魔法少女リリカルなのは -The Destiny Nomad- RE: |
Trace.03 「蒼き槍兵」
= ショッピングモール内・フードコート =
日常の空間から隔離されたもう一つの日常の世界。
認識阻害の術で認識なれなくなった三人は心置きなく戦いを行おうとしていた。
いや
もう行われたのだ。
「先手は貰った!」
「いっ・・・!!」
先手を取ったのは男の方だ。
人並みを軽く外れた脚力で地面を蹴った彼は、刹那の内に霊太との間合いを詰め肉薄して、得物である槍を突き刺そうとした。
しかし、霊太は紙一重で槍の一刺しを回避。
僅かに髪を切った程度に終わった先制攻撃は直後フェイトのカウンターが入れられる。
「雷の隼たちよ。敵を貫けッ!!」
「ッ!!」
前方五つの方向から放たれた鳥型の魔力スフィアは男を穴だらけにするような勢いで向かって行った。
技のキレやスピードには自身あるフェイトは彼が接近してきたと同時に魔力を生成して攻撃の準備を整えていた。
彼なら絶対に初手の攻撃を回避できるはず。そう信じ、彼女は生成した魔力スフィアを後方に配置しタイミングを見計らって発射した。
五発のスフィアは男へと向かっていき、内包した魔力を一気に爆発させる。
近距離且つ超高速のスピードの攻撃だ。早々防ぎきれるものではない。
そう思っていた刹那、フェイトの予想は大きく裏切られた。
「えっ・・・!?」
「ッ・・・おいおい・・・」
「今のはマジでビビったぜ」
「うそっ・・・ファルコを全て、かわした!?」
あまりの結果にフェイトは動揺を隠せなかった。
今撃ったスフィアの攻撃はフェイトの持つ技の中では最も弾速と貫通力のある技で、百発百中でもある由来から名を「((ライトニングファルコ|稲妻の隼))」と名づけていた。
今までこれを撃って外れたことはなく、大小様々な結果ではあったが命中はしてきた。だが、それをあっさりとかわされ、更には余裕な表情を見せられたとあっては彼女の顔には絶望の色しかなかった。
「隼にしちゃあ結構直線的な奴等だったな。もちっと誘導できりゃ俺でも辛かったが・・・そこはお嬢ちゃんって事か」
「・・・・・・。」
「次あてりゃいい話だ。気にするな」
「うん。けど、私のファルコをかわしたって事は・・・」
「ああ・・・生半可なスピードの攻撃は軽々と避けられるな。確実に」
隙が大きいもの。攻撃が単調なもの。相手の視界内に捉えきれるもの。
これら等の攻撃は全てあの男には全て無意味に等しい。フェイトの中で最もスピードのある攻撃が容易に回避させられたのだ。反射神経や目に関しては二人以上のものに違いない。
改めて相手の力量を知った二人はアイコンタクトで会話をすると直ぐに戦法を変えて戦う。
「フォトンランサーッ!!」
「今度は数勝負か。だがなぁ!!」
勢い良く飛んでいくフォトンランサーを軽々と回避する男。何十という数の弾幕をまるで彼にはスローで見えているかのように避けていき、どうしても出来ない攻撃は槍などで破壊し、確実にフェイトとの距離を詰めていく。
「ッ・・・!!」
「先ずは・・・!」
予想はしていたがここまで速いとは。驚く間も無く、フェイトの前に槍を構えた男が向かってくる。
赤い槍は鋭利に光る刃を彼女に向け、その鋭い刃で柔肌を貫こうとしていた。
しかし。
「もらったぁ!!」
「なっ?!」
男の側面にはいつの間にかフードコートに置かれていたテーブルが宙を舞い、彼に向かい飛んできていた。
突然飛んできたテーブルに男は驚くが、僅かに余裕があったのかテーブルの後ろに映る光景を確かに目に焼き付けた。テーブルを霊太がウロボロスで投げていたのだ。
