機装女戦記ガンプラビルドマスターズ 第3話:「THE WINNER」
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「な……なんだぁ?」

「そ、空からコスプレしたおんにゃのこが……?」

 

 ソウシの後をつけていたトモヒロとタクオの二人は、体育館の角から裏の様子をこっそりと覗いていたのだが、突然空から降りてきたコスプレ少女に驚愕する。

 

「あの二人、何て喋ってるか聞こえるか?」

「いや……ここからじゃ遠すぎて無理でござるよ」

 

 なんとか会話の内容を拾おうと聞き耳を立てるが、距離が遠くて聞くことができない。

 

「とにかく、もう少し様子を伺おうぜ」

「わかったでござる」

 

 二人はソウシとレイナ、そしてコスプレ少女の動向を探るために、もうしばらく壁の向こうで大人しく見ていることにした。

 

 

 

 

 

―――――第3話:「THE WINNER」―――――

 

 

 

 

 

「呼べって、どうやって……」

「……簡単」

 

 俺の疑問に対し、キサラギが短くそう答えると、キサラギの前に立っていたギラーガの姿が一瞬消える。

 

「なっ……!」

 

 次に姿を現わしたのは俺のすぐ脇だった。ギラーガはその手でギラーガスピア″を半分に分離した短いスピアを握ると、それを俺の喉元に当てる。

 

「動くなよ。下手に動くと誤って斬ってしまうかもしれんぞ」

 

 半ば脅しのようにギラーガは俺に物騒なことを呟く。

 

「……人となったガンプラは何よりも主人を第一に考える……貴方の危機ならば貴方のガンプラもすぐに姿を現すはず……」

「ま……マジかよ……!」

 

 情けないことに、今の俺は己の危機に何もすることができない。だが武器を持っているとはいえ、相手はまだ年端もいかぬ女の子。一瞬の隙をつけば脱出できるかと思った……が。

 ダメだ…。

 このギラーガから放たれる威圧感……間違いない、下手に動けばその瞬間に殺されてしまう。こんな奴に命を握られていたら迂闊に動くことなんてできない……! 俺は一体どうすれば……!

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 この声は……!

 俺達は一斉に声のした方を見る。そこには俺のガンプラ、ザクファントムのファントムが塀の上に立ち、その手にビームライフルを握り、ピッタリとその狙いをギラーガにつけている。

 

「マスターを解放しなさい! さもなくば!」

 

 と、ファントムはギラーガに向けたビームライフルのトリガーに指をかける。

 

「……来たか。いいだろう、解放しよう」

 

 小さく呟くと、ギラーガは俺の喉元に突きつけていたスピアを離し、俺を解放した。それを見るとファントムはビームライフルを下ろし、塀の上から降りると俺の元に駆け寄る。

 

「マスター! お怪我はありませんか!?」

「あ……ああ、俺は大丈夫だ。しかしお前、よく俺が危ないってわかったな」

「私はマスターによって創造された存在、言うなればニュータイプの勘のようなものでマスターの危険を感じ取ることができます」

 

 へぇ、なるほど……。ニュータイプの勘って本当にあるもんなんだなと感心していると、ファントムはギラーガの前に対峙する。

 

「私のマスターを人質にするとは……姑息な真似を!」

 

 睨みをきかせたファントムをよそに、ギラーガは冷静な口調で答える。

 

「こうでもしなければ私はお前のような同類とまみえることができなかったのでな。不本意ながらもお前の創造主を質にとる形になってしまったが……その点については詫びよう」

 

 なんだこいつ……? 俺を人質にとっておきながらその事を素直に謝ろうってのか……?よくわからんが、このギラーガは本当にファントムと戦いたいだけで、俺を傷つける気は全く無かったらしい。

 

「同類だと? マスターに刃を向ける卑怯者が、私と同類などとほざくか!」

「どのように捉えられようとも、お前は認めざるを得なくなるさ。所詮我々は、同じ目的を以て自我に目覚めたということにな」

 

 同じ目的……? もしかしてそれが、ファントムの言っていた「戦うために生まれてきた」ってことなのか?

