一刀伝 番外 狂祭風花
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微かに聞こえる鳥の鳴き声に、まぶた越しに射す陽の光、そして頭の奥に感じる鈍い痛みが、ゆっくりと意識を覚醒に導いていく。

「あー、朝……か」

視界に移るのは、一年と少し前まで良く見ていた俺の部屋にある寝台の天蓋、ではなく。

それとは僅かに違う意匠の凝らされた天蓋だった。

とりあえず落ちている下着とズボンだけは身につけ、何となくここしばらくの事に思いを馳せる。

「最初に宴会やってから、さらに数日祭……いや、祭という括りでいいのか、あれは?」

そう、俺が魏に帰還した次の日から数日は、まさに国を上げてのお祭というべきものだった。

 

どうも華琳は俺が消えた事を国内に発表していたらしく、当然帰還した事も洛陽を中心とした幾つもの都市で口上&立て看板などを用いて大々的に発表される事になった。

まあ、それだけなら天の御遣いが帰ってきましためでたいね、ですんだのである。

騒ぎも俺が直接居る洛陽だけですんだだろう。

が、しかし、なにやらテンションが上がりきっていた華琳直々の命により、洛陽、長安、許昌を始めとしたの各主要都市では国の酒蔵を解放して一般市民へ酒を振舞う事になった為に状況は急加速。

 

タダ酒が飲めるとなれば当然のように人が集まる

    ↓

人が集まればそれを目当てに商人が集まる

    ↓

商人が集まれがそれを目当てに(以下略

    ↓

以下無限ループ

 

この時点で既に民衆は、仕事をほっぽり出して盛り上がる者、今がチャンスと商売に力を入れるもの、両者入り混じってのお祭状態。

その上更に、洛陽では宮殿の中庭を開放しての魏の国王(華琳)の大演説がぶちかまされたものだから堪らない。

何時の間にやら集まった万に届かんばかりの群集から発せられる、天の御使いへの万歳三唱。

ここで更に更に状況を加速させるバカが現れる。

魏国の誇るお祭女、霞だ。

皆の期待に応えなあかん! とかのたまいながら、俺を華琳の立つ壇上に突き飛ばしてくれやがったのである。

当然民衆はヒートアップ。

この辺りから老人などの身体が弱い人がぶっ倒れ始めるのだが、気にせずに北郷コールを叫び続ける民衆の群れ。

既に俺は半泣きだったが逃げ道などあるはずもなく、前回の戦争の時にすらした事の無い演説をする羽目になってしまった。

一歩踏み出すと途端に静まり返る群集を前に何を語ったのかは覚えていない。

だが最後に、天意は我と共にあり! とか叫んで、引き抜いた相州水心子兼定で天を指した覚えがある。

まあ、ここまで来れば皆も予想出来たんじゃないかと思う。

うん、更に更に更に悪乗りしたアホがいたのだ。

中庭の警備に割り当てたはずが、コッソリと壇の後に潜みやがっていた、真桜である。

何時だったか俺が話して聞かせた、戦隊ヒーローの話を覚えていたらしい。

兼定の切っ先が天を突き、俺の叫び声が消えるか消えないかの絶妙なタイミング、背後で爆発音と共に真っ白い煙が吹き上がる。

服の色に合わせたのか白い煙だったのは幸いだ、天とか竜とかから繋げて黄色い煙(黄色は古代中国では皇帝が身に纏う色である)なんて上げられた日には、斬首されても(多分俺と真桜両方)おかしくない。

え? 民衆はどうなったって? 既に叫ぶ言葉が意味をなしてなかった気がするね。

男共が興奮やらなにやらで鼻血垂らして、女達は金切り声を上げながら卒倒する。

そして男女共に絶叫する内容は意味不明な言語に成り果てた、ときたもんだ。

既に祭じゃなくてサバトなんじゃなかろうか。

実は俺と華琳が壇上から降りた後、更に×4風がパレード用の馬なんぞ用意していたのだが……。

流石にあの群衆の中に馬に乗ってとはいえ入り込むのは、俺じゃなくても身の危険を感じたのだろう、満場一致で次の日に回すという事で決着を見た。

 