「ちっ!」
ギリギリ間に合うタイミングで男は宙で一回転しテーブルをバネ代わりにして方向を転換させる。テーブル群とフード店との間の道に着地した男は、直ぐに顔を上げると先ほどの余裕の色が一切無い顔で霊太に向かい声を荒げた。
「テメェ・・・その鎖は一体なんだ!?その異様な殺気を放つ鎖は!!」
「―――蛇双・ウロボロス。テメェの精神を喰らう蛇だよ」
((事象兵器|アークエネミー))、蛇双・ウロボロス。
対象の精神にまで攻撃を届かせ、精神を破壊もしくは捕食する力を持つ。
元々精神攻撃が主な能力だが、((彼女|リィンフォース))の中にあった事象兵器は全て何らかの能力が付加されているのだ。
ウロボロスの場合だと精神の捕食。表には出されていないが、ヴェルベルクは自身の記憶にある相手、または場所に対して次元の穴を通じ攻撃する事が可能だ。
そして他には事象兵器を((埋め込む|・・・・))だけで命を吹き込むものも有る。
「ウロボロス・・・不死の蛇か。にしちゃあ完全なものとは程遠い見た目だなオイ」
「見た目は関係ないさ。少なくとも、アンタを倒せるぐらいの力はコイツにもある」
「ちっ・・・魔法の嬢ちゃんと蛇の鎖の坊主・・・分が悪いな」
「今更降参なんてする気か?」
「ほさげ。テメェら相手に白旗上げる気なんざこれぽっちもねぇよ」
男が再び槍を握りなおすと、同時に男の殺気が先ほどよりも強まった。
どうやら今までは小手調べの範疇だったらしい。
気配で理解した二人は気を引き締めて構えを取り、フェイトはいつでも防御と反撃が出来るように両腕の周りに魔力の雷を集束させておいた。最悪、先手を取られても防御ぐらいは出来るだろうと思って。
「・・・行くぞ」
呟くように男が身体を前に倒させ、俊敏に動く為の姿勢に入った時だ。
槍をもたない右手で小さく何かを宙に書いていたのに気づいたデバイスのゼクスはその掻いた文字を見て反応した。
『ッ!ルーンの魔術――リョウッ!!』
「ッ!!!」
だがもう遅い。
霊太が気づき側面を向いた時には既に男は二人の間合いに入り、更にはフェイトの眼前に辿り着いていた。
(速いッ!!)
刹那。口すら開く猶予もなく、フェイトは男の回し蹴りを喰らいボールのように大型の窓ガラスに向かい吹き飛ばされた。
「かっ―――」
「・・・!」
タンを吐き、意識が飛びかけたフェイトを見て霊太は彼女の名を叫ぼうとしたが、彼の隣に立っていた男を無視する事も、無視されることも出来なかった。
「よそ見すんなよッ!」
「ッ・・・!!」
無意識に頭を下げた霊太の目の前を赤い槍が通過する。
槍の見えた一瞬だけ体温が急激に下がった感覚があったが、そんな事を気にする暇も無く、霊太は反撃に転じた。
「おおっ!!」
「ッ!」
両手に軍用のアーミーナイフを召喚し、彼の首筋へと攻撃を仕掛ける。
頭を下げた体勢で反撃に転じた事に一瞬動じた男だが、ギリギリの距離でナイフを交わして行き、切り上げの大振りになった瞬間かわした時の流れに乗って大きくバック宙返りで距離を取った。
「短剣使いか。間合いに入られなきゃコッチの領分だが・・・」
「・・・・・・。」
僅かに目線を横にズラす霊太は、先ほど男の蹴りを受けたフェイトの方を見る。
顔まではしっかりと映らなかったが、まるで人形の様に俯いて倒れるフェイトに霊太は不安になった。あの一撃でまさか、と。
しかしそれを察したかのごとく、リストバンドの状態のゼクスが霊太に告げる。
