真・恋姫†夢想〜世界樹の史〜第三章・枯れ木崩し編
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第W話『圧縮と成長』

 

 

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「すまん!!」

 

美羽の部屋。

そこに集まった七乃や雷薄に向け、一刀が頭を下げていた。

 

美羽「ふぉっ?!

   あ、兄様?ど、どうかしたのかえ?」

 

七乃「頭を上げてください!

   何かあったんですか?」

 

一刀「…」

 

美羽「兄様?」

 

顔を上げると、バツの悪そうな顔をする。

 

一刀「少しの間、君らの元を離れるよ。」

 

「「「 ?! 」」」

 

一刀「確かめたいことがあるんだ。」

 

そう言って彼が城を離れてから、数日が経過していた。

 

 

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−−−洛陽−−−

 

人で賑わう城下町の中、その男は居た。

白い服を荷袋にしまい、農民のような格好で街を歩いている。

 

ふとした違和感を感じ、街を見渡す。

 

一刀「…ん?この時期の洛陽って、こんなに安定してたっけ?」

 

幾分の廃れも見受けられるのだが、想像よりも街は整然としていた。

 

やがて城へと辿り着くと、

王宮の周りをぐるりと巡り、警備の薄い箇所の塀を飛び越え進入する。

静まり返る城内で、柱を伝い屋根裏から気配を消してそっと伺う。

 

玉座の間。

 

覗きこむと、そこには信じられない光景があった。

 

何進「趙忠、城下の治安改善を徹底しなさい。

   十常侍の名の通り、これだけの人数が居てこの有り様はなんです?」

 

趙忠「は、ははっ!

   しかし…今は町民などのことよりも」

何進「これは陛下のお言葉です。」

 

趙忠「は、ははぁっ!」

 

一刀「(…この世界だと何進は肉屋じゃないのか。

   でも何でだろう?外史に影響を及ぼせるのは異物である俺だけのはずだけど…。)」

 

それに、もう一つ危惧することがあった。

この状況を見るに、歴史の通りなら何進は十常侍によって殺されるだろう。

 

  蘭「では、今度是非お邪魔させていただきますね?」

 

  何進「っ〜〜〜〜〜!!!

     有り難うございます!!」

 

  時暮「…目がお金になってますよ?」

 

  何進「はっ!!いけないいけない…てへへっ」

 

一刀「(それだけはさせない。絶対に。)」

 

皇甫嵩「がっはっは、何進殿は弁が立つな!あのボケ趙忠を一言で黙らせるとは!」

 

朱儁「あなた、お声が大きいわ。」

 

一刀「(厳さん?!朱儁さんまで!)」

 

前の外史では、皇甫嵩は長安の暗い牢に。朱儁は長安の端にある農村まで逃げ落ちていた。

だが、この世界では二人は無事のようだった。

 

一刀「(この世界…一体何がどうなって)」

???「動くな下郎。」

一刀「っ?!

   (しまった…!クソ、油断した!)」

 

ふいに背後から首もとへ小刀を突きつけられる。

 

???「振り向かずに答えろ。貴様は誰の手のものだ?」

一刀「…。」

???「答えないのなら…」

一刀「っ!!」

 

瞬間、手を引き寄せるように捻じり、そのまま背負い投げる。

???「かはっ…!」

暗がりの中、その顔を確認すると…

一刀「心?!」

心「なっ…!貴様、私の真名を!!」

一刀「(うわやべっ!)

   す、すまない!だけど・・・あぁ!もうわけわかんねぇ!」

心「殺す!!」

一刀「悪かったってば!

