機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 失われた記憶を追い求める白き騎士
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これは、アーモリーワンにてガンダム三機の強奪事件が勃発する丁度前日に、実際に起きた出来事である。

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プトレマイオスとミネルバの進水式まで残り二日を切ったプトレマイオスクルーは、アーモリーワンのとあるレストランを訪れていた。

聞いた話によると、艦内生活では何時何が起こるかわからないし、即座に補給が出来ないということからこうして出航前はなるべく美味い食事にありつついておこうというのが、連合、ザフト両軍共通のスタイルらしい。

というかそれは海でも宇宙でも同じみたいだ。

 

メニューは、ハイネがオススメフルコースディナーを勝手に注文したのでどんな料理があるのか一目すら出来ずにいた。刹那なんて玩具を取り上げられた子供みたいにしょげてた。そういえば刹那って料理がすごく上手で趣味にしてたんだっけ。

 

「待ってました!」

 

「こりゃ楽しみだな」

 

しばらくしてヨウランとハイネ出された食事に歓声を上げた。次々と料理がテーブルに広げられていく中、最後に私の前に料理の載せられた皿が置かれる。

 

「いただきま……っ!?」

 

しかし、皿に盛りつけられていた料理を見た途端、私は思わず絶句してしまった。

 

(まさか……そんなことって……!?)

 

プラントというスペースコロニーの存在上、アカデミーでも日常でも滅多にお目にかかれなかったから完全に油断してしまっていた。

というか実物を見るのも実に二年振りだ。

オーブを出てから初めて目撃してしまった皿の上の紫色をした丸みを持ちながらつやつやとした光沢を放ちつつ、中には吐き気のするグニャグニャの実と透明の液体を隠しているアンチクショウと、ウニウニした食感を持った白い円盤型の生物が、私を挑発するかのように睨んでいた。

私の十六年前からの人生で一生相容れないであろう永遠のライバル。不倶戴天の敵たちが、皿の上から私を嘲笑っていた。

 

「おっ、うまいなこれ」

 

まずショーンが紫色のアンチクショウを口に運ぶ。

 

「どれどれ……あ〜懐かしい。ガキの頃に親父によく食わせてもらってたわ」

 

続いてデイルが円盤型の生物をしっかりと味わう。

 

「確かに美味いな……レシピが欲しい」

 

「お前は料理人じゃねぇだろ」

 

「ギルも誘うべきだったか……」

 

「メイリン、これ美味しいわよ?」

 

「ほんと?じゃ私も……あ、ほんとだ!これすごくおいしい!!」

 

刹那が、ハイネが、レイが、ルナマリアが、メイリンが、その他のみんながみんな揃って紫色の物体と円盤型の生物を美味しそうに口に運び、胃袋に詰め込んでいく。私には正直言って信じられない光景だった。

こんなものがおいしい?そんなことが言える彼らに、私は心底彼らの神経を疑った。

 

「?どうしたんだシン」

 

いつまでたっても食事に手をつけないでいる私に気が付いた刹那が不審に思って声をかけてきた。

はっきり言って、みんなには話したくない。

だけどこのままではオーブの時の青い翼の悪魔の次に憎い紫色の悪魔の性でせっかくの食事にありつけない。

気が付いたときには、みんなの視線が一斉に私を見ていた。

今ここで素直に言ってしまえば、私の数少ない(本人の思いこみ)弱点をみんなの前でばらしてしまうことになる。

 

刹那、レイ、ヴィーノ、艦長辺りだけだったら口が堅いし優しいから話してもよかっただろう。けれどもここには人間スピーカーのヨウラン、からかいマシーン一号の誤射マリアに二号のハイネもいる。たぶん言ってしまえば一生ネタにされるだろう。(━━副長?そもそもそんな人いたっけ?)

だが、言わなければ満足に食事にありつくこともできやしない。

 

「シン、具合でも悪いのか……?」

 

心配そうに顔をのぞき込んでくる刹那。出来れば彼に心配をかけたくないと考えた私は、決心して口を開くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━私、ナスと貝類が嫌いなんだ。あときのこ類と酸っぱいもの全般も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いたみんなが、ポカンとした顔になる。

 

「ぶっ!おまっ、ナスと貝類嫌いっておま……ぷくくく━━あひゃひゃひゃフォンドゥヴァオウ!?」

 

最初に笑いを堪えきれなくなったヨウランの笑い声が食堂に響き渡りかけようとしたその直後に、刹那の裏拳がヨウランの顔面に直撃した。刹那なりのフォローなんだろうけど━━━ってなんか真剣な顔つきになってる……なんで?

