みつどもえ=+1,5 【花言葉 良いも悪いも 彼次第】
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――――――春……。

新春、或いは出会いの春とも言う季節。

桜の花びらが尚も舞い散る中、歩道を一人で散歩する僕。

今日は日曜日だし、こんないい天気だ。たまには外へ散歩しに行くのもいいかなと思い、外出している。

 

 

僕こと【矢部 智】は、新任教師として鴨橋小学校にやって来た。僕は6年3組のクラスを受け持つ事になったのですが、これがまた大変で大変で……!

新任した初日、クラスの生徒達と初対面をし、僕の歓迎会として、[なんでもバスケット]というゲームをしました。

あ、因みに[なんでもバスケット]と言うのは、フルーツバスケットに似ていて、鬼の人がお題を出し、その条件にあった人が椅子から立ち上がって別の椅子に座る。座れなかった人が、次の鬼になる。

とまあ、こういう簡単なゲームの筈なのに、なんで教室が戦場へと変わり果ててしまったのだろうか……。

それから普通に進んでいったんだけど、結局僕が鬼で残って、生徒全員の宿題をやる羽目に……(トホホ)

 

とにかく、生徒達の中には個性豊かな子達がいっぱいいた。まだ顔を合わせたばかりだけど、これからどんどん仲良くなっていけたらいいなぁ♪

 

――――と、一応クラスの名簿を一通り目を通した僕。そして、あることに気づいた。ここ数日、一人だけ来ていない子がいたんだ。

名前は【佐久間 ((彰|あきら))】男子生徒だ。

他の先生から聞いてみたけど、どうやら小さい頃から体が病弱だったらしく、よく学校を休む事があったらしい。その子も、今は僕の生徒だ。だとしたら心配だなぁ……。

 

まだ見ぬ生徒の事を思いながら、僕は近くの公園に立ち寄った。

 

「満開の桜かぁ、綺麗だな〜♪」

 

こうして見ると、学生時代を思い出すな〜。

……青春か。僕からすれば甘い思い出なんて皆無に等しかったしなぁ(彼女いない歴=自分の年齢)……。

 

なんて虚しい事を思っていると、あるモノに視線を向けた。

日曜日だというのに誰もいない公園に、僕だけかと思ったけど、どうやら先客がいたみたいだ。

大きなスケッチブックを広げ、桜の木をチラチラと見ながら何かを書いている少年。赤いチェック柄の長袖を着て、黒色のズボンを履いている。

 

(どこの子だろう?絵を……描いてるのかな?)

 

ふと気になり、僕は声をかける事にした。

 

「ねぇ、君」

「…………」

「何を、描いてるのかな?」

「…………」

「え、えぇっと〜……」

「すいません、話しかけないでくれますか?」

「…………はい」

 

お邪魔……だったのかな?

そっけなく返され、僕はそんな事を思った。少年はスケッチブックの上でスラスラと鉛筆を走らせる。

失礼ながら、僕はそれをチラッと覗いてみた。

 

<名称・桜>

<主に春の時期に咲く花で、その美しさは日本でも有名。更に桜餅やら歌やらで用途は様々。満開になると更に綺麗に見える。今回観察した桜も中々のもの>

 

(な、なんだろう……観察日記をつけてるのかな?)

 

<せっかくだから絵に描いてみよう>

 

(あっ、結局描く―――)

 

<だがやめた>

 

(やめた!?なんで!?)

 

<なぜなら、後ろに不審者がいるからだ>

 

「後ろ……不審者……って僕のこと!?」

「ピン、ポン」

「正解!?いやいや、僕は不審者じゃないよ!!」

「じゃあ何ですか?」

「僕は教師だよ!こないだ新任したばかりだけど!」

「……ふぅん」

 

どこか疑り深い目で僕を見てくる。僕ってそんな怪しく見えるの……?

 

「まぁ、別に興味ないけど」

 

興味ない!?聞いておいて興味ない!?

