戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ九
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戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ九

 

 

房都  皇帝執務室

 

 三人の一刀と華琳、桃香、蓮華の三王が卓を囲んで仕事の合間の休憩にお茶とおやつを愉しんでいる。

 茶飲み話の話題は当然聖刀、祉狼、昴の三人の事だ。

 今朝、数日ぶりに連絡が届いたのでその内容が話の種となり、ああでもないこうでもないと花を咲かせていた。

 しかし、一刀たちは久遠が三河へ援軍を要請したのを知り、心のどこかに引っ掛かる物を感じた。

 

「「「松平元康か………」」」

 

 一刀たちは関ヶ原の戦いから大阪冬の陣、夏の陣に続く家康が行った権謀術数に思い至り、純粋な祉狼では手玉に取られるのではないかと心配になる。

 一刀たちが顎に手を当てて呟いたので、三王はその名前に何か意味が有ると察し話を中段して一刀たちの顔を見た。

 

「一刀、それは久遠が援軍を要請した武将の名前よね……」

 

 蓮華が確認をすると、一刀たちはハッとして直ぐに笑った。

 余談だが、久遠を始め祉狼の嫁となった女性達や、昴の嫁となった女の子達、更に狸狐の事をここでは全員真名で呼んでいる。

 彼女達はもう既に身内として扱われているのだ。

 この辺りは五胡の姫や聖刀が『城外』から連れてくる嫁で慣れた物である。

 そんな三王に一刀たちは松平元康の事を説明し始めた。

 

「「「ああ、正史では戦国時代を最後に征する武将だよ。その時は徳川家康って名前に改名しているけどね。」」」

 

「あれ?ねぇ、ご主人さま。久遠ちゃんとひよ子ちゃんも日の本を統一するんだっけ?」

「桃香、久遠とひよ子ではないわよ。正史の織田信長と豊臣秀吉。そして織田信長は統一前に明智光秀に裏切られて死ぬのよね、一刀。」

 

 桃香がうろ覚えの上色々と端折った事を、華琳が笑って訂正確認する。

 桃香に対する華琳のこんな優しい態度も今では当たり前になったなと一刀たちはふと思いつつも、華琳が自分たちには正史と外史は違うのだという意味を込めた注意をしていると理解した。

 

「「「済まない、華琳。でも、徳川家康の性格がなぁ………」」」

 

 一応は謝るが、引き下がらない一刀たちに蓮華が助け船を出す。

 

「正史の徳川家康はどの様な性格なの?」

「「「そうだな………『鳴かぬなら鳴くまで待とう((時鳥|ホトトギス))』って詩が有ってね。徳川家康の性格を例えて詠まれた物なんだ。」」」

「我慢強い性格という事かしら?」

「それだけでは無さそうね。」

 

 華琳が直ぐに句の意味を読み解いた。

 

「虎視眈々と機会を待ち続けて、最後に『春』を手に入れた。と、いった所かしら。」

「春って………天下の事ですよね?」

「桃香もやっと詩という物を理解できる様になったわね♪」

 

「「「でも、この詩は晩年の家康を詠んだ物で、若い頃は血気に逸る事が多かったらしい。それが原因で酷い負け戦をした事が有るんだ。」」」

 

「若い武将にはよく在る話よね。うちの子達も同じでしょう。光琳とか冰蓮とか♪」

 

「「「家康の凄い所はその負け戦の後、負けて悔やむ姿を絵師に描かせて、それからはその絵を見ては自分を戒めた………そうだ、家康の名言を思い出した。『堪忍は無事長久の基、怒りは敵と思え』だ。」」」

 

 華琳、蓮華、桃香は子供達よりも自分達の若い頃を思い返してクスクスと笑い出す。

 

「耳の痛い言葉だわ♪」

「雪蓮姉さまとシャオを相手にしてたからそんな言葉は浮かびもしないわよ♪」

「愛紗ちゃんに教えたらどんな顔をするかな♪」

「「「愛紗よりも今は二刃に聞かせる言葉だよなぁ………」」」

 

 二刃は祉狼から新しい嫁を迎えた報告が届く度に怒りの矛先を一刀たちに向けてくるので、一刀たちは二刃を宥めるのに苦労していた。

 溜息混じりの一刀たちにまだ少し笑いながら華琳が話を戻した。

 

「そうなると、その松平元康という子がどんな性格なのか気になるわね。さっきも言ったけど正史と外史は違うのだから今の話は参考程度に聞いておくけど、実際にはやはり会ってみない事には判らないのだし。まあ、聖刀が居るからあの子が祉狼に良くないと判断すれば遠ざけるでしょ。」

 

 一刀たちは自分がこの外史に来た頃と同じ年齢に成長した息子を思い浮かべた。

 当時の自分たちよりも遥かに頼り甲斐の在る青年に育った事は実に嬉しい限りだ。

 

「「「聖刀も今回の事で更に成長してくれるだろうけど……………早く帰ってきて欲しいとも思うよな…………」」」

「眞琳達がねぇ…………」

 

 聖刀の帰りを待つ眞琳を筆頭とする妻軍団が毎日の様に色々と騒ぎを起こしていた。

 自分達の若い頃を思えば気にする程では無いのだが、親としては子供達にやはり何かしてやりたいと思ってしまう物だ。

 

「子供達もそうだけど、太白ちゃんも大変なんだよ、ご主人様。」

 

 桃香の言う太白とは昴の母親の孟達の真名だ。

 夫であるインテリが吉祥の銅鏡に頭を叩きつけるとういう奇行をしてから、太白にはインテリを監視して気を反らせる事が任務となった。

 平たく言うと旦那とイチャイチャして昴の事に頭が回らない様にするのが仕事となったのだ。

 これだけ聞けばそれで給金が貰える極楽な仕事に思えるが、先日は街中で太白がブルマと体操服に赤いランドセルを背負った姿でインテリと買い物をしている姿を桃香は目撃してしまった。

 見た目ロリの太白はその姿に違和感や痛々しい物は無いのだが、明らかに疲れた顔をしていた。

 

「なんだか夜が激しいらしくて、このままじゃ太白ちゃんが懐妊する前に身体を壊しちゃそうだよ………」

「「「あのバカは……………うん、インテリの方は俺たちで早急に対策を考える。」」」

「ありがとう、ご主人さま♪」

 

 桃香の笑顔に艶っぽいモノが含まれていた。

 どうやらインテリと太白の話をしてその行為を思い浮かべてしまった様だ。

 一刀たちは改めて桃香、華琳、蓮華の顔を見て、聖刀が生まれた頃からまるで変わらないその姿に驚異を感じるが、同時に聖刀ではない息子が元気になってしまった。

 

「「「………三人とも今夜は……」」」

 

「あら♪今夜と言わず、もう仕事は切り上げて今からでも構わないわよ♪」

「ちょ、ちょっと華琳っ!」

「ええ!?今からですか!?」

 

 華琳の提案に蓮華と桃香は流石に躊躇った。

 

「折角一刀たちがその気になったのだもの♪聖刀は暫く子供が作れないし、後宮を空けておくのも勿体無いじゃない♪」

「それは………まあ……………はぁ、駄目ね………気持ちはもう流されてる………」

「あはは………これで懐妊できたら香斗ちゃんたちの二十四歳年下の妹だね♪」

「それよりも蓮紅達にバレたら嫌味を言われそうだわ………」

 

 蓮華が溜息を吐きつつも一刀たちに身を寄せた。

 

 房都の城は今日も平和だった。

 

 

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 場面は日の本に戻り、長久手近くの街道。

 

「申し訳ございませんっ!本っ当に申し訳ございませんっ!」

 

 ひとりの少女が何度もペコペコと頭を下げていた。

 

「綾那っ!あなたが謝らないでどうするのっ!」

「ぶぅ〜………綾那悪いことしてないです…………」

 

 綾那は人差し指同士を突き合わせ唇を尖らせている。

 そんな綾那を叱る少女は祉狼より年上で、黒髪をポニーテールに纏めていた。

 謝る姿が斗詩を連想させ、祉狼は親近感を覚えると同時に気の毒な気分になっていた。

 

「ええと、君も三河の人だよな?」

「は、はいっ!私の名は榊原小平太康政!通称は歌夜と申します!どうか歌夜とお呼び捨て下さい!伯元さまっ!」

「俺の通称は祉狼だ。祉狼と呼んでくれ♪」

「は、はい♪祉狼さま♪」

 

 顔を赤らめて返事をする歌夜に、ひよ子、転子、エーリカ、雹子の目が光った。

 

「実は私、祉狼さまがご降臨なされる姿を田楽狭間で見ていたんです♪」

「あーっ!歌夜ずるいです!綾那も一緒に見ていたのですー!あれから綾那はずっと子度さまとお話がしてみたかったですよ♪」

 

 歌夜と綾那は憧れのアイドルに出会った田舎の少女みたいにテンションが上がっていた。

 

「ああっ!あの時感じた幼女の視線は綾那ちゃんだったのねっ♪私の事は通称の昴でいいわよ♪」

「昴さま、綾那が見てたの気づいてたですか?」

「ええ♪あの時は現状の把握が優先だったから、泣く泣く声を掛けなかったんだけど、これだったら挨拶くらいしておけば良かったわね♪」

「あの時は綾那達も撤収の命令が出ていたので泣く泣く見送ったのです………」

「私ももっと近付きたかったのですけど、あの時は祉狼さま達が織田陣中に降りられたので…………私達は今川勢でしたし………」

 

「ちょっとお待ちください。それ以上祉狼さまと話すのなら、このわたくしを通して頂きます。」

 

 歌夜と綾那の前に立ち塞がったのは嫉妬の炎を燃やす雹子だ。

 愛刀の太平広はまだ鞘に収まっているが、いつ抜かれてもおかしくない雰囲気を醸し出している。

 

「そ、そうなのですか!?し、失礼致しました!祉狼さまにお会いできてつい興奮してしまって………」

 