『心配するな。脳を揺さぶられて気を失っただけだ』
「脳揺さぶられたって・・・不味くないか?」
『大丈夫だ。あの程度なら彼女でも数分で気がつく。今は自分の事を心配しろ』
「・・・・・・。」
確かに((相棒|デバイス))の言うとおりだ。
相手の力量がこちらを遥かに上回っている中で余裕など欠片も持てない。
彼女には悪いが自身の身を優先するべきだ。
だが、霊太はそれでも心配であるからかフェイトへの視線を簡単に解く事は出来なかった。
彼女は無事か。生きているのか。
彼女を助け、どうやってココから逃げればいいか。
まともに勝ち目のある相手ではないと分かった上で霊太の頭の中では撤退を考えていた。
「ほう。自分の身よりも嬢ちゃんの方が心配か。お熱いこったぁね」
「―――。」
「だが。坊主に言った野郎の言うとおり。心配できる余裕があんのか?」
「・・・ねぇな。ねぇよ、んなモン」
「・・・。」
「だから・・・せめて!」
((彼女|フェイト))が意識を取り戻し、逃げれるようになるまでは時間を稼ぐ。
勝利を得られない現状、それが精一杯だ。
決心した霊太の両手には新たに別の短剣が二つ召喚される。
この場でそれをやり遂げるだけの事が出来る武器。ウロボロスと、もう一つ。彼が持つ武器の中で最も切れ味のある短剣。
相手の魔力の防壁を五つは貫通できる最強の短剣。
それは同時に諸刃の剣でもある。
その名は
「((今剣|いまのつるぎ))・・・!」
「・・・短剣・・・にしちゃそこそこ長いな」
長さは約二十センチ。装飾はなく、刀身は刀の形状に近い。
和の短剣。かつて名将、源義経が自刃の際に使用したとされる彼の守り刀。
それがこの今剣だ。
元々一本だけなのだが、それをあえて二本製作し自分の武器として格納していた。
「コイツに斬られたら最後。このじゃじゃ馬の血肉になっちまうのさ」
「・・・なるほど。薄く濃い魔力を纏わせて切れ味を上げてるのか。確かに、切れ味はありそうだが・・・要は斬られなきゃ良い話だろ?」
尤もな正論だ。
短剣と槍ならば間合いは圧倒的に槍が有利。場合によっては最悪防戦一方になるのは明らかだ。
なのに霊太がこれを選んだ理由。それは・・・
「まぁな。斬られなきゃ・・・だがな」
「―――。」
刹那。霊太が身体を前に倒し、身体の倒れた勢いを加えて足を強く踏み込む。
男は彼がそのまま足を蹴って前進してくると予想し、槍を構えたのだが
「お生憎様だ」
「なに―――」
霊太は前進しなかった。
寧ろ前進を考えず、その場で立ち止まってジャンプしようとするような動きだった。
明らかに可笑しい事だ。
男は一体なにをする気だと思った男だが長年培われた勘が冴え働いたのか脳裏に「まさか」と警告が走り、テーブル群のある後ろへと足を蹴り回避した。
するとどうだろうか。
男の居た場所へと一閃の斬撃が走り、地面を抉り取ったのだ。
突如現れた斬撃に驚いた男は体温が低下し、命の危機だったのを実感する。
あれを直撃で喰らっていたならどうなっていただろうか。
そんな事を頭の隅で考えつつ男はテーブルの間に着地した。
「無音の斬撃・・・!」
「外したッ・・・!」
『勘はいいようだな。だが、次は当てられる筈だ』
「根拠あるのかよ」
『さてな。それでも相手にコイツの威力は知って貰えたハズだ』
動じはしたが、汗ひとつも掻かない冷静な顔は斬撃のあった場所に目を落としていた。
コンクリートの地面を軽々と抉ったその後を見た男は軽く笑ってみせ、未だ余裕の表情だった。
「魔力を斬撃による真空波に変えて行ったか。骨まで抉られるぞコリャ・・・」