その後夜になっても街は静まる気配を見せず、至る所で篝火が焚かれて三日三晩ぶっ続けの大祭へと突入していく事になる。

その間、武官は総出で警備の手伝いに奔走し、文官(華琳含む)は警備ルートの設定や人員のスケジュールの決定、怪我人の対応にとおおわらわ。

俺も目立つ服を着替えて武官と文官双方を手伝っていた為、祭の間は皆と碌に話す時間も無いという有様であった。

振舞った酒やら今回の騒動で一体幾らかかるかざっと計算した結果を見て、桂花が泡を噴きながらぶっ倒れたのを見てちょっぴり和んだというのは秘密だ。

 

 

そこまで思い返して、寝台に腰掛けて溜息を吐きながら一人ごちる。

「俺の帰還を祝う祭で俺が全く休めない、ってどういうことだよ……」

だが、口元にうっすらと笑みが浮かぶ事を止める事が出来ない。

そうだ、これが俺の日常だ。

無茶苦茶で突発的で活力に溢れている。

俺はいつもそれに翻弄されて、でもたまらなく楽しくて。

三日間城の中を駆け回りながら、ひどく充実していた事を否定する事は出来ない。

 

そう、俺はこの世界に帰ってきたのだ。

 

 

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「ん〜」

腰の辺りから漏れてくる声に、ぼんやりとしていた意識が引き戻される。

声のした方に視線を送れば、そこには緩やかにうねる金髪を広げてシーツにくるまる風の姿。

いつも頭上に鎮座まします宝ャ(ほうけい)は、昨日の内に部屋の机の上に避難済みだ。

「祭の打ち上げって事で、また宴会をやったんだったな」

先程から僅かに感じるこの頭痛はその名残りの二日酔いだ。

そしてここに風が居るわけ、というか俺が風の部屋に居る訳は、運命の導きとでも言うべきだろうか。

いや、宴会の途中で誰が俺と過ごすかのあみだくじが行われた、ってだけなんですけどね、ええ。

「むー、んー」

再度零れる声。

どうやら俺の右手が無意識のうちに風の頭を撫でていたらしい。

意識すれば、手に包まれる小振りの頭と、指の間を通る髪のスベスべとした感触が心地良い。

「むむむむむ、んにー」

と、夢中になって撫でていたら風を起こしてしまったらしい。

もそもそと起き上がってキョロキョロと周りを見回している。

シーツの隙間から肉付きの薄い身体がチラチラと覗いていて、凄く、眼福です……。

「あ……」

と、そんな風にまったりと風を見つめていると、ようやくこちらに気付いたのか、碧色に澄んだ瞳をピタリとこっちに固定してきた。

「……」

「じーっ」

「……?」

何やらこっちを見つめたまま動かない風。

とりあえず擬音を口に出すのは止めなさい。

「お兄さん、ちょっとほっぺたつねってくれませんかー」

「は? ほら」

きゅ〜、と軽く力を込めて、柔らかな頬を摘んで捻って伸ばしてやる。

「……」

「……」

余り痛くないようにしたが、痛い方が良かったのかね。

「ちゅーしてくださいー」

「はいよ」

そっと肩を抱き寄せてやり、小さく開いた唇に自分のそれを重ねる。

ちぅー

「って、さっきからいったい何なんだ?」

言われるままにしているが、何が何やら解らんのだが。

だが、今の言葉をきっかけにしたのか、キスされた唇をボンヤリとした表情で撫で回していた風の表情が、花が開くようにふんわりとほぐれて行く。

「よかったー。やっぱり夢じゃなかったんですねー」

「え?」

「昼はお兄さんと一緒に仕事して、遊んで、夜は一緒にお兄さんとちゅっちゅして。そんな夢を風は今までいっぱい、いっぱい見てきたんですよー」

まだ寝ぼけているのか、たどたどしい口調で一生懸命話す風にじんわりと胸が温かくなる。

「でも目が覚めるといつもお兄さんは居なくて、お兄さんの部屋に行っても空っぽで……」

だが、それと同時に込み上げて来る罪悪感。

帰還してから見せられる彼女達の喜びは、返してみればこの俺北郷一刀が彼女達に与えた傷の深さに他ならないのだから。

「大丈夫、もう俺は何処にも行かないし、これからずっと側に居るから」

そっと抱きしめて、背中を撫でながら囁いてやる。

「本当ですか?」

ジッとこちらの目を覗き込む風と視線を合わせ、

「ああ」

と一言強く答える。

「ん、じゃあ、もう一回ちゅーしてください。今度はさっきよりも長くがいいです」

「そうだな、今度はもっと、ゆっくりと……」

両手で顔をそっと挟んで、ゆっくりと顔を近づける。

「「……ん」」

 

 

その後どう過ごしたかって?