 

「どのような理由にせよ、私と戦いたいのならば直接私の元に来るがいい。マスターに手を出すことは許さない!」

 

 と、ファントムは腰にマウントしてあったビームライフル装備すると、再びその銃口をギラーガに向けて構える。

 

「ま、待て待て! お前、本当にあいつと戦うのか!?」

 

 ビームライフルの銃口を掴んで下におろし、俺はファントムの前に立つ。

 

「どいて下さいマスター!危険分子は排除するのみです! まさかマスターは私があのような輩に負けるとでも!?」

「そうじゃない! 戦う必要もないのに、何故戦わなきゃいけないんだと言ってるんだ! お前のその武器は本物なんだろ? ならアイツだって怪我をするし、お前だって最悪の場合には……―!」

 

「少年、その様な理屈は我々の前では無意味だ」

 

 俺の言葉に、ギラーガが会話に割って入ってきた。

 

「貴様がどのような気持ちで彼女を|創造《うみ》出したのかは知らないが、我々は戦うために生まれた存在なのだ。それを邪魔立てすることは、何人たりともすることはできない!」

 

「そんな……!」

 

 やっぱりこの二人が持つ同じ目的っていうのは……戦うことだっていうのか!?

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「マスター、離れていて下さい!」

 

 俺の気持ちとは裏腹に、この二人は|戦《や》るつもりらしい。

 

「くっ……わかったよ。でも、無茶はしないでくれよ!」

 

 俺が後ろの方に下がると、ファントムとギラーガは互いに歩み寄り、一定の距離をとる。

 

「この日を待ちわびたぞ……己の力を試せる相手と刃を交えるこの時を!」

 

 ギラーガがスピアの先をファントムに突きつけ、まるでそれが楽しみであったかのように口元を歪ませて笑う。

 

「マスターは私達に戦いを望んではいない。私はその願いにできうる限り応える。どうしてもやるというのなら、多少痛めつけて終わりにさせてもらう!」

「ククク……果たしてお前のなまっちょろい思惑通りなるかな?」

 

 それだけ言うと、両者とも一言も喋らず、沈黙だけがこの場を支配する。俺も、そしてキサラギも一言も喋らない。もしかしたらこの沈黙が永遠に続くのではないんだろうか……そんな錯覚にまで陥った、その時だ。

僅かにだが、ギラーガの足が地面を擦り、突撃の姿勢をとる。それを見るとファントムもビームライフルを構え、そして……―。

 その刹那、ギラーガの足と背中のスラスターが起動し、それで加速したかと思うと一気にファントムの懐に飛び込む。ファントムもその気配にいち早く気が付き、ビームライフルを1発放つが、ギラーガは横に飛び退き、その攻撃を避ける。

 

「なっ……!?」

「もらったぞ」

 

 懐に入り込むと、ギラーガは尾のギラーガテイル″を駆使してファントムのビームライフルを弾き落とし、そして両手で構えたギラーガスピア″をファントムに向けて突貫する。

 

「チィッ!」

 

 ビームライフルを弾かれたファントムは、その手で今度は腰の斬機刀に手をかける。

鞘から刀を引き抜く瞬間、ギラーガのスピアの切っ先が迫る。「キュイインッ」という金属と金属が擦れる音が聞こえた。ファントムが鞘から引き抜く途中の刀身で、スピアを受け止め、その穂先を僅かにズラしたのだ。

 

「ほう……止めたか!」

「はぁっ!」

 

 予想外な回避のされ方に一瞬判断が遅れるギラーガ。その一瞬の隙をついてファントムは斬機刀を鞘から抜き出し、両手で構え、自身の方に突撃しすぎたギラーガに向けて振り下ろす!

 だが斬機刀による斬撃が迫る最中、ギラーガはスピアから右手を離し、その掌からビームサーベルを展開すると、それでファントムの斬撃を受け止めた。

 ビームの刀身に白熱した斬機刀が振り下ろされ、一瞬辺りに大きな火花が散った。ファントムの振り下ろした斬機刀の重い斬撃に、ビームの刃が一瞬削れたためだ。だがギラーガはその斬撃を受け止めると、中腰の姿勢からじりじりとファントムの斬撃を押し返し始める。

 鍔迫り合う刀とビーム……その刃が十字に交わる場所からは絶えず火花が漏れる。双方ともに本気で相手を斬りかかろうとしている証拠だ。

 

「ぐっ……くっ!」

「……むんっ!」

 

 ギラーガが右手に力を込め、ファントムの剣を押し返すと一旦サーベルを収束し、今度はスピアを二本に分離させ、また勢いをつけてファントムに斬りかかる。ファントムも今度は左手で右側の腰にマウントされているレーザー重斬刀を抜き、ビームの刃を展開する。