また桜の木に体を向ける少年。僕の事なんか微塵も気にしてないみたいに。

でもまあ、子供の言うことだし、僕は気にしてないけど……うん、気にしてない。

 

「君、桜の木を見にきたの?」

「正確には観察ですね」

「へぇ〜、学校の宿題?」

「いえ、ただの暇潰しです」

 

暇潰しで観察日記……。

ま、まあ、人それぞれだからね。

 

「いやぁ、今までずっと家に引きこもってましたからね。暇で暇で……」

「でも、それなら友達と一緒に鬼ごっことかして遊ばないの?」

「友達は塾やら秘技の開発やらで忙しいみたいですし、それにそういう子供っぽいのはあまりしないんで」

 

……結構、大人びてるなぁこの子。

黒い髪で顔の右側が髪で隠れている。健康的な褐色肌で、見た目通りクールな印象を与える。

そういえばさっきから喋りながら鉛筆で何かを描いてるけど――――

 

「――結構、上手いね……!?」

「見たまんまを描いてるのでそんな難しくないですよ」

 

いやいや、模写完璧過ぎるでしょ!?目の前の桜の木をそのまんま書き写してるみたいだ……!カメラも驚きだよ!?

大袈裟に聞こえるかもしれないけど、この子の描いた絵は本当にレベルが高い。

素人の僕でもそう思う。

 

「すごいよ!もしかして、画家を目指してるの?ええ〜っと〜……」

「…………」

「……君、名前は?」

「知らない人には名前を教えてはいけないと親から教わったのであなたに教える義理はない」

 

義理はない!?さっきは子供っぽいのはあまりしないんで、とか言ってたくせにここで子供の特権使うの!?ていうかさっきの会話でだいぶ打ち解けたと思ったのに……。

 

「そ、そんな事言わなくても……。あっ、そうだ!僕とサッカーでもやらない?丁度ボールがここにあるからさ」

「サッカー?……まあいいですよ?観察するのも絵を描くのも飽きたんで」

 

あくまで暇潰しの為なんだ……あれ。

それで飽きたらまた別の事をすると。

でも、僕もここまで来たら意地だ!教師という立場上、どんな子供とも打ち解ける。これは、僕にとってもいい経験になるし、この子の心の壁を解放するチャンスでもある!

 

「で?ルールの方は?」

「うぅんと、そうだね。それじゃあ、お互いの後ろにある二本の木をゴールに見立てて、その間にどちらかがゴールを多く入ったらいいってことで」

「分かりました。まあ、手加減はなしでいいですよね……?」

 

うっ、なんだか挑発的な目……。

相当自信があるようだけど、僕だって大人だ。子供に負ける訳にはいかない。最初は様子見で、ちょっと力を入れるだけにしよう。うん。

ちょっと、ほん〜〜〜〜っんのちょっとだけ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―五分後―

 

僕の……完敗だ(結構ガチでやった)…………。

 

「ちょっとは期待してたんですけど……まあこんなもんなんすかね?」

 

うぐっ!返す言葉もない……!

美術系かと思いきや、運動も抜群に上手かった。ドリブルもディフェンスのかわし方も神がかっていた。そしてあのカーブシュート。漫画とかでしか見たことがなかったけど、実物はこんなものなのだろうか…………。

 

「それにしても、君すごいね!絵も上手いし、運動もできるしさ」

「―――そこまでですよ……俺なんて……」

 

僕が誉めると、少年は少し顔を曇らせた。

なにか、気に障る事言っちゃったかな……。

 

「僕、こう見えて結構体が弱くて、学校を休みがちだったんです。だから、クラスのみんなからよく忘れられる事が多かった……」

「…………」

「僕がどれだけ頑張っても、入院すればまた忘れ去られる。意味ないんですよ……こんなに出来ても……何も……」

 

顔を見せずに背中で語り出す少年。僕はその後ろ姿をじっと見ていた。

この子にも、辛い何かがあったんだろう……。でも、僕はあることを思った。

 

「……どうして、僕にそんな話を?」

「―――何でですかね?僕にそうやってしつこくしてくるのが、お兄さんが“久し振り”なんで、だからですかね?」

「久し振り?って……」

「はい。小さい頃、僕にやたらと気にかけてくれる人達がいたんです。その人達の励ましがあったおかげで、今の自分があるわけですから……」

「そう、だったんだ……。それじゃあ今は」

「病気の方もまだ完治とまではいきませんが、前よりは楽になりました。気にかけてくれたクラスメートも、今は仲良くやってますよ」

「そっか……ならよかったよ」

 

さっきまで見せなかった、子供らしい笑顔。よく見たら女の子みたいな顔立ちしていた。どんな子でも、やっぱり子供らしい笑みは浮かべるものなんだな……。

なんだか彼の事を更に知る事が出来たみたいで、僕も嬉しかった。

 

「友達が出来たのなら、それでよかったじゃん。学校も楽しくしてるみたいで」

「ま、そうですね。でもここ数日安静にしてたから、学校あまり行けてないんだよなぁ……」

「ええっ!?そうなの?」

「明日から行く予定ですけどね。医者からも許可もらいましたし」

 