 

「ちょっ!ストップストップっ……ウププ」

 

「ヨウラン……そろそろ……うるさい……わよ……フフフ」

 

「……クッ」

 

他のみんななんてこんなに笑ってるのに……レイなんて必死に堪えようとしているけど肩が若干震えているのがわかる。

 

「シン」

 

刹那の真剣な目が私を射抜く。

 

「は、はい……」

 

「人間、誰だって好き嫌いは大なり小なりあるものだ。それは仕方のないことなのかもしれない。だが俺たちは軍人だ。嫌いだから食べたくない、なんてのは軍人において致命的だ。この際だからここで全部とはいかなくても一つか二つは直してみたらどうだ?」

 

刹那……すごく良いことを言ってくれているのは有り難いんだけど……すぐ後ろでハイネが顔をひきつらせているせいで色々と台無しになってる。

と、そこでふと私の頭に名案が浮かんだ。

 

「あっ、そうだ。ねえ刹那?」

 

「ん?」

 

「男の子ってさ、女の子から『はい、あ〜ん』ってされると嬉しいんだよね?」

 

情報源がヨウランなので信頼性は少し低いけど、もしそうなら私にも逃げ道ぐらいはある!

 

「……まあ、普通ならよほどの限り嫌がったりはしないと思うけど」

 

「じゃ、じゃあさ……」

 

言うとすぐさま皿の上に載っかっているナスにフォークをぶすりと突き刺して、刹那に差し出して、

 

「は、はい……あ〜ん」

 

「…………シン」

 

やばい。ちょっと刹那がお母さんモードになりつつある。

ちなみにお母さんモードとはレイが命名したもので、記憶を失う前は家事全般スキルが凄まじかったのであろう━━好き嫌いに厳しかったり、食べ残しを許さなかったり、他にも掃除や選択を丁寧に済ませるときの刹那のことを指している。

 

「つ、次から!次からはちゃんと食べるから!デュランダル議長に誓ってでも約束するから……ね?」

 

以前ルナに教えられたとおりに首を傾げてみる。ルナ曰く、これで折れない男はホモ以外ありえない。とのことらしいが果たして刹那は……

 

「…………はあ、次出たらちゃんと食べてね?」

 

「はーい♪」

 

よしゃっ!

私は内心でガッツポーズをとった。プラントにおいてナスの生産率はかなり低い方だ。貝類はもっと低い。前者の理由は知らないが、後者はプラントに海がないからだろう。

そうして次々に私の皿の上からナスと貝類が捕食されていき、とうとう外敵が姿を消したところでようやく私は食事を開始した。

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「お待たせしました」

 

食事が一通り終わり、一息付いたところで、ウェイターさんが料理を載せた皿らしきものを持ってやってきた。あれ?フルコースはもう全部出てきたはずなんじゃ…………

 

「追加注文をされた『ナスとあさりのスパゲティ』でございます」

 

誰かがいつのまにか注文していたらしい私の嫌いなアンチクショウ共が乗っているスパゲティ。一体誰が注文したんだろう?という疑問を抱いている中でそのウェイターさんはぐるりと半周して私の隣に立つと

 

「ふえ?」

 

━━それを私の目の前においた。

 

「え?え?」

 

訳が分からない私に、隣でニコニコ微笑む優お兄さん……

 

「確か『次』出たらちゃんと食べるって言ってたよね。議長に誓ってでもとも」

 

何を言ってるいるのか一瞬わからなかった。ただ嫌いなものを刹那に押し付けたら、何故かそのあとに追加で嫌いなものを食べさせられる……つまり、

 

(は、図ったね刹那!!)

 

(坊やだからさ)

 

ハメられた!こんなことから次、なんて言うんじゃなかったよ!!

 

「ぐうぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

小動物が無理にうなり声をあげてるかのように威嚇する私だが、無論そんなものは刹那に通用するはずもない。

 

「はあ……しょうがないな」

 

そう言って刹那は大嫌いなアンチクショウ共を乗せたスパゲティの皿を自分のところに引き寄せた。

おお!さすがはトレミーの優お兄さん。なんだかんだで優しくてして━━

 

「ほれ、あーん」

 

━━くれませんでした。

 

「う……ぁぁ………」

 

ポタポタと滴り落ちる黒光りしたナスの果汁。スパゲティ込みとはいえ、やはり私にあれを受け止めることはできない。

 

「シン。いつまでもそうやって逃げてばかりじゃ、克服出来るものも克服できないよ」

 

