暗い夜の荒野に一人佇み、朝を待つ。
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・・・思えば、そんな風に歩いてきた。

 

幼少の頃、私はいじめにあった。なんてことはない理由で、私はいじめられた。

 

学校でも陰口や暴力を振るわれ、仲間外れなんて毎日のことだった。同級生だけならいい。見ず知らずの上級生、

 

顔も知らない下級生からも苛められる毎日。そんなのが毎日、毎日飽きもせず続けられる。

 

心が弱い子なら家に隠れていればよかったかもしれない。部屋に閉じこもって不幸に嘆いていれば良かったのかもしれない。私にはそれすらできなかった。家庭内暴力。父親からの差別がそこにあった。

 

 

「本当に地獄だった。家に帰れば父親に怯え、家を出れば人に怯える」

 

そんな人間にはどこが安住の地すらわからない。猛獣がひしめく荒野に一人佇み草を褥に震えて眠った。

 

 

「・・・ああ、神様。何故?私にこんな試練を課すのです?」

 

父親の暴力は日増しに苛烈になっていく。家に帰るのが怖くて外に出ていることが多くなる。

 

そこでいじめられ・・・身体や心が摩耗していく。

 

 

・・・死ぬしかない。

 

少女はそう思った。死ぬしかない。死んでこの世にさよならを言おう。

 

死んで世の中を呪い、親を呪い、神を呪い、死んでやろう。そう少女は誰もいない公園の木にロープをかけた。

 

 

―首吊り自殺。

 

 

少女は嗤う。一番苦しい死に方で死んでやろう。

 

誰も助けてくれはしなかったのだ。だったら・・・少女は泣きながら叫んだ。

 

誰も聞いてくれない世界や、親や、神にむかって泣き叫んでその非道を呪いながら惨めに惨たらしく死んでやろう。

 

それこそが自分にできる唯一の世界に対する復讐なのだ。

 

私は死んでやる。・・・ざまぁあみろ。そして、少女は自らの生を投げ捨てた。

 

 

 

・・・気がついたらすっぽりと首に巻いた縄は取れていた。

 

縄跳びのゴムで作った絞首刑・・・ゴムはちぎれて落ちていた。

 

 

・・・投げ捨てた生は崖下で受身をとって。少女は雄々しく立ち上がった。

 

世界は何も変わっていない。死ぬ前と、何も変わっていない。「地獄」は未だおわっていない。

 

 

しかし、少女は「闘う覚悟」を決めた。

 

黒髪をなびかせ少女は立ちあがる。前を向いた。

 

 

暗い夜の荒野に一人佇み、朝を待つ。

 

寝込みを襲う猛獣に少女はその喉笛を掴み地に押し倒す。

 

 

少女は地獄を歩いてきた。いじめる者と徹底抗戦しその全てを粉砕。ときに戦略を駆使し敵を追い詰める。

 

シャーウッドのロビンフッド。いじめる者に復讐するだけではなく同じ境遇の者を助けて回る。

 

 

・・・少女の地獄は終わっていないが少女はもう助けを願わなかった。

 

父親に酒瓶で殴られたときも、血まみれで失神した時も父親もまた弱い人間であると知っていた。

 

 

襲いかからねば弱い自分を保てないのだ。酒に飲まれなければ意を上げることもできないのだ。

 

 

少女の人間という尊厳をかけたたった一人の戦いは・・・父と絶縁することで終りを迎えた。

 

 

「私は・・・あの人がかわいそうな人だと知っています。でも、私は人間、女神にはなれません」

 

 

少女が生きるために磨いた体術は「プロレス」に昇華した。

 

少女が強くあらんと鍛えた心は誰にも屈しない鋼の意志となった。

 

そして・・・少女はリングにあがる。それは少女が生きた、そして今を生きる証なのだから。

 

 

                                            

『リングにあがる少女 プロローグ』

説明
これは少女の物語。
桜庭愛と呼ばれる一人の少女が選んだ道。

ーその道は想像を絶する『地獄』そのものだった―。

それでも少女は闘い続ける。これはそんな少女の生きた証。
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