   とにかく、今日のところは逃げるから!お詫びはまた今度ってことで!」 

心「逃すか!!」

 

背を向け駆け出す一刀に何本ものクナイを放つ。

それを何事もなかったようにするりと避ける一刀。

 

心「えっ…そんな!」

 

ありえない。この至近距離、それも背を向けた状況で全てを避けてみせる男。

 

男の姿が見えなくなると、屋根裏からスッと玉座へ下りる心。

 

???「何事ですか?」

 

玉座には一人の少女がとっかりと腰を下ろしていた。

 

心「はっ…賊の侵入に遭いましたが、逃げられてしまいました。」

 

???「…心さんが取り逃したのですか?」

 

心「申し訳ございません。

  …アレはかなりの手練でした。」

 

???「心さんでダメなら仕方ありません。」

 

心「恐れいります、花蘭様。」

 

花蘭と呼ばれた少女は、いつか一刀が買ってあげた真っ白なワンピースに身を包み、

足元には美しい『剣』と『盾』が立てかけられていた。

 

彼女はふいに微笑み、遠くをぼんやりと見据えそっと呟く。

 

花蘭「…また、ね。」

 

一度目をつぶると、ゆっくりと息をつく。

 

花蘭「大丈夫。

   私はきっと、貴方に追いついてみせるから。」

 

彼女はすっと立ち上がると、拳をぎゅっと握り、

地に手を付き頭を下げる皆に号令を発する。

 

十常侍の粛清、そしてそれに与する者の殲滅。

天下泰平の第一歩を。

 

 

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Another View 〜花蘭〜

 

ほんの数日前まで、私は泣き虫だった。

いつだってお母様に守られ、周りの全てに怯えていたように思う。

 

十常侍や李儒の悪意に踊らされ、この国の衰退にすら目を向けられないほどに、

私はただただ弱かった。

 

ある日のこと、私は夜空を見上げる。

 

「強くなりたい…。」

 

星にそう語りかける。

すると、夜空に一筋の光が流れた。

 

遥か遠方へ落ちゆく光の1片が私の元へひらりと舞い降り私を包む。

 

眩く暖かな光が収まると、私の手には美しい剣と盾があった。

 

どうすれば良いのか、わかる。

 

剣なんて扱えない。でも、わかる。

 

ただ弱い私は、ただ貴方の真似をすればいい。

 

貴方の後ろを雛鳥のようにくっついていた私なら、きっと出来る!

 

いつの間にか着ていた真っ白な服。いつか買って貰った贈り物。

 

その翌日、玉座で私は宣言した。

 

「私が天の御遣いだ!」と。

 

 

Another View END

 

 

 

 

 

 

 

〜外史の間〜

 

暗がりに身をやつし、その者達は木々を眺めていた。

 

貂蝉「…きっとこれは無意識ね。」

 

左慈「あぁ、奴はこれを繰り返してたってわけだ。」

 

于吉「『先ほど』縛をかけた外史が綺麗さっぱり無くなっていたのでどういう事かと思いましたが…。

   なるほど、『圧縮』していたんですね。」

 

荘周「そう。

   それが今の彼の能力よ。」

 

左慈「無茶苦茶だな。」

 

于吉「えぇ、本当に。

   荘周さんが成長という能力を与え、それを圧縮してひたすら繰り返す。

   常人ならとっくに…あぁ、そういえばもう既に一度消えてたんでした。」

 

貂蝉「そうね。

   ただ、その時のご主人様は正史の人間として、圧縮する術もなく力を得ていたわ。

   だから耐え切れずにあんなことになってしまった…。」

 

左慈「性懲りもなく外史で生まれ変わって、今度はそれに耐えうる力を得たわけか。

   …化け物め。」

 

于吉「…何度殺っても勝てないわけです。ふふっ。」

 

ぼんやりと木々を眺めていた少女は、樹の幹にそっと手を伸ばした。

 

左慈「どうする気だ?」

 

その声に振り向いた少女の目は、力強い光を携えていた。

一同はたじろぐ。

果たして少女のこんな目を、自分たちは見たことがあっただろうか。

 

貂蝉「…行くの?」

 

諦めたようなため息。

 

荘周「うん。」

 

貂蝉「もう貴女は力を失っているのよ?」

 

荘周「わかってる。」

 

于吉「…生身すら保てませんよ?」

 

荘周「うん。

   でも、行かなきゃ。ううん、行きたい!」

 

貂蝉「…そう。

   わかったわ。」

 

于吉「宜しいのですか?」

 

貂蝉「えぇ。

   でも、これだけは覚えておいてちょうだい。」

 