 次の瞬間、ギラーガの斬撃が襲う。ファントムは斬機刀とレーザー重斬刀を十字にクロスし、ギラーガの斬撃を受け止める。

 

「……ほう、やるな」

「貴様こそ……なっ!」

 

 ファントムはギラーガの斬撃を押し返すと、その一瞬の隙をついて斬機刀を逆手で持ち、ギラーガに斬りかかる。しかし、ギラーガにはその剣筋が見えているとでもいうのだろうか。押し返されたと同時に地面を蹴って後方に跳び、ファントムの斬撃をかわす。かわされたファントムの斬撃は、虚しく空を斬った。

 

「私のスピアによる突進を刀で逸らしたうえ、そのまま反撃に打って出るとは……なかなか見込みがある」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 また互いに一定の距離を保つ。どうやらギラーガはスピアによる一撃離脱の戦法を得意としているらしい。緊迫するこの場で、ファントムはチラチラと地面に落とされたビームライフルの方を何度も見る。どうやら隙をついて拾うつもりらしい。

 隙を見てファントムは両手に持った斬機刀とレーザー重斬刀を鞘に納め、そのまま素早く横に跳び、見事その手にビームライフルを手にした。

 

「そう来るか……ならば」

 

 左の掌をファントムに向け、その掌の中央にある銃口が、ファントムに狙いをつける。

 

「くらえ」

 

 次の瞬間、左掌からビームの弾丸が何発もファントムに向けて連射される。ファントムは地面を転がり、そのビームの攻撃を回避し、地面に寝そべった状態のままギラーガのいた方にビームライフルを構える。

 しかし、そこにはすでにギラーガの姿はなかった。

 

「なにっ!? どこに……!?」

「ファントム、上だ!」

 

 俺の声によって即座に立ちあがり、空を見上げるファントム。そこには背中と脚部のスラスターを駆使してはるか上空に飛び上がり、そのまま空中で静止しているギラーガの姿があった。

 

「くっ! ならば!」

 

 上空に昇ったギラーガを撃ち落とそうと、ファントムは右手のビームライフルと左手のビームガトリングを乱射する。ビームライフル特有の空間を引き裂くかのような音と、ガトリング特有の連続した「ガガガガガ!!」という激しい音が辺りに響き渡る。だが、放たれたビームは一発としてギラーガには命中せず、ギラーガは上空でビームを悠々とかわす。

 やがて、ファントムは射撃による攻撃を停止する。

 

「射程距離外……あんなに高いところに昇られては、こちらからは手の出しようがない……!」

 

 ファントムは悔しそうに、はるか上空にいるギラーガを睨みつける。

 

「そちらからは手が出せないようだな。だが、こちらからはお前を攻撃することができる!」

 

 突然、ギラーガが両腕を大きく広げると、胸部の緑色のクリスタルにエネルギーが蓄積されていく。

 

「あれは……! ビームバスターだ! 避けろファントム!」

 

「ハァッ!!」

 

 俺の叫びがファントムに届いたのかどうかはわからない。ギラーガの掛け声と共に上空より放たれたビームバスター。その攻撃は地面を抉り、辺りに粉塵が巻き上がる。

 

「うわあああっ……!! ふぁ、ファントム!?」

 

 攻撃の余波は凄まじく、周囲にいた俺の方にまでもその粉塵が襲いかかる。俺は両手で顔を覆いながら、ファントムの姿を探す。だが粉塵のせいでファントムの姿が見えない! 避けたのか、それとも……命中してしまったのか……?

 やがて粉塵が晴れ、ファントムの姿が露わになる。

 

「ぐっ……ハァ……ハァ……!」

「ファントム!」

 

 運よくファントムは寸前のところでビームバスターを避けたようだった。しかしそれでもビームバスターの威力は凄まじく、命中した地面はまるで隕石が落ちたかのようにクレーター状に抉れ、巻き上げられた土砂や小石によってファントムの身体が傷つけられ、かなりのダメージを負っているようだった。

 

「私の一撃を避けるとは……大したものだ。だがその状態では、もはや私の攻撃に耐えうることはできまい」

「まだだ……まだ私は……戦える!」

 

 痛む身体に堪え、ファントムは再びビームライフルを構える。だが、ビームライフルを持つ手は痛みに震え、銃身がブレて

 

「あくまで最後まで足掻くというのか……見事な闘志だ。だが、そろそろ決着をつけよう!」

 

 突然ギラーガの全身が緑色に輝きだし、肘、膝、背部のコンデンサー、至る所から緑の突起物が出現する。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 ギラーガが叫ぶと、その突起物からは黄色い球体状のビームがいくつも噴出され、ギラーガの周囲に集まる。

 

「こ……これはまさか……!」

 

 見覚えがあるこの技……だとするならこの攻撃は手負いのファントムにはかわせない!

