【真・恋姫†無双if】〜死を与えることなかれ〜9話
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「……むぅ、いかんのう。この戦況が続けば我が弓兵部隊は機能しなくなる。

 流石は曹軍、一部統率が取れていない部隊もおるが、名を轟かせている部隊は烈兵じゃのう」

 

 

決戦の火蓋が切って落されてから早数刻、我が隊はジリジリと押されつつある。

 

敵の騎馬隊を足止めしている槍兵の疲労の色が濃くなり、その隙を突いて

 

徐々に敵兵が弓兵部隊に迫ってきているからだ。

 

むぅ…判断せねばならんのう。弓兵隊も白兵戦に撃って出るか、だが……

 

 

「祭様〜」

 

「ん。この声は……穏か!?」

 

「援軍にやって来ました〜」

 

「おお!!良い時に来てくれた。油断していた訳ではないが、思いの外、苦戦してのう。

 隊を分けていた弓兵部隊も白兵戦に撃って出ようか考えていた所じゃ。

 いやーー、助かったわい」

 

「軍師はどんな状況下においても、戦況を正しく見定め最善を尽くさなければなりません〜。

 ですから。感謝される謂れはないですよ〜。あ、それと、祭様。

 蓮華様が隊を分、副将が指揮している隊がこちらに向かっています〜。

 どうやら、祭様の危険を察知して派遣したそうです〜」

 

「…権殿に心配をかけた様じゃな」

 

 

やれやれ、生涯現役と誓いを掲げていたのじゃが、権殿に心配されるとは儂も老いたかのう。

 

じゃが、今はその様な事を考えている場合ではないわい。

 

 

「皆の者!!援軍が到来した!!我らは引き続き間断なき矢の雨を降らせい!!!!」

 

「御意!!」

 

 

報を聞いてからか放つ矢に更なる軍気を宿し敵に襲い掛かる。

 

士気が復活しまさに、鎧袖一触と行った所か。

 

 

「これで前線の兵も士気が高まりますね〜。それにしても、蓮華様の成長は著しいですね〜」

 

「全くじゃ。何時までもケツの青いヒヨッコないという事じゃな。

 まぁ。権殿は青くなくなった分、デカくなったがのう。わっはっはっは!!」

 

「ふふふ、そうですね〜。本当、成長しましたね。……一刀さんも」

 

 

憂いを帯びた表情で、穏は静かに北郷の名を口にした。

 

 

「・・・穏。御主」

 

「ねぇ、祭様。私、一刀さんの号令を目の当たりにして、何故か一刀さんとの

 思い出が胸に過ぎったんです。それもより、鮮明に…」

 

 

穏の口調は先程よりも弱い。まるで、ある事に怯えている様な素振りも見せている。

 

儂はその、ある事がなんとなく、わかっていた、多分お互い予期している最悪の未来。

 

…儂は、儂もその時感じた事を口にする。

 

 

「………儂もじゃ。武人として熱き血潮が身体の奥底から滾り、士の本分を全うしようと

 心得ていた。だが儂も、北郷を見ていたら、思い出が蘇ったきた。……まるで、走馬灯の様に」

 

 

そう、あの時儂は真剣に強くなろうとしていた北郷との鍛錬の日々が、頭に流れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

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「ぐっ!…さすがは祭さんだ。一太刀も浴びせられないよ」

 

「当然じゃ。闘いの年季が違うのじゃからな。北郷に苦戦を強いられている様では

 武人の名折れじゃな」

 

「はは、容赦ないな。でも。この程度で諦める訳にはいかないよ。まだまだこれからだ」

 

「…今日は何時になく根性を見せるではないか。もしや、女がらみか?」

 

「女がらみって。…まぁ、そう言えばそうだけど、約束したんだ。強くなろうって。

 それに…」

 

「むぅ?」

 

「己が守れる力を身に付けないと。何時までも皆の手を煩わせる訳にはいかないからさ」

 

「…はっはっは、殊勝な心がけじゃ!!」

 

 

思わず、口角が上がる。自分自身の為だけではなく大切な仲間の為に強くなろうとする。

 

嫌いじゃないわい。その様な理由で強くなろうとするのは。

 

儂も北郷の覚悟に応えるべく、厳しさに拍車をかけるとするかのう。

 

 

「なら、何時までも地べたに手を付けてないで掛かってくるのじゃ。

 皆の為に頑張るのだろう」

 

「勿論、そのつもりさ。いくよ、祭さん…!!」

 

 

北郷は落していた自らの剣を素早く拾い、鞘に収めながら間合いを詰め、此方に

 