首を傾げる荘周。

 

貂蝉「私は、ご主人様だけじゃなく、貴女の帰りも待ってるからね?」

 

荘周「っ…。

   うん!!行ってきます!!」

 

葉が舞い上がり、扉を象る。

左慈と于吉が管理者権限を行使したのだ。

 

駆け出し、扉をくぐる。

 

暗闇の中、少女は落ちゆく。

 

(私は一刀とは違う。弱り切った状態で外史に落ちれば、多分無事ではすまない。)

 

手を広げる。

 

ボロリ、と指が崩れ散る。

 

やがて肘までなくなり、脚もまた徐々に崩れていく。

 

(このくらい平気。彼が…いえ、彼らがこれまでに払ってきた代償を思えば、なんてことはない!)

 

眩い光となって地上に落ちゆく頃、ついに全身が崩れ去った。

 

(私の真名は胡蝶。)

 

そこには、漆黒の羽根を持つ美しい蝶が一匹。

 

(これから私は夢を見る!この世界を飛び回り、大いに楽しむ夢を見るの!)

 

ひらりと一度旋回すると、導かれるようにある場所へと向かったのだった。

 

 

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---北海の城---

 

白い花がところ狭しと飾られた執務室。

不釣合いな無骨な机に座る一見華奢な男。

 

陶謙「…なに?」

 

文官の耳打ちに、不快の色を強く出す。

 

陶謙「あのお飾りの朝廷が息を吹き返した?」

 

文官「は、はい…李儒より早馬が。」

 

陶謙「李儒は今どこへ?」

 

文官「早馬を出した直後…捕らえられたそうであります。」

 

陶謙「…まぁ良いでしょう。

   十常侍はどう動いている?」

 

文官「それが…。

   帝の命により十常侍は撤廃。皆捕らえられたと。」

 

陶謙「なるほど、確かに帝は生き返っているねぇ。

   黄巾党どもは禁軍の皇甫嵩や諸侯の曹操らが早急に鎮圧…。

   その他の各諸侯も今だ朝廷への忠誠心は高い。」

 

文官「い、いかが致しましょうか…。これでは陶謙様のご計画が。」

 

陶謙「くくくっ…何を慌てている。」

 

文官「は?」

 

陶謙「火種はあるじゃない。

   劉家の馬鹿どもをそそのかせ。…この際だ、匈奴や烏桓どもも巻き込んで派手に行こうじゃないか。」

 

文官「…ははっ!」

 

陶謙「おい、そこの。」

 

文官「はい?」

 

陶謙「…お前じゃないよ。

   そこのソレに言ったんだ。」

 

ソレ「…。」

 

声をかけられたのは、ズルズルの道士服を身にまとい、丸型の帽子を深く被ったモノ。

頭部には御札が貼られ、ぎこちなく動くソレ。

 

陶謙「お花をアレに持って行っておやり。」

 

ソレ「…。」

 

ソレは鉢から乱雑に花を引き抜くと、まるで操られたようにゆらりゆらりと戸を抜けていった。

 

陶謙「ふふっ…。」

 

そして檄文はすぐさま飛ばされる。

西の劉焉、劉璋、中央の劉表、広大な領地と兵力を持つ者達の同盟。

そこに東の地を治める陶謙が加わったことにより、大陸は完全に二分されることになる。

 

 

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---南陽---

 

火急の知らせは各地に知れ渡り、

それは孫家が治めるここ南陽の地でも同じであった。

 

雪蓮「反王朝連合、か…帝も大変ね〜。」

 

周瑜「人事のように言っている場合か。

   異民族共も不気味な動きを見せている。」

 

陸遜「今ここで山越族が攻めてきたら厄介ですからね〜。」

 

周瑜「そうだ。

   領境では小競り合いも報告されている。決して友好関係にあるとは言えんからな。」

 

黄蓋「彼奴らは頭は回らんが戦士としては勇猛じゃからの。」

 

呂蒙「げ、現在、先の謀反の一件で、隣国の袁術軍は緊張状態にあり、

   雪蓮様との友好関係を持ってしても援軍は望めそうにありません。」

 