それはまた別のお話。

 

 

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後書きという名の言い訳とか

 

今回の狂祭風花は、前書きにも書きましたが一刀伝のその後的なお話です。

なので風の出番はまだ一刀伝でありますのでご安心を。

 

ぶっちゃけ仕事+スランプで間が鬼のように空いてしまい、大変申し訳なかったです。

でも友達にスランプだぜーという事を話したら

「スランプがどうとかいう言い訳はいい、書くんだ」

と男前なお叱りを受けたので、書き進められそうなネタを肉付けしてみました。

次回も一刀伝の本編を書けるかは自信が無いですが、とにかく何か書きたいと思いますので期待しないでお待ちください。

 

一刀君の刀について

こちらについて読者の方からツッコミがあったので軽く書いておきます

軽くと言いつつ結構なっがいので、飛ばしてもなんら問題ナッシング。

 

相州水心子兼定(あいしゅうすいしんしかねさだ)

色などは本編に書いてありますのでここでは触れません。

刃文とか最初は【丁子乱れに拳型丁子】とかにしようと思ったけど俺自身そんなに詳しく無いので却下w

 

長さについてはちょいと深めに。

刀身は二尺七寸、この場合の単位は日本式なので尺=30.3cm、寸=3.03cmで81.81cmという事になります。

定寸の太刀が二尺三寸(69.69cm)前後なのでそれに比べると10cm以上長いです。

でもまあ、江戸時代の人と比べて現代人は背が高いし、グラフィックなどから見て、一刀は大体180cm位じゃ無かろうかと考えてるんで、定寸より長いくらいが丁度いいと考えてこの長さに。

 

で、ツッコミのあった名前について。

日本刀は基本的に作者名のみの物と地名とかが頭にくっついてるのがあります。

作者名のみだと虎徹とか村正が有名どころじゃないかと。

地名つきだと備前長船兼光とかが有名、なのかな?

地名じゃなくて鍛冶集団の名前が入る事もあった気がするけど、気にスンナ、俺も気にしない\(^o^)/

だんだんマニアック一直線ですが気にせず逝きます。

 

で、相州水心子兼定についてですが、相州が地名で水心子兼定が作成者というくくりになりますね。

が、これらの単語は実在のモノをモデルにしたフィクションであります。

 

相州は存在しますが、アイシュウではありません、実際はソウシュウです。

ソウシュウの場合は、相州物(そうしゅうもの)とかいって相模国の刀工の一派が鍛えた刀ですよー、って意味になります。

相州物でググると新藤五(しんとうご)国光とか出てくるよ!

 

で、次は水心子兼定。

これは水心子と兼定は別々の人から名前をお借りしました。

水心子は、江戸時代の人で、

見た目ばっかの今の刀より鎌倉時代とかの実戦刀作ろーぜ!

って言い出した水心子正秀から拝借。

兼定は室町時代の美濃国の刀工、和泉守兼定より。

 

単純に好きだという理由で、名前に水心子使いたいなーって決めた後、語感で前と後ろをくっつけたというのが実際の所ですね。

水心子正秀だと日本刀の名前として馴染みも無いですし。

文の流れ的に省略して呼ぶ際にも、兼定なら日本刀として違和感無い、はず。

 

 