 あっさり引き下がる歌夜に雹子は少し拍子抜けして怒りの色が少し弱まった。

 その時、数頭の騎馬が三河側から駆けて来て、その中には守られる形で馬を駆る詩乃の姿も有った。

 

「祉狼さま、どうしてこのような場所にいらっしゃるのです?ひよ、ころ、エーリカどの、上洛の準備はどうしたのですか?」

 

 詩乃は到着するなり馬から降りて現状の把握を始めた。

 

「それに森家の方々もいらっしゃって一体何の騒ぎです!?」

「詩乃!無事で良かったっ♪」

 

 祉狼は返事よりも先に詩乃を抱き締めた。

 まさかいきなりそんな事をされると思っていなかった詩乃は動転して顔を真っ赤にする。

 

「し、ししし、祉狼さまっ!?み、皆がみていますっ!……………(ああ…でも女としての優越感も…………?)」

 

「詩乃。森家の方から長久手付近の山中に鬼が現れたと情報を頂きました。ゴットヴェイドー隊は森家の方々と協力して鬼の殲滅と付近住人の救助、鬼の侵入経路を探る為にここまで来ました。」

 

 エーリカが冷めた目で淡々と語るのを聞いて、詩乃は納得がいった。

 

「そ、それでは、祉狼さまは…………私を………」

 

「ああっ!心配したぞっ!だから詩乃が無事でほっとしたっ♪」

 

 詩乃はわざと言葉を濁す事で祉狼からこの言葉を引き出した。

 やはり、愛する相手の口から直接言われる方が嬉しいのだから。

 しかし、それは同時に他の愛妾から妬まれる言葉でもある。

 

「し、祉狼さま、三河のお二人とご挨拶は…」

「ああ、もう済ませたぞ♪」

 

 詩乃は祉狼の腕から解放されて歌夜と綾那に振り返った。

 

「はい♪詩乃さんの仰った通り、祉狼さまはとても素敵な方ですした♪」

 

 歌夜がまた顔を赤らめるのでエーリカ、雹子、転子、ひよ子が詩乃に詰め寄る。

 

「(詩乃!あの方に何を言ったのですか!?)」

「(あの娘の目は完全に祉狼さまに恋をする女の目です!)」

「(詩乃ちゃん!もしかしてお頭の事を歌夜さんの前で褒めちぎったんじゃないの!?)」

「(私達が愛妾だって事も話したの!?)」

 

 詩乃は四人の言葉を同時に聞き分けひとつ深呼吸をしてから答えた。

 

「私が三河を訪れていた理由はご存知ですよね。ご当主松平元康様に尾張の現状を説明するからには祉狼さま、並びに聖刀さま、昴さんの話は絶対の必要事項です。当然、現在の正妻、側室、愛妾がどうなっているかもお伝え致しました。」

 

 ひよ子は詩乃が三河へ出発した次の日に昴と小夜叉が結ばれたのを思い出した。

 

「あ、詩乃ちゃん。小夜叉さまが昴ちゃんの奥さんになったのは知らないよね?」

「ああ、やはりそうなりましたか。時間の問題だと判っていたので数に入れておきました。それよりも雹子どの。本多弥八郎正信という名前をご存知ですか?」

「ええ、元康様の腹心ですね。」

 

 雹子は顔を寄せ口元を手で隠して一言付け加える。

 

「(かなりの女狐だと聞き及んでいます。)」

「流石、森家の番頭ですね。その正信殿にまんまと乗せられてしまい祉狼さまがいかに素晴らしい方かを、つい熱く語ってしまいまして………その結果、歌夜どのが祉狼さまを一層焦がれてしまう結果に………」

「今孔明と呼ばれる貴女が何をしているのです!」

「では雹子どのは面等向かって祉狼さまの人格を疑われて黙っていられますか!?」

「それは……………わたくしならキレて刀を抜きますね…………」

「私も心の中では抜いていましたよ…………お陰で弁舌に力が入ってしまいました………」

 

 悔しそうな詩乃に転子は笑って慰める。

 

「詩乃ちゃんが本気でお頭を褒めたら、それこそ神様みたいな扱いになっちゃうよね♪」

「そこで更に正信殿に攻め込まれまして…………それほど素晴らしい御仁ならば歌夜どのを祉狼さまの愛妾にしてはと元康様に進言されてしまいました。」

「人質の代わりにって事?…………はぁ、最初からそれが目的だったんじゃないの?」

 

 転子の推測に皆が頷く中、エーリカだけが困った顔をしていた。

 

「あ、エーリカさん。今の日の本では今回の様な同盟を結ぶ場合、立場の低い方が裏切らない証として身内を人質に差し出す事が有るのです。」

「その様な事をするのですか!?」

 

 エーリカは神の名の下に誓約書を交わすのと同じなのだと理解はする。

 しかし、生きた人間を誓約書の代わりにするとは、正にカルチャーショックだった。

 

「歌夜どのは元康様の信頼厚い武将ですので、祉狼さまの愛妾に差し出す事で同じ意味を持たせられます。そして綾那どのも昴さんの愛妾に…」

 

「あーーーーっ!そうなのですっ!綾那は昴さまと死合うために来たのでしたっ!!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 いつの間にか紛れ込んでいた綾那の声に五人は驚いて振り向き、詩乃以外の四人はその内容にも驚いた。

 

「綾那は詩乃から昴さまがとっても強くて、綾那では絶対勝てないって言われたです!本当にそこまで強いのなら是非綾那の旦那様になって欲しいのですー♪」

 

「いえ………ですから死んでしまったら夫婦になれないではないですか…………」

 

 詩乃は頭を抱えて綾那に説得を試みた。

 実は似た様な遣り取りを三河の岡崎城からここまで何度も繰り返しているので、詩乃はいい加減虚しくなっていた。

 

「おもしれぇ♪やれよ、鹿兜♪」

「良し♪ワシが見届け役をしてやろう♪」

 

 小夜叉と桐琴が笑って綾那の後押しをする。

 森の母娘と綾那は刃を交えている内に互の強さを認め合い、友情の様な物が芽生えていた。

 そして、当事者となる昴はこの棚ボタ状態に自分の頬を抓っている。

 

「ええと………つまり、綾那ちゃんと闘って、勝ったらお持ち帰りしていいのねっ♪」

「はいなのです♪その代わり綾那が勝ったら、綾那が昴さまをお持ち帰りするのです♪」

 

 結果はどちらも変わらない様に聞こえるが、綾那が勝った場合は下手をすると頸だけお持ち帰りとなる可能性も有るのだ。

 

「それじゃあ早速始めましょう♪」

「望むところなのです♪」

 

 綾那が蜻蛉切りを構えると、昴は肩に掛けた麻袋から青龍偃月刀を一挙動で引っ張り出した。

 

「あやや!?その袋………」

「ふふ♪この袋はちょっと特別製なの♪」

 

「この蜻蛉切りとおんなじなのですっ♪」

 

「へ?どういう………」

 

 綾那は構えを解いて何やら蜻蛉切りをいじり始めた。

 そして槍の中から竹の水筒を取り出して見せた。

 

「じゃじゃーーん♪他にもこんなのが入っているのです♪」

 

 更にお弁当の包み、纏めた縄、丸薬の入った印籠、着替えの服等々が槍である蜻蛉切りの中から出て来た。

 詩乃、ひよ子、転子、エーリカは目の前の光景が信じられず、ただポカンと見つめているが、雹子はほうと感心していた。

 

「成程、あれが名工藤原正真の槍ですか。」

「「「「それで納得するんですかっ!?」」」」

 

 出した物を仕舞い直して、綾那は再び蜻蛉切りを構えた。

 

「それでは昴さま!いざ尋常に勝負です!」

「武神・関雲長より直々に賜ったこの青龍偃月刀でお相手するわっ!」

 

 昴の青龍偃月刀は愛紗の物の複製で、誕生日プレゼントで貰った物だ。

 重さもしっかり八十二斤ある。

 現代でもその名の知れた二振りの武具が時空を超えて激突する。

 

「ふにゃぁああああああああっ!」

「萌えぇええええええええええっ!」

 

 掛け声は緊張感がまるで無いが、繰り出される一撃は互いに相手を叩き伏せようとする剛?だ。

 しかし、綾那は相手が悪かった。

 目の前のロリを手に入れられるとなれば、昴の力は極限まで増大する。

 

ガキィイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!

 

「はややっ!?」

 

 昴の一撃が綾那の手から蜻蛉切りを弾き飛ばした。

 

「どうかな?綾那ちゃん♪」

 

 笑顔で余裕を見せる昴を綾那は驚いた顔で見つめていたが、直ぐに満面の笑顔になって昴に飛び付いた。

 

「すごいのですっ!ここまで見事に負けたの綾那初めてですよっ♪」

「うふふ♪それじゃあもうひとつの初めてもイタダイちゃおうかしら♪ぐっふっふっ♪」

 

 現代なら間違いなく通報物の笑いを浮かべて、昴は綾那をお持ち帰りしようと抱き上げた。

 

「おい、昴!なにやってんだよ!さっさと鬼どもぶっ殺しに行くぞっ!」

 

 小夜叉に言われてここに来た本来の目的を思い出す。

 

「今のを見てたらまた腕が疼いてきやがったぜ♪」

「愚図愚図しておると鬼どもはワシが全部狩ってしまうぞ♪」

「なんだとぉ、母!鬼をぶっ殺すのはオレに決まってんだろうがっ!」

「速いもん勝ちじゃ♪殺りたければワシより早く殺れば良いだろうが♪殺れるもんならな♪」

「殺ってやらあっ!!」

 

 物騒な母娘の会話に詩乃が祉狼の顔を横目で見た。

 鬼は祉狼が救おうとしている相手でもある。

 それを目の前で殺させて、祉狼の心が押し潰されないかと心配なのだ。

 

「詩乃………俺はまだまだ未熟者だ。」

 

 振り向く事無く呟く祉狼にドキリとさせられたが、詩乃は動揺を隠し無言で聞く体制に入った。

 