「どうよ。コイツの威力」
子供と見て侮ったのが間違いか。男の脳裏で彼に対する見方が変わった。
ウロボロスと名の付く鎖を使うぺーぺーのガキ魔導師。最初はそう思っていたが今の斬撃ではっきりした。
力量自体は及ばないが、ヘマをすればタダでは済まない。
コイツには((今の|・・))全力で相手をせねば負ける。
考えを変えた男の殺気は先ほどよりも強く、そして鋭かった。
「・・・ガキと思って甘く見てたな。少しばかりマジで行かせてもらうぜ」
「最初っからそうしろよ・・・タイツ野郎ッ!!」
さぁ。ココからが本番だ。
霊太の本能がそう告げ、両手に持つ今剣に力が入る。
一瞬でも気を抜けば死ぬ。
最高最悪の命のやり取り。
己の全力を持って、奴を退けろ。
「はあっ!!」
「おぉらっ!!」
強く踏み込み、力を溜め込んだ足を一気に蹴り出す。
タイミングはほぼ同時。僅かにだが男のほうが速い。
だが、それでも対策はある。
先手を取られてもそれに対して防御策を取ればいい。
刃と刃が交わり、高音を響かせ僅かに火花を散らす。
槍を交わし、短剣は真っ直ぐに男にへと向かって行った。
(もらっ・・・!)
だが突如、霊太の視界は大きく揺れ、脳は激しく揺さぶられた。
「ッ―――!?」
何も無かったのに何故蹴られたのか。彼の脳裏にはその原因となる証拠が僅かに残っていた。
視界に僅かにだが入った映像。男の膝が彼の顔面に直撃したのだ。
恐らく、男は自分が直線で間合いに入るのを分かっていた。
いや、短剣を主武装としている以上、そう考えるのが妥当だ。
だからこうもアッサリと対策を施され、カウンターを入れられてしまった。
「そらよッ!!」
膝の蹴り上げからの回し蹴りが霊太の腹に直撃。
追撃の一撃は膝蹴りよりも重く、そして痛い一撃だった。
腹を捻り取りそうな威力に彼の腹から((タン|・・))が吐き出される。
「がっ・・・!!」
その間数秒。初手を見事に破られた霊太はそのままテーブルの中へと飛ばされ、クッションにもならないテーブルに打ち付けられ共に倒れていく。
「――――――ッ!!!!」
速い。それもとてつもなく。
それが二撃全てを受けきり、僅かに残った意識が思った全てだった。
この男には敵わない。
そう分かっていたことが再び脳裏を過ぎった。
だが終始ではない。
「ッ―――」
霊太がテーブル群に叩きつけられたと同時。男の後ろから鉄の重なり合う音が聞こえた。
男はすかさず反応し後ろを振り向いたが、もう遅かった。
緑蛇の鎖は、突如男のわき腹を食いちぎったのだ。
「なにっ・・・!?」
(ドンピシャ・・・)
ウロボロスが突如後ろから現れ自分のわき腹を食いちぎった事で一瞬揺らぎはしたが、直ぐに体勢を立て直した男は後ろから放たれた鎖を切り裂こうと振り向いた。
が、ウロボロスは直ぐに姿を消し、消え去った鎖に対し男は苛立ちを覚えた。
「ッ―――」
「ざまぁないぜ・・・ウロボロス相手に槍は当たらないさ」
『余り喋るな。今((リペア|回復))を行う』
(あの坊主・・・一体どこからあの鎖を・・・)
蛇双・ウロボロスが放たれるのは霊太の手からではない。ウロボロスは専用の術式陣から放たれるのだ。
そのため、魔力と空間さえ確保されればウロボロスを何処からでも投射。相手にへと攻撃する事は可能で奇襲性が高い。
だが、それにはかなりの技術が必要であると共に仕掛けるのにも時間をかける。
ノーリスクと言う訳にもいかないのだ。
「ッ・・・」
「不意を打たれたのにゃあ驚いたが・・・所詮は不意打ちだ」