雪蓮「さすがに無理よね〜。」

 

孫堅「劉表の影に陶謙か…嫌な予感がするわね。」

 

 

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---洛陽から南へ数里離れた森---

 

一刀「…ふぅ、追っ手は無し、かな?」

 

先日の洛陽侵入後、街を出てすぐに服を着替え、

けもの道から外れた森のなかを進んでいた。

 

許昌の東に差し掛かった頃、森のあちこちに戦の跡が残っていた。

槍や旗、馬の死骸、折れた木材。

残骸の物資を見るに、曹操軍の物が混じっている。

旗印は『曹』に『夏』。

 

(曹操の戦の跡にしては…なんというか不自然だな。

それに、あの曹孟徳のことだ。

余程の急な遭遇戦でもなければ、こんな不安定は環境で野戦なんかしないはず。

そもそも程cや荀ケがそれを想定しないはずがない。

この焦げた木片は松明の跡だと思うけど…夜襲なんて以ての外じゃないか。)

 

刃が刺さったままの木を見つけ、じっと観察する。

周りの木々も同様に調べていくと、変わった形の鏃を見つける。

 

(これは…。

たしか匈奴がこんな奴を使ってた気がするけど…。)

 

黄巾党討伐で名を挙げ、少々疲弊したこの時期に匈奴を攻めた?

一体何のために?

記憶では、匈奴という賊とはある程度うまく距離をとれていた。

曹操軍に対して、匈奴も好戦的ではない。

そして、くまなく探してやっと見つけたほどに、匈奴側の応戦の跡はあまり確認できない。、

それをふまえて推理推測すると、匈奴は最初から後退して逃げていたようだ。

 

一刀「…まぁ、一番不自然なのは、

   夏侯惇が暴れてたのに、この辺の木がほとんど無事ってことだな。あははっ。

   …ん?」

 

5メートルほど先に落ちている少し焦げたような木片。

その下に、キラリと光る何かがあった。

拾い上げてみると、それは真っ赤に煌めく綺麗な石を装飾したイヤリングのようなものがあった。

 

一刀「何だこれ?」

 

その時、遠くの方から人の動く気配がする。

数は100ほどだろうか。

結構な人数がこちらへ近づいてくるようだ。

 

やがてその姿が見えると、匈奴族の兵たちが現れた。

その中から、一人の初老の男が前へ進みでる。

どうやらこの男が隊長のようだ。

 

匈奴「そこのお前、このようなところで何をしている。」

 

一刀「…え〜っと…」

 

匈奴「…答えぬか。」

 

男は片腕を上げる。

匈奴の兵隊たちは一斉に弓を構え、一刀に狙いを定めた。

 

???「やめなさいお前たち!」

 

凛とした声が響いた。

兵たちは弓をおろし、声の主のために道を開いた。

 

匈奴「姫様、危のうございます。」

 

???「ご心配はいりません。」

 

やがて姿が見えると、白と緑を基調とした服に身を纏った、可憐な少女が現れた。

匈奴特有の尖った耳に、真っ白な肌。青く色味がかった瞳。

声の主は優雅に頭を下げると、一刀を見やった。

 

???「…羊?、ご安心なさい。私の弦が振れておりません。

    

    大変失礼いたしました。

    私は匈奴を束ねております、蔡文姫というもの。」

 

一刀「これはご丁寧に…。

   俺は揚州の北郷一刀。州牧である袁術の兄です。」

 

???「まぁ…そのような方が何故こんな所に?」

 

一刀「城に帰る途中でね。

   ちょっと訳あってこっそり帰らないといけないんだ。」

 

???「左様で御座いましたか。

    先日私共の村が襲われ、皆気が立っておったようです。

    どうかお許し下さい。」

 

一刀「平気平気。

   ところで、襲ってきたのはもしかして曹操軍?」

 

匈奴「何故それを?」

 

男の眉が少し釣り上がる。

 

一刀「旗が落ちてたからね。

   それに…彼女らとはちょっとした縁があって」

 

蔡文姫「…彼女?