「鬼にされた人を生きたまま元に戻せないし、人として逝かせてやるにも時間が掛かる。俺がノロノロしている間に鬼が人を殺し、人が鬼にされてしまうだろう。だったら今は鬼を殺すしかない…………」

 

 言葉は達観しているが、その言葉を語る顔は悔しさが溢れていた。

 

「詩乃が鬼に襲われるのを想像したら、俺は鬼を元に戻す目的を忘れて詩乃を救う為に鬼を殺す事を考えていた。俺は詩乃が言ってくれる神様みたいなヤツじゃない。大好きな人を守る事を優先するごく普通の人間なんだ………」

「私はその様な祉狼さまを愛しておりますよ♪神仏となられてしまっては、久遠さまや他の方々ならいざ知らず、ごく普通の…少しばかり小賢しい小娘の私では祉狼さまに近付けなくなってしまいます………」

 

 詩乃の言葉に祉狼が漸く詩乃の顔を見た。

 

「だったら俺は詩乃が離れない様に手を引いて連れ回すぞ。怖い思いもさせてしまうがそれでも構わないか?」

「………元より……私は祉狼さまにこの命を救って頂いた時から覚悟はできております。」

 

 祉狼と詩乃は互を見つめ合い微笑み合った。

 

「よし!一刻も早く俺は鬼を人に戻す方法を探る!手伝ってくれ詩乃♪」

「御意に♪」

 

 一行は鬼の巣を目指して山中へと向かった。

 

 

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 桐琴、小夜叉、雹子の先導でたどり着いた先には、大きな洞窟が口を開けていた。

 

「おうおう、匂うぞ匂うぞ♪クソッタレな鬼どもの匂いじゃ♪」

「おい、チビ!鬼を見てションベンもらすなよ♪」

「綾那はもう子供じゃないからオシッコもらさないのです!」

「綾那ったらこの間おねしょしてたわよね♪」

「歌夜―!言っちゃダメなのですっ!昴さまに嫌われてしまうのですっ!」

「そんな事ないわよ!むしろ私は益々好きになっちゃうから!」

 

 小便の話で盛り上がる前衛組を後衛組の女性陣は苦笑いをして聞いていた。

 前衛組は桐琴、小夜叉、雹子、綾那、歌夜、昴の六人。

 後衛組は祉狼、エーリカ、ひよ子、転子、詩乃、美以の六人と宝ャ。

 更にその後ろの貂蝉と卑弥呼なのだが、いつもは見せない真剣な表情で洞窟の入口を睨んでいる。

 

「卑弥呼…………この気配………」

「うむ…………いかんっ!桐琴っ!!」

 

 卑弥呼の声に桐琴は振り返らず、洞窟に向けて蜻蛉止まらずを突き出した。

 

「なんじゃこいつは?」

 

 『それ』は唐突に虚空から現れた様に見えた。

 実際にはそう見える程の素早さで洞窟の奥から出現したのだ。

 『それ』は((翳|かざ))した腕で蜻蛉止まらずを受け止めていた。

 『それ』が鬼である事は間違いない。

 しかし多くの鬼を見てきた桐琴でもこの鬼を見るのは初めてだった。

 身の丈が三メートルを超えた巨躰をしており、皮膚は固くまるで鎧の様だ。

 

「グガァアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 吠えて腕を振り回し、蜻蛉止まらずを振り払うと同時に前衛組に攻撃を仕掛ける。

 全員が飛び退いて腕は回避したが、鬼の攻撃は地面に在った岩を粉々に叩き割った。

 飛び散る岩の破片を回避する為に更に後退を余儀なくされる。

 大鬼は桐琴目掛けて岩の破片と同じ速度で飛び出した。

 

「このワシに目を付けるとは良い判断をしよる!受けて立つぞっ!おらぁあああっ!!」

 

 鬼は二本の腕を駆使して桐琴に襲い掛かり、桐琴は素早い槍捌きでその攻撃を防いだ。

 そう、森一家の棟梁『鬼の三佐』が防御に徹しなければならない程、鬼の攻撃は速く的確だった。

 

「悪魔の………子………」

 

 エーリカが祉狼の傍らで青褪めていた。

 

「あれが『鬼子』なのかっ!?」

「は、はい!ですが私の知る悪魔の子よりも遥かに速く強いですっ!」

 

「てめぇ!母とだけ遊んでんじゃねぇよ!」

「桐琴さん!助太刀します!」

 

 小夜叉と昴が大鬼の背後から攻撃を仕掛けようとしたが、鬼は桐琴を飛び越えて背後に移動した。

 

「メィストリァ、あの鬼子が桐琴を狙ったのは、彼女が司令塔だと判断した為です!そして小夜叉と昴さんを桐琴と一緒の視界に入れる為に移動しました!かなり頭もいいです!」

「祉狼ちゃん!氣を練るのよ!」

「わしと貂蝉も加勢してヤツの動きを止める!」

 

 貂蝉と卑弥呼も鬼子へ向かって飛び出した。

 

「お頭!洞窟から鬼がっ!!」

 

 転子の指差した先ではいつもの鬼が洞窟の奥からゾロゾロと這い出して来ていた。

 

「こちらは任せて!エーリカ!貴女は祉狼さまをお守りしなさい!歌夜さん!綾那さん!」

「はいっ!」

「任せるのですっ!」

 

 雹子、歌夜、綾那の三人が洞窟から出て来る鬼を次々と倒して行く。

 祉狼は鬼子が身に纏う病魔を倒す為に氣を練っていた。

 

「鬼子相手だとどこまで効き目が有るか解らないが、桐琴さんの手助けにはなる筈だ!」

 

 祉狼が手甲に収納してある鍼を抜こうとした時に動きが止まった。

 

「鍼が………光っているだと?」

 

 手甲から漏れた光がゆっくりと明滅を繰り返している。

 それは祉狼の持つ鍼の中で一番大事な鍼だ。

 祉狼は鍼を引き抜き、目の前に翳してマジマジと見つめた。

 

「お頭?いつもはもっとピカーって光るのに………体調が悪いんですかっ!?」

「いや…………俺はまだ氣を込めてない…………鍼が自ら光っているんだ。」

 

 光っているのは金鍼だった。

 それは父華佗から授かった物で、かつて華琳の頭痛起こした病魔を倒し、冥琳を蝕んだ病魔を倒し、悪龍ヴリトラをも倒し、最近では半羽の命を救った金鍼だ。

 

「そうか………かつて無い強敵だとお前も武者震いをしているんだな…………」

 

 祉狼は瞬時に氣を滾らせて金鍼へと送り込んだ。

 

「はぁああああああああああああああああああああああああっ!!

我が金鍼に全ての力!賦して相成るこの一撃!俺達の全ての勇気!

この一撃に全てを賭けるっ!!

もっと輝けぇぇええっ!!

((賦相成|ファイナル))!((五斗米道|ゴットヴェイド))ォォオオオオオオォォォォ!」

 

 光り輝く金鍼を手に祉狼は震脚を放つ!

 先日、市に見せた活歩で一気に鬼子へと飛び込んだ!

 

「元気にっ!!」

 

 桐琴、小夜叉、昴、貂蝉、卑弥呼を相手にしていた鬼子は完全に虚を突かれ、祉狼の金鍼が硬い皮膚を貫きその身に深々と突き刺さった。

 

「なれぇええええええええええええええええええっ!!!」

 

「ぐぎゃぁあああああぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!」

 

 渾身の氣を送り込んで無数の病魔を消し去っていく!

 

「ま、だ、だぁああああああああああああああああああっ!!」

 

 鬼子の巨躰はまるで感電でもしている様に痙攣している。

 祉狼の目には病魔の向こうに命の光が見えていた。

 祉狼はその光が消えぬ様に、何とか繋ぎ止めようと手を伸ばす。

 

 しかし、祉狼の視界が急激に暗くなって行く。

 祉狼の氣が病魔よりも先に底を尽きそうだった。

 

 

「祉狼っ!!あと一息だっ!」

 

 

 声と共に温かな氣が外から流れ込んでくる。

 その声。

 その氣。

 祉狼が最も長い時を共に過ごした、尊敬する((従兄|あに))。

 聖刀が背中を支えて氣を送ってくれていた。

 

 祉狼は無言で頷き、再び病魔と命の光をその目に捉えた。

 

 

「「病魔っ!覆滅っ!!」」

 

 

 鬼子の身体がボロボロと崩れ塵になって行く。

 そしてこの場に似つかわしくない声が聞こえて来た。

 

「ほぎゃあ!ほぎゃあ!ほぎゃあ!」

 

 鬼子の中から人間の赤ん坊が現れたのだ。

 

 一部始終を見ていたエーリカの目から大粒の涙が溢れた。

 

「あぁ…メィストリァ…………あなたは本当に神の子です……………」

 

 十字を切って手を組み、涙を流しながら神に感謝の祈りを捧げる。

 

 赤ん坊は桐琴がその豊満な胸の中に抱き留めた。

 自分の母親に抱かれる赤ん坊を見て小夜叉が溜息を吐く。

 

「これが鬼子の正体かよ?なんか拍子抜けしちまったぜ……」

 

「小夜叉ちゃん♪鬼はまだ…エーリカさんっ!!」

 

 昴が振り向いた時、一匹の鬼がエーリカ達に向かって襲いかかろうとしていた。

 小夜叉が人間無骨を振りかぶり、ひよ子と転子も刀を抜くが間に合うか微妙なタイミングだった。

 

グシャッ!