(・・・やっぱ致命傷は無理か)
そして、最悪な事に霊太はその不意打ちでさえも失敗してしまった。
出来ればよろける程度にはと思っていたが、それさえも失敗してしまった今。霊太に反撃手段はもう残されていない。
「ワリィが・・・これで終わりだ」
「ッ・・・!」
赤い槍が心臓に向かい振りかざされる。迷いは無く、その一撃が届くまで一秒とかからない。
防ぐにしても魔力が集束するまで間に合わないし、何より集めたとしても防ぎきれる保障もない。いずれにしても対抗策が無いのだ。
生命の危機を感じ、体温は急激に下がる。冷たく冷え切った身体からは大量の汗が吹き出し、死を悟らせた。
また死んでしまうのか。そう思い、霊太は足掻きとばかりに悔いた表情で男を睨んだ。
だが、それを((彼女|・・))は黙って見過ごすだろうか。
「神速一撃・・・狙うは必中・・・
行って、雷鼠ッ!!」
刹那。
雷を纏った小さくも勇ましい((鼠|・))が、目にも留まらぬ速さで男の持つ槍へと向かっていく。
小さな鼠だ。対して破壊できるほどの威力もないし、そもそもそんな威力だって持ち合わせていない。
だが、それと引き換えに隼をも追い越す圧倒的スピードを持っている。光の様に速い、圧倒的スピードを。
「―――ッ!!」
「・・・・・・!!!」
小さな鼠は槍にぶつかると一秒と持たず直ぐに消滅してしまう。
呆気の無いその結末に一体なにがどうしたのかと思いたくなるが、その考えを待たずに結果は出てしまう。
僅かなコンマの間に攻撃である鼠は槍に辿り着き、彼に当たる攻撃の軌道を逸らした。
そう。その僅かな間に男の槍はズラされ、霊太の身体に刺さるはずだった槍はその直ぐ横の地面に突き刺さったのだ。
「・・・・・・。」
(・・・馬鹿な)
あり得ない。
男の槍は自分でいうのも難だが、攻撃の速さには自身があった。
自身の力。槍の使いやすさ。そして強さ。
それらにより助長され、彼の攻撃は文字通り目にも留まらない攻撃、の筈だった。
なのに、その一撃は彼女によってアッサリと見切られてしまった。
「リョウッ!!」
「ッ―――!!!」
考える暇を与えず、フェイトが叫ぶ。
無意識であった霊太は彼女の声に反応し、足を蹴り上げて男の不意打ちを行う。
それを紙一重で回避した男は、続けて後ろへとバック宙で翻す。
「ちっ・・・」
「っはぁ・・・!」
危機的状況を脱した霊太は蹴り上げの勢いで立ち上がると大きく深呼吸をする。
生きていると再認識し、生の実感をかみ締めるその感覚は深い安堵があった。
そして頭の中を一旦クリアにして冷静になろうとしていた。
(あぶねぇ・・・フェイトが助けてくれなきゃ今頃、もう一度あの世行きだったぜ・・・)
「・・・もう少し寝ていると思ったが、存外回復が早かったな」
「・・・・・・。」
その筈だ。フェイトはただあの時吹き飛ばされた理由ではない。
一瞬ながら後頭部にのみ魔力のクッションを展開し、衝撃を和らげていたのだ。
それでも全身への衝撃は防ぎきれなかったので意識は失ってしまう。が、頭だけは守られていたからか、意識の回復は早かった。
(全身、まだちょっと痛いかな・・・左足もさっきので捻ったみたいだし・・・)
(立ち上がらなねぇって事は、足をやったのか。程度は低いから捻った位だろうが・・・あの嬢ちゃん、俺と同じ長い得物でのスピード勝負って感じだろうからな。致命傷は避けられん)
[無事か、フェイト]←(念話)
[なんとか・・・けどゴメン、足捻っちゃった]
[・・・そうか。でもサンキューな。お陰で命拾いした]