勢い良く向かってくる。神速とは、まだまだ程遠いが、鍛錬を始めた当初と比べると

 

中々に素早くなっている。これまでの成果が如実に表れておるのを感じるのう。

 

嬉々とした感情を隠しつつ、儂は矢尻を潰した矢を三本、それぞれかわし辛い急所に放ち牽制する。

 

空を切り裂き、巧く軌道に乗る中、北郷は危なっかしく全ての矢を避け尚もこちらに向かってくる。

 

だが、辛うじて避けた影響から、先程の速度は低下しており、動きが鈍くなっておる。

 

三本避けたことは賞賛に値する。しかし、先程の北郷の決意表明を耳にしたら、到底納得できない。

 

ここは厳しく、叱咤し成長を促す。

 

 

「今の避け方はなんじゃ!!手を抜いて矢を放っておるのに!!

 もっと機敏に、勢いを殺さず最小限の動作で避けるのを心掛けよ!!」

 

「………!!」

 

 

北郷からの返答はない。無理もない、あからさまに余裕がないからな当然じゃ。

 

さて、近づいて来た事だし、白兵戦に付き合ってやるとするかのう。

 

 

「はあああああ!!!!」

 

 

…よい気合じゃ。男たるもの腹の中に野生を宿さなければならん。

 

時に苛烈に、時に獰猛にのう。

 

 

北郷は鞘に納めていた剣を抜刀し、胴に向け真一文字に薙ぎ払う。

 

北郷曰く、この技は抜刀術といい、よく祖父に教わったという、相変わらず、

 

この技の剣速は目を見張るものがある。しかも日に日に精度を高め技に磨きが掛かっておる。

 

だが、まだ手古摺るほどではない、儂は先程の手本を示そうと、最小限の動きで

 

北郷の剣をかわし、反撃に移ろうとした。

 

 

「……祭さんなら、俺の剣を捌かず避けると思っていた!!」

 

「なんじゃ……ぐっ…!!」

 

 

刹那、重い一撃が脇腹に刺さった。…まさか、こんな方法で儂に痛打を浴びせるとは…

 

 

北郷は繰り出した剣が交わされるや否や、瞬時に左手に鞘を携え儂に一撃浴びせおった。

 

鞘による一撃を喰らう手前の、北郷のあの言動、察するに儂の行動が読まれていたようじゃ。

 

全く喰えぬ男になったのう。身体の回転を利用した一撃が身にしみるわい。

 

 

「やっ…た。やった!!ついに、ついに祭さんに一太刀浴びせたぞ!!」

 

 

儂の眼前で北郷は飛び跳ねるように、喜びをあらわにする。

 

 

「うおおおおお!!あの祭さんを…!!おおおおおおおおぉぉ!!!!」

 

 

………まぁ嬉しいのはわかる、わかるのじゃが、喜びすぎではないか。

 

 

「俺はやれば出来る子だったんだ!!あっはっはっは!!」

 

「………調子に乗るな!!」

 

「ぶげら!!」

 

 

儂は癪に障ったので北郷に拳骨をくれてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて、まだ、頭が痛いよ、祭さん」

 

「御主が調子に乗るからじゃ」

 

 

一先ず、儂と北郷は鍛錬を終え休息をとる事にした。あの後、気絶から立ち直った北郷と

 

鍛錬を再開したのだが少々、本気を出した為、先の一見以来、一撃も許さなかった。

 

 

「でもさ、一回だけとはいえ祭さんに一撃を与えたんだ。

 調子に乗るのも不思議じゃないよ」

 

 

そう、喰らったのは、あの一撃だけ、油断も慢心もしていたつもりはないが、

 

心に隙ができていたのやも知れない。儂も、まだまだ未熟と言う訳か、更なる武の高みへと

 

精進せねばなるまいな。それと、北郷にはどうしても聞かねばならん事がある。

 

 

「北郷、一つ問うが、あの時どうして儂が避けると予測していた?」

 

「ああ、それは俺が祭さんを、そう言う…回避行動を選択する様に仕向けたんだ。

つまりは、祭さんの心理は全て読んでいたよ」

 

「なんじゃと?」

 

 

読まれていた?表情に出ていたか、嫌、読まれるような素振りは何一つ出してはいない。

 

 

「事の発端は、祭さんが牽制で矢を放った時、あの時俺は、

 まぁ、厳密に言えば策とは言えないんだけど、とある策を思いついた」

 

「……………」

 

「誘導」

 

「誘導じゃと?」

 