 

 肉と骨が潰れる音。

 続いて聞こえて来たのは、

 

「にゃああああああああああああああああああああっ!!」

 

 美以の勝ち誇った鳴き声だった。

 

「南蛮大王の美以にかかれば、こんなのあさめしまえなのにゃ♪」

 

 美以の腕には虎王独鈷が抱えられ、小さな身体を精一杯ふんぞり返らせている。

 

 それからは鬼の掃討戦となった。

 さほど時間も掛からず鬼は全て倒すことが出来たが、意外なのは桐琴が赤ん坊を抱きかかえてからは戦闘に参加しなかった事だ。

 聖刀と共に合流した狸狐が歌夜と綾那に挨拶をしてから鬼の巣となっていた洞窟を探索すると、奥に女性の遺体が倒れていた。

 それは鬼子を生んだ母親だった。

 狂気に歪んだ顔で息絶えており、祉狼達は目と口を閉じて女性を埋葬した。

 

「おい、各務。このガキはワシが育てる。今からこのガキの名前は力丸じゃ。」

「判りました、桐琴さん。」

「桐琴さまが育てるんですか!?」

 

 思わず転子が聞き返してしまった。

 

「ああっ?ワシはもう三人産んで育てとるんだぞ。今更ひとり増えた所で手間は変わらんわ。」

「は、はあ………そう言えばそうでしたね………」

 

 転子は先日見た蘭丸と坊丸の姉妹を思い出した。

 

「それに鬼として生まれたガキだ。これほど森家に相応しいガキはおるまい♪」

 

 桐琴は笑って言うが、普通ならば誰も気味悪がって引き取る者は居ないだろう。

 織田家中の者ならば久遠を筆頭に育てると言い出す者が大勢いるだろうが、祉狼との間に子供が出来た場合に揉め事の種になるのは明白だ。

 

「桐琴さんは優しいね♪」

 

 聖刀が桐琴に笑い掛けると、桐琴は鼻で笑った。

 

「はっ、ただの気まぐれじゃ。」

 

 桐琴は聖刀に背を向けて歩き出す。

 

「おい、各務!力丸を連れて先に屋敷に戻れ!家中に乳の出る女がおるじゃろうからそいつを乳母にしろ!ワシは少しばかりこの周辺に鬼が居ないか探ってから戻る。」

「はい、全て上手く整えておきます………桐琴さん、顔が赤いですけど……」

「うるせぇ!さっさと行けっ!」

 

 雹子は一度祉狼に挨拶をしてから、力丸と名付けられた赤ん坊を背負い馬で岐阜城へと帰って行った。

 

「おい、クソガキ!鬼どもを探しに行くぞ!まるっきり食い足りんわいっ!」

「おうよ♪今度こそどっちが多く鬼をぶっ殺せるか勝負だ、母♪」

「おっと、その前に、祉狼!」

「ん?どうしたんだ、桐琴さん?」

「もし鬼子を見つけたら殺さずに戻って来てやる。その時はまた頼むぞ。」

 

 祉狼は桐琴からそんな言葉が出るとは思っていなかったので、初めは意味が理解出来なかったが、その意味を悟ると笑顔で頷いた。

 

「ああ♪また聖刀兄さんに頼る事になるかも知れないが、必ず♪」

 

 桐琴は笑って踵を返すと、小夜叉を連れて山の中に消えた。

 

 

-4ページ-

 

 

 ゴットヴェイドー隊は鬼の情報を探る為の拠点に長久手の宿を選んだ。

 今日の所は祉狼が氣を使い果たして身動きもままならない状態なので、行動は明日からとして充分に鋭気を養う為に休む事となった。

 部屋に通されて直ぐに祉狼を布団で寝かせると、昴が立ち上がって部屋を出て行こうとする。

 

「………私、ちょっと山に入って自然薯とか無いか探してくるわ。」

 

 昴がそう言うと綾那がすかさず反応した。

 

「綾那は昴さまのお手伝をするですー♪」

「あら〜、それじゃあわたしは祉狼ちゃんの為に猪かクマさんでもとってこようかしらん♪」

「ふむ、悪くはないが詩乃が戻って来たのだ。ひとっ走り海まで行って魚を買ってきた方がよいのではないか?祉狼ちゃんには蛸が良いだろう♪」

 

 長久手の宿から一番近い漁村まで直線距離で15km程なので卑弥呼であれば往復でも一時間掛からないだろう。

 問題は卑弥呼を初めて見た村人が魚を売ってくれるかどうかだが。

 

「別に両方有ってもいいんだから手分けしましょ♪」

「それもそうだの♪」

 

 貂蝉と卑弥呼は早速宿を飛び出し、それぞれの目的地に向かって走って行ってしまった。

 

「それじゃあ私も行ってくるわ。行きましょう、綾那ちゃん♪」

「はいなのです♪」

 

 昴と綾那も部屋を出て行く。

 二人を見送ってからひよ子が歌夜に声を掛けた。

 

「歌夜さん、私達も祉狼さまの為に栄養のある物を買いに行きましょう♪」

「え?私もですか?」

「あ、ひよ。私も行くよ♪歌夜さんにお頭の好きな物とか教えてあげますよ♪」

 

 祉狼の話が聞けると聞いて、歌夜はひよ子と転子に頷き立ち上がる。

 

「それじゃあ、聖刀さま、エーリカさん、詩乃ちゃん、狸狐ちゃん、祉狼さまと美以ちゃんをお願いしますね♪」

 

 美以も祉狼の隣に布団を敷いてお昼寝をしていた。

 三人が出掛けると、詩乃は聖刀に向き合う。

 

「聖刀さま。三河での話をお聞き下さいますか?」

「綾那ちゃんと歌夜ちゃんには聞かせたくない話なんだね。」

 

 出掛けた者達は全員がその為に取った行動だ。

 詩乃は先ず鬼退治の前にひよ子達へ話した内容を伝え、それから更に付け加えた。

 

「元康様から聖刀さまの事を詳しく尋ねられました。しかし、あの尋ね方は入手してある情報と照らし合わせていると思われます。」

「う〜ん、個人的には目立った行動はしない様に気を付けていたんだけどなぁ。『顔を隠した変な奴』くらいに。」

「いえ、知行地の運営について特に訊かれました。革新的な久遠さまとは言え、やはりあそこの運営方法は飛び抜けていますから………元康様は久遠さまの幼馴染ですから、久遠さまとは違うとお気付きになられたのでしょうね。」

「行政や農地の改革を知りたいのならいくらでも教えてあげるんだけどねぇ♪」

「それで済めばまだ良いのですが………私の読みでは元康様の目的は聖刀さまご本人だと思います。」

 

「なっ……」

 

 狸狐が思わず立ち上がりかけた。

 詩乃は真剣な顔で、不安そうな狸狐に振り向く。

 

「元康様は聖刀さまのお命を狙う訳ではありません。狙いは聖刀さまのご血筋、かの帝国の正当なるお世継ぎで『田楽狭間の天人』の中でも最高位。もしお子を授かる事が出来れば、戦乱が治まった世では大きな切り札となるでしょう。………狸狐、これはあなたの戦いになりますよ。かの地で聖刀さまのご帰還をお待ちの奥様方に代わり、あなたが聖刀さまの盾となるのです。」

 

 詩乃は本気で狸狐の事を心配していた。

 過去には自分を蔑み殺されそうになった相手だが、今の狸狐は全てを水に流し『友』と呼べる程の信頼関係を築いているのだ。

 

「身分違いな相手に……勝てるだろうか?」

 

 『斎藤飛騨守』ならば身分が上の相手だと戦う前から逃げ出していただろう。

 しかし『狸狐』は戦う意思を見せている。

 これは大きな進歩だ。

 

「私も協力します。そして何より聖刀さまが狸狐の為を考えて下されば負けはしないでしょう。」

「ははは♪これは釘を刺されちゃったな♪僕も気を付けるよ♪」

 

 お気楽な言い方では有ったが、聖刀が自分の事を考えてくれると言った事が狸狐には嬉しかった。

 そしてエーリカも狸狐に頷いて見せる。

 

「私も微力ながら協力いたします。所で詩乃、歌夜どのと綾那どのはその様な下心が有るとは思えないのですが………」

「あのお二人は良い意味で三河武士です。エーリカどのの仰る通り純粋に恋い焦がれておいでなのは間違いありません。しかし、そこを利用され、外堀を埋められました。」

 

「詩乃、俺はどうすれば良い?」

 

 布団で横になっていた祉狼が上体を起こした。

 

「祉狼さまは何も気にする事は有りませんよ♪結菜さまの了承を得てからにはなりますが、歌夜どのも我ら同様愛して差し上げて下さい。」

 

「それなんだけど…………俺はまだ歌夜本人から愛妾の話を聞いていないんだが………」

 

「「「「………………………………」」」」

 

 

-5ページ-

 

 

 昴は綾那と共に山道を歩いている。

 祉狼の為に自然薯を探すと言ってここまで来た訳だが、前述した通り詩乃が聖刀と話をする為の口実だ。

 そして昴にはもうひとつ別の目的が有った。

 念の為に言うと綾那を人気の無い所に連れ込む事が目的ではない。

 

「昴さま♪綾那とろろイモ大好きなのです♪白くてネバネバしてドロドロして♪」

「う、うん……そ、そうねぇ♪………」

 

 昴は早くも決心が鈍りかけていた。

 

「昴さま?こんな道の近くにおイモあるですか?綾那はいっつも山の奥で掘るですよ♪」

「ごめんね、綾那ちゃん……実はおイモとは違う物が有りそうなの。」

 

(多分この辺りだと思うんだけど…………幼女の気配がしたのは………)

 

 結局は幼女絡みだが、今回は少々事情が違った。

 宿へ向かう途中でその気配を僅かに感じていたのだが、意識を向けた時には気配が消えていたので気の所為かとその時は遣り過ごした。

 しかし、やはり気になりこうして確認しに来たのだ。

 

「っ!この香りっ!!見つけたわっ!」

「昴さま、匂いでおイモ見つけられるですか!?」

 

 道から山の中に分け入ると、直ぐに下生えの草の間に白くて細い脚を見付けた。

 草を掻き分けて近づけば、幼女が気を失って倒れている。

 

「昴さま!」

「うん!綾那ちゃん!」

 

「綾那、こんな人みたいなおイモを見るのは初めてですっ!!」

 