当然だよ、と心内でぽつりと呟くフェイトは未だ劣勢な状況の中にも関わらず頬を僅かに赤らめている。
嬉しさと安堵。その両方をかみ締め、小さな笑みをこぼした。
が。そんな事を考える余裕はもう無い。
「命拾いしたっつー顔してるが・・・状況分かってるよな?」
「・・・ああ。正直、俺たち二人が束になってもお前にゃ勝てる見込みは無い」
「・・・・・・。」
「故に・・・手傷ぐらいは負ってもらうぜ」
再びウロボロスと短剣を片手に持つ霊太。
勝てる見込みなど最初からないと知っていながら、向かってくるその姿は愚者に等しい。
場合によっては死ぬかもしれない。いや、確実に死ぬだろう。
短期決戦を挑もうとも、長期戦を挑もうとも、その結果は変化しない。
だが逃げれるという保障もない。
敵に背を向ければ、大チャンスを相手に与えてしまう。
戦うよりも危うい行動だ。
「・・・わき腹だけじゃ飽き足らずか」
「当然」
ならば手傷を負わせ、相手が戦闘継続を不可能な状態に持っていかせるしか他ない。
逃げるも戦って勝つも無理なら、戦略的勝利を狙うしかない。
それが霊太とフェイトに残された最後の勝利方法。
失敗すれば自分たちの命はない、盛大な賭けだ。
「・・・そうかよ。なら―――」
乗った。相手が自分の賭けに乗ってくれたとばかりに、霊太は小さく笑みを見せる。
彼の性格は好戦的なもの。賭けであれば知ってたとしても必ず乗ってくるだろう。
自分の力に自信を持ち、相手を簡単にねじ伏せられるという考え。
(付け入る隙は出来た。後は、上手くあの槍を回避すれば・・・)
勝てる。いや、戦術的に勝利できる。
確かにそう思えた。
「――――――へっ」
「・・・・・・え」
「その心臓―――貰い受ける」
その時。霊太は自分の考えの浅さに後悔した。
自分の考えが相手にとってあまりに子供過ぎる考えだったからだ。
彼がずっと考えていたのは「彼との戦い」について。ずっと「彼自身」と言うのに警戒もなにも持っていなかったのだ。
槍を使った戦い方を行う相手なら、技の一つぐらいはある筈。もしくは、それに順ずる動きや戦法を持っているとも考えられた。
なのに。自分は相手との戦いにだけしか集中できず―――
『魔力増大―――これは?!』
彼の((必殺技|・・・))を考えもしなかったのだ。
『依然魔力は増大。高町嬢の砲撃を上回る魔力量です』
「――――。」
刹那。((突き|・・))の構えを取った男はその深紅の槍に膨大な魔力を流し込む。
そして、その魔力はまるで炎のように揺らめき、先端部にその炎を集めていく。まるで、油がそこにあるかのように流れ集まっていくその槍は、紅蓮の炎を纏い生じる光を反射さる。
「なのはよりも圧倒的な魔力―――」
「なんだ・・・アレは――――!?」
- 穿つは心臓。狙いは必中。-
呟くように声を漏らした男の表情は険しく、赤い眼を大きく開き筋が浮かび上がるように顔は変化していた。
一体どうなっているのか。何が起こるのか。
恐怖と混乱で微動だもできない二人はただ立ち尽くし、炎のように揺らめきを放つ槍にただ魅了されていた。
「―――じゃあな」
「――――ッ!!!」
「((刺し穿つ|ゲイ・))―――――」
「―――リョウッ!!!!!」
「――――((死棘の槍|ボルク))ッ!!!!」
少女が気づいた時。その奇声にも似た叫びは、男の咆哮にかき消されてしまった。
地面を強く踏みしめ放たれた赤く染まった槍の一閃は、何度も屈折を繰り返し不規則な動きのまま少年のもとへと向かっていく。
(あの槍の攻撃・・・不味い・・・あれは―――!!)
