、貴方が私の物だって」

 

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「…当てが外れたな」

「そのようだ」

 

彼は降りてこない

城壁の縁の間からちらりと見えた華琳と視線が合い、比呂は秋蘭の頭からその足を除けた

彼女が此方に向けた視線からこれ以上は無意味だと悟り、天に向け息を吐いた後に比呂は腰に差した剣を抜き、その鞘を秋蘭へと放った

丁度上体を起こした彼女が目の前に転がる鞘を一瞥し、比呂へと視線を戻すと彼は「当て木に使え」と剣を地に突き刺し、再びに胸の前で腕を組み城壁へと身体を向き直すところだった

 

「殺さないのか」

「人質は生きてこそ意味がある、死体では交渉に使えん」

「…成程な」

 

視線を合わせぬ彼の返答に一瞬間をおいて頷き、袖を咥えて器用に裂くと空の鞘を当て木に折れた右腕を固定していく

 

「あの状況からここまで盛り返したのだ、貴様は誇って良い」

 

彼に負け、こうまで屈せられた事が今、逆に彼女は普段の冷静さを取り戻させていた

 

「痛みわけを狙ってのものではない、目的を達せぬと知れば貴公のそれは皮肉にしか聞こえん」

「嫌味な奴だ、皮肉に皮肉で返されては貴様に負けた私の立場がない」

「…」

 

彼の無言に秋蘭はようやくに一矢報いたと口の端を上げて笑った、彼の悔しさを知るがゆえに

 

「あとは私にそれだけの価値があるかだが…」

「曹操は要らぬ物は要らぬと捨てることができる人物だ…反面、自分の物と一度決めれば執着する…何と引き換えにしようとも…違うか?」

「…食えぬ男だ」

 

自身が敬愛する人物が性を正確に見抜く彼に秋蘭はふんと鼻を鳴らした

どうも彼の傍というのは居心地が悪い、佇まいに困った左手が折れた右手を擦る

どれだけの時間かおそらくにほんの数分、だが息が詰まりそうな二人の空間に何度目かの溜息を吐いた後、彼女の耳に蹄の音と若干の怒気を孕んだ声が聞こえ、音の元へと視線を向ければこの数日で何度となく見慣れた敵総大将の姿が映った

『比呂さん』、そう聞こえた気がした。この男の真名なのだろう、彼の名を呼んだ語尾が上がっていることも、秋蘭の目に映った袁家当主の表情が強張っていることからも彼女が癇癪気味なのは明白で

 

「これが貴方のいう袁家の戦でして?」

「そうですが何か?」

 

疑問に疑問で返すというのは相手を煽ることに他ならない事を一般常識で彼女は知っている

だというのにこの男とくれば既に怒りでわなわなと震える自身が当主に平然とそれをやってのける…よほどに自信があるのだろう

この稀代の名家の、その当主の取り扱いに

 

「気に入りませんか?」

「当然ですわね、人質などと」

 

意外なものだと彼女は驚いた

 

彼女からすればこの袁紹なる人物は名家のプライド被った小心者で狡い手でも称賛し、それに乗る種類の人間と思っていたからだ

世間知らずで普段に雄々しく等と口にする人間こそが悪手、妙手の分別が付かず自分に都合の良いように解釈する物だと

 

彼女なりのプライドというものはどうやら人質に関しては良しとしないものらしい…だが

 

この状況では人質の価値はむしろ袁家にこそ意味があるものだろうに

 

この戦において袁家の実情を目にした彼女にも理解できよう、名家も既に単独では魏へと対抗しうるだけの力が残っていなかったことに

そのことにまだ、彼女は気づいていない

 

「解放しろというのは聞けませんな…彼女には敵将という価値に基づき働いてもらいます」

「これ以外に方法は無いものかと聞いているのです」

「将軍職を授かる私には袁家を存続させるという役割があります故」

 

成程、巧い

さんざんに煽り冷水を頭から掛けるか

 

彼女も理解したのだろう

既に超えるべき線は超えてしまっているのだと

 

「残念ながら…ここまでです、使者を手配いたします」

 

力及ばず申し訳ございませんと平伏する比呂の姿に麗羽が項垂れた

 

「見事だわ麗羽、そして張?!」

 

突然の頭上からの声に城壁の下の彼等の視線は自然と彼女へと向けられた

 

「そう…本当に大した物だわ!貴女のお気に入りは」

 

不敵な笑みを浮かべる彼女は両の手を腰に城壁の縁に仁王立ちし、袁家の面々を見下ろしていた

誰もが敵総大将が何を言うものかと眉を顰め彼女の口元へと意識を向ける中、彼だけが華琳の足元へと視線を移していた

正確には彼女の足元にある『何か』に

 

丁度頭の大きさほどの『何か』に

 

「宿敵たる貴女と貴女の部下達に敬意を表して…そうね、ここで見逃してあげてもいいと思うのだけど」

「ぬわんですって!?」

 

余裕綽々にふふんと鼻を鳴らす華琳に麗羽の声が上擦る

二人の当主を余所に比呂の脳裏に一瞬、彼の幼馴染の事が過った

 

「そこで相談なのだけど…」

 

だが違う…あれは違う

 

「見逃してあげる代わりに『それ』私に頂戴」

 

彼女の指先は真直ぐに彼へと向けられていた

 

「私『それ』が欲しいの…勿論只とは言わないわ」

 

あれは…悠じゃない

 

「『これ』も返してあげる…もう『要らない』から」

 

コツンと彼女のつま先が触れ一瞬の静寂の後に土煙が舞った

 

挑発にもならん、そんな紛い物で

 

短い息を吐き、首を振る比呂の姿に華琳は満足気に頷いた

 

そうね

だって貴方じゃないもの

 

貴方が乗ってこない事は重々承知の上だもの

 

でも

 

貴方気づいていないでしょう?

貴方も『彼』も

 

比呂がその挑発の意味を理解したとき

既に全てが遅すぎたのだと理解した

 

彼の傍にいた筈の馬の嘶きと遠ざかる蹄の音

その視線の先

 

「斗詩!よせ!」

 

彼の叫び声が届くよりも先に

 

名を呼ばれた彼女は城門へと向けられていた破城鎚に金光鉄槌を振りぬいていた

 

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つづく

 

お久しぶりです&初めての人は初めまして

 

データが吹っ飛んで新たにああでもないこうでもないと書いたり消したりサボったりしているうちにこんなに時間が経ってしまいました。

 

今更な気もするのですが最後の投稿からかなりの時間がたっているにも関わらずコメントしていただいて放置という事も出来ず、またまた投稿しちゃいました。

 

相変わらずの駄文&気まぐれ半分な投稿ではありますが

 

おつきあい頂ければ幸いです。

 

それでは

説明
GW中に二回は更新したい(汗
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3325 2968 12
コメント
thule様、コメントいただきありがとうございます。とりあえずブーム去ったとしたならのんびり更新の言い訳には丁度いいかとw(ねこじゃらし)
(o;TωT)o"ビクッ HDがクラッシュしている間に更新されていた(涙 最近恋姫SSは少なくなりましたからねこじゃらし様の良質なSSは貴重ですね〜(thule)
ぽぽろン様、コメントいただきありがとうございます。はい、すんげー今更ですがご容赦ください。(ねこじゃらし)
二郎刀様、コメントいただきありがとうございます。マジです。頑張って更新します。…ゆっくりですが(ねこじゃらし)
更新されていた・・・だと? 残像か? いや、本物だった!(ぽぽろン)
まじですかwww更新歓喜ですwww(二郎刀)
タグ
麗羽 比呂 真・恋姫†無双 

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