「…………いや、人だから…………」

 

 昴は急いで倒れている幼女の脈を取り生きている事を確認する。

 口元に手を翳して呼吸もしっかりしている事を確認した。

 見える部分に外傷は無く、服も血が付いてはいない。

 ここで昴は幼女の身に着けている衣類は土で汚れてはいるが、かなり上質な物だと気が付いた。

 そして腰に佩いた刀は幼女の身長よりも長く、一瞬不釣り合いに見えたが拵えが白と桜色で鞘に可愛いウサギさんの顔が付いており、よく見れば幼女にとても似合っている。

 頭を打っていないか気を付けて優しく撫でる様に確認していると、幼女の目が僅かに開いた。

 

「大丈夫?………私の声が聞こえる?」

 

「…………お…………」

 

 幼女が何を言おうとしているのかしっかり聞こうと耳を口元に近付けた。

 

「………おなか…すいたの…………」

グゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥ…………

 

 盛大なお腹の音に昴はホッとした。

 喉の渇きよりも空腹を訴えるなら命に別条はないと判断したのだ。

 足も顔もプニプニと柔らかさを保っているのも深刻な飢餓状態ではないと思えた。

 

「綾那ちゃん、直ぐに宿に戻りましょう!」

「あ、待ってください、昴さま!綾那、お弁当がまだ有るのであげるですよ♪」

 

 昴は鬼退治の前に見せて貰った蜻蛉切りの中身を思い出した。

 

「ありがとう、綾那ちゃん♪」

「えへへ〜♪」

 

 綾那は昴に頭を撫でられご満悦だ。

 早速、蜻蛉切りから竹皮に包まれたおにぎりを取り出して幼女の口元に近付ける。

 幼女はご飯の匂いに反応して小さな口を開くとおにぎりにかぶりついた。

 すると幼女は目を見開いてパクパクとおにぎりを急いで食べ始める。

 

「んぐっ!」

「あっ!お水もあるのです!」

「ほら、これを飲んで。慌てないで、ゆっくり食べて♪」

 

 喉に詰まらせたご飯を水で流し込んでから、幼女は昴の腕の中で更におにぎりを夢中になって食べ続けた。

 

 

 

「ごちそうさまなのー♪」

 

 全部で五個のおにぎりを食べ終えた幼女は元気を取り戻した様だ。

 昴と綾那も安心して微笑んだ。

 

「ねえ、山で道に迷ったの?お家まで連れて行ってあげるわよ♪」

「お家…………お家は………もう無いの………」

 

 幼女は沈んだ顔で項垂れてしまった。

 昴はこの幼女が何処かのお姫様である事は既に確信していた。しかし、この近辺で城が落とされる程の戦があったのは美濃くらいだ。

 昴の脳裏に斎藤龍興の名が一瞬浮かんだが直ぐに否定した。

 目の前の幼女には我が儘な感じは微塵も無く、素直さの塊の様であった。

 但し、瞳の奥に光る心の強さも見て取れ、相当な武術の鍛錬を積んでいると判った。

 

「ええと………私の名前は孟興子度。通称は昴って言うの。あなたのお名前は…」

「あなたが子度なのっ!?田楽狭間の天人のっ!?」

 

 昴の言葉を遮って幼女が驚いて大きな声を出した。

 

「そうなのです♪この方こそ田楽狭間にピカーって光りながら舞い降りた昴さまなのです♪綾那はそのお姿を見ていたから保証するのです♪」

 

 綾那が身振りも交えて説明すると、幼女も面白がって綾那の真似をし始めた。

 

「「ピカー!ピカー♪ピカー♪」」

 

 昴は二人の仕草の可愛いらしさに萌えて、いつまでも眺めている。

 止める人間が存在しない萌え空間は永遠に続くのかと思われたが、幼女が唐突にある事を思い出して終了した。

 

「ああーーっ!名乗るの忘れてたのっ!あのね、鞠の名前は((今川治部大輔彦五郎氏真|いまがわじぶのだゆうひこごろううじざね))なの♪通称は鞠なの♪」

「え?………もしかして田楽狭間で久遠さまと戦ってた………」

「うんっ!今川義元は鞠のお母さんなのっ♪」

 

「おおっ!鞠さまは今川の殿さんの娘さんだったのですか。綾那は本多平八郎忠勝。三河者なのです♪」

「綾那ちゃん、鞠ちゃんと会った事無いの?」

「綾那は駿府屋形に入れてもらえたことないですから………」

「駿府屋形って………」

 

 鞠は落ち込んだ顔になったがハッキリと昴に答える。

 

「うん、鞠のお家だった所なの。今は信虎おばさんに乗っ取られて、鞠は泰能と逃げ出したの………」

 

 昴には判らない名前が二人出て来たが、事情は判った。

 その『やすよし』がここには居ないのは、鞠を逃がす為の犠牲になったと察しもした。

 

「それでね!泰能が織田三郎殿の所に居る『田楽狭間の天人の孟興子度殿』を頼りなさいって言ったのっ♪」

「私を!?」

「うんなの♪」

 

 頷いた鞠は懐から手紙を取り出した。

 

「これは泰能が昴に渡しなさいって。」

 

 渡された手紙を見ると、確かに『孟興子度殿へ』と宛名書きされている。

 昴は中を読んで驚いた。

 内容は要約すると次の通りである。

 

『はじめまして?♪今川家家老の朝比奈泰能で?す♪周りの奴らって?、どいつもこいつも信用出来ないのよね?。特に松平なんてお屋形様が討ち取られたらさっさと手の平返しやがって!つーか、元々あいつ嫌いだしぃ!でも子度殿は鞠様の味方になってくれるよねぇ〜♪鞠様ってぇ、子度殿好みっしょ♪私が許すから食べちゃえ食べちゃえ♪そんで、駿府屋形を取り戻せば駿河も手に入って一石二鳥!それじゃあ頑張ってねぇ〜♪あ、そうそう!もし鞠様を弄んで捨てたりしたら私が呪って祟って夜な夜な枕元に立っちゃうんだから?年増の幽霊にとり憑かれたくなかったら鞠様を一生大事にしてねぇ〜って誰が年増じゃごらぁっ!!』

 

 昴は背後が気になって思わず振り返ってしまった。

 

「どうしたの?」

「ううん………何でもないわよ〜、あはははは♪」

 

(この私の性格を調べ上げて鞠ちゃんを寄越すなんて相当な策士ね、この朝比奈泰能………でも、((見縊|みくび))られたものね………)

 

 昴はフッと笑って立ち上がる。

 

「この私が鞠ちゃんを見捨てる訳無いじゃない!」

「助けて…………くれるの?」

「ええ♪任せてちょうだい♪それに駿府屋形もいつか必ず取り戻してあげるわ♪」

「うん♪…………ありがとうなの♪」

 

 鞠は笑顔に涙を浮かべて昴に抱きついた。

 

「それじゃあ、鞠ちゃん。暫くは久遠さまの所にご厄介になるけど、大丈夫?」

「うん♪泰能は織田三郎殿にも手紙を書いてくれたの♪」

 

 手紙の内容は先程の物とほぼ同じだろうと昴は予測した。実際にその通りなのだが。

 

グゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥ…………

 

「あやや………綾那もお腹が空いてきちゃったのです♪」

「ごめんなさいなの………鞠が綾那のお弁当食べちゃったから………」

グゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥ…………

 

 鞠のお腹も再び盛大に鳴った。

 三人は顔を見合わせると声を上げて笑い合う。

 

「宿に戻りましょう♪私が二人の為にご飯を作ってあげる♪」

「昴さまが作ってくれるですかっ♪」

「宿………そう言えばここってどの辺りなの?」

「ここは東尾張の長久手よ。宿には私が所属するゴットヴェイドー隊が居るから、着いたら紹介するわね♪」

「ごっとべいどう?」

 

 鞠は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「あ、発音はゴットヴェイドーね。やたらとしつこく訂正してくるのが居るから今の内に練習しておいて。」

「昴さま、ゴットヴェイドーですか?」

「綾那ちゃんすごい♪完璧だわ♪」

「綾那すごいの〜。でも鞠だって負けないの♪ゴットヴェイドー!」

「鞠ちゃんもすごい♪完璧よ♪」

 

 昴に褒められて綾那と鞠は嬉しくなって((燥|はしゃ))ぎ出す。

 

「ゴットヴェイドー♪」「ゴットヴェイドー♪」

「すごいすご〜い♪」

「「ゴットヴェイドー♪」」

グゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥ…………

 

 またしても無限萌え空間に突入しかけたが、今度は二人の腹の音が中断させた。

 

「あ、そう言えばゴットヴェイドー隊の隊長って織田三郎殿の旦那様?」

「ええ、久遠さまの旦那で私の幼馴染みの華?伯元、通称祉狼よ。」

 

 鞠は急にモジモジして自分の姿を気にし始めた。

 昴は直ぐに鞠が『久遠の夫に会う為の身嗜み』を気にしていると察する。

 

「こっそり宿に入ってご飯を食べた後でお風呂に入りましょう♪祉狼に会うのはそれからで♪」

 

「昴♪ありがとうなのー♪」

 

 鞠は昴の気遣いに心から感謝した。

 

 

 

 昴と綾那と鞠は宿の裏口から入って、先ずは宿の人間に台所を使わせて貰う事を交渉し、風呂を沸かして貰う事を頼んだ。

 台所は快く貸して貰え、風呂に至っては既に準備を始めているとの事だった。

 料理は即座に出来る回鍋肉を作り、綾那と鞠に食べさせた。

 二人は昴の作った回鍋肉に驚いていたが、その美味しさにご飯を何杯もおかわりした。

 お腹の落ち着いた所で鞠を宿から少し離れた場所にある風呂へと案内する。

 

「ねえ、昴と綾那も一緒に入ろう♪」

「入るですーーー♪」

「喜んでご一緒するわよ♪」

 