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「往け……ビット達よ!!」

 

 ギラーガが腕を振る。次の瞬間、上空に静止していた球体状のビームがジグザグな軌道を描いてファントムの傍にまで迫り、ビームを射出してくる!

 

「くっ……!」

 

 ファントムは周囲のビットからの攻撃をなんとか紙一重でかわしながら、右手のビームライフルと左手のビームガトリングを一斉掃射する。それでいくつかのビットを潰すことはできたが、まだ多くのビットが残っており、四方八方から撃たれるビームの攻撃に、ファントムは徐々に身動きがとれなくなっていく。

 

「遊びは終わりだ!」

 

 突然ギラーガはさらに上空に飛翔したかと思うと、そこから右足を突き出してファントムの方に落下してくる。自由落下に加え、さらに背部のスラスターからも速度を得て、加速したギラーガは赤いオーラをその脚に纏って上空からの蹴りが迫る。

 ビットでファントムの動きを止めているこの間にトドメを刺すつもりなのだろう。だがギラーガが突撃する一瞬だけ、ビットの制御が無くなり、ビームが撃たれなくなった。

 ファントムはその一瞬の隙に賭け、ビームライフルを捨て、腰の斬機刀に手を伸ばす。だが、すでにギラーガの蹴りは目前にまで迫っている。

 

「はぁあああっ!!」

 

 その刹那、「ズガッ!!」という鈍い音が辺りに響き渡り、蹴りの一撃がファントムを捉えた。

 

「ぐっ……!」

 

 が、その瞬間にファントムは右肩のシールドで蹴りを受け止めたのだった。左腰の斬機刀に手を伸ばすモーションの最中、右肩に着いたシールドが前面に向いたことが功を奏した。だが、シールドで受け止めたくらいではギラーガの蹴りの威力を完全には殺しきれない。ミシミシと音を立ててシールドは大きく湾曲する。そのシールドに全体重を乗せているギラーガもまた、背部のスラスター出力を最大にして蹴り倒そうと躍起になる。自然とファントムの脚にも力がこもり、踏み締めている地面が大きく抉れる。だが、ファントムはともかくとしても、シールドの方は限界だった。

 「バキッ」という嫌な音を立てて折れるシールドの接続部。その瞬間、ギラーガのキックの威力全てがファントムの身に降りかかる。

 シールドが割れ、ついにギラーガのキックがファントムの腹部を捉えた。それとほぼ同時ファントムが斬機刀をギラーガの方に突き出した。が、刀の切っ先はギラーガを捉えることはできず、僅かにバイザー部を掠めただけに至った。

 

「ぐああっ……! がはっ!?」

 

ファントムは地面に踏み倒され、衝撃により地面がより大きく抉れる。呻き声をあげ、口から血が飛び出るファントム。土煙があがり、二人の状況が見えなくなる。

やがて晴れていく土煙……そこには、口から血を流し、ピクリとも動かないファントムが、抉れた地面の中央で倒れていた。

 

「終わったな」

 

そう言ってギラーガはファントムに背を向け歩み出す。四肢の突起状のビット発生装置……Xトランスミッターが鎧内に収納され、空中に僅かに漂っていたビットが消滅していった。

 

 

 

………………

…………

……

 

「独先生、いるかなぁ?」

 

 オトメはトモヒロ、タクオの代わりとして、ゲームを返してもらうために一人で独先生のいる国語研究室に来ていた。独先生……ことヤマナカ先生は学校内でも特に厳しい先生と有名なので、もしかしたら返してくれないんじゃないかと不安に思いつつも国語研究室のドアをノックする。

 

「失礼しまぁす。先生、ゲームを……―」

 

さっさと返してもらってとっとと帰ろうと、オトメは先生の了解も得ずに研究室内に入る。そこで彼女が見た光景とは……!