    羊?、襲ってきた敵の頭は男性では無かったですか?」

 

羊?「はっ、紛うこと無く男でございました。」

 

一刀「…金髪の少女や大剣を持った黒髪の子は居なかった?」

 

羊?「我ら匈奴は夜目が利きますが…そのような物はおりませんでした。

   規模も100人程の少数で」

一刀「…やっぱりオカシイな。」

 

蔡文姫「オカシイ、とは?」

 

一刀は先ほど感じた戦場跡の違和感や、それに基づいた推測を事細かに説明してみせた。

 

羊?「ふむ…姫様、確かにそれならば辻褄が合いますな。」

 

蔡文姫「えぇ、そうですね。」

 

そう言うと、姫君は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 

一刀「ん?なになに?

   …月夜に浮かぶ夏草も、水面に映る貴女の横顔には…って何だこれ。」

 

覗きこむと、そこにはロマンチックな言葉の羅列。

要約すると、「貴女とっても綺麗で私の好みだわ。今度私と一緒にお茶でもしましょう。もちろん、閨も大歓迎。」

こんな感じだった。

つまるところ、ラブレターである。

この時代では大変貴重な羊皮紙を何枚も使って書かれた恋文を、困った顔で懐へしまう姫君。

 

蔡文姫「やはり曹操様は女性だったのですね…。なんとなく違和感があったのです。ふふふっ。

    この恋文ももうこれで10度目になりますし…。

    それに、先日の彼らは『曹操様の命により匈奴を殺せ!』と叫び襲ってきました。」

 

羊?「その前には劉表と名乗るものから反王朝の檄文が届いております。」

 

一刀「…は?」

 

そこで一刀は知る事となる。

劉宏が退き、即位した劉弁の力による漢王朝の復権。

十常侍は廃止され、隣国の董卓を相国へ任じ、宰相には賈?、何進らを招いた事を。

それにより北方の地盤は万全のものとなり、天に漢の力を今一度知らしめたのであった。

 

だが、事を急いだ政策に、その他諸侯は黙っていなかった。

特に粛清されることを恐れた劉表は、

劉弁こそ真の逆賊!暴君に漢を乗っ取らせるわけにはいかん!と反王朝の王を自称。

 

現在、大陸は北と南に分断され、互いに睨みを効かせているという。

 

一刀「なんてこった…。」

 

羊?「我らはあまり外界に顔を出さぬが…その我らにまで伝わっておる。

   外界はそれほどまでにざわついておるのだろう。」

 

一刀「…あ、そうだ。

   そういえば、あなた達はなぜここに?先日の調査か何かかい?」

 

蔡文姫「それもあるのですが…。」

 

そう言うと、少し目を伏せる。

 

蔡文姫「先日退却する際に、大事な耳飾りを失くしてしまい…。

    あれが無いと我ら一族が途絶えてしまうかもしれぬのです。」

 

一刀「一族が途絶える…?

   あっ!ひょっとしたら耳飾りってコレのこと?」

 

そう言うと、先ほどのイヤリングをポケットから取り出す。

 

羊?「なんと!!」

蔡文姫「まぁ…!」

 

匈奴の者達がどよめく。

 

一刀「そういえば君が片耳に付けてる青いやつと同じだね。」

 

蔡文姫「…///」

 

一刀「??

   どうしたの?」

 

ほのかに熱のこもった潤んだ目で一刀を見つめ、ぼうっとする姫君。

 

羊?「北郷…、一刀殿…確かそうおっしゃいましたかな?北郷一刀殿!」

 

一刀「え、えぇ…そうですが。」

 

羊?「あ、あなたは…あなたは何てことをしてくれたのかね!!」

 

血走った目で詰め寄る初老の男に、気圧されてたじろぐ一刀。

 

一刀「え、っと…何か?(凄いプレッシャーだ…何か悪いことしちゃったのか?!)」

 

---瞬感

 

羊?「でかしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

一刀「…は?」

 

羊?「何だ何だお若いの!そんな大事な物を持っていたなら最初に言っておくれよ一刀きゅぅん!