 泰能の手紙に『食べちゃえ』と書いてあったので、昴は遠慮なくご馳走になる事にした。

 

「その前に綾那ちゃん、鞠ちゃん、確認したいんだけど。」

「なんですか、昴さま?」

「なんなの、昴?」

 

「二人共、私のお嫁さんになってくれる?」

 

 ロリコン紳士は相手の同意を得ない限りは決して手を出さないのが礼儀なのだ。

 

「綾那は最初からそのつもりで来たのです♪殿さんにもいいって言われてるですよ♪」

「鞠もなの♪泰能に昴のお嫁さんなりなさいって言われたの♪鞠ね、昴が怖い人だったら嫌だなぁって思ってたけど、昴がとっても優しくて鞠うれしいの♪」

 

 幼女二人の快諾を得られて昴はもう有頂天だ。

 綾那と鞠の肩を抱いてそそくさと風呂小屋へと連れ込んだ。

 中は直ぐに脱衣場になっており、正面の戸板の向こうが風呂場になっていた。

 

「でもね、鞠は泰能から昴が男の人だって聞いてたの。その通りだったら昴の赤ちゃんが授かれたのに、ちょっと残念なの………」

「鞠さま、昴さまは男の人ですよ?」

「ええっ!?そうなの!?」

 

 鞠はマジマジと昴の顔を見上げた。

 しかし、どう見ても綺麗なお姉さんにしか見えない。胸は平らだけど。

 

「私みたいな人間を男の((娘|むすめ))と書いて『男の((娘|こ))』って言うのよ♪今、証拠を見せてあげる♪」

 

 昴は素早く服を脱ぎ捨て全裸になった。

 

 

…………

……………………

………………………………

 

 

 完全に身体を綺麗にしてから三人で湯船に浸かった。

 あまり遅くなると詩乃達が心配すると思い、昴は風呂から上がった後急いで二人に服を着せて小屋から出る。

 

 丁度そこへひよ子、転子、歌夜が買い物から帰って来た。

 

「あれ?昴ちゃん、自然薯を堀りに行ってたんじゃないの?」

「ひ、ひよちゃん!?…………あ、あははははは♪」

 

 昴は咄嗟に鞠と綾那を背後に隠した。

 しかし昴の体で隠しきれる筈も無く、しかも綾那がどうしたのかと顔を覗かせてしまう。

 それを見た転子が即座にピンと来た。

 

「昴ちゃん…………まさか綾那ちゃんと…………」

「ねえ、昴。どうしたの?」

 

 綾那だけでは無く、鞠も昴の背後から顔を出す。

 見知らぬ女の子の出現に、ひよ子と転子の顔が犯罪者を見る物に変わった。

 

「昴ちゃん…………遂にやっちゃったんだね…………」

「人攫いは流石に拙いよ…………」

「いや、攫ってないから!この子は私と綾那ちゃんが山で行き倒れてたのを助けて連れて来たのっ!」

「昴さまの言う通りですっ!おイモのかわりに鞠さまを見つけたですよ!」

「うんなの!鞠は昴に助けてもらったの!」

 

 綾那と鞠が弁護しても、ひよ子と転子の疑いの目はまだ変わらない。

 そして歌夜は鞠の顔を見て驚愕した。

 

「今川彦五郎さまっ!?」

 

「え?歌夜さんのお知り合いですか?」

「今川彦五郎って…………………まさか…………」

 

 転子はその名前が誰の事なのか連想出来た。

 連想出来たが、それが間違いである事を願った。

 

「現今川家ご当主、今川治部大輔彦五郎氏真さまです!鞠さま!どうしてこのような場所にっ!?」

 

 転子の願いは一秒も待たずに却下された。

 

「あなたは…………あっ♪葵ちゃんと一緒に居た人なの♪」

「鞠さま、名前は歌夜なのです♪」

「榊原小平太歌夜康政と申します!鞠さま、どうして長久手にいらっしゃるのですっ!?」

 

 歌夜は綾那を無視して再び同じ質問をした。

 

「うんとね、駿府屋形が信虎おばさんに乗っ取られちゃったの…………」

「「「駿府屋形がっ!?」」」

 

 これにはひよ子と転子も一緒になって驚いた。

 

「泰能と一緒に逃げ出したんだけど、泰能は追手に…………」

「あの朝比奈殿が………」

 

 歌夜は遠目に見た事が有るだけだが今川家家老の朝比奈泰能の話は良く耳にしていた。

 

「それで鞠は泰能に言われて、昴のお嫁さんになりに来たの♪」

 

 いきなり話が飛んで三人の目が点になった。

 

「あ!鞠はもう昴のお嫁さんになったの♪」

「綾那もなのですー♪」

 

 鞠と綾那が昴の腕を握って寄り添うのを見て、歌夜、ひよ子、転子が溜息を吐いた。

 

「はぁ………取り敢えず詳しい話は部屋に戻ってから聞きましょう…………」

 

 代表して転子がそう告げた。

 

「ねえ、ころちゃん。なんで部屋に戻るのに、私を後ろ手に縛るのかな?」

 

 この質問に転子だけでは無く、ひよ子と歌夜も笑顔で答えた。

 

「「「問答無用♪」」」

 

 

-6ページ-

 

 

 詩乃と狸狐は頭を抱えた。

 エーリカと祉狼は事態が飲み込めず頭の上に『?マーク』を浮かべていた。

 美以はエーリカの膝の上で、新たな来訪者を興味津々の目で眺めていた。

 聖刀は同じ様な経験が有るので苦笑していた。

 歌夜は困った顔をして、綾那はニコニコして座っていた。

 貂蝉と卑弥呼はまだ帰って来ていない。

 

「わたしの名は今川治部大輔彦五郎鞠氏真でございます。尾張美濃国守織田上総介三郎殿の夫君、華?伯元殿に言上申し上げまする。」

 

 鞠は礼法に法り祉狼に頭を下げた。

 その完璧な所作の美しさにエーリカが感嘆の息を漏らす。

 

「ええと………そういう堅苦しいのは無しにしないか?恥ずかしい話だが、俺はまだこちらの礼儀作法を覚えていないんだ。」

 

 鞠の正面に座った祉狼は微笑んでそう告げた。

 妹の三刃と同い年くらいなのに鞠の背筋を伸ばした姿を見て、祉狼はしっかりした子だなという感想を持った。

 

「でも………」

 

 鞠は困った顔を昴に向ける。

 

「大丈夫よ、鞠ちゃん♪祉狼の言う通り普段通りでいいのよ♪」

 

 昴は優しく微笑んで鞠を促した。

 手足を縛られて畳の上に転がされてはいたが。

 

「うんなの♪あのね、鞠は織田三郎殿に保護を求めるの。それと、昴のお嫁さんになるのを許して欲しいの!」

「判った!久遠には俺から…」

 

「お待ちください!祉狼さまっ!」

 

 詩乃が慌てて祉狼を止めた。

 

「こちらの今川彦五郎様がどの様な方かご存知無いでしょうからご説明致します。先程のころの話で駿河のご当主である事はお判りでしょうが、この方は一葉様のご親戚でもあらせられるのです。」

「そうなのか。世の中って狭いもんだな♪」

「そういう事ではございませんっ!この方が昴さんの嫁になるという事は、昴さんも足利家の外戚となるという事ですよ!」

「………何か問題が有るのか?」

「はぁ…………これだから王族でありながら自覚なく育たれた方は………そこが祉狼さまの魅力ではありますが………」

 

「待ってなの!鞠はもう駿河の国守じゃないの…………信虎おばさんに追い出されちゃったから………それに、昴が助けてくれなかったら、鞠はあの山で死んでたと思うの。泰能に言われてここまで来たけど、きっとこれは運命だったと思うの♪」

 

 鞠の言葉に祉狼が頷いた。

 

「俺の母さんも倒れていた所を父さんに助けられ、運命的な出会いだったと言っていた。その考えは俺も賛同する♪」

「メィストリァのご両親も私の両親と似た境遇だったのですね♪私も昴さんと鞠さんの出会いは神のお導きだと思います♪」

 

 エーリカは胸の前で十字を切って祈りを捧げた。

 

「ありがとうなのー♪」

 

 鞠が両手を上げて喜ぶ姿を見て祉狼は微笑ましく思った。

 

「俺の通称は祉狼だ。昴の兄弟みたいな物だから俺の事は兄だとでも思ってくれ♪」

「兄……じゃあ祉狼お兄ちゃんなの♪」

 

「祉狼がお兄ちゃんなら僕もお兄ちゃんだね♪僕の名は北郷聖刀。聖刀お兄ちゃんって呼んでくれる?鞠ちゃん♪」

「うんなの♪聖刀お兄ちゃん♪」

 

「聖刀さままで何を暢気な………」

「まあまあ、詩乃ちゃん♪やってしまった事は仕方ないじゃない。僕も一緒に対処方法を考えるからさ。それに…」

 

 聖刀は綾那に振り向いた。

 

「綾那も兄さまって呼んでいいですか?」

 

 まんまと策に填まってしまったが、鞠が現れた事で風向きが変わったと詩乃も思い至った。

 

「うん♪よろしくね、綾那ちゃん♪」

「よろしくな、綾那♪」

「綾那にも兄さまが二人もできたのですー♪」

 

 燥ぐ綾那を複雑な表情で見守る歌夜。

 その歌夜を探る様に見る詩乃に、祉狼は問い掛ける。

 

「詩乃、明日からゴットヴェイドー隊はどう動けば良いだろう?歌夜と綾那は先駆けなのだから久遠の所に連れて行く必要が有るだろうし、鞠を久遠に会わせる必要も有る。だが、鬼の調査もしなければ上洛の時に背後を気にしながら戦う事になってしまう。」

 

「そうですね………先ずは歌夜どのと綾那どのですが、三河の先駆けの役目ならば三河衆から早馬を出して頂ければ解決致します。元々歌夜どのを祉狼さまと、綾那どのを昴さんに会わせるのが目的でしたし、ここでこうして出会っているのですから急いで岐阜城に向かう必要も無いでしょう。松平元康様の本隊と合流してから岐阜城に入る形でも問題有りませんよね?」