「しょ、しょうがないじゃん。私のナスと貝類ときのこ類と酸っぱいもの全般嫌いはルナの誤射並の呪いなんだんから」

 

「なにさらっと私を使ってんのよ!」

 

些細な犠牲は何時だって必要なんだよルナ。

 

「いや、好き嫌いはルナマリアの誤射と違ってちゃんと克服できるからな?シンは単にしないだけでしょう?」

 

「さりげなく私罵倒された!?」

 

「気にするなルナマリア。俺は気にしない」

 

私が気にするのよーっ!っと、店内で叫ぶルナマリアが営業妨害だと艦長に注意される。

 

「んふ……っ、ちゅぢゅ。ん……ッふぁ、んちゅっ、ちゅ、れちゅううっ、ぢゅちゅっ」

 

中でウニョウニョとした食感が口内を犯し、透明の汁が広がっていく。

途中、我慢できなくなって汁を少々吐き出してしまったりしたせいで口元はベトベトしている。それでもどうにかしてナスを胃袋に落とし込んだ。

頑張ったシンに、刹那はそっと頭を撫でてやる。これ以降、ナス、貝類、きのこ類等はシンの克服のために当分はプトレマイオスの食事に出されたとか━━

 

※なお、卑猥な表現だと思ったものはビームマグナムお見舞いするから表でなさい。

 

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IS学園の1年1組。教室の外からは賑わう女子でごった返しているのに、その教室だけはその世界から切り離されたかのように、ポニーテールの少女が頬杖をつきながら、孤立した空間を保ち続けている。その少女、篠ノ之 箒は不意に一番前の中央の席を見る。そこには本来あるべきこの学校唯一の男子生徒の姿はなく、その机の上に一本の花が生けてある細長い花瓶が置いてあった。

箒はこのクラス以外の織斑一夏をよく知らない人たちを見る度に「白状な奴ら」だと思っていた。

最初こそは、皆、一夏が帰らぬ事に涙を流したが、たった数日で一年一組以外の者たちの中から織斑一夏という存在が忘れ去られたかたのように、学園はいつもの活気に満ちていた。

 

(一夏)

 

箒は自分自身が許せなかった。自分の身勝手さが、この様な事態を招いたのだから。事の発端は遡ること数日前、体育祭が行われた後のことだった。

 

一夏が、突然倒れたのだ。

 

原因は不自由な環境によるストレス、それから箒たち専用機持ちたちのISを使用しての暴力にあった。

今思い返しても、自分たちの勝手な行動で彼がどれだけ傷付いてしまったのかと思うと、後悔してもしきれなかった。

その後一夏は病院に搬送。1ヶ月近くの休養が下されたのだが、ここでさらなる不幸が降り懸かった。

某国からの潜入組織が、一夏を誘拐していってしまったのだ。それから先は、IS学園や軍の力を以てしても、一夏の所在を掴むことはできなかった。

箒の奥歯がギュッと噛み締めた刹那、ガラっと勢い良くドアが開いた。

 

「篠ノ之!」

 

そこに顔を出したのは、一夏の姉、織斑千冬だった。しかし、いつものクールな彼女とは違い、少し肩で息をきらしている。

 

「……放課後、オルコットたちと職員室に来い」

「それで、何かようですか?織斑先生」

 

放課後、職員室にやってきた中国の代表候補生“鳳鈴音“は、出会い頭に千冬に尋ねた。

 

「今朝……束から、電話があった」

 

「姉さんから?」

 

「……もしかしたら、また一夏に会えるかもしてない」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

箒たちは目を見開いた。同時に、完全に冷めていた胸の鼓動が早くなる。

 

「それは……本当なのですか?」

 

イギリス代表候補生“セシリア・オルコット“が胸に手を当てて落ち着けようとしているが、嬉しさのあまりかどうしても鼓動が収まる気配がなさそうだった。だがそれは、この場にいる全員がそうであった。

 

「まだ分からん…だが、束がこんな事でくだらない冗談を言ってくるとは考えられない。きっと何かを掴んだのだろう」

 

「それで、篠ノ之博士は今どこに?」

 

今度は情報提供という文字が浮かんでいる扇子を広げたロシアの国家代表にしてIS学園生徒会長の更識楯無が普段からは想像もできない真剣な表情を浮かべていた。

 

「━━太平洋上空。かつて福音と戦ったあの場所だ」

見渡す限り広大な海の上、ソーサーの様に薄いコマ型の円盤に束はキーボードを高速で叩きながら、内心ワクワクしていた。そして、浮遊モニターの一つに二つの機影が映し出される。千冬の白式と箒の紅椿、他にISが六機だ。もちろんどの機体もIS学園側からの許可を得てからこの場に来ている。