「うん。矢をみっともなく避ける事で、指摘されるのはわかっていた。

 それを逆手に取れば、俺の攻撃を避ける見本として、最小限の動きで回避行動を必ず選択する

 だから、俺は鞘による二の剣に気付かれぬ様、裂帛の気合を抜刀術に込めたんだ」

 

「そして儂は、その策に気付かず北郷の一撃を喰らってしまったと言う訳か。

 成る程。…それと、北郷。みっともなくという事は?」

 

「…この策は祭さんの心理を誘導する事が、成功の最低条件、

 だからワザと指摘される様に避けた」

 

「…………」

 

「…祭さん?も、もしかして怒ってる?やり方が汚いとか…」

 

 

北郷が戦々恐々とし、儂の顔色を窺う。確かに武人として反する行動じゃろう。

 

しかし…………

 

 

「…はっはっは!!アレが演技とはな、一杯喰わされたわい!!」

 

「うお!!祭さん!?」

 

 

嬉しさの余り、北郷の首根っこに腕を回し胸元に引き寄せる。儂の想像以上の成長振りじゃ、

 

それに、人の心理を逆手に取った策、こやつには儂が持ち合わせていない可能性を秘めておる。

 

こやつなら、文武に優れた知勇兼備の将となり、策殿を、いや、国を支える唯一無二の

 

存在となるだろう。孫呉の未来は明るいわい。

 

 

「はっはっはっはっ!!!!」

 

「く、苦しいよ。祭さん」

 

「ん〜。何じゃ、儂の乳房が気に入らんのか?」

 

「か、からかわないでくれよ」

 

「ほう、顔を赤くしよって、儂も、まだまだ捨てたものじゃないのう」

 

「捨てたものって。祭さんは綺麗な人だよ。

 弓を構える姿だったり、後姿にグッときて、見返り美人っていう言葉にぴったりだし」

 

 

………こやつは、儂を口説いておるのか。

 

 

「一刀さ〜ん」

 

「ん?この声は穏?やべ!!忘れてた!!」

 

 

穏の声を耳にした北郷は儂からスルりと抜け出し、

 

首に手を回した為に出来たボサボサの髪の毛を整え始めた。

 

 

むぅ、いとも簡単に抜け出すとは動揺でもしたかのう。髪をかき上げながら

 

思わず苦笑する。恐らく、いや、確実に北郷の言に気持ちが浮わついた。

 

やれやれ、枯れそうにしていた女心に再び火が灯った気分じゃ。

 

……ふむ、これを機に儂好みの男に染め上げてみようかのう。

 

大器晩成、中々に愛い奴であるし……

 

 

「ごめん、祭さん。穏と頭の方の鍛錬を約束していたのを忘れてた。

 悪いんだけど、今日はここまでって事でいいかな?」

 

 

手を合わせながら儂に謝る北郷。頭の鍛錬か、妙な言い方をするわい。

 

 

「ふむ、そういう事なら致し方ない。じゃが、北郷。

 儂も、同席するが良いかのう?穏が暴走しては困るじゃろう」

 

「穏さえよければ俺は構わないよ」

 

「なら、決まりじゃな」

 

 

北郷一刀、儂好み計画は一端終了。また機会を見出したら改めて計画を

 

練ろうとしよう。儂は北郷に一声いれ酒を持ち出そうと自室に向い、

 

取り終えた後、北郷と穏の勉強会に参加した。

 

 

 

 

説明
こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます。
何とか一ヶ月更新出来ましたが、
またもや、お待たせしてごめんなさい。
次は出来るだけ早めに…投稿したいものです。
稚拙な文章、口調がおかしい所があるかもしれません。
それでも、暇な時間に読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
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コメント
本郷 刃さん>ありったけの想いをぶつければ獅子奮迅の活躍になる事間違いないでしょう〜。コメントありがとうございます!(南無さん)
naoさん>信じたくないと思って盲目になってる人や、全く気が付かない人も一応いるかなって感じですね〜。コメントありがとうございます!(南無さん)
げんぶさん>母性本能をくすぐる、一刀はそんな存在なのでしょうね!コメントありがとうございます〜(南無さん)
雪馬さん>お待たせしました。そうですね母性を感じる呉の将は祭さんしかいませんからね〜。コメントありがとうございます!(南無さん)
孫呉の姉である祭さんの想い、戦にぶつけてほしいですね・・・(本郷 刃)
みんなうすうす感づいてはいるけど認めたくないって感じなのかな;;(nao)
待ってました。祭さんは北郷のお母さん的存在ですよね(雪馬)
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