そ、それなら良かった……。

僕も一瞬心配したけど、この笑顔を見る限り、大丈夫な様だ。

 

「そういえば、桜の花言葉知ってますか?」

「えっ?」

 

花言葉かぁ……。

う〜ん、あんまり知らないなぁ。

 

「桜っていいですよね。どれも“美”という言葉がつく、とても良い花ですから」

「へぇ〜……。花言葉詳しいんだ?」

「適当ですけどね」

 

適当…………。

でも、確かに桜って良いものだと思う。本当、綺麗だなぁ……

 

「あっ、もうこんな時間だ」

「もう夕方ですね」

 

気がつけばもう日が沈みかけていた。そろそろ帰らないとね。

 

「さてっと、それじゃあ……」

「うん。また会おうね。いつでも相談に乗るからさ」

「そんな、気を遣わなくても……」

「全然だよ!僕は教師だからね!どんな話でも聞くよ!」

 

こんな僕でも、頼りにしてくれたらと、少年に駆け寄る。若干ウザそうにしているけど気にしない!

 

「それじゃあ、これ」

「ん?」

 

少年は僕に何かを渡してきた。それは、小さな葉だった。

 

「これって、楓?でもなんで……」

「まあ、僕の気持ちとでも言っておきましょうかね」

 

少年はそう言うと、向こうに歩いていく。

 

「あっ、それじゃあ、またね〜〜♪」

「……気が向いたら、ね」

 

恥ずかしいのかな?そんな事にも微笑ましく思いながら、僕は家に帰っていきながら、手元にある楓を眺める。

 

「楓かぁ……なんか季節外れだけど、どんな意味なんだろう」

 

照れ隠しで渡したから、多分良い意味なんだろうね、うん。

そして僕はまた、ある事が気になっていた。

 

「そういえば、名前聞き忘れたな……」

 

病弱で学校にもあまり行ってない。丁度、僕のクラスにも一人生徒が来ていない。

もしかして…………。

 

「――――いやいや、まさかね」

 

ベタじゃあるまいし、そんなことは…………ねぇ?

そう思いながら、僕は家に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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帰宅したあと、僕は楓の花言葉を調べてみた。

 

名称・楓

花言葉・遠慮

 

……………………。

う、うん!まあ、あの子もそんなに詳しくないって言ってたし!何か良い意味を込めてくれたんだろうね!他にも[良い思い出]っていう意味もあるから、きっとそっちだよ!

うん!そうだよね!うん!うん!うん……うん………………。

 

 

そう思いたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌朝―

 

「おはようございま〜す♪」

「うん、おはよう♪」

 

校門を通る小学生達。僕は一人一人挨拶を返していく。

いやぁ、今日も良い天気だ♪

さあ、今日も頑張るぞ!

 

「おはようございま〜す♪」

「おはよう♪」

「おはようございま〜す」

「うん、おはよう♪」

「おはようございま〜〜〜〜〜〜〜〜す」

「おは…………えっ?」

 

この聞き覚えのある声は……!

僕は目を見開いて音源を見る。

 

「………………」

「ども、昨日振りですね」

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

嘘っ!?もしかしてとは思ったけどベタすぎない!?ていうか、ここの生徒だったんだ!?

 

「それならそうと言ってくれれば――」

「別に隠してた訳じゃないですよ?【矢部先生】」

「えっ?な、なんで僕の事を?」

「“幼馴染み”から聞いたんで」

「ってことは……」

「はい、僕の名前は【佐久間 彰】と言います」

「君がぁっ!?」

「どうぞ、よろしくお願いしま〜す……ニシシッ♪」

 

悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら、立ち去っていった小学生―――佐久間 彰君。

まさか僕のクラスの生徒だったなんて……

どうしよう、油断ならないぞ……!

 

僕は冷や汗をかきながら、教室へと向かった……。

 

 

 

【佐久間 彰】

キャッチフレーズ・クールなユニーク万能人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに……

 

「所で佐久間君。君が渡した楓の事なんだけど――――」

「ああ、その通りですよ?」

「そ、その通りですよ?」

「[遠慮]しときます。そんじゃ」

 

……………………………………。

 

 

聞かなければよかった………………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
こちらでもよろしくお願いいたします。
今回は登場人物たったの二人しか出ないのですが、次回からもっと出すつもりです。
それでは、どうぞ!
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