 

 最後の部分は歌夜に向けた言葉だ。

 歌夜は少し躊躇ってから頷いた。

 詩乃は歌夜が躊躇った理由は判っていた。久遠か結菜の了承を得なければ祉狼の愛妾となる事は許されないので、綾那が昴と結ばれたのを知って早く自分もという気持ちが有る事を。

 

「鞠さまに関しましては、祉狼さまが承諾なさった段階で内定ではありますが織田家の正式な返答となりました。鞠さまの所在が駿府屋形に知られない為にも岐阜城への報告は致しません。」

「手紙よりも俺が直接久遠を説得した方が良いだろうしな。」

「説得など必要有りませんよ♪久遠さまが祉狼さまを嘘吐きにする事は絶対に有り得ません♪」

 

 詩乃は『駿府屋形』と言ったが、本当は松平元康と本多正信に対してだ。

 歌夜と綾那が居る前で、流石にその名は出せなかった。

 

「以上を踏まえまして、我らゴットヴェイドー隊は三河本隊が到着するまでこの宿を拠点に情報収集と鬼の殲滅を行います。まあ、鬼の殲滅は人修羅の母娘がしてくれるでしょうから、我らの仕事は情報収集が主になりますね。」

 

 ゴットヴェイドー隊軍師の言葉に全員が頷く。

 

「祉狼さま………鬼となった人を助けたいとお考えですね。」

 

 詩乃は祉狼の僅かに出ていた表情を読み取った。

 祉狼も誤魔化そうとはせず、素直に頷く。

 

「ああ。だが時間も無いし、黙っていても被害者が増えるだけだ。今日も聖刀兄さんの力を借りて、やっと助け出せたくらいだからな……………もっと修行をしなければ駄目だ!」

「では祉狼さまはその修行をなさってください。情報収集は我らで行います」

「いいのか?」

「祉狼さまをお((佐|たす))けするのが我らの勤めです♪ですよね、みなさん♪」

 

 詩乃が見回すと皆が笑顔で頷いた。

 

「お頭!今日の赤ちゃんみたいにもっと多くの鬼にされてしまった人を助けましょうね♪」

「聞き込みなんかは私達に任せて下さい♪」

「メィストリァの御心のままに♪」

「美以もガンバっておてつだいするにゃ♪」

 

「修行には師匠達が付き合ってくれるでしょうから、私は情報収集に専念するわ。頑張ってね♪」

 

 昴も励ましのエールを送る。縛られて転がされたまま。

 

「祉狼さま!私は祉狼さまの修行のお手伝いを致します!」

 

 歌夜が意を決して身を乗り出した。

 そんな歌夜にひよ子と転子が少し引きつった笑顔で助言する。

 

「祉狼さまの事を知るにはいい機会ですけど…………無理はしないで下さいね………」

「貂蝉さんと卑弥呼さんって見た目もスゴいけど、強さも半端無いですから………」

 

「私だって三河武士です!ちょっとやそっとでは音を上げません♪」

 

 詩乃は口で言っても判って貰えないと思い、ここは敢えて修行の事には触れない事にした。

 

「歌夜さん、三河では鬼はまだ現れていないのですよね?」

「え?は、はい。鬼を見たのは今日が初めてです。」

「鞠さま、駿河では如何ですか?」

「鬼って……鞠は泰能から畿内に現れているって話を聞いたの。駿河や遠江では鬼の話は聞いたことないし、相模からもそんな話は聞いてないの。

「成程………となれば東海の線は無さそうですから、残るは信濃から侵入したと見るのが今は一番有力ですね。」

「う〜ん、晴信ちゃんが鬼を見逃すかなぁ………」

 

 鞠は納得がいかない顔で首を捻った。

 

「それは武田家当主武田晴信様の事ですか?」

「うん♪晴信ちゃんは民をとっても大事にしてるから鬼が現れたら美濃の国境でも絶対に討伐の軍を出すと思うの。」

「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なりと公言する方ですからね。美濃を攻めると誤解されても軍を動かされるでしょうね…………と、なると若狭から越前、加賀、美濃へと移動する中で一匹二匹とはぐれた鬼が次第に集まったのかも知れません。しかし、これは飽くまでも推測です。決め付けるのは危険ですので、ザビエルが何らかの方法でこの地の人を鬼に変えた可能性も考慮に入れて明日から調査を行いましょう。」

 

 詩乃の推理に一同が武士の顔で頷く。

 

 その時、宿の外でドスンと重たい物が地面に落ちる音がした。

 全員が何事かと窓から外を見ると貂蝉が大猪を、卑弥呼が魚の入った大量の木箱を地面に置いて立っている。

 

「たっだいまぁ〜ん♪活きのいいのを捕まえたわよぉ〜ん♪」

「わしは鮮魚以外に干物も揃えて来たぞ♪詩乃よ、これで逗留中はずっと魚に困らんぞ♪」

 

「どう見たって逗留中に食いきれねぇだろ。」

 

 宝ャがエーリカの胸元でツッコミを入れた。

 

「人形が喋ったっ!?」

「お人形がしゃべったのっ♪」

「綾那だったら食べれるですよ♪」

 

 歌夜は驚き、鞠は目を輝かせ、綾那がボケた。

 

 

-7ページ-

 

 

 翌日から長久手周辺の人里へ聞き込みを始め、祉狼は氣が回復して直ぐに修行を開始した。

 聞き込みでは倒した鬼子の話が出た。

 それはほんの三日前に現れたらしく、それまでは月に一度くらいの頻度で下級の鬼が現れ、その都度森一家の若い衆に知らせて退治してもらっていたが、今回は猟師の男が偶然にも鬼子を遠目で見付け急いで知らせたとの事だった。

 その情報が桐琴と小夜叉に届き、今回の鬼退治となったのである。

 普段から山で仕事をする猟師や木こり達は長年の勘で危険な獣が出そうな場所は避けているらしく、今回の鬼子が居た場所もその内のひとつだ。

 他の場所は今頃桐琴と小夜叉が回っているだろうから二人の帰還待ちとなるが、聞き込みの範囲を広げても似た様な情報ばかりで特別大きな巣が在りそうな情報は無かった。

 一方、祉狼の修行は貂蝉と卑弥呼と聖刀が相手をする。

 基本となる氣組み。氣を練って溜める鍛錬。そして素手での組手を行った。

 歌夜も最初は祉狼と試合を行ったが、祉狼の強さに感服してこれでは足手纏になると判断し、直ぐに狸狐と一緒に身の回りの世話をする様になった。

 

 そして三日が経過した所で雹子が長久手に戻って来て祉狼の修行を手伝う様になり、五日目に桐琴と小夜叉が山から戻って来た。

 

「なんだてめぇはっ!?」

「鞠は昴のお嫁さんなの♪」

「んだとこらぁあっ!フザケた事ぬかしやがってっ!ぶっ殺してやるっ!」

「鞠だって強いんだから♪負けないよ♪」

 

 小夜叉がいきなり鞠に喧嘩を吹っ掛けたが、体調が完全に戻った鞠は小夜叉と互角以上の腕前を披露した。

 そんな二人を不機嫌な顔で眺める桐琴に聖刀が声を掛ける。

 

「どうでした、桐琴さん。鬼は………余り居なかったみたいですね♪」

「応よ。居たのは雑魚ばっかりで、しかも数も全部合わせて二十にも満たん!欲求不満が溜まって仕方なかったわいっ!!」

「そうですか…………もし良ければ僕が欲求不満の解消に協力しますよ♪」

 

 聖刀は大鎌の絶を手にして桐琴に笑い掛けた。

 

「面白い♪ひとつ殺って遣ろうではないかっ♪」

 

 桐琴は満面の笑みで蜻蛉止まらずの鞘を外した。

 

 そして次の日。

 三河の本隊が長久手に到着した。

 

「お初にお目にかかります。我が名は松平次郎三郎元康。通称を葵と申します。華?伯元さまにおかれましては久遠姉さまの夫となられ、この葵、お祝いを述べに伺うこともできずにいた事、深くお詫び申し上げます。」

 

 葵の慇懃な態度に祉狼は笑って応える。

 

「ええと、葵さん。」

「葵とお呼び捨て下さいませ。」

「じゃあ、葵。もっと気安く話してくれないか?堅苦しいのは苦手なんだ♪それと俺の事は通称の祉狼で呼んでくれ♪」

「は、はぁ………では祉狼さま。よろしくお願い致します………悠季、挨拶を。」

 

 葵に呼ばれて眼鏡を掛けた女性が前に出た。

 

「ははっ、お初にお目にかかります。わたくしは本多弥八郎正信。通称は悠季でございます。堅苦しいのが苦手とのお話ですので、気楽に話させていただきますわ♪祉狼さま♪」

 

 悠季はつつっと祉狼の近くまで寄って笑顔で話し始める。

 

「早速ではございますが、祉狼さま。歌夜はいかがでございましたかな♪なかなかに器量が良く祉狼さまに従順でございましょう♪」

「ああ♪歌夜は綺麗で可愛いし、良く気の付く女性だ♪色々と世話になったよ♪」

「まあまあ、お気に召していただけた様で何より♪もう、祉狼さまのお好きに躾てやって下さいませ♪」

 

「歌夜はお前の部下ではないのです!歌夜は自分から祉狼兄さまが好きになったのですっ!」

 

 悠季に言い様にムカついた綾那が悠季に食って掛かった。

 しかし、悠季は余裕の態度で綾那を無視して昴に振り向く。

 

「初めまして、孟興子度さま♪本当に女の子みたいな方なのですね♪」

「初めまして♪どうぞ通称の昴で呼んで下さい♪」

「ありがとうございます♪で、昴さまは綾那を気に入っていただけましたかな?」

「ええ♪それはもう♪」

「綾那が祉狼さまを『兄』と呼んだという事は………そういう事だと思ってよろしいですかな♪」

「ええ♪綾那ちゃんが葵様からお許しを頂いているとの事でしたので♪」

「それは重畳♪綾那を末永く可愛がってやってくださいませ♪」

 