   漢がどうの大陸がどうのなぞどうでもよい!!さぁ行きましょう!」

 

一刀「い、いやいや!どこへ?!」

 

羊?「結婚式に決っているだろう!!さぁ行きましょう!!今から準備すれば夕刻には間に合います!!」

 

一刀「どういう事?!」

 

匈奴の部族たちのお祭り騒ぎに戸惑っていると、細々とした声でそっと耳打ちしてくる姫君。

 

蔡文姫「あ、あのぅ…実は…私どもの『掟』で、

    姫である私の結婚相手は、片方の赤い耳飾りに触れたものとする…というしきたりがありまして…。」

 

羊?「左様!その通りですぞ!

   昨夜耳飾りを失くしたと聞いた時は、それはもう一族は我らが代で滅亡するのを覚悟したものです。」

 

一刀「いやいやいや!滅亡というのは言いすぎじゃ…。」

 

羊?「言い過ぎでは御座いませぬぞ。

   我ら匈奴は長寿のせいか…中々子が出来ぬのです。

   そして、一族の長に伝わる耳飾りは大変不思議な石で出来ておりましてな。

   その石を手に持ち、石に認められたものとしか子が出来ぬのだ。」

 

蔡文姫「っ…///」

 

一刀「石に認められる?」

 

羊?「左様。

   石に認められぬ者がそれを手に持つことは出来ぬ。

   燃え尽きてしまうからの。」

 

一刀「怖っ!!!

   ってか、君はそれで良いのか?!」

 

蔡文姫「えぇ、私は構いません。

    掟に…従います///」

 

羊?「いやはや・・・姫君の奥方様と旦那様の事を思い出しますなぁ。」

 

蔡文姫「えぇ、お母様も何度もお話してくれましたが・・・まさか全く同じ事になるなんて。うふふっ」

 

一刀「何のこと?」

 

羊?「いや何。姫君のお父上が昔、匈奴の森に迷い込んでの。

   奥方様もお散歩中に耳飾りを落としてしまい、森のなかで探しておった。

   そこへ、耳飾りを拾った旦那様が奥方様と出会われたのですな・・・お懐かしい。」

 

一刀「その方たちは今どちらに?」

 

そう聞くと、二人は目をそらす。

 

蔡文姫「もう・・・いません。」

 

一刀「あっ・・・ごめん。(そうだよな、こんな時代だし。ちょっとデリカシー無かったな。)」

 

蔡文姫「数年前、私に長を譲位する儀式があったその日の夜に・・・

    

    新婚旅行に行きました。それ以来帰ってきません。」

 

羊?「手紙は届くがな。」

 

一刀「は?」

 

蔡文姫「『やっほー!お母さんだぴょ〜ん!今お父さんと羅馬にいます!

     お父さんったら、「この口に手を入れて嘘をつくと手が食われる」なんて言って脅かすんです!

     そんなお父さんもとっても愛おしいわ♪今晩はどうやってご奉仕しようかしら♪

     そうそう!愛する人のことを「ダーリン」って言うらしいです!

     これからはお父さんの事、だーりん、って呼んじゃうぞ♪』

     

     これが先日届いたお手紙です。」

 

一刀「あ…そ、そうですか。

   っていうか!そう簡単に結婚だなんて

羊?「おや、式の準備ができたようですな。」

 

一刀「話聞いて!!ってか早いな?!」

 

いつの間に出来上がったのか、

立派な木のアーチ、落ち葉の絨毯、そしてその先にはセミダブルくらいのベッド。

 

一刀「なんでベッドだ?!」

 

羊?「べっど?とは何ですかな?当然結婚式なのだから、これらが無くては始まらん!」

 

一刀「なんて下品な一族だ!!」

 

アーチの横に、整然と居並ぶ千を超える匈奴の部族達。

 

一刀「どわあっ!なんかめっちゃ増えてるし!!

   ってあれ?あの子は?」

 

蔡文姫「…こちらです」

 

声の出処を探すと、彼女はアーチの先にあるベッドに寝そべり、薄手のネグリジェに身を包んでいた。

 

一刀「何でだーーーーーーーーーーー!!!