 

「みんな早すぎだよ〜!でも、もうす

ぐ解析が終わるから待っててね!」

 

「束、一夏は?」

 

「それに関わる事だから……よしキタ!」

 

束の指が勢い良くEnterキーを押す。すると、上空……強いては宇宙から何かが降下してくるものがあった。それは黒い球体、禍々しく、シャトル一つを楽々と覆う事ができそうなくらいの大きさだ。

 

「な、何だこれは……!?」

 

異様な物体の出現に千冬が思わず雪片弐型を抜き放つ。

 

「多分、この向こう側にいっくんがいると思うよ」

 

「どう言う事なんだ、束!」

 

束が出した推測に千冬が噛みつく。

 

「コレはね、簡単に言っちゃうと時空の歪みなんだよ。この向こうはココとは別の空間に続いてる。何が原因でこんな事になっちゃったのか分かんないけど、いっくんはこの向こうにいるはずだよ」

 

「そんな、馬鹿な!」

 

非科学的出来事に箒が頭ごなしに否定するが、束はそれを縦で頷いたりはしなかった。

 

「それが嘘じゃないんだな〜」

 

ピッピッと新たに出現した空中ディスプレイを操作する束。次の瞬間、海中から突如出現した巨大なソレを見た彼女たちは、唖然としていた。

 

「こんなもの、こっちの世界には絶対にないでしょ?」

 

彼女たちが見たのは、四体の鋼鉄でできた巨人だった。人間の姿を模しているソレは、彼女たちに真実だと認めざるを得なかった。

 

「…コレに突っ込めば、一夏の所に行けるんですか?」

 

鈴が束に尋ねる。対して束はかつてセシリアにしたような邪険にあしらう態度はせずに、ごく普通に返した。

 

「うん、保証は出来ないけど……それにこの子にはもう一つだけ問題があるの」

 

「何です?」

 

「ここから先に行っちゃうとね、もう戻ってこられないかもしれないんだ」

 

「え?」

 

一同を代表して楯無が『驚愕』の扇子を広げた。

 

「ここから先は一方通行なの。だからもしかすると、私たちは全てを捨てなる覚悟が必要なの」

 

それは彼女たちにとって究極の選択だった。

アレを通れば、一夏に会えるかもしれない、だがその代償はもう二度と帰ってこられなくなる事だった。仮にもし向こうへ行けたとしても一夏に会えないかもしれない。それは殆ど博打のようなものだ。

 

(……だが、たった1%でも、一夏に会えるのなら!)

 

箒の目が決心を決めた。背後を見れば、皆が箒と同じように決意を固めた目をしていた。その後、かつて織斑一夏たちの世界にいたはずの者たちが一斉にその存在を消し去った。

あとに残るのは、赤く変色した時空の歪みだけだった。

説明
番外編
二本立てです。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1990 1920 1
コメント
ジンさんへ なら負債補正で粒子化に必要なエネルギーを切らせます。(デスティニーのように)(アインハルト)
弥凪・ストームさんへ ソースは天使な妹が大嫌いなナスを食べてるシーンなのでちょっと作者の過激補正がかかったかも(アインハルト)
粒子化の多用使用によって、常時粒子化している自分には効かない(ドヤ (ジン)
なんか表現が卑猥すぎるような(反射膜を展開しながら)・・・個人的はナスはあまり好きじゃない食えない事はなくはない。何というか修羅場になりそうですニャ〜 (弥凪・ストーム)
ジンさんへ そんなあなたにはサーシェスのバスターソードとファングで斬り刻んであげましょう。まあまだシンは刹那を兄、刹那も妹のようにしか見てないので……あとIS勢はアンチしません。みなさん反省してますので(アインハルト)
ビームマグナム?ハッ、そんなもの俺の八咫鏡の前では無力! あとは鈍感同士だと躊躇なくあ〜んをやるから周りへの被害が凄そうだな^^;あとは取り敢えずISヒロイン勢のアンチに期待^^(ジン)
REGIONさんへ あんたは俺が、落とすんだ!今日、ここでぇっ!(アインハルト)
ゲッ!目の前にビームマグナムが!だがあえて言おう!我が生涯に一片の悔いn(REGION)
biohaza-dさんへ ありがとうございます!今回はかなりgdgdでしたけどね(^_^;(アインハルト)
続きを楽しみにしてます!(biohaza-d)
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