説明
今回は一刀伝のその後、というかおまけ的なお話です。
スランプはまって本編なかなか進まなかったんだ。
ごめんなさい orz

タイトルの狂祭風花は内容に沿って適当にでっち上げたものですたい。
実際には存在しないし、深い意味も無いんだぜー。
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コメント
オレサマ、フッカツ、キタイ(イムカ)
復活お待ちしております(ガルーダ)
復活待ってます・・・(きの)
更新、楽しみにしています!(ヴァッシュ)
初めまして!!更新楽しみにしてますねww(悪来)
風が幸せそうで本当に良かった。あみだは、自分が勝つように細工したんでしょうか?まぁ風が幸せならどっちでもいいですけどねwww(ブックマン)
出張して言う間に。。。でおくれーた(水質測量班員)
>>京 司さん、にやりとして貰えたなら幸いです。そして本当に待ってくれてる人には申し訳ないんですが、書けない時は頑張っても書けないのが悲しいところですよね。その上そういうときに無理して書くと面白くないし。結局気楽に書くときが一番いいものが書けるし、気楽に頑張りますw(三国堂)
こういう、コメディというかなんというか……ひとを笑わせたり、「にやり」させたりできる話が書けるのがすごいなーと思いました。待ってくれてる人には悪いですけど、出てくるときになれば出てくるさ!って気楽にいきましょw(京 司)
>>Poussiereさん、飲み屋で今日の飲み代は俺の奢りさ! ってやると客がヒャッハーするじゃない。それを都市の規模でやったら魏の皆さんがステッキーな事にw 一刀への愛? たぶん洛陽辺りだと野良猫にも完備されてると思うよ!(三国堂)
>>YUJIさん、一見無責任に言い返してるだけなのに真理を突いてる。悔しい! 書いちゃう(ビクンビクン という経緯で書かれたのがこのSSさ! 脱スランプ目指して頑張るぜ!(三国堂)
>>祭礼さん、風とちゅっちゅする妄想してたら、殴られるどころかサバトが発生していた。不思議!(三国堂)
>>sinさん、天の御遣い自体が宗教めいてるからあながち間違ってないですなw ちなみにボツネタだと、風提案のパレードの後帰ってきたら、ステージが役萬姉妹に乗っ取られててもっとエライ事になる予定でしたw 絶対収拾つかないんでボツッたお。(三国堂)
>>@@さん、華琳様はこの喜びを民と共有したい! と思って酒振舞っただけなんだよ! サバトったけど\(^o^)/ (三国堂)
>>G-onさん、友達に伝えときますw 番外はともかく、流石に本編は順番に公開し無いといけないのが微妙に辛いです。ネタが降って来る時は種類を選べないんだぜー。 誤字修正したのでコメントの位置ズレ(三国堂)
>>komanariさん、俺も書いてて財政心配したけど無視したお(^^)b でも華琳が同盟じゃなくて呉と蜀を属国にしてれば、朝貢とかで財政ウッハウハなのに、とか思った俺は汚れてる。(三国堂)
>>タタリ大佐さん、特に書かない時間が続くと、ネタが出ない&執筆力下がるのダブルパンチですからね。とりあえず何か妄想でもいいから書かないと。この作品なんか、寝ぼけた風に頬っぺた抓って&ちゅーしてって言わせたい為だけに書いたようなモンですw(三国堂)
>>nokakakiさん、友達がコメント欄で大人気過ぎて俺嫉妬中\(^o^)/ (三国堂)
>>混沌さん、実はTINAMIには作品に年齢制限があるんだぜ。その上まだシステムが未完成で、15禁以上のくくりを投稿時に選べないのさ!(言い訳だと思っても言わない優しさを期待する今日この頃(三国堂)
>>ぬこさん、沖田総司ですね、わかります。でも別名の乞食清光って色々と凄い名前ですよね。あとあんま関係ないけど、新撰組では永倉新八が好きだったりする。(三国堂)
>>フィルさん、遅くなりましたがただいまですw 妄想がチャージ出来たものから頑張って書いてきます!(三国堂)
>>totoさん、(゚-^)b これからも頑張るッス!(三国堂)
友達GJ!としか言えないwww そのお友達をぜひ兄貴とよb(ry)  魏の皆盛り上げすぎだと思うけど、やはりそれだけ一刀の事を愛していると分かる作品でとても良かったです^^w 次はもっともっとあんなことやこんなことを・・・・w 次に出る作品が愉しみです^^w(Poussiere)
うらやましい友がいますねww 次も頑張ってください!!!(YUJI)
風ー 可愛いよ風ー(殴 (祭礼)
これなんていう宗教演説ww(sin)
あぁ、そんなお祭りしたら国の財政が・・・なんて考えるのはなしですねwwとてもカッコいいお友達と作者様に感謝を。続編&本編をお待ちしております。(komanari)
悩むより書いた方が案外良かったりするんですよね、スランプって。しかし、凄まじい祭りだ……(タタリ大佐)
男らしい友達ですな(*^-^)b 別のお話ってことは……風とのあんなこと≠竍こんなこと≠事細かに書くんですね!期待して待ってます!w(マテコラ) 本編も続編≠煌待して待ってますw(ダカラマテコラ)(混沌)
素敵なお友達をお持ちですね。自分としては『加州金沢住長兵衛藤原清光』の反り具合が素敵だと思います。(ぬこ)
友達GJ! お帰りなさいw 次回作も期待して待ってます、頑張ってくださいw(フィル)
お友達GJ、と言わざるを得ない。時系列順でなくてもいいので書けるところから書いてもいいと思います(G-on)
・・・・よし(・・b これからもがんばってください^^(toto)
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