   この準備の良さおかしいだろ!!」

 

羊?「ささ、一刀殿もお進みくだされ。」

 

一刀「嫌だよ?!」

 

羊?「ふむ…それは弱りましたな。」

 

蔡文姫「私から行きますわ。

    …きっと、一刀様は亭主関白な方なのでしょう。」

 

匈奴「「「えっほ、えっほ、えっほ」」」

 

彼女ごとベッドを担ぎ、一刀の目の前まで運ばれる。

赤らんだ顔に潤んだ目、顔を少し隠すようにおでこに腕を乗せ寝そべった。

彼女はほんの少しだけ足を開き、スカートをたくし上げる。

 

蔡文姫「さぁ、入刀を。」

 

一刀「ぶっ!!!も、もうどうなってんだこの一族は!!」

 

羊?「さあ、一刀殿の宝刀を入刀なさいませ!」

 

一刀「ああっ、ややこしいなもう!!」

 

羊?「さあ!!」

匈奴「「「お早く!!」」」

蔡文姫「…ご入刀を///」

 

一刀「か…か…か…

   勘弁して下さいーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

そう言うと、一刀はダッと駆け出す。

 

羊?「む?

   逃げたぞ!!皆の者、追え!!追えーーー!!!」

匈奴「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

蔡文姫「お待ちになって〜!!」

 

一刀「怖っ!!!」

 

匈奴「えっほ、えっほ」

一刀「いやそれは置いてこいよ!!」

 

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---北海---

 

蝋の明かりに照らされた廊下を、執務を終えた一人の女性が歩いている。

 

??「あら…。」

 

自室の扉の前に着くと、戸の前に白い花が置かれている。

乱雑に抜き取ったのか、それは土でだいぶ汚れていた。

 

??「いつもありがとうございます、陶謙様。」

 

陶謙様に仕えていた武官である父が亡くなり、

身寄りのなくなった私を、あの方は一兵卒として取り立ててくれた。

父より授かった武の嗜みのお陰で、早くからお力になることが出来た。

 

部屋に入ると、鏡に目をやる。

 

鏡にはいつもの顔。

襟元を緩めると、ふっと息をつく。

 

鎖骨から首筋にかけた刀傷。

 

父が亡くなる前日に、父が付けたもの。

泣きながら小刀で傷をつけた時、父はごめん、ごめんと悲痛に繰り返していた。

 

そんな父を見ながら、これには何の意味があるのだろうと不思議に感じていた。

 

やがて服を全て取り去る。

そこには体中に鞭の跡があった。

 

これは陶謙様より与えられた罰。

そっと指でなぞると、じわりと傷がうずく。

所々、血がにじむ場所さえある。

 

もう見ないように手早く寝間着を羽織ると、布団へと潜り込む。

 

痛みと微睡みの中、彼女は眠りについた。

 

-9ページ-

 

 

今回もお読み頂き、誠にありがとうございます。

またまたかなりお待たせしてしまい申し訳ございません…。

 

次回は山越族や花蘭のお話です。

(あの変態3人娘次回になりました…)

 

それではお楽しみに!

 

 

説明
お久しぶりです。
お待たせしました…!ようやく完成しましたので、何卒よろしくお願いします。
キャラクターの都合上、匈奴=エルフみたいな位置づけになっており、地域も北方ではなく大陸中央にしています。

尚、紀霊の真名も募集中です。
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コメント
チョコボ様 すいません、間違えました!w(alcapon)
て言うか、陳蘭って斬首されてなかったっけ?(チョコボ)
ここで花蘭ちゃんの復活か……………、一刀にそんな能力が備わっていたとわ、グッジョブ! 次回の更新、楽しみに待ってます(チョコボ)
銀魂のバナナ入刀のやつかww更新待つてました。コレカラモがんばってください。(kiyuona)
キターーーー!更新お疲れ様です!匈奴族ですか……ファンタジックな作品だから違和感は全然ないですが、何その準備の良さ……王朝の方では色々と不穏な気配が漂ってますが、これを一刀がどうやって解決するのか楽しみです。彼が愛用する武器もあるようですし……取り戻しますよね?(Jack Tlam)
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