「だから綾那もお前の部下ではないのですっ!くされま〇こは黙ってろですっ!」

 

「く、くされまん………まったくどこでそんな汚い言葉を覚えたのかしら!」

「お前になんか教えてやらないのですっ!」

 

 教えた当の本人は悠季が詩乃の言った通りの人物だった事を実感していた。

 

(ホント挑発的な話し方をする人ね………これは詩乃ちゃんが言い返したくなる気持ちも判るわ………)

 

「それはともかく、歌夜を祉狼さまの、綾那を昴さまの嫁に送り出せて一安心いたしましたわ♪おーーーっほっほっほっほっ♪」

 

「ああ、歌夜はまだ俺の嫁だと正式には決まっていないが………」

 

 祉狼の言葉に悠季の高笑いが止まった。

 

「は?そんな歌夜に手を出しておきながらそれはあんまりではございませぬか!?」

 

「歌夜どのはまだ祉狼さまの夜伽をなさっておられません!」

 

 悠季の前に出たのは雹子だった。

 

「ええと、貴女は?」

「申し遅れました。わたくし、織田家家臣が森可成の名代を努めます各務兵庫助元正。通称を雹子と申します。」

「げ!鬼兵庫!」

 

 悠季の『げ!』は無視して言葉を続ける。

 

「祉狼さまの妻となるには久遠さまか結菜さまの許可が必要です。祉狼さまの妻のひとりとしてもこの各務、無理を通されるとあらば看過する事は出来ません。」

 

 雹子から発せられる凰羅に、さすがの悠季もたじろいだ。

 

「べ、別に無理を通そうなどとは考えておりません。それでは岐阜城にて正式なお許しをいただけば良いだけです。わたくしはただ、歌夜がお手つきされていたら可哀想だと思っただけですわ、おほほほほ♪」

 

「そうですか…………それはわたくしもとんだ早とちりをいたしました。平にご容赦を。所で松平元康さまにどうしてもご挨拶をされたいと仰る方がいらっしゃいますので、お連れしても宜しいか?」

「殿に?」

 

 雹子の言い方から身分が上の方なのだと判断できる。

 もしかしたら聖刀の事かと思ったが、祉狼と昴の後ろに仮面を被った人物が居るので、わざわざ連れて来るとは言わないだろう。

 

「私は構いませんが………」

 

 葵の返事に雹子はひよ子に振り返った。

 ひよ子が頷いて一度宿に戻り、再び現れるとその手は鞠を連れていた。

 

「ええっ!?鞠さまではありませんか!どうしてこの様な辺鄙な場所に!?連れの方はいらっしゃらないのですか!?」

 

 矢継ぎ早の質問に、鞠は困った顔をしたが落ち着いて言葉を選んだ。

 

「久しぶりなの、葵ちゃん♪あのね、駿府屋形が信虎おばさんに乗っ取られちゃったの。鞠は泰能と駿府屋形を逃げ出したんだけど、泰能は途中で鞠を逃がす為に囮になってくれたの………鞠は泰能に言われて昴に会いにここまで来て、昴のお嫁さんにしてもらったの♪」

 

「そんな………」

「なんですとーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 葵を遮って悠季が声を上げた。

 

「昴さんは足利家に連なる今川彦五郎様を妻に娶ったと仰られるのですかっ!?」

「ええ♪鞠ちゃんの持って来た泰能さんの手紙に是非宜しくと書かれていましたので♪」

「昴は鞠が行き倒れてた所を助けてくれたの♪泰能に言われたのも有るけど、命を助けてくれた昴の事が鞠は大好きになったのー♪」

「事情を聴いて、いつか駿府屋形も取り戻す約束もしました。その時はご助力をお願い致します♪」

 

「駿府屋形を取り戻す………」

 

「おや、何か不都合でもございますか?」

 

 雹子は何食わぬ顔で悠季に問い掛けた。

 悠季にしてみれば不都合が有りまくるに決まっている。

 今川義元が討たれて、それに乗じて漸く三河を独立させる事が出来、これから遠江を今川から切り取ろうと画策していたのに、鞠が田楽狭間の天人の内のひとりの嫁となったとなれば、駿府は織田の所領となるのと同じ意味を持つ。

 北には甲斐、信濃の武田が居て領土を広げるどころか、下手をすると攻め込まれる恐れすらあると言うのに。

 このままでは遠からず武田から身を守る為に、折角独立した三河を織田に捧げて家臣となるのは明白だ。

 

「ふ、不都合など有る訳がございませんわ♪ねえ、葵さま♪」

「はい♪その時は是非我ら三河にお声かけ下さいませ♪」

 

 それでも悠季はそう返答した。

 葵の態度に至っては本心なのか芝居なのかまるで判断がつかなかった。

 

「それじゃあ、そろそろ僕も挨拶させて貰おうかな♪僕の名前は北郷聖刀子脩。聖刀が通称みたいな物だから、聖刀と呼んでね♪葵ちゃん♪悠季ちゃん♪あ、仮面の事は詩乃ちゃんから聞いてるよね?」

 

 葵と悠季は仮面から見える瞳で聖刀の心を読み取ろうと、その目を見つめ返した。

 しかし、その澄んだ瞳に魂が吸い込まれる錯覚に囚われる。

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いえ!申し訳ありません!お顔を見つめるなどはしたない事を致しました!」

 

 葵が我に返って慌てて取り繕う。

 その頬は赤く染まっていた。

 

「ま、聖刀さまのお((郷|くに))は戦乱を経た後の平和な国だと伺っております。いつかゆっくりと戦の無い国の治世というものをお聞かせくださいませ…………」

 

「うん♪民の為にも早く戦が無くなるといいね♪その時の為の勉強は良い事だと思うよ♪」

 

「あ…………ありがとうございます♪」

 

 この時の笑顔が、聖刀は葵の見せた初めての本心だと思えた。

 

 

 

 挨拶を終えると、全員で美濃岐阜城を目指して出発した。

 

「戻ったら久遠さまへの報告だけではなく、ゴットヴェイドー隊の増強も含めて上洛の準備が待っていますよ!」

 

 詩乃の言葉にひよ子と転子ががっくりと肩を落とす。

 

「今から兵を集めなきゃいけないんですよねぇ………」

「川波衆に声を掛けてもどれだけ集まるかなぁ………」

「心配するな、ひよ♪ころ♪ゴットヴェイドー隊は救護隊だ。人を、そして日の本を守りたいと想う気持ちを持つ人が集まればいいんだ♪」

 

 弱卒と呼ばれる尾張兵だからこそゴットヴェイドー隊に集まる。

 そんな気がしてひよ子と転子は少し希望が見えた気がした。

 

 しかし、岐阜城では予想外の展開が待っていようとは、この時はひよ子と転子、祉狼は勿論、詩乃さえも想像していなかった。

 

 

 

-8ページ-

 

 

あとがき

 

 

予定していた上洛出発まで行けませんでしたorz

 

 

聖刀にもフラグが立った回となりました。

どれも狸狐では太刀打ちできそうにない相手ばかりでちょっと可哀想ではありますがw

 

 

一刀たちに加えて華琳、桃香、蓮華も登場。

連絡が取れるのでまだまだ暢気ですね。

インテリの所為で太白がとばっちりを食らってますw

一刀たちがインテリに何を吹き込むかは後日のお楽しみにw

 

桐琴の女性らしい一面が出て作者もびっくりしています。

書き始めるまでは『鬼子と戦う』くらいしか考えて無かったのですが、まさかこんな展開になるとは思ってませんでした。

 

 

綾那:(前回も書きましたが補足です)無邪気!強い!不思議キャラ!蜻蛉切りってどんな構造してるんですか!?教えてBASESONの偉い人!

 

歌夜:おねショタ補正が入ってます。この子が活躍するとひよ子と転子の影がまた薄くなりそうw

 

鞠:無邪気!強い!実は頭が良くてしっかり者!今の所ロリキャラ全員が武闘派ばかりなんですけど…………。

 

葵:この子は最初から聖刀のお相手と決めていました。原作では消化不良を感じたのでその鬱憤を少しは解消したいと思います。

 

悠季:この子も聖刀のお相手と決めていました。葵の為に色々と頑張ってくれそうです。

 

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5647851

 

次回こそは上洛準備〜上洛出発、出来れば観音寺城戦前までを予定しています。

 

 

説明
これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

今回は三河勢と鞠が登場です。
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コメント
全身タイツ筋肉さん>かなり短時間で倒してしまいましたからねぇ。でもそこは、桐琴、小夜叉、昴、貂蝉、卑弥呼が五人掛りで相手をしていて、祉狼も不意打ちでしたし(冷や汗)(雷起)
殴って退場さん>葵本人は原作の様に裏で暗躍させるのを目指すつもりですが、やはり綾那が一番引っ掻き回してくれると思いますw 力丸はその名の通り怪力になりそうですね。でも『力丸』と聞くと自分はToHeart2の委員長役の声優さんを連想してしまうので、あの声で「ひゃっはー」とか言うのを想像してしまいますwww(雷起)
神木ヒカリさん>葵が三国時代に行ったら、日の本は徳川幕府の可能性が完全に絶たれて丸く収まりそう。ですけど、三国側は司馬仲達の代わりを招き入れる事になりそうですね。(雷起)
原作だと鬼子が強いとか何とか言っててほぼ出番無かったね・・・(全身タイツ筋肉)
松平家も加わり更に混乱してきたな…。そして森家に養子?が入ったが森家の教育+鬼の潜在遺伝子等で最強の将になるかも。(殴って退場)
家康である葵を三国時代にお持ち帰りしたら、色んな意味ですごい事になりそうだ。(神木ヒカリ)
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