(回避―――できるわけ―――)
回避など元より不可能。
これは因果を逆転する一閃なのだ。
次の瞬間。少年の胸へと赤き一閃は突き刺さる。
回避も出来ない攻撃にただ立ち尽くすしかなかった彼は、一閃の先端を自身の肉へと抉りこまれ、紙ふぶきのように抉られた肉をつかまれ飛ばされていく。
まるで人の手につかまれたかのように飛ばされた少年は、その後再び地面へと帰らされた。
もう命は削り取った。
そう思い、男が投げたかのように一閃から離され、土煙と共にコンクリートの床に叩きつけられた。
「あ――――」
目の前の出来事にただ呆気に取られていたフェイトは、やがて地面に叩きつけられた少年の一部始終に小さな一言しか声が出なかった。
手を伸ばせば助ける事だって出来たはずかもしれない。そんな後悔が瞬く間に彼女の脳裏を駆け巡った。
しかし。
「―――ちっ」
槍を撃った男は、放ち終えた構えと共に舌打ちする。
手応えはあった。霊太は吹き飛ばされ、彼の攻撃は直撃した。なのに、何が不服であるかというと
「・・・この坊主、最後の最後でトンでもないことしやがったか」
構えを解いた男は、霊太が落ちた場所を見ながら呟く。
確かに当たった。手応えもあった。傍から見れば別にされでいいのではないかと思えるが、男にはそれだけで満足できない理由があった。
(あのガキ・・・((刺し穿つ死棘の槍|コッチの攻撃))が当たる直前に、あのウロボロスとやらで軌道を((僅かにズラし|・・・・・・))やがった)
当たった。手応えもあった。
しかし、彼の不服というのはその攻撃が当たった場所だ。
彼の攻撃は本来は『絶対に心臓を突き刺す』という、因果を元に絶対必中を文字通りなものにする攻撃。因果の一方通行を基本とせず、逆行によって生じた能力。それが槍の攻撃の正体だ。
本来、この世界での魔法ですらもあり得ない因果を利用した一撃必殺の技は彼の持つ中で双璧をなすものだった。
しかし決定的とも言える弱点を突かれ、彼の攻撃はこの通り失敗してしまった。
「当たったのは心臓のほぼ真横・・・掠りもしなかったか」
心臓に当たらなかった理由に男は心当たりはあった。しかし、そう易々とかわせるものではない。
「リョウ・・・?」
「・・・・・・。」
呆然と立ち尽くすフェイトに男は目を向ける。
死んでしまったのかと誤解しているらしい。
その証拠として、彼女の目は先ほどと違い死んでしまったかのような目をしていた。
捻ってしまった足を引きずり、嘘だと信じ這い蹲る彼女の姿は男から見ても到底見てていいものではなかった。
「―――嘘・・・そんな・・・・・・」
「・・・死んじゃいねぇよ。坊主は当たる直前に―――攻撃の軌道をずらした。さっきお嬢ちゃんが俺の槍をズラしたようにな」
「――――。」
「当たったは大体心臓のほぼ真横。出血は派手だが、死ぬ事はない。―――って。俺としちゃ当たって欲しかったが、な」
「お前・・・!」
「おっと。恨まれるのは当然だが、今はテメェと坊主の身を案じな。特に・・・」
憎む目を物ともせず、男はフェイトと同じ目線にしゃがむと彼女の足を勝手に見始める。
「ッ―――!?」
「皮膚が丈夫なのが今回は仇になったな。中の肉だけで出血を起こしてて足の中は血の洪水状態だ。このまま止血されたとしても足は動かなくなるだろうな」
「―――。」
そう言って男は赤く血の色に染まった足に自分の手を触れさせると、適当な場所に自分の爪を食い込ませる。
痛みを感じるフェイトは、同時に「何故?」と混乱していたが、やがて彼女の足から爪を食い込まれた辺りを中心に血が出始めた。
「ッ・・・」
「我慢しな。足をデク棒にされたくはないだろ」
「・・・貴方・・・どうして―――」