 

「やったぁ!! やっと倒し……ってあれ? なんかデカブツ装備した? ……って、わわわ! やめっ……やめてやめて! 私のシャアが……シャア大佐があああぁぁぁぁ………あ?」

 

「……あの」

 

 独先生の手に握られているのはオトメのゲーム。そして画面に映し出されている映像は、ミーティア装備のストライクフリーダムの攻撃を受け、爆発四散するサザビーの姿だった。

 

「あ、あらフジヨシさん!?」

 

 今頃オトメの存在に気付いたらしく、あわててゲームの電源を切って立ちあがると後ろに手を組むふりをしてゲームを隠す独先生。

 オトメはその様子を気まずそうな表情で見ていた。

 

「あの……先生、ゲームを返してもらいに来たんですけど……」

「そ、そうだったわね! やだ私ったらすっかり忘れてて……はいこれ! あと、サラ君のとアキバ君のも!」

 

 そう言って、たった今電源を切ったばかりのオトメのゲーム機とともに、トモヒロ、タクオのゲーム機も机の中から取り出してオトメの手の上に握らせる。

 

「あの先生……今私のゲームで……―」

「あらやだもうこんな時間! 部活のない生徒はこんな時間まで校内に残ってちゃダメよ! それじゃまた明日ね!」

 

 わざとらしく腕時計を見て現在の時間を確認すると、独先生は問答無用でオトメを研究室の外に締め出す。後に残されたオトメはさっきの状況についていろいろ突っ込みたかったが、今はやめておくことにした。

 

「……まぁいいや。早いとここれ、みんなに返さなきゃ。まだみんな学校にいるかなぁ?」

 

………………

…………

……

 

「ファ……ファントム!? おいしっかりしろ! 目を開けてくれよ!」

 

 俺は慌ててファントムの元に駆け寄り、ボロボロの身体を抱きかかえる。だがいくら名前を呼んでも、体を揺さぶっても反応が無い。もしかして……死んでしまったのか!?

 

「私の一撃を受ける寸前でシールドでガードしたか」

「え……?じゃあ……!」

「衝撃で気を失っているだけだ。死んではいない」

 

 それを聞いて安心した……。しかし俺の足元には、ギラーガの一撃を受けて真っ二つに割れたザクファントムのシールドが転がっていた。

 あんなに硬そうなシールドがたった一撃で……もしあの攻撃をマトモに喰らっていたら……おそらく、今のように俺はファントムを抱くことはできなかっただろう。

 

「そいつも少しはやるようだな。だが私に一撃も与えられることもできないようでは、まだまだ……―」

 

ピキッ……

 

 その時だった。ギラーガの頭部を覆っているバイザーに皹が入ったかと思うと、亀裂はだんだん広まっていき、バイザーの半分が割れた。

俺、ギラーガ、そして先ほどまで無表情だったキサラギまでもが驚く。が、おそらく一番驚いたのは当のギラーガ本人だろう。破損したバイザーがカランカランッと音を立てて地面に転がり落ちる。その壊れたバイザーの隙間から、ギラーガの本当の顔が半分だけ見て取れた。

 瞳は黄色く、気の強さを物語っているツリ目。ファントムに負けずとも劣らない美少女だった。そして俺が思ったとおり、ひどく驚いた表情をしている。

破損した欠片が傷を付けたのだろうか、目の上から血が一筋、滴り落ちる。

 

「くっ……なるほど、刀によるあの一撃が入っていたということか……」

 

 ギラーガは片手でバイザーの片鱗を拾い、もう片方の手で素顔を隠しながらこちらに向き直る。

 

「訂正しよう。その者の持つ力は侮れないということを」

 

 そして再び各部スラスターが噴き出し始め、空に舞い上がる。

 

「いずれは真に決着をつける時が来るだろう。その時までにもっと腕を磨いておくのだ。創造主よ、帰ろう」

 

 キサラギはギラーガに向かってコクリと頷くと、俺の方に向き直る。

 

「……また、明日……」

 

 まるでクラスメイトに対して当たり前のように挨拶をするように、キサラギは俺に一言だけそう言い、ギラーガと共にその場を去った。

 

「な……なんだよ」

 

 後に残された俺はというと、ギラーガの攻撃で荒れ果てた体育館裏で、気絶しているファントムを抱きかかえ、わけがわからないという感じだった。

 

「なんだってんだよ……お前らはーーー!!」

説明
突如現れたギラーガによって、命の危機に瀕してしまうソウシ。
彼の危機を感じ取ったファントムは、ソウシを助けるべくギラーガと対峙することに。
ついに始まるMS少女同士の戦い、そして戦いのさなか、ソウシは彼女らの生まれ出た意味を知る…。
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