「さてな。けど、敵同士だからって助けちゃいけねぇって理由もねぇだろ」
「・・・・・・。」
そう言い、男が流れさせた血は今だけはとても気持ちの良いものだった。
何故助けるのか。何故、トドメを刺さないのか。
何故、そんないい笑みを見せてくれるのか。
不思議でならないフェイトは、ただ流れる血を眺め男の言葉を耳に入れる。
先ほどのような敵対心の無い。殺意の無い声に、なんでだ、と彼女の頭は混乱したままだった。
「・・・とりあえずこんなモンか。後はちゃんと手当てしてもらえよ、嬢ちゃん」
感覚のやわらぐ中で男の言葉に反応したフェイトは立ち上がった男を見上げる。
実際に間近で見ると男の身体は屈強で、それでいて無駄のないもの。戦いにのみ特化した身体。戦いの中で洗練された戦士の肉体であるのは明らかだった。
「・・・なんで・・・?」
「・・・なんで、か。そうさなぁ・・・面白かったから、かね。お前さんら二人との戦いが」
「・・・・・・。」
「俺の槍をかわし、負けるとわかっていても戦い続けたお前らに・・・もー少し成長を見てみたいって思ったから・・・っつーまぁいい訳みたいなモンだが、要は気まぐれだ」
「・・・えっ?」
戦いをやめた理由があまりにいい加減で不十分だった事に、フェイトは眼を大きく見開く。
この男は本気で、そんな仕様も無い理由で自分たちを逃すのか、と彼の後姿に声をかけようとするが、彼の言葉の驚きと彼の後姿が「声をかけるべきだはない」と言っていたからか喉の奥から出ようとしていた言葉が空気のように流れていってしまった。
「次に会うときは、本気で勝ちに来い。変な理由での勝利なんざ、お前等がよくても俺が許さん」
「・・・・・・。」
そして、再び戦士としての片鱗を表しつつ振り向いた男は一言そういうと、ニヒルな笑いをみせて何処かへと歩き始めていく。
何処へ行く気なのか、何が目的なのか。
言いたい事も、聞きたい事も山ほどあったが、今の彼女はただ呆然とその後姿を眺めるしか出来なかった。
「―――我が名はランサー。覚えておきな、お嬢ちゃん」
「ラン、サー・・・」
その後。遅れて救援に来たライとアルフに回収された二人は、そのままアースラへと帰還。
艦長であるリンディに何が起こったのかと尋ねられた。
殆ど一方的だった戦い。それを彼女がただ一言で言い表した。
「次元が違う」と―――
オマケ。
オリジナル技紹介。(フェイト編)
((ライトニング・ファルコ|稲妻の隼))
フェイトがオリジナルに編み出した技で由来はその名の通り魔力スフィアが隼の姿をしているから。
弾速、威力共に高く、奇襲攻撃や先制攻撃などに有効。また弾自体の強度も強く、数発程度なら相打ちになっても威力低下のみですむ。
だが、弱点として基本一直線のみにしか飛ばず、曲折などは不可能。なので、左右に避けられれば攻撃は事実上失敗する。
((雷鼠|らいそ))
ファルコの後に開発された技。しかし、攻撃技というよりも偵察などが主な使用用途。
威力を極最小限に押さえ、スフィアの持続時間を限界まで延ばしたもので最大五分までなら持続は可能。
ただしその場合はフェイト本人が動けないという弱点がある。
何故ネズミなのかというと、本人曰く「排気口とかに難なく入れて凄い」ということから開発したのが始まりだという・・・
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第三話。槍兵の男との戦闘です。 喋り方からしてもう誰かと分かると思いますが、もう今回で明らかになります。 